厄介ごとがやって来る
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昨夜、ユフィとリーフに対して弱音を吐き泣いてしまったスレイは、その前にヤっていた疲れも合間ってか三人揃ってリビングのソファーで眠りこけてしまった。
そこでソファーで朝を迎えたのだが、部屋から起きてきたノクトとライアが二人だけ朝からほったらかしにされたことを怒っていたらしく、顔は笑っているのに纏っている雰囲気が全く笑ってはいなかった。
まぁ、そう思われても仕方がないことをしてしまったスレイは、甘んじてその怒りを一身に受ける覚悟を決めると、正座で二人の前に座ると昨日の夜中に合ったことについて説明していた。
正直、妹と同じ歳の二人に良い歳して泣いた話しなどはしたくはないスレイだったが、昨日の夜に二人から言われた通り、言葉にしなければならないこともある。
すべてを話し終えると、ノクトとライアがそっと左右から優しく抱き締めてきた。
「……スレイはずっと頑張った。偉い偉い」
「お兄さん。無理はしないでください。ここにはわたしたちがいますから」
優しい言葉をかけられたスレイは、もう一度泣きそうになったがその場はなんとかこらえていると、ユフィとリーフが朝食が出来たと呼びに来たので、ノクトとライアを連れて朝食を食べに行った。
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朝食を終えたスレイたちは予定通り朝から家の家具を買いに出かけようかとも思ったが、みんな昨日いろいろあったこともあり、出かけるなら昼からにしようと言うことになった。
午前中はのんびりしようと言うことが決定し、スレイはリビングのソファーでのんびりと本を読み、ユフィとノクトはちょうど良い機会なのでポーションのストックを作るためにと作業部屋へ、リーフはライアと文字の勉強をしようと部屋に籠った。
そんな感じで時間まで各々の時間を過ごしているスレイたちだったが、毎度のお約束のようにその平穏が崩れ去ったのはちょうど昼に差し掛かろうとしているときであった。
ふと時間が気になったスレイが読んでいた本を伏せ壁にかけられている時計を見ると、時間は午前十一時を少し過ぎたと頃だった。
「ふはぁ~、そろそろ昼か………どうするかな」
食べに行くにしろ作るにしろみんなの意見を聞くためユフィたちの部屋を巡るべく廊下に出る。
「うん?」
廊下に出たスレイは、窓の外から何やら見られているような気配を感じ取る。
始めは気のせいかと思ったが、一度気になってしまったスレイは相手に気取られないよう、当初の目的通り廊下を出て階段の方へと向かう。
途中、感じた違和感の生涯を確かめるために竜力を解放して感覚を研ぎ澄ますと、家の周りをうかがう気配がいくつもあった。
「ハッ、どこのどいつだよ。こんなことをする奴は?」
明らかに中にいるスレイたちを見張っている様子だが、こんなことをされる心当たりが無い………わけでもないのだが、取り囲んでいる中に問題を起こした相手の気配はない。
では、今この家の周りを取りかき込んでいるのはいったいどこの誰なのか、スレイには皆目見当がつかなかった。
階段を上がり、当初の目的と違い自分の部屋に戻ったスレイは、読み終わったを本を本棚に戻すと別の本を抜き取り椅子に腰を下ろして読むふりをする。
「試験会場にいた奴らじゃないし、何処か別の場所で因縁つけられたか?」
この大陸で身に覚えがあるとすればヴェーチェア王国での一件だが、あれはすでに解決済み。もしもあの場の残党がいたとしても、スレイたちを追ってこの国に来る。ましてや、この家を突き止めるなど不可能だ。
スレイたちがこの国にやってきたのは昨日のこと、この家を購入した事もクレイアルラとミーニャにしか伝えていない。
後知っているとすれば土地を紹介してくれたギルドの職員くらいだが、それもないだろう。
「見張りを立ててるところを見るに、ボクたちが中にいることはバレてるな……サーチ系か、魔力視かはわからないけど下手な動きでもしたら、即乗り込んでくるかもな」
冗談じみた独り言を口にしながらスレイは今この場を取り囲んで入る人物について改めて考えを巡らせる。
