記憶喪失の少女
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先に戻ったみんなから少し遅れて戻ってきたスレイは、先にギルドへ向かう依頼の達成報告を行おうと思い一歩踏み出したが、すぐに考えを改めて上の方へと足を向ける。
「やっぱり報告は後でいいか」
帰ってきてすぐに報告しろという義務はないがあまりにも遅いと、ギルド側から多少のペナルティーが発生することもあるのだが、多少遅れるくらいは問題ない。
そうと決まれば速く家に帰ろうと街の街道を見ると、帰宅ラッシュにでも当たったかと思うほど人の往来が多く、ならばと空を見上げると街の魔法使いが所狭しと箒で空を飛んでいる。
「うげっ、道も空もいっぱいかよ……にしても、箒か……やっぱりいいよな」
箒やそれに類似した魔道具の存在は知っていたし造ろうと思えばいつでも造れる。それに空を飛ぶだけなら飛行魔法を使えば事足りるので、今までは必要性を感じなかった。
だがこの国に来てからはどうだろう?街のいたるところに魔法があふれ空を飛び交う人たちもよく目にする。一度は必要ないと切り捨ててしまった憧れの心を呼び起こされてしまったスレイは、大いに悩むことになってしまった。
「っと、いかんいかん。思考が変な方へ流れちゃった」
ブンブンッと頭を振って湧き上がっていた物欲を振り払ったスレイは、どうやって家へ帰ろうかと考えてから結局ゲートで帰ることにした。
⚔⚔⚔
家の前に開けると人に迷惑をかけるかもしれないので、少し離れたところにある人気のない路地にゲートを開いた。
路地を抜けて家の前へと向かったスレイは、家の前にこの場に似つかわしくない馬車が止まっているのが見えた。
「アレは確か、魔法師団の馬車だよな……っということは」
馬車から降りてきた二人の姿を見たスレイはげんなりと表情をゆがめた。
魔法師団の馬車から降りてきた二人、一人はスレイの祖父トラヴィス、もう一人は従兄弟であるスペンサーなのだが、あの二人が来るとろくでもないことにしかならない。
出会って数日だと言うのに思わずそう感じてしまったが、ここで足踏みしていては何時までたっても帰れない。覚悟を決めて二人の方へと近づいていく。
「やぁ、おじいちゃん。それにスペンサーさん。昨日ぶりですね」
飄々とした表情で片手を上げながら近づいていくスレイ、その姿を見たトラヴィスは目を見開いたかと思うと一瞬で目の前に飛んで来た。
あんなに走って大丈夫かと心配になっていると、目の前にやってきたトラヴィスがスレイの両肩を掴むとガクガクと揺らし始める。
「スレイ!?お前今の今までどこ行っておったんじゃ!こっちは心配でほうぼうを探し回ったんじゃぞ!?」
「やっ、やめて、頭シェイクされて気持ちワリィ」
「おっ、おぉ……すまぬ」
トラヴィスが慌ててスレイから離れると、ブンブンッと頭を振って切り替える。
「おじいちゃん、そんなに興奮してたら高血圧になって倒れてもしらないよ?」
「そんな柔な鍛え方しとらんわい!」
「血圧なんざ鍛えられないでしょうに………それで何のようなの?」
こんな場所に馬車で乗り付けて、迷惑なので速く帰って欲しいと思いながら訪ねると思い出したかのように
「お前ギルドで黒竜討伐を受けたそうじゃないか!」
「うん。受けたけど、それがどうしたの?」
「どうしたのじゃない!なんて危ない依頼を受けとるんじゃ!」
冒険者が依頼を受けて怒られるなんぞ思わなかったスレイがキョトンっとしている。
「あやつは危険じゃぞ!わしらが討伐隊を編成して倒しに行くことになったんじゃ、早く依頼を取り下げてきなさい」
魔法師団が討伐隊を編成する事態に発展していたのかと思いながら、黒竜のことを思い出して納得していたが実際に手こずりはしたものも、倒せないような相手ではなかった。
スレイはトラヴィスを安心させるために声を掛ける。
「おじいちゃん。心配要らないよ」
「なに言っとんじゃ!ドラゴンの恐ろしさを知らんとは言わせんぞ!そこをわかってるの………か?」
トラヴィスの口調がだんだんと弱々しくなった理由は、スレイが空間収納を開きその中に収納されていた黒竜の首をちょろりと出して見せたからだ。
