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町に戻ると

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 なんとも軽い声で魔術師たちに話しかけるスレイ、だが声をかけられた方はそうではなかった。たった数分までは目に光はなく死んだような眼をしていたはずの魔術師たち。

 だが今はどうだろう?目の前に広がるのは一糸乱れぬ美しい敬礼をし、声を揃えてスレイの命令にこれまた一部の乱れのない返事を返している。


 これが先程までの魔術師たちと同一人物なのか?

 いったいたった数分という短い間に彼らに何が起こったのか?


 それを知っている人物は終始笑顔を崩さず、なにもいわずにいるのがかなり怪しい。

 ここにいる冒険者全員と実際に関わっていない騎士たち全員の視線が、余すことなくスレイに突き刺さった。

 つまりは、お前たった数分の間にいったい何したんだ!?っと、ここにいる全員の意志がその一言を聞くために一つとなった瞬間であった。

 全員の心を一つにした元凶は我関せずを貫いていると、そんなスレイの元にただ一人、眠そうな眼をした少女が近づいていった。


「……スレイ、あの人たちにいったい何したの?別人みたいなんだけど?」

「さぁ、ボク、なにも、知らないよ?」


 ライアの眠そうな目がだんだんとジト目へと変わっていくと、ライアのジト目がスレイの横顔に突き刺さる。

 だが、スレイはその視線に我関せずの姿勢を崩さず、まるで接着剤で笑顔を固定しているような笑顔に疑問を覚えたユフィが参加した。


「ねぇスレイくん。正直に話してくれるかな?」

「……ん。ユフィもこう言ってる。正直に話すがよろしい、今ならまだ許してあげる」

「うん。だからね、ボクはね、彼らにはね、何もして無いんだよ?」


 ユフィがライアの反対側から同じようにジト目を向けそう告げると、どういうわけかライアがかなり偉そうに許す旨をスレイに告げた。

 オラオラと睨んでくる二人に対して何もしていないと弁解するスレイだが、貼り付けしまったように崩すことのない笑顔に違和感が拭えない。

 これは二人だけでは拉致があかないと感じたリーフとノクトもそこに参戦した。


「スレイ殿、白状してください。でなければお義母様とルラ殿に言いつけますよ」

「グハッ!?」


 ここに来て最大の切り札の一枚を切ったリーフ、笑顔の仮面がビシッと音を立てて罅が入る。

 これは効いていると、スレイの最大の弱点を付いてきたリーフを習ってノクトも弱点を付いて行く。


「お兄さん、ここで言ってくれないと後でミーニャちゃんにいろいろ報告しますけど良いんですか?」

「ぐおッ!?」


 最大級のダメージを受けたスレイが、胸に手を当てて片膝をついた。

 ここでの行いが後々になってジュリアやクレイアルラそしてミーニャ、果にはリーシャにも伝わるかもしれない。

 これはさすがにキツイと思ったのかスレイの笑みがだんだんと崩れようとしていた。

 これを好機と見たユフィは、リーフとノクトにならって同じように精神的に追い詰める作戦へと方向性をシフトさせることにした。


「あぁ~ぁ~、スレイくんがなかなか言わないから、間違えてリーシャに渡してるプレートに連絡をいれちゃいそうだなぁ~」

「ゆっ、ユフィ……さん?」

「わたしも、ミーニャちゃんの連絡先に手を触れそうだなぁ~」

「のっ、ノクトさんも!?」


 ユフィとノクトからの妹への連絡攻撃を受けたらスレイは、ダラダラと汗を流しながらギリッと奥歯を噛み締めながら地面に頭を擦り付ける。


「すみません!やったこと全部正直に白状しますんで妹には、妹だけは勘弁してくださいッ!!」


 スレイが今まで一向に崩そうとしなかった笑顔を崩し、とても綺麗な土下座をユフィたちに向けて披露すした。


「ふふふっ、流石は対スレイくん最終兵器、すごい効き目だね」

