事実確認
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スレイは今ものすごく興奮していた。
それは、今自分の目の前で地球で憧れたロボットを模したゴーレムが自分の思い通りに動いて戦っている。
全身に剣を装備した黒騎士が背中にスラスターから魔力の翼を構築し人を凪ぎ払う。
全身に銃を仕込んだ黒騎士は騎士たちの剣や槍をかわしながらゴム弾もどきが仕込まれた魔道銃を使い騎士を撃ち抜く。
変形機構を備えた黒騎士は空中を飛びながら非殺傷設定の魔道銃を使い、人型ともう一つの姿である鳥型になり騎士たちを倒す。
重装甲の黒騎士は多くの騎士に囲まれていたが、次の瞬間黒騎士の装甲に光の線が走り装甲がパージする、
中から細身の黒騎士が現れ、片腕を銃身に変形させもう片手には魔力刀を握り騎士を蹂躙していった。
「行けっ!そこだ!よしッ!」
ただゴーレムが戦っているだけ、でもそれがものすごく嬉しく、それがものすごく感動する。
あえて似せて作り、自分の好みにカスタマイズしていたゴーレムだが、やはり格好いい物凄い格好いい。
ただ一つだけ残念なところがあるとすると、それは今戦っている相手だろうか。
やはりロボットはロボットと、つまりは同じゴーレム同士で戦わなければ面白くはない。
つまり人と戦う姿はあまり見たくないと言ったのが本音だが、この世界でゴーレム同士の戦いを望むのはあれなので、今はこれで我慢しようと思ったが、それはそれこれはこれと言うことであまりその事は考えないことにした。
「凄いなぁ、やっぱりこういうのはちゃんと生で見なくちゃ面白くないもんな!」
そいう言うわけで今のスレイは、初めて自分の目でこのゴーレムが動く姿を見ることが出来たため喜んでいたため、自分でも思うが語彙がかなり残念なことになっている。
身体は前を向いていても頭は後ろ向けながら、今まさに騎士たちと戦闘を繰り広げている四機のゴーレムの勇姿を目に焼き付ける。
自分に襲いかかってくる騎士の剣を鞘に収まった黒い剣で受け止め、白い剣の柄で鎧を打ち付けるとそのまま闘気を流して吹き飛ばしたスレイは、自分を取り囲んでいる騎士たちを睨み付けながら一気に叫びつけた。
「あぁッ!もう!さっきから鬱陶しいんだよ!さっさと片づけてやっかから纏めてかかってこい!」
スレイがそう告げると、スレイのことを取り囲んでいた騎士たちが一斉に向かってきた。
そっと鞘に納めたままの白い剣を地面に突き刺すと、黒い剣の鞘に手をかけ居合いの形を取った。
本当なら居合いはこんな剣でやるものではない。ユキヤのように刀を持っているわけでも、師匠からこの剣での居合いを習ったわけでもなく、ただこの方が速く攻撃が出来るという理由からだ。
スレイは剣を鞘に納めた状態で、握る柄を通して雷撃の魔力を流しながらタイミングを見計らい、スレイの技の間合いの中に騎士たちが入ると同時に黒い剣を鞘から抜き放った。
「───見様見真似 混成居合いの型 雷鳴の一閃!」
スレイが鞘から剣を引き抜くと同時に甲高い雷鳴が鳴り響いた。
引き抜かれると同時に放たれた斬激と組み合わされた雷撃が騎士たちを切り裂くと、刃を受けた騎士たちはパタパタっと地面に倒れていった。
雷撃をまともに受けた騎士たちだが、もちろん死なないように手加減をしてある。弱めの雷撃を受けて、しばらくはまともに動けないだろうが念のためにスレイはアラクネと黒蛇を使って麻痺毒をプレゼントしておいた。
「よし!これで静かになったな………って」
スレイは剣を鞘に納めて後ろを振り向くと、両手に握っていた剣を鞘がポロリと手からこぼれ落ちた。
「そっ、そんな………ばっ、馬鹿なッ!!」
信じられない物を見たと震えるスレイは、本日何度目になるかわからない四つん這いになって倒れてしまった。
その理由は、すでに黒騎士四機の戦いが終わってしまったからであった。
「ちっくしょぉおおおおおーーーーーーーーーーーッ!!」