「おじいちゃんたちが言っているドラゴン、こいつでしょ?」
「あっ、あぁ……お前、それは……」
突然出てきた黒竜の頭を見て固まってしまったトラヴィスと、騒がしくなる魔法師団員を横目にスレイは簡易的ではあったが敬礼をする。
「Bランク冒険者スレイ・アルファスタ以下四名、ブラックドラゴンの討伐を終えたことをお知らせいたします。後ほど冒険者ギルドに赴き完了の報告を行いますが、この場を借りてお知らせすることをお許しください」
一応祖父とはいえこの国の重鎮であるトラヴィスへの報告を終えると、放心状態ではあったものの素直に馬車を引き上げてくれた。
「今度来るときは、できるだけ馬車減らしてねぇ~」
昨日のもそうだったが、今日のように何度も国の馬車が来ると、ご近所付き合いに多大な障害が生まれてしまうことを一回トラヴィスには理解して欲しい。
「後で、ご近所さんに菓子折りでも持っていこう」
これからも迷惑をかけるだろうし、そのお詫びの先渡しみたいなものではあるが気持ちとして渡しておこうとスレイは自分に言い聞かせるように家の中に入る。
家の中に入ったスレイは腰から二本の剣をはずして壁に立てかけると、コートを脱いで手に持ち変える。みんながどこにいるのかを探しているとちょうど二階の階段からリーフが降りてきた。
「スレイ殿、おかえりなさい」
「ただいまリーフ。家の前にボクのおじいちゃんがいたけど、帰ってきたときに合わなかった?」
「お祖父様ですか?いいえ。ですが人の気配が多くなったのは感じていましたが、知りませんでした」
どういうことだと考えたスレイは、そう言えばとトラヴィスがほうぼうを探し回ったと言っていたのを思い出した。
つまりリーフが帰ってきたあとに来たのだろうと納得したスレイは、ふとリーフが持っている桶が目にはいった。
「女の子は大丈夫そう」
「治療と着替えを終えて、今はユフィ殿のお部屋で眠っています」
「そうか、治療はユフィが?」
「ノクト殿もですね。お二人の診察では特に大きな怪我もないようです」
スレイはあの少女が倒れていた時の光景を思い出す。
血だらけではあったものの、ほとんどが返り血で外傷を受けている様子は見受けられなかった。あの2人の診断結果ということで、あとから医者に行く必要もないだろうとスレイが思っていると、リーフが話を続ける。
「ただ一つ問題がありまして」
「問題って?」
「彼女の頭に殴打の跡がありまして、もしかしたら記憶に何らかの障害が残るかもと」
リーフの説明を聞いたスレイは顔をゆがませる。
いくらこの世界に魔法という力があり、地球の現代医療でも難しい治療さえも出来るとは言え限度はある。
加えて記憶や魂の関する部分は不透明なところが多く昨今多くの魔導師が研究を行っているが未だに大部分が未知の領域と言われている。
それ故に記憶や魂に作用する治療などは出来ることは殆どなにもないのだ。
「記憶喪失もあり得る、それが診断結果か………」
「はい。それでどうしますか?」
「目が覚めたらボクに教えて、魔眼を使って本当に記憶がないのか調べてみるよ」
「そんなことができるのですか、その魔眼は?」
「試したことはないけど、記憶は魂との結びつきが強いと言われているから、何かしらは分かるはずだよ」
ぶっつけ本番であるため、分からなかった場合は諦めて欲しいのだがと、つぶやいたところでスレイはある疑問を覚えた。
「ところで、あの娘をどうやって街に入れたの?身分証なんかは持ってるようには見えなかったけど」
「門番の方に事情を説明して、事の経緯を説明したところ一時の入国手形をいただきました」
一時と言うことあとからちゃんとした身分証の発行してもらわないといけないのだが、これはあの女の子の目が覚めない限り行けそうにない。
「なにか手伝えることがあったら言ってよ、男のボクに出来ることは限られてるだろうけど」
「では、その時はお願いします」
リーフが桶の水を替えに行くためにその場を離れ、スレイも一度剣とコートを置きに自分の部屋に戻っていった。
