仕組まれた依頼 ③
スレイたちが猿の軍団と対敵したとき、ノクトは戦えなくなった冒険者を守るためのシールドを張りながらスレイとユフィから預かっているゴーレムの様子を確認しようとしていた。
すると一緒に守備隊に回っていた少し際どい服装の女冒険者と、ノクトと同じローブ姿の女冒険者がノクトの方へとやってくる。
「ようあんた。さっきの白髪のアンちゃんの連れだよな。こんな所で何してんだ?」
「えっと、白髪のってお兄さ──スレイさんのことですよね」
「そうそう。あっ、アタシはジェスだ。んで、コイツはアタシの相棒のジャジャだ」
「よろしくお願いします」
「わたしはノクトです………よろしくお願いします」
ジェスとジャジャのコンビに挨拶をかわしたノクトだったが、その顔は真っ赤になりどこか別の方向に向けられている。
ノクトが突如挙動不審になったのをみた二人が疑問を覚えていると、ついにジェスがノクトに訊ねる。
「どうかしたんだい?いきなり挙動不審になんかなっちまって、何かアタシら変なとこでもあったかい?」
「あ~、その……なんと言いますか……ジェスさんの服装が……その、アレだった物でつい目をそらしてしまいました」
先程はやんわりとした説明しかしていなかったが、正確に説明を付け加えると、ジェスの服装はどう考えてもおかしかった。
それは今の季節が冬だというのにジェスが着ているのは水着のように局部しか隠しておらず、水着のビキニのような鎧のせいでその女性らしい双峰が動く度に揺れている。
ノクトは服の上からでは凹凸すら確認できない自分の胸を確認して少し闇ノクトになった。
「それって、本当に鎧なんですか?」
「おう!ほれ、ちゃんと鉄で出来てるんだよ」
コンコンッとトップスを叩くと、確かに鉄の音がした。
他には手足を鎧が覆っているがこれだけで本当に鎧の意味をなしているのだろうかと、ノクトには疑問しかなかったのは言うことがない。
ついでにここスレイかユフィがいたならば確実に、リアルビキニアーマーだ!!っと喜んでいただろうが、二人はここにいないのが救いだろう。
しかしなぜ冬にそんな寒そうな寒そうな格好をしているのかは疑問だが、ジェス本人は全く意に返していない。
それどころかへっちゃらな顔をしているが、そんなジェスを目の前にしてノクトは顔を真っ赤にしている理由は、同姓の人がこんな格好をしている姿を見て恥ずかしい思いをしているのだ。
「ジェス、だから言ったじゃない。そんな格好はやめないさいって」
「いいじゃねぇか、それにこの格好の方がかわいい男を釣るにはちょうどいいんだって……まぁたまにケバいオヤジも釣れっけどな」
「だからと言ってそんな格好でうろつかれるとこっちが迷惑、その格好のせいでぼくまで痴女の疑いをかけられてるんだから。そのせいでぼくは彼氏も出来たことがないんだから……ノクトもこんなのには気を付けてね」
「はっ、はい……わかりました」
わりとジェスのあの鎧のせいで迷惑を被っていたジャジャ。
こういうときでしか言えないとばかりにジェスに向かって苦言を進言していたが、当のジェスはジャジャの話を全く聞こうとはしていないどころか、ノクトの張っているシールドの中を覗き込みなにやら顔をにやけさせる。
「ジェスさん?」
いったい何を見ているのかと視線を向けると、ジェスは恐怖に震えながら身を寄せある青少年の姿を見ながらじゅるりっと口許を拭っている。
これはかなり危ない人に話しかけられたのかもしれないっと、ノクトは心なしか二人から距離をとることにした。
ちなみに、ノクトの主観でしかはないがジェスの年齢は二十代前半、ジャジャは十代中盤と言ったところなのだが、ジェスが見ているのはどう見ても十二か十三と言ったところだろう。
それを見て、さすがにそれはダメでしょうっとノクトは自分の胸にかけられている十字架を手に、罪深いジェスのために祈りを捧げていた。
「ジェス、そのよだれは拭きなさいよ」
「あぁ~ん?良いじゃねぇか、見るくらい」
「ただでさえ遊びすぎてお金無いって言ってるのに、ここであんたがあの子達に手を出して捕まっても、ぼくは前みたいに保釈金なんて絶対に払わないからね」
「いやぁー、あんときゃ済まんかたって、宿代無くて外でヤってたら憲兵に見つかっちまうんだからな、あんときゃさすがに焦ったわ~」
なにがとは聞かない。
だがあえていったい何をしてそんなことになったのか、ノクトはもの凄く気になってしまった。
だけどそれを聞いてしまったらダメな気がしたのでノクトは空気を呼んで全力で無視することにしたが、あえてだったが、これだけは言っておくことにした。
「わたし、こういう大人にだけは絶対になりたくないですね……それと、お二人とも喧嘩しているのはいいんですけど、こっちに魔物が近づいてきてますよ?」
