マルグリット魔法国へ
スレイの父フリードと母ジュリアの喧嘩が収まってから二日後、スレイたち一行とクレイアルラ、そしてミーニャの七人は、旅の衣装を身に纏いアルファスタ家の屋敷の前に集まっていた。
「スレイのときはなんとも思わなかったが、娘が家をでるってのは心配になるな」
「ひっどい父親だな、息子にはなんとも思わないのか?」
「そうだな。お前の場合はユフィちゃんに振られないかって心配はあったな」
「よし父さん。殺してあげるからそこ動くな」
「はいはい。そこまでだよスレイくん」
黒い剣を引き抜いて斬りかかろうとするスレイをユフィが魔法で拘束した。
「フリードさんたら、ミーニャの門出なんだから、ふざけないでね」
「悪い悪い。でもまぁ、これが家らしいってことで」
今日はミーニャの旅立ちの日だ。
これからミーニャは西方大陸にあるマルグリット魔法国にある魔法学園の入学試験を受けるために家を出る。
昔から魔法で何か日とのためになる仕事がしたいと言っており、スレイやユフィのように冒険者になって人々を守るのではなく、魔法使いとして出来ることを探すため学園への入学を決めた
「学園生活かぁ~。学校なんて通ったこと無いからちょっと憧れるねぇ~」
「リーフお姉さんは学園に通っていましたよね。そんな感じだったんですか?」
「ずっと鍛錬ばかりしていましたので、学友と遊ぶなどはありませんでしたね」
リーフの悲しい学園生活を聞いたユフィたちは、なんだか哀れみの表情を浮かべていると、ライアはふと有ることに気づいた。
「……ミーニャ、顔青い?」
「はい……ちょっと、不安で」
学園に入ると言っても明日の入学試験に合格しなければならない。
学園は世界最高峰の今から心配しすぎて顔が真っ青になっていた。それを見かねたジュリアがミーニャのことを優しく抱き締めながら話し始める。
「大丈夫、心配することはないわよミーニャ。あなたなら出来る。出来る娘なんだから」
「でっ、でも、お母さん……もしも落ちちゃったら?」
「心配ないわよ。いい、あなたはSランク冒険者、妖精姫クレイアルラの弟子で、Sランク冒険者フリードとジュリアの愛娘、あなたの実力はこの世界有数の実力者たちが認めるのよ?ハッキリ言ってあなたは無敵よ」
少し離れたところでジュリアの台詞を聞いていたユフィたちは、その言葉はいささか言い過ぎではないのだろうかと思えてしまった。
「母さん、それは逆効果だよ」
「あら、実際そうよ」
過度な期待をかけられてミーニャは余計に肩の力が入りすぎてはいないか心配になったのだが、次の瞬間ジュリアがミーニャから離れる。
「お母さん?」
「元気のないミーニャに、元気の出るプレゼントよ」
懐からなにかを取り出すとそれをミーニャの首にかけた。
ユフィたちがなにを着けたのだろうと気になって見てみると、どうやらミーニャの首に下げられたのは小さなペンダントのようだった。
「これはね。幸福のアミュレットよ」
「幸福のアミュレット」
「お母さんの故郷。これからあなたが行くマルグリット魔法王国なんだけどね、そこで昔からあるお守りなの」
「へぇ~、マルグリットのお守りなんだ」
「えぇ。これを身に付けている者に幸福が訪れますようにって、祈りを込めながら送られるのよ。見にはいけないけど、試験に受かるように祈りを込めてあるわ」
「ありがとうお母さん」
ペンダントを受け取ったミーニャが嬉しそうに微笑んでいると、リーシャとヴァルマリアがミーニャに抱きついてきた。
「おねーちゃんがんばってね~」
「いってらっしゃいおねえちゃん」
「うん。行ってくるね」
ミーニャが二人のことを優しく抱き締めている横で、フリードがジュリアの方を抱きながらミーニャたちの姿を複雑そうな表情を浮かべていた。
「ミーニャ、長期のお休みになったらちゃんと帰ってきなさいよ?」
「はい!」
にっこりと微笑んで答えるミーニャ。
「休むと言えばスレイ。お前ここ最近休んでっか?目の下かなりひどい隈が出来てっぞ?」
フリードはスレイの目の下の隈を見ながら若干引いた顔をしながらスレイを見ている。
当のスレイはと言うと今にも死にそうな顔をしながらふるふると首を横に降っていた。つまりは全く大丈夫ではないという意味らしい。
「もうねぇ、早くゆっくり休みたい……全部終わらしてスッキリした気分でなにも考えなくていようにさぁ」
「そっか、そんでここ数日ギルドで依頼受けまくってたって訳か、今いくらあるんだ?」
「えっと、大体白金貨三十枚くらいかな?死霊山で狩った魔物のコアもかなり売ったから、一括で土地と家くらいなら買えるだろ?ねぇ父さん大丈夫だよね?」
