念願の我が家
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役所を出たスレイたちは、ここで一度クレイアルラがミーニャとは別行動を取ることにした。何でもミーニャの勉強を見るために早く宿を決めなければならないそうだ。
「試験って、魔法だけじゃないんですね」
「えぇ。魔法学はもちろんのこと、数学や文学、歴史なども必修科目です」
まるで高校の受験だとスレイとユフィは思った。
数学などは魔法薬の調合に必須なのでクレイアルラに教わっていたが、この国の歴史などは一年前からクレイアルラに教わって勉強していたそうだ。
今日は最後の追い込みと試験ででそうなところの復習をするそうだ。
「ミーニャ、あまり根を詰めすぎないように」
「うん。わかってるよ」
「先生、ミーニャのことどうかよろしくお願いしますね」
「えぇ。任されました」
クレイアルラはソっとスレイの耳元に顔を近づけると、こっそりと周りに聞こえないような声で囁いた。
「あまりはめをはずし過ぎないようにしてくださいね。特に、避妊だけはちゃんとすること。それを怠り大変な思いをすることになるのは女性です。ちゃんと理解しておいてくださいよ?」
「………えぇ。十二分に理解していますが………先生、天下の往来で何てことを言ってるんですか?……まぁ、ちゃんといただいた薬を飲ませます。ボクもこの歳で父親になる覚悟は、さすがに出来てませんから」
「そうですか………ならいいんですが、私としてはあなた方の赤ん坊をこの手に抱いてみたい気もしますし、あなたならば良い父親になる気もするんですがね」
良い父親になると言われたスレイは複雑な顔をしていた。
スレイには二人の父親がいる。
それはもちろん地球での父親とこの世界の父親、二人分の父親の記憶のあるが、始めの父親とは親としては見れず憎しみの対象であった。
次にこの世界の父親のフリードは、父でもあると同時に歳の離れた兄のように感じた。
父親とはいったいなんなのか、今でもスレイにはわからない。
よく良い父親となる、そう言われることはあるが本当になれるのか、そもそも良い父親と言うのはいったいなんなのか、その答えはわからない。
「………いいえ、すみません。これはあなたたちの人生です。変なことを言ってしまって申し訳ありませんでした。ミーニャ行きますよ」
「はい!それじゃあね、兄さん。お家、決まったら教えて遊びに行くから」
「あぁ。でっかい家になると思うからビックリするなよ」
ミーニャとクレイアルラの二人と別れたスレイたちは、その足でギルドへと赴いた。
するとそこで今まで受けたことのない用な扱いを受けることとなった。
「本日はどのような用件でございましょうかねぇ?」
めっちゃ高圧的な視線な上、ここの受付は女性ではなく男性の、それも熊のようにでかいっというよりも正確に言うと熊の獣人だった。
それも獣人の中では珍しい獣の顔を持ったタイプの獣人で顔が完全な熊だった。
これがはちみつ大好きな黄色いクマのような丸っこい体型なら良かったが、筋肉隆々の大巨漢のせいで威圧が凄いかった。
人に見下ろされ、さらにギルドにいる冒険者たちからは殺意を向けられている。
「スレイくん、なにかした?」
「全く心当たりがございません」
この国に来てからずっと一緒に行動していたのに、そんな恨みを買うような事をした覚えがないスレイは冤罪だと叫んだ。
いったいなぜこのような扱いを受けるのか、その理由はすぐに明かされることとなった。
「それで、黒ローブのエリート魔法使い様方が、こんな下賎で無能の集まる冒険者ギルドなんぞになんのようかって聞いてんだよ?」
あぁ、そう言うことかっとスレイたちは思った。
眼の前の熊の獣人職員は青を、周りでスレイたちのことを睨み付けている冒険者たちも白や青のローブを着ていた。
この国の悪しき風習とでも言うのか、黒いローブはエリートの証だ。
つこうと思えば国の要職にもつけるそんなエリートが無能者の集まりである冒険者ギルドに来たのだから、あまりいい感情はしないのだろう。
「すみませんが、ボクたち今日この国に着たばっかりでして、このローブもつい先程いただきました。ですのであなた方の言われるようなエリートではありませんよ?」
「はっ、どうだか」
「………それじゃあこれ、ボクの身分証とギルドカードです」
バシンッ!っとわざとらしくカウンターを叩いたスレイは、懐から取り出した二枚のカードを叩きつけた。
