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祖母来訪

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 学園での仕事を終えて夕食の食材を買って家に帰ると、家の前で自分たちの祖母二人が不審者になっていた。何を言っているのかわからないと言われるかも知れないが、実際にあったことなのでそういうしかない。


 取り敢えず我が家に関してのあらぬ疑いをかけられるかもしれないことについては、明日の夕食の買い出しの時になにか言われたらあったことをそのまま言えばいいだけで、実際にスレイとユフィの祖母が訪ねてきただけなのでなにも間違ったことは言っていない。

 それどころかただ真実しか口にしなければ変な邪推を受けることもないのだと、いったい誰に対して弁解しているのかは分からないが、心の中でそう意味のない釈明の言葉を投げ掛けたスレイは、トレイにお茶を入れたポットが二つと四人分のカップを乗せて祖母二人の座っているテーブルの上においた。

 なぜポットが二つあるかと言うと、スレイのコーヒーを淹れるための物と、ユフィの紅茶を淹れるための物に別れており、この家の住人は意外と飲み物にはこだわりがあったが、ここで話すと長くなるので一先ずその話はあとにするとして、祖母二人の前でコーヒーと紅茶を淹れる準備をしながら二人に話しかける。

 ついでにユフィは部屋に行って普段着に着替えに行っている。スレイはコートと武器を外せばそれが普段着なので着替える必要もないため、こうして祖母二人にお茶を用意しているのだ。


「えっと、お二人はコーヒーか紅茶、どっちを飲まれますか?」


 スレイがそう言うと白髪混じりの薄いピンクの髪をしたユフィの祖母、アシリア・フォールドが笑いながらスレイに告げる。


「そんな他人行儀なこと言わなくていいわよ。私の孫娘と結婚するつもりなら家族も当然なんだから、おばあちゃんって呼びなさい。ねぇ、ジュディス?」


 そう言ってアシリアが白色の髪をしたスレイの祖母、ジュディス・カークランドに話しかけると、ジュディスも大きく頷きながらその言葉に補足を入れた。


「トラヴィスから聞いていますよ。なんでもトラヴィスのことは、はじめからおじいちゃんって呼んでいるのに、私だけそんな他人行儀なのはいささか不満ですね」

「わかったよおばあちゃん。それでどっちがいいの?」

「それじゃあ私は紅茶を貰おうかしら」

「あら、それなら私も紅茶を淹れて貰おうかしら」


 この世界の女性は紅茶が好きらしいな、そんなことを思いながら紅茶を淹れてお好みでと言うことで、レモンやオレンジをスライスした物や、ミルクにハチミツ、砂糖など二人の好みに合わせて飲めるように色々と用意しておくと、ジュディスはミルク、アシリアは砂糖とレモンを入れて飲んでいた。

 二人が一息つくまで待っているスレイは、ユフィのカップにミルクティーを淹れていると、タイミングを見計らったかのようにユフィが戻ってきた。


「ごめんねスレイくん、お茶出すの全部任せちゃって」

「これくらいはどうってことないよ。そんなことよりも座りなよ?」


 スレイが隣の席にユフィを座らせると、祖母二人と向かい合うように座り本題を話してもらうことにした。もちろん、なぜいきなり来たのか、出来ることならトラヴィスを使ってでも良いから来ることを事前に知らせて欲しいと思っていたので、そこのところについて聞いてみると返ってきた言葉はなんとも自分勝手な言葉だった。


「そんなの、トラヴィスばっかり孫と会っててずるいからよ!前に話しを聞いたときも、自慢気にスレイにおじいちゃんと呼んでもらえた、なんてどや顔で言うのよ!」


 つまりは、トラヴィスに対しての怨みからこんな行動に出たらしく、一人で会いに行くのもさみしいからアシリアも一緒に行こう、ユフィにも会えるからと誘って一緒に来たそうだ。

 話しを聞いていたスレイは、なにやってんだよいい歳して、っとコーヒーを飲みながらスレイがトラヴィスに対してそう思っていると、話を変えるようにアシリアがユフィに問いかける。


「ところで、ユフィあなたに聞きたいことがあったんだけど」

「なぁに~おばあちゃん?」

「私はいったいいつになったらひ孫の顔が見れるのかしら?」

「ブフッ!?」


 話しを聞いていたスレイが口にふくんでいたコーヒーを吹き出した。隣に座っていたユフィがテーブルに乗っていたものを一瞬でかっさらって避難させた。


「ちょっとスレイくん、汚いよ~」

「ご、ごめん。さすがに今のはちょっと驚いちゃって………」


 コーヒーのかかったテーブルは特になにかを敷いてあるということはなく、ただの木目の見えるテーブルだったため水拭きをすればいいので、布巾で拭いているとユフィがアシリアに問いかける。


