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悪魔の笑みで

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 ヴェーチィア王国宮廷魔導師長 グランツによって造り出された悪魔のような魔物、ディアボロシアを討伐を終えたスレイは、ユフィに頼みグランツを閉じ込めていたシールドを解いてもらう。

 こんな事件を引き起こそうとした理由を聞き出そうとしたのだが、シールドと一緒にサイレンスも解いてもらったのだがグランツの第一声はこれであった。


「近寄るな化け物めッ!?」


 それを聞いたスレイはピシャリと雷に打たれたような幻想をバックにして膝から崩れ落ちてしまった。


「うわっ!?スレイくん!?」


 化け物というワードはスレイの心にクリティカルヒットしたのか、世にも珍しい四つんばいになってしまった。

 スレイが倒れたのを見て色々と言っているグランツの声を聞こえないように、もう一度サイレンスで声をシャットアウトした。


「ちょっと、大丈夫?」

「ごめん………ちょっと、無理かも」

「えっ、なにこれ?なんかすごいレアなんですけど!?」


 突然倒れたスレイを前にしてユフィは珍しいと思い、心配しながらも決定的な証拠を残さねばならないと、プレートで写真を激写していた。

 ひとしきり取り終わったユフィは、このままでは話が進まなそうだと思いツンツンっとスレイのことをつついた。


「スレイくん?大丈夫~?まだ傷は浅いよ~?もしもぉ~し、生きてる~?」

「ほとんど、初対面の人に化け物って言われた……かなり心の中にダメージ入った……死にたいほどではないけどちょっと泣きたい気分になった……ユフィ、後でみんなで慰めて?」


 ここまでダメージがあるのは珍しいと思いながら、ユフィはよしよしと頭を撫でる。


「よしよし、これが終わったらみんなで慰めてあげるから。今は頑張って立ち上がって?ねっ?」

「うん、頑張る」


 ここで頑張れば後で慰めてもらえると、スレイは自分の心を奮い立たせて立ち上がった。それも無理をしているのか、その表情はとても暗く沈んでいるのだった。

 化け物呼ばわりされてダメージが残っているスレイ、サイレンスで声は聞こえないがグランツは先程からなにかを叫び散らかしている。

 どうせろくでもないことだろうと高を括るユフィは、聞くのも嫌だと思った。


「ねぇスレイくん。もうこの人のこと眠らして町に帰ってから話をゆっくり聞かない?」

「そうだね。これ以上この人に何か言われたら、ボクの心は粉々になってもう立ち直れそうにないよ」


 普段ならどんな言葉にでも負けないスレイであったが、化け物という単語には極端に弱い。その理由は自分の師匠が化け物のように強くて恐ろしいせいだ。

 なので自分だけは絶対にああはなるまいと心に誓っていたにも関わらず、自分がその人外一歩手前まで踏み込んでいることが受け入れられない拒絶反応だったりする。

 そんなスレイの心の葛藤を知ってか、ユフィはサイレンスで声が届かないにも関わらず叫びちらしているグランツに近づいた。


「うるさいから、少しの間眠っててください───スリープ」


 ユフィが魔法を放つと、今までなにかを叫んでいたグランツが静かな寝息を立て始めた。

 これで静かになったと思ったユフィはこれからどうするかとスレイに訪ねる。


「取り敢えず、ノクトたちに終わったこと伝えようか」

「そうだね、心配してるだろうしね」

「ボクはこいつ縛っておくから、連絡頼むよ」

「オッケー」


 スレイが空間収納からロープを取り出すのを見て、ユフィは殺さなきゃいいけど、なんてのんきなことを考えながらプレートを取り出す。

 ノクトのプレートに連絡を入れ、少しして相手側との連絡が繋がった。


『ユフィお姉さん!どうしたんですか!まさかそっちで何かあったんですか!?』

「大丈夫だよ~何もないから少し落ち着いて私の話を聞いてね?」


 通信が繋がると同時に写し出されたノクトの顔、それはかなり心配していたのかなんとも不安そうな顔だったので、ユフィはまずノクトを落ち着かせるためにそう答えると、その話を聞いて落ち着きを取り戻したのかノクトは大きく深呼吸をし始めた。


