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魔物だらけの地下室と犬耳少女たち

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 地面の中に潜んでいた謎のスライムを倒したスレイは、手に握っていた黒い剣を鞘に魔道銃をホルスターに納めると、黒と白の剣をベルトから外して空間収納に納る。

 代わりに二本の短剣を取り出してベルトの下げる。

 使うかどうかは分からないが、家の中という狭い空間の中で戦うなら刀身の長い剣よりも刀身の短い短剣の方が有効的だと言う判断からだ。


 準備を整えたスレイは、コートの胸元から二挺の魔道銃を取り出すと左手に握ったアルナイルのカートリッジの残りの弾を確認してから、予備のマガジンをすぐに取り出せるようにポーチの中にしまった。


「よし、準備も整ったし人様の家だけど、お邪魔しますよ」


 スレイはアルニラムの魔力弾で研究所の扉を吹き飛ばして中に入る。が、そこにはほとんど何もなかった。

 護衛用のスライムが出てきた時のために上げられていた銃を下ろしたスレイは、探知魔法に魔物の影が無いことに内心で驚きつつも部屋の中を確認してみたが、全くと言って何もなかった。


「テーブルやベッド、食器なんかはあったけど魔物も研究者って言うわりには魔物の研究資料なんかは無いってのは、さすがにおかしいな」


 調べては見た物の研究資料の一つも出てこないどころか、ベッドやテーブルなんかには埃が溜まっており全く使われた形跡がない。

 本当に人がいたのか怪しくなってくるが、どういうわけか床には埃はなかった。


「なにもなかった……何て言ったらあのギルマスに絞められそうだし、もう少し探そうかな………ん?」


 もスレイが一歩足を踏み出すとギシッと床が軋む音が他の場所よりも響いて聞こえた。

 もしかしたらと思ったスレイは、靴の踵で床を蹴ってみると一ヶ所だけ音の反響が違うところを見つけた。つまり、上はフェイクで本当の研究所は下だったと言うわけだ。


「良かった。これで怒られはしなさそうだな」


 地下室の扉を開ける方法が分からなかったので、とりあえず扉と同じように破壊した。

 壊れた床から出てきた地下へと続く階段を見下ろしたスレイは、アラクネたちを取り出して中を調べ指したところ、出るわ出るわ、魔物が次から次へと見つかっている。

 それがすべてスライムと言うわけではなく、オークやゴブリンにオーガにワーウルフにリザードマン、他にもヤバそうな魔物がわんさか出てきた。


「うわっ、これはさすがに凄いな」


 まさか、こんなに狂暴な魔物があのボロ屋敷の地下にいるとは思えなかったが、どうやら地下には広い空間が合ったらしく、あまり深いところには行ってはいないが件のエロ生物もいた。

 正確な数は分からないが、少なくとも百匹ほどは居ると思うが、いったいこの地下はどれ程広く作られているのかは想像できないが、装備についてはこのままでもいいだろう。


「とりあえず、奥に何があるかも気になるし、このままここにいても依頼を達成出来ないから降りてみるしかか無いか。あのギルマス絶対に怒ると怖そうだし」


 あの極道の妻とでも言いたげな気の強そうなおばあさんギルマスが怒った姿を想像したスレイは、ブルっと一瞬だけ震えながら絶対に依頼を達成して帰ろうと心の中で誓いを立てながら地下へと続く階段を降りていった。


 階段を降りた先にはとてつもなく広い空間が広がっていた。


「はぁ~、偉く凝った造りの部屋だな」


 壁や地面はしっかりとした金属の板によって補強され、その壁には魔石灯が設置されており壁に埋め込まれていた魔石灯のスイッチを入れると、スレイの居る場所の明かりがつきば今居る場所の様子を確認する。

 どうやら今いるところは一本道のようで、見える範囲では魔物はいないらしい。

 一応アラクネで確認した時に知っていたがもしかしたら、なにかいるかもしれないと思ったのだがどうやら杞憂に終わったらしく、良かった、そう思っていると奥からなにかが爆走してくる音が聞こえ、ハッとして顔をあげると魔物がいた。


「ブモォオオオオオオオオッ!!」


 どうやら向かってきたのは牛型の魔物で、名前はラッシュブル、突進による攻撃を得意としている魔物でその突進力は驚異なのだが、スレイは片手を上げて呆れたような言葉と共に魔法の名前を告げる。


