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山に住まう黒い竜と謎の少女

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 依頼を受けてすぐ、スレイたちは討伐対象である黒竜(ブラックドラゴン)が根城にしているとされる山へと向かっていた。

 移動距離の関係から空から目的地へと向かっていたスレイは、目的の山が見えてきたとこでその麓へと降りそこからは徒歩で探すことにした。

 鬱蒼とする生い茂る山中を歩きながら、討伐対象を探し歩いている最中ライアからスレイへと問いかける。


「……ねぇスレイ。なんで空から行かないの?」

「なんでって、空からじゃ討伐対象に見つかりやすいからね。少し手間だけど安全のためにも徒歩で向かった方が良いんだよ」

「……ふぅ~ん、それで、ドラゴンどこにいるかはわかるの」

「気配をたどれば何とかっと言いたいところけど……ここまで大きな気配だとさすがに迷うことはないだろうね」


 そうスレイが答えるほどに黒竜の気配は大きく、こんな山の中にあってはとてつもなく異質な物だった。

 これだけ大きな気配なら、気配探知が苦手なノクトに先導を任せても討伐目標の居場所にたどり着けると、自信を持って言い切れるほどであった。

 そんな中、ユフィがふとこんなことを言った。


「ねぇみんな。気のせいかと思ってたんだけど、この山、ほかの魔物や生き物なんかの気配がまったくないね」

「あっ、言われてみれば感じませんね」

「……ん。確かに、食べられちゃったのかな?」


 そんなはずはないだろうと思いながらも、恐ろしくなるほどに静かな山中に嫌な予感がしてしまった。そこにリーフか声がかけられる。


「御三方とも、そう怖がらずともちゃんと居ますよ」

「本当ですか?」

「えぇ。ただ、少し気配が弱いのでユフィ殿でもかなり集中しなければ気づけないかもしれませんが」


 ユフィも死霊山へはそれなりに足を運んでいるため、気配察知の技能自体は必須でありスレイやリーフほどではないにしろ、それなりの練度で習得しいる自信はあった。


「むむむっ、なんかちょっとショックかも」


 自身があった故に、リーフに集中が足りないと言われてユフィがむむむっとうねりながら集中して気配を探ってみせると、リーフが言うように弱々しい気配があるのを確認できた。


「あぁ~ホントだ。いるね」

「えっ、ユフィお姉さんも感じ取ったんですか!?」

「……ユフィ、すごい。ノクトは、ダメダメ。プププッ」

「ライアさん、喧嘩売ってるんですか?」


 わざとらしいライアの笑いに対してこめかみに青筋を立てて怒りをあらわにするノクト、二人の少女が取っ組み合いのじゃれ合いを始めてしまった。

 取っ組み合いをする少女二人を置いて、スレイたちは黙って先に行くことにする。


「遊んでる二人は置いといて、この状況は思っていた以上に切迫しているかもね」

「うん。今のこの感じだと持って数日、早ければ今日ま明日にでもって感じだよね」

「魔物による集団暴走……スタンピードの危険ですか」


 魔物による集団暴走(スタンピード)とは、その言葉通り魔物の大群が暴れ回って起きる自然災害の一種のことだ。

 これは冒険者だけでなく、一般的にも広がっている現象でありある一定の条件下で起こる現象であり、大昔の事例ではあったが群れを作る魔物の中で強化種が現れ、幾つもの村や町が襲われ多数の死者を出した。

 この事件はかなり特殊な事例であり、スタンピードが最も起こるとされているのは飢饉に陥ったときとされている。


「なんにせよ、急いでドラゴンを討伐しなくちゃいけないわけだけど……二人とも、いい加減にしないと置いてくよ」


 振り返りながら未だにじゃれ合っている二人に声を掛けるのだった。


 ⚔⚔⚔


 山中を歩いてしばらく、スレイたちは少し開けた場所で討伐対象を発見した。

 切りだった崖と草木が生い茂る草原にその巨体を横たえた黒竜は、巨大な身体を丸めて眠りについている。

 目測ではあるものの、眠る黒竜の大きさは竜化した幼竜よりも小さい十数メートルと言ったところだが、身体が小さいからといって弱いとは思えない。

 この距離になってより分かる。あの竜は早く倒さなければ危険だ。


 竜の眠る場所から少し離れた崖の上、生い茂る木々を隠れ蓑にして様子をうかがっていたライアは、もっとよく見ようと身を乗り出そうとする。


「ライアちゃん。あんまり身を乗り出さないでね、結界から出るとすぐにバレちゃうから」

「……ん。ごめん」


 ユフィから注意を受けたライアは、自分の足元に描かれた魔法陣を見ながらコクリと頷いた。

 ドラゴンと言う生き物は気配に敏感で、僅かな物音や微かな体臭や血の匂いでも勘付かれる可能性があった。そのため、ユフィに頼んで消臭と消音の魔術を全員に施し、ダメ押しとばかりに気配遮断と風景を偽装する結界まで張っているのだ。


