仕組まれた依頼 ④
ジャイアント・コングが死ぬと同時にコングの体内から溢れんばかりの爆炎がほとばしった。
コングが立っていた場所を中心に、森の一角は爆炎に包まれた。
木々が燃え爆風の熱気が辺りを包み、森の中には生き物が暮らしいていける状態ではなかった。
そんな熱風の吹き荒れるなか、一匹の魔物が歩いていた。シルエットは人のそれに近いがあからさまにそこにいるのは人間ではなかった。
のっぺりとした顔には鼻はなく代わりに鼻の辺りには小さな穴が二つあり、目の部分にも大きな虚のような闇が見えるだけであった。
頭部には鋭く尖った角が生え口は大きく裂け、そこから覗く鋭い牙が狂暴さと凶悪さをかもち出していた。そしてその凶悪さは顔だけではなく全身にも存在する。
身体の全ては鱗に覆われ手足には硬質な爪が、尾てい骨の辺りから生えている細長い尻尾にまで硬質な鱗と鋭利なトゲが無数に生えている。
魔物の口が開くと口の端しから小さな火の粉が舞っていた。
⚔⚔⚔
燃え盛る大地を見下ろしすような位置で竜翼を羽ばたかせながら空を飛び続けているスレイは、燃える大地を作り出した原因となったジャイアント・コング。
その中から現れた謎の魔物の姿を注意深く観察していると、そのシルエットを見ていたスレイがこんなことを呟いていた。
「まるで、子供が思い描く空想の世界に存在する悪魔みたいな奴だな」
そんな呑気なことを言っているスレイだったが、ジッと魔物に視線を向けて離そうとはしない。
その理由は、魂視の魔眼によって得られた情報からわかったのだが、あの魔物が複数の魔物を取り込み吸収している変異個体であることだ。
そしてこれはユフィも気づいていることだが、あの魔物の身体から溢れだす魔力、あれは明らかに死霊山の魔物、それも確実に山頂近くの魔物と遜色がないほどの強さを持っている。
その近くにはフライングボードに乗って飛んでいるユフィと、スレイと同じように竜翼を使って飛んでいるライアが並んで飛びながら、あの魔物に視線を向けていた、
リーフがここに居ないが、二人はどうにか合流して今は山の麓の方で合流し、全員無事なことは先程確認していた。
「そんな呑気なこと言って、私たちが間に合わなかったらスレイくん今頃丸焼けだったってことちゃんと理解してるのかな?」
そう、スレイがジャイアント・コングの首を落としたとき、ライアの声を聞かなければスレイはコングの中にいるあの魔物の存在に気づかなかっただろう。
すべてはライアのお陰だ。
何せあのときの声がなければ咄嗟に転移魔法を発動してシールドを張っていたユフィのところまで行くことは出来ずに、今頃はあの爆炎の中心で焼き消されていたかもしれないのだ。
その事実をユフィに言われて思い出させられたスレイは、空を飛びながら器用に二人に向けて頭を下げていた。
「はい。それはもう重々承知しております。ボクを助けてくれてありがとうございました」
「それじゃあスレイくんはお礼に、帰ったら私たちにご飯を奢ること」
「わかったよ。ちょっと行ってみたい店があったからそこでいいなら」
「ふふぅ~ん。じゃあ、みんなのエスコートはよろしくね」
「はい。お嬢様の仰せのままに」
二人がそんな会話をしている横で、ただ一人ライアが不思議そうな顔をしてスレイとユフィのことを見ていた。
そんなライアの視線に気がついた二人は、下にいる謎の魔物をみすえる。
スレイは心の中で鱗のある悪魔のような魔物だからと言う理由でスケイルデーモンという名前で呼ぶことにしたその魔物を警戒しながらライアの方に視線を向けている。
「どうかした、そんなに不思議そうな顔して」
「……私の魔眼、死を見たら確実に外さないのに……なんで?」
さらりとライアの口から聞かされた死んでいた発言にさすがのスレイも表情が固まった。
