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それぞれの修行 スレイ編 ③

後半分、頑張って書いて行きます

 ついにやってしまった……

 ボクは洞窟の中でアルミラージの丸焼きを前にそんなことを考えていました。ちなみに何で洞窟なのかと言うと、外での野宿に限界が来てしまったからだ。

 まぁ、そんなことはどうでもいい、今問題なのはそれじゃないんだ!


「ボウズ明日町まで降りるから、食ったらさっさと寝ろ」

「……はい」

「いつまでもしょげてんじゃねぇよ。折れちまったもんはしょうがねぇんださっさと諦めな」

「……はい」


 ボクは焼き上がったアルミラージの肉を切り分けながら、一週間前に起きたことを思い返してみた。


⚔⚔⚔


 山に来て大体半年、その日ルクレイツアは今までにスレイを連れてある場所に来ていた。そこはここに来てすぐ立ち入りを禁止していた、死霊山の山頂へと続く道だった。


「ここはこの山の山頂へと続く道だ。今日からここで修行してもらう」

「………………」


 今までいたのは山の中腹、そこから少し行った辺りの場所のはずなのにも関わらず、生えている木々は緑ではなく、幹も枝も葉っぱもすべてが真っ黒な木々を見てスレイは息をのんだ。


 ──なんだよ、この魔力量……


 粘りつくようにまとわりつく魔力を大量に含んだ風、大地を踏みしめる度に身体中を駆け抜ける寒気、なんとも言いがたい恐怖にスレイは前に出した足を後ろに下げてしまった。


「…………ここは、なんなんですか?」

「この山がなんで何で死霊山何て呼ばれているかは話したな」


 スレイは静かにうなずくと、ルクレイツアは続きを話し出した。


「ここは今までに場所よりも魔力の濃度が濃い。慣れんうちはお前みたいになるもんだ」

「…………師匠は、平気なんですか?」

「昔お前の親父とここで修行してたからな」

「……父さんと、ですか?」


 今までに聞いたことのない話を聞き、意外そうな顔をしていると


「気が向いたら話してやる。さて、少しの間はついていってやる。行くぞ」


 どんどん先に行くルクレイツア、その後ろ姿を見ながスレイは足を踏み出せないでいた。


「どうした、来ないのか」


 ルクレイツアはいつまでも来ないスレイのことを見る。ただ見るだけじゃなく、強烈な殺気を含んだ視線で睨み付けた。


「──────ッ!?」


 この山で感じてきた数々の死の恐怖、それがどれだけ生ぬるい物だったのかがハッキリとわかるほどの強烈な殺気、それが今目の前にある。

 とっさに後ろに飛び退き短剣まで握ってしまうほどに。

 そんなスレイのことを一瞥したルクレイツアはマントを翻し歩き出す。


「もう平気そうだな」


 ルクレイツアからの殺気が止まったと同時に、スレイは膝をついて崩れ落ちる。


「何だったんだ?」


 頬に流れた一筋の汗をぬぐいルクレイツアのことを見たスレイは、あることに気がついた。


 ──恐怖が……消えた?


 なぜか先程までに感じていたねっとりと絡み付くような恐怖が消えた。


「………師匠は、このために」


 より強い恐怖を与えることによる荒療治。

 なんとも無茶な方法だったが、それでも十分に恐怖は拭いされたスレイは、立ちあがりルクレイツアの後を追って森の中に入っていった。


⚔⚔⚔


 その日から一週間、ボクは師匠同伴でこの山の魔物と戦っていた。

 迫り来る肉厚の刃の大剣の一撃、それを十字に重ねた剣と短剣で受け止める。


「────ッ!?うらぁッ!」


 掛け声と共に大剣を押し返し、後ろに重心を崩した魔物の懐に潜り込むと強化を施した剣で斬りふせる。

 魔物の身体から吹き出した血で顔を汚しながらボクは立ち上がる。


「はぁ、はぁ………つ、次」


 ここいらの魔物は魔力を大量に取り込み、並みの魔物と比べ物にならないほど強力な力を得ている。

それだけならどれだけ良かったことか、この山の魔物にはある程度の格付けがされているみたいで、山の麓と中腹にいる魔物は集団でないと生き抜けない弱い魔物、そして山頂へと近づくにつれて単体の戦闘に特化した魔物になっている。

