仕組まれた依頼
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次の日の早朝、依頼を受けるため朝早くから起き出したスレイは、手早く身支度を済ませる。
黒いシャツの上には二種類の魔道銃が納められたホルスターを身に付ける。
その上から黒いロングコートを身に纏い、両手にコートと同じ素材で縫われたグローブをはめ、左腰には黒い剣、そして背部には短剣の代わりに新たに聖竜 ヴァルミリアから受け取った純白の剣が下げられる。
「うぅ~ん、やっぱりちょっと重いかな」
後ろに下げられた剣の重さを確認しながら装備を整えたスレイは、部屋にあった姿見の鏡で姿を確認した。
「まぁ、そのうち慣れるか」
気にしないと呟いたスレイはベッドの上に置かれていた灰色のマントを羽織ると部屋を出る。
少し早いかと思いながらがら集合場所である宿の前に行くと、そこにはすでに準備を整えていたユフィたちが待っていた。
「みんな早いね」
「ふっふぅ~ん。スレイくんったら、女の子を待たすなんていっけないんだぁ~」
「えっと、まだ三十分前なんだけど……いや、遅刻してごめん」
こうなった場合は男の方が謝るのが常のなのだと思ったスレイはユフィたちに素直に謝罪した。
スレイの素直な謝罪を聞けてユフィはニコニコと嬉しそうにしていた。苦笑いをしながらユフィの事を見ていたノクトとリーフが本当の事を話し始めた。
「ユフィ殿、スレイ殿を困らせるのはそれくらいにしてくださいね」
「あっ、やっぱりユフィのイタズラか」
それを知って今度はスレイがユフィの事をジと目で睨んだが、これ以上は面倒を起こすのもイヤなのでなにも言わずそこで会話を打ち切ると、一度ユフィたちの姿を見る。
ノクトとリーフの冒険者スタイルはいつも見ていたが、ユフィのローブ姿は久しぶりに見た気がした。そしてライアの姿を見て一言。
「なぁ、その格好寒くない?」
「……ん。寒いです」
ライアの衣装はヘソ出しの青いシャツに赤いジャケット、紺色のショートパンツとの黒いロングブーツとその上からガントレットを装備している。
腰にはユフィが作った空間収納が付与されたポーチと、なんとも涼しそうな格好をしているライアだった。
だがどう考えても季節的にその格好はおかしいだろうと思ったがやはりその通りだったらしく、女の子にはずなのに恥ずかしげもなく鼻を啜っているのを見かね、スレイは自分の羽織っていたマントを脱いでライアに羽織らせる。
「取り敢えずマントでも羽織っておきなさい」
「……ん。ありがとうスレイ」
マントの生地はそこまで厚くはないが、羽織っているだけでも少しは変わる。
そう思って貸したのだが、ライアがマントの生地に顔を近づけて匂いを嗅ぎ出したのを見て、ひょっとして臭いのか!?っと思ったスレイだが、ライアは意外な言葉を告げた。
「……私、スレイの匂い好き」
「ライアちゃん、ズルいよ。私も」
「あっ!お姉さんもライアさんもズルいです!」
「みなさん自分にも変わってください」
自分の婚約者の少女三人と、パーティーメンバーの少女一人が自分のマントを取り合って匂いを嗅いでいる。
なんとも奇妙な光景にスレイは四人に向けて一言。
「恥ずかしいからそんなことするな!!」
怒ったスレイがマントを取り上げ、寒そうにしているライアのためにいつ作ったのかは忘れてしまったが、ちょうど手頃なコートがあったのでそれを渡した。
⚔⚔⚔
赤いジャケットの上からさらに厚手のコートを羽織ったライアは、ガックリと肩を落としながらスレイたちの後ろを歩いている。
ついでにユフィたちにガッカリしているが、そんなこと知らない。
「あっ、そうだ。二人に渡すものがあったんだ」
