仕組まれた依頼 ②
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取り敢えず魔物の居場所を確認し終えたスレイとユフィは、みんなが待っている下へと降りていく。
先程の魔物からの先制攻撃をうけて戦意を喪失し逃げ出そうとした冒険者たちが地面に座りうつむいていた。
「これはまた、戦えそうなのは半分くらいかな」
「全滅しているよりはマシだと思うよ~」
その顔はまるで世界の終わりとでも言いたげな、全てに絶望した顔であった。
比較的ダメージの少ない冒険者もいたが、それでもショックは大きく立ち直るのには時間がかかりそうだ。
「上から偵察してきましたが、どうやら相手はジャイアント・コング一匹じゃないみたいです。ただでさえ面倒な変異個体が約数百っ匹って数がこっちに向かってきてます」
スレイがここにいるみんなに聞こえる声で話しかけると、戦意を喪失していない冒険者全員が首をかしげているのを見て、やはり変異個体の認知度がかなり低いことを実感させられた。
もしかしたら実はスレイとユフィの言っている事が違っており、別の言い方があったのかもしれない、そう考えているとコートの裾を引っ張られる勘感覚を感じ振り返ると、ライアが不思議そうな顔をしている。
「……スレイ、変異個体ってなんなの?」
「………わかった。今からボクが説明するよ」
スレイはみんなに向けて変異個体についての説明していると、聞いていた冒険者全員が驚いた顔をしていた。
このことからもやはりただ単に変異個体が特殊すぎて知らなかっただけのようで安心していると、今度はリーフが顎に手を当てながら小さな声で呟いた。
「それでは、やはりお二人の勘が当たっていたと言うことですか?」
「多分ね~。普通だったらあんな数の魔物が一斉に変異個体になるなんてあり得ないからね~」
何度も言うようだが魔物の変異個体が生まれる条件として自身よりもはるかに強い魔物のコアを補食し、コアを取り込んだ魔物はその魔物の特性を引き継ぐことが出来る。
さすがにそれが数百匹ともなると、もはや人為的に作られたとしか考えようが無くなる。
その話を聞いた冒険者たちの顔が一斉に青くなり、ここで死ぬのかも、そんな声さえも聞こえてきたが、帰れない以上はどうしようもないのだ。
「ノクト、確認だけど戦えない冒険者を守り続けられる?」
「えっ……シールドを張っておくだけで良いのなら出来ますけど……無理にここに残さなくてもわたしたちがゲート使えば、町に返してあげられるんじゃないですか?」
「それがさ、空飛んだ時に気が付いたんだけど、この辺り一帯に結界が張られててゲートが使えなくってる可能性が高くて」
ちゃんと確認した訳ではないが、向こうから開かれているゲートをこっちら側から潜る事が出来ない時点でこの辺りには何かしらの結界が張られているのは確定だ。
そして、ノクトが確認するようにゲートを開いてみるとやはり外には通じてはいなかった。
それを確認した時点で何人かの冒険者の心は完全に折れたのを見て、どうやら冒険者になりたての新人なのかもしれないが、今は構っている場合ではない。
スレイはベテラン冒険者たちの方を見る。
「それじゃあ確認も済んだ所で、魔物たちがこっちに迫って来てますのでこの場のリーダーと、これからどうするかを決めていきましょう。というわけで、あなた方の中で一番ランクの高い方はどなたですか?」
「オレだろうな。Aランク冒険者のマカロフ・カールドマンだ」
マカロフと名乗った男の他に誰も名乗りをあげないのを見たスレイは、この人がこの中で一番格上の冒険者なのだと理解し、すぐに頭を下げる。
「初めまして、Bランク冒険者のスレイ・アルファスタです。後のことはお任せしてもよろしいですか?」
「いや、ここは君に任せよう。正直な話し、オレではムリだが君ならこの状況でも冷静に対処していた。オレよりも適任だと思う」
自分よりも目上の相手に頭を下げられたスレイは、念のためにユフィたちの方を見て確認すると、やってあげなさいよ、見たいな顔をされた。
柄ではないので、不本意ではあったがこの場では仕方ないと引き受けることにした。
「………わかりました。それでは、各パーティーで討伐隊と、ここに残って戦意を喪失した人たちの守備をする隊に別れてください」
