ローブ審査
すみません、書き直していたら遅くなりました。
今から何百年も昔、現マルグリット魔法国の元となった国では産まれたばかりの子供の魔力の有無を調べるという法律があったそうだ。
そこで魔力の無い子供が見つかると、子を産んだ家族には国から相応の罰が与えられその子供は人知れず消されていたそんな忌むべき過去がこの国の歴史にはあった。
これらの話しはクレイアルラから教えてもらったこの国建国前の歴史だ。
この話しには続きがある。
その国では魔力を持たない者は人間ではないとされ、魔力のない子を産んだ親もまた人ではない魔物と同等の存在であると言われていたそうだ。
そもそもマルグリット魔法国の元となった国は人間の魔法使いの集まった国であり、人間族以外の他種族のことを見下していたらしい。
その思想は今の人間絶対主義者と呼ばれる者たちの大本となった思想主義者たちのことだ。
そして時代は流れ、いつしか国の勢力を拡大しようと画策しだすと、近隣の小国などに戦争を仕掛けては大規模な儀式魔法を使い滅ぼし征服していった。
次々と小国を吸収してきたその国は、ついには新たな戦力としてこの大陸で平和に過ごしていたエルフを捕まえて奴隷として扱おうとした。
有史以来魔法を扱う種族の代表であるエルフを奴隷とした大軍勢を率い、大陸全土の支配を目論んだ。しかしその国は結果としてエルフとの戦いに敗北した。
故郷の森を破壊された報復としてエルフたちが国を乗っ取り、多くの国民が国を捨てたそうだ。
国をでたものたちの中には前記に説明した人間絶対主義者たちが新たな宗教を作り出したが、活動が過激化していき、再び戦争を引き起こした。
今度は内部分裂の末自滅したらしく、宗教は廃れたが生き残った人たちの中では活動が続けられ、今の時代まで生き残ったそうだ。
話しは逸れてしまったが、今のこの国では雑多な種族で溢れている。
だが、国というにはそう簡単には変われるはずもないらしく、時代は流れて形は変わってはいるが魔法使いの差別化という意味で、今もローブによって魔法使いの強さを見せるようになったが時代は移ろいゆく物。
その常識も廃れ始めているらしいのだが、それでも頭の古い連中は未だにその固定観念が続いているらしい。
「国の歴史って、なんでこういも暗い影が付き物なんですかね?」
「……人間絶対主義者、私も何度かあったことある。汚らわしい化け物って言われた」
「ライア、そいつの顔覚えてるなら教えて、ばれないように灰も残さずに消し去るからさ」
「……大丈夫、女将さんがタコ殴りにして返してた」
あの女将さんマジか、そうスレイたちが思ったがライアがワーカーをやめたときのあの表情は本当の母親のようだったので、その話し本当なんだろうなっと思っている。
話しは変わるが、スレイたちは今国の役所に来ていた。
ここでローブ審査を行うのだが、役所についてからすでに一時間ほどが経ってもまだ受付すらできていなかった。
「長いな~」
「かれこれ一時間ですか」
「先程も話しましたが、この国で魔法使いのローブの色は絶対。誰しもが少しでも上を目指すため、ここはほぼ毎日人で溢れます」
「うわぁ~大変そう」
「実際大変ですよ。中には週に何度も受ける人もいて、結果を受け入れられずに暴れたそうです」
それが本当ならこんなところで試験を受けずに魔力や魔法を鍛えたらいいのにと、スレイたちはそんなことを思っていた。
「大変お待たせいたしました、お次の方こちらにどうぞ」
ようやくかと思ったスレイたちは空いた受付に向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか?」
「この子たちのローブ審査をお願いしたいのですが」
「かしこまりました。それでは審査をお受けされる方の身分証と審査料としてお一人銀貨五枚をお願いします」
受付の女性に言われた通り、スレイ、ユフィ、ノクト、ミーニャの四人が身分証と審査料の銀貨五枚を渡した。
ちなみにこの審査料の中にはローブの代金も含まれているらしい。
このローブだが、国が支援を行っている裁縫屋が作っているらしく、これから渡されるローブは量産物だが、欲しいなら後で買いに行けばいいそうだ。
「身分証、お預かりいたします」
身分証を受け取った女性はスレイのことを見ながらいぶかしむような視線を向けている。
「すみませんが、そちらのお方はどう見ても魔法使いでは無いような気がするのですが?」
「この子も立派な魔法使いです。実力で言うならば私と同等のですがね」
