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初めての授業

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 スレイたちが伝説の魔導師レクスディナ・アロアクロークから学園の依頼を受けてから数日、ミーニャは無事に魔法学園の入学試験に合格した。

 その日の夜にはスレイたちにとって豪勢な夕食会が開かれ、招待客の中にはミーニャを指導してくれたクレイアルラの姿もあった。

 始めはラピスについて驚かれたが、事情を説明すると納得してくれた。


 今日の夕食会のメニューは、この日のために残しておいた黒竜の肉を使って豪勢に振る舞った。

 生まれて初めてドラゴンの肉を食べたが、噂に聞いていたとおりドラゴンの肉は美味しかった。

 今までに食べたどんな魔物肉よりも濃厚で、一口食べただけで肉が消える。しばらくはあんなのとやり合うのはごめんだったが、この味のためにも狙ってみるのは悪くないと考えてしまうほどであった。


 その日から数日後、ミーニャの魔法学園の入学式の日、真新しい制服に身を包んだミーニャと、その親族ということからいつかの上等なスーツを着こんだスレイが一緒に学園に行くことになった。


 本来ならば両親であるフリードとジュリアも参加するはずだが、この日に限って中央大陸の貴族全員が王城への召集される大きなパーティーに呼ばてしまい、やむなくスレイにお鉢が回ってきたのだ。


 それならばとスレイはプレートとレイヴンの新機能カラー写真機能を使い、大切な妹の晴れ姿を中央大陸にいる両親と、一緒に付いていっているであろうリーシャとヴァルマリアに見せるため、張り切って写真を録りまくりました。


 学園の入学式の帰りミーニャは一度スレイたちの家に寄ってもらい、一緒にこれなかったユフィたちにも入学式の様子などを話し、日も暮れてきたので宿に戻ろうとしたミーニャをスレイは引き留めた。


「ミーニャにいくつか渡すものがあるんだ、ちょっと待っててすぐに出すから」


 スレイが自分の空間収納から何かを取り出そうとし始める。


「まずはこれ、お兄ちゃんのレシピノートだ。これから寮で生活するから必要ないかもしれないけど、いつか使うことがあるかもしれないからね」

「ありがとう兄さん。それじゃあ私はこれで──」

「それと次はこれね、最新式の通信機、機能を向上させてあって理論上は他の大陸にまで通信が届くはずだから、寂しくなったら使いなさい」


 これだけだろうと思っていたミーニャの言葉を遮ってスレイは改良型のプレートを手渡した。


「兄さん、こんなにもいいのに。それじゃあ今度こそ」

「いいや、まだあるぞ。次はこの短剣型の魔力刀も一振り渡しておくから、父さんから護身術くらいには習ってるでしょ?何かあったときのために持っていきなさい」

「えっ、いや、ちょっと兄さん?」


 ノートと通信プレートの次に魔力刀を渡されたミーニャと、それを黙って見ていたユフィたちはなんだか嫌な予感がしてそぉ~っとスレイの方を見ると、なにやらまだ空間収納の物色をしていた。


「ちょっと兄さん、まさかとは思うけど他にも──」

「それとこれはシールドが付与された指輪だ。危ないと思ったら魔力を通せば絶対に安全だからな。それと各種ポーション一式の詰まったポーチに、ミーちゃんの戦闘強化用パーツ一式な、やっぱりこれからの時代何かと物騒だしミーニャは母さんに似てかなりの美人だ、やはり痴漢や変質者、それに違法な奴隷商に狙われる可能性なんかがあるからな………やっぱりこれだけじゃ心配だしこれも渡しておこう。各種非殺傷手榴弾と殺傷手榴弾にお兄ちゃん特製の太陽熱圧縮式手榴弾だ!これさえあれば例え魔物でも安心だ。他には──」


 ポンポンポンポンと次から次へと空間収納から取り出した物をミーニャへと渡していくスレイ、本人は全く気づいていないようだから言うが、スレイのプレゼントのせいでミーニャの周りに小さな山が出来ていた。