スレイが指示を出す。
初めはこんな若造に従う気はないとでも言われるかと思ったが、意外にも全員が従って動いているのを見て、スレイのユフィたちと話しあいをすることにした。
「ボクたちからは、ノクトを守備隊の方に回したいんだけど、ノクトはそれでいいかな?」
「はい。乱戦じゃ魔法は危ないですからね後ろで大人しくてしいます」
「私もシェルはひととおり置いていくつもりだから、何かあったら使ってね」
「ボクの黒騎士を置いていくよ。修復中の物と新型を一体ずつ、もし動かす事があったらレポートよろしく」
「嫌ですよ。完全に稼働試験に付き合えって意味じゃないですか」
「まぁまぁ……それとライアはユフィと一緒に行動してね」
「……ん。了解」
「わかってるよ~」
「スレイ殿、自分はどうしますか?」
「リーフはボクと一緒に行動しよう」
「はい!わかりました」
隊分けが終わると同時にスレイとユフィは空間収納から始めに言っておいた物を取り出した。
スレイは人型に黒い鎧を来たゴーレムを二機、ユフィは豆粒ほどのシェルを無数に取り出し起動の語句を唱え動かしすと、リーフたちがスレイのゴーレムを見ながら首をかしげている。
「みんな、黒騎士に集まってどうかしたの?」
「スレイ殿のゴーレム、こんな形でしたっけ?」
「なんか、全体的に前よりもほっそりと引き締まっている気がするんですけど。あとこっちのはすごくガッシリとしてるんですけど」
一度黒騎士を見たことのあるリーフとノクトがそう尋ねる。
今回出した黒騎士は二機で、一機目は前に使徒との戦闘で見るも無惨に破壊された黒騎士の内部骨格を複製し、前の使徒との戦闘データが無事だったため、初期型は重量がかさみすぎて高速戦闘には弱いという弱点が分かった。
そこを改修したのがこの黒騎士・壱式改だ。
ちなみに今は収納状態で刃は出てはいないが、右腕に装備されている小型シールドのグリップをそのままに、戦闘時には折り畳まれた刀身が伸びて一本の剣となり、収納状態でもシールド部を使い格闘戦も行える。
他にも全身に装備された無数の魔力刀や刀剣を使って戦う超接近型だ。
もう一体が黒騎士は壱式改よりも重装甲で、胴体だけでも倍の大きさを持っており、これは黒騎士・肆式と呼称しており、黒騎士と銘打ってはいるが武装は魔道銃を使う。
ちなみに肆式があるということは弐式と参式も存在している。
スレイはノクトとリーフの質問に対してうなずくように答える。
「ほっそりしてるよ。だってコイツまだ改修の途中だから装甲減らしてるし。こっちは新しく作った黒騎士だから、コンセプトがまた別だからね。こっちはどうしても装甲を厚くしないといけなかったんだ」
そう言いながらスレイは黒騎士・肆式の装甲をポンポンッと叩いていると、近寄って来たユフィがスレイの耳元で小さく耳打ちした。
「ねぇねぇ、もしかしてこの黒騎士って、巨大なバズーカを装備して被弾したら装甲がパージして中から痩せた黒騎士が出てくるなんてしないよね?」
「…………………さぁ、なんのことかな?」
「作ったんだね?やっぱりそうなんだね!?って、もしかしてだけど、黒騎士に赤くなるシステムが乗ってたりもしないよね!?」
「ふっ、ユフィ、男なら一度は憧れるものさ」
「何て物作って……まぁ魔道銃を使ってる時点でアレだからもういいや」
「ちなみに、黒騎士に粒子化機能もつけようかと思ったけど、粒子から物体への変化が無理だったから代わりにゲートと転移はつけておいた」
「スレイくん!?それって世代が全然違うからね!?もしかしてだけど、この後は狙撃タイプと変形タイプなんて作らないよね!?」
「はっ、作ったに決まってるでしょ」
「もう製作済みだった!?」
珍しくユフィのツッコミが炸裂していた。
取り敢えずスレイは黒騎士に男のロマンをすべてつぎ込み、この異世界で武力を持って戦争を無くそうとしたロボットアニメの機体に似せた物を製作したらしい。
「ちなみに黒騎士専用のオプションで巨大なサポートゴーレムも──」
「スレイくん、これ以上この世界にあの世界の兵器を持ってこないで」
スレイとユフィがそんなやり取りをしている横で、リーフたちは二人の話の内容が分からずに首をかしげながら話を聞いているのだった。
⚔⚔⚔
隊分けが終わると同時にスレイたちは森の中へと進んでいった。