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部屋に戻って汚れた服から部屋着に着替えたスレイは、下に降りると何やら調理場の方が騒がしいと思い足を運ぶと、ユフィたちが集まって何かをしていた。
「みんな、こんなところでなにしてるんだ?」
「あっスレイくん、今あの娘のためにお菓子作ろうと思ったんだけど、何がいいか話し合ってたの」
「目が覚めたの?」
さっきあの女の子が寝かされているというユフィの部屋の前を通ったが、そんな気配は全くなかった。
気の所為だったのかとスレイが思っていると、ノクトが首を横に振って答えた。
「まだですけど、起きたら美味しい物を食べさせてあげたいんですよ」
「あぁ、そういうこと……それで、なにをつくるんだい?」
広げられてるレシピ本を眺めながら訪ねると、ノクトは再び首を横に振ってしまった。
「考えているんですけど、あまり思いつかなくて………」
「スレイ殿はお菓子作りのスペシャリストですから、何か助言をお願いします」
「……スレイのご飯は美味しい、お菓子はもっと美味しい。だから早く作ってね」
「助言はいいけど、作るのも確定ですか」
呆れながらも料理自体は好きなので全く苦にはならない。何がいいかと考えながらエプロンを取り出したスレイは、怪我人へのお見舞いなら消化に良いものがよさそうだと考え、王道ではあったがプリンを作ることにした。
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作ったプリンはそれなりの数があったので、昼食後のデザートとして食べていると上の階から足音が聞こえてきた。
一番に気付いたライアはスレイの方を見ながら問いかけた。
「……起きたみたいだけど、迎えに行く?」
「そうしたほうがいいね」
そう答えたものの、スレイが迎えに行って驚かせてはマズイがかと言ってユフィ達に行かせるのも気が引けた。
あの女の子が今どういう状況なのかはわからないが、仮にも単身で飢餓状態の凶暴な魔物と皆殺しにした実力者だ。仮に錯乱状態に陥っていたら危険だ。
やはりここは自分で行こうかと考え、立ち上がろうとしたスレイをユフィが止める。
「私が行ってくるよ」
「いいの?」
「うん。これでも体術には自信はあるから、何があっても大丈夫!」
笑顔で答えるユフィを見てスレイも分かったと答えてお願いをした。
「……ん。なら私も一緒に行くから、あの娘の分の料理よろしく」
二人が席を立ってすぐにスレイは、あの娘のために用意して置いた分の料理を温め直していると、ユフィとライアが女の子を連れてやってきた。
始めてみたときは魔物の血で汚れて分からなかったが、とってもキレイな濃い藍色の髪をした女の子だった。
「さぁさぁ、こっちに座って、座って!」
ユフィに手を引かれてやってきた青髪の女の子は促されるように空いていた席に座った。
状況が理解できていないのか、魔物に襲われたせいで今だに混乱しているのか、あるいはその両方か、青髪の少女の目には明確な意識の色が見えなかった。
この状態でも大丈夫なのかと、リーフが心配そうに視線を向ける。するとその視線に気づいたらしいスレイがコクリと頷き、青髪の少女が座った席の向かいに座った。
「始めまして、ボクはスレイっていいます。よろしく」
目の前に座ったスレイに話しかけられた少女は、ビクリと肩を震わせて驚いた。
いきなり知らない人に話しかけられたらそういう反応はするだろうと考えたスレイは、致し方がないがこのまま話をすることにした。
「いきなりで悪いけど、いくつか質問に答えてもらいたいんだ。構わないかな?」
「……………」
質問と聞いて不安そうに表情を強張らせた少女は、少しの間を開けてコクリと頷いた。
了承を得たところでスレイは左目の魔眼を発動させ少女の魂を見ると、一瞬表情を強張らせる。
「お兄さん、どうかしました?」
「いいや、なんでもないよ」
心配そうに声をかけてきたノクトに平静を装いながら返したスレイは、改めて少女に質問をする。
「それじゃあまずは君の名前を教えてもらえるかな?」
「なまえ………名前、ですか……わかり、ません」
「そうか。なら、君が倒れる前の記憶はあるかな?」
「たお、れる………ま、え……?」