 そんな魔物相手にボクは戦いを続けてきた。


「ボウズ、気を引き閉めろ!」


 探知魔法になにかが引っ掛かったと同時に師匠からの叱咤の声、なにかが近づいてくる方に視線を向けるとバキバキと木々をなぎ倒して現れたのは、鈍い銀色の輝きを放った人工の巨人、ゴーレムだった。

 現れたゴーレムから少し離れたところにまで後退したボクは、目の前にいる物を見ながら叫んだ。


「何でゴーレムがこんなところにッ!?」


 ゴーレムとは人間が作り出した人形の魔道具で、所有者の命令で動くことの出来る魔道具、それがゴーレムのはずだ。

 周りに人の反応がなかったことに警戒を強めていると師匠からの声が聞こえる。


「そいつは人間に捨てられたゴーレムが魔物化したものだ!油断してッと死ぬぞ!!」

「そういう、ことかよッ!」


 師匠の指示を聞いて魔力による身体強化と一緒に、闘気による身体強化を行ったボクは目の前でこちらの様子を伺っているゴーレムの倒しかたを考えてみる。

 確か、地球で有名なのって頭部の文字を消すってやつだけど……文字なんてないじゃん!

 とまあ一人愚痴っては見たけど、製作者もわざわざ弱点をさらすことはしない、そんなこと当たり前だ。

 ならばどうするか?決まっている魔物なら倒せばいい、ただそれだけだ。

 獲物をボクに決めたのか、ゴーレムは真っ直ぐボクに向かってタックルをしてくる。


「──ストーン・バレット!」


 真上に飛び上がりながら石の弾丸を打ち出す。

 数は五つ、そのすべての弾丸はそれぞれ込めている風の魔力の量を変えてある。

 まずは相手の強さをみるためだったが、どんな強度をしているのかどれ一つゴーレムを傷つけることは出来なかった。


「けっこう強く射ったのに、なんかショック」


 倒せるとは思ってなかった、だけど傷の一つくらいはつくと信じてたからだ。今の一撃にキレたのか、ゴーレムが巨大な腕を振り上げて襲いかかってくる。


「────ッ!?速いッ!?」


 回避が間に合わないと悟ったボクは、正面に多重に重ねたシールドを張り巡らせて受け止めたが、受け止めたはずの拳はシールドを砕きながら振り抜かれた。


「なに──うぐッ!?」


 とっさに剣と短剣をクロスさせてゴーレムの腕を受け止める。

 今までに感じたことにない衝撃が剣を伝ってボクの全身を軋ませる。足腰に力を込めて踏ん張ってはみたが、ゴーレムの力に勝てるわけもなくあえなく吹き飛ばされる。


「ぅわっ、ぐっ!」


 凄まじい衝撃とともに数回地面を転がって仰向けになって倒れる。

 拳を受けた衝撃で身体の節々が痛む。


「いってぇ──ッ!?」


 急にボクを覆うように影が射したと思ったら、ゴーレムが飛び上がっていた。


「まず──ッ!?」


 転がっている剣と短剣を拾って転がってかわそうとしたが、短剣を握ろうとした手に力が入らない。

 それどころか手の感覚がない、折れたのだと察したボクは大きく舌打ちをした。


「クソッ!」


 手が動かないことに焦りながらゴーレムを見ると、その拳が目の前に迫る。

 今からガードしては間に合わない。

 そう思ったボクは短剣を諦めて横に飛んで地面を転がると、地を震わせるような振動が響いた。ものすごい音を間近で聞きながら立ち上がり様に片手で剣を構えると、全身を突き刺すような鋭い痛みが全身を走った。


