祖母来訪・再び
依頼の完了報告に来たらなぜ祖父のトラヴィスと、ギルドマスターのジャルナがいきなり喧嘩し、門番の詰め所が爆発してしまった。
その後、破壊された部屋を簡単にではあるが修復したスレイは、迷惑をかけてしまった詰め所にいたみなさまに必死になって頭を下げた。
なんなら周りが引くほどの高速土下座まで披露して謝罪に次ぐ謝罪をした。
詰め所を破壊したトラヴィスとジャルナが全く反省している様子がなかったので、竜眼を開眼して死霊山の魔物でさえも後ずさるほどの殺気を放ち怯ませて、なんとか土下座で迷惑をかけた皆さまに謝罪をさせた。
「それで、二人が喧嘩してたことは置いとくとして、ジャルナさんに頼まれてた研究者の資料、埋める前に全部回収してきましたよ」
「助かるよ」
「それで数が多いんで依頼人のおじいちゃんにでも渡した方がいいですか?」
「あぁ、それで頼むよ」
さっさと資料を渡して帰ろうと思っていると、ジャルナはトラヴィスの背中を力いっぱい叩いた。
「おら耄碌ジジイさっさと空間収納を開きな!」
「なんだとこのおうちゃくなクソババア!燃やすぞ!」
流れるような動きで喧嘩をし始めた二人についにスレイはキレた。
「おい、ジジイ。いい加減にしないとおばあちゃんに言いつけるぞ?」
さっきあれだけ言ったはずなのに、全く懲りていないトラヴィスおじいちゃんに対してスレイくんはガチギレした。
トラヴィスおじいちゃんはスレイくんの本気の殺気で震え上がった。
ついでに大笑いしているジャルナさんにも殺気を浴びせると、同じように震え上がっていた。
⚔⚔⚔
あの後、スレイの近くにいた門番にも殺気が降り注いでしまい、アニエスとスーシーのために服を借りに来た女性の門番さんが気を失って倒れた。
それと、脱衣場の方で身体を拭いていたアニエスとスーシーは、スレイの殺気を感じて背筋に冷たいものが走っていたそうだ。
しばらくしてみんなが落ち着きを取り戻した頃合いを見計らい、もう一度この場所にいたみなさんに誠心誠意を込めた渾身の土下座を披露した。
「じゃあおじいちゃん。これ、研究資料ね」
「あぁ、ありがとう」
「それと、標本もあったけどいる?」
「標本かね。うむ、それも預かっておこうかの」
研究所内から持ってきたキメラの研究標本、引き取ってもらえなかったらどうしようかと思ったが引き取ってもらえてよかった。
これで依頼は完了だ。
「報告も終わったし、ボクは帰るね」
「いろいろと、済まなかったの」
「そう思うなら、ギルマスと仲良くしてね」
言っても無駄だろうなと思ったスレイは、報酬を受け取って本当に帰ろうとしたその時だった。
「あぁ、そうだ。おじいちゃんたち、この後あの研究施設潰すんだよね?」
「そのつもりじゃが?」
「研究所にいた魔物は全滅させたと思うけど、まだ生き残りがいるかもしれないし気をつけてね」
「わかった。上にはそう伝えておこう。それと、これは今回の依頼の褒賞金じゃ、多少のいろは付けておいたからの」
「それは、ありがとう」
差し出された麻袋を受け取ったスレイは、中に金貨がぎっしりと詰まっていた。
「これ、多少の色って十分すぎるほどの金額をもらってるって。まぁもらっておくけど」
金貨の詰まった袋を空間収納に片付けて帰ろうとするスレイだったが、トラヴィスが待ったの声をかけた。
「スレイ、少し待ちなさい」
「なに?」
「向こうの部屋で聴取を受けている二人、あの娘たちはこれからどうするつもりなんじゃ?」
「家じゃ預かれないよ。客間なんて用意してないし、ベッドなんかも人数分しかないんだから」
突っぱねるスレイだったが、泊める部屋がないことは事実だしそもそも、現在でもラピスを保護しているのにこれ以上増えるなど、ユフィたちをどう説得していいかわからない。
それにしばらくあの家具屋に行きたくないと言うのが本音だったりする。
前にラピスの部屋の家具を買いに行ったあと、たまたま近くを立ち寄ったときに店主がスレイを捕まり新商品を見せられた。
