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犬耳少女たちの保護と大喧嘩

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 見るからに餓死寸前の犬耳の少女と、そんな少女にすがり寄って泣いている幼い女の子、全く予想だにしなかったその状況に唖然としたスレイは、状況がりかえできるまで固まってしまった。

 しばらくの間呆然と二人の女の子のことを見ていると、犬耳の少女の方がピクリと動き、薄く目を開けてスレイのことを見た。

 今にも死にそうな身体にムチを打て起き上がると、幼い少女のことを庇うように抱き締める。


「この……げろ、うが……いもう、とに……ちか………づくな、ころす………ぞ!」


 弱々しく発せられた少女の声を聞いたスレイは、ハッとしたように我に返ると敵意を向けてくる女の子を安心させるために、両手に持っていた短剣と魔道銃を投げ捨てた。


「大丈夫だ。ボクは敵じゃない!」

「しんじ……られ、る……わけ、ない………だろ!」


 二人の少女の方に駆け寄りながら声をかけると、少女の方が鋭い爪を使ってスレイを攻撃しようとしてきた。

 そんな体力が残っていないのかスレイの方に倒れかかってきたので、優しく受け止めながら少女を安心させるべく、声をかけ続けた。


「君たちをこんなところに閉じ込めていた研究者はすでに捕まっている」

「な、に……?」

「もう大丈夫だ、すぐにここから連れ出してあげる。君も君の妹も助けてあげるから少しの間大人しくしててくれ、でないと君が死ぬことになるぞ」


 少女がギリッと奥歯を噛み締めていたが、すでに身体の限界は感じていたらしくなにも言うことはなかったが、小さく頷いているのを見て、スレイはすぐに治療のためにポーションを取り出した。

 ポーションは何も怪我の治療に使われるだけでなく、失った体力を回復させる効果もある。


「ポーションだ。本当は何か食べさしてあげたいけど、今は飲んで」

「どく……じゃ、ない……だ、ろう……な……」


 そう来るかと思い、スレイは鞘に収まっている短剣を抜いて指を少し切ると、瓶に口をつけずにポーションを半分飲んでみる。

 流れ出る血が止まり傷がふさがったのを見せる。


「これで信じた?」

「え、ぇ」


 新しいポーションを取り出して少女に渡すと、ゴクゴクとすごい勢いで飲み始めた。

 今の今まで何も飲んでいなかったのか多少の苦味の強いポーションを一気に一瓶飲み干した少女は、安心してか糸が切れた人形のように突然倒れる。


「おっと」


 倒れる体を支えるついでに落ちて割れそうになった瓶を受け止めたスレイは、少女のことを寝かせ小さな寝息をたてているのを見て安心した

 今度は女の子の方を見るがこちらはそこまで衰弱している様子はないが、一応ポーションは飲ましておこう。


「君のお姉ちゃんが飲んだのと同じお薬だ。大丈夫、元気になるだけだから飲みなさい」

「う、うん」


 女の子はスレイの手に握られたポーションを小さな両手で受けとると、今までなにも飲んでいなかったのか姉と同じように一気に飲み干そうとしたが、半分ほど飲み干したところで女の子が瓶から口を放す。

 何かあったのかと訝しんでいると、女の子の顔がみるみる険しくなった。


「うぅ~、にがぁ~ぃ」

「はっはっ、小さい子にはちょっと苦いかもしれないな。だけど元気になっただろ?」

「………うん」


 ポーションを飲んだことで多少なりとも顔色もよくなった女の子の頭を優しく撫でたスレイは、女の子の首にある首輪と手に付けられた手枷に手を触れる。

 こんなもの早く外して上げようと、手枷に触れた瞬間スレイの顔が険しくなった。


「こいつは困ったな」

「どうしたの?」

「いや、何でもないよ。君は気にしなくていいからちょっとだけ目を瞑ってて」

「うん。わかった」


 女の子が目をつむったのを見てスレイは視線を首輪と手枷に落とした。

 この二つは紛れもなく魔道具だ。

 それも手順を一つでも間違えて外してしまうと爆発を起こしてしまう、危険な代物だ。

 こういう魔道具の扱いはクレイアルラから教わっているので、解体するのにはなんら問題はないのだが、こんな小さな女の子を不安させるわけにもいかない。


「すぐにこの枷を外してあげるから、おとなしく待っててね」

「はい!」


 目を瞑っててもらいながら解体を進めていく。

 工程としては解呪に近い。

 ディスペルで爆発を起動させる文字を消して、さらにナイフの切っ先で刻まれれいる文字を潰していくという作業をするのだが、以外とこの作業は繊細な作業なので少しでも間違えるとそれだけでも爆破する。