熊の職員がそれを掴んで確認すると、熊の小さな目が見開かれそして座っていた椅子を押し倒して立ち上がった。
「……ノクト、あの熊大きい。熊のお肉って美味しいのかな?」
「ライアさん、あの人ちゃんとした熊の獣人ですから。今の言い方ですと、ただの熊みたいですよ?」
「ノクト殿、ツッコむところが違いまし、ライア殿は獣人の方を見ながらその発言はやめましょうね」
「……ん。わかった」
なにやらギルドカードを持って熊の職員がどっかに行ってしまった。
待っている間にリーフたちの会話を聞いていたのだが、その会話の中にユフィがいないことに気がついたスレイは、キョロキョロとあたりを見回してユフィを見つけた。
なにやら新しいローブを脱いで薄い水色のシャツに緑色のスカートという、宿屋にいるときのようなラフな格好になって空間収納に手を入れてなにかを探していた。
「ローブなんて脱いでなにしてるのユフィさん?」
「えぇ~、だってこれ着てたら変な目で見られるんでしょ~、ならもう脱いじゃおっかな~って。あっ、スレイくんは脱いじゃダメだからね?」
「ごめん、ボクにもローブを脱ぐ権利をください。剣が抜きずらくてたまらないんですよこのローブ。出来ることならスリットでも入れたい」
リーフに言われて着たときに気付いたのだが、どうやらこのローブ完全な一体型で、すっぽりと被るように着なければならず、肩の部分が少しだけ余っているが少し肩を動かせば布が引っ張られてしまうのだ。
「まぁまぁ、一応ね。闘うときになったら脱いでくれて良いから」
「言われなくてもそうするさ」
スレイたちがそんな話しをしていると、ようやく熊の職員が戻ってきた。
「お待たせいたしました。確認が取れましたのでこちらをお返しします」
熊の職員が差し出したスレイの身分証とギルドカードを受け取りしまった。
「疑ってすみません。それで、今日はどのようなご用件で」
「えっと、まずはボクの口座から白金貨を三十枚引き出してほしいのと、後まだここに着たばかりでして、土地や家を扱っている不動産屋がどこか知りたいんですが?」
「不動産ですか?でしたら当ギルドでもいくつか取り扱いはございます」
「へぇ~、ギルドが土地の売買もやってるんですか。良ければ見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「承知いたしました。それではすぐに担当の者をお呼びしますので、あちらの談話室でお待ちください。その時にお金もご用意いたします」
談話室に入ったスレイは待っている間にローブを脱いで、ノクトも着なれないローブはイヤなのかいつものローブ姿に戻っていた。
「やっぱり、こっちのローブの方が落ち着きますね」
「あっ、それ分かるかも。何て言うか、こう………守られてるって気がして」
「……ん。確かに守ってもらってるって気持ちになる」
「やはり、心を込めて作られているからでしょうかね?」
ユフィたちが自分の着ているローブやコートに触れながら語り合っている。
確かにユフィたちの着ている服はスレイの手縫いだし、みんなの無事を祈りながら心を込めて縫ってはいたが、こうも惚けならが見られているとなんだかむず痒い気持ちになった。
「お待たせしました。わたしは、当ギルド職員のカナンと申します」
現れたのはいぬ耳を頭に乗せた獣人の女性職員だった。
このギルド獣人が多いんだなっと思いながら、スレイたちも挨拶し促されるように椅子に座った。
「今回は土地とお家をお求めになられたいとのことでしたが、ご予算とお家のご要望などがありましたらお申し付けください」
「予算は白金貨で三十枚まででお願いします。みんなは要望があったら言ってね」
家についての要望は特になかったスレイは、ユフィたちの要望を取り入れてもらった方がいいと考えた。
「はい!私、魔道具が作れる工房が欲しい!」
「あの、わたしも魔法薬を作るためのお部屋を」
「でしたら私は、剣の稽古のできる広い庭があると良いですね」
「……ん。部屋も沢山あるとうれしい」
「後お風呂欲しいかも。みんなで入れるような大きいのがいいな」
「あっ、それと魔法薬を保管できるための地下も欲しいです。お兄さんは、なにかありますか?」
「そうだな、できるなら商店が近い所が良いかも」
工房に出来る部屋や稽古できる庭まではいいだろうが、大きな風呂や地下室はさすがに無理ではないかと思った。