ジャジャを持ち上げて笑っているジェス。
そのジェスに持ち上げられてぽかぽかと杖を使って応戦している横で、しらけた目を向けながら探知魔法で魔物の接近を感じ取っていたノクトが告げる。
すると今までその事に気付けずにいた他の冒険者たちが一気に慌ただしくなった。
「大丈夫でしょうか、このままで」
不安にかられながらもノクトは魔物がここに来る前にゴーレムを起動させていた。
起動させたシールドシェルが冒険者一人一人に着き、ヒーリングシェルは辺りを飛んでいた。
数も十分、これならばここにいる全員を守ることが出来るとリーフが思っていながら、心の中でユフィに感謝していたのだが……ノクトはちらりと自分の横で起動させた黒騎士二機の方に視線を向ける。
「なんで浮かび上がってる上に、背中から魔力の翼が出てるんだろ?」
なぜか起動と同時に黒騎士たちの背中から膨大な量の魔力が吹き出し、翼のようなエフェクトが現れ二機の足が地面から離れ浮かび上がっていた。
なんでお兄さんは黒騎士にこんなにも無駄に魔力を消費させる機能を付けたんだろうと、ノクトは思わずにはいられなかった。
ただでさえゴーレムを動かすために魔力を使っているはずなのに、そこにさらに飛行機能と背中の魔力翼など、なぜついているのかノクトには理解できない。
それでもちゃんと動いてくれるならまぁいいかと、あまり深くは考えなかった。
もしも仮にここにスレイがいたならば確実に、男のロマンだ!の一言で片付けられたかもしれないが、このときノクトはこの依頼が終わったらお兄さんに聞いてみようかな、そう考えていたのだった。
⚔⚔⚔
黒い剣と魔力刀を巧みに操り変異個体の猿たちを切り裂いていたスレイは、誰かに名前を呼ばれた気がして振り替える。
「ん?うぅ~ん、気のせいか?」
そこにいるのは必死に魔物と戦っている冒険者たちの姿だ。
気のせいだろうと考えたスレイの横で、魔物と戦っていたリーフは盾で魔物を殴りそして押し返しながらスレイの方に振り替える。
「どうかされましたか?」
「いや、なんか今名前を呼ばれた気がしたんだけど……リーフは違うよね」
正面から向かってきた猿に前蹴りを食らわし後ろに蹴り飛ばし、怯んだところにスレイが剣で首を落としながらリーフに話しかけている。
「えぇ、気のせいではないですかね。私もですがユフィ殿もライア殿もあそこですし」
魔物の攻撃を盾で受け止めそして押し返し体勢を崩したところを翡翠で切り裂いたリーフは、ちらりとユフィとリーフのいる方に視線を向けた。
吊られてスレイも魔物を殴り飛ばしながらリーフの見ている方に視線を向けると、そこには同じタイプのガントレットを装備して魔物を殴り、蹴り飛ばしているユフィとライアの姿があった。
ローブ姿で魔法ではなく拳を使って魔物と対峙しているユフィ。
さすがに他の冒険者たちから見たら異色な戦い方をしていると思われるかもしれないが、ユフィはあの状態でも魔法は使える。
現に今も拳を当てると同時に風魔法を発動させ吹き飛ばしている。
「うわぁ~さすがおばさんの娘、最近ますます格闘戦の戦い方が似てきてるよ……これって、いつかボクもあの拳を受けることになるという暗示なのでは……?」
「いやいや、いったい何を言っているのですか?……しかし、ユフィ殿は本当に魔法使いなのか怪しいですよね。アレって確実に格闘家のアレですよね」
「ユフィのお母さん、今は妊娠してるから大人しいけど一度暴れだしたら………町一つが焦土と化すくらいのことは普通に出来るよ」
「マジですか……それは末恐ろしいことですね」
「末恐ろしいと言えば、そんなユフィについていくライアも……もしもこれがちゃんとした師匠の元で修行を積んだら……考えただけでも恐ろしいね」
スレイがそう評しているライアは、ガントレットに付与されら魔法を使い魔物を倒していた。
「……ファイヤーナックル!」
ライアが拳を突き出すと同時にガントレットから真っ赤な炎が溢れだし、竜人の腕力による打撃に加え殴ると同時にガントレットから溢れだす炎によって焼かれていった。
「……ん。やっぱりこのガントレットいい」
「そう言ってもらうと、造ったかいがあってうれしいよ、っと!」
血に濡れたガントレットを掲げてライアの背後で、手刀に魔力の刃を纏わせたユフィが答える。
ユフィは自分を捕まえようと両手を上げて迫って来たライオンのような鬣を持った猿の手が迫ると、掴み取ろうとした瞬間に手刀を振るい猿の両手を切り飛ばす。
「はい、よッと!」
空中で飛び上がったユフィが踵落としの要領で強化した蹴りで猿の頭を潰し、地面に足を着くと同時に倒れかかってきた猿を殺られそうになっている冒険者の方に向かって蹴り飛ばし他の猿ぶつけた。