なんだか媚を売るような猫なで声で話しかけられた、あれはさすがのスレイも堪えた。
「じゃが見たところあの娘らはお前になついているようじゃぞ?」
「そう言われても無理だよ、この前も記憶喪失の娘を引き取ったばかりなんだから」
「そうじゃったな。しかたがない、あのこらはわしの屋敷で面倒を見よう」
「助かるよおじいちゃん」
これであの子達の心配がなくなったスレイは、帰るべく脱いでいたコートを着直した。
「それじゃあボクは先に帰るよ、これ以上遅くなるとみんなが心配しそうだし」
「すまんかったな、スレイ」
「いいよ。それより、あの娘たちに何かあったらコールか、明日なら家にいると思うから直接来てよ」
「そうか。わかった」
スレイは最後にもう一度あの二人の顔を見ておこうかとも思ったが、スーシーに泣かれるのもあれだったので会わずに帰ることにした。
⚔⚔⚔
家に帰ったスレイは、ちょうど遊びに来ていたミーニャと一緒に夕食を食べた。
そのとき、今日の依頼で有ったことを話していると、なにやらユフィたちに険しい顔をされた。
なぜかユフィたちだけで顔を付き合わせながらなにかを話しだした。
「ねぇねぇ今の話ってどう思う?スレイくんって、天然で女の子落としに来てるからどうなるかな、その娘」
「わたしが言うのもなんなんですが、死にそうなところを助けてもらうのは反則ですよね」
「自分もノクト殿と同じようにスレイ殿に危ないところを助けていただきましたし、同意しますね」
「……私はいつの間にかスレイに惚れてた」
「あの~、わたくしはスレイさまのお嫁さまではないのですが……」
なぜかユフィ、ノクト、リーフ、ライアの輪の中にラピスまで連れてこられてたことに困惑しているようだったが、端から見ていたスレイとミーニャも同じことを思っていたが口には出さずにいると、ジト目になっているミーニャがスレイの方を見ながら話し始める。
「兄さん、リーシャが怒るから知らないところで義理の妹を作るのはやめた方がいいと思うよ?マリアちゃんの時みたいなことが起こるし、多分今度は三つ巴の戦いになると思うよ」
「分かってるし、マジでその想像が出来るから勘弁してくれ………ところでミーニャ、相談があって来たんだろ?なんの話だったんだ?」
向こうの話し合いはまだ終わらなさそうなので、食べ終わった食器を流しで洗いながらミーニャに今日ここに来た理由を聞いてみることにしのだが、ミーニャは気まずそうな顔をして目を泳がしていた。
「………ねぇ兄さん、どこかでアルバイト出来るようなところって知らないかな?」
「バイト?なんだ父さんと母さんから仕送りって名目のお小遣いもらってるんじゃないの」
「えぇっと………もらってはいるんだけど、私ももうすぐ成人するじゃない。だからねお母さんたちに恩返しがしたくて。兄さんもお姉さんもプレゼントしてたから」
「なるほど………確かに今までのお返しってことなら、お小遣いじゃなくて自分のお金でしたいもんな……ところで、ミーニャ。父さんたちから月にいくらくらい小遣いもらってるの?」
突然の兄スレイの質問にミーニャはビックリした。
「えっ?なんでそんなこと聞くの?」
「いや~、お兄ちゃん、ミーニャくらいの時には魔物もコアを売ってそれなりにお金持ってたから、小遣いなんてもらってなかったから気になってさ」
「………銀貨二枚だけど」
「そっか、教えてくれてありがとう」
銀貨二枚、少し多くないかと思ったが寮ぐらしとはいえ友人づきあいやら何やらですぐに消えるだろうし、それくらいはたしかに必要になるかと思った。
「しかしバイトか、ギルドの依頼じゃダメなのか?」
「ダメじゃないけど、私冒険者登録してないよ?」
「それについては問題ないよ。ギルドの施設内に一般向けの仕事の募集もしてるから、ミーニャでも出来そうなのいくつか見繕ってくるけど」