ここにきて喧嘩をふっかけてきた相手でないとすると、残された選択肢は自ずと限られてくる。
「昨日受け取った王宮への登城令……無視しようかと思ってたけど、その迎えって訳じゃないよな?」
なんとなく嫌な予感がしたスレイは読んでいた本から目を外し、周りの気配を探り覚えのある気配がないかを確認すると、見事にスレイの予感は当たっていた。
「はぁ~面倒くさくな」
深いため息をついたスレイは懐よりプレートを取り出すと、一斉にみんなに向けて音声のみでの通信をつなげる。
「みんな、聞こえてる?」
スレイがプレートに向かって声を掛けると、すぐに向こう側の声が聞こえてきた。
『はいはぁ~い!どうしたのぉ~』
『どうされたのですか、家の中で通信なんて』
返事が返ってきたのはユフィとリーフから、ノクトとライアも一緒にいるはずだろう。
「確認だけど、ノクトとライアはまだ一緒にいる?」
『はい。いますよ』
『……ん。どうかしたの?』
「話を聞いてもらいたかったから確認しただけ……とりあえず用件だけ言うけど、多分国からの呼び出しが来たみたい」
『『『『………………………はぁ?』』』』
たっぷりと間を開けてユフィたちの口から漏れ出たのがその一言だった。
続いてユフィたちから一斉にどういうことだの、何をやらかしたのだの質問攻めを受けたスレイは、みんなが一通り言い終わるのを待ってから説明を始める。
「みんながボクに何を思ってるかよく分かったところで、ユフィ。昨日夜にボクが話したことを覚えてるかな?」
『えぇっと……あぁ、そう言えばおじいちゃんがどうのって話?』
「そう、それ」
昨日、夕食の後ユフィにだけは祖父と名乗った魔法使いの老人とのやり取りを話しておいた。
あくまでも念の為だったが、まさか翌日にこんな事になるのならみんなともちゃんと情報交換をしておけば良かったと、スレイは悔やんだ。
「ユフィには話したんだけど、どうやらこの国の王様がボクに会いたいそうでね。昨日の買い物の途中に手紙を受け取ったんだよ」
『国王からの召集、そのためだけに家を取り囲むとは………スレイ殿、何かやらかしましたか?』
「一応、不審者だと思って使いでやってきた魔法使いたちに剣を抜きました」
『やると思いましたよ……お兄さん、逃げられるともで思われているんじゃないですか』
「そうだろうね。正直、めんどくだから逃げるつもりまんまんだったし」
『逃げる、逃げられないよりも、ちゃんと行って上げたほうが良いよ。王様に楯突いてこの国を追い出されちゃったら、依頼どころじゃないからね』
『……ん。それに、逃げられないと思う』
ユフィたちから次々に投げかけられる言葉にスレイは覚悟を決めることにする。
「仕方ないか……国からか追い出されてもアレだから行ってくるよ。あっ、ユフィ。預けてるコート返して」
『うん。オッケー!後で取りに来て』
通信を切り読みかけの本を閉じて本棚に戻したスレイは壁に掛けていた黒と白の剣を手に取ると、明かりを消して部屋を出る。
部屋を出たスレイは作業をしているはずのユフィの部屋に訪れ、部屋の扉をノックしようとしたがそれよりも早く扉が開かれた。
「はいはぁ~い。待ってたよスレイくん」
「まさか、待ち構えてたの?」
「私、そんなに暇じゃないよぉ~───はい、これ」
ユフィが差し出してきたのは、没収されていたスレイの黒いコートだ。
ありがとうとお礼を言いながら受け取ったスレイは、コートに袖を通すと前を閉じて剣帯を巻くと、左腰と腰の背面に黒と白の剣を刺した。
「魔道銃はいいの?」
「今メンテ中。依頼に行くわけじゃないからこれで十分」
「いや、王城に行くのに剣を指してるのはおかしいと思うんですけど……」
扉の奥からノクトのもっともらしいツッコミが聞こえてきたが、スレイとユフィは軽くスルーした。
「じゃあ、行ってくる」
「はぁ~い、行ってらっしゃぁ~い!」
見送るユフィに手を振りながらその場を離れたスレイは、その足で家の外へと出る。
昨日はちゃんと見ることが出来なかったが、庭はしっかりと手入れがされていて庭の端には花壇や菜園を作って花や薬草を育てるのもいいかもしれない。