「効きすぎて情けない姿になっていますけどね」


 さすがにここまで盛大に効果を発揮するとは思わなかったユフィたちは、今度からこの手を使おうと決めるのだった。

 シクシクと涙を流すスレイに頭を上げるように言ったユフィは、スレイの前に仁王立ちして告げる。


「さぁスレイくんや、さっさと吐いて楽になりましょうか」

「うぃ」


 スレイは頭をあげて正座の姿勢は崩さずにユフィたちに自分のやったことを話始めた。


「えっと、魔術師たちが話を聞いてくれそうになかったのでゲートで死霊山に連れてって、山の濃い魔力で当てて正気に戻させようとしたんです」

「ふむ。今のところはおかしなところはありませんね」

「死霊山においそれと立ち寄るのも十二分におかしいんですけどね」

「逆に恐怖がキャパオーバーしたらしく、一周回ってあんなふうになってしまいました。誠に申し訳ないことをしたと思っております」


 目を覚まさすためとはいえ、やりすぎてしまった自覚はあったスレイは、再び頭を下げて土下座の形を取った。

 しかしユフィたちは見ていない。

 それどころかユフィ、リーフ、ノクトの三人は揃って目を伏せてしまっていた。


「うぅ~ん、これは、なんというか」

「怒るに怒れないですよね」

「まぁ。死霊山に連れてっている時点で怒ってもいい気がします」


 あんなに頑なに笑顔を崩そうとはしない時点でなにかはやったとは思っていた。

 しかし、やったとしたら相当な殺気を当てたりとか、上空三百メートル辺りからゲートで放り出してきたとか、川のなかにでも沈めてきたくらいだと想像していた。

 まさか発狂した理由が死霊山の魔力に当てられたなどわかるはずがない。

 急遽ユフィたち四人は顔を付き合わせながら井戸端会議を始めた。


「うわぁ~ねぇねぇどうしよう、どうしたらいいのこれ!?後でこの事が偉い人にバレちゃって、本当にスレイくんの首が飛ばされる。なんてことはないよね?ねぇ!?」

「方向性はどうであれ、一応は立ち直らせているのでそれはないかと思います。それにエリート意識の有る者は早々に鼻をへし折っておかなければなりません」

「いやいや、リーフお姉さん、あれってもう折ったとか言う次元ではなく、折ったあとに粉々に粉砕している気がするんですけど」

「……ん。ノクト、それじゃ足りない。粉々に粉砕しているさらに鼻をめり込まして顔面陥没、それくらいなことはしている。間違いない」


 なにやらユフィたちの話が変な方向に行ってしまったが、話はどうにか纏まった。

 とりあえずは結論は出たということで、刑執行を待っている囚人のようなスレイの前に、ここは最年長という理由から、リーフが一歩前に出てスレイを見下ろすように立った。


「えぇっと、スレイ殿、今回は事情が事情だけに仕方ないとしても、次はありませんのでこの事をしっかりと覚えておいて行動してくださいね?」

「はい。皆様の寛大なご処置に大変感謝させていただきます」


 こんな大変な時にこんなことをしていていいのか?スレイたち以外の全員がそう思っていると、ユフィたちから離れたスレイがヨハンとマカロフを呼び寄せて話を始めた。


「それじゃあ、ヨハンさん、これからあの魔術師のみなさんがもしものためにあなたの部隊のみなさんに対抗術式を施します。それがあればもしもグランツの仲間がいても術はかかりませんから」

「おい、それだと怪しまれるのではないか?」

「えぇ。ですのでそのときは演技をしていてくださいね。それともしも国王陛下も洗脳されていた場合は早々にディスペルしてあげてください。でないと戦争が起きるのは嫌ですから」

「そんなことは分かっているさ……だが、もしもの場合は覚悟をしておいてくれ」

「えぇ、その時は迷わずに国をでますから」


 もともとスレイたちはこの国とは関係にないので早々に国を出ることも視野にいれておくが、それ以前に冒険者が所属しているのは国ではないため戦争に参加する理由もないのだ。