 なおも積み上がっていく山を見ながらユフィたちが呆れて言葉を失った。


「お兄ちゃん!そんな物騒なもん持っていけないからね!?それと、お姉ちゃんたちもお兄ちゃんが奇行に走る前に止めてよ!!」


 先程からスレイが自分の空間収納から次々と出してくる危険物が山となり、ついには抱えきれないほど渡されたミーニャがたまらずユフィたちに助けを求めた。

 みんなまさかスレイがミーニャのためにこんな物を作っていたとは知らなかったため、止めようがなかったとだけ言いたかった。


 ちなみにミーちゃんとは、去年のミーニャの誕生日にプレゼントした猫型の生体ゴーレムで、断じて青色で未来から来たとか言うお助けロボットではなく、真っ白な毛のふわっふわの毛並みの猫だ。

 品種は不明。

 そんなゴーレムの強化装備を渡すとは、さすがに予想外だったユフィたちはスレイの作ったという強化装備を確認してみると、どうやら前足に鋭い爪の付いたような物らしく似合わなさそうだなっと思った。


「……スレイ、さすがに多すぎると思う。こんなにだとミーニャが迷惑」

「ライアさん。ボクは家族を守るためなら妥協はしないんだ」


 ドヤ顔で宣言するスレイに対してライアはちょっとだけ引いてしまった。

 スレイがライアとそんなやり取りをしている間に、ユフィはミーニャを手招きで呼び寄せると、手に持っていた荷物を預かって検品していた。


「スレイくん、この手榴弾って非殺傷って言ってなかった?」

「言ったけど?」

「これ、全部殺傷能力しかないよ」


 平然とユフィが言い放つと、そんな危険なものを渡したのかとリーフ達が驚いていた。


「ユフィ殿、それ本当ですか…?」

「うん。この麻痺毒なんかも濃度が濃すぎて心臓マヒで死んじゃうし、閃光弾も太陽光を収縮したものだから使ったら目が蒸発しちゃうし、唯一大丈夫そうなのがこの催涙弾だけだよ」


 ひょいひょいっとユフィが危険そうなものと、そうでないもの、マジでやばい物で分け始めた。

 次々と出来上がっていくマジでやばい危険物の山を見ながら、ノクトが顔を引き吊っていた。


「お兄さんはミーニャちゃんに人殺しを経験させたいんでしょうか?」

「ここは今一度スレイ殿には、自重という言葉の重要性についてみんなで教え込む必要がありそうですね」


 リーフたちからの厳しい視線を受けながらスレイは、自分の作ったものがどんどん仕分けられていくのをただ見ているだけであった。


 それから、ユフィによって安全なものだけが手渡され、超危険物はスレイが涙を流しながら処分することになった。


「それじゃあ、ミーニャまたな」

「うん。兄さんも先生のお手伝い頑張ってね。それとお姉ちゃんたちに迷惑をかけないようにね」

「母さんと同じこと言うなっての」

「ふふふっ、それじゃあもう行くね」


 ⚔⚔⚔



 ミーニャが魔法学園入学から早一週間、初めは緊張していたミーニャだったが今では寮の同室の娘や、同じ授業を取っている娘たちとも仲良くなり、なかなかに充実した日々を送っていた。


 この日学園の食堂で食事を取っていたミーニャは、向かい側に座っている少女からこんな言葉を投げ掛けられた。


「ねぇミーニャ、あんたこの後何の授業があるんだ?」


 そう訪ねてきたのはミーニャと寮の部屋が同室で、同じ授業を取っていることもあり学園に入学して早々仲良くなったミーニャの友人で名前はリフィルという。


「私は確か、実戦魔法訓練だったよ。リフィルはなにがあるの?」

「それがさぁ、魔法薬学の授業を入れてたんだけど先生が急用とかで潰れちまったんだよ。それでさ、暇だからあんたの授業一緒に受けようかなって思ったんだ」

「良いけど、大丈夫なのかなそんなことして?」

「構わないさ。必修じゃなくて自由科目だろ?なら飛び入りも自由だし、それにさぁその科目を受け持ってる先生ってのが、なんでもかなりのイケメンらしくてさ一回でいいから見てみたいんだよ」