あることを思い出したスレイは、空間収納を発動させるとその中から赤い羽と緑の羽をした二羽の鳥を取り出した。
それに魔力を流して二羽のゴーレムを起動させると、動き出した二羽のゴーレムを手に乗せてリーフとライアの前に差し出した。
「前々からリーフには話してたけど、ボクたちの持っているゴーレムと同じゴーレムだ」
「ようやく出来たんですね!」
「……ん?私の分もあるの?」
「あぁ、ライアもパーティーのメンバーだから作ったけど、突貫で作ったものだから動作確認してないんだ。依頼を終えて帰ったら様子を見させてもらうね」
本当は後でもいいと思ったが、依頼の内容からしてあったほうがいいと判断し突貫で作ることにしたのだ。
「スレイくん、それは良いからどっちが誰のかを教えてあげてね」
「あぁ、そうだった。緑色ゴーレムがリーフので名前はカナリア、赤色はライアので名前はセキレイね。ボクたちのゴーレムとはリンクしてあるから何かあったらこいつらに話しかけてね」
今回リーフとライアに送ったゴーレムの形は名前と特に絡みはないのであしからず。
ちなみに今回のゴーレムの作製はユフィからスレイに一任され、名前については完成後にユフィが命名した。
取り敢えずゴーレムについてはこれくらいで、次にユフィのほうからリーフとライアに改良型のプレートを渡された。
「はいこれ、二人専用のプレートね。何度か説明してるけど、盗まれたり落としたらすぐに言ってね。いろいろとヤバメの技術満載だからぁ~」
なぜ受け取りづらい雰囲気を作るのだろうかとスレイが笑っている。
このプレートは魔力を持たない二人のために魔石を内蔵した改良型、使い方や性能はスレイたちの持っているプレートと全く変わっていないので、改良型とは少し語弊が有るかもしれない。
「……これ、どうやって使うの?」
「使い方は後で教えてあげるから、今は持ってるだけで良いよ~」
「……ん。了解」
ライアが了承すると、スレイは昨夜みんなに渡せなかったポーションを積めたポーチをそれぞれに配りながら歩いていった。
⚔⚔⚔
依頼書に書かれていた集合場所にたどり着いたスレイたちは、そこにいた冒険者の数に少し驚いていた。
「想像はしてたけど、すごい人だな」
「依頼料、破格だもんね」
あれだけの高額報酬なら当たり前かもしれないと思っておると、近くにいた冒険者たちはこの依頼が終わったらギャンブルに行くと言っている辺り、さすがはカジノの街とも言われている街なだけはある。
「せっかくだし、ボクたちも帰ったらカジノ行ってみない?」
「良いけど、行くのはビビアンさんのこと解決してからにしてよね~。後、イカサマは禁止だからね」
「ふっ、ボクに負けろと?」
ニヒルに笑うスレイの目はマジだった。
転生前の地球でスレイはかなりのイカサマの腕を持っていた。なぜか学校でポーカーが流行ったとき、スレイはイカサマを使用してクラスメイトたちを打ち倒していったほどだ。
ちなみにイカサマをしなくてもポーカーは強いのだが、最終的にはイカサマをしていなくてもクラスメイトからイカサマを疑われるほどになってしまった。
こっちでもトランプはあり、ポーカーや地球のゲームに似たものも存在する。
ちなみにスレイがイカサマ云々の話をした瞬間、リーフから引いたような目を向けられた。
「イカサマって………スレイ殿、以外と手癖が悪いんですね」
「どこかの誰かさんがギャンブルの神様に愛され過ぎてるので、仕方なくで覚えただけです」
「……どこかの誰かさんって?」
「そこにいるユフィさんですがなにか?」
全員がユフィの方を見るが、ユフィはニッコリと頬笑むだけで終わってしまったので、詳しい話は後ですると付け加えると、ちょうど依頼主である国のお抱え魔導師と思われるローブを纏った男が立っていた。