「何でそんな話しするのよ~、私たち婚約はしてるけど結婚はまだなんだから~」

「なにいってるのよ、婚約して同居もしてるんならそんなのもう子供作っていい頃じゃない。ジュディスから聞いてるけど、スレイって結構お金は持ってるんでしょ?なにも問題ないじゃない?」

「あれ~、おっかしいな。ボクの口座の貯金額なんてボク自身も把握してないし、ましてやユフィたちにも話したことないのに何でそんなことおばあちゃんが知ってるのかな?」

「トラヴィスから聞いたんだけど、ブラック・ドラゴン討伐の時にギルドにお金をいくらか預けたんでしょ?そのお金って国に一回報告が回ってその時に聞いちゃったのよ」


 あのじじい、次あったら絞めてやる。

 口では言わなかったがスレイは勝手に所持金をばらしたトラヴィスに対する苦言と怨みを後で返すことは確定しておくことにして、結婚については今抱えている問題に片がつくまでは止めておこう、そうみんなで話し合っていたので当分は先のことで、問題については適当にごまかしておいたが、結婚はまだしない、子供も結婚するまでは作らないそう言うと、ジュディスとアシリアがあからさまにガッカリした様子だった。


「私たち、初孫はずっと写真でしか会えなかったのよ?私たちが会いに行くってこともできたのだけど、女だけの長旅はなにかと危険だからってトラヴィスに言われて止めたのよ。そしたらいつの間にか孫はこんなりっぱに成長して、それにお嫁さんも何人もいるって言うからひ孫の顔も見れると思ったのに」

「私は道場があって長い休みを取ることが出来なくてね。私も旦那もいい歳になってきたし道場は息子たちに任せて、いざ隠居と思ったところに孫娘が旦那つれて来たって言うから、こうして会いにきたのに楽しみにしてたひ孫はまだ見れないのは、なんとも悲しいことだねぇ」


 ダメだこのおばあちゃんズ、孫フィーバーならぬ出来てもいないひ孫フィーバーしてやがる。そうスレイとユフィが引きぎみにそう思っているが、二人ともまだ見た目的には五十代前半辺りで、この世界の平均寿命はいくらかは分からないが──魔物がいるのでかなり低いかもしれないが──、この世界の人間は魔法を使うことが出来るので病気などでの死亡率はかなり低いと思うので、多分長くてもニ十年以上は生きると思うので、それまでには問題も片付けてちゃんとひ孫の顔を見させてあげられるだろう、そう思いながらユフィは先程のマリアの台詞の中で気になる単語が出てきたのを思い出した。


「おばあちゃん。さっき道場って言ってたけど、もしかしてお母さんの体術っておばあちゃんたちが教えてたの?」

「えぇそうよ。あの娘は私たち譲りで体術の才能に恵まれたいい娘だったんだけど、あの娘は闘気しか持っていなかったからね。魔力を使った技を教えられなかったのが残念でならないよ。魔力さえあれば、今ごろは家の道場を継いでたかもしれないんだがねぇ」


 なんとも残念そうに言っているアシリアだったが、多分マリーは魔力を持っていたとしても道場は継がずに冒険者となってゴードンと結婚していただろう。そしてマリーが闘気だけではなく魔力も持っていた場合は、ゴードンが今まで以上にボロボロの姿になっているところ以外の想像ができないので、マリーが魔力を持っていなかったことに対して喜んだ方がいいかもしれないと思ったのだった。


 四人でいろいろな話をしている。まずは、マリーには姉弟がいたらしく、今ではマリーの弟──ユフィにとっては叔父になる──が道場を継いだらしいが、その叔父と言うのがかなりの脳筋らしく結婚もしなければ女っ気が全くないことが悩みの種らしい。

 なんでも顔はそこそこ良いらしいのだが、身体を鍛えることに熱中するあまり、顔から下のバランスがかなり悪くなっているため、アシリア曰く、自分の息子ながらいささか不気味なことになっているらしい。