「そっ、そうなのですか!?申し訳ありません!すぐに試験場の確認をいたしますのでしばらくお待ちください!」
受付の女性がクレイアルラに頭を下げてパタパタと駆けていった。
「なんだかあっさり引き下がりましたね」
「このローブも、役に立ったということでしょう」
クレイアルラは自分の着ているローブに目を向けて大きく息を吐いた。
先程の女性のローブは青、つまりは下のため目上のローブを着ているクレイアルラには逆らえないと言った具合らしい。
「それだけでもなさそうですけどね」
スレイは先程の受付嬢が何度も後ろに目を向けていたことに気づいた。
後ろにいた彼女の上司は視線を気にしていた。
連日あのような人数の試験者が来て忙しい、少しでも厄介な受験者は追い返せとでも言われていたのだろうが、クレイアルラの手前そんなこと出来るはずもないので後でなにか小言を言われるのかもしれない。
そう考えていると
「お待たせいたしました。皆さま第三試験場に起こしください」
先程の女性が帰ってきて役所の裏手にある運動場のような場所に案内される。
広さは前にスレイとユフィが冒険者の新人試験を受けたときの広さと同じくらいだ。
そんな運動場の中央には的のようなものが設置されており、その側に役所の職員たちが作業をしていた。更にその奥には観覧席が用意されており、そこに緑や黄色のローブを着た魔法使いの姿もあった。
どうやら試験は観覧が可能のようだが、どこか様子がおかしいと思いスレイはこっそりと聴力を強化して会話を盗み聞きした。
「あの剣持った奴が受けるらしいぜ」
「こいつは見ものじゃねぇか」
「つうか、あの野郎のつれてる女どれも良い女じゃねぇか?」
「俺たちで奪ってやるか?」
そんな話し声が聞こえてスレイはキレそうになった。
あいつらの首に剣を突き刺してやりたくなり、黒い剣の柄に手を触れかけたのだが、良いことを思い付いたっと思ったスレイはニヤリと口元を歪める。
横からツンツンっと誰かが小脇を小突いてきたのでそちらの方を振り返ったスレイの横には、いつもの眠そうな目を向けてくるライアと、引いたような目をしているミーニャだった。
「……スレイ、顔が犯罪者みたい」
「お兄ちゃん、お願いだから問題だけは起こさないでよね」
「君たち、まだなにもやってないのに流石に傷つくよ」
「それじゃあなにかするつもりだったんでしょ!」
ミーニャからの鋭いツッコミを受けたスレイは、図星だったためシュンっと小さくなってしまった。
それがおかしかったのか魔法使いたちの下品な笑い声が聞こえてきたが、無視しておこう。そう思いながら審査の内容を聞いてみると、どうやらあの的に魔法を打ち込むだけだと言う。
「あの的はミスリルと魔力を封じる魔鉱石の合金で出来ています」
「……スレイ、魔鉱石って?」
「簡単に言うと魔力を無効化する鉱石で、それを使った盾なんかは魔法を霧散させるんだ」
「……へぇ~」
スレイがライアへの説明していると、その間説明を待ってくれていたようだった。
「続けますが、この的はどんな魔法を撃ち込んでいただいてもびくともしません……ですが稀にこれを破壊してしまう方もおりまして………」
何やら職員の女性がビクビクとしたようするでクレイアルラのことを見ている。
もしやと思いみんなが一斉にクレイアルラの方へと自然を向けると、視線の先のクレイアルラが頬を薄く染めて咳払いをした。
「………若気の至りです」
こういう顔は珍しいのだが、深くは追求してはいけないだろうと、このときばかりはライアも察したのか誰もなにも言わずにいた。
「マジか、先生でもそんな事があるんだ」
「意外な事実だね」
「うん。ホントそうだね」
それなりに長い付き合いであるはずのクレイアルラの意外な一面を知った三人だった。
「私のことはいいので、早く試験を始めなさい」
いたたまれない空気になったクレイアルラが試験を進めるように急かした。
この後の予定も有るのでスレイたちは早速審査を受ることにした。
順番は四人で話し合った結果、ノクト、ユフィ、ミーニャ、スレイの順番でやることになった。
「うぅ~、一番手。緊張します」
「……ノクト頑張る」
「リラックスして行けば大丈夫ですよ」
緊張するノクトに声をかけるライアたち。その声を聞いて元気をもらったノクトは愛用の杖を構える。
「それでは準備ができたら始めてください」
「はい!お願いしますッ!」