「さて、討伐対象は見つかったわけだけど、どうやって倒すかな」

「手としては竜の逆鱗を狙うでしょうか?」

「……ゲキリン」

「竜の弱点だよ。鱗の中で一枚だけ逆さの鱗があって、それを貫かれるとどんな竜でも殺せるっていう話だけど、あれを相手しながらそれを狙うのは難しいだろうね」


 相手があの黒竜でなければ取れる手かもしれないが、アレには奇襲をかけても無理だろうと誰もが思った。

 仮にスレイが持つ七丁の魔道銃の中でも、最速を誇る狙撃型魔道銃 アトリアを使えば逆鱗を狙えるかもしれないが、アトリアを扱える人間は現状スレイとユフィに限られる。

 前衛と後衛の要である二人が抜けてまで取る策ではない。


 結局、黒竜に対して有効な闘い方を見つけることなどできず、いつもどおりの立ち回りをすることで落ち着いた。

 スレイ、リーフ、ライアの三人が前衛として黒竜を攻撃し、合間合間でユフィがシェルを使った援護と守りを担当、ノクトは前衛三人への補助魔法と回復を行う。

 そしてブレスに対してだが、こればかりは守る手立てが殆ど無いため、ブレスが撃たれそうになったら即座に回避に徹することで確定した。


「後厄介なのは、あの翼でしょうか」

「うん。飛竜相手に、空中戦だけは避けたいか空に逃げようとした段階で即座に翼をつぶしに行こう」

「狙えたら私でやるけど、シェルが使えなくなるからあまり期待しないでね~」

「……シェル、使えないの?なんで?」

「それはね、私のシェルって小さいからと簡単に吹き飛ばされちゃうの」


 もっと言えば壊れやすと説明すると、ライアは納得したように頷いていた。


 ある程度作戦が決まったところでスレイは黒竜の様子を確認すると、眠っていたはずの黒竜が起き上がりノソっと歩き始めてしまった。


「まずい、黒竜が動き出した」


 黒竜が移動しようとするのを見てスレイは黒と白の剣を抜き放つと、遅れてリーフも翡翠を抜くと全身の闘気をまとった。


「ボクが正面からあいつを引きつける。リーフとライアは左右から攻撃、弱らせて一気に仕留めるよ」

「了解です!」

「……ん」

「行くよッ!」


 結界を解くと同時に崖下へと飛び降りたスレイは身を翻しながら崖を蹴ると、踏みしめた足場が音を立てて割れた。


「グアッ?」


 首を上げこちらに顔を向けた黒竜は、壁を蹴って飛んでくるスレイをはたき落とすべく腕を振り上げる。そして、タイミングを併せて、その鋭い爪を振り下ろした。

 これで終わると、黒竜は今まで散々殺してきた人間と同じように殺すべくその爪を振るった。

 次の瞬間、振り抜いたはずの竜の爪には何かを引き裂く感覚は伝わってこず、黒竜の眼前には嵐を纏った剣を掲げるスレイの姿が映された。


「甘いんだよ───暴風(テンペスター)()連撃(ブレイザー)ッ!」


 黒と白、二振りの剣に纏った闘気と暴風の嵐、二つの力が振り抜かれると同時に解放され黒竜の肉体を斬りつける。

 右からの斬り落としから左の斬り上げ、さらに上下同時の斬り下ろしと斬り上げと、左右の剣を交互に操って放たれる斬撃と暴風による斬りつけを受けて黒竜がわずかに下がった。