こんな物件そんなにないだろうとスレイは思っていると、ファイルをめくりながら要望にあった物件を探していたカナンが三枚の用紙を差し出しきた。
「ご要望の条件に合う物件ですと、ご用意できてこちらの三つですね」
以外にも条件に合う家があった事に驚きながら、スレイたちは差し出された用紙を見ながら内容を確認した。
提示させられた物件はどれも家と土地がついて白金貨二十枚前後。
建物はどれも三階建てで要望通りの地下室まで完備し、家の内装の作りはどれも似たようなものであった。トイレは一階に二つあり奥にはかなり大きめの風呂、あとはリビングやキッチン、その他談話室のような部屋がある。
生活の出来る部屋は二階から上にあり、個室の数がなんと二十部屋前後もあった。
庭も含めればちょっとした豪邸と言っていい大きさだった。
「ふむ。これかなりいいな」
「そうだね」
「お気に召したのでしたらこれより内見に行かれますか?」
「はい。ではお願いします」
スレイたちはギルドを出てカナンに案内されて三件の家を見て回った。
その時になぜギルドで土地や家を売っているのかを聞くと、どうやらこの物件は元々大規模なパーティの拠点として用意しているものだそうだ。
ギルドの冒険者の中には魔法使いも多くいるため、個人の工房が必要な人やパーティーのメンバーでシェアハウスをしていたりする者もいる。
そのためギルドで土地を持って、必要な冒険者や不動産の仲介人からの要望などで街の売り出したりもしているのだそうで、今回の家はパーティー用の家だったらしいが、あまりにも高額すぎて買い手もつかずにギルドでは持て余してしまった土地だったそうだ。
「白金貨二十枚って、そんなに高額なんかねぇ?」
「高額ですよ。一般家庭でこのクラスの家を買おうと思ったら何十年もローンを組むことになります」
「……スレイの金銭感覚が狂ってる気がする」
そんなことはないだろうなっと思ったが、最近なんやかんやで事件が立て続けに巻き込まれていたので損害賠償やらでかなりの収入がある。
普通にギルドの依頼もBランクになってからは報償金額もかなり上がっているので、それも合わせて金銭感覚が狂った要因の一つかもしれない。
三つの物件を見終わるとカンナに問いかけられた。
「それで、内見は終わりましたが良いお家はありましたでしょうか?」
「ボクは一件目が良かったっと思うけど」
「私も、ギルドに近いし、お店も近かったからみんなでお買い物デートも出来るしね~」
「確かに良いですね。私もあのお家は気に入りました」
「はい。わたしにです!」
「……ん。私もあそこが良かった」
満場一致、みんなの要望通りの家が見つかり、その日のうちに契約書にサインをする。
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ギルドに戻り契約書にサインをして家の鍵をもらったスレイたちは、そのままギルドを後にして買ったばかりの家の前にやって来た。
「はぁ~、買っちゃったなぁ~一軒家」
「買っちゃいましたねぇ~」
建てられてからそんなに時間が経っていないのか、真新しい感じの屋敷。
真っ白な壁に赤い屋根、そして手入れの行き通った広い芝生、いつかは買おうと思っていたがまさかこれほどまで早く手に入るとは思わなかった我が家を目の前にスレイは感慨深い気持ちになった。
白金貨二十五枚、普通からしたら安くはない買い物で、今まで自分で稼いで買った買い物の中で一番高価な買い物になってしまったが、これから一緒に過ごしていくうちに大切な場所になるんだろうな、そう思いながらこれから一緒に暮らしていく彼女たちのことを見ながらスレイは笑った。
「ユフィ、ノクト、リーフ、ライア。こんなボクだけど、これからも末永くよろしくお願いします。それと、みんなのことを心から愛してます」
突然の告白にユフィたちは驚いた顔をしていたが、すぐに何を思ったのかニヤニヤとし始めた。
「ふふふっ、私もスレイくんのこと愛してるよ~。これまでも、もちろんこれからもね」
「わたしだってお兄さんのこと、心のそこから愛してます!」
「自分もスレイ殿とは生涯添い遂げるつもりですからね?」
「……ん。竜人は一度捕まえたら離さない。だからスレイから離れるつもりはない」
こう言うときくらいは普段は口にしないことを言うのも良いかもしれない、そう思って口にしたのだが、気恥ずかしさが出てきてしまったが、たまには良いかもしれないなっと、口元をニヤケながらユフィたちを優しく抱き締めたのだった。