 それについては少しだけ気になったユフィだが、アシリアの目が本気だったのであまり深く掘り下げるのは止めておこうと思った。


 ジュディスは家のことで色々とあるらしい。前にスレイが合ったことのあるスペンサーの家が、自分の息子、つまりはスペンサーをカークランド家の当主にしたいらしく──ここで聞いた話しなのだが、カークランド家は代々王家に支える魔法使いの一族らしい──、分家の面々と日々跡目争いのが勃発しているらしく、スレイもカークランドの血が入っているので、跡目争いに巻き込まれないように気を付けろと言われた。

 だがスレイはその分家という人たちの顔を知らないので気を付けるもなにもない。そもそもお家問題はアルファスタ家のことだけでお腹一杯なので、積極的に関わる気もなければ参加する気もないので関係ないなっと、話を右から左へと聞き流していた。


 そんな話をしていると玄関の方で話し声が聞こえてきたので、ノクトたちが帰ってきたんだなっと思ったスレイとユフィは、アシリアとジュディスとの話を止めて依頼を終えて疲れているであろうみんなのために、よく冷えた果汁水とさっき買ってきた果物を用意していると、マリアがそれを横から摘まみ食いしていた。


「ちょっと、おばあちゃん。それみんなのだから食べちゃダメだって~」

「いいじゃないの、少しくらい」


 どこか子供っぽいところがあったアシリアを横目に、スレイはいつまで経っても来ないみんなを心配して、おばあちゃんズの説明もあるのでみんなを出迎えるべく玄関の方に行くと、なんとも見事なまでに服を泥まみれに──正確に言うと泥のかかった後があったり、泥がついたままだったりしているので多分洗ったけど完全には落ちなかったみたいだ──汚して帰ってきたらしく、ノクトたちは気まずそうにスレイから視線を外していた。


「みんな、なんでそんな泥だらけになってるんだ?」


 スレイがそう訊ねると、リーフが気まずそうに泥だらけになった理由を話してくれた。


「実はですね………今日受けた依頼と言うのが、スライム討伐の依頼だったんですが、そのなかに亜種が混じっていましてね」

「スライムの亜種ってことは、デカイやつか?確かにあれってコアを砕けば水が弾けたみたいになるけど、もしかしてその後みんなでコケたとか?」

「………確かにそれもいたけど、私たちがこうなったのは違う理由」

「?」


 リーフの言葉にライアが訂正、と言うよりも追加で情報を提示してくれたが全く理解できないスレイが首をかしげていると、今度はノクトとラピスが答える。


「わたしたちが戦ったスライム、泥を吐いてきたんです」

「はっ、泥?」

「先程、ギルドのお方からお聞きしたのですが、スライムを研究していたお方が森に失敗作のスライムを逃がしていたらしいのですよ」

「スライムの研究家?そんなんいるんだ。ってか、それでその泥を吐くスライムにやられてそうなったと」


 スレイが四人の話をまとめて結論を言うと、全員がなにも言わずに頷いた。つまりただのスライム狩りのはずが、行ってみたら亜種の群れに遭遇しスライムの群れは倒したが最後に泥を吐くスライム──面倒なのでマッドスライムと呼称することにしよう──と遭遇し、始めてみるスライムだったし何しろ泥を吐いて遠距離攻撃もしてくる、危ないと思いリーフの剣でコアを砕いたはいいが、コアを砕いたと同時にスライムが暴れだし、遠くで援護をしていたノクトや、離れていたところにいたライアとラピスまでも巻き込んで破裂し、全員敢えなく泥だらけになったというわけらしい。


「理由はわかったけど、なんとも災難だったな。取り敢えずもう一回外で水浴びして全身の泥を落としてきなよ。その間に風呂の用意はしておくからさ」


 このまま中に入るわけにもいかないのでみんな納得している。

 先に家の中に入ったスレイはユフィに事情を説明しようとすると、なにやらジュディスとアシリアが荷物をもってスレイの方に歩いてきた。


「あれ、おばあちゃんたち帰るの?」

「えぇ。そろそろお暇するわね」

「なんだ、夕食でも一緒に食べるかと思ったのに」

「そうしたいんだけど、帰って夕飯の準備しないと家の男どもはなにもできないのよ」


 脳筋揃いでそんな器用なことができないと嘆いているマリアを見て、乾いた笑い声をあげているスレイは外まで二人を見送り、外で水浴びをしていたみんなにも軽く紹介しようと思ったが、みんなは別の場所で水浴びをしていたらしく、玄関の側にはいなかった。


「それじゃあ、またいつでも来てよ」

「スレイも、我が家にいつでも遊びにいらっしゃい」

「家も歓迎するわよ」


 そんな会話をして二人は帰っていった。

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