「魔法使いが国の代表なのか………騎士団とかそっちじゃないんだ」
「宮廷魔道士ってやつかな?良いよねぇ~エリートって、興味ないけど」
「全くもって同感」
別にエリートなんぞに興味はない。
昔、父や母、ついでにクレイアルラからも言われたのだが王宮に関わるとロクなことが無い。下手に権力を持つとそれだけ多くのしがらみが増えるだけ、そう教わってきた。
ただ、それを知っても知らなくてもどのみち二人とも王宮に関わるつもりがなかった。
「ねぇスレイくん。アレ、見て」
「えっ?あぁん?」
ユフィに言われスレイが魔法使いを見ると、魔法使いがこちらを見ている目が獲物や実験動物を見る人の目だった。
なんだか怪しいとスレイとユフィは思ってしまった。
「私の名はグランツ、この国の宮廷魔導師長をしている。今日は、我々が隔離している魔物の討伐のために集まっていただき感謝しよう」
かなりの上から目線にこれは怪しいと思ったスレイが魂視の魔眼を発動、ユフィはこっそりとプレートを取り出し、肩に留まっていたオウルの視覚から映像の撮影を始めた。
他の三人にはなにも言わずにいると、スレイとユフィの様子がおかしいことに気が付いた三人が尋ね出した。
「お二人とも、そんな怖い顔をしていったい何かあったんですか?」
「……スレイ、魔眼なんて使って何してるの?」
「お姉さんも、何であの人のことを撮影してるんですか?」
「「いや、なんか怪しいから何かあった時のために証拠集め」」
「「「?」」」
スレイとユフィが完璧に声をハモらせると同時に、ノクト、リーフ、ライアの三人が揃って首をかしげる。
「あの魔導師の人、そんなに怪しいんですか」
「う~ん……怪しいって言うか、なにか裏があるんじゃないかって。ノクトちゃんは感じない?」
「全然感じません」
「……ノクトはダメな娘?おっぱい無いから」
「ありますよ!そう言うライアさんだってわたしと同じじゃないですか!」
「……ふふふ、残念だけど、ノクトよりはおっぱいある」
「うぇえ~ん!?お兄さぁ~ん、ライアさんがいじめてきます~!?」
「はいはい。帰ったらちゃんと慰めてあげるからね」
泣いて抱き付いてきたノクトを優しく抱き締めたスレイは背中を優しくポンポンッと叩いている。
全方向から殺気を感じ顔をあげると嫉妬に狂った男の冒険者たちが血の涙を流して睨んでいた。
つまりは嫉妬だろう、ついでに女の冒険者たちは羨ましそうな視線を向けると同時に、嫉妬に狂っている男たちに軽蔑の眼差しを向けているのだった。
いつの間にか複数の魔導師たちがゲートを開いてくれていたらしく、スレイたちはそそくさとその視線から逃げるようにゲートのある方へと歩いていくと、見たことのある二人組が前に並んでいた。
「おはようございますマルコさん、アーキムさん」
「お前はたしか昨日の……」
「………スレイ君だったか、火遊びはほどほどにしないと後で刺されるかもしれないよ」
「あの、別に節操なしって訳でもありませんし、遊び相手じゃなくてちゃんと恋人同士なので、ボクが愛想をつかされない限りそんなことにはならないと思います」
スレイがそう言うとユフィとリーフが左右の腕を取り、ノクトとライアが左右から身体を抱きしめる。
「私たちがスレイくんに愛想を尽かす分けないじゃん」
「そうですよ。そんなの有り得ません」
「はい。わたしは何があっても離れません」
「……ん。離れる気はない」
美女、美少女からここまで愛されると言うのは男からしたら控え目に言っても最高なのだが、どうしてもスレイにはみんなに言っておかなければならないことがあった。
「人前でこういうのはやめてね。さっきよりも周りの視線に含まれてる殺気が段違いだから!後さぁ、何度も言うけどライアは軽々しくそう言う言葉を言ってはいけません、冗談でも本気にする人が出るからね」