「えぇっと、ライアさん?それ、冗談?」
引きつったスレイと反対に真顔でふるふると首を横に振ったライアの顔は至って真面目だったため、スレイの顔は真っ青になっていた。
やっぱりあの時死んでたのね、心のなかで思っている。
「魔眼が外れたことって、他にないの?」
「……未来視ならあるけど、死の運命は外さない」
人の死が確実に見えるライアの"死視の魔眼"が、一度視たはずの死の予言を外したと言う事実について疑問もあったが、二人には心当たりが有った。
「ねぇ、やっぱりアレなのかな」
「多分そうだと思うけど」
魔眼が外れた理由はスレイがこの世界とは別の世界で死んで、女神 アストライアの力によってこの世界に転生した転生者だからではないかという仮説だ。
一度死んだ人間だから、死の運命を外すことができたのではないか、そしてもう一つだけスレイには仮説があった。
それはスレイの左目にある魂視の魔眼だ。
この魔眼には伝説の聖竜 ヴァルミリアの因子を宿している。
もしかしたら左目の魔眼に宿っている竜の因子の力を受けて、ライアの死視の魔眼が視た死の運命をねじ曲げたかもしれないというものだ。
どちらも仮説でしか無いので確かめようがないが、スレイは不安そうな顔をするライアに適当な言葉で安心させる。
「もしかしたら、ライアが運命を代えたいって強い意思が魔眼が見せた運命を変えたのかもよ?」
「そうだよ。だからそんなに考え込んでないでねライアちゃん」
「……ん。わかった」
どうにか納得してもらえてよかったが、なぜだか騙したような気持ちになった二人は心のなかでごめんと口にした。
ユフィはふと下にいた悪魔のような魔物の姿が無いことに気がついた。
「スレイくん!ライアちゃん!あの魔物がいないよ!」
ユフィの声を聞き、スレイとライアが身を起こして空中に留まり同じくフライングボードをその場に留めながらあの悪魔のような魔物の姿を探している。
だがどれだけ探しても魔物が見つけられない。
スレイとユフィが探知魔法を使って探すが、この山はかなり広いため二人の探知魔法でも距離が足りなかった。
「……スレイ、どうするの?」
「──ッ、ユフィとライアはあいつの捜索を続けて、ボクはリーフとノクトにこの事を知らせる」
「わかったよ!」
「……ん。了解」
もしもの時のためにスレイはプレートを使ってノクトのプレートに連絡を入れた。写し出された映像から、ノクトの姿が映るとスレイは映像越しのノクトに話しかける。
『どうしたんですかお兄さん?』
「ノクト、理由は後で話すから、そこにいる魔法使い全員と協力して、全力でシールドを張って!」
『いきなりどうしたんですか、そんなに慌てて』
「いいから早く!それとノクト、リーフが近くにいるなら代わってもらっていいか?」
『はい……リーフお姉さん、お兄さんが呼んでますよ』
そうノクトが声をかけると遠くの方でリーフの声が聞こえ、すぐにプレートから映し出されている映像の中からリーフの姿が写し出される。
『どうされましたスレイ殿』
「いいかリーフ、もしかしたらそっちに魔物が一匹向かうかもしれない。強さは死霊山、その山頂付近の魔物と遜色がないと思う」
『────ッ!?』
スレイの話を聞いてリーフが息を飲んだのを聞いて、その反応は始めからわかっていたスレイはそのまま話を続けていくことにした。
「それで、リーフにはもしもそっちに魔物が行った時には討伐を頼みたい」
『わ、わかりました。それで、スレイ殿たちはどうされるんですか?』
「ライアはそっちに戻すつもりだ」
『ライア殿だけ……お二人は戻られないのですか?』
「ボクとユフィはあの魔物を探す。もしもこの結界の外になんて出られたら、いったい何人の死者が出るか……考えたくないからね」
『承知しました。お気をつけください』