「ふぅ、これだけでいると面倒になってくるね~」
「……ん。それにまだあのデッカイのが残ってる」
「私たちで倒しちゃってもいいかもと思ったけど、被害がね」
上から睨み付けられていつ攻撃されるかわからないのは怖い。
ユフィたちはすぐに対応できるかもしれないが他の冒険者たちはどうかはわからない。現に今もユフィたちがフォローに回らなければ何人が死んでいるかはわからない。
「それにしても、結構な数を倒したと思ったけどまだまだいるね~」
「……でもそろそろ打ち止め、だから頑張ろう」
「もしかして未来を見たの?」
「……ん。あのでかいのがスレイに斬られて死ぬ未来」
「それじゃあ雑魚はさっさと倒しちゃわないとね。でないとノクトちゃんたちの方も心配だし」
「……でもノクトにはユフィとスレイのゴーレムがある。だから絶対に大丈夫」
「ダメだよライアちゃん。物事に絶対って言葉は無いんだから」
「……わかった」
ユフィが指を折り曲げ鉤爪のようにすると、指先に風の魔力を纏わせると一気に振り上げる。
「───風牙爪!」
ユフィが手を振り上げたと同時に、風の魔力によって作られた風の爪が魔物たちを切り裂いていく。それを見ていたライアが羨ましそうに見ている。
「……ユフィ、それ私のやりたい」
「いいよ。この依頼が終わったら改良してあげるね」
そんな話をしているユフィとライアの元にスレイとリーフがやってくる。
「二人とも、あらかたの魔物は片付いてるからみんなを下げてでかいの潰してくる」
「わかったよ。私たちは残りを叩きながら安全な場所まで下がるね」
ユフィがそう言うとすぐに戦闘を続けている冒険者たちに後ろに下がるように指示を出し始める。スレイが言った通り魔物の数が減っているため、かなり撤退は楽であった。
ユフィたちが撤退を完了したのを見て、スレイは自身の身体に流れている竜力を解放し身体の一部を竜人化させた。
両目を竜眼に変化させもしもの時のために全身に竜麟を発現させ、背中には竜翼を出現させると空へと飛びたちながら魔力刀を鞘に納め、代わりに聖竜 ヴァルミリアから受け取った白銀の剣を抜いた。
黒と白の二刀流、まるでどこかのアニメの主人公だなっとスレイは思いながら本来の討伐対象であった魔物の眼前にたどり着くと、自分の目の前にスレイがいることが叫び声をあげながら拳を振り上げてくる。
「グガァアアアアア───────ッ!!」
巨体に似合わない俊敏な動きを見せるジャイアント・コングだが、スレイにはそんな物は関係なかった。
「遅いよ」
竜の目の能力を最大限に発揮させたスレイは振り抜かれる拳に自ら飛び込んでいく。
振り抜かれたコングの拳の下に潜り込んだスレイは、コングの腕に白い剣の切っ先を突き刺した。
「ハァァアアアァァァァ――――――ッ!!」
剣を突き刺したまま背中の翼を力強く羽ばたかせたスレイは、螺旋を描くように飛び立つと同時にコングの腕を切り裂いていった。
「ルゥオォォオオオオオォォォォッ!?」
腕を斬られ叫び声をあげるコングはスレイを叩き潰そうと掌を広げる。
スレイが飛んでいくところに合わせて広げられた掌を振り下ろすも、スレイは翼を力強く羽ばたかせて速度をあげた。
「うるさいんだよ!」
一気に駆け抜けコングの肩口まで切り裂いたスレイはそのままコングの背後にまで移動する。
背後に移動するまでの間に黒い剣に溜めていた暴風の魔力を一気に解放させる。
「───風撃・大嵐」
黒い剣を真っ直ぐ伸ばすと同時に刀身の中に溜められていた暴風が解き放たれコングの肩を抉り取った。
「グガァアアアアア―――――――――――ッ!?」
風撃・大嵐によって肩から下を失ったコングは、大量の血が流れ出る腕を押さえながら叫び声をあげる。
コングが錯乱しているのを見たスレイが、これで決める、そう考えながら両手に握る白と黒の剣に業火の炎を流し、最後の一撃を与えるために翼を羽ばたかせる。
「終わりだッ!」
スレイの最後の一撃がコングの首を落とす。
そう思ったとき
「……スレイッ!それを殺しちゃダメ!!」
声を聞きスレイが顔をあげると、視界の端にいつもの眠そうな目を大きく見開きながら、その顔には焦りの色を濃く滲ませたライアがいた。そしてスレイはこの距離になって初めて気付いた。
──こいつ、身体の中に何かがいる!
魔眼から見てとれるコングの身体の中にあるコングの魂、その中にもう一つ何かが別の魂が存在し、それがひっそりと息巻いていた。普通なら見えない、そして気づけなかったが竜眼のお陰で気づけたが、それはもう遅かった。
黒と白の剣がコングの首を斬った次の瞬間、スレイたちを覆い隠すように爆炎が吹き荒れるのだった。