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人助けの終わり

本日三話目の投稿になります。

 依頼を受けてから二日、その日はビビアンの父親の家サールファス家から正妻の女性がやって来る日だった。

 しかし、その席に関係のないスレイたちやビビアンの義理の父マルコのパーティーメンバーであるアーキムが立ち会う訳にはいかないが、マルコの性格上何かあるとすぐにキレてしまう。

 そうだと心配したビビアンの頼みで、スレイのアラクネの目を通してこっそりと監視をすることになった。

 もちろん、マルコが相手側に暴力を振るおうとしそうになった場合はすぐに止めに入れるようにだ。


 現在ギルドの酒場の一席に顔を付き合わしたスレイたちとアーキムの六人は、アラクネの目を通してビビアンたちの家の中を覗いていた。


「うぅ~ん、やっぱりいい気分じゃないよな」


 ちゃんと許可は取っているからと言っても、人様の家をこうも堂々と盗撮するという行為にいささかの抵抗を覚えるスレイは、ビビアンの家を写し出しているプレートの前で腕を組ながらうねっていた。


「ちょっと~なんて声出してるの~?」

「いやさぁ……なんか、人様の家を盗撮している気分になってなんか嫌だ。なんかこう……悪いことをしている気分になってしょうがないんだよ」

「スレイくんさぁ、アラクネの偵察機能を使って結構盗撮や監視とか、なにかしらやらやってなかったっけ?それについては良心が痛くならないの?」

「悪人にはそんなもん感じる訳ないじゃないか。まったくユフィは面白いこと言うよね」


 はっはっは、っとスレイは笑っているがその目は笑っていない。ついでに言えば声にもあまり抑揚がない気がして少し怖い。

 そう思ったノクトとリーフ、ついでにアーキムの三人はスレイから距離を取り、ユフィはスレイがルクレイツアの影響を受けすぎていることにいささかの不安を覚ていたりもする。

 ついでに付き合いの浅いライアは、スレイが何をいっているのかわからない?と言った具合でいつもの眠そうな目をして首をかしげていた。


「常識のないスレイくんはさておき」

「ねぇユフィ、ちょっと?いったい誰が非常識だって?」


 ユフィの言葉に食って掛かるスレイを無視してユフィは時計を確認する。


「時間過ぎちゃってるけど、相手遅いね」

「ですね」


 相手側が予定よりも到着が遅れているらしく、ビビアンとマルコが椅子に座っている映像が流れ続けているだけでかなりつまらない。

 その証拠にライアは眠そうにあくびを漏らしているくらいだ。

 待っている時間もあれなのでなにかしようと考えたスレイは、同じく暇そうに杖を磨いていたユフィを見つけ声をかけた。


「ユフィ、小腹も空いたからさ、なんか作るの手伝ってもらってもいいかな?」

「うん、いいよ~。ちょうど私もお腹すいちゃったから」


 二人がそう話して席を立ち上がったスレイとユフィがそのままキッチンへと行こうとしたその時、ノクトとリーフからツッコミを受ける。


「いやいやいや!ちゃんと見ましょうよ!」

「そうですよ、どうするんですか作ってる間にことが動いたら」

「大丈夫だよ~、私の持ってるプレートとそのプレートをリンクさせてるから作りながら見てるよ~」


 ギルドの酒場のキッチンの一角を借りて二人は調理を始める。


「なに作るの?」

「とりあえず、簡単につまめる物にしようかと」

「じゃあポテトと、前に仕込んでおいた唐揚げあるからそれでいいかな」


 空間収納から芋と下味を付けて置いた鶏肉を取り出し、油や小麦粉を用意していざ揚げ始めようとしたところでプレートに動きがあった。


「うわっ、ちょっとユフィ!なんかドキツイメイクの樽女が出てきたぞ!?」

「スレイくんそれは流石に言い過ぎなんじゃ………ないかなぁ~って思ったけど、本当にその通りだったから否定できなかった」


 ユフィが珍しく言い淀んだ理由はプレートに写し出された人物の容姿が、まさにスレイが形容した通りだったからだ。

 その女は顔はかなりの厚化粧が施され、身に纏っているのは悪趣味な真っ赤なドレスに、彩りも考えず高価な宝石をいくつも身に着けてと、物語に出てきたら確実にヒロインをいじめてそうな継母のような姿だ。