 なんとも理由が不純、それよりもミーニャはリフィルが以外と面食いだったとは思わなかった。


 昼食を食べ終えた二人は、早速件の授業を受けるために第一訓練場へと行くことになった。


「なぁミーニャはもう、イケメン講師の顔は見たのか?」

「私も今日が始めて受けるから知らないよ」

「あっ、そうか。そういやぁ、この授業って一回目だけ学年を分けるっていってたな」


 この授業は週に二回だけで、一年生であるリフィルがなぜそんな話しを知っているかと言うと、間違って一年生の生徒がその授業に参加したらしく、その時にイケメンを見たと騒いでいたらしい。


「しっかし、ミーニャはイケメンとか興味ないの?それでも女の子なの?」

「興味が無い訳じゃないんだけど、私は兄さんとお父さんよりも強い人じゃないとね」

「はぁ~、あんたの父親と兄さんがどんだけ凄いか知らないけど、やっぱりイケメン講師は一目この目に納めておきたいじゃない」


 リフィルはそればっかりだなっとミーニャが思っているが、このときのミーニャは知るよしもなかった。この後その件の講師と言うのが自分のよく知っている人物であると言うことに。


「みなさん、はじめまして私はこの授業を受け持つクレイアルラ・リスカルラともうします。こちらの二人は私の弟子で、時には私の代わりに授業を行うこともあります。それでは挨拶をしなさい」

「はい。みなさん初めまして、ユフィ・メルレイクです。短い間ではありますがよろしくお願いします」


 ここまででこの授業を受けに来ていた男子どもは狂喜乱舞していた。それはそうだ講師二人が美女、そんな人たちに手取り足取り教えてもらえるなど早々無い。

 そして女子生徒たちはというと、もう一人の教師に目が釘つけだった。そしてミーニャは、予期せぬ事態に目を丸くさせ顎が外れるのではないかと思うほど開かれていた。


「初めましてスレイ・アルファスタといいます。どうかよろしくお願いします」


 もうミーニャの顔は年頃の女の子の顔をしていなかった。それもそのはず、ミーニャはスレイたちの依頼の内容を聞いていなかった。ただ学園の仕事というだけだったが、まさか教師のお仕事だとは思わなかった。せいぜい学園からの素材集めとか、そんなところだろうなっとしか思っていなかった。

 考えの至らなかった自分が恥ずかしいと、頭を押さえていたミーニャに友人であるリフィルは、確信したように告げた。


「なぁミーニャ、あの人ってもしかしなくてもミーニャのお兄さん?」


 こんなときには意外と勘の鋭いリフィルを見ながら、真顔のまま大きくうなずいたのだった。


 自己紹介を終えたスレイたちは、ミーニャの変な顔を見ながらやっぱり先に言っておくべきだったなっと思いながら、授業中にでも謝ろうかなっと考えた。


「それでは今日は、始めと言うことで簡単な手合わせをしましょう。みなさん、これからスレイ先生と戦ってもらい、この授業が終わるまでの間立っていられるか、もしくはスレイ先生を倒すことができれば上半期の成績を優を与えましょう」