わからないと表情を曇らせる少女を見て、今度はユフィたちが険しい顔を取っていた。
もしかしたらと予想していたが、想定以上に難しい状況に言葉が出ないでいた。
「住んでいた場所や、なんであそこにいたのかは覚えているかな?」
「……すみません、それも……わかりかね、ます」
「そっか……聞きたいことはこれですべてだよ。ありがとう」
お礼を言ったスレイはユフィの方を見ると、視線の意味を理解したらしいユフィがコクリと頷いて厨房に戻ると、すぐに料理の乗った皿を運んできた。
「さぁ、お腹すいてるでしょ?」
「あ、ありが……とう、ございます」
「ふふふっ、遠慮しないでたくさん食べてねぇ~」
微笑みながらユフィはノクトとライアを手招きで呼び寄せると、二人に一緒にいてあげてほしいとお願いした。
二人は即座に了承して少女の両脇に座った。
「あの、わたしノクトといいます。お隣失礼します」
「……私、ライアよろしく」
「あ、はい……おねがい、いたします」
おずおずと挨拶を返す少女を見ながらスレイは、ユフィとリーフと共に別室へと移動した。
「断言はできないけど記憶が無いのは間違いなさそうだ。嘘もついていないし、何よりあの娘の魂がバラバラだった」
「?バラバラって、どう言うことなの?」
「説明が難しいんだけど、ステンドグラスみたいなんだよ、あの娘の魂……」
魂の形は人それぞれだが、彼女のそれは今までに見たことがないほど歪だった。
割れたガラスを適当に敷き詰めたような、まるでバラバラだが、まるでそれで正しいかのように形が定まっていないと言うのが素直な感想であった。
「魂のことは今は置いておいて、あの娘はどうしますか?」
リーフの話によるとああいった遭難者を保護した場合、役所へ手続きが終わったあとは発見者の一存に任せられるという。
単純な遭難者なら問題はないが、今回のようなケースの場合ばより複雑だ。
「とりあえず、一度ちゃんとした医者の診察を受けさせる必要があるね。役所に申請するにても彼女の状態からして診断書は必要になるから」
幸いにもここはマルグリット魔法国、精神感応系の医療機関も探せばいくらでも見つかる。
改めて専門医の診断を受けてもらってちゃんとした診断書の発行を行ってもらう必要がある。その後は、役所で手続きをして入院させることも考えていると、ユフィがこんな提案をした。
「病院もいいけど、あの娘、家で引き取ろっか」
「それは……自分は構いませんが、スレイ殿はどうです?」
「あの子自身がいいならボクは構わないよ、部屋もあるし」
結局はそこなのでユフィもわかってると答えた。
「とりあえず、あの娘が落ち着いたら病院と役所だね」
「身分証の発行は必須ですからね」
「それとギルドであの娘の捜索願が出てないかも探さないと」
捜索者の依頼は年間に何百件とギルドに届けられると言われている。
その多くは魔物に殺されていたり、盗賊や人さらいによって奴隷にされていると聞くがそれでも探すのは一苦労だ、せめて名前がわかれば変わってくるのだが………と、そう考えたところである問題を思い出した。
「そう言えば、あの子の名前どうなるんだろう?」
「多分ですが仮で我々がつけることになると思いますよ」
「それじゃあ、みんなで決めよっか」
ウキウキとしているユフィを見ながら、なぜそんなに楽しそうなのだろうかとスレイとリーフは思ってしまった。
それから部屋に戻ったスレイたちはあの子の名前を考えることにした。
みんなで話し合った結果、青髪の女の子の名前はラピスに決まり、本人もそれを気に入ったらしくラピスで確定した。
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青髪の少女ラピスの名前が決まると、スレイたちは彼女を連れて治療院へと向かった。
事情を説明し精神鑑定を依頼した結果、スレイたちの診断通り記憶喪失であることが確定した。診断書をもらいその足で役所へと向かい、彼女の状態を伝えて仮の身分証を発行してもらえた。
その際に役人から治療施設での保護を提案されたが、ラピス本人がそれを嫌がり当初の予定通りスレイたちの家で保護することになった。