男のロマンと夢の瞬間が今まさに終わってしまった。
悲しき男の慟哭が今森の中へと響き渡ったのだった。
⚔⚔⚔
結界が消えたお陰でユフィたちと合流が出来たが、スレイの顔は暗いままであった。
暗い顔のスレイの周りからはなんとも言えない負のオーラがながれており、ユフィたちだけでなく状況説明をしてもらいたかったマカロフたちからも心配の眼差しをもらうこととなった。
そんな中、この重苦しい空気に嫌気が差したのか、黙ってスレイを見ていた冒険者たちの間を縫ってやってきたアーキムがユフィたちの側にやって来た。
「君たち、彼の身にいったい何があったんだい?」
「さぁ?……私たちがスレイ殿と合流したときにはもう既にこうなっていましたので」
全員がスレイの身に何があったんだ?そう疑問を口にしようとしたが、それよりも先に復活したスレイがガバッと立ち上がった。
「そうだよ、なにも今回だけって訳じゃないんだ!まだ機会はあるんだよ。そうだ、だから大丈夫!次だよ、次に同じことがあった時にちゃんと見ることが出来ればいいんだ!!」
いきなり立ち上がったと思うとなにやら叫び出したスレイを全員が引いた目で見ていた。
「なんだかものすっごくいきいきとした目をしてますね」
「……ん。ホントにそだね」
だが、今のスレイにはそんなことを気にしている余裕はなかったので、ツッコミも弁明もなにもしないままユフィたちの方へと視線を向き直ると、みんなにいい笑顔を向けながらこう告げた。
「それじゃあ、こいつら縛り上げたし町に戻ってさっさとこのクズ憲兵に付きだして、国脅して報酬上乗せしてもらって一件落着といきましょうか?」
『『『『『『『『いきなり復活してなんか物騒なこと言い出した!?』』』』』』』』
話をかなりはしょり、説明したスレイに全員が一斉に叫ぶとだいたいこう言うときは何かあるな、そう思っていたユフィがスレイの頭をコツンッと杖で叩く。
「スレイくん、ちゃんとみんなにもわかるように説明、これ大人の常識でしょ?」
「あぁ~そうだね……ノクト、悪いんだけどそこで倒れてる一等豪華な鎧着てる騎士、多分隊長格だから、その人にディスペルの魔法かけてあげてくれないかな」
「わかりましたけど、なんでディスペルなんてかける必要があるんですか?」
「かけてみればわかるよ」
ノクトはスレイに言われた通り金の装飾が施された騎士にディスペルの魔法をかける。
ディスペルは複雑な魔法の術式でもない限りは一瞬で解けるが、ノクトが魔法を使うと同時に騎士の身体から複雑な魔法術式が浮かび上がってきた。
「これは……術式が何十にも重なってる……?」
「なっ、なんですかこれ!?」
「……ちょっとイヤな気配がする」
素人の目でもひと目見ただけでわかるほどの危険な魔法陣を前にして、周りに動揺が走る中でも平然としている人物がいた。
「そりゃ、精神汚染系の術式だからね。ノクト代わろうか?」
「おっ、お願いします。これはわたしじゃ無理です」
「任されました」
スレイは術式に手を触れると一瞬にして多重の術式を空中に移動させ、その中からいくつかの術式を抜き出しその術式を消し去った。
「おっ、お兄さん!そんなことをしたら!」
「大丈夫だよ」
ノクトが何かを言おうとするもスレイはにこやかに大丈夫だといった。
すると不思議なことに複雑に展開されていた術式が崩壊し崩れ去っていったのだ。
その光景にノクトを始め、何人かの魔術師が驚いていた。
「あんなにも複雑な術式のディスペルを、なんでそんなに簡単にできるものなんですか?」
ノクトの小さなつぶやきを聞いたスレイは意外そうな顔をしている。
通常、複雑な術式のディスペルを行うとき角層ごとに術式を解析し分解していかなければならないのだが、スレイはひと目見ただけでそれを解読し、更には数か所の術式を消すだけと、モノの数秒で解除してみせたのだ。
「あぁ。こういう複雑な構造のものって一見して強固に作られてると思うだろう?」
「当たり前ですだから普通は一つ一つを丁寧に解析して分解して──」