 そんな女の横にはビビアンに似た顔立ちの男が立っている。

 どうやらあの二人は親子のようだがあまりにも似ていなかった。


 それを横目にスレイは揚げていたポテトを油から取り出すと、余分な油を落とし塩だけでなく色々な味に挑戦しているが、調味料が足りずに断念せずにはいられなかった。


 ビビアンたちの話し合いが始まった頃、席に戻ったスレイたちは作ったばっかりのポテトと、ユフィが作った唐揚げを摘まみながら話し合いの様子を覗いていた。


「特に変なことはなさそうだな。ん、塩気がちょっと足りないな」

「そうだね~、まぁマルコさんがキレなきゃいいんだけど。うぅ~ん、やっぱりちょっとつける時間が少なかったかも?」

「今のところは平和そうです。それにしても、あの女の人の装飾豪華ですね。あっ、リーフお姉さん、そのケチャップとってくれませんか?」

「聞いた話ではそんなにお金があるようには思いませんでしたけどね。ノクト殿、唐揚げにはマヨネーズの方が合うと思いますよ?」

「……あの樽女あんな太ってると身体に悪そう。それよりもスレイ、ポテトをもっと私に寄越すがよろしい」


 スレイたちがパクパクと口に入れていく横で、別の皿に取り分けられた料理を食べながら様子を見ていたアーキムがそっと意見をした。


「君たちのんきに食べながらって……いいのかな?」


 アーキムはそういっているが、本人も食べる手は止まっていないのであまり強くは言えないらしい。そうしていると何事もなく話し合いは終わる。


「無事に話し合いも終わりそうですね」

「そうですね。良かった良かった」


 そう誰しもが思っていた次の瞬間、カランっと何かが落ちる音が聞こえ全員がそちらに振り向くと、ライアが震えながら左目を押さえていた。それを見て隣に座っていたノクトが心配そうにする。


「ライアさん。どうかしたんですか?」

「………ダメ……ダメなの」

「いったい何がダメなんですかライア殿?」


 反対側に座っていたリーフもライアのことが心配になり声をかけると、震える手でリーフの手を払ったライアはテーブルに身をのりだし左目を押さえながらスレイにすがり付いた。


「おっ、おいライア?」

「……スレイ、お願い……今すぐ行って!間に合わなくなる!!」

「それって──ッ!?まさかッ!」


 今までに聞いたことのないライアの必死な言葉に驚いていたスレイたちは、まさかと思いプレートに視線を向けると影から現れた無数の人影によりマルコは刺されたところが写されていた。


「あぁ……また、助けられなかった」


 ライアのその言葉を聞いてスレイは眉を潜めるが、すぐに我に帰ったスレイがライアを座らせる。


「ライアはここで待ってろ!」

「……大丈夫、私もいっしょに行く」

「…………わかった。行くぞ」


 ライアの真剣な表情を見てスレイが連れていくことを決めると、全員が一斉に椅子を倒しマルコの家に向かって走り出した。


「スレイ殿!アラクネに治癒機能は付けてないんですか!?」

「残念だけど、あのアラクネは完全監視特化型でその機能は付いてないんだよ!クソッ!こんなことになるんらアラクネ全部に付けておくんだった!」


 自分のミスに悪態を付いたスレイは、ゲートを開こうと考えたが今の時間人の行き来が激しく迂闊に開くことができない。

 ビビアンの家と宿は距離にして数分の距離だが、走っていては時間がかかると考えたスレイは背中に竜翼を生やす。


「ボクは空から向かう」


 それを見ていたユフィはボードを取り出し、ライアもスレイと同じく竜翼を広げた。

 空から向かおうとしたスレイは、自分の持っていたプレートをリーフに投げ渡した。


「リーフとノクトはアーキムさんと一緒にこの映像を衛兵の詰め所に持ってってくれ!」

「分かりました!」

「あいつを、頼むッ」


 三人が揃って地面を蹴りあげ空へと飛びたった。

 場所はスレイのアラクネが発している信号を辿ればいいのだが、スレイたちが着くまでの間にマルコが死ななければと、半ば祈るような翼を羽ばたかせていく。

 そんななか、下で一台の馬車がまるで逃げ去るように走り去るのをみたユフィは、まさかと思い二人に声をかけた。


「スレイくん!ライアちゃん!あの馬車もしかして」


 ユフィに言われてスレイとライアが止まると、いかにも成金趣味と言った悪趣味な馬車をみる。


「……あの馬車、あのおばさんのかな?」

「そうかもな」


 念のためにスレイの魔眼で馬車の中を確認すると、馬車の中にはビビアンの魂を見つけ今からでもあの馬車を止めるかとも考えたが、人の命には変えられないがここで逃がすわけにはいかない。


