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人助けの続き

本日二話目の投稿です。

 ヤクザのような男たちに連れて行かれそうなビビアン、彼女をどうにか助けるためにまずは情報が欲しかったスレイは、どうにか彼らを説得してギルドの応接室で話し合いをすることになった。

 下っ端の人たちは否が応でもビビアンを連れて行こうとしたが、冒険者相手に荒事をする訳にはいかないとヤクザたちのまとめ役らしき男が告げてどうにか話し合いの席を設けることが出来た。

 話し合いは当人であるビビアンと父マルコ、それに上司であるギルマスとスレイ、対してヤクザの方は先程のまとめ役の男とその子分らしき強面の男の二人であった。


「こちらがその借用書です。私どもはそちらのお嬢さんのお連れの方に金貨八十枚を貸しているんですが、その方が飛んでしまいましてねぇ、代わりに保証人であるそちらのお嬢さんに返済を願いしたい次第なんです」


 優しい口調で語りかけるヤクザの男、スレイたちは見せられた借用書を確認してみると確かに保証人の欄にはビビアンの名前があった。

 しかしビビアンはそんな物を書いた覚えもなければ、金を借りたというアザレアなどという名前の友人もいないそうだ。


「娘は知らんと何度も言ってるだろ!借用書も、金も!ましてやそのアザレアなんてやつもだッ!」

「マルコさん落ち着いて」


 ヤクザに食ってかかろうとするマルコを後ろから止めたスレイは、魔眼を使ってヤクザたちの魂を見るが嘘を言っている様子はなかった。

 本当のことしか話していないのだろうとは思ったが、ビビアンの怯えようとマルコの怒り具合からここはどうにかしようと思いながらスレイは口を開く。


「確認させてもらいたいんですけど、その借用書は本当にビビアンさんが書いたものなのですよね?」

「何度も言っているが我々はそこのお嬢さんが書くのを見ている」

「だから違うと何度も言っていますッ!」


 ビビアンが否定したところ、バンッと子分の男がテーブルを強く叩いた。


「いい加減にしろよ。こちとら慈善事業をやってるわけじゃない!テメェらが返さねぇんだったら───」

「やめとけ」


 子分が無理矢理にでもビビアンを連れて行こうと発言した瞬間、まとめ役の男が子分のことをとめりる。


「冒険者相手に強硬手段はよせ」

「だけど兄貴ッ!」


 男が子分を睨みつけると、その目を見て男は黙って椅子に座り直す。


「連れが済まねぇな」

「いいえ、そんなことは」

「だが実際に、オタクの職員は俺たちから金を借りている。公平を掲げるギルドの職員が金を返さないなんてあっていいはずがないだろう?」


 痛いところを突かれたとギルマスが顔をしかめるのを見て、スレイは一つ思っていたことを口にした。


「顔を変えるなんて分けないんじゃないですかね?」

「あぁ!?バカ言ってんじゃねぇぞ、ガキがッ!」

「バカなんて言っていませんよ。それに一時的に顔を変えるくらいなら、魔法か魔導具を使えば簡単にできますよ」


 スレイは自分の顔に幻影魔法をかけて目の前にいるヤクザたちの顔に姿を変える。

 すると、案の定と言うべきかヤクザの子分の顔が驚きに彩られるが、まとめ役の男は眉一つ動かさずにずっとこちらを見ている。


「声も魔法なら簡単に変えられます。あぁ、ちなみにボクは関係ありませんよ。ビビアンさんがお金を借りたって言う時期にボクは別の大陸にいましたし、ここに来て一月の経っていません」

「確かに、魔法使いならなば出来るだろう。だが、そんなものはただの憶測でしかねぇ。俺達が納得できる確証をよこせ」


 まぁヤクザたちの言い分はよく分かる。

 しっかりとした確証が無ければそんなものは無いに等しい、スレイもそのことはよく理解しているため、後もう残しておいた手札を切ることにした。


「そうですね。ではビビアンさんがお金を借りたという日の勤務記録を調べてもらえませんか?」

「勤務記録だと?なぜそんなものが必要なのだ」

「先程あなたが言った通りギルドってのは信用第一、もちろんそれは勤務している職員にも有効です。それが休みもなく働かされてたら、闇ギルドも真っ青ですよ。ねっ、ギルマス?」

「えぇ。勤務内容、出勤、退勤時間、残業時間などこと細やかに記載しています」


 事前に用意していたのかギルマスが一冊のファイルを取り出した。そこには勤め始めてからのビビアンの勤務記録が残されており、そこには問題の日のビビアンの業務内容なども書かれている。