「そうなんだ。じゃあお願いしても良い?」
「わかった。次の授業の日にでも見せるよ……っと、話はこれまでにしてミーニャ。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?あんまり遅くなると寮のみんなが心配するだろ?」
「あぁ~。うん、そうするよ」
そう言うと片付けを手伝っていたミーニャが最後の皿を流し台に持ってきて、ローブを着直したミーニャが未だに論議を繰り広げていたユフィたちに声をかけようか、いなかを悩んでいると洗い物を終わらせたスレイがミーニャに話しかける。
「待って、ミーニャ。こんな時間に一人で帰すわけにはいかないだろ?送っていくから」
そう言うと一度部屋に戻ったスレイは、コートと黒い剣だけを持ってきて一緒に寮に向かって歩いていく途中、スレイはミーニャといろいろな話しをしながら歩いていると、すぐに寮についてしまった。
「それじゃあ兄さん、送ってくれてありがとう。それとごはん美味しかったってお姉ちゃんたちに言っておいて」
「あぁ、確かに伝えとく………っと、そうだった。ミーニャ、これ持っていきな」
そう言いスレイは空間収納の中から、少し大きめの紙袋を取り出すとそれをミーニャに手渡した。渡された紙袋の中身が気になったミーニャがそれを開けると、中にはカップケーキが四つ入っていた。
「友達の、えぇっと、リフィルちゃんだったっけ?あの娘と一緒に食べな」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」
「あぁ。それじゃあまた次の授業にでも会おうな」
そう言い残すと、スレイはゲートを開いて帰っていったのだった。
スレイを見送ったミーニャは寮の中に入ろう、そう思い踵を返したとき、なんだか視線を感じた。
ミーニャがハッとして視線をあげると、窓の隙間や玄関の扉の間に無数の目があり、その中に見知った顔を見つけて怒気の籠った声で叫ぶ。
「リフィル、あなたの仕業よね!?何でこんなに人を集めてるのよ!」
「いやぁ~、ミーニャがお兄さんの家に行くって言ってたから、もしかしたらスレイ先生見れるかと思うって言ったらこんなに集まった……やっぱりイケメンは目の保養になるし、情報料でいい小遣いになったわ、ありがとう」
「人のお兄ちゃんでお金稼ぎなんてしないで!」
その日、ミーニャの絶叫が寮の中に響き渡たりついでに爆炎まで迸ったという、ついでに次の日の朝、逆さまに吊るされたリフィルが見つかったという。
⚔⚔⚔
次の日、朝食を食べたスレイはすぐに自分の部屋に籠ってしまった。
昨日の依頼で久しぶりに実弾を使って昨日の夜に残りを確認したところ、なんと空間収納に入れてあった予備のマガジンが残り四つしかなかった。
いつもならそれなりの数をいれているのだが、前の使徒戦、ユキヤとの戦い、大量の魔物との戦い等々。
普段は銃弾を使うこと事態が久しくなかったので忘れていたが、最近の弾丸の消費量が多かったせいでマガジンが全て空になっているのに気が付かなかった。
ついでに銃弾に使っている金属も、少し特殊な金属を使っているのでそれも足りない。
なので、ある分だけでも作ろうかと思い銃弾を作っていたが、出来たのはマガジンの一本分にも満たない量だった。これでは足りないのでその金属を買いに行くことにした。
コートにベルトには黒と白の剣を下げて、家を出ようとするとユフィたちとなぜかおばあちゃんたちが一緒にいたのだ。どうやらまた遊びに来ていたらしい。
「おばあちゃんたちいらっしゃい、いつ来てたの?」
「ついさっきよ。あなた用事があったのだけど、出掛けるところなの?」
「うん。魔道具で使う金属が足りなくて買いに行こうと思ったんだけど、特に急ぎじゃないし」
スレイは腰から剣を外すと奥から自分のコップを持ってきてコーヒーを淹れると、それを飲みながら話を聞いてみると、どうや話の内容と言うのは昨日スレイが助けた獣人姉妹のことのようだ。