『すみませんユフィお姉さん……さっき森の中から悲鳴が聞こえて、もしかしてお姉さんとお兄さんに何かあったのかもって思ってわたし……わたし……』

「わっわわっ、大丈夫だよノクトちゃん。その悲鳴は私のでもスレイくんのでもないから、それにさっきスレイくんが言ってた魔物も討伐したから、もう何も心配はないよ」

『はっ、はい!』


 泣きそうになったノクトをなんとか泣き止ませたユフィは、通信をかけた本来の目的を話しだした。


「ねぇノクトちゃん。そっちにリーフさんとライアちゃんが戻ってるはずだから、呼んできてもらえるかな?」

『わかりました』


 ノクトに二人を呼んでもらったユフィは、こっちであったことを簡潔に説明した。


「っと言うわけで、始めに私とスレイくんが睨んだ通りグランツが犯人だったよ」

『そうだったのですか……ところでユフィ殿、先程からスレイ殿がいないようですが』

「あっ、スレイくんならあっちに───」


 ユフィがスレイの方に視線を向けたが、速攻でプレートの方に視線を戻してしまった。


『ユフィ殿?どうされたんですか?』

「うんん、何でも無い、何でも無いんだよぉ~」

『顔がひきつってますけど、大丈夫ですかあの?』

「平気平気ぃ~、何でも無い、何でも無いよぉ~」


 言い聞かせるようにユフィが何度も同じ言葉を口にする。

 おかしな行動を取るのを見て、これはないかあったと察したリーフたちはユフィを問い詰めようとしたその時だった。


「おっ、みんなと連絡が繋がったんだ」


 ことの元凶と思しき男、スレイが顔を出した。


『お兄さん、怪我とかしてはいませんか?』

「あぁ。平気。心はちょっとばかし傷ついたけど」


 どう言うことだとノクトが疑問を覚えていると、続けてライアが問いかけた。


『……スレイ、さっきからなにしてたの?』

「ん?何って、あいつ縛ってついでにこれを探してたくらい」


 スレイがみんなに見えるように掲げたのはグランツの財布だった。

 それを見せつけられたリーフたちはなんとなくユフィがあんなおかしな行動を取った理由を察した。


『スレイ殿、流石に好いたお方であっても犯罪は見過ごせません』

『いくら犯罪者だからって盗みはダメです』

「スレイくん、面会はいくからね」

「おいコラ、誰が犯罪者だ。別に財布なんざ欲しくないってのッ!」


 真顔でそう答えるスレイにユフィたちは揃って首を傾げている。

 彼女たちからのその反応にスレイの心は悲しみ暮れていた。

 付き合いの短いリーフたちならいざしらず、異世界からずっと一緒にいるユフィにまで疑われていることに、なぜだか無性に悲しくなってしまった。


「ユフィ、君ならばわかってくれると思っていたのにさ」

「えぇ~、流石に犯罪を擁護はしたくないよぉ~」

「誰が犯罪者だ………ボクが欲しかったのはこれだよ、これ」


 スレイは財布とは別に手に入れていた物を、ユフィだけでなく通信機越しにノクトたちにも見えるように掲げてみせる。


「その紙ってもしかして、そっか、それなのね」

「ボクはこれが欲しくてあいつの衣服を探ってたんだよ、そしたらあいつ研究ノートやらなにやら全部ローブの中にしまってたんだよ、探すのに苦労したよ」

『そうだったんですね、お兄さん。疑ってごめんなさい』


 ユフィとノクトがスレイに謝るのを見て、なにが何なのかわからないと言った様子の二人だった。


『……ねぇ、その紙なんなの?』

「これは結界の通行証とでも言っていいのかな?」

『通行証ですか?』

「これをもっているだけで結界を自由にゲートを開いたり、結界の外にも出れるって言う物なんだよ」

『なるほど、それさえあればこの結界の中から脱出できると言う訳ですか?』

「そう言うこと、まぁ見つかったのがたった二枚だけだから、外に出て結界を張ってる魔術師倒して結界を消すか、それか時間はかかるけど人数分を複製するかのどっちかだけどね」

『でもお兄さん、複製って言いますけど材料とか持ってきてるんですか?』


 この護符は一枚につき一人しか外には出れない。

 人数分ともなるとだいたい数百枚もの護符に術式を描かなければならない。

 それはそれでとてつもなく面倒な作業であり、先程ノクトから指摘があった通り魔道具を作るための道具も必要です。

 道具は整備の関係上いつも持っているが、魔道具を作るために必要な特殊インクの量、それに護符の材料が足りないのだ。すると今度はリーフが訪ねる。


『あの、もしやとは思いますが、外の魔術師って国の魔道師団なのではないでしょうか?』

「まぁそうだろうねぇ~……でっ、どうするのスレイくん?」

「あのさぁ、ユフィさん。たまにはボクに頼らないって選択しは……はい。無いですね。わかってましたよ。ちょっと試したいことがあるから、確認したらみんなのところに戻るよ」


