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前回までのあらずし。
ギルドの受け付けにて、依頼を受けようとしていたスレイはギルドカードを見せた途端、受付のお姉さんに泣かれ、何がなんだかわからないうちに少し老齢に差し掛かった冒険者が怒鳴り込んできた。
以上。
うん、よく分からんっとスレイは現実逃避気味にそんなナレーションを頭の中で組み立てているも、目の前で起こっていることは夢でも幻でもない
近づいてくる冒険者はまさしく手練れ、戦うのは避けた。かといって、ユフィたちに助けを求めようにも、なんだか面倒なことになってると思ってか、近寄ろうとしない。
それどころか、ユフィは面白がって観戦モードで様子をうかがっていた。何やってるんだと思う一方で、なぜこの冒険者は受付の女性のために怒っているのか、その理由が気になってしまった。
そうこうしているうちに冒険者が側にまでやってきた。
「オイッ!」
「ハッ、ハイッ!!」
目と鼻の先にまでやってきた冒険者に驚きながら返事をする。
「てめぇ!わしの娘を泣かせおって!叩き潰してやる!」
怒りをあらわにして叫ぶ冒険者にスレイは目を丸くすると、泣きついたままの受付嬢と目の前の冒険者を見比べてからスレイは一言。
「いや、この人、あんたの娘かよ!?」
似てなさすぎて、この初老の冒険者の叶わぬ恋か何かかと勝手に勘ぐってしまったが、どうやら違うらしい。
「テメェ!こいつがわしの娘で悪いんかッ!」
「悪くないですけどッ、こっちの話も聞いて!」
ギャアギャアとまくし立ててくる冒険者をなだめて話を聞いてもらいたいと思ったが、興奮していて全くもって話を聞いてくれない。
どうこう言い合っていると、誰かが呼んできたのか上の階からギルドマスターが降りてきた。
「てめぇら!うるせぇから喧嘩ならよそでやれ!!」
二階のマスタールームから降りてきたギルマスは、言い合いをしているスレイと初老の冒険者、ついでに仲間であるユフィたちや初老の冒険者の仲間らしき冒険者が外へと叩き出された。
それから少し遅れてな泣き出していた受付嬢も外に回されることになった。
⚔⚔⚔
外に放り出されたスレイたちは、外でやっても迷惑だろうと思い少しくらい騒がしくしても問題なさそうな酒場に移動して話し合いをすることになった。
さすがに酒は不味いと思いスレイたちはお茶を注文し、ライアはお腹が減ったからとパンケーキを注文した。
お茶を呑みどうにかで落ち着かせた初老の冒険者二人に向けて、あの場であったことを説明する事ができた。
最初こそ疑って聞く耳を持たれなかったが、スレイだけでなく泣きついていた受付嬢も落ち着きを取り戻し説明したことでようやく納得してくれた。
「本当に、申し訳なかった!!」
スレイへと怒鳴り込んできた冒険者の男が深々と頭を下げていた。
「誤解が解けてよかったです」
「ホントだよねぇ~。スレイくん、女の子を泣かした悪い男みたいだったもん」
「ユフィさん?あなた、自分の彼氏を悪人に仕立て上げたいんですか?」
まさかの追撃にスレイは信じられないと言う顔でユフィを見ていた。
「あの、アルファスタさん。先程のご無礼を謝罪させてもらいます。すみませんでした」
ペコリと頭を下げる受付嬢だったが、それについては先ほども謝ってもらっており誤解も解けているのでそこは問題なかった。
「それについては先程ので十分ですから」
「ありがとうございます」
落ち着くために一度お茶を口に含んだ受付嬢は背筋を正して改めてスレイたちへと向き直った。
「改めてご挨拶を、私はギルド職員のビビアン。こっちが私の父でCランク冒険者のマルコと、パーティーメンバーのアーキムです」
「マルコだ。同じことを言うようで悪いが、さっきは済まなかったな」
「アーキムという、先程は申し訳なかった」
マルコとアーキムの二人から謝罪と共に手を差しのべられたスレイたちは、取り敢えず自分たちも握手に応じながら名乗った方がいいと思い手を差し出した。
「スレイです。よろしくお願いします。それと謝罪はもういいですよ」
「私はユフィって言います。よろしくお願いしますね」
「……私はライア、よろしく」
差し出された手を握って握手に答えているスレイとユフィの横で、ただ一人名前だけ名乗って黙々とパンケーキ食べていたライアが何かを思い出したように呟いた。
「……ねぇ、さっきスレイに言ってた幻楼?って、なんなの?」
ライアの呟きに対してスレイたちも思い出したかのように声をあげた。
「そう言えば、そんなこと言われた後にあんなことになったからすっかり忘れてたね」
