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ちょっと未来のクリスマス

お待たせしました。クリスマス特別編です。

ですが、読んでいただく前に注意事項を一つ。

本特別編はタイトル通り、本編よりも未来のお話し、本編終了後のストーリーになります。

なので、まだ出ていないキャラが多数出ています。そのためネタバレが苦手な方は読まない方が言いかと思います。

それでも構わないと言う方は、どうかお楽しみください。

 これは本編よりも未来のお話です。


 世界を破壊しようとした神との戦いから数年の時日が経過した。

 その日、白髪の青年スレイと同じく地球から転生し共に神との戦いに身を投じた親友のユキヤの二人は、一週間もの長い時間をかけた依頼から久しぶりに帰宅するべく帰路についていた。


「たっく、あのジジイ。俺たちを便利屋かなにかと勘違いしてんじゃねぇのか?それにだなヒロ、お前もホイホイ頼まれごとをされて引き受けんじゃねぇよ!余計に遅くなっちまったじゃねぇか!」


 怒り狂ったユキヤが隣を歩いていたスレイが、ユキヤの大声を聞いてうるさそうに耳を塞ぎながら引きぎみになりながら謝る。


「もぅ、さっきから何度も謝ってるじゃんごめんって………でもボクらがやらなかったらあの村は魔物の進行で無くなってたかもしれないんだぞ?人助けをしたってことで多目に見てよ」

「チッ、お前は甘いんだよ。だいたいなぁ、そのせいで大事な約束をスッぽかしかけてるってこと、忘れんじゃねぇぞ?もしもあと一日遅れてたらお前の嫁たちが怒ってんじゃねぇのか」

「………………………………………………………………………………」

「おい、何とか言えよヒロ?」


 ユキヤの鋭い言葉と凍てつくような冷たい目付きが突き刺さる。スレイくん、痛いところを突かれてつい視線をそらしてしまった。


「どうでもいいことだが、お前の夫婦の喧嘩を俺の家に持ち込むようなことだけはするなよ?ただでさえアカネとレティシアの悪阻が落ち着いたばっかで、気が許せねぇってのに」


 戦いのあとスレイはユフィたちと、ユキヤはアカネとレティシアそれにスレイの妹のミーニャと結婚し、つい先日、アカネとレティシアが妊娠したことが発覚したはいいのだが、二人とも悪阻が酷すぎてかなり機嫌が悪いらしい。

 そしてスレイの方も同じなのだが、こっちはそれほど心配はない。


「まぁ、家は安定期に入ってるから問題はないんだけど、二人はまだなんだろ?一週間も家を空けて、お前の方が怒られるんじゃないのか?」

「そうかもしれんがお前と違って俺は家を買ったばかりで金がねぇんだよ。だから俺がいない間はお前の家で厄介になってるし、分かってのことだから問題はないだろ?」


 本当にそうなのかは怪しいが、本人たちがいいのならそれでいいかもしれないが、さっきの言葉をそのまま返すなら夫婦喧嘩を我が家に持ち込んでは欲しくない、そう思いながらスレイはマルグリット魔法国の首都リーゼンベルムの入り口へとたどり着いた。


 一週間ぶりに帰ってきたスレイとユキヤはまず始めにギルドに、依頼の達成を伝えるべく寄ったのだがそこでいつものように絡まれた。


「あぁ~?んだてめぇら見ねぇ顔だが新入りか?」

「ちっ、んだよ。こいつは?うぜぇんだが。そこどけデカぶつ邪魔でギルドの中に入れねぇんだよ」

「あぁ?俺様に向かってその口の聞き方はねぇんじゃねぇかガキが!俺様はなぁこのギルド一の冒険者だ。捻り潰されたくなかったら、詫び賃としてその腰の高そうな剣を置いていきな」


 目の前に仁王立ちで立っていた筋肉粒々の男と、いかにも腰巾着っぽい男の二人組がスレイとユキヤの腰にあった黒い剣と白い剣、それに業物の黒刀を見てゲスな顔をしながら言っているのだが、一週間前は確か居なかった冒険者が一週間後に帰ってきたら我が物顔でギルドにいる。

 今にも黒刀を抜いて斬りかかろうとしているユキヤの襟首を捕まえながら、流れるように腕の間接を決めて大人しくさせながら、いつもならば騒がしくなるはずの冒険者仲間の方を見るが、誰も彼もが借りてきた猫のように大人しくしているのを見て、喧嘩して負けたなっと顔見知りたちの態度で察したスレイは、間接を決めていた手を放してユキヤを自由にする。