 最後に黒の剣による渾身の切り落とし与えたスレイだったが、剣から伝わってくる手応えに顔をしかめる。


「アレだけやって手応えなしかよ」


 集中して攻撃を与えたにも関わらず黒竜の鱗には傷一つ付いていない。

 ギラリと黒竜と目が合ったのを見て、スレイは即座に足場にシールドを張って背面跳びの要領で後ろに跳ぶと、今までスレインがいた場所に黒竜の爪が振るわれた。


「危ねぇな!」


 気付くのがあと一歩遅かったら串刺しになっていたなと思いながら、空中で逆さになったところで白の剣に雷撃の魔力を纏うと、身体を捻りながら剣を振るう。


「これならどうだッ!──雷鳴の一閃ッ!」


 鳴り響く雷鳴と共に放たれた白雷が黒竜の横顔を切り裂くも、わずかにその横顔を焦がす程度にとどまった。

 距離を開けて地面に着地したスレイは、二振りの剣を構えてたたずんだ。


「あぁ~ぁ。わかってたけど、アレでもダメか……なら、こっちだな」


 呼吸を整え黒と白の剣に業火の炎をまとったスレイが駆け抜ける。

 黒竜は向かってくるスレイを押しつぶすべく頭上から手を振り下ろした。ドンッと音を立てて地面が割れるが、スレイや既のところで横に飛んで回避しさらに接近する。


「グシャッ!」


 スッと鋭い爪を真横から降ってスレイを切り裂こうとするも、直前に真上に飛んでかわすとさらに黒竜の腕を蹴って上へと飛び上がった。

 飛び上がったスレイを目で追うように黒竜が顔を上げ、口を開こうとした。


「おい、こっちばっかり見てたら危ないぞ」


 ニヤリと釣り上げられたスレイの表情を見て黒竜の視線が動いたかと思えば、自分の足元に気配が近づいてくるのに気がついた。

 スレイの攻撃に気を取られた隙に、リーフとライアが左右から攻撃を仕掛ける。


「行きますよ、ライア殿!」


 駆けながら翡翠に闘気を流し半身になりながら翡翠を引き気味に構えたリーフは、反対側から駆け抜けるライアに声を掛ける。


「……ん!任せて!」


 同じように駆けるライアは両手を腰の位置に落として引き絞ると、はめられたガントレットに埋め込まれた魔石から炎をあふれさせる。


 同時に地面を蹴って間合いに入ると、二人は技を放った。


「───秘技・蒼波華月・偽!」

「───ファイアー・ナックル!」


 振るわれた翡翠と振り抜かれた炎をあとった拳、二人が同時に技を放った。

 一刀と共に闘気によって形作られた無数の刃が黒竜の足を斬りつけ、逆側からは炎を纏った拳が同時に突きつけられる。

 ガクンと両足に受けた衝撃によって黒竜の身体が傾くと、真上に飛び上がったスレイが業火を纏った黒の剣を振り抜いた。


「これならどうだッ!───業火の閃撃ッ!」


 斬ッと振り抜かれた黒い剣が黒竜の顔を斬りつけた。


「グゥォオオオオオォォォォォォ―――――――ッ!?」


 三人の同時攻撃を加えて、ようやく明確な傷を与えることができた。


「ハッ、どうだッ!」


 空中から落ちていくスレイは傾いて倒れていく黒竜の姿を見て声を上げたが、その瞬間ギランっと目の色を変えた黒竜は身体を捻って尻尾を振るった。

 鞭のようにしなる黒竜の尻尾はスレイの身体を真横から叩くと、直撃を受けたスレイがそのまま壁へと叩きつけられる。


「スレイ殿ッ!」

「……ッ、リーフ!危ないッ!!」


 スレイに気を取られてしまったリーフがライアの声でハッとすると、直ぐ側まで迫った黒竜の腕を前にして顔をしかめる。

 回避が間に合わない、ならばと盾を構えてシールドを展開しようとした。


「任せてッ!───ロック・ピラーッ!」


 声とともに黒竜の腹部の下辺りが光ったかと思うと、突如として地面から石柱が伸びて黒竜の身体を上へと押し上げ、振り抜かれようとした黒竜の腕は当たらずに済んだ。


 助かったリーフは声がしたほう見ると、杖を構えたユフィと目が合った。


「助かりましたユフィ殿!」

「なんの、なんの!それよりドンドン行くよ!ノクトちゃん。二人に補助魔法!」