「あぁ、そんなこと言われてたっけ?それで、あれは結局なんなんですか?後、さっきの騒動の時に言ってた、私たちを助けてください、その事も一緒に説明してもらえると助かりますね」
スレイがビビアンに向けて疑問を口にした瞬間、ビビアンの隣に座っていたマルコの視線が一瞬だけ険しくなった。
十中八九助けを求めてきた方に何かがあると思ったが、それがいったい何なのかを判断するためにも話を聞く必要がある。
そう思ったスレイはまた面倒事に巻き込まれるかも知れないと思いユフィに謝罪を込めた視線を送るが、その時点ですでにユフィには分かりきっていたことなので、しょうがないな~と言った具合で視線で会話をしていた。
「それでは、まずは初めの質問の幻楼についてですが……一応、アルファスタさんの二つ名なんですけど、本当に知らないんですか?」
「知らないもなにも、諸事情でここ二ヶ月ほどギルドで依頼を受けてなかったもので」
「そうなんですか」
正確にはこの町に来たその日の宿を確保するべくギルドには来ているが、依頼はこの二ヶ月の間全く受けていないので、そこに間違いはない。
それなので、いつの間にか自分に二つ名なんて物が付いたなど知るよしもなかったのだが、スレイとユフィはある疑問を覚えた。
「でもなんで冒険者として活動してないこの町のギルドで、スレイくんの二つ名……えっと幻楼でしたっけ?その名前が広がってるんですか?」
「そうだよね。やっぱりボクがおかしいって訳なんじゃないよね。うん、よかった」
ユフィが疑問を口にすると、スレイが自分で思っていたことがおかしくはない、そう頷くように何度も首を縦に降っていると、その疑問に受付嬢のビビアンが答えた。
「噂なんですけど、数々の町のギルドで事件が起こる度に颯爽と現れ、事件を解決すると幻影のように消えていく、そんな姿から付いたのが幻楼という名前です」
「あぁ~、確かにいろんな場所で事件に巻き込まれてきたもんねぇ~」
「それもあってかいつの間にか幻楼の現るところ事件が起きると、ここ最近ギルドでまことしやかに話されている噂話です」
全面的に否定はしたいが完全には否定できない。
なぜならば数々の国で確かに事件には遭遇していたが、そもそも颯爽と現れてもいなければ、事件の後に消えてすらもいない。
なんともどうでもいい話ではあるため、頭を痛そうに押さえているスレイとユフィが話を聞いているが、取り敢えずスレイは心の中でどうしてに言いたい一言があった。
──こんな噂を広めやがったのは何処のどいつだ!直接はっ倒してやる!!
ふるふると怒りに震えているスレイの拳をユフィが優しく包み込むと、同じく優しい顔で微笑みかけながら
「取り敢えずだけどスレイくん。否定、しよっか」
「………はい。わかっています」
取り敢えず信じてくれるかはどうかは分からなかったが、スレイは今までいた町での事件の原因などをこと細やかに説明した。
そのほとんどが予期せぬ事態や、有らぬ因縁を賭けられた末の出来事だったことを話したスレイは、最後にビビアンたちに向かって一言。
「そういう訳なので、お願いですからそんな二つ名はやめてくださいね」
「まぁまぁ、スレイくん、せっかくに二つ名なんだし呼んでもらいなよ~」
そう言ってユフィがポンっとスレイの肩に手を置かれ、スレイが顔をあげる。
そこにはなんとも優しい表情を浮かべたユフィの顔があり、どうやら変な二つ名が付けられ無くてよかった、そんなことを思っているんだろうなと思ったスレイは、その笑顔の理由を想像してなんだがムカッとした。
「他人事だと思って……!」
「だって私に二つ名なってないし~。よかったね~、よっ!幻楼のスレイくん!」
「やめて!」
他人事だと思って!そう思っていると、ビビアンが恐る恐るといった具合で手を挙げながらユフィに向かってこんな言葉を告げた。
「……えっと確かあなたはユフィ・メルレイクさんでしたよね?」
「はい。そうですけど、どうかしたんですか?」
「いえ、あの申し訳ないのですが、ユフィさんにも二つ名が有るんですよ」
「うそぉ~!?」
「えっと、確か……千魔姫のユフィだったはずです」
本人の預かり知らぬ間に勝手に付いていた二つ名を聞いたユフィがショックを受ける。
完全にその二つ名の由来が自分の使っているアタックシェルによる広範囲の魔法攻撃が由来だろうと理解すると、ユフィはショックのあまりテーブルに突っ伏してしまった。
「私もうアタックシェルなんて使わない!」
「まぁまぁ、そんなこと言わないでちゃんと使ってあげようよ」
これから使徒と戦っていくに当たって、ユフィのアタックシェルは必要になってくる。二つ名が嫌だからなどという理由で廃止するわけには行かない。
そうスレイが訴えるがユフィは目をうるうるとして訴えてきた。
「……スレイ、ユフィを泣かしちゃ、メッ!」