「あの娘たちね、今日からうちで働いてるのよ。使用人としてね」
「働いてるって、アニエスの衰弱酷かったのに何かあったの?」
「獣人は回復力が優れてるの。家のお抱えのお医者さんに二人を見せたら、与えられたポーションが良かったんじゃないか、って言っててね。本当に元気になってたわ」
そう言われてユフィたちの視線がスレイに集まった。そして当のスレイはというと、みんなに、ちょっと待っててと声をかけると、いつも身に付けているポーチを外して、テーブルの上に入っている物を全部だしてみる。
出てきたのは空のマガジンが七つと、すぐに取り出せるように入れておいたナイフが一本、それと各種ポーションセットなのだが、スレイは迷わずポーションを数え始めると、すぐに額に手を当ててうなった。
「しまった。慌ててたから最上位のポーション使ってた。まぁいいけど」
「いやいやスレイ殿、さすがに大損じゃないですか!?普通に白金貨一枚はする高級品じゃないですか!?」
「人命救助にお金の存在なんて皆無です。あと、今回の依頼身入り大きかったから損は出てないしね」
「前々から感じていましたがスレイさまって、かなり金銭感覚が狂っておりますよね」
ラピスの一言にユフィたちが無言で頷いていた。それをスレイは無視してジュディスに話しかける。
「それで、他に用件があるんじゃないの?さすがにこの話しをするためだけに来たって訳じゃないでしょ?」
「あら、以外と鋭いわねこの子」
「そりゃあ、私の孫ですからね」
ジュディスとアシリアがそんな会話を始めたので、スレイが咳払いをして話しを戻すと
「ねぇスレイ、あなたこのお家にメイドさん雇う気はない?」
「ない。そんなの雇うならメイドゴーレム自作する」
スレイの一言に場の空気は凍りついた。
だってリアルメイドに戦闘力は不要だと切り捨てられたし、それならば作ってやろうじゃない完璧な人型メイドゴーレムを!リアルにリアルを追求したバトルメイドゴーレムを!
そんなことを心の中で考えているスレイを無視して、ノクトがユフィに問いかける。
「ユフィお姉さん、メイドゴーレムって何ですか?」
「メイド型のゴーレムのことだよ~」
「……スレイ、なんか燃えてる気がするけど、何かあったの?」
「それはね、リュージュ家のメイドさんたちのせいで暴走してるってことで」
「私の家の──ハッ、まさか実家の使用人たちの武術訓練の光景を見られたのですか!?」
「リーフさまのご実家では、使用人の方に戦闘を積ませているのですか?」
話がそれたので起動修正をすることにした。
「それで、どうしていきなりメイドを雇えないかって話しになるの?」
「あの娘たちなんだけど、恩返しにあなたのところで働きたいんですって」
「止めておいてよ。第一に、ボクたちだってズッとこの家に、と言うかこの国にいる訳じゃないんだ。学園での依頼を終えたらまた旅を再開するつもりだし」
「そこをなんとか、可愛いわよワンちゃんメイドさん。それにあの娘たちスレイに気がありそうだったし」
「いやいや、それはないって」
ジュディスの話しを真っ向から否定したスレイに、ユフィたちが少し引いた顔をしていたが、スレイ本人は全く気づいていなかった。
「話がそれだけならボクは出掛けてくるよ」
スレイが飲み干したカップを流しに置いて、二本の剣をベルトに下げて出掛ける準備をしていると、ユフィたちから声がかかる
「あっ、スレイくん道具屋さんに行くならついでに特殊インク買ってきて~」
「……ユフィが頼むなら私も、ガントレット用の魔石もお願い」
「自分も剣を磨くワックスがもう無いのでお願いします」
「でしたら、わたしも薬草のストックが無いのでお願いします」
「スレイさま、わたくしもポーションが残り少ないので良ければ」
「分かったよ。次いでだから買ってくる」
自分の買い物のはずが、買い出しに出掛けるはめになったのだった。