「………いっ!?」


 これは本当に折れたかもしれない。

 上から飛び上がって地面に突き刺さって動けないゴーレムを警戒しながら、左手をみると破れた袖から見える腕は腫れ上がっていた。

 片腕を潰されたこの状況で、どうにかあのゴーレムを倒せないかを考えてみる。

 並みの攻撃じゃ傷一つ付かない。

 禁止されてる太陽光を収縮するあれなら倒せれるだろうけど、あれじゃ収縮に時間がかかりすぎる。

 他になにかなかったか?今までに師匠から教わった剣術に、ルラ先生から教わった魔法に、なにかなかったか………。

 ボクは今までに習ったことを必死に思い出す。

 その中で一つあれを倒せる物があったが、あれはまだ練習中のもので仮に成功しても剣が持つかもわからない。押し悩んだボクだったが迷ってる暇はないと立ち上がった。


「やりかやらないかじゃない……やるんだ」


 右手に握る剣に炎の魔力を流しながら魔法を発動する。

 剣の刀身に渦巻くように燃える赤黒い炎を剣に纏わせた。この炎はすべてを焼き払う地獄の業火と呼ばれる、火の魔法の最上位の炎だ。その赤黒い炎に地面から抜け出したゴーレムがたじろぐ。


「行くぞ」


 今度はこっちの番だ!その思いを胸にボクは駆け出すと、ゴーレムが腕を振り下ろされるのに合わせてボクは剣を振り上げると、ゴーレムの腕にボクの剣が食い込む。


「はあぁぁぁーーーッ!」


 右手に力を込めて振り抜くと断面を融解させながら、腕が宙を舞って落ちる。振り上げた剣を下ろすと同時にゴーレムの身体を何度も、何度も斬りつける。

 その一身で剣を降るい続けるボクを押し潰そうと腕を振り下ろす。振り下ろしていたせいで少し遅れて切り上げられたボクの剣は、ゴーレムの腕に食い込み半分ほど斬りつけた辺りで、ボクの握る剣から不吉な音が響いた。

 パキィーン!

 金属の甲高い音が聞こえると共にボクの手に握る剣から重さが消える。


「────ッ!?限界かッ!だけどぉおおおおーーーーーーッ!!」


 半ばから折れてしまった剣を逆手に持ち直し、もう一度拳を振り下ろされる前にゴーレムの懐に入り込み、折れた剣を胸についた傷口に突き刺し、そこを起点として魔法を発動させる。


