それぞれの修行 ユフィ編 ②
魔法使いって、どんな修行させるのがいいんでしょうか……なんだかタイトル詐欺をしているような気がしてなりません
あの日私が自分のやるべきことを見つけてから二月ほどが経ちました。その間に私はルラ先生から魔道具作りに必要な技術や基礎知識等をしっかりと学んでいきました。そしてようやく昨日先生から魔道具を作る許可をもらえました。私は先生と一緒に魔道具を作るのに必要な材料を買うため、隣町まで行くことになっています。
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毎朝のトレーニングを終えて戻ってきたユフィは、少し汗をかいてしまったので先に風呂場で汗を流すことにした。
浴室の前で汗に濡れた服を脱ぎ、浴室の中に入って魔力を使い桶に水を作り出して汗を流し始める。
何度か空になってしまった桶に魔力で新しい水を作り、身体に流すことを繰り返す。すると扉越しにマリーから声をかけられた。
「ユフィちゃ~ん、新しいお洋服置いておくわね~」
「ありがとうお母さん」
「どういたしましてぇ~。でもぉ~ユフィちゃん、あんまり長湯しちゃダメよぉ~?」
「分かってまぁ~す」
返事を返したユフィだったが、
──お湯に浸かってる訳じゃないんだけどなぁ~
そう思いながら今度は少し温かめのお湯を流して浴槽を出た。
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朝食を食べ終えたユフィは、自分の部屋で出かける準備を始めていた。出かける準備と言っても服の上に外行きの外套を羽織り、腰には愛用の杖を差し腰のポーチにはポーションを入れるだけだ。他の物は空間収納の中にしっかりとしまってあるのでこれだけで終わりだ。
用意が終わったユフィは、弟のパーシーと遊んでいたマリーに声をかける。
「お母さん、パーシーちゃん行ってきます!」
「いってらっしゃい、気をつけるのよ」
「おねぇちゃん、いってらしゃい」
家を出たユフィは真っ直ぐクレイアルラの家へと向かう。本来ならばこの時間は診療所にいるが今日はお休みだ。もちろん急患がこないかぎりはだが、念のためにとクレイアルラが各種ポーションが入れてあるボックスを設置してあるので、大事は起きないはずだ。
こんな日は裏口が開けてもらえているのでそちらから中にはいる。
「先生、おはようございます──あれ?いないのかな?」
声をかけながら家の中にはいって行くが、クレイアルラはいなかった。少し家の中を探してみたがどこにもクレイアルラの姿はなかったので、ユフィは少し考えてからどこにいるのか考える。
──うぅ~ん。やっぱり診療所かな?
そう思い診療所へと続く扉を開けて中にはいると、薬品棚に置かれている薬品の入った瓶を見ながら何かをメモしているクレイアルラを見つけた。
「先生おはようございます」
「あらユフィ、おはようございます」
メモ帳から視線を上げたクレイアルラが、ユフィの存在に気づき挨拶を返した。
「何してたんですか?」
「町に行くついでに買い足すものを確認してたんです」
普段使う物はこの近くでも生えている薬草があるが、中にはこの辺りでは手に入りずらい薬草も有るようで、この機会にすべて買い足そうとしているのだ。だがいかんせん数が多く、ユフィが来る前に終わるとたかをくくっていたクレイアルラだったが、終わらずにこんな時間になってしまったそうだ。
「すみませんが、もう少しかかるので私の家の方で待っていてくれますか?」
「あっ、それなら私も手伝いますよ。そっちの方が早く終わりますし」
二年くらい前からユフィはクレイアルラの手伝いもしているので、これくらいの手伝いはできる。
「なら、お願いしますねユフィ」
「はい!」
ユフィが手伝いを始めたことで、一時間ほどで在庫の確認が終わった。
「では、いきましょうか」
真っ白なローブを着て魔法使い特有のとんがり帽子を被り柄の長い杖を握ったルラ先生。いつ見てもこの格好のルラ先生はかっこいいなぁ~憧れちゃうな。
………少ぉ~し思考がそれちゃったけど、私はルラ先生が開いてくれたゲートをくぐって村とは別の場所に転移しました。
ゲートをくぐった先は大きな壁に囲まれた町だった。初めてみた場所に見とれている私にルラ先生は肩を叩いてくれた。
「ユフィは王都に来るのは初めてでしたね」