「取り敢えずやっちゃっていいよ。その間にボクは報告を済ましておくからさ」

「おいてめぇ動くんじゃ──グハッ!?」


 歩き始めたスレイの肩を掴んで止めようとした腰巾着が腹を押さえてうずくまった。もちろんやったのはスレイで、肩を掴もうとしてきた瞬間に、間違っても吹き飛ばさない程度の力で殴って気絶させた。


「なっ!?」

「余所見してんじゃねぇぞ、このデカぶつが」

「────グヘバッ!?」


 余所見をした瞬間にユキヤが男の顔面に拳を叩きつけて──もちろん手加減をして──吹き飛ばすと、どこまで持つかを試すように弱い力で殴り始め、それを横目にスレイは受付のカウンターに歩いていった。


「すみません、ユキヤの奴はボクが適当なところで絞め落としますから、半殺し状態になるであろうあの人の後始末をお願いします。それとこれボクたちが受けていた依頼の達成の確認と、ついでに一ヶ月の休暇申請を二人分お願いしますね。最近働きすぎで年末と年初くらいは嫁たちとの時間を取りたいもので」

「わ、分かりました。では手続きに入りますのでこちらでお待ちを」

「ごめんなさい、時間がないのでまた明日にでも取りにきます」

「アルファスタさん!もうお帰りですか!?」

「えぇ。ちょっと野暮用がありますからね」


 笑顔で答えたスレイは、仲間内で英雄として祭り上げられているユキヤに拳骨を叩き落としてから、ギルドkあら連れて帰ることにしたのだった。


 今年の年末休暇はとれないかもしれない、始めスレイはそう思っていたが、ギルドで起きた厄介ごとを片付けたのが効いたのか、職員の方々は喜んで一ヶ月もの休暇申請を通してくれた。

 一応言っておくが、冒険者にとって休暇などは自由なのだがスレイたちのように高ランクの冒険者ともなると、年末や年初も関係なく指名依頼が来るので事前に話を通しておかなければいけない。今年は遅かったのでもしかしたら年末の休暇が取れないかもしれないと思っていたが、今回の事件は休暇を取れるようになって良かった、そう思いながらスレイは一週間ぶりに帰ってきた家の前でユキヤに声をかけた。


「あのさぁ、どさくさに紛れてユキヤの分の休暇を取ってきてあげたボクのお願いを聞いてもらいたいんですが、よろしいでしょうか?」

「どうせ、桜木たちの機嫌取りを手伝えってことだろ?嫌だよ、嫁たちを連れてさっさと帰る」


 スレイとユキヤがにらみ合いながら家の前で言い合いをしていると、家の扉が開きタッタッタッとそんな音が聞こえてくると、スレイとユキヤがそちらを見ると今まで睨み合っていたのが嘘のように破顔し、門を開けて二人は手を大きく広げた。


「おかえりなさいパパ~!」

「とうさま、お帰りなさいませ。エンジュは寂しかったとお伝えします」


 ポスンっとスレイとユキヤの胸の中に収まったのは、四五歳ほどの少女で二人はそれぞれスレイとユキヤの娘だ。スレイの胸の中にいる白髪に青い目の女の子はレイネシア、ユキヤの胸に収まった赤髪に黒目の少女はエンジュ、二人の出生についてはいろいろと事情があるので今は割合する。


「レネ~。ママたちの言うことしっかり聞いていい子にしてたかぁ~?」

「うん!いっぱい、いぃ~~っぱい!おてつだいして、いいこにしてパパがかえってくるのまってたのぉ~」

「そうかそうか~、レネはいい子だなぁ~」

「だってもうすぐレネもおねーちゃんになるんだから、おねーちゃんはいいこでいないといけないの~」


 なんともだらしない顔をしながらレイネシアを抱き上げて頬ずりをすると、キャッキャッとレイネシアが楽しそうにはしゃぎ声を上げて嬉しそうにしている。

 そんなスレイの横では、いつもの鋭い目付きから一転、こちらもだらしない顔に変わった。


「すまんなエンジュ、父さまがお仕事で寂しかったよな。だが安心しろ、明日からは一ヶ月は休みだ。母さまたちと一緒に遊べなかった分もいっぱい遊ぼうな」

「はい、ととさま!………ですがその、お仕事をしているとうさまもカッコイイですし、大好きです!なのでエンジュはとうさまがいないには寂しいですけど我慢できます」


 寂しそうに、だけど小さな手をギュッと力強く握りしめながらそう告げるエンジュ、明らかに無理をしているのにも関わらず、それを悟らせないために必死に笑顔を作る。そんな健気な娘の姿にユキヤは完全にノックアウトし、そして抱き上げたエンジュの目一杯抱き締めた。