そろそろマジでライアにところ構わず襲われそうな危険が出てきており、この数日の間の間にあったライアからのちょっと過激なアプローチ数々がこちら、朝起きたと同時にディープなキスをしては、抜け駆けはズルいとユフィたちも同じようなことをする。
または風呂に入っていると一緒はいろうとしてきたが、流石にこん9行動は詠めていたのでアラクネの目を使ってライアたちが入ってきたと同時にゲートで部屋に戻したていた。
スレイが一人で依頼に行って夜遅くに帰ってきて眠ろうとするとライアは裸でベッドに潜り混んでくる。
これは転移魔法で逃げた。
そんな強引なアプローチを受け続けたスレイは、もはやいろいろと限界な上に爆発間近、マジでスレイの方から襲いかかっても文句は言われないだろうなっと、割りと真剣にそんなことを思うほど精神的に疲弊していしまっていた。
「どうでもいいけどなぁ、ちゃんと避妊だけはしろよ?」
「スレイ。これあげるから、ちゃんとみんなに飲んでもらうのよ?」
「ありがと………って、何だこりゃ?」
ジュリアから十本程度の小瓶が入ったポーチを渡された。
小瓶の中には無色透明な液体で満たされている。初めて見る魔法薬だったため、まじまじと見ていたスレイはいったいなんなんだろうなっと思っていながらフリードとジュリアにこの魔法薬について聞いてみた。
「だから避妊薬よ」
「えっ、マジで!?」
「あったんですか避妊薬!?」
スレイとユフィが驚いて叫んだ。
実は旅の間にも何度かそう言う薬がないのか探してみたことはあった。だがどこを探しても見つからず、無いものとばかり諦めていた薬がまさか両親が持っていたとは。
こんなことならば恥ずかしがらずにそう言う薬が無いかを聞いてみれば良かったっと思っていた。
「あんまり出回ってないのよね。この薬、空間収納に入れておかなければ三日も持たなくて、期限が過ぎちゃうと効果が逆転して懐妊薬になっちゃうのよ。それも催淫作用のあるね」
「なんですかその薬として意味のなさない薬は!?」
「しかも、最後の方はヤバいことになってませんか!なんですか懐妊薬って初めて聞きましたよ!?」
「……懐妊薬じゃない、催淫作用があるならそれはただの媚薬」
「そうなのよ。ちょっと扱いが大変だから一般のお店じゃ扱ってなくて、私も実際に知ったのはリーシャちゃんが産まれてからだし」
唐突に名前を呼ばれたリーシャが、よんだ?、っと小首をかしげながら可愛らしく反応したが、まだ小さいリーシャには聞かせてはいけない内容だったので、適当にごまかした。
「その薬、ルラが作り方知ってるはずだから教えてもらったら?」
「「ルラ先生!作り方を教えてください!」」
避妊薬も魔法薬の類いなので魔法使いであるユフィとノクトが、一目散にクレイアルラの方に駆け寄っていき、丁寧に頭を下げて作り方を伝授してもらおうとしていた。
「……ユフィとノクトは行ったけど、スレイは教えてもらわなくていいの?」
「ボクは魔法薬に関してはからっきしだから、取りあえず任せることにします」
「あの、スレイ殿。無理だけはしないで下さいね?」
リーフよ、それは無理だっとスレイは言いかけたが、ユフィたちが嬉しそうにしているのを見てその言葉を飲み込んだのだった。
「それじゃあ、ミーニャ、スレイたちもそろそろいきましょうか?」
クレイアルラがゲートを開くと、もう一度だけミーニャがみんなに、行ってきますっと挨拶をしてそれに続いていくようにスレイたちもゲートを潜っていった。
⚔⚔⚔
マルグリット魔法国。
西方大陸の中央に位置するその国は、魔法で成り立っているといっても過言ではないほどの魔法大国である。
そこでが生活のすべてに魔法が使われており、魔法使いの総本山とさえ言われている。
多くの場所では使われることのない最新の魔道具があったり、空にはさまざまな魔法が飛び交い鮮やかな華が咲いていた。
こんな光景は、他の国では見ることのできない、まさに魔法の国がそこにはあった。
マルグリット魔法国、首都リーゼンベルム。
ここに目的地である魔法学園があるのだが、始めてこの街に来たスレイたちは、今まで旅で訪れたどんな街よりも幻想的な街中に思わず見とれてしまいそうになった。
街についてからクレイアルラの後を追って街の中を歩き回っていたのだが、右を見ても左を見ても珍しい物で溢れており、一日ではとてもではないが回りきれない。
日々進歩が進んでいるこの国では一日経ってしまえば、それはもう古い技術になっている。
