温泉での会話 ②
更新が遅くなって申し訳ありません。
スレイが黒鎖です巻きにしたフリードを引きずって出掛けていったあと、ノクトたちの尽力もあってジュリアは何とか落ち着きを取り戻した。
しかし、言い足りない気持ちがあったのかどこかもやもやする気持ちを落ち着かせるため、温泉に行こうと言い出した。
「さぁみんな!温泉に行くわよッ!」
「「おぉ~!」」
無理にテンションを上げたジュリアと、それに合わせて合いの手を打つのはリーシャとヴァルマリアだった。
「お母さん、わたしもなので!?」
「そうよッ!あっちが男同士なら、こっちは女だけで温泉に行くわよッ!」
反論したのは庭で魔法の練習をしていたミーニャだった。
訓練中にいきなりやってきて、これまたいきなり温泉に連れ出そうとするジュリアに困惑していた。
ついでに言っておくと、ジュリアが屋敷を出ていこうとした際にメイドさんたちが停めようとしたが、有無を言わせぬジュリアの威圧に恐れおののきなにも言えずに通してしまった。
先頭を歩くジュリア、その後ろをただついていくことしかできないユフィたちは、いささかこの状況に不安を覚えていた。
「先生。おばさん、大丈夫でしょうか?」
「ユフィ、あなたの不安は最もですがジュリアも大人です。すぐに収まります」
「私が心配してるのはそういうことじゃ───アッ!」
そういったそばから問題が起きた。
なんとも柄の悪そうな二人組の男の一人がジュリアの肩にぶつかり大げさに痛がった。
「オイこら姉ちゃん。何ぶつかってきてんだよ!」
「いってぇ~。いやぁ、こりゃ折れちゃってるよ。慰謝料よこしな、慰謝料」
活気が戻ってきて他の街からも多くの観光客が来おり、こういう輩も増えてきているとおもってはいたがこんなにすぐに絡まれるとは思わなかった。
「腹ん中にガキがいるみてぇだが、俺たちゃ容赦しねぇぜ?」
「ほら、慰謝料が払えないなら身体で払っても───」
「あなた達、やめなさい!」
男の手がジュリアの胸をつかもうとしたのを見て、すかさずリーフが止めに入ろうとした。
その時、パキィンッと何かが割れるような音と共に男どもが凍りついた。
「うるさいわね。殺すわよ?」
目にも止まらぬ早業で男たちを氷の中へと閉じ込めたジュリアの目は本気だった。
すぐ近くにいたはずのミーニャは、ジュリアが魔法を発動した瞬間を感知できず目を丸くした。
「お母さん……殺してないよね?」
「氷の膜で覆っただけよ。十分くらいで溶けるわ」
スタスタと子どもたちを連れて先に行くジュリア、少し後ろを歩いていたユフィは氷漬けの男の額に"私は当たり屋です"っと書いた紙を貼った。
「さすがおばさん、惚れ惚れする早業ね」
「あれ、自分が止めに入っていたら凍らされていたのでしょうか?」
「ジュリアはそんな初歩的なミスは犯しません………ただ、あのときジュリアが触れていれば確実に死んでいましたね」
もしもあの男がジュリアに触れていれば、体の芯から凍りついて腕が砕け散ってしまっていたかもしれない。
「……スレイの母、怖い」
「恐ろしいです」
ジュリアの本気の一端を見たノクトとライアの口から思わず出たその言葉にクレイアルラも同意する。
「いくら妊婦とは言え、ジュリアを心配するのは無用ですね」
「ルラ殿、それは流石に……」
「冗談ですが、あまり無理をしなければ咎めはしません」
っとは言ったものの、あれも十分無茶だとは思っているクレイアルラは、少し注意をしようと思った次の瞬何を考えたのかジュリアが逃走した。
「なッ──待ちなさいジュリアッ!」
「アッ!おばさん、先生ッ!?」
走り出したジュリアを追っていくユフィとクレイアルラ、あまりのことに遅れを取ったリーフも追おうとしたがこちらにはリーシャとヴァルマリアがいる。
おいていくわけには行かないとリーフが二人を抱えて叫ぶ。
「待ってください皆さん!──皆さん!我々も追いますよ!!」
「……んっ」
「はっ、はい!」