 身も蓋もない話かもしれないが、この世界での命の価値は安い。

 この世界には魔物が存在し、一度町を出れば魔物や山賊に襲われる可能性もあるれば、人によって金で雇われた暗殺者をけしかけられる可能性もある。

 そんな世界で生きていくためには危険を犯さないことだ。

 まぁ、冒険者なんて仕事をしている時点で言えたことではないのだ。そしてその事を重々承知しているヨハンは、何も言わずにうなずいてくれた。

 スレイたちは以来も終わったことなので街へ帰還することを決めた。


 ⚔⚔⚔


 街に帰るとスレイたちはまずギルドへと行こうと思ったのだが、その前にまずやることがあった。

 それはスレイのアラクネによって麻酔薬をチクリ刺された冒険者たちを起こすことだ。

 しかしキュアで麻痺毒を解毒した瞬間、起き上がった冒険者達が錯乱して襲いかかって来た。

 スレイたちと初め、今日一日でいろいろ起こりすぎたせいか、常識と言う名の感覚が麻痺してきたマルコフやマルコたち正常な冒険者たちによって殴って正気に戻された。

 その後、一度は錯乱していた冒険者たちは生きて街に帰ってこれたことを喜び抱き締め合いながら喜んだのだが……


「むさい野郎同士が抱き合ってる絵図らって誰に需要があるのか分かんないな」

「うん。本当にそうだよねぇ~」


 スレイとユフィがなんともしらけた目を向けながら、そっと静かにその場から離れていった。

 町の中に入ったスレイたち五人にプラスしてマルコとアーキムの七人は、ギルドに向かっていく最中これからどうするかを話し合っていた。


「これって報酬、当分は支払われることはないですよね?お金大丈夫なんですか?」

「……言いにくいことではあるが、足りない」

「マルコ、俺も金を貸してやりたいとは思ってるが……すまねぇ」

「いや、これは俺たち家族の問題だお前は気にすんじゃねぇ」


 マルコとアーキム二人が男の友情を見せているなか、リーフは有ることを思い付いた。


「あの、先程狩った魔物のコアや素材なんかを売れば足りるのではないですか?あれだけの魔物ですから、それなりに高価な値がつくはずですよ」

「それです!リーフお姉さんが言った通りですよねお兄さん!」

「残念だけど、それはできない。というか、さっき全部証拠になるからって渡したの忘れてない?」

「あっ」

「そっ……そうでした」


 残念そうにしているリーフとノクト、それを見てライアがささっと移動してノクト小さな声で耳打ちをした。


「……ノクトのおっちょこちょい」

「ライアさん!いい加減にしないとわたしも怒りますからね!!」


 両手で握った杖を振り上げて起こりだしたノクト、それを嬉しそうにしながら逃げ出していくライア。

 端から見ると女の子同士がじゃれ合っているほほえましい光景ではあるが、今はそんなことに構っている場合ではないため無視してスレイは話を続けていくことにした。


「仕方ないけど、あの手を使うしか無いんだよね」

「うぅ~ん………あんまりおすすめはしかねるけど、この場合は仕方ないよね」

「危険しかありませんが、緊急事態ではありますので目を瞑りましょう」


 スレイ、ユフィ、リーフの三人が考えていることは一緒だった。

 短期間でかなりのお金が稼げることなどこれしかないのだが、それにはかなりのリスクが有るがもうこれしかない。


「マルコさん。確認しますが、ビビアンさんのためなら命を捨てる覚悟はおありですか?」

「あぁ、そんなもん始めっからできているぞ」

「わかりました。明日、とある場所にあなたを連れていきます。そこでならお金は一日で稼げます」

「ほっ、本当か!?」

「えぇ。だけどそこは本当に危険で、油断をすれば確実に命を落とします」


 マルコがゴクリと生唾を飲む。

 これはなにも脅しではない。これから行くのは本当に危険なところなのだから、スレイはその危険性をもう一度理解してもらうことが重要なのだ。


「本当に危険なときはボクたちがどうにかしますが、命をかける覚悟はあなたにはありますか?」


 もう一度スレイはマルコにその意思を問うと、マルコは当たり前のように頷いた。


「言われなくても、そんなもんすでに出来てる」

「なら、ボクはなにもいいません」


 マルコの覚悟を知ったスレイは、この無茶な作戦を成功させるために入念な準備をしなければと思っていると、遠くからどこかに走り去っていったノクトとライアが叫びながら走ってきた。