「そっちも気をつけて」
リーフとの通信を終えたスレイは、ユフィとライアを呼び寄せると先程のリーフとの通信の内容を話した。一方的に決めた内容ではあったが、ユフィは納得してくれた様子だったがライアは少し不満だったようだ。
「……私も一緒が良かったのに」
「ダメだ。これ以上捜索の方に戦力を回すのは得策じゃない。ライアには悪いけど、今回は防衛の方に回ってくれ、頼む」
「ごめんねライアちゃん。この埋め合わせは今度するからね」
「……わかった。二人とも気を付けて」
ライアが身を傾け後ろに旋回し、綺麗な空中ターンを決めながらノクトたちの方へを飛んでいくのを、手を振りながら見送ったスレイとユフィは、ライアの姿が見えなくなったのを確認し森の中へと視線を巡らすた。
森を見据えている二人の目は、まるでどこかの戦場にでもいるような真剣な表情をしており、微かにだが二人の視線には殺気が含まれている。
重々しい空気が流れるなか、小さく開かれたスレイの口からユフィへと声がかけられる。
「ユフィ、近くに何匹いた?」
「うぅ~ん、多分………十、いや十二匹!それも全部小型の………大きさから言ってネズミや小鳥くらいの魔物だと思う」
「こっちも同じく、小型の魔物ばかり」
まるで示し合わせたかのように小型の魔物がひしめき合っている森の中、これはこういうことなの思った二人はお互いの顔を見合いながら言葉を交わす。
「これはもう、そういうことでいいのかな?」
「そういうことでいいんじゃない?」
二人の結論は一緒だった。
「周りの魔物十中八九使い魔なんだろうけど、念のため確認しとくか?」
「うん」
うなずきあった二人は森の中に存在する小型の魔物を一匹捕まえる。
使い魔を見分ける方法としては体内のコアに使役用の呪文があれば確定だ。捕まえたヘビ型の魔物の首を落とし体内のコアを取り出すと、コアには魔法陣が刻まれていた。
「使い魔で確定だな」
「どうする、面倒だけど全部潰す?」
すべてを調べた訳では無いが、今わかっている範囲でも三十匹ほどの使い魔が確認できる。この森一帯だとすればその数はどれほどになるのか想像し難い。
「辞めておこう。数が多すぎる。それにこれだけの数を放ってるってことは相手は多分」
「獣魔師だよね」
ユフィの言葉にスレイは静かに頷いた。
従魔師とは使い魔を使役して戦う魔術師の名称で、通常は一匹の魔物を自身の使い魔として自身の手足として使役しているが、熟練の獣魔師の場合は大型の魔物を一度に複数の使役することが可能になり、非常に厄介な相手だ。
ただし今回はその可能性は低いだろう。
今回この森の中に感じるのはどれも小型の魔物ばかり、この敵は魔力消費の少ない小型の魔物を数多く使役し監視を子なっているのだろう。
「問題は獣魔師の居場所だけど、追跡できそう?」
「無理だね、使い魔が死んだと同時にラインが切れてる」
魔力が無くなり死んでしまったコアを握り潰したスレイは、ユフィの方に振り返った。
「こうなったらアラクネを出して物量で探すしかないかも」
「そうだね。これ以上探してても時間の無駄だし、スレイくんお願いするね」
「オッケー任されたよ。でもここからだとさすがに壊れるかもしれないから一度下に降りるよ」
「そんなの言われなくたってわかってるよぉ~」
スレイとユフィがゆっくりと地面に向かって降りていく。ちょうど木々の高さにまで降下した直後、スレイは背後でなにか嫌な気配がしたような気がして振り返った。
「────ッ!?」
振り返った視線の先には杖を構えた男が立っていた。
杖の宝珠には魔方陣が展開されており、いつでも魔法を放てる状態であるのと、杖に映し出されている魔法陣を読み取ったスレイはあれがどんな魔法を発動しようとしているのかを読み取った。
──ヤバい!