「まずはそこが間違い」
ノクトの言葉を途中で切ったスレイは倒れている別の兵士に歩み寄り、先程の人のように空中に術式を浮かび上がらせながら説明を始める。
「こうした多層式の術式の場合、複数の術式が重なり合って一見複雑に見えるけど、実際はいくつかの術式の必要な部分を繋いで効果を発揮させているんだ」
「当たり前です!多重術式ですから」
「そう当たり前……でも、この術式にはつなげるだけでそのまま意味を成さないものがいくつも存在しているんだ」
っと、ここまでスレイが説明したことでノクトも何かをわかったらしい。
「つまり、お兄さんは意味をなさない部分をわざと繋げて、魔法陣を成り立たなくさせた、ってことですか?」
「そう。正解。ついでにさっきの術式をより効率的に運用するなら、多重構造式よりも単一術式に変えたほうがいい──こんなふうにね」
手の中に新しく最適化した魔法陣を展開したスレイ。それを見て再びノクトたちは驚いている。
そんな中ユフィが倒れている他の騎士たちに歩みより、同じようにディスペルの魔法を発動し、解呪の魔法を使用しながら呟く。
「全く、そう言うことなら始めからそう言いなよ」
「悪い悪い、ちょっとショックなことがあって立ち直った勢いで話を進めちゃった」
「仕方ないなぁ~、まぁいいけど………それでどうする気?」
「とりあえずこいつらのディスペルしまして、さっき言った通りに金踏んだくってやろっかなって、あっ、でもユフィたちが望むんなら国一つを落とすことも辞さないけど」
スレイが平然とそう告げながら他の騎士のディスペルを始め、他にも冒険者たちの中にいる魔術師にも同じような作業をするように命令し、自分も作業を使用とした瞬間、スレイに向けてツッコミを入れてくる人物がいた。
「いやいやスレイ殿!?なに平然と作業を始めてるんですか!?やらなくていいですからね!?」
「そうですよ!ちょっとユフィお姉さん!お兄さんに何か言ってあげてください!」
「スレイくん?私たち、犯罪者のお嫁さんごめんだからね?」
「いや、ユフィ殿、そう言うことじゃないと思いますが………」
ユフィたちがスレイに向けて訴えかけている中、何かに気がついたライアが側にいたノクトの横にやって来ると要件を早々に話し出した。
「……ノクト、ノクト、あの騎士目が覚めたみたい」
「えっ、あ!わかりました。ちょっと行ってきます、ってお兄さん!?いったいなにしにそっちに行こうとしてるんですか!?」
今まで他の騎士のディスペル作業をしていたスレイがその作業を早々に終わらせると、ノクトが駆け寄ろうとしたよりも先に転移魔法で騎士の側に立った。
流れるような動きで黒い剣を抜いて剣の切っ先を真っ直ぐ騎士の眼前に向けた。
剣を向けられた騎士は、目を覚ましていきなりのこの状況に驚きを隠せないでいた。
「なっ、なんなんだいったい!?」
「冒険者の者ですがいくつかボクの質問に答えてください。事前にいっておきますが、嘘は看破できますので正直に答えた方が身のためですよ?」
スレイが騎士のために分かりやするために左目の魔眼の色を出すと、すぐに騎士の顔がなにかを疑うような顔をしたが、少しだけ間を開けてから誠に不本意な顔をしながら口を開いた。
「わかった……だが、答えられないこともあることは理解してくれ」
「はい。それは理解しています。ではまず一つ目、グランツという魔術師……いえ、魔導師は解りますよね?」
「あぁ、我が国の魔導師長だなそれがどうかしたか?」
スレイは左目でこの男の魂の色を見ている。
人間は嘘をつくとその魂が微かに揺らぎそして暗い色をさすが、どうやら間違いではなさそうだと思い、スレイは次の質問に移ることにした。
「じゃあ、始めに聞くべきことなんですがお名前を教えてください」
「………名乗るならまずは君からではないのかね?」
「そうですね。ボクはスレイです。これ、ボクの身分証とギルドのカードです」
嘘を言っていない証拠のためにスレイは身分証と冒険者のカードを見せると、それを信じてくれたらしく騎士は静かに名乗ってくれた。