「突進しか能がない奴って、こういうことに弱いんだよね。ゲート」


 ラッシュブルの目の前にゲートを開いたスレイは、出口をラッシュブルの後ろに開くとそのまま本来た道を、爆走して走り去っていく後ろ姿を眺めている。

 何やら時々魔物の絶叫が聞こえてくるが、それは気のせい等ではなく確実に聞こえてくる。

 なぜならあの一直線の通路だけでもかなりの数の魔物が後ろに控えており、それに気づいていたスレイは一対多数との戦いは慣れているがこんな狭い通路で剣は使うことはできない。

 さらには得意とる火の魔法が使えないので、いい具合に突っ込んできたラッシュボアで殲滅を決めたのだ。


 ラッシュボアが走り去っていった通路を歩いていくと、突進をその身に受けてミンチと化した魔物の肉解を踏み潰しながら奥へと進んでいく。


「うん。素材は回収できそうになくて残念だけど、こいつは楽でいいな」


 そう思いながら歩いていると、ラッシュボアが壁に激突して絶命していた。

 この魔物、一度走り出すと止まらない、と言うよりも一度走り出したら何かにぶつかって死ぬため、スレイは心の中で爆死牛と呼んでいたりする。


 この牛は食べてもあまり美味しくはないので捨てていくが、この爆死牛は以外と巨体なため下へと続く階段までの道を塞いでしまっているので、一度空間収納にしまってから自分の後ろに捨てると地面になにかがあることに気がついた。


「なるほど、召喚術式があったのか………どうやって発動さてるかはわからないけど、侵入者対策ってことね」


 これ以上は出てこないかも知れないが、念には念を入れて魔方陣を破壊しておこうと考えたスレイは、魔道銃の銃口を魔方陣に向けて弾丸で魔方陣を壊した。


 魔方陣を破壊したスレイが次の階に降りていくと、そこには空を飛んで現れた巨大なコウモリがいた。


 デスバッド、別名吸血蝙蝠と呼ばれ体長は人間の子供と同等で、人や魔物の血を食料に育つ危険な魔物で、一度食らいつくと相手の身体から血がなくなるまで吸い続けるのだ。


「厄介な魔物を飼いやがって!」


 噛みつかれる前に仕留めるべく銃弾を撃ったスレイだが、デスバットはそれを軽やかに避けるとスレイに向かってまっすぐ飛んでくるので、スレイは右手からアルニラムを投げ捨てるように空間収納に入れると、流れるような動きで腰の短剣を抜き放ち、そして魔力を込めた。

 すると短剣の刀身に魔力で形作られた刀身が現れ、デスバットの頭部を切り裂いた。


「ピシャアァアアアアアアアアッ!?」


 最後の断末魔を上げながら二つに別れたデスバットを斬り捨てながら、次に現れた魔物に向かって剣を振り下ろす。

 後ろから現れたオークが棍棒をふり振り抜いてきたので、魔力刀の刀身に暴風の刀身を形成し棍棒ごとオークの首を切り裂くと、魔道銃の銃口を押し付けると迷わずトリガーを引き絞る。

 撃ち出された銃弾には暴風を纏うとオークの体を突き破り、さらにその背後にいたい魔物を一掃した。

 それからは同じ作業の繰り返しだ、階段を降りるごとに襲ってくる魔物を倒していった。



「うわぁ~、研究者って言ってたかこういうのもあるとは想像してたけど、リアルに見るとさすがに引くな」


 研究所の内部に放たれていた魔物をすべて倒し終えたスレイは、一番下の階から一度上に上がり本当にすべての魔物がいないかを調べてから、今度は上から順番に見つけていた部屋のなかを捜索しているのだが、最初に入った部屋から不気味なものを見つけてしまった。


 それは成長途中の魔物の赤ちゃん、そのホルマリン浸けに似た標本の入った瓶だ。

 本物は始めてみたな、そんな感想を漏らしながら標本の並べられた棚を眺めていくスレイは、一つ目を引く物を見つけ足を止めた。


「なんだこれ、ゴブリンの子供のなりそこないにも見えるけど………下半身は馬か?こっちはオークっぽいけど、手足に鱗が生えてるな。キメラな訳もないしな………まさか、魔物を交配させていたのか?」