そう思ったスレイは咄嗟に隣を飛んでいるユフィを抱きかかえ飛び上がる。
「きゃっ、なにするのスレイくん!?」
「いいから黙って!───アヴィス・トゥルゥー!」
ユフィを抱きしめ飛び上がりながら片手を掲げたスレイは、深遠なる穴という意味を着けた魔法を発動させる。
浮かび上がった魔法陣から黒い小さな球体が現れる。
アヴィス・トゥルゥーは重力魔法を軸にして小さな球体に超圧縮し、その一つ一つがとても小さな重力場を持ったブラックホールのような物だ。
スレイのアヴィス・トゥルゥーが発動するのとほぼ同時に謎の男は炎の矢を放っていた。
「クッ───行けッ!」
炎の矢が放たれたと同時にスレイも黒い球体を放った。
スレイの黒い球体と男の炎の矢が魔法がぶつかりあった。
黒い球体と炎の矢がぶつかりあった瞬間、炎の矢が球体に中に飲み込まれて消えてしまった。それには男も驚いたのか、待機状態にしてあった魔法を再び発動し炎の矢が放たれたが、同じように球体に飲み込まれる。
打ち出される魔法から身を守るスレイ、すると空中に展開していた球体がおかしな反応を示し始めた。
「スレイくん!暴走を始めてるよ!」
「ッ!?もうかよッ!」
ユフィが指差す先には球体に一つが異常に発達し、あたりの木々を飲み込もうとしている光景であった。
翼を羽ばたかせながら飛翔し続けるスレイは、片手で暴走を始めようとしている黒い球体を消し去るため残った黒い球体をすべてぶつけ合わせることで対消滅させる。
「やっぱ、危険すぎるなこの魔法ッ!」
このアヴィス・ルートゥーは重力場を利用してすべてを飲み込むのだが、一定量吸収を続ければ魔法は肥大化しあたりのものを際限なく飲み込んでしまう、まさにブラックホールのような魔法だ。
唯一消し去る方法が同じブラックホールをぶつけることにより対消滅させること以外に他ない、まさに危険な魔法だ。
一先ずの危険を取り除いたスレイは翼を羽ばたかせながら、自分の腕の中にいるユフィに声をかける。
「ユフィ、杖を出してあいつを攻撃して」
「うん。でもボードがないから抱えててね」
ボードが無いと飛べないユフィはスレイに抱えられた状態で杖を取り出すと、背後から打ち出される魔法を見ながら相手の位置を把握する。
木々の合間を縫って飛んでいるスレイを追って魔法を放っているはずのあの男、しかしその姿はどこにも見え無いところからユフィは不敵な笑みを浮かべた。
「へぇ~、気配遮断と魔力遮断の結界で私たちの背後から攻撃って、ズルいなぁ~」
「ユフィ、今はそれはいいから、あいつの動きを止めて──ただし、殺すなよ」
「はいはぁ~い。それじゃあ───ウィンド・ブロウッ!」
スレイが背後から飛んできた炎の矢を交わすと同時に、ユフィは掲げた杖に魔力を流し風の礫を放った。
放たれた魔法は視えない何かに当たると、ドンッ!と音を上げた。
「ナイス、ユフィ。さすがッ!」
「えっへん!もっと褒めなさい!」
「ハイハイ後でね」
軽くあしらったスレイはユフィに新しいボードを取り出すように言う。
するとユフィは大人しくその言葉に従ってユフィは新しいボードに乗って空に浮かび上がった。
「──そんじゃ、ちょぉ~っとお話聞かせてもらいましょうか、グランツさん?」
向けられた黒い切っ先の先にはこの国の宮廷魔導師であるグランツが木の上に立っていた。