 そして娘に対して激甘な父親二人は一斉に同じ言葉を口にした。


「「はぁ~、家の娘、マジで世界一かわいい!………あぁ?」」


 ほぼ同時に同じ台詞を口にしたスレイとユキヤは、自分の娘を腕に抱き締めながらメンチを切りあった。


「おいおいユキヤくん、君の目は節穴だったのかい?それともだたのガラスの玉でも入れてるのかい?こんなにも愛らしくて、天使のようにかわいいレネを差し置いて世界一は無いんじゃないかな?見てよこの笑顔、この笑顔のさえあれば疲れなんて一瞬で吹き飛ぶ、まさに世界一の娘だろう!」

「それはてめぇの方だろうがヒロ、見ろ!家のエンジュのこの顔!健気にも俺がいないことを寂しいにも関わらず、それを俺に悟らせないために気丈に振る舞うだけでなく、この歳で親の気遣いが出来るなんてまさに世界一の娘だろうが!」


 スレイとユキヤが大声で家の娘が世界一説を大声で披露している。

 たぶん、娘を持った親ならば誰もが思うであろうこの気持ち、そしてそれは同じ娘を持つ親としては絶対に引くに引けないその戦い、なんとしても勝利をしてみせる!そう自分の腕の中に収まっている娘に誓った二人は、大人げなく口論を始めようとしたその時、パシン!っと二人の頭を叩く者が現れた。


「イッた。誰って、アニエス、ラーレどうたの外に出てきて?」


 スレイが叩かれた頭を押さえながら後ろを振り向くと、灰色の髪とその頭に上にピコピコっと動く犬耳が特徴の獣人の少女と、くすんだ銀色の髪に長い耳そして浅黒い肌のダークエルフのような見た目の少女の二人が立っていた。


「どうしたもこうしたも無いわよ?」

「お前らなぁ、言いたいことはいろいろとあるがまずは、そいつらはオレたちに渡せ」


 そういって犬耳少女と男口調のダークエルフの少女が、そんな二人がスレイとユキヤの腕の中からレイネシアとエンジュを奪いさると、あぁ~!?っと声を上げて手を伸ばしかけた二人をキッと睨み付けた。

 針のむしろ状態になってしまったスレイとユキヤは、犬耳の少女アニエスと、ダークエルフの少女れラーレのことを見る。


「あんたたちこんなところで何やってんのよ!二人が風を引いたらどうする気よ!」

「お前らなぁ、親として恥ずかしくないのか?娘の前で喧嘩って、こいつらが大きくなって同じことしてたら、笑われても知れねぇぞ?」

「「はい……お二人の言う通りです。ごめんなさい」」


 スレイとユキヤの謝罪を聞くと、アニエスとラーレが子供たちに目を瞑るようにいった。


「一週間お疲れ様スレイ、予定よりも遅かったから心配したのよ」

「またっくだ。お前のことだから心配入らないとは思ったけど、ちゃんと連絡しろよな」

「………ごめん、次からは気を付けるい。それと遅くなったけどただいま」

「お帰りなさい」

「お帰りスレイ」


 暑い抱擁を交わしあったスレイたちの後ろでは子供たちに見せないように後ろを向かせて、目の前でイチャついている三人を見ながら不貞腐れているユキヤがいるのだった。


 一週間ぶりの再会の抱擁を終えたスレイたちが家の中に入ると、リビングの方ではみんながお茶をしながらゆったりとしているのだろう、そう思いながらスレイがみんなに帰ってきたことを知らせるために先にいかせてもらうと、そこでスレイは目を疑う光景を見た。