 通信を切ると、護符を手に持ったスレイは魔力を流しながら小さくゲートと呟いた。


「どこに開いたの?」

「外の街」


 結界の中にいる間はゲートは開くことが出来ない、これでこの護符が本物であることが証明された。

 念のためにゲートに手を入れると、中に入ることが出来た。


「うん。ちゃんと機能しているな」

「確認できたらみんなのところに戻ろうか」


 少し離れたところに転がしているグランツを抱えると、二人は空を飛んでみんなのところへと戻った。

 空から着地し、抱えていたグランツを投げ捨てると、スレイの元に飛び込んできた人たちがいた。


「うわっ、ちょっみんな」


 飛び込んできたリーフたちを受け止めたスレイは、周りから一身に抜けられる殺気に顔を引き取らせる。


「頼むから今は抱きつかないで、まだ終わってないから!後殺気がすごいから!!」


 スレイが三人にそう言うと、渋々と言った具合で離れていった。

 少し名残惜しかったが、今はこんなことをしている時間はないので、ここに来た目的を終わらせようとした。


「ノクト、ボクの黒騎士返してもらうね」

「はい。わかりました」


 空間収納に黒騎士二体を入れると、先程のみんなに集まってもらって手短に作戦を伝える。


「これからボクがあいつを連れて外に出て結界を張ってる術師を倒します」

「他に手はないのなら仕方がない。任せるよ」


 先程話していたマカロフたちからも任されたスレイは、ゲートを開いて外に出ようとしたとき心が折れ今までうつむいていた冒険者たちから批判の声が上がった。



「何でお前だけ外に出れるんだ?」

「お前が俺たちを!」

「お前がやったのかッ!?」


 次から次へとかけられる批判の言葉を聞きながら、これは流石に予想外だったが、これに時間をかけている余裕はないのでアラクネの麻酔針で眠らせる。


「よし、静かになったところでこいつ連れて外いってくるからちょっと待ってて」

「はぁ~い」

「行ってらっしゃい」

「お気をつけて」

「……ん。頑張って」


 四人に声をかけるとユフィたちがスレイに近づいてきて、触れるだけの短いキスをする。

 ただそれがユフィとだけと言うわけではなく、ノクトとリーフともしたため殺気がスゴかったがなんとか我慢して三人とキスし終えると、なぜかここでもライアが近づいてくると、そのまま顔を近づけようとしてきた。


「待て待て待て!?ライアさん何しようとしてんの!?」

「……ん?キスだけど」

「だけどじゃないよね!?毎度言うことだけど──」

「……それはいいから」


 苦言を言おうとしたスレイを無視してライアはユフィたちと同じように触れるだけのキスをする。

 なんなんだろう状況、突然のことで頭が真っ白になってしまいフリーズしてしまったスレイだったが、そんなスレイの肩を優しくポンっとユフィが叩いた。


「良かったねスレイくん。四人目のお嫁さんゲットだね?」

「…………後でしっかり話し合いさせてくださいお願いします」


 なんだかこんな時にやっていることではないだろうと思いチラッと横を見ると、どす黒い闇のオーラを出した冒険者たちがスレイを見ている。

 その中にはマカロフだけでなくマルコとアーキムの三人の姿もあったが、全員が声を揃えて叫んだ。


『『『『『『『クタバレリア充!!』』』』』』』


 わかっていたことだがどうしていいかも分からず、スレイはなにも言わずに静かに一回頭を下げると気絶させているグランツの首根っこを掴み、背中に竜翼を広げて空へと飛び上がった。


 ⚔⚔⚔


 結界の外に出る直前、スレイは自分とグランツの周りに幻影を纏わせ風景に同化させると、結界を構築している魔術師の姿を確認している。

 魔術師たちが着ているローブ、その胸元には国の騎士団らしきエンブレムがあり、その後ろには豪勢な鎧を着込んだ騎士たちが揃っていた。


「これマジで国家戦力じゃん……どうしょう、これが原因で指名手配されたら」


 犯罪者として世界を逃げ回る自分の姿を想像してしまったスレイだが、ふとあることを思いつきアナライズで騎士や魔術師を見てみると面白いことがわかった。


「ふむふむ、なるほどなるほどそう言うことでしたか……よし、遠慮なく潰せるな」


 スレイは幻影を解き騎士と魔術師のいる前に降り立った。


「初めまして、冒険者のスレイって言います。早速なんですけど、お宅の宮廷魔導師長のグランツさんが、ボクたちを殺そうとしまして、こう言う形で連行することになりました」


 丁寧なお辞儀をして挨拶をしたついでにグランツを引き連れて来た理由を説明した次の瞬間、騎士団の方から無数の矢がスレイに向かって飛んで来たため、スレイはシールドへ防いでいた。

 つまりは交戦することは決定ということであった。

 空間収納から黒騎士を四機取り出し起動させる。


「よし、非殺傷設定にしておいたけど、骨の二三本は折れるから覚悟しておいてくださいね」


 悪魔的な笑みを浮かべたスレイは、騎士団の面々に向けて黒騎士たちをけしかけるのであった。

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