なので毎日が新しい発見、一生をこの国で過ごしたとしても回りきることは出来ない。っと、ここでスレイたちは大事なことを思い出した。
ここへは仕事で来たスレイたちと、学園の入学試験を受けに来たミーニャは、観光気分を振り切った。
「そう言えばルラ殿、仕事の内容を聞いていなかったのですが、そろそろ教えてもらえないでしょうか?」
「そうですね。ちょうどいいですので話しましょう」
リーフの質問にクレイアルラが答え、スレイたちも話しに耳を傾けていた。
「まずは、あなたたちに訊ねます。一時間ほど街の中を歩きましたが、あなたたちから見たこの街はどういう風に見えましたか?」
久しぶりにクレイアルラの授業を受けているような感じ、スレイとユフィは懐かしい気持ちになった。
「……魔法がいっぱい」
「見たことのない魔法がいっぱいです!」
「至るところに魔法使いがいますが、私たちのように武器を持っている人をあまり見かけませんね」
「そう、それなんです。ではもう一つ、今度はミーニャに訊ねます。この街の魔法使いを見てどこか違和感を感じることはありませんか?」
突然話しを振られたミーニャはアワアワしながら周りを見回し始めた。
「あっ、えっと………ローブの色がカラフルな気がします」
「えぇ。その通り、この国は魔法使いの力をローブの色を使って判断しています。一番下から、白、青、赤、緑、黄色、茶色、灰色、黒といった具合ですね。ちなみに私はこの国では最高ランクである黒の魔法使いに認定されていますね」
「あっ、だから先生今日は黒いローブを着ているんですか」
「えぇ。私このローブ嫌いなんですが、これを着ていないと面倒なんですよ。ローブの色が下ほど魔法使いとしの力が弱い証なんです。力が弱いと差別されますし、白や青のローブを着ている物は録な職にもつけずに街を出る者が多いですね」
チラリとユフィ、ノクト、ミーニャが周りの視線を気にし出した。
実はこの街についてから周りの人たちから、ユフィたちがニヤニヤしながら見ているのに気が付いていた。
どうせ気のせいだろうと思ったのだが、今の話を聞いて理解できた。
つまりは周りのユフィたちが弱いと見下しているのだ。
ユフィのローブは白を基調にしており、ノクトは青を基調にしてはいるが白の割合も多い、ミーニャに関しては薄いピンクと白のローブだ。
今の話を聞くと真っ白のローブ着ているユフィは一番下、次に青の入っているノクトでミーニャはピンクだが、赤と取れるので一番上だろ、だが先程からユフィたちを見ているのは緑や黄色のローブを着ている者たちだった。
「ローブ審査は国の役所で受けることが出来ますので、ひとまずそこにいきましょうか」
「あの先生、ローブ審査ってボクも受けなくちゃいけないんですか?」
「そうですね。出来るならばそうしてください」
ローブを着ることになると聞いてスレイが複雑な顔をした。
「お兄さん、そんなにローブを着るのが嫌なんですか?」
「ボクは魔法は使うけど魔法使いというよりも、剣士の方に近いからね。ローブに剣を下げる姿は似合わないだろ?そもそも、色が嫌なんだけど?」
「スレイ殿、髪の色と白い剣意外は真っ黒ですもんね」
「……うん。たまにはスレイの違う姿を見てみたい気分」
「昔、私もそれを言ってデートしたときに色んな服買ったんだけど、それもあんまり着てるの見たことないよ」
なんでかは分からないが、ユフィたちがスレイの服装批判を始めてしまったがそんなのどうでもよくね?っとスレイは思いながらミーニャに慰めらていた。
「話しを戻しますが、私が依頼されたのは魔法学園からでして、ちょっとした問題が起こっているらしくそれを解決してほしいとのことなんです」
「先生、大事な妹を問題のある場所に入学させようなんてなに考えてるんですか?兄としてちょっとお話ししたいんですが?」
「私としても誠に心配ですが、ミーニャの選んだ道ですので私に口出しする権利はありません」
そう言われると言い返せないスレイは仕方ないと諦めはしたが、期限が過ぎたらまた旅に出る予定ではあるがこれから買う家はミーニャを助けれる魔道具を置いていこうと考えていた。
「ミーニャが選んだことなら仕方がありませんけど、ボクたちが先生の代わりにその依頼を受けてもいいんですか?」
「えぇ、向こうには事情を説明してありますし、スレイもユフィも私の自慢の弟子です。問題がありません」
結局、依頼の詳しい内容については秘密だが、学園の入学試験終了後に依頼主側が会談の場をもうけてくれるとのことなので、詳しい話しはそのときにすることとなった。