病院と役所を巡り最後の目的地であるギルドにやってきたスレイたちは、ギルドにラピスのことを伝え依頼書を作製その後、捜索願が出ていないかを調べることにした。
「うぅ~ん。どこにもありませんね」
「そうだねぇ~」
スレイとユフィ、それにリーフの三人はギルドの談話室を借り、机に山のように積まれた書類の束を見ながらうねっていた。
この書類はこの数日で依頼された捜索願の依頼書であった。
特徴的な青髪、十代半ばの少女、スレイたちの同じ冒険者か商人ギルドの関係者、思いつく限りの情報で絞り探してみたが見つかる気配はなかった。
「やっぱり名前が分からないと難しいねぇ~」
「人相書きや特徴で探しても出てきませんでしたし、見つけた場所が場所だから周辺の街で絞ってもらいましたが」
「そんな捜索願は出ていません、だもんね~」
「あの子、魔力持ち出し転移魔法が使えたらと思って国中の依頼書見せてもらったけど失敗だったかな」
もしかしたらスレイたちのように別の国、あるいは別の大陸から来ているのではないかという結論にいたる。そうなった場合、もはや探すのは不可能だ。
「これはもう、ボクたちじゃ無理だね。あとはギルドに任せようか」
「悔しいですが、そうしましょう」
広げていた依頼書を片付けようとしたその時、ユフィはあることを思い出した。
「そう言えば、スレイくん。私たち、ブラックドラゴンの討伐の報告したっけ?」
「あっ、やっべ。さっきなにも言われなかったからすっかり忘れてた」
返すついでに報告を終わらせようと思い、ファイルを抱えて部屋を出る。
談話室を出てカウンターに向かおうとると、ノクトとライアを引き連れたラピスがスレイたちの元へと駆け寄ってきた。
「みなさま!見てください、わたくしのギルドカードです」
先ほどまでの沈んだ表情とは打って変わり、天真爛漫な表情で真新しいギルドカードを見せてくるラピスだった。
元気になったのは言いことだが、なぜラピスまで冒険者になったのか、その理由が知りたかったスレイたちは二人へと説明を求める。
「……さっき、私たちの職業を説明したら、自分もやりたいって」
「いやいや、そこは止めようよ~」
「冒険者は自由なんですから、いいじゃないですか」
「本人が望んでなら構わないのですが………先に相談の一つはしてほしいですね」
「登録したものは仕方がない。とりあえず、受付にこれかえしてついでに依頼の報告に行ってくるよ」
ユフィたちから依頼書の入ったファイルを受け取ると、カウンターに向かって歩いていく。
受付カウンターに書類の束を返したスレイたちは、カウンターに自分達のギルドカードと依頼書のファイルを一緒に提出した。
「こちらの依頼の取り下げですね。ではお預かりしている資金の中から違約金を引かせていただきます」
「あっ、それ違います。達成報告に来たんです」
「はっ!?いや、ですが……その討伐の証拠をお見せいただけますか?」
見せろと言われたが正直に言って困る。あれはここに出せる大きさではない。
「どうしょっか、ここじゃ迷惑かかるよね?」
「でしたら、奥に買い取った魔物の解体用の工房があります。そこでお見せください」
これは長くなりそうだと思いながら、一度みんなに事情を説明してから工房に向かった。
「それではここにお出しください」
言われたのでスレイは空間収納からブラックドラゴンの首を取り出した。首だけでもかなりの大きさで、人一人は確実に丸飲みに出来るが、それを見た全員が目を丸くていた。
あれこれ確認され、討伐が証明されたことで依頼は完了した。
「アルファスタ様、もしよろしければ、こちらのドラゴンを当ギルドに譲ってはいただけませんでしょうか」
「お断りします。それよりも早く依頼の達成確認と預けてるお金返してください」
「そこをなんとか!こちらとしてはそれ相応の代金をお支払いたしますから!」
「うぅ~ん。ちょっとしつこない」
次に瞬間、工房にいた職人たちからも泣いて土下座されることになったが、初めっから売る気がなかったため丁重にお断りしたのだった。
そして、今回の依頼を達成したおかげで、スレイとユフィは念願のAランクへ、ノクトはCランク、リーフとライアがDランクへの昇格審査を受ける資格を手に入れたのだった。