「ハイッ!───ブースト・アクセル!」


 ユフィの隣に並んだノクトが杖を掲げると、宝珠より放たれた光りが二股に分かれてリーフとライアに降り注ぐ。

 魔法をかけられた二人は、身体の底から湧き上がる力に感謝し、石の柱を破壊した黒竜の元へとかける


「ハァアアアアァァァァッ!」

「……ィイヤァアアアアァァァッ!!」


 補助魔法を受けたリーフの斬撃が鋭さを増し黒竜の鱗を切り裂き、重く力強いライアの拳が黒竜の鱗を穿ち割る。

 二人の攻撃を受けて苦悶の声を上げる黒竜、その隙にシェルの配置を終えたユフィは杖へと魔力を溜めそして魔法を放った。


「二人とも魔法行くよッ!───シャイニング・レイッ!」


 杖を媒体に接続された無数の小型シェルにより、いたるところに魔法陣が展開されると光の雨が矢のように降り注いだ。

 光の矢によって射抜かれた黒竜は身を捩って暴れ出すとリーフたちが一斉に距離を取った。光の雨が止むと同時に、黒竜は大きく口を開くと魔法陣が展開される。

 アレは何かとライアが目を細める中、焦ったようなユフィの声が響く。


「みんな退避ッ!ブレスが来るよッ!」


 ユフィの指示を受けてリーフたちが踵を返して、一斉にユフィたちの方へと下がろうとするが間に合わない。

 黒竜の口内で溢れ出す炎が収縮し炸裂しようとする最中、後ろへと下がろうとするリーフたちの横を誰かが過ぎ去っていく。

 ズドーンッと地を揺るがすほどの爆発が起きるも、ユフィたちはブレスの過ぎ去った空をみていた。


「いま、ブレスがそれました?」


 唖然としながら呟いたノクトの言葉にユフィは首を横に振った。


「ブレスが放たれた瞬間に、誰かさんが黒竜の頭を蹴り上げてたのを見たよ」

「誰かさんって……あっ」


 いったい誰がと思ったノクトはすぐにその姿を見つけて小さく微笑んだ。


 ⚔⚔⚔


 黒竜に弾き飛ばされて岩壁の中で生き埋めになっていたスレイは、いつまでたっても助けがこないのを見ると、諦めて自分の力で脱出した。


「アレは、まずいな」


 壁から抜け出したスレイが見たのはブレスを放とうとする黒竜と、急いでその場から離れようとするリーフとライアの姿だった。

 ユフィたちとは距離が離れている。このままでは間に合わない、そう思ったスレイは全身に魔力と闘気を纏い、さらには竜力を巡らせて肉体を変化させる。

 ダンッと壁を蹴って一気に距離を詰めたスレイは、ブレスが放とうとした黒竜の頭を下から上へと蹴り上げた。


「間に合った!」


 射線をそらされたブレスは上空へと放たれ、雲を引き裂いた。


「グルルルルルッ!」


 ブレスをずらされて怒りを覚えたのか、スレイを睨む黒竜の目に殺意が宿る。

 剣を構え直したスレイのもとに、後ろに下がっていたリーフが駆け寄ってくる。


「スレイ殿!ご無事で?」

「うん。ちょっと埋まって抜け出すのに時間がかかったけど」

「アレに叩かれて、それだけなんですね」


 引きつった笑みを浮かべながら翡翠を構えたリーフは、黒竜や自分たちの周りを注視し辺りを漂っていたシェルがどこにもないことを確認する。

 戦闘前にユフィが言ってたようにブレスで吹き飛んだのだろう。再配備には時間がかかるだろうし、援護は見込めない。


「リーフ、行ける?」

「えぇ。問題ありません」

「ならさっきと同じように」

「了解です!」


 先手を取るように駆け出したスレイは先ほどまでよりも速いが、黒竜は鋭い爪でスレイを引き裂こうと振る。


「そう何度も、同じ手が利くと思うなよ」


 炎を纏った剣で黒竜の爪を迎え撃つ。

 振り抜かれたスレイの剣が黒竜の指を斬り落とす。


「悪いなこの状態のボクが、さっきまでとは違うぞ」


 いらりと睨みつけるスレイの目を見て黒竜が後ろに下がろうとしたその瞬間、スレイは伸ばされた竜の掌に突き立て駆け抜ける。


「ハァアアアァァァッ!」

「ギュォオオオオォォォォン!?」