「騎士団中隊長のヨハンだ」
「そうですかありがとうございますヨハンさん。それでは次の質問なんですけど──」
スレイはいくつかの質問を淡々と続けていく。
ユフィたちもその質問の内容に耳を傾けていると、最後の質問をし終えたスレイはヨハンにお礼を言ってから遠くでやり取りを見ていたユフィたちと、一応ランクが一番高いマカロフにも話をするためをに呼び寄せる。
「結論から言ってヨハンさんは白だね」
「確認だがそれは信じて良いんだね?」
「まぁ絶対とは言いがたいんですけど、ざっくりとだけ白だなとしか言えませんね」
眼の能力自体が魂を視るためのものだ。
スレイの魔眼は魂の色や揺らぎなどは視れるが本人がその嘘を真実だと思い込んでいたり、今回のように魔法によって操られていた場合、本人の意志がねじ曲げられている場合があるようであまり効果がないかもしれない。
「それであの方にここであったことは話されたんですか?」
「一応はね。でもまぁ実際に見たわけでも無いし信じてくれたかどうかは曖昧だけどね」
実際に起こったことを見てもらえれば早いが、今手元にあるのは魔物の死骸だけ。変異個体の死骸と言ってもそれだけでは信憑性にかける。
それならばグランツ本人の口を割らした方が速いが、やつはまだスリープで眠っていている。
「これじゃあ、手詰まりか」
「ところが、そうじゃないんですよね」
スレイとユフィはニヤリと口元を歪めると懐から一枚のプレートを取り出した。
それを見たノクトたちは、そういえばとつぶやきながらこの戦いの前に二人がやっていたことを思い出した。
「この中に証拠があります」
二人はレイヴンとオールの目越しに録っていたグランツとの会話をヨハンに見せると、先程スレイがヨハンに説明していたことが事実であることを証明することが出来た。
だが、そこで一つとても重大な問題が浮かび上がってきた。
「グランツは戦争を起こそうとしていました。なので少なくとも国王はもちろん、国の中核人物の大半はあいつから洗脳を受けていた可能性があります」
「あと考えられるのはグランツの協力者……まぁさっきの口ぶりだと単独犯の可能性が高いかな?」
「洗脳と言えば、部隊の方々と魔術師のみなさんのディスペルは終わったんですが……」
ノクトが気まずそうに魔術師たちに視線を向けると、全員が全員、まるで葬式でもやっているような暗い表情で落ち込んでいた。
「エリートってどこでもプライドが高いんですね?」
そうリーフが呟いた通り宮廷魔術師団に入れるのはたった一握りのエリートだけ。
つまり彼らは出世街道を歩いていたにも関わらず、同じ魔術師の、しかも団長に魔法をかけられいい駒にされてただけでなく魔法を解かれるまで全くその事に気づけなかったことがかなりショックだったらしく、事情を説明した辺りで全員が撃沈してしまった。
もはやエリートの影はなく、ただの無能の集団と化してしまったのだ。
「……これ、いったいどうするの?」
「どうするもこうするもねぇ……?」
「ちょっと天狗になった鼻をへし折られただけでこれとは、いささか頼りないことですが……」
「ここはまぁ、お兄さんが何とかしてくれますよ」
「おい、だからなんでボクなんだよ!?」
上から順にライア、ユフィ、リーフ、ノクトが言葉を繋ぎながら全員がスレイへと丸投げを決め、それに対してスレイが苦言を進言したが全く取り合ってはくれなかった。
「仕方ないか……ちょっとお話ししてくるか」
スレイがゲートを開いて意思を喪失している魔術師たちをその中に投げ捨てる。
それから約十分ほどで再びゲートが開いたとき
「それじゃあみなさん、さっきお願いしたことどうかよろしくお願いしますね?」
「「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」」
帰ってきた魔術師たちは、たった数分でどこかの軍隊の兵士並みに綺麗な敬礼をするようになった。