「地獄の業火よ 撃ち穿てぇッ!──インフェルノ・スピアッ!!」


 剣の切っ先に魔方陣を作り出し打ち出すと、ゴーレムの体が真っ赤に変色すると一本の赤黒い炎の槍が撃ち抜いた。

 持ち上げていた腕をだらりと下げてゴーレムは後ろに倒れた。


「か、勝った!」


 ゴーレムを倒したボクはその安心感からか、全身の力が抜けて倒れた。


⚔⚔⚔


 そんな訳で剣を二本とも壊してしまったボクは、まぁそんな訳で師匠と共に半年ぶりに人里へとやって来ました。

 えっ?怪我はどうしたって?そんなもの回復魔法ととポーション、それに気合いで無理やり治しました。


「なんかボクと師匠以外の人見るの久しぶりだな」


 ボクは建物を背にしながら行き交う人をみていた。ボクはコアを換金しに行った師匠を待っている。


「待たせたなボウズ」

「師匠、どうでした?」

「ほれ」


 投げられた袋を受け取ると、手に伝わってくる重さに驚きながら恐る恐る、その中を見てボクは更には驚いた。


「ちょ、師匠これ金額間違ってませんか!?」


 中には沢山の金貨と銀貨そしてほんの少し、本当に申し訳無い程度の銅貨が納められていた。

 全体の金額がいくらかはわからないが、パッと見ただけでも金貨五十枚くらいはあった。


「ちょ、師匠!なんですかこの大金!?いったいなにやった!?」

「失礼なガキだな。なにもやっちゃいねぇよ」

「ウソだ!だったらどうやってあんな小さなコアがこんな大金になるんですか!」

「あぁ、あの山の魔物は多量の魔力を宿してるからな、自然とコアの品質が良くなる。それでも安いくらいだ」


 師匠に渡したコアって確か死の猟犬(ヘルハウンド)のコアが数十個だったけど、あれでこれだけってことは……もしかして山頂付近の魔物だともっと高いんじゃ……


「行くぞボウズ」

「あ、はい」


⚔⚔⚔


 武器屋の中でボクは剣をみながら悩んでいた。


「うぅ~ん、ちょっと違うな」


 握ってみた剣を鞘に納めて他の剣を握る。

 ちょっと軽すぎるな……


「まだ決まんねぇのか?」

「はい、どうもしっくり来なくて」

「じっくり選べ。オレは向かいの酒場にいる」

「わかりました」


 師匠が店から出ていくのを見送ったボクは、もう一度ショーケースや壁に立て掛けられた剣をみながら新しい剣を探している。

 一通り見てみたけど、どれも軽すぎてしっくり来なかったり、レイピアやサーベルみたいに細かったり、カットラスやショーテルみたいに湾曲してたり、ボクの探してるものと違うものが見つかる。


「今更、剣を変えるのはなぁ~」


 やっぱり今まで通りの直剣が良いが、全く見当たらない。

 他にないのか?そう思いながらショーケースを眺めていると、変なもの、と言うよりもこの世界に無いと思っていたものを見つけた。


「す、すみません!これ見せてください!」


 ボクが叫ぶと店の奥に引っ込んでいた店員──多分ドワーフだと思う──、ではなく店主が出てきた。


「なんじゃ騒ぎおってからに」

「す、すみません……で、あれ見せてください!」


 ボクが指差すものをみた店主は感心するようにボクの顔をみる。


「お前さん中々目の付け所がいいな、こいつは魔道銃といって魔力を弾丸として放つ魔道具で、こういう弾も射てるもんでの、あまり出回らんのじゃが一挺だけ手に入っての」


 まさか異世界に来て銃があるとは思えなかった。

 どうみてもリボルバーだよ、ちょっと銃身が長方形になってるけど。

 欲しいな……でも、やっぱり値段が……金貨二十枚か……手が出せるわけ……待て待て、金貨二十枚?あったわ……つまり買える……よし買おう!


「これください!」

「か、構わんが金貨で二十枚じゃが払えるのか?」

「これでいいですね!」


 金貨二十枚など、今のボクの財政なら軽い軽い。


「ま、毎度あり」


 ユフィにいいお土産が出来たな。

 良い物が手には言ってほくほく顔のボクだけど、買ってから思い出した。

 今日のボクの目的は剣と短剣だった………


「あの、もう一ついいですか」

「なんじゃ?」

「剣ってここにあるので全部ですか」

「奥に数本あるが、店に出てるのはそれだけじゃな」

「見せていただいても、後出来ればこれと似たやつで重い剣を」


 ボクはドワーフの店主に今まで使っていた剣を見せると、店主は剣を受け取りまじまじと観察してからそれをボク返した。


「ふむ………お前さん西方大陸の出じゃな?」

「あ、はい……何でわかったんですか!?」

「鉄じゃよ、ここの鉄は軽いのが多くての、そこいらにあるレイピアみたいな軽いものしか打てん」


 道理で細くて軽い剣が多いと思ったらそういう理由か……じゃあボク好みの剣はなさそうだな。

 諦めてそれなりに重い物を買おうとしたとき、店主は一本の剣を取り出した。


「じゃが、全く無いと言うわけではない」


 差し出された剣を受けとると、ボクの手にずっしりとした重さが伝わってくる。鞘から剣を抜くとやや赤みがかった刀身が露になる。


「この色は?」

「うむ、それもここいらの鉄の特徴でな、ここいらでは緋色鉱と呼ばれておる」

「これと同じ短剣はありますか」

「あるぞ」


 差し出された短剣もこの剣と同じように少し赤みがかった輝きを放っていた。


「これもらえますか?」

「あぁ銀貨十五枚じゃ」

「安くないですか?」

「そんな重い剣ここいらでは売れん、使ってくれるならそいつも本望じゃ」

「なら、ありがたく」


 剣の代金を渡して新しい剣を短剣を下げたボクは向かいの酒場に師匠を呼び行った。

 明日からもう一度頑張ろうそう思いながら。


⚔⚔⚔


 大勢の男たちがジョッキを片手に騒いでいるなか、ボクは一人困り果てていた。


「師匠!いい加減、帰りますよ!」

「あぁ~!?まだ飲んでるだろうが!」


 酔っぱらった師匠を連れて帰りたいのに戻れない、どうしたらいいんだよこれ?

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