「行ってこいアラクネ!」


 スレイは空中偵察用カスタマイズアラクネを取り出し馬車に向かって投げると、胴体部分につけられた羽を使って空を飛び後を追っていった。


「これで追跡は出来る。今は急ごう」


 再び羽を羽ばたかせたスレイたちは、急いで二人の家へと向かうのであった。


 ⚔⚔⚔


 マルコとビビアンの家の前にたどり着いたスレイたちは、扉の鍵が空いていることを確認する。

 スレイは胸のホルスターから魔道銃を抜き取り、ユフィの杖を取り出して握りしめる。もしもまだ中に人がいたときにために入り口の前をライアに任せて、二人だけで中にはいる。


「「………………………」」


 開けられた扉から中に入るとリビングの中央でマルコが血だらけで倒れていた。


「───ッ、マルコさん!」


 名前を叫びながらかけよりったユフィがヒールかけようとしたが、魔法はかけずにそっと杖を下ろして首を横に降った。


「……ごめん。マルコさんはもう」


 力なくうなだれるユフィを支えてスレイもマルコの死体を見る。

 背後から的確に心臓を一突きされており一撃で絶命していた。これではいくら治癒機能のあるアラクネを配備していても無駄だ。


「ユフィのせいじゃないさ」


 空間収納から布を取り出したスレイは、マルコの死体にそっと被せる。

 一度目を伏せて祈りを捧げたスレイは床においた魔道銃を握りしめる、ホルスターから魔道銃をも一挺抜く。それを見たユフィはスレイがやることを理解し、そっと眼を閉じた瞬間スレイは自分たちの影に向かって発砲した。