「はい!近くの町には何度か行ったことがありますけど、こんな大きな所は初めてです」
私が嬉しそうにしているからか、ルラ先生は嬉しそうに笑っていた。
「王都は遠いですからね。ゲートがなければ行きだけで十日はかかりますからね」
歩いて十日の距離を一瞬でってのもすごいよね。
「さて、中に入りましょうか」
ルラ先生の後を追うように私は歩いていくと、町の中に入る門で止められました。
「身分証と税で一人銅貨五枚だ」
今さらだけどこの世界のお金は金貨や銀貨なんかで、上から白金貨、金貨、銀貨、銅貨、石貨の順で石貨はただの石じゃなくて大理石みたいなものでできてるみたい。ついでにそれぞれ石貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚とここまではいいけど、白金貨だけは金貨百枚で白金貨一枚に換算されてるので、ちょっと注意が必要だ。
私は門番らしき人の顔を見て固まっている。
銅貨五枚は問題ないんだけど、もう一つの方が問題なんだよね。
「…………ルラ先生、私身分証持ってないです」
まさかの引き返すことになるとは……そもそも私、身分証なんて見たことないんだけど?、そう思ってしまった私だったけどルラ先生はクスッと笑ってから懐から二枚のカードを門番に手渡した。
「私がマリーから預かっていますから大丈夫ですよ」
「そ、それを先に言ってくださいよ」
安心しながら私は町の中へ入っていきました。
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この国トレスティア王国の首都で中心には大きなお城が見える。
地球にも似たようなのあったけど、テレビでしか見たことなかったしリアルで見たの初めてかも。
それにしても人多いね。
「人がいっぱいですね~」
地球にいた頃はこれくらいの人だかりはよくあったけど、十年ぶりじゃちょっとびっくり。
「確かに多いですね。ここは物流も盛んなので人の出入りが激しいからでしょう」
周りを見回してみると中央の道には沢山の馬車が走っているのが見えた。
でもなんだか馬以外の生き物が引いてるような?あれって竜?
「あれは竜車ですね」
詳しく聞いてみると地竜と呼ばれる種で、意外とおとなしいらしい。
竜ってホントにいるんだ。さすがファンタジー。スレイくんにもみせたいな~。
それから私とルラ先生は王都の道を歩いていきます。
「それで薬屋さんってどこにあるんですか?」
「もうすぐですよ。っと、あそこですね」
先生が見ている先を私も見ると、そこには大きな看板でルリックス薬草屋と書かれてありました。
お店の人の名前かな?
扉を開けて中にはいると、壁一面には薬草の入った瓶が並べられたり乾燥させられているので、いろんな薬草の匂いが混ざりあっていています。
「らっしゃい」
店の奥のカウンター席から声が聞こえてきてそちらを見ると、少し歳の行ったおじいさんがいました。
「なんじゃ、クレイアルラかい久しぶりじゃな」
「えぇ、久しぶりですねルリックス。少し老けましたか?」
「ホッホッホ、エルフのお前さんと一緒にしてもらっちゃ困るわい」
なんだか仲がいいな、と思っているとおじいさんが私のことを見ました。
「なんじゃクレイアルラ、お主いつの間に子を産んだんじゃ?」
あ、変な勘違いされちゃった。
「何バカなことをいってるんですか?この子は私の弟子です。さぁ挨拶しなさい」
「初めまして、ユフィって言います」
「おぉ、可愛らしいお嬢さんじゃな」
おじいさんが私の頭を撫でてくれた。
ちょっと恥ずかしいかも?
「それで、今日はどうしたんじゃ?」
懐から一枚の紙を取り出したルラ先生は、おじいさんに手渡した。
「ここに書いてある薬草と、全属性の魔石をもらえますか?」
「え?でも先生、それって……」
魔石は魔道具を作る上で必要となる石で、家電製品で言うところで電池みたいなものなんだけど、このお店って薬草屋だよね?
「すまんが、聖と闇の魔石は品切じゃよすまんね」
あるんだ……なんで?
「ここは薬草屋と書かれていますが本当は何でも屋なんですよ。頼めば魔道具も売ってくれます」
「ホッホッホ、初めは魔道具屋じゃったんじゃが、なにぶん物騒なやからしか来んでの、こっちの方が稼げるで表向きはこっちを売っておるのじゃ」
「それって……違法商売なんじゃ」
私がひきつった顔で聞いてみると
「大丈夫じゃよ。ちゃんと許可はとっておるでな」
なら、いいのかな?