「あぁ~スレイくんお帰り~遅かったね?」

「お帰りなさいスレイ殿、ちゃんとご飯とか食べていました」

「……ん。一週間ぶり元気そう」

「お帰りなさいませスレイさま、ところでこちらとこちら、どちらがよろしいでしょうか?」


 っと声をかけてきたのは、大きなかしの木のような木の前で、大きな箱を抱えたユフィとリーフ、そして木に飾りつけを行っているライアと、スレイに向けて子供用の衣装を見せて意見を求めているのは藍色の髪をした少女ラピスなのだが、今はそんな意見よりも大事なものがあった。


「ユフィ!リーフも、そんな重いものを持つんじゃないの!お腹の子供に何かあったらどうする気!?」


 ユフィとリーフは今妊娠中で、二人の主治医であるクレイアルラと両親の指導の元、しっかりとした体調管理をしているため安定期に入ってからは多少なりとも運動を許されてはいるのだが、二人が初産であることから身体とお腹の中の子のことを過剰に心配しているスレイは、周りがあきれるほど過保護だった。


「もぉ~、安定期に入ったんだから大丈夫だって~」

「そうですよ。ルラ殿やお母さまたちからも運動は大切だと言われてますし」

「確かにね、多少のことならばボクはなにも言わない。けどね、真冬に薄着で外で運動したり剣を降ったりする姿を見たら心配もするからね!?妊娠中に身体を冷やすなって何度もいってるからね!?っと言うわけでこれは没収な──うぉっ!?」


 スレイがユフィとリーフから箱を奪い取ると、いきなり後ろから強い衝撃を受け前につんのめりかけたが、目の前にはユフィたちがいるので、とりあえず投げても大丈夫そうなユキヤの方に投げる。


「おいユキヤ、パス!」

「はっ?おいてめぇ何を───!?」


 ユキヤは突如上から降ってきた箱、その中から飛び出てきた飾りつけの装飾品を見て身体強化によって高速で動いてそれが地面に落ちるよりも早く受け止めた。


「てめぇ何すんだバカヒロ!!」

「仕方ないだろ、ユフィとリーフを守るためだったんだから!ってか、文句ならいきなり背中に飛び付いてきたこいつに言え!!」


 スレイは自分の背中に腕を回して、背中に張り付いていた人物を引っぺがす。すると、周りで見ていたユフィたちはやっぱりか、そんなことを思いながらスレイに襟首を捕まれたメイド服の少女のことを見る。


「あぁ~ん。スレイさまったらご・う・い・ん・なんだから」

「アリン………いい加減にしないと本気でスクラップにするか、学園に提供してやるぞ?」

「いやぁああああ――――――っ!?それだけはいやぁああああ――――――――っ!?お願いしますスレイさま!わたし夜のお世話も何でもしますからそれだけはぁアアアアアア―――――――――っ!?」


 泣き叫ぶアリンと呼ばれたメイド、その懇願の言葉にブチッと来たスレイは拳骨を一つ落とすと、きゅぅ~っと変な声をあげながら目を回した。

 先ほどのスレイの発言通り、アリンは人間ではない。アリンはスレイが作り出した意思を持ったゴーレムで、ホムンクルスの技術を用いて作られた、ロマン溢れるメイドゴーレムで育児に家事に暗殺に何でも出来るメイドゴーレム イーリアスシリーズという名前だ。詳しくは説明しないが人間と変わらない体の構造をしているのが特徴だ。


「それで、お前どこにいたんだよ?」

「上だよ~。アカネさまとレティシアさまがお昼寝から起きたから、お飲み物持ってこうとしたらスレイさまが帰ってきてたから抱き付いちゃったんだぁ~」

「おぉ~い、イリルかアリサどっちでもいいからバカ妹連れてって説教してくれマジで!」


 いい忘れていたがアリン以外の上には五人?の姉妹がおり、アリンはその末子だ。ついでに言っておくとスレイの呼んだ名前の二人?は、メイドゴーレムシリーズの中でも常識人?の二人?だが、呼んでも一行に来ないことに疑問を覚えたスレイにはラピスが