 ビビアンの友人が金を借りたというその日は、大物の魔物が討伐された事があり丸一日、それこそ泊りがけで仕事をしていたと書かれている。


「丸一日ギルドに拘束されていた彼女が、友人とあなた方のところに金を借りに行けるはずありませんね」

「そんなもの、いくらでも偽造できるだろ」

「それを言ったらあなたたちもですよね。その誓約書があなた方の偽造ってこともありえますからね」

「喧嘩、売ってるのか?」

「まさか、こちらも事実しか言っていませんよ……だって、そっちだってそれ以外の証拠がないじゃないですか」


 笑顔のスレイと真顔のヤクザのまとめ役、二人の視線が火花をちらして睨み合っている。するとコンコンッと部屋の扉がノックされる。

 こんな時にいったい誰が、そう思っているとギルマスが部屋の扉を開けるとどうやらギルドの職員らしく、なにかを話し終えると一度こちらに振り返った。


「どうやらあなた方が雇ったという魔術師の方がお見えのようです」

「通してくれ。それとギルド在住の魔術師がいるはずだ。そいつも呼んでくれないか」

「わかりました」


 ギルマスが職員にその旨を伝えると、すぐに二人の魔術師が部屋の中に入ってきた。

 これからなにをしようとしているのか察したスレイは、今までのは茶番だったのかと思ってしまった。


「彼は我々が契約している魔術師だ。今からお嬢さんにギアスを掛けて真実を聞き出す」


 やはりそうかと大きくため息をついたスレイは、目の前にいるヤクザの男に尋ねる。


「あなた、もしかして最初っからそのつもりでしたか?」

「だとしたらなんだって言うんだ?」

「食えない方ですね」


 この会話をしている横で未だに事情がわからないらしいビビアンとマルコに向けてスレイは説明をする。


「マルコさん。今から魔術師の方がギアスという魔法をビビアンさんにかけます。それでこの件がはっきりとします」

「娘の無実がわかるんだなッ!」

「えぇ」


 ビビアンの無実が証明されるとわかりマルコの表情が晴れると、ヤクザの男は魔術師に指示を出しギアスの術式を編み出す。


「制約はこの場での嘘を禁じるだ」

「はい。こちらの確認をお願いします」


 ヤクザの雇った魔術師が編んだギアスの魔法陣をギルドの魔術師が確認し、問題がないと分かり頷いた。念のためにスレイも術式を確認させてもらい、問題がないことを確認し魔術師がビビアンにギアスをかけた。


「それでは嬢ちゃん、あなたは俺たちに金を借りたか?」

「いいえ」

「なら、アザレアって奴と一緒に金を借りに来たか?」

「いいえ」


 ビビアンの答えに安堵の息をつくマルコとギルマスだったが、そこに男の子分らしき男が食ってかかった。


「兄貴ッ!ホントこれ、魔法効いてんですよね!?」

「あぁ」

「だったらなんだって答えがノーなんだよッ!」

「俺達から金を借りたのがこの嬢ちゃんじゃねぇってことだろう」


 納得がいかないという表情の子分がこちらを睨みつけている。


「すまなかったな、うちの問題に巻き込んじまって」

「いいえ、その誤解が解けてよかったです」

「おい帰るぞ」

「……へい」


 ここでの仕事が終わったヤクザたちが帰ろうと立ち上がったところで、スレイは二人を呼び止める。


「ちょっとまってもらえますか?」

「何だガキッ!こちとら忙しいんだ!」

「待て」


 子分を止めてもう一度椅子に座り直した男は、スレイの顔を見て問いかける。


「聞いてやる。なにがいいたい小僧?」

「ちょっとしたアドバイスですよ。言いがかりでまた来られても困りますからね。あなた方の出した負債の補填になるかもしれない話ですよ」

「テメェ、喧嘩売ってんのかッ!」


 その言葉に怒りを覚えた子分の男がスレイに掴みかかろうとしたが、男がそれを止めた。


「止めておけ。そんで小僧、続きを聞かせろ」

「今度から借用書を書かせる時に、指の跡を押させたら良いですよ」

「指の跡だと?」

「えぇ。見てもらうと分かるんですけど、人の指って模様があるじゃないですか。これ人それぞれで形が違うんですよ」


 スレイは空間収納からインクと紙を取り出すと、人差し指にインクを付けて押し当てる。見比べるためにマルコにも同じように指の跡をつけてもらった。

 ヤクザの男たちはスレイとマルコの指紋を見比べる。


「確かに違うようだが、今回みたいに魔法で姿を変えられてたら意味がないんじゃないか?」

「そっ、そうだ!兄貴の言うとおりだ!」

「姿を変える魔法っていくつかあるんですけど、大抵が幻影を被せるんですよ」


 説明しながらスレイは自分の身体に幻影魔法をかけて、目の前のヤクザの男の姿を真似る。


「姿は似せれても細かいところは変えられないんですよね。ほくろの位置とか身体の傷とか、見えないものは真似できないしわからないものは再現できない。だから指の模様、面倒だから指紋って呼びますけど、指紋までは再現できないんですよ」