なんて、現実逃避をしながらスレイは庭を抜け門扉を開けてくぐると、どこからともなく人が集まりスレイを取り囲んだ。
「おやおや、これはまた壮観ですね」
取り囲んだのは見覚えのある同じ意匠のローブを身にまとった魔法使いだ。
昨日合った魔法使いの一団とはまた違い、茶色や黄色のローブが目立つが一目で上位の魔法使いだと思われる集団がスレイを取り囲み敵意を向けている。
スレイはどうしたものかと考える。
「スレイ・アルファスタだな。国王陛下からの勅命である。大人しく我々に同行してもらおうか」
一人前に出た魔法使いを見ながらスレイは精一杯の笑顔で応える。
「嫌だって言ったら、力ずくでも………とか言いませんよね?」
「それはあなたの出方次第、戸でも言っておこうか。こちらは連れてこいと言われただけで、どのような姿で連れてくるかは指定されていない」
話をしていた魔法使いが手を挙げると、取り囲んでいた魔法使いが一斉に杖を抜いた。
握られている杖はコンパクトなタクトタイプ、小型な杖のため使える宝珠は小さく耐久値は低い。素材にもよるが練習用で使われるような杖を使うあたり、かなり舐められているようだ。
ふぅ~ッと息を吐いたスレイは、黒と白の剣に手をかける。
「先に武器を抜いたのはそっちです。多少反撃しても構いませんね」
剣を抜くのが速いか魔法を打つのが速いか、緊張する空気が流れる中スレイと魔法使いたちが睨み合っていると、突然スレイたちを止めるように声がかけられた。
「お主ら、止めぬかッ!!」
響き渡る老人の声に魔法使いたちは動きを止め、スレイも剣を握る手を離し構えを説いた。
声がした方を見ると灰色のローブを着た見覚えのある老人と、それに付き従うように年の若い魔法使いが歩み寄ってくる。
「貴様らッ!大事な客人にケガをさせるつもりかッ!!」
「しかし」
「黙らんかッ!……もうよい、お主たちは下がって待機しておれ」
「ハッ!」
老人の一喝でスレイを取り囲んでいた魔法使いたちが下がった。
「スマなんだなスレイ、大丈夫か?」
「お慣れていますのでお気になさらずに。それよりも、この対応はいささかどうかと思いますがね」
こんなことをされたのだから少しくらい遺恨返しを込めてスレイがこんな口を叩くと、それに怒りを顕にしたのは付き従っていた若い魔法使いだった。
「貴様ッ!大叔父上になんて口の利き方をッ!!」
「大叔父上?」
「止めぬか、スペンサー」
スペンサーと呼ばれた若い魔法使いは苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめると、敵意をそのままにしながらも引く選択をした。
「スレイ。すまんが、今だけは儂らについて来てくれぬか?」
「お断りします。っと言ったら、どうしますか?」
「貴様ッ!いい加減にしろよッ!」
一触即発、面白いことになってきたとスレイが笑っていると、老魔法使いの方から大きなため息が漏れ出た。
「スレイ。お主の言い分も分かるが、国王陛下のお呼びだ。これ以上はこちらも相応の手段を取らざるしかないがの」
静かに杖を抜いた老魔法使い、その迫力は確かな実力を感じさせるものがあった。仮に抵抗したとしても無事ではしまなそうだと思ったスレイは、剣を掴んでいた手を完全に離した。
「わかりました。あなた方に付いていきますよ」
「そうか、助かる」
投降の意思を見せたことで杖を納めた老魔法使い、すると再びスペンサーと呼ばれた魔法使いがスレイの前に出た。
「お前、その剣を渡せ」
「嫌です」
「武器を持ったまま陛下のお会いさせるわけにはいかぬのだ!」
これもこの人たちの仕事だ。
仕方ないかと思いながら黒と白の剣をベルトから外したスレイは、スペンサーへと剣を差し出した。
「言っておきますが、この剣ものすごく重いので気をつけてくださいね」
「なに?」
スペンサーが問いかけようとしたのを見計らい持っていた剣を手放したスレイ。すると受け取ったスペンサーは、受け取った剣のあまりの重さに取りこぼしかける。
「なっ、んだッ!これ、はッ!?」
「竜の素材で打たれた剣です。認められない相手には牙を剥いているんでしょうね」
身体強化を使いどうにか踏ん張って剣を持ち上げているスペンサーだったが、明らかに無理をしているのが分かったスレイは剣を取り上げてポーチに仕舞う。