「イリルとアリサでしたら、お仕事で出てますよ」

「えっ?あっ、そっか……じゃ、じゃあこの際イリスとアリアに──」

「……ん。それに、イリスとアリアはお休みだから近所の子供たちと遊びに行った」

「うぐっ……それならイリア………は、デートだよな」


 まさかのイーリアス姉妹全滅に大きく肩を落としたスレイは、頭を押さえながら未だにこちらを見ているアリアを一別しそして、


「我が家の平和のために、こいつを嫁に出すか?幸い学園関係者ならこいつを喜んで嫁がしてくれるだろうからさぁ」


 真面目にそう考えていると、当のアリンは平然と


「わたし、スレイさまの愛人なるからやだ!」

「レネの前で何てこと言ってんだこの駄メイド!」


 もちろんスレイにその気はない、そもそもイーリアスシリーズ事態がスレイにとっては娘のような存在なので手出しする気はない。

 このいいあいだけで疲れてしまったスレイは、アリンにもう休むように言いつける。


「もうやだあのメイド、もういっそ本気で引き取り先を探すか………そうだ、ユキヤくぅ~ん、もしよかったらアリンを娶って───って?あれ、ユキヤは?」


 親友に厄介者を押し付け用とするほど疲弊していたスレイは、ここでようやくユキヤがいないことに気がついた。


「ユキヤくんならエンジュちゃんと一緒に、アカネちゃんとレティシアさんのところに行ったよ~」

「……ん。そんなことよりもスレイ、早く飾り付けする。じゃないとクリスマスパーティー間に合わない」


 そう、今日は十二の月の二十五日、クリスマスだ。まぁ、なぜ地球のクリスマスがこの世界に有るかという理由については割愛するが、年に一度のこの日みんなで楽しむことにした。


「よし!飾りつけは二人に任せるね、料理はボクとアニエスが頑張るから!」

「うん!任せなさい!」


 エプロンをつけて、尻尾をブンブンと高速で動かしながら片手を腰に、そしてもう片方の手で胸を叩いたアニエスがフスンっと鼻を鳴らしている。

 そんな姿を椅子に座って眺めていたリーフが、羨ましそうに呟いた。


「お疲れのところ申し訳ありません。身重でなければ手伝えるのですが……」

「いいっていいって、こう言うのは好きだからさリーフは気にしない。それに手が足りないなら上のユキヤに手伝わせるし」

「そうだよな!それに今はリーフとユフィだけど、オレたちも子供が出来たときは任せるからな!」

「はい!」


 いつかはそうなるだろうな、っとは思っているが、三人の出産が終わってから順番にという話になっているが、これから大変そうだなっと思いると、レイネシアがキッチンでケーキの材料を用意しているスレイの方にやって来た。


「パパ!アニエスママ!レネもケーキつくるおてつだいするぅ~!」


 花がほころぶような笑みを浮かべたレイネシア、その笑みを見たスレイたちはにやける口許を引き締めながら同じ台詞を口にした。


「「「「「「「うっ、うちの娘マジで天使すぎる~!」」」」」」」


 父と母たちが突然のその台詞にキョトンっと首をかしげたレイネシア、その頭を撫でながら視線を合わせるようにしゃがんだスレイがそっと話しかける。


「ありがとうレネ。だけどこれはパパとアニエスママのお仕事だから、パーティーまでユフィママとリーフママと遊んでおいで」

「レネちゃんおいで、ユフィママが絵本読んであげるからね!」

「レネ、リーフママとお人形で遊びましょう」

「はぁ~い!」


 レイネシアを連れたユフィとリーフが別の部屋に写るにを見送ったスレイは、食材を確認し終えてからエプロンを取り出してふと有ることを思い出した。


「そう言えば、ソフィアは昼寝でもしてるの?」


 ソフィアとはスレイの嫁の一人で、これで全員の名前が出ているがあと一人ノクトもいるのだが、ノクトはこの時間は仕事なので問題はない。


「ソフィアなら出掛けてるぞ。あの問題がまぁ~たぶり返してんだと」

「マジかよ………ちょっと心配になってくるな」

「大丈夫だよ~ソフィアちゃん、夕方には帰ってくるって言ってかたら」

「いや、心配ってそっちじゃないんだが………まぁ、最終的にはボクが出ればどうにかなるしいいか」


 取り敢えず先のことなので考えるのは後にするとして、まずは目の前のことを片付けようと思った。


「じゃあアニエスは料理の方お願いね。ボクはケーキをメインに作るから」

「任せなさい!」


 スレイがケーキをアニエスがパーティー用の料理を作り始め、飾りつけの終わったラピスも料理組に参加し──ライアとラーレは料理をさせてはならない筆頭組のため禁止──なんとかみんなが帰ってくるまでには間に合った。