 もう一度スレイはインクを付けて指紋を紙に押し付けると、確かにそこにあったのはスレイの指紋だった。


「確かにこれじゃ使い物にならねぇな。いいことを聞けた。助かった」


 ヤクザが素直に頭を下げることに不信感があったが、これであとからビビアンに言いがかりが来なくなるはずだ。


「これでこの件は終わりですが、そちらは大丈夫ですか?」

「正直この失態は大きいが、小僧の助言でどうにかなりそうだ。礼と言ってはなんだがこれを」


 男は懐から何かを取り出すとスレイの前に置いた。

 それは名前と地図の書かれた一枚の紙だった。


「もしも何かあったらここに来て俺の名前を言え」


 受け取った紙にはここからそう遠くはない場所を指した地図と、リーダーの男の名前らしきトーラスと書かれていた紙を受け取る。


「一応もらっておきます」

「ふっ、おい帰るぞ」

「へい」


 男たちがでていくのを見送った後、部屋に残ったマルコはビビアナが無事だったことに涙し、ギルマスは仲間たちにそのことを知らせにいった。

 スレイもユフィたちに説明するために部屋を出たとき、先程のヤクザに渡された紙を見る。捨てようかとも考えたが、念のために捨てるのはやめておいた。


 ⚔⚔⚔


 男たちが帰ったあと、ギルドの中はいつものように喧騒に包まれ、そんな中でスレイたちはマルコの奢りでエールを飲んでいた。

 本当はこんなことにお金を使わなくていいとスレイたちは言ったのだが、娘を救ってくれたお礼だと言って聞かなかったため、一杯だけという約束で奢ってもらった。

 その帰り道、スレイたちは宿に戻る最中、先ほどあったことについて話し合っていた。


「しかし、犯人は誰なのでしょうか?」

「幻影魔法で姿を変えてまで、ビビアナさんを陥れようとした人。よほどの恨みでもあるのでしょうか」


 スレイのお陰で事なきを得たと言っても犯人はわからない以上、また同じことが起きるかもしれない。


「まぁ多分、そのうち犯人も分かると思うから、気にするだけ無駄な気がするよ」

「そうそう。ノクトちゃんもリーフさんも、大事なことを忘れてないかな?」


 ユフィがそんなことを言い出すと、名前を呼ばれたノクトとリーフが、いったい何のことだろう?っと首をかしげて考る。

 そしてスレイとついでに、いつこ眠そうにしている目をより眠そうな目になっているライアも、いったいユフィが何言い出したんだろうっと、耳を傾けていた次の瞬間、とんでもないことを言い出した。


「そりゃあもちろん、ライアちゃんがスレイくんのお嫁さんとして認めるかどうかだよ!」

「「あぁ、その事ですか。いいんじゃないでしょうか?」」

「それじゃあライアちゃんもお嫁さんに決定!」

「いやいやいや!?なんかノリが軽い!?えっ、二人はいいのそれで!ってかユフィさん今その話を掘り返す必要あった!?確かに後でって言ったけどビビアンさんの事件が終わってからじゃないの!?てかライアの意思確認は無いのか!?」


 一番大事なところを確認しなければならない、そうライアの意思だ。

 勝手にユフィたちが決めていいことでもないし、そもそもこれで拒否されればさすがにショックではあるが確認は大事である。


「……ん。私はかまわない。スレイのこと好きだし」

「あっ、そうっすか」


 本人がいいならいいか、そう思ったスレイが肩をガックリと落として歩き出そうとすると、そんなスレイの両肩を左右から捕まれる。

 なんだ?そう思いながらスレイが振り向くと、ユフィとリーフがスレイの肩に手を置き、その後ろではライアとノクトがこちらをじっと見ていた。


「それで、スレイくんはなんて言えばいいのかな?」

「女性にだけ言わせるのはひどいことだと思いますよ?」

「ライアさんが勇気を振り絞ったんですから、なんて言えばいいか分かってますよね?」


 ユフィ、リーフ、ノクトの三人から無言の圧力を受けたスレイはチラリとライアの方を見るが、全くいつもと代わりない様子なので、本当に勇気を振り絞ったのか?っと疑ってしまいそうになったが、リーフの言う通りなのでしっかりと自分の言葉で告げることにした。


「ライア。これからもボクの側にいてくれますか?」

「……ん。ずっと側にいるよスレイ」


 ちゃんとライアからの言葉を聞いたスレイはそっとライアの腕に腕輪をはめると、わぁ~っと行きなり回りが騒がしくなる。

 歓声を聞いたスレイたちがハッとして周りを見回すと、そこにはいつの間にか多くのギャラリーが集まっていた。

 スレイたちを完全に包囲していた。忘れていたことだがここは往来のど真ん中、日は落ちてはいる物のまだ人の動きは活発に行われている時間帯、つまりは多くの人に見られてしまった。

 そんな人々の拍手喝采を受けて恥ずかしくなったスレイは、ユフィたちをゲートに押し込み宿屋へと帰った。


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