「わっ、わかりました!」
遅れて何とかジュリアたちに追い付けたユフィたちは、ジュリアのことをなんとか止めてること出来た。
「おばさん、そんなに急いだらお腹の子に悪いです!」
「ジュリア!あなたいい加減にしなさい!今のあなたは自分一人の物ではないと言う自覚があるんですか!?」
ユフィとクレイアルラの二人がジュリアの肩を掴んで止めると、振り返ったジュリアの顔を見たユフィたちはそろって表情を固まらせながら困惑してしまった。
なぜならば、振り返ったジュリアの顔は今にも泣き出しそう、というよりもすでに目尻に涙をためていたからだ。
「ルラァ~、どうしよう~、私………私、フリードさんと……けっ、喧嘩しちゃった」
「ジュ、ジュリア!?落ち着きなさい。大丈夫、大丈夫ですからね。そんななかないでください!?」
あまり見ないジュリアの涙に驚いたクレイアルラは珍しくオロオロとうろたえながらも、泣き出したジュリアを抱き寄せポンポンっと背中を叩きながら落ち着かせている。
そしてあとから追いつき普段は絶対に見ることのないジュリアの泣き顔に、ミーニャもビックリし、リーシャに至ってはジュリアが何で泣いているのかが分からずに鳴き始めてしまった。
「うわぁあああ~~~ん!!」
「あぁ!?リーシャちゃん、お母さんは大丈夫だから泣かないで!?」
「ほぉ~ら、リーシャちゃん鳥さんですよ~」
年長者で子守りの経験があるユフィとリーフがリーシャをあやし始めたのだが、道の真ん中で後も騒いでは目立ってしかたがなかったため、料金はお高そうだったが目の前にあった豪華な宿に入りそこで個室を借りた。
⚔⚔⚔
通された個室はここらではかなり珍しい襖に畳と、従業員の服装はこの大陸のメイドなのだが見た目だけは和風造りなので、若干の違和感があったが全員で畳の上に腰を下ろして、そこでジュリアとリーシャが落ち着くのを待っていた。
「みんなごめんなさい、なんだかつい感情的になっちゃって」
「妊娠中は皆そうなるものです。今思い出しましたが、スレイを妊娠してた時にも同じでしらから」
「あら、そうだったかしら?」
「えぇ、あのときはちゃんと育てられるか、元気に産まれてくるか、後はそうですね………そうそう、今日みたいに名前を付けるときにも喧嘩していましたね」
クレイアルラからの話しでスレイのときも、同じようなやり取りをしていたのかとそう思ったユフィたちだったが、まだ少しだけグズっているリーシャが心配なのでついていることにした。
一応、ここにいても話は聞こえるのでそのまま話は聞いていたのだが、個室に入ってからヴァルマリアが外の方をジッと見ているのに気がつき、ノクトがどうしたのかを訪ねる。
「むこうに、おにいちゃんがいる気がする」
「お兄さんがですか?」
「マリアちゃん。それは本当なんですか?」
「たぶんだけど、いると思う」
ヴァルマリアの言葉を聞いて、どう言うことだろうっと思ったユフィたちだったが、もしかしたら偶然にも同じ宿屋に来てしまったのではないかっと思った。
考えても仕方がないのでノクトが部屋を出て宿の人に確認しに行き、暫くして戻ってきたノクトがユフィたちに話し始めた。
「マリアちゃんの言うように、本当にお兄さんとお義父様がこちらの宿にいるみたいですよ。それも大浴場じゃなくて個室風呂の方にいるみたいですね」
ノクトの話を聞いて突然ジュリアが立ち上がった。いったいどうしたんだろう、そう思ったユフィたちの視線がジュリアの方に向けられる。
なにも言わずに大きく息を吸ったり吐いたりしたジュリアが、よし!っと意気込みを入れると、ユフィたちの方を見たジュリアが告げた。
「私、ちょっとその個室風呂に行ってフリードさんとお話しして、ちゃんと昔みたいに仲直りしてくるわ。これ以上は子供たちに迷惑はかけられないからね」
決意に満ちたジュリアのその目を見て、どうやら泣くだけ泣いてスッキリしたのか、立ち直ったみたいでよかったなっと思ったユフィたちだったが、一つ気になることがあった。