 これで最後だな、っと思いながら文字を消して錬金術で枷を分解して外した。


「もう外れたけど、もうちょっとだけそのままで待っててね」

「はぁ~い!」


 次にこの子の姉の枷をはずそうと思い近づいていくと、少女の目が開き叫びそうになったので咄嗟にスレイは少女の口をふさいだ。


「~~~~~~~~~んッ!」

「おねえちゃん!?」

「しっ!」


 スレイは地面に手を付くと、錬金術で地面に文字を書いて状況を知らせる。

 首輪と手枷が爆弾になっており、それを解体していることと、妹の方に付けられていた物は解体して外してあること、妹に心配させないように静かにしていること、そんな内容を書くと何も言わずに頷いてくれた。


「大丈夫、お姉ちゃんはなんともないよ。君もまだ目を瞑ってるんだよ?」

「う、うん!」


 強ばった声で頷いてくれた女の子と、自分の首に爆弾が付けられていることを知って震えていた。

 年端もいかない少女が気丈に振る舞っている姿を見て、すぐに終わらせて安心させて上げよう、そうスレイが思いながら作業を進めていくと、わずか数分で首輪と手枷を外した。


「もう外れたよ。君ももう目を開けていいからね」


 スレイがそういうと、姉の方がいきなり立ち上がってふらつく足取りで妹の方に駆け寄ると、ポロポロと涙を流している妹のことを抱き締めていた。


「スー、よかっ……た。よか、ったよ!」

「お゛ねぇ~ぢゃん!お゛ねぇ~ぢゃん、うわぁあああ――――ん」


 姉妹が泣きながら自由になったことを喜びあっている。

 その姿を端から見ていたスレイは、次の学園の仕事が終わったらリーシャの顔を見に行こうか、そんなことを考えながら時計を見るとそろそろ夕方だ。


 どうやら日の当たらないこの地下と、魔物との戦いに加えて下に降りたり上に登ってまた下がって、そんなことをしていたせいでいつの間にかこんな時間になってしまったらしい。

 そう思っているといつの間にか泣き止んでいた二人がスレイの前にやって来ていた。


「あの……ありが、とう……ございます」

「お礼なんていわなくていいよ。君たちを助けたのは偶然だし、後、ポーションで体力は戻ってるけど無理はしちゃダメだからね」


 少女の方はそう言うとそっぽを向いてもじもじとしている。その横で女の子、確か名前はスーと呼ばれていた子がスレイの前にやってくる。


「おにいちゃん。おにいちゃんは、はくばにのったおーじさまなの?」


 こてんと首をかしげたスーがスレイに向かって問いかけると、隣に立っていた少女も驚いた表情が向けていた。それを見たスレイが小さな声で笑って見せる。


「はっはっはっ、スーちゃんは面白いこと言うね。残念だけど、ボクは君たちを閉じ込めていた悪い魔法使いのお家を漁りに来た悪い人かもしれないよ?」

「そんなことないよー。だっておにいちゃんからはいいひとのにおいがするもん!」


 えっへん!と胸を張っているスー、さすがは犬の獣人だ。匂い一つで人の善悪を見ることができるらしく、スレイは全く悪人の匂いはしないと言ってくれた。


「それに、おねえちゃんいってたもん!おーじさまは、こまってるひとのところにきてたすけてくれるっていってたもん!」

「ちょ、ちょっとスー!それじゃあ、わたしがメルヘンチックな娘みたいじゃないの!」

「いいんじゃないかな、女の子らしくて」

「あっ、あんたに聞いてない─────ッ」


 スレイに牙をむく少女だったが、まだ本調子どころの話ではなかったのでフラりと倒れてきたので、スレイは優しく受け止める。


「だから無理はするなって言ったばっかりでしょ?」

「あっ、やっ、やめて恥ずかしいじゃない!」


 スレイは少女のことをお姫様抱っこの形で抱き上げると、このまま街に連れていこうと思ったがスーの方も歩いて行くには体力が無いので、おぶってあげる。


 研究所内は空間跳躍系の魔法は全く使えず、歩いて帰ることになったのだがとりあえず言っておくと、背中におぶっているスーがよくしゃべった。

 それと、ついでに言っておくとスーの本当の名前はスーシーで、スーは家族の愛称なのだとか。そしてスレイの腕の中に収まっている姉の方はアニエスというらしい。どうしてここにいたかと聞くと、元は別の大陸にいたらしいのだが、大規模の奴隷狩りに遇い奴隷としてこの大陸まで船で連れてこられ、実験に使える奴隷を探していた研究者に姉妹で買われて、アニエスが言うには大体三日ほどなにも与えられずにいたそうだ。