 仮説は思い浮かぶが、確証が得られない。

 これはますます研究資料を見つけて調べなければならない。

 そう思いながら別の部屋に行ってみると、その階にあったのは全て魔物の研究サンプルの標本が置かれていたらしく、死んだ魔物の標本から魔物の内蔵の標本、などなど。

 途中から見るのもイヤになってきたのでこの階はスルーして次の階に向かうと、そこには大量の資料が保管された部屋だった。


「ようやく見つけたけど、なんつう数だよ………」


 資料だけでも百は有るだろう本を見ながら、スレイは研究資料の新しそうな物を手にとって読んでみると、研究家が自分で執筆したのだろう、癖字が酷すぎて全く読めなかった。

 こんなもの持って帰ったところで意味があるのだろうか、そう思ったスレイだが依頼なので仕方なく空間収納に詰めていく。


 アラクネや黒騎士を使って空間収納に入れるのを手伝ってもらっていると、たまたま見た黒騎士の一体が持っていた本のタイトルを見て、スレイは黒騎士にそれを空間収納に仕舞う前に自分のところに持ってくるように指示を出した。

 黒騎士から受け取った本を開いたスレイは、そこにかかれている内容を読んでみる。


「魔物の異種交配について書かれた論文か、これを見る分にはさっきの魔物がその実験結果から」


 興味のなくなった本を空間収納に仕舞うと、残った資料も全て空間収納に仕舞う作業を続けていった。ついでに言っておくと、これと同じ作業を四回ほど繰り返すこととなった。



 次の階に降りるとそこには魔物の品種改良を行うための部屋だったらしく、最初に入った部屋の中に置かれていた資料を手にとって中を確認する。

 どうやら飼育日誌のようなものだったらしく、どこの部屋でどんな魔物を飼育しているのか、交配種の魔物の成長過程はどうだ、等といろいろかかれていた。

 スレイ開いていた研究日誌から顔をあげると、そこにはガラス張りの檻とその中に一匹だけ存在している衰弱しきった狼のような魔物と、大量の乾いた血の跡だけだった。


 どうやら少し前にはこの檻の中かには、魔物の子供や子供を身籠った魔物が飼育されていたようだ。

 研究者が捕まってからかなりの時間が経っているからか、餌のなくなった魔物たちは檻の中に入れられた仲間や、柵を破り別に飼育されていた子供を食べて飢えを凌いでいたみたいだ。


 鼻を突く異臭を感じながらも悲惨な現場を目撃したスレイは、横たわったままピクリとも動けないでいる狼の魔物にそっと銃口を向ける。

 向けられた銃口をみて狼は震えながらも、ソッと瞼を閉じた。


「自分の最期は分かってるみたいだね」


 どうやら、あの狼の魔物は自分が助からないことを悟っているらしく、抵抗する意思も体力もない狼の魔物はその運命をただ受け入れた。

 それを見たスレイは、頷きかけるように一度狼の魔物を見るとゆっくりと魔道銃のトリガーを引き絞った。

 撃ち出された銃弾がガラスを突き破り、狼の頭を撃ち抜いた。

 生き残った最後の一匹が静かに息を引き取ったのを見届けたスレイは、胸の前で手を合わせて最後の言葉を送る。


「ごめん、ボクたち人間のせいでこんなところで死なせてしまって」


 スレイは狼の魔物の腹部に子供がいたことを知っていた。

 こんなところにさえいなければ、自然の中で子を産むこともで来ただろうが、魔物を殺したことに後悔はない。

 スレイは冒険者だ、今までもこれからも生きていくために魔物を殺す。それが自然の摂理で、それが当たり前のことだからだ。

 だから同情もしない、だが、ただ一言だけあの言葉だけは言っておきたかった。



 それから残った部屋を全て捜索したスレイだったが、生き残っていたのはあの狼の魔物一匹だけだったようで、他はすでに餓死していた魔物ばっかりだった。

 なんだか一人で坦々と血だらけの部屋を見ることにも気が滅入ってきた。


「はぁ、早く帰りたい」


 早く帰ってみんなに癒してもらいたい。

 そんな事を考えながら最後に残った部屋の扉を開けたスレイは、奥から聞こえてくる人の声のようなものが聞こえてきた。


「人の声……まさかッ!」


 まさかとは思ったが、この研究所にまだ人がいるのかと思ったスレイは腰の鞘から魔力刀を引き抜くと、部屋の扉をぶち破り中に入った。


「動くな!──って、子供!?何でこんなところに……」


 中に入ったスレイが見たのは、痩せ細りぐったりとした様子で倒れている犬の獣人少女と、そんな少女にすがり寄って震えている犬の獣人の幼い女の子だ。

 しかも二人の首には鎖に繋がれた首輪と、両手の手首には手枷がはめられ着ている服も、服と呼んでいいのか分からないほどボロボロだ。

 そんな二人の姿を見たスレイは、暫しの間ただ呆然としていたのだった。

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