「ライア、ラーレ、料理出来たから並べるの手伝って」

「……ん。味見してもいい?」

「ダメよ、ライア。ってラーレ!なに無言でつまみ食いしてるの!コラ、ライア!あんたもなに便乗してつまみ食いしてるのよ!」


 ラーレとライアが運んでいた山盛りの唐揚げを摘まみ食いしアニエスに怒られる。

 いつもの光景にスレイたちが笑っていると、ガチャりと扉が開き全員がそちらを見るとプラチナブロンドの髪を短く切り揃え、一見すると男のような見た目で、服装も男っぽいものを着てはいるが大きく膨らんだお腹から妊婦であると言うことが分かる。


「ただいま~。あぁ~美味しそうな唐揚げだね。ぼくも一つもらうよ」


 そういうと二人が摘まみ食いをしていた唐揚げをパクっと、一つ食べると再びアニエスが怒った。


「ちょっとソフィア!何であんたまで食べるのよ!それと、スレイとラピスも怒りなさい!!」


 そう彼女こそスレイの最後の嫁なのだが、育ちはいいというか、勇者の末永で王族の一人なのだが、とある理由でちょっとばかし男っぽい言動が目立つが、そういうところを含めてソフィアの魅力だと思っているスレイは、ラピスと共にアニエスの怒りの言葉を一身に受けていると、


「ごっ、ごめんよアニエス。さっきまでむさいオヤジやおばさん連中の小言をずっと聞かされててお腹すいちゃってさ」

「おいおい、だからオレたちも一緒に行こうかったじゃねぇかよ?」

「いいって、せっかくレイネが楽しみにしてる………えっと、そう!クリスマスなんだから、ぼくの実家のゴタゴタで準備を送らせるわけには行かないさ」


 今度、お義父さんとじっくりソフィアのお腹の子供の将来についてオハナシしなければな、そう思ってしまったスレイが静かに殺気を放つと、ライアたちが揃って、数日後に確実に血の雨が降るかも、そう思っているとダイニングの扉が開いて黒髪と白髪の少女が二人入ってくる。


「ただいま帰りました。あっ、スレイさん!ソフィアお姉さん!お帰りなさい」

「兄さんお帰り。ユキヤさんは?」

「ただいま。ノクト、ミーニャ。それとユキヤなら上の部屋だから」

「ありがとう!ちょっと行ってくるね」

「………なんか兄としては複雑………もうすぐパーティー始めるからみんなにも言っておいて」

「えぇ。分かったわ」


 ミーニャが二階へと駆け上がって行くのを見て、スレイたちは残った料理を並べるのを再開したのだった。


 大きめのテーブルの上には、これでもかと言うほどの料理が置かれ、それを前に子供のように目を輝かせているのはライアとアニエス、そしてラーレの大食いの三人組と、妊娠して食欲のましている五人だった。


「それじゃあみんな揃ったところで、パーティーを始めようか──乾杯!」

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」


 スレイの掛け声と共に全員が手に持っていたグラスをカチンっと合わせ、楽しい食事が開始された。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、簡単に片付けをしたあとにツリーの飾られたリビングに移動すると、クリスマスの食事後に食べるケーキをだした。


「さぁみんなクリスマスケーキ、ホールで八種類あるから好きなの取ってね」


 用意されたのはスタンダードなショートケーキにチョコレートケーキ、ブッシュ・ド・ノエルを始め、フルーツたっぷりもフルーツケーキに、妊婦のみんなのために用意されたスライスレモンのケーキタルトにチーズケーキに、ついでにユキヤたちのために抹茶擬きと小豆を使って作った和風ケーキと、ケーキのスポンジにカラメルを染み込ませその間にプリンを挟んだケーキと、短い時間でここまで作ったスレイにみんなか嘆願の声をあげた。


「パパ~!レネ、フルーツいっぱいのケーキ!」

「……スレイ!私、全部!」

「オレも全部食うぞ!」

「私も全部お願いするわ!」


 レイネシア、ライア、ラーレ、アニエスの四人がいの一番でケーキを出してきたスレイのもとにやって来ると、その後ろから手伝いに来たノクトとラピスがケーキを切り分け、一つずつ皿に乗せて渡していく。