「お兄さん!ビビアンさんが大変なことになっています!」

「……スレイすぐにギルド行く!ビビアンが大変!」


 走ってきたノクトとライアが必死の形相でスレイを引っ張る。

 それを受けてスレイはユフィとリーフに視線を向けるが、それよりも先にマルコがビビアンの名前を叫びながら走り出した。


「ボクたちも行くぞ!」

「うん!」

「はい!」


 先に走り出したマルコから遅れるてすぐに走り出したスレイたちはギルドに急ぐ。

 ギルドの入り口、その前には何かを取り囲んで人だかりが出来ており、そこからビビアンと誰かが言い争っている声だけは聞こえる。


「人だかり多いだろ!?」

「よく見えないよ!」


 状況を確認したいが人が多すぎて様子の確認がとれそうにない。


「クソッ!ビビアンッ!」


 マルコも人混みが邪魔で中には入れずに悔しそうなので、スレイは背中に竜翼を生やすと、黒鎖でマルコをからめとった。


「うわっ!?何だこりゃ」

「マルコさん。ボクの翼であの中に連れていきます」

「おっ、おぉ!すまん頼む」

「……スレイ、私も行く」


 スレイと同じように竜翼を広げたライア、二人が翼を広げて飛び立ち上空から人混みの中心を見下ろす。

 人だかりの中心ではビビアンと、黒服を着たいかにも裏稼業の人らしき者たちがビビアンの手を引いて無理矢理どこかへと連れていこうとしていた。

 それをギルマスを始め何人かの職員や冒険者が抗議の声をあげていた中にマルコが声を上げた。


「テメェらッ!俺の娘になにしてやがるッ!」

「まっ、マルコ!?」


 鎖を外して上からマルコをおろすと少し開けた場所にスレイたちは降りる。するとすぐにマルコがビビアンを連れて行こうとする男に突っかかる。


「貴様!娘に何をするんだ!」

「あぁ?なんだてめぇ!」

「ハイハイ、ちょっとストップッ!」


 マルコがビビアンの腕を掴んでいた男を払い除けようとするが、スレイはそれをさせないために黒鎖で羽交い締めにして押さえつける。

 今のマルコは頭に血が登っていて、ちょっとのことで確実に剣を抜いてしまいそうだった、そうなってしまえば例え事情があったとしても悪いのはこっちなので勘弁してほしい。


「なんだてめぇは!」

「あなた方が連れていこうとしている女性の友人ですよ。それっで彼女をどこへ?」


 スレイが淡々とそう告げると、彼らのボスらしき人物が一枚の念書を取り出した。


「あの女の連れが俺たちから金を借りて返さねぇんだ。だから代わりに連れて行くってわけだ!」

「違っ、私そんなの書いた覚えないのよッ!」

「うるせぇッ!ここにてめぇの名前があんだろうがッ!」

「ちょっと見せていただいても?」

「構わん、どうせ映しだ」


 借用書の写しを受け取ったスレイは、記載の欄にしっかりとビビアンの名前が書かれ指印まで押されているのを確認する。

 だけどさっきのビビアンの様子から嘘は言っていない。


「それは本当に彼女が書いたものなんですか?」

「あぁ、その女と似た顔の女が書いたのをしっかり見たぜ」


 姿だけならば魔法を使えば確実に姿を変えられる。

 それはあの男たちも知っているだろう、それを知っていてなお連れていくと言うことは確証をもってのことだろう。

 これはかなり面倒なことになった。スレイはそう思いながら考えを巡らせることにした。

すみません。本当ならハロウィンの特別編を書きたかったのですが、間に合いませんでした。

ですので、変わりとして本日は三話投稿させていただきます。

時間はこの後十三時と十八時を予定しております。もしよろしければ読んでみてください!

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