緊張を取るために深呼吸を繰り返すノクト、それを少し離れたところからスレイたちは静かに見守っていた。
「ねぇ兄さんノクトちゃん大丈夫かな?」
「ん?大丈夫だよ」
「でもノクトちゃんって攻撃魔法が得意じゃないって言ってたけど」
「大丈夫だよミーニャちゃん。最近のノクトちゃん、攻撃魔法も練習してメキメキと成長してるんだから」
「そういうこと、だから見てない」
スレイとユフィに言われてミーニャもノクトのことを見守ることにした。
息を整えて準備の整ったノクトは的に向かって真っ直ぐ杖を構えると、杖の宝珠に魔法陣を展開させる。
「行きますッ!───フリージングブラスト!」
ノクトの放った氷の魔法は地面と的を凍りつかせる。
職員が的の確認をしてから、ノクトに合格を言い渡した。スレイたちのところに戻ってきたノクトは、心底安心したように深く息を吐いた。
「はぁ~、良かったです」
「おめでとうノクトちゃん。それじゃあ次はお姉さんが頑張ってきますッ!」
フスンッと気合を入れて向かっていくユフィにスレイは注意した。
「ユフィ、間違ってもやりすぎないでね」
「わかってまぁ~す」
本当にわかっているのかと心配になるセリフを吐いたユフィに、スレイたちは大いに心配になった。
職員たちが魔法でノクトの出した氷の撤去をしていたので、少しその場で待っていると五分ほどで氷の撤去を終えた。
「準備ができましたので始めます」
「はい!お願いします」
杖を構えたユフィは魔法陣を複数同時に展開させながら声をかける。
「行きますよ───テンペスター・ユピテルノ!」
杖に展開された魔法陣が発動すると、雷撃と暴風を合わせた暴風が狭い試験場の中に吹き荒れる。
吹き荒れる嵐によって的は地面ごとえぐりとられ飲み込まれると、拭き上げた暴風は運動場の奥にあった安全用の魔方陣に魔法がぶつかるまでに至った。
暴風の中に飲み込まれた的は、暴風が消えたときには原型をとどめていなかった。
試験官を行っていた職員たちの目が点となり、見守っていたスレイたちが呆れている中当の本人はとても満足そうな顔をしてこちらにブイサインを送った。
「イぇ~ぃ!やったね」
「いや、どう視たってやりすぎでしょ!」
満面の笑みを浮かべるユフィにスレイの叱咤の声が響いた。
⚔⚔⚔
ユフィが的を完全に破壊したため新しい的の容易をしている間、試験は休憩になった。
整地作業を見ながらスレイはユフィと話していた。
「ユフィ、流石にやりすぎだって」
「先生の弟子としては当然のことだよ。それに、先生の弟子としては同じことやらないと」
「だからってねぇ」
「スレイくんも、なにかするつもりなんじゃないの?」
「はてさて、なんのことでしょうか?」
「目をそらして言ってると、説得力皆無だよ」
しまったと思ったスレイだったが、ちょうどいいタイミングで職員から声がかかった。
「準備が終わりましたので、試験を再開します」
「次私だ」
「ミーニャちゃん、がんばってくださいね!」
「……ファイト!」
「うん!行っていいます」
二人からエールを受けたミーニャが開始線まで歩いて杖を握ると、受付の女性がそれを見て話し始める。
「準備ができましたら開始してください」
「はい……行きますよ───ブレイジング・ドラゴラム!」
ミーニャの杖から五色に輝きを放つ竜が出現し的を穿った。
穿たれた的はわずかに勧めているだけであったが、ミスリルと魔鉱石の合金を的にしたことを考えると十分な結果だ。
「ミーニャ、随分と魔法の腕を上げましたね」
「あなたが家を出てからは毎日私の元で特訓の日々でしたからね」
「そりゃ強くなるはずだ」
最後にスレイの番となったので前に出る。
「スレイ殿、頑張ってください」
「あぁ。頑張るよ」
スレイが杖を持っていないのに気がついた魔法使いたちからヤジがとんだ。
「魔法使いが杖も使わねぇでどうやって魔法使うんだ~?」
「どうせ、たいした魔法も使えねぇんだし、後ろで見てやろうぜ?」
なんとなくスレイの考えていることがわかったユフィたちは、的のちょうど真後ろに来てくれた魔法使いたちに向けて哀れみの表情を浮かべた。
スレイは内心で喜びながら前に出ると、審査をしてくれていた人から声をかけられた。
「キミ、杖は無くても良いのかね?必要ならば貸し出しも出来るが」
「大丈夫ですけど、ちょっと問題が起きたらすみません」
最後の言葉に眉を潜めた審査員だったが、スレイの大丈夫という言葉を聞いて他にはなにも言わずに下がった。
位置についたスレイは右手をまっすぐ伸ばし銃の形に構えた。