「……母が行っちゃったけど、スレイ追い出されるんじゃないかな?」
「あっ、確かにそうですね………あの、ライアさん、わたし良いこと思い付いたんですけど」
「……ノクト、多分だけど私も同じこと考えてると思う」
なにやらこそこそとノクトとライアが話し始めたが、リーシャのことを見ていたユフィとリーフにはその話しが聞かされない、こそこそといったいんの話をしているんだろう?そうユフィとリーフ思っておると、ノクトとライアが二人の方にやって来て、話していたことを教えてもらい、二人も賛同したのだった。
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場所は変わりスレイとフリードの入っていた個室風呂では、二人でのんびりと湯船に浸かりながらサービスで出されたお酒を飲んでいると、風呂場の入り口が騒がしいなっと思っていると扉が開く音がした。
「なんだなんだ?また店員が来たのか?」
「別に何も頼んでないし、様子見かな」
そう思ったスレイとフリードが視線を向けながらグラスを傾けていると、湯煙で姿がよくは見えないがどうやら女性だとわかったと同時に、二人は飲んでいた酒を吹き出しそうになった。
「ブフッ!?」
「ゲホッゲホッ!なっ、何で女の人が!?」
スレイとフリードがお互いの顔を見合いながらまさか、この宿屋の店員が娼婦でも呼んだのか!?っと思った。
そうなったら確実に不倫現場になると考えたスレイとフリードの頭の中では、これから起こるであろう二つの災厄の事態が、かなり鮮明に想像ができてしまった。
スレイはユフィたちから別れを告げられる、フリードはジュリアに離縁状を突きつけられる、もしくは怒りまくった全員から滅殺される。
そんな想像を膨らませて顔を真っ青にした二人は、逃げ場のない場所から逃げようと模索する。
「ぅおっ、おいスレイ、ゲート!ゲート使えっ!?」
「ムリムリムリィッ!?ここガッチガチの結界貼ってあってムリッ!」
「じゃっ、じゃあ透明になる魔法で──」
「あるかそんなの!?」
このままじゃ不味いっと思った二人が慌て蓋めきながらも手拭いを腰に巻いて逃げる算段を相談していると、向こうから近づいてくる女性から声がかけられた。
「フリードさん?それにスレイちゃんもどうしてそんなに慌ててるの?」
かけられた声を聞いてスレイとフリードはお互いの顔を見合ってから、確実に聞いたことのある声に呼ばれなれたその呼び名を聞いて
「えっ、本当にジュリアさん!?何でこんなところにいるんだ………?」
フリードが声をかけスレイもよくよく目を凝らしてみるとたしかに母ジュリアだった。
かけ湯をしたジュリアがフリードの横にゆっくりと入っていた。
「たまには夫婦で入るのも悪くないんじゃないかしら?そう思うでしょスレイちゃん?」
「あぁ~、そう言うことならボクは先に上がらせてもらうから、父さん後は頑張って」
「ちょ、待てスレイ!?」
さすがに夫婦間の問題に口出しするほどスレイは野暮ではない、もっと言えば母親とは言っても年頃の男子としては一緒に湯船に浸かることはしたくない。
そんなわけでスレイは先に上がらせてもらうことにした。
スレイが風呂場から立ち去って、ジュリアと二人っきりになってしまったフリードは、先ほど喧嘩したこともあって少しだけ気まずい雰囲気になってしまった。
「「あっ、あの…………あっ、ごめんなさい」」
二人はまるで付き合いたてのカップルかとでも言いたげなやり取りをしているが、大きく息をはいた二人が同時に頭を下げた。
「「本当にごめんなさい!………えっ?」」
フリードとジュリアの声が見事にハモると、視線を会わせながら二人は小さく吹き出して笑ってしまった。
「ふふふっ、ねぇフリードさん。覚えてるかしら?」
「はっはっは、ん?なんのことだいジュリアさん?」
「さっき、ルラに言われて思いだ下だけど、私たちスレイちゃんが生まれる前も今みたいに喧嘩してたの」