事態が急を有する事態なため、スレイたちは急いで山の中をかけていった。
「それにしても、スレイ殿と一緒にいるとこういう事件に巻き込まれますね」
「偶然だよ偶然、ボクだって好きで巻き込まれるつもりはないから」
「「「えっ?」」」
「えっ?じゃないっての!君たちはボクのことをいったいどんな目で見てるんだよ!ってかライアはなんで驚いてるの!?確かライアとはそんなことなかったよね!?」
「……のり?」
スレイたちがそんな会話をしている遥か後方で、苦しそうな声が聞こえてきた。
「す、済まないが、君たちペースを……おとしては、くれないか?」
そんな声を聞いた四人が振り返ると、後ろを着いてきたはずの冒険者たちが全員息を切らした冒険者たちが今にも倒れそうだった。
それを見てスレイたちは揃って、ヤッベェ、そんな顔をしているとマカロフがスレイたちに向かって尋ねる。
「きっ、君たち……いったい、どうして、こんな速度で走れるんだ?」
「ボクは闘気を纏ってますから」
「私は魔力で身体能力を上げてます」
「私も闘気で補助してますね」
「……私は竜人だから平気」
取り敢えず、ここにいる全員が並みの人間の身体能力を越えていると言うことだけだが、この世界の人間は総じて身体能力が高いので、ただこの四人がその範疇を越えているというだけのことなのだが、こんな所でへばられても困る。………それはなぜかというと
「あのみなさん、休むのは別に構わないんですけど、そろそろ変異個体とぶつかるので武器を構えてないと死んじゃいますよ?」
スレイが指差した茂みが揺れる。
それをみた冒険者たちが恐怖に震えると同時に現れたのは、話しに聞いていたよりも小型で、人の体格に近い猿だった。
『ぎしゃぁああああ─────────ッ』
猿かと思ったら蛇だった。
開いた口から長い舌が伸び、瞳孔が縦に伸びているのを見てスレイたちは気持ち悪い、そう思い早々に倒そうとスレイが魔道銃を抜こうとするよりも早くライアが動いていた。
「……魔物は死すべし」
手を手刀の構えたライア、その手の周りには魔力で構築された刃が纏わりつき、その刃を使って猿のような蛇の魔物の首を落としたのを見て、スレイはまさかと思いながらユフィの方を見て訊ねる。
「ユフィ、あれってもしかして魔力刀を元にして作ったの?」
「そうだよ~、いやぁ~作るのに苦労しました」
「……見てみて~、魔物倒せたよ」
「やりますねライア殿、これは私も負けてはいられません」
全くもって緊張感のないスレイたちの言葉にマカロフたちは言葉を失っていると、ここに魔物が現れた事実を思い返して慌てたように言葉を投げ掛けられる。
「全員武器を取れ!」
マカロフの声を聞きながら遅まきながらそれぞれの武器を手に取った冒険者たち、その姿を見たスレイは続け様に声をかける。
「みなさん、いまからすぐに全体に三分のニの魔物の軍団がやって来ます。でかいのもこっちに来てるみたいなので気を付けてくださいね」
スレイは魔眼の能力と索敵魔法を併用して、残りの三分の一の猿がどこに行ったのかを調べる。
「おいおい、不味いな」
どうやら残りの魔物はノクトたちのいる方へと向かった。
あそこにいるのは大半が魔法使いだが、殲滅戦ともなれば確実にあの数の猿なら倒せるだろう。
さらに言えば新型の黒騎士に無数のシェルも置いていったので何も問題はないと思っていると、冒険者たちの視線がスレイへと突き刺さる。
「「「「「「もっと早く言えよ!!」」」」」」
冒険者全員からのツッコミを受けたスレイは、取り敢えず無視して黒い剣を抜いて構えた。
ユフィは杖でなくガントレットの具合を確かめ始め、リーフは翡翠と盾を構え、ライアは両目を竜眼に変化させ手足に竜鱗を纏わる。
四人が戦闘の準備を整えるとほぼ同時に複数の変異個体化した猿どもが大挙として押し寄せてきた。
数は少なくなっているとはいえ、それでもここにいる人数よりは遥かに猿たちの群れのほうが多い。
さすがのスレイもここまでの数を一人で相手にするのは骨が折れるが、そこは幸いなことにいつかの修行時代ろとは違い、今回は人数が揃っているので何も問題はない。
「さて、一人辺り二十匹くらい狩ればいいので、みなさん死ぬ気で猿狩りと行きましょうか」
スレイは呑気な口調でそう言うのだった。