「はい、レネ。おかわりも有るから一杯食べるんだぞ?」

「うん!」

「ライアさま方はあまり食べ過ぎてはいけませんからね」

「甘い物の食べ過ぎでスレイさんに嫌われちゃっても知りませんよ~」

「……大丈夫、毎日お父さんたちと組手してるから」

「オレもだな!毎日鍛えてるからな。食ったぶんは明日の鍛練で消えちまうさ」

「私は………ライア、ラーレ、明日から一緒に鍛練させて」


 アニエスだけは家事手伝い敷かしていないため少しばかり危機感を覚えたらしいが、獣人は体力の消費が激しいので、多少カロリーを取りすぎたところで問題はなさそうだが


「ユフィとリーフはどれ食べる?」

「そうだねぇ~。私はフルーツケーキもらうね」

「でしたら私はレモンのをいただきます」

「了解。エンジュちゃんたちも好きなの言ってね。すぐに運ぶから」


 ユフィとリーフの注文のケーキを切り分けながらユキヤたち家族の方を見ながらそういうと、


「エンジュは、プリンのケーキが食べたいとお伝えします」

「分かったよ。こっちが終わったらすぐに持っていくからね」

「いいよ兄さん。私がやるから」


 ミーニャがエンジュが言ったプリンのケーキを皿に乗せると、その皿をエンジュの前に運ぶ。


「はい、エンジュ。急いで食べちゃダメよ?」

「ありがとうございます。ミーニャかかさま」


 かかさまと言われれ頬笑むミーニャ、妹の母親としての顔を見せられて成長しているなと実感させられたスレイは、何やら複雑そうな顔をしていると、ミーニャの奥さん仲間が立ち上がる。


「すまんが妾の分もいただけないかの?」

「私にもいただけるかしら」


 そういって二人が自分で取りに行こうとすると、ユキヤとミーニャが止める。


「待て待て!妊婦が無理するな!」

「アカネさんもレティシアさんもお腹の子供のことをもっと考えてくださいよ!」


 二人を大人しく座らせたユキヤとミーニャ、その姿に不満を口にした。


「全く、ここまで過保護にされると方がこる」

「いいじゃない。ミーニャが妊娠したら同じくらい過保護にしてあげましょうよ」


 アカネとレティシアが薄く微笑んだのを見て、ミーニャがぶるりと震える。



 パーティーも終わった夜、レイネシアを寝かしに行ったライアが、ベッドに横になって眠そうに目を擦っていいるレイネシアに優しく語り駆ける。


「……レネ、早く寝る」

「やぁ~!レネ、サンタさんにおれいする」

「……サンタさん、いい子のところにしか来ない。こんなに遅くまで起きてるレネは悪い子だと思われちゃう」

「やぁ~!」

「……レネ、サンタさんへのお礼はママたちとパパがするから。ねっ、お休み」

「うにゅ……はぁ~い」


 幼いレイネシアの限界が来たのか、ゆっくりと寝息を立て始めたレイネシアを見たライアは毛布をかけ直してから灯りの消えた部屋を後にした。


「……レネ寝たよ」

「ありがとうライア。よし、それじゃあ可愛い娘のためにサンタさん出動しますか!」


 赤と白の服に真っ白なお髭、そして大きな袋、完璧なサンタクロースの変装をしたスレイがそこにいた。

 スレイが部屋の扉を開けて外に出ようとしたその時、ユフィがそれを止めた。


「スレイくん、そのままの顔で行っちゃダメだよ~」

「あっ、そうか………ならこれでいいか」


 スレイは幻影魔法で自分の顔を少し成長させた物に変え、みんなの方を見ると全員がポッと頬を赤くしてスレイの顔を見ていた。


「わぁ~、ちょっと老けたスレイくんもカッコいい」

「ダンディーです」

「渋めの顔もなかなか」

「……カッコいい」

「スレイさま、素敵すぎます」

「あんた、それは反則よ」

「……クッ、さすがスレイ、ぼくが惚れた男だ」

「ヤベェ、こっちのスレイもマジでヤベェ」


 上かユフィたちの台詞なのだが、どうやらニ十年後にはいい年の取り方をしているようなだっと、密かに思ったスレイは、みんなに行ってくるねと声をかけてからレイネシアの部屋に行くと、中にいるレイネシアが寝ているのを確認してその枕元にプレゼントを置いた。