剣をしまったポーチを外すと、それをスペンサーに投げ渡した。
「これでいいですか?」
「あぁ……お前、本当に人か?」
「一応人ですよ……純粋な人間族かと聞かれれば少し怪しいところですね」
目を閉じ両目を竜眼に喧嘩させたスレイは、開かれたその瞳を見て老魔法使いとスペンサーが息を呑んだ。
「お主、その目はッ!?」
「少し前に大怪我負いましてね。治療のために竜の因子を取り込み、竜人に近い身体になりました」
「そう……なのか」
変な勘違いをされたかと思ったが納得したような老魔法使は、スレイを馬車の中へと案内する。
馬車に乗るように促されたスレイは、開かれた扉を見ると乗り合いの馬車よりも豪華な作りに驚きながらスレイが馬車に入り腰を下ろした。
「うわっ、座り心地良いな」
フカフカのソファに驚愕しながら奥へと進むと、老魔法使いとスペンサーも一緒に乗り込んだ。
「おい、出してくれ」
「はっ」
御者に指示を出すと馬車はゆっくりと進んでいく。
「すみません、いくつか質問させてもらっていいですか?」
「あぁ。なんでもいいぞ」
「じゃあまず。いい加減、名前を教えてください。素性も知らない人に孫扱いされていい加減に困ってますよ」
昨日会った時も名前を教えてもらった覚えがない。そのことを思い出した老魔法使いは、バツの悪そうな顔をしてから頭を下げた。
「すまんかったな。改めてわしはトラヴィス・カークランド。お主の母ジュリアの父じゃ。こっちはお主のはとこのスペンサーじゃ」
「なるほど、だから大叔父」
どうでもいいことだと、スレイが聞き流そうとしたその時、正面に座るスペンサーから敵意の声が漏れ出る。
「貴様、大叔父上になんて口の利き方をッ!」
「煩いですね。あなたとは話してませんけど」
「なんだとッ!」
スレイとスペンサー、二人がいがみ合いを始めようとしたその瞬間、二人の間に座る老魔法使い改トラヴィスが一喝した。
「止めぬか馬鹿者ッ!」
スレイとスペンサーが動きを止め、トラヴィスのほうへと振り返った。
「仲良くしろとは言わぬが、喧嘩をするでない!」
「ごめんなさい」
「申し訳ありません」
素直に謝った二人は、ギスギスした雰囲気のまま馬車は進んでいく。
「それで、ボクが呼ばれた理由はなんですか?」
「昨日、お主が受けたローブ試験。あの結果を受けて陛下がお主に興味を持ったんじゃ」
「興味って、ボク以外にも同じ結果を受けた娘は居ましたよ」
「あぁ、あの娘……マリー嬢ちゃんの娘の、ユフィちゃんじゃったな」
「ユフィのことも調べてるんですね……ってか、マリーおばさんのことも知ってるんですか」
「あの子たちは幼なじみじゃからな、話は聞いておる。婚約しておるんじゃろ、おめでとう」
「ありがとう」
そう言えばそんな話を前に聞い覚えがあったが、今でも手紙のやり取りでもしてるのだろう。
「ところで、ユフィはなんで呼ばれなかったんですか?」
「試験場の決壊を破壊したのはお主だけだろ」
そういうことかと思う一方、スレイはあの時のことでこの騒ぎかと、自分の浅はかな行動でこの騒ぎかと反省するのであった。
「話は変わりますけど、母さんってなんでこの国を出たんですか?」
「む。あぁ、それはこの国でいろいろあっての、それは後ほど詳しく聞かせてやるが、いろいろあったんじゃよ。今でもたまに手紙が来るので色々聞いておるよ」
その色々なところが気になると思ったスレイは、こわばった表情で問いかける。
「ボクたちの事情はどこまで?」
「いろいろ聞いておるよ。ユフィちゃん以外にも婚約者が居ることや冒険者になったことなんかもな」
「変な事書いてないですよね」
「書いておらんよ。代わりに、お主らの写真は送られて顔は知っていたよ」
そう言ってトラヴィスは懐から取り出した写真をスレイに見せる。
渡された写真の中には小さい頃のスレイと一緒に遊んでいたであろうユフィ、別の写真にはミーニャの姿も写っていた。最近の物ではリーシャと幼竜の姿があった。
「母さんが写真をよく撮ってた理由がわかったよ」
理由に納得しながらスレイは受け取った写真を返すと、御者からそろそろ到着するという声がかかるのだった。