 その一言に生徒たちの目が輝いた。

 いくら自由科目の単位であっても単位で優をもらえるのはうれしい、つまりはもしもここで優を取れればこの上半期はこの授業を受けずにすむと言うことだ。

 クレイアルラがスレイのことを一瞥すると、一回頷いたスレイが着ていたローブを脱いでユフィに渡すと、簡単なストレッチをして生徒たちの方を見た。


「それじゃあ始めようか」


 スレイが始めるべく生徒たちに声をかけると、生徒たちがちょっと気不味い顔をしながら、質問が上がった。


「あの、スレイ先生は素手で大丈夫なんですか?」

「もちろん。遠慮なく好きな魔法を撃ってきていいからね。もちろんこっちからも攻撃はするけど怪我をさせないように手は抜いてあげるけど、怪我してもユフィ先生が治療してくれるから安心してかかってきなさい」


 スレイがそう言うと生徒たちが杖を構えて魔法を詠唱し始めた。やはりこの国では詠唱魔法が主流になってきているらしく、入学したばかりの生徒たちも詠唱から始まっていた。


「───グランド・ランス!」

「───アクア・ショット!」

「───エアー・カッター!」

「───ファイヤー・ボール!」


 土の槍、水の弾丸、風のかまいたち、炎の球、正直に言って全てが初級の魔法なのでシールド一枚で防げるのだが、ちらりとミーニャの方を見るとまだ魔法を使おうとしていないのを見て、あれは何か考えてるなっと思いながらシールドを発動する。

 すべての魔法が爆発を起こし生徒たちの口許がつり上がった。


「はいはい。相手が倒れたのをしっかり見ない限りは気を抜いちゃいけません」


 そう言ったのはもちろんスレイだ。シールドで生徒たちの魔法を受け止めると、今度は生徒たちの集団の中に転移したスレイはそっと男子生徒の背中に手を当てる。


「あっ、がっ!?」


 スレイの手が触れた生徒が突然倒れた。それを見て生徒たちが混乱した。


「えっ!?なに!?」

「急にどうしたんだ!?」


 使ったのは体術というよりも中国武術の発勁に近い技で、マリーから教わったのは闘気によって相手の身体の身体機能を一時的に麻痺させることができる。

 当たり前だがこれは闘気で攻撃になるが、先程スレイは攻撃はすると言ったが、魔法を使ってとは言っていないし、そもそも何が起こったのかすらわかっていないご様子なので何も問題はない。

 それからしばらくして、残りの数を確認していた。


「ふむ、後二人。君たちさっきから一度も攻撃してこなかったけど、何でかって理由は聞かなくてもいいね?」


 スレイがそう言うと一瞬でミーニャが動いた。ローブを脱ぎ捨て接近戦をけしかけてきたミーニャ、突き出された拳を受け止めるとミーニャはさらに一歩踏む混みスレイの鳩尾に肘を入れるが、それもなんなく止められる。


「なぁミーニャ、もしかしなくても怒ってるか?」

「当たり前でしょ!なんで私にも教えてくれなかったの!?それとお兄ちゃん、自分が女の子からスッゴいモテてるって自覚あるの!噂になってるんだからね!?」

「いや、それはないだろ?自慢じゃないけどお兄ちゃん、ユフィたち以外からはモテたためしがないからな」

「もうダメだこのお兄ちゃん、早くなんとかしてもらわないと」


 なんだか急に涙目になっているミーニャを横目に、時計を確認するとまだまだたっぷりと時間もあるので、久しぶりにミーニャと組手もいいかもしれないと思ったが、次があるのでそれはできない。


「ごめんなミーニャ、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してくれ」

「甘いよお兄ちゃん、こんなこともあろうかとすでに解毒魔法はかけてあるんだから!」

「うん。いい判断だけど、今は不正解。グラビティー」

「───────────ッ!?」


 突然身体にとてつもない重さが加わったためミーニャは膝から崩れ落ちた。

 ミーニャも身体強化をしていたため、並みの重力荷重ならば耐えられたかもしれないが、スレイはそれを見越してミーニャでは耐えることの出来ない、ギリギリの荷重をかけて地にひれ伏させた。

 これで残り一人なのだが、あまりにも実力差がありすぎると感じたリフィルは両手を上げた。


「降参します」


 ただその一言だけ言ったのだった。

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