「メリークリスマス、レネ。一年間良い子にしていた君にプレゼントだ」


 そう言ったスレイはレネの額にキスを一つ落として外に出ようと扉を開けると、そこには自分の家に帰ったはずのユキヤが同じ真っ赤な服を着てそこにいた。

 数秒間見つめ合った二人は、一度外に出て話し合いをすることになった。


「なんでお前がその格好を?ってか何でいるんだ!?」

「アカネたちに頼まれたんだよ。お前の娘にもプレゼントを渡してやって欲しいってな。んでポータルを開いておいてもらったんだ」

「マジか、実はボクも頼まれてて」


 二人は背負った袋を見合いながら、なにも言わずにうなずき会うとスレイとユキヤはお互いの娘の眠る部屋へ行き用意していたプレゼントを渡して夫婦の部屋へと戻ったのだった。


「プレゼント配り終わったよ」


 髭を外して幻影を解いたスレイが部屋に入ると、なにも入っていない袋がパサリと地面に落ちる。


「お帰りぃ~待ってたよ~」


 特大ベッドの上で待っていたのは、サンタの衣装を着たユフィたちだった。

 だが、それはただのサンタ衣装ではなく、首には赤いリボンが、胸元が大胆にも見えていたり、肩やお腹を露出させ、スカートの丈も短く脚にはタイツやストッキング等も穿いておらず、大きく露出した太ももや白い素足が見てとれる。あえて言わしてもらおう、かなりエロいと。さらに、そのなかでも一際目を引くのはユフィ、リーフ、ソフィアの三人だ。それはなぜかと言うと、三人の腹部だ。

 子を身籠ったことにより膨らんだその腹部が、何やら背徳感を覚えさせ、それでいてイヤらしくさえ思えてしまう……っとここまでスレイが脳内で想像したところでハッと我に変える。


「ユフィ!リーフ!ソフィア!何て格好でいるんだよ!お腹の子供に何かあったらどうするんだ!?」


 妊娠中にお腹を出すとは何事か、そうスレイがしかりながらタンスの中に閉まってあった毛布をかけると、三人は不服を現すように膨れる。


「スレイ、心配しすぎだって、何もぼくたちがこの格好で外に出るなんて言ってないんだし?」

「ちゃんと暖房を高めに設定してありますから平気ですよ」

「もぉ~、心配性なんだから~」

「いやいやダメだろ!?ってかみんなも止めろよ!」


 スレイが叫ぶがみんなはなにも言わずにただ、スレイの方へと近寄った。


「まぁまぁスレイさん。お姉さんたちだっていろいろと溜まっているんですよ」

「ソフィアさまは言わずながら、ユフィさまとリーフさまも始めての妊娠でストレスが多いんです」

「……それにユフィから聞いた。聖夜の夜は夫婦の時間」


 ノクトとラピスの言い分は確かにそうかもしれない、そう思ったのだが最後のライアの台詞でん?っと首をかしげたスレイはユフィの方を見る。


「ちょっとユフィさん。なに聖なる夜を性なる夜に変えようとしてるの?」

「えぇ~。そんなことないよ~」


 そういっているわりに困っている様子は欠片も感じられなかった。


「でもよぉスレイ。オレたちだってもう何日もシてないからな、たまにはいいだろ」

「もしかして、ぼくたちの身体に飽きちゃった?」

「いや、それはない。ってか今も理性と保つのに必死だし」


 その言葉の通り、今も惜しげもなくさらけ出されたなまめかし素肌や、大きく露出された胸元、極めつけに恥ずかしそうに頬を染めるその姿が妖艶さをかもち出して、見ているだけで今にも目を覚ましそうな内なる野獣を押さえ込まなければならなかった。


「そっ、そんなの我慢しなくてもいいわよ……わっ、私たち夫婦なんだし」


 未だに夜の生活に初々しさを残すアニエスがそう言うと、全員がスレイの方にてを伸ばしながらこう言った。


「さぁ、スレイ殿、私たちからのクリスマスプレゼントです」


 何を言っているんだっとスレイがそう思いながら、首元のリボンはそういう意味かと思った。


「「「「「「「「サンタさんからのプレゼント、受け取ってね」」」」」」」」


 その言葉を聞いたスレイは、もう我慢するのをやめよう。そう思いながらサンタの衣装を脱いだスレイは、みんなの方にゆっくりと近づいていったのだった。


 次の日の朝、サンタさんからのプレゼントをもらって嬉しそうにするレイネシアとエンジュの姿と声が、屋敷の中で響き渡ったのであった。

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