「……むぅ~、スレイのバカ、アホ、唐変木、あんぽんたんのおたんこなす」
「心配して言ってあげたのにめっちゃ罵倒されるのはなんで!?」
ライアからの罵倒を受けたスレイは驚きに表情に彩らながら、ふとマルコとアーキムの方に視線を向けると、こちらはこちらでまるで、信じられん、とでも言いたげな表情をスレイに向けていた。
「お前、それはないだろ?」
「君、今まで良く無事だったね」
「どういう意味ですか?」
全く分かっていないスレイが聞き返すとマルコとアーキムが揃って、マジかコイツ、みたいな顔をしていた。
そうしていると、スレイたちの番が回ってきたのでゲートを潜る。
「ユフィ、ガードシェルだけでもいいからすぐに出せるようにしておいてね」
「わかってるよ。スレイくんもすぐに剣を抜けるようにしておかないとね」
「お二人とも、なんでそんなに心配をしているんですか?」
「「魔術師としての勘が危ないって言ってるだけ」」
「同じ魔術師ですけど、わかりませんよ」
「……やっぱりノクトはダメな娘?」
「ライアさん、もうそのネタは良いので」
もうそのネタはいいと言ってジと目を送っているノクト、それを挑発するような視線をライアが送っている。
一見すると仲が悪そうに見えるのだが実際は悪くはないどころか、二人で遊んでいるのをよく見ている。
これはリーフの談なのだが、ライアは友達がいなかったと思われ、初めて出来た同い年の友達のノクトに構ってほしくてたまらないのでは?とのことだった。
ちなみにノクトの方はライアと同じことを思っているかはわからないが、ノクトは真面目な性格をしているので本気で受け取っている可能性が高い。
ノクトが爆発しないようにしないといけないなそう思っておると、後ろから早くしろと言われたので中に入るった次の瞬間、スレイたちの目に飛び込んできたのは、空から飛んでくる大岩の影だった。
「えっ!?」
「……うそっ!?」
「みなさん後ろに下がって!」
突然のことに呆気に取られたノクトとライア、そんな二人をかばうように間に入ったリーフが盾を構えて、盾に付与されてるシールドを全力展開しようとしている。
そして先にやって来た冒険者たちのこの事に驚き、今来たゲートから逃げ帰ろうとしている者もいるが、ゲートから弾き返され騒いでいる。
そんな中、スレイとユフィはのんびりと会話をしていた。
「スレイくん、アレ割れる?」
「アレくらいなら楽勝だね」
腰に下げられた鞘から黒い剣を抜いたスレイは、漆黒の業火を剣に流し込みながら地面を蹴った。空から向かってくる大岩に黒い剣の切っ先を突きつける。
「───業火の突撃!!」
剣の切っ先が大岩に触れると同時に剣の内部に溜められていた業火の炎が、大岩の内部に流れ込み内から爆発を起こし大岩が爆散した。
大岩を砕いたスレイは地面には降りずに、背中に翼を顕現させ空中から様子を見るとどうやら山の上からの攻撃だったらしい。
「でっけぇな、アレがジャイアント・コングか……いや、しかしこれは」
スレイがそう呟きながら見ている先には、真っ白な体毛をした巨大なゴリラが威嚇するように胸を叩いているのだが、そんなことよりもスレイが気になっているのはこの山の中にいる魔物の数だ。
元々ゴリラは群れで行動する動物だが、それよりもなぜそのすべてが変異個体なのかと言うところだった。
「こりゃ、マジで勘が当たったかもだな」
「そうかもしれないね~」
「うぉ!?ユフィいつの間に?」
ボードに乗り側に現れたユフィに驚いた。
「今さっき、それよりも、これってやっぱりそういいことだよね?」
「あぁ、多分コイツら、人為的にコアを食べさせられて変異個体にさせられてる」
そうスレイは落ち着いた口調で告げた。