「あぁ~、やっぱりあの魔法使うんだ」
「死んじゃったり、しませんよね?」
「スレイ殿のことですし、大丈夫じゃないでしょうか?」
心配するユフィたちを指の先に魔力を集め、魔方陣を展開させる。すると程なくして小さな光の球体が出来上がった。
「行きます───イルミネイテッド・ヘリオース!」
スレイが魔法の名前を告げ放たれた魔法は、ごく細いレーザーのように飛んでいくと、ジュッと水が蒸発するような音を鳴鳴らしながら、的の中央に穴を開けた。
スレイの放った魔法は、的を穿ったがそれだけでは止まらず後ろの魔法防壁にぶつかった。
的の真後ろに立っていた魔法使いと審査員はさすがに大丈夫そう思った次の瞬間、防壁が砕け散った。
パリンっとガラスが割れるような音と共に防壁が砕け、観覧席でのんきにふんぞり返っていた魔法使いたちの真横に魔法が当たる。
的に穴を開けて防壁さえも破った魔法がすぐ側を撃ち抜くと、魔法使いたちは口から泡を吹いて倒れた。
ついでに言っておくと、股を水浸しにしていたがこれだけは言っておく、わざわざ魔法が飛んでくると分かっているのにそこに立っていたあいつらが悪い。
⚔⚔⚔
その後、スレイは役所を破壊したことをクレイアルラからこっぴどく叱られた。
あの魔法使いにやったことはまだ良いらしいのだが、やはり破壊したことに関しては許せないらしく、良い笑顔で帰ってきたスレイの頭をクレイアルラは杖で叩いてから説教した。
説教が終わるとスレイが魔法で穴を開けた場所を錬金術で修復させた。
そのあと役所の人がスレイたちのローブを用意してくるまでの間、クレイアルラからのお説教を受けていました。
「まぁ、今日はこれくらいにしておきますが、次にこんなことをしたら折檻だけでは許しませんからね?」
「はい。しっかりとそのお言葉を肝に命じておきます」
正直な話し今ここで一番怖いのはクレイアルラだ。最近フリードとジュリアが迷惑をかけたからか、はたまたその時のストレスが残っているのか、今のお叱りもマジ怒りの一歩手前の迫力だった。
クレイアルラの折檻が終わり試験の結果を聞くと、どうやら全員無事に結果が出たらしい。
「それではこちらが国から発行される認定書となります。この国ではこちらも身分証として機能しますので、紛失などにはお気をつけください」
スレイたちは役所の人から身分証と同じカードを渡された。
カードには身分証と同じように持ち主の名前が書かれており、それと同時にローブの色までかかれていた。
「ねぇねぇスレイくんのローブ何色だった~」
「ん~っと、黒だね。どうせユフィもじゃないの?」
「あったり~、いやぁ~黒いローブかぁ~、私に似合うかなぁ~?」
いつも白いローブを着ているユフィ、似合うかどうかはさておき着ておかないと有らぬことでバカにされかねないので着ていないといけない。
「ノクトとミーニャはどうだったの?」
「私は黄色だって……もっと上になりたかったんだけど」
「わたしは緑でした」
ノクトは気にしていないらしいがミーニャはどうやらもっと上を狙っていたようだ。ただあとから聞いた話しでは、ミーニャの歳で黄色を取るのはあまりいないらしい。
「それではこちらにいくつかローブをご用意しておきましので、お好きな物をお選びください」
そう言って持ってきてくれたローブだが、男物のデザインなど凝っているはずはなく持ってこられたのは丈の長さだけが違うローブで、どうせ着るつもりもないのでポンチョのようなローブをもらったが、使われている生地が普通の布、こんな物では魔物と戦えないな、そう思いながら空間収納に仕舞おうとしたスレイだったが、その手をリーフに捕まれた。
「せっかくなんですから着てみてください」
「いや、ボクは別にローブは欲しかった訳じゃないし、このままで良いって」
「いいではないですか。ほらスレイ殿。着てみてください、私からの頼みだと思って」
「なんか、最近リーフがやけにグイグイくるな」
ここ最近でいろいろと吹っ切れているらしいリーフ、少し前ならば顔を真っ赤にしてしまうスキンシップも、最近では率先してしてくるほどだ。
その後、抵抗虚しく押しきられる形でローブを着たスレイは、みんなにも見せたのでコート姿に戻ろうとしたのだが、ささっとコートをユフィに回収された上、空間収納に仕舞われたので仕方なくローブ姿で一日過ごすことになった。
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