 二枚に斬り裂かれ倒れる腕を肘から下で切り落とすとさらに連撃を仕掛けようとしたが、黒竜はそれよりも早く後ろに下がって攻撃をかわした。


「……逃さない」


 後ろへと飛んだその場所には、すでにライアが待ち構えていた。

 黒竜はライアへと向かって尻尾を降って、叩き払いのけようとしたがその合間に入ったリーフの盾がそれを押し留める。


「今です、ライア殿!」

「……ん!」


 リーフが守りそのうちに前に出たライアは、握りしめた拳を解き鉤爪のように指を広げると、それを合図にしたのか指の合間に風の魔力と紫電が纏った。


「……行くッ───風爪激・紫電!」


 大きく振りかぶった両腕を交差させるように振り下ろすと、雷撃を纏った風の刃が格子状に放たれ黒竜の身体を斬り裂いた。

 黒竜の叫び声が響くと、その口に小さな魔法陣が展開される。まずいとスレイが動くよりも早く打ち出さればブレスは、空中で弾け地面へと降り注ぐ。


「うわぁああああっ!?」

「きゃあああああっ!?」


 無差別に放たれたブレスの散弾を受けてスレイたちの悲鳴ががる。


「みんな無事か!」

「はい!」

「……ん!なんとか」


 分散したことにより威力が落ち狙いも定まらなかったのか、誰も被害がなく安心したその時突如として吹き荒れる突風がスレイ達を襲った。


「っ、まっ……まずい!」


 バサバサッと翼を羽ばたかせる黒龍を見てスレイの表情が一気に険しくなる。

 空に逃げられればこちらが不利だ。


「ボクたちがあいつを落とす!リーフ、盾を構えてボクをうえに放り投げて!」

「了解ですッ!」


 黒竜に背を向けて盾を構えたリーフに向かって走り出したスレイが地面を蹴って飛び上がると、リーフの盾に足をかけると闘気で強化した筋力を駆使して上へと押し上げる。


「行ってくださいッ!!」


 放り投げられたスレイは空中で翼を広げて速度を上げながら、黒い剣に業火の炎を纏いながら大きく引き絞る。


「行くぞッ───業火の突撃ッ!」


 突き立てられた黒い剣の切っ先が黒竜の翼に大穴を開ける。


「ギュォオオオオオオォォォォォォン!?」


 羽に穴を開けられた黒竜の身体が傾くと、突き抜けたスレイは空中で身を翻した。


「やっぱり、穴一つじゃ落ちないよね……」


 翼を広げて上を取ったスレイはこのまま斬りかかろうとしたその時、下からリーフが駆け上がってくるのが見えた。


「自分がやります!」


 闘気の足場を使い上へと駆け上がってくるリーフを見て黒竜が爪で引き裂こうとするも、すれ違いざまに上へと飛び上がり攻撃をかわし背後を取る。

 翡翠を大きく引き絞るとリーフはその方針にに闘気を流すと、深緑の刀身が闘気を集めて輝いた。


「行きます──秘技・煌刃連双撃ッ!」


 闘気を纏った翡翠の刀身が二度輝くと、黒龍の翼が切り落とされその巨体が地面に落ちる。


 片腕を失い空を飛ぶ失い、魔物の頂点であるはずの竜が無様にも地に伏せた。


「グゥォオオオオオォォォォォォ―――――ッ!!」


 黒竜が地に伏せながら口を開きブレスを放ったが、撃ち出されたブレスは何かにかき消されてしまう。


 黒竜のブレスを防いだのは三対の空に浮かぶ盾であった。


「ガンナーシェル・シールドモード!簡単に破れるとは思わないでね」


 ユフィの操る空飛ぶ盾がブレスを防いだ隙に、下へ通りていったリーフが黒竜の目を潰した。


「ライア殿!」

「……んッ!」


 地面に着地したリーフが声を叫ぶと、炎を纏った拳を握りしめたライアが黒竜の片足を殴り降りその身体を傾けた瞬間、空から落ちていくスレイが駆け抜ける。


「決める──業火の閃撃ッ!」


 振り抜かれた炎の一閃が黒竜の首を切り落とした。


 ⚔⚔⚔


 黒竜の討伐を終え、黒竜を片付けと巣の捜索を行っていた。

 今スレイたちはブラックドラゴンが巣にしていた場所の散策をして、商人の馬車を襲って捕ってきたであろう金銀財宝を回収し、他には襲われた人の亡骸はないかと思い捜索をしていた。