「そういえば、すっかり忘れちまってたな」
昔を懐かしむように笑っているフリードとジュリア。
今思えばあのときの喧嘩が結婚してはじめてした喧嘩で、それからは喧嘩することもなく楽しい日々を過ごしていた。
懐かしいと思う気持ちと、ずいぶんと歳を重ねてしまったな、っと言う気持ちが同時に込み上げてきた。
「そう言えば、スレイから言われたんだけどさ、オレたちってあんまり喧嘩と言うか、さっきみたいな言い合いをすることなんてそんなになかったからさ、今日みたいに歯止めが効かなくなるんじゃないかって言われてさ」
「あらあら、確かになれないことをしちゃったから、私もついつい弱気になっちゃってね。さっき、ルラの胸の中で泣いちゃったわ」
「えっ、そんなオレ、もしかしてジュリアさんを悲しませるようなことを!?」
「違うわ、ルラに言わせれば妊婦は感情の突起が激しいからだそうよ、だから気にしないで」
微笑みかけてくるジュリアの笑顔を見たフリードは、胸の奥から愛おしさと悲しい思いをさせてしまった後悔の念が一斉に溢れだしてついついジュリアのことを抱き締めてしまった。
「ちょ、ちょっとフリードさん?そんなに強く抱き締めると、お腹の子供がパパ苦しいって言ってるかもしれないわよ?」
「あっ、そうだよな。ごめんジュリアさん」
「大丈夫よ。ほら、赤ちゃんたちも大丈夫だよ~って言ってるわ」
ジュリアがポッコリと膨れたお腹を撫でると、ポコっとジュリアのお腹を元気よく蹴っているのを感じ、心配そうに視線をぐるぐると泳がしているフリードの手を取って、自分のお腹にフリードの手を乗せてその上からジュリアは自分の手を重ねる。
「ねぇフリードさん、この子たちも元気に生きてるわ」
「あぁ、そうだよな………オレたちが喧嘩ばっかしてたらこの子たちが元気に産まれてこれないな」
「そうよね……ねぇ、フリードさん。やっぱり男の子の名前エディーがいいんじゃないかしら?」
「いや。オレの考えた名前よりも、ジュリアさんのルークの方がいいと思うんだが」
今度はお互いがつけた名前がいいと言い出したのだが、これでは本末転倒ではないかっと思ったのだが、ふと、ジュリアはあることを思い付いた。
「そうよ。ねぇフリードさん、私とフリードさんが考えた名前から最初の一文字を取ってエルって名前はどうかしら?」
「いいなそれ、じゃあ男の子の名前はエルで決まりだな」
「えぇそうね」
笑いあった二人はどちらともなく顔を近づけると、自然と顔を近づけていき長い口づけをし始めた。
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時は少し遡り、二人が謝り合いしていたころ、先に風呂から上がったスレイはもしも二人がまた喧嘩を始めたとき、すぐに仲裁に入れるように外に出るのを待っていたがどうやらそれは杞憂に終わったらしい。
本当にこの場にいるのも野暮だと思い風呂場から外に出る。
扉を閉めて一歩前に踏み出した次の瞬間、床を踏みしめたはずのスレイの足が沈んだかと思うと、なにやら変な浮遊感を味わうことになった。
「うわぁぁ~~~~~ッ!?」
少し上から落ちてきたスレイは、短い落下ではあったがなんとか受け身を取ってダメージを最小に押さえた。
「いってぇ~、んだよって、あれはユフィのゲートシェル?」
スレイは今しがた自分の落ちてきた天井にシェルが浮かんでいるのに気がつき、つまりこれはユフィがやったことなのかっと、考えながら起き上がった次の瞬間、スレイは顔を真っ赤にして高速で後ろに下がった。
「なっ、なななななななっ、何やってんだ!?」
スレイの目の前には一糸纏わぬ姿で、大事なところだけをタオルで隠したまま自分のことを見下ろすユフィ、ノクト、リーフ、ライアの四人の姿であった。
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