「ずっとね、ごはんすくなくてね、おねえちゃんがごはんくれてたの。だからねごはんなくなっちゃっておなかがね、ペコペコだったの」

「そうか、よく我慢してたなスー」

「うん!スーね、いっぱいがまんしたの!おーじさまほめてほめて」

「だから王子さまじゃないよ。ボクは冒険者だからそういう呼び名はやめてね」

「じゃあ、にぃに」

「……あぁ。それならいいよ」


 笑って見せたが、スレイは内心でヴァルマリアに続いてスーシーという義理の妹ができてしまったな、そう思っているとずっと黙っているアニエスのことが気になった。


「どうかしたのかい?」

「何でもないけど………あんた気にならないの……その、臭いとか」

「うん?あぁ、ごめんね。君たちを見つけるまでにさんざん魔物と戦ってたから血の臭いが染み付いちゃってるかな?」

「そうじゃなくて、その……わたしたちクサくなの?何日もお風呂入ってないし」

「あぁ。大丈夫、ってか君たちの方が大変じゃない?ここら一帯、血溜りが出来てるし」


 そう、先程スレイが倒した魔物の血です。

 今も血溜りの上を歩いていてブーツが血だらけ、コートの裾も血が飛ん確実に帰ったら洗濯確定なのだ。

 ついでに言うと地下にいるせいで空調もなにもなく、空気が循環しないせいで血生臭い匂い充満して人間族のスレイでも厳しいに、獣人の二人の鼻はより酷いだろう。

 そのため、今さら体臭がどうだこうだも気になることはない。


「平気だよ。それより、もうすぐ上につく。着いたらゲートを使って街に行くけど、多分君たちを買った研究者について聞かれると思う。ちゃんと話してあげてね」

「わかってるわ、わたしたちをこんなところに閉じ込めた報いを受けさせる」


 アニエスの決意の籠った言葉を聞いて、スレイはこの調子なら大丈夫そうだな、そう思いながらゲートで街に戻った。


 街に戻ったスレイは、アニエスとスーシーを連れて門に行き門番に頼んで二人を休ませれる部屋を案内してもらった。

 ついでにアニエスが気にしていたので簡易のシャワールームを貸してもらい、その時に門番に頼んで冒険者ギルドのジャルナと今回の依頼人を呼んでもらう。

 しばらくしてやって来たらしいジャルナと依頼人の声が聞こえてきたのだが、なにやら怒鳴り声が響いた。


「なんじゃとこのババア!こっちが依頼人だから下手に出てればいい気になりおって!」

「うるさいわねこの耄碌ジジイ!絞めてやろうか、ア゛ァ!?」

「やってみろ、その口燃やし尽くしてやるからな!」


 なんだか物騒な怒鳴り声にスレイはヒョイっと顔を出して覗いてみると、呼んだはずのジャルナとどういうわけか祖父のトラヴィスの二人が言い争っている。

 これっていったいどういう状況なの?しかも魔法を使ってお互いを牽制しあっている。


「ちょ、おじいちゃん!?なにしてんの!?ジャルナさんも、こんなところで魔法はやめてください!」

「おぉスレイ!この婆さん今すぐ消すから待っておれ」

「お前さんは引っ込んどれ、この爺さん消炭にすっからな」

「物騒にもほどがあるだろこの二人!?」


 スレイが思わずツッコミを入れていると、門番の一人がスレイに耳打ちをしてきた。


「あの、アルファスタくん。あの二人の服なんだけどさすがにあれを着せるわけにはいかないのよ。なにか着替えを持っていたら貸してあげれないかしら?」

「一応予備の服は空間収納に有りますから、でもその前に一言だけ言わしてください。誰でもいいですから、この二人止めろよ!ここが吹っ飛んでいもいいのかよ!?」


 スレイは渾身のツッコミを入れてみるが、兵隊たちはキョトンとした顔をしながら何をいってるんだろう、そんな顔をされていた。


「「「いや、だっていつものことですから気にしなくていいです」」」

「わぁ~、あの二人そんなにいつも喧嘩してんかよ」


 スレイは呆れながら二人のいきさつを見守っていると、部屋の一室が爆発した。取り敢えず身内がやったことに関してスレイは頭を下げまくったのだった。

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