「別にボクは泣かしたってわけじゃないんだけど……」
「……スレイ、メッ!」
普段と変わらない眠そうな目のままではあるが、それでもなんとも言えない覇気を感じさせるライアの言葉を受けたスレイは、年下の娘に怒られたままと言うのもどこか癪だが、素直に謝罪をすることにした。
「………ごめんユフィ」
「………いいよ、私も少し遊びすぎたから……ところでスレイくん」
「うん?どうかした?」
「私もパンケーキが食べたいんだけど~」
「はぁ~、いいよ好きなの頼んで、ライアもまだ食べたいんだったらお代わりもしていいからね」
「やった!スレイくんありがと~愛してるよ!」
「……ん。スレイありがとう。大好き」
ユフィとライアがお礼と一緒にスレイへの愛の言葉をかけてから、二人仲良くメニューボードに目を通している横で、スレイは一人頭を押さえている。
美少女二人からの愛の言葉など、控えめに言って嬉しい意外の言葉が出てこないことはないのだが、ライアはもう少し言葉を選ぶ必要があると思う。
「ライア、そういう言葉は本当に好きな人が出来てから使うんだよ」
「……ん、私、スレイのこと好きだよ?」
「はいはい、ありがと。でもそういう言葉は大事なときまで取っとくもんだよ」
「……ムゥ~……スレイのアホ、あんぽんたん」
「うん?なんか言った?」
「……なんでもない!」
「えっ、あ、あぁ……なんかごめん」
最後の方が小声だったためスレイが聞き返してしまったのだが、なぜか不機嫌になったライアからのジと目からの睨み付けに変わった。
スレイは素直に謝ると同時にユフィの方に向き直ったライアは、とても悲しそうにドンよりとした空気をかもちだしてしまっていた。
「……ユフィ、スレイは朴念仁?」
「うん。それもかなり鈍感が付け加えられたね」
「……ユフィすごいね」
「うん。頑張ったよ、すっごくね」
ライアと話していたユフィが死んだ目をし始めたのを見て、いったいなんの話しをしていたのだろうと気になったスレイが二人に声をかけようとした時、ビビアンが話を再開してもいいかと聞いてきた。
「すみません、それでもう一つの方も聞かせてください。助けて、あれはどういう意味だったのかを」
「それについてなのですが……少し込み入った話しになってしまいますが──」
ビビアンが先程の話の続きをしようとしたそのとき、ビビアンの隣に座っていたマルコの物だった。
「その話はやめないかビビアン!あんたも、悪いがこれはわしら家族の問題だ!これ以上は口を出さんでくれ」
「お父さん!そんな言い方しないでよ!」
「お前は黙っとれ!アーキム、次の仕事に行くぞ」
「あっ、あぁ……すまんな」
マルコとアーキムの二人が店を出ていくのを見送ったスレイたちは、どうしてマルコがあんなにも怒っていたのか、その理由が気になった。
「ごめんなさい、その」
「良いですよ……その代わりさっきの話を続きを聞かせてください」
「で……ですが」
「無駄ですよ~、スレイくんは一度係わるって決めたらテコでも動かないんですから」
「そっ、そうなんですか?」
ユフィの言葉にビビアンが恐る恐るスレイの方を見ると、スレイはウンウンっとうなずいて見せると、ビビアンが何かを観念したようにスレイたちへ向けて話を始める。
「私は、ある貴族の落胤なんです」
ビビアンの話を聞いてスレイとユフィが驚きに表情を浮かべる横で、何をいっているのかわからないと言った表情を浮かべているライア。
「……ユフィ、らくいん?っとどういう意味なの?」
「落胤って言うのはね、貴族が庶民との間に作った子のことなんだよ」
「はい。それで、その父が昨年亡くなりました」
それを聞いて今度は別の意味で驚いたが、直ぐにそう言うことか思い直したスレイたち、その表情を見たビビアンが頷いて答えた。
「先程の父は、本当は母の兄で本当は叔父なのですが……私の母も幼いときに病で亡くなってしまいまして、父親は……ですので、私はずっと父と二人で暮らしていたのですが……」
ビビアンはスレイに向かって一枚の手紙が入った封筒を差し出してきた。
受け取ったスレイは不躾かと思ったが用心してアナライズを使って確認し、何もないことを確認してから封筒の中から手紙を取り出して内容を確認する。
「私にも見せてぇ~」
「はいはい」
確認しようとしたところでユフィも観たいと言ってきたので、一緒に内容を確認すると二人はあまりの内容に絶句した。
「なんだこの内容」
「私、手紙を読んで言葉も出ないなんて始めてなんだけど」
手紙を読み終わったスレイとユフィは、顔を見合った後ほぼ同時に頷きあうと
「ビビアンさん、その話しもう少し詳しく聞かせてくださいね」
スレイとユフィはビビアンを助けるために行動することを決めた。