「いい加減、出てこいよ───フラッシュバレット!」


 スレイは迷わず影に向かって発砲すると、まばゆい光が部屋に中に溢れると影の中から数人の人が出てきた。


「───グッ!?」

「───ヌォオッ!?」


 姿が見えなかったがわずかに殺気が漏れ出ていた。

 影から出ていた黒ずくめを見て、スレイは魔道銃のトリガーを引き奴らの手足を撃ち向いた。

 手足を撃ち抜かれて倒れた黒ずくめの奴らに向けて黒蛇を投げ、首筋に麻痺毒を注射しす巻きにするとスレイは魔道銃をホルスターに戻して剣を抜き放った。

 黒い剣の切っ先を男に一人に向ける。


「ここに衛兵が向かっています。証拠もすでに押さえていますので言い逃れは出来ませんからね」


 スレイはそっと剣を鞘に納めるとユフィと一緒に外に出た。

 外にはちょうど到着したばかりのリーフたちと、衛兵が待っていた。


「お二人共、衛兵を連れてきました」

「ありがとう。中に倒れているので、おまかせします」

「わかりました。おいッ、行くぞッ!」

「「「ハイッ!!」」」


 衛兵たちが中に入っていくのを見送ったスレイは、心配そうにこちらを見るアーキムに伝えなければならないことを伝えた。


「マルコさんが亡くなりました……すみません、力になれず」

「………そうか……ビビアンは」

「連れ去られたみたいです」


 スレイが静かにそう伝えるとアーキムの顔が絶望に歪んだが、連れ去られただけならばまだ可能性があると心を強く持つ。


「頼む。あの娘を助けてやってくれ」


 ビビアンの救出を頼まれたスレイたちは何も言わずにその場から立ち去った。


 ⚔⚔⚔


 そこは町の外にある街道沿いの娼館の前には、その場には似つかわしくない一台の豪華な馬車が止まっていた。


「それでこの娘の身売りの費用はいくらになるのかしら?」

「そうですね。眠ってはいましたが状態もかなりよく処女でしたら金貨七十枚、非処女ならば金貨五十枚と言ったところでどうでしょうかね?」

「あら、そうなの、ならちゃっちゃと調べてもらえるかしら?こんな小汚ない娼館などアタシのような美しい女がいては、男の目を引いてしまっては困るわね」


 娼館の中では一人の樽のように太った女と、この娼館のオーナーらしき男が商談をしていた。先程の女の話を聞いていたオーナーは営業スマイルを崩さない。


 心のそこでは、それはねぇよ樽女、と目の前のブクブク太った女のことをみながらそう思っていると、二人が商談を行っていた部屋の中に一人の男が入ってくる。


「なんだ、商談中だぞ!」

「申し訳ありませんが、いささか問題がはっせいしまして」


 オーナーの男になにかを耳打し、内容を聞いたオーナーがその男を下がらせる。


「すみませんが、お連れの方がうちの娼婦に手を出そうとしたらしいのですが」

「あらそうなの。あの子ったら仕方ないわね。お金は払うから何人か宛がってもらえないかしら」

「かしこまりました。それではしばらくここでお待ちください。我々は商品の確認をしてきます」

「早くしてちょうだいね」


 オーナーが部屋を出てからしばらく、外の廊下が騒がしくなったと思うと女のいる部屋の扉が開かれる。


「なっ、なによあんたたちはッ!」

「バーサ・サールファスだな。お前を殺人示唆の容疑で逮捕する」


 衛兵の一人が樽女改めバーサの腕に手枷をかけようとしたが、バーサはその衛兵の手を払い除けると高々と宣言した。


「殺人示唆ですって!?いったいどんな証拠があるってのよ!アタシはなにもしてないわ!捕まえたいのならそれ相応の証拠を持ってきなさい!!」


 捲し立てるように叫び駆けるバーサに向けて一つの記録結晶を取り出し、バーサとビビアンそしてマルコとの話し合いの一部始終が写し出されていた。

 それを見たバーサの顔から血の気が失せ、そして今度は身体中に汗をかきながら叫び散らしている。


「いったい誰がこんな物を!!」

「ボクのゴーレムが撮影をしたんですよ」


 叫び散らしていたバーサの問いに答えるように現れたのは、回収したばかりのアラクネを肩に乗せたスレイともう一人、真っ黒なスーツを着込んだ裏社会の人間らしき男 トーラスが立っていた。

 そしてバーサはスレイの話を聞いて、一瞬しめたという顔をすると先程の自分を捕まえようとした衛兵にすがり付くいうにして近づくとウルッとさせた瞳で懇願した。


「騎士さま!今のあの少年の言葉を聞きましたか!?アタシたちあの少年にストーカーを受けていたんですよ!!」

「離れろ!貴様!!」


 衛兵は樽のように太った醜い女に抱きつかれ、泣きそうな顔になりながら引き離そうとすると、つかつかと歩いてきたトーラスが、衛兵に抱きついているバーサに足をあげるとそのまま蹴り飛ばした。


「なっ、なにをッ!」

「うるせぇ、話が進まねぇんだ大人しくしてろ」


 トーラスの睨みを受けてバーサが押し黙ると、トーラスが後ろに連れていた魔術師に向けて声をかけた。


「おい。こいつにギアスをかけろ。条件は前と同じだ」

「はい」

「やっ、やめてッ!やめて頂戴ッ!!」


 魔法をかけるようとしたところ抵抗してきたため、兵士たちがバーサを後ろから押さえつけていると魔術師がバーサにギアスをかけた。


「テメェが俺たちから金を借りたのか?」

「借りてないわよ!」

「だったら、どこかの誰かにテメェが攫った嬢ちゃんの姿を真似させて金を借りたか?」

「えぇ!私が命令して借りさせたわ!なっ、違うッ!私はそんなことしていないわ!」


 ギアスの影響でトーラスの質問に嘘をつけなくなっているバーサだったが、どうにか弁解しようとしてもギアスのせいで全て無駄となっている。


「お前が命令して金を借りさせたやつはどこだ?」

「もういないわよ!」

「なに?」

「殺してやったわ!平民の、メイドの分際で私のかわいい息子を誘惑して、立場もわからないような小汚い雌は刻んで豚の餌にしてやったわ!!」


 これはもう逃れようのない犯行の自白、これは余罪もいくらでも出てきそうだ。


「こいつと奥で縛ってる男も一緒に連行しろ。余罪も合わせてすべてを自白させる」

「ハッ!」


 衛兵が部下に命令を出すと暴れるバーサを引きずって連れて行く。


「おい。衛兵ども、その女が俺たちから借りてった金は返してもらえるんだろうな?」

「わかった。どのみち犯罪奴隷としてこいつは捕まる。差し押さえられた金品の一部から払ってやる」

「助かるぜ」


 衛兵たちに引きずられているバーサが叫び散らしながら連れ出される。

 その途中で情けない男の声も聞こえてきた。


 誘拐の犯人が捕まりビビアンは無事保護され、いくつもの事件が幕を閉じようとしていたのだった。

後一話で次の章に移ります。

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