 もしも亡骸を見つけた場合は丁重に弔い、家族の元に返してあげたいが見つけることは出来ず捜索を打ち切ることにした。

 その途中、スレイはあることを思い出した。


「そう言えば、リーフの使った技、あれはどうしたの?」


 今まで一緒に旅をしていて、リーフがあんな技を使っているのをみたことがない。


「あれは、フリードお義父様に教わったんですよ。鍛練に付き合ってくれたお礼と言ってました」

「父さんの技か……ボクには一個も教えてくれなかったけど、もしかして剣を使う娘が出来て喜んでんのか?」


 ミーニャもリーシャも剣ではなく魔法を使っているので、意外とそれが合っているかもしれないっと思っていた。


「……ねぇ、父から習ってないならスレイの技は誰に習ったの?」

「ん?ボクが自分で考えた」

「お兄さんって、お師匠さんがいらしたんですよね。その方から教わらなかったんですか?」

「師匠の技か……教わったけど、あの技はボクには無理だよ。うん。あれを習得できるとは思えん」

「いったいどんなのを見せられたの?」


 スレイが難しい顔をしながらそう答えると、話を聞いていたユフィたちはスレイの師匠がいったいどんな技を使っていたのか──ユフィもルクレイツアとの面識はあるが、戦っているところは見たことはない──知らないので、スレイに聞いてみようとした。


「あれは、口で言うよりも見た方が早いんだ。旅をしてれば師匠にも会う機会もあると思うし、そのとき見せてもらえばいいよ」


 そういう言っているスレイだが、全く眼は笑っていない。逆に表情は暗い色が刺している。

 これ以上この話をするのはスレイの精神衛生上かなり悪いので、金品の回収もあらかた終わったので街に帰って癒してあげよう、そう決めながら帰ろうとしたみんなだったが、突然スレイとライアがバッと顔をあげて周りを伺いだした。

 まさか、まだなにかいるのか、そう思ったユフィたちが周りの警戒を強める。


「なにかいるんですか」

「いや、魔物じゃない。この気配は……人か?」

「……ん。でもこんな山の中に一人だけっておかしい」


 そもそもなぜこんな山に人がいるのか、なぜ一人だけでいるのか、そんな疑問を頭の中で考えながらドラゴンは倒したといえ一人で魔物のはびこる山にいるのは危ないので、全員でその人の方に行くことになったが、距離がかなりあったので少し急ぎ足で行くことになった。


「しかし、スレイくんもライアちゃんもこんな遠くでよく気配がわかったね?」

「ドラゴンと戦ってるときに感覚鋭くしてたから、今も少し気を張ってないとうるさくてさ」

「……私もたまにある。今はそれほどでもないけど」

「大変なんですね」


 ノクトの同情ともとれる目を横目に、スレイとライアは笑いかけながら走っていき、人の気配のあった場所にたどり着いたスレイたちが見たのはとてもあり得ない光景だった。


「なんだ……これは」


 スレイたちの目の前に広がっているのは、元の形が分からなくなるほど切り刻まれた無数の魔物の亡骸、地面すべてを赤く染める真っ赤な血溜りと魔物の臓物、そしてその中心で横になって倒れているのは血に濡れた少女だった。

 地獄の一角にでもいるような感覚を感じながら、スレイたちは倒れている少女に駆け寄ったが、これだけの血の量だ。いつ魔物が出てきてもおかしくない状況なので気抜けない。スレイたちは武器を構えて少女の周りを取り囲み、ノクトが治療をしている。


「ノクト、その子の容態は」

「気を失ってるだけだと思いますが、ここではなんとも言えません」

「わかった。ゲート開くから、先に家に戻っててくれ」


 ゲート開くとユフィたちを先にいかせると、スレイは血黙りの出来ている場所を見回していた。


「血も乾ききっていないから、そんなに時間は経ってないみたいだけどどうやってここまで」


 魔物の死骸を確認すると、切り口からするとかなり鋭い刃で切りつけたらしいが、あの女の子はなにも持っていなかったので、荷物でもあれば回収しておきたかったがなにも見つけられなかった。


「あっ、これか」


 血黙りの外に落ちていた二本のナイフを手に取ったスレイは、それ以外にはなにも落ちていないので探すのをやめて帰ることにした。



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