「これだけかい?」
「後、鉄の鉱石をいくつかもらえますか?」
「構わんよ。代金は占めて銀貨八枚じゃな。薬草を用意するでちょっと待っておれ」
「少し高くないですか?」
「お主の薬草が希少なものじゃからな。鉱石と魔石はセットで三枚じゃな」
「どれくらいで用意できますか?」
「一時間くらいかの」
「そうですか……」
顎に手を当てながら何かを考え込む姿勢をとったルラ先生は、私の方に視線を向けてきました。
「ユフィ少し街の中を歩きましょうか。ミーニャちゃんとパーシーくんへのお土産を買いにいきましょうか」
「はい!」
私とルラ先生はギルド経営の道具屋で、魔物のコアをいくつか売却してからミーニャちゃんとパーシーちゃんへのお土産を買った。時間になったのでおじいさんのところで薬草と魔道具の材料を受け取って帰ることにしました。
その際おじいさんから、「いつでもいいから遊びに来なさい」と言われて、なんだか地球のおじいちゃんとおばあちゃんのことを思い出しちゃった。懐かしくなって、それでもって寂しくなっちゃったのは心の中にしまっておいた。
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王都の門を出て少したった辺りでゲートを開く予定だ。
「もう少し先で開きましょうか」
ユフィとクレイアルラが歩いていると、後ろから誰かが来るのを感じたが二人が感じたのはそれだけではなく、明確な敵意を感じ取っていた。
「ユフィ、いつでも動けるようにしてなさい」
「はい」
マントの下で腰に下げていた杖を抜いて身体強化を身に纏い、他にも後ろから追ってくる者の仲間がいないかを探すために探知魔法を発動する。
「前からも来ますね」
「えぇ……囲まれましたね」
前から来るのは男が数人、その姿を見たクレイアルラはユフィを止めると、前と後ろからぞろぞろと集まってきたのはどこからどう見ても盗賊だろう。
「女二人がこんなところにいちゃいけないなぁ~」
盗賊の頭目だろうハゲ男がニタニタと嫌らしい笑みを浮かべながら近づいてくる。
「おい、あの女エルフだぜ?」
「うっぱらう前にいただいちまおうぜ」
「あっちはまだガキだが良い値で売れそうだぞ」
盗賊たちから聞こえてくるゲスな会話にユフィはひいた顔をし、いつも優しい笑顔を浮かべているクレイアルラまでも珍しく嫌そうな顔をしていた。
「あからさまな盗賊ですね」
「潰しときましょうか」
「はい」
盗賊と退治したときの対応は二つ、一つ目は捕縛、二つ目は討伐のどちらかだ。
「大人しくこっちに来な、怖い思いはさせねぇからよ」
「お断りします」
「そうかい、おめぇら手足折っても構わねぇ捕まえろ!」
頭目の指示を聞き武器を振り上げながら襲いかかってくる盗賊たち。そんな盗賊たちを見ながらクレイアルラは小さなため息を一つついた。
「全く、面倒ですね」
握っていた杖で一回地面を突くと、クレイアルラを中心にし魔方陣が展開される。すると盗賊たちは何か見えない壁にぶつかり倒れた。
「な、何しやがった!?」
「シールドを張っただけです。さてユフィ盗賊の殲滅を始めましょうか」
「はい」
マントの下で握っていた杖を構えたユフィは魔法を発動した。
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私が発動したのはスレイくんと一緒に改良した土魔法ストーンバレットだ。杖を前にかざすと同時に土の弾丸は真っ直ぐ盗賊たちを撃ち抜く。
暴れられても面倒だから頭を狙ってるんだけど、頭つぶれる瞬間に脳ミソが飛び散ってるんだよね。
うぅ~ん、ちょっと気持ち悪いかも……
そぉ~っと後ろを見てみると先生が風魔法ウィンドカッター、つまりはかまいたちなんだけどそれが向かってくる盗賊たちを細切れにしてるよ。
あ、内臓見えちゃった。
「おい!この女強えぇぞ!」
「こっちのガキもだ!」
盗賊たちが何かいってるけどうるさいね。
「ユフィ、平気ですか?」
「ちょっと気持ち悪いですけど、平気です」
ルラ先生が心配そうにしてるけど、もしかして顔真っ青なのかな?
「ユフィ時間も惜しいので範囲攻撃で終わらせましょう」
「はい!」
私は杖を構えて魔力を溜め始める。使う魔法は霧と雷撃の混合魔法。
「行きます!───ミストガーデン!」
私たちを中心に霧が生み出される。
これくらいでいいよね、じゃあ次。
「───ライトニングボルト!」
杖の先から現れた魔方陣から雷撃が現れて霧の中を駆け抜けていくと、雷撃に打たれて残っていた盗賊たちはすべて感電死しました。
やっぱりこの魔法の組み合わせ楽でいいな。
「終わりました」
「お疲れ様です。それではギルドの人を呼びますか」
それから私とルラ先生はギルドに事情聴取された。どうやらあの盗賊たちは懸賞金が掛かっていたそうで、ギルドから褒賞金を受けとりました。
ちょっと事件に巻き込まれちゃったけど、帰ったら魔道具作り頑張ろぉ~!