二つ名
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ワーカーのライアを雇ってから三週間が経っていた。
その間にスレイはライアの指導の元、魔眼の力の制御と竜人の力の扱いについて身を持って学んでいた。
魔眼の扱い方については早い段階でどうにか身につけることが出来た。
魔眼の制御が可能になったことで新たに分かったのは、この魔眼で映し出された魂は人や物の周りにオーラのように浮かび上がることだ。
そしてオーラのようなものは人によって様々な色があり、その色がその人を表すものだとスレイは直感的にそう思った。
この魔眼に慣れてきたころ、段々とこの魔眼の使い方を理解することが出来るようになった。
まずこの魔眼は人の魂を映し出す他に、魂の揺らめきや色で相手の感情を読むことができるのだ。
例えば激しく魂が揺らげば怒りを、色が濁ったら嘘を付いているなどを知ることが出来た。
さてここでもう一つこの魔眼で分かったことがある。それはヴァルミリアに初めてあったとき、なぜスレイが転生者であることが分かったかということだ。
それはユフィの魂を見たとき、わずかに他の魂の色が混ざっているのが見えたのだ。
これは何なのかと思いユフィに話たところ、その色は本来消えてなくなるはずだった本当のユフィの魂ではないかとのことだった。
本来スレイもユフィも生まれる前に死ぬはずだったところを、アストライアによって二人の魂を入れられ生きることが出来た。
つまりその時に死んだはずの魂が溶け合い、今の魂を形成しているのではないかということだ。
仮説でしか無いそれを聞いたときスレイは心なしか嬉しく感じてしまった。
例え死んでしまったはずの命であっても、今こうしてともに生きていたという事実がたまらなくうれしかった。
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さて魔眼についてはこれくらいにして次に竜力についても話そう。
魔眼の制御が安定した頃にスレイは竜力の扱い方を習ったのだが、こちらは制御するまでにかなり時間がかかった。
初めの頃、ぼんやりと身体の中に存在を感じていた竜力を感知することから始めたのだが、これが大きな難所だった。
まずスレイの体内には闘気と魔力の二種類が備わっており、昨日今日手に入れたばかりの竜力とは比べられない量を誇っている。つまり竜力が圧倒的に少ないのだ。
そのため僅かな竜力を感知することが難しかったのだ。
これを感知し扱うことさえできれば、無意識下で行っている竜人化も制御できるとのことだったが、まずは管理ができなければ話にならない。
更にはライアの話では竜力は闘気や魔力と違い、体外への放出ができないので他者の体内の竜力を引き出すやり方は使えない。
他に方法はないのかと訪ねたところ、ライアから眼を竜眼に変えるといいと言われた。
竜眼には竜力の流れを読み取る力が備わっているとのことだ。
このおかげでようやく体内の竜力を見て、そして少しずつ感知することが可能になった。
これによってようやくスレイは自分の身体を自在にコントロールすることが可能になったのだ。
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数週間駆けてようやく力の制御が可能になったスレイは全身に竜力を纏いながら、背中に竜翼を出現させ空に飛び上がる。
今日はライアからすべてのことを習った締めくくり、その最後の確認としてこの翼で街を一周りするのだ。
空へと飛び上がったスレイに続くように同じく竜翼を広げて飛び上がったライアと、フライングボードに乗って空に飛び上がったユフィが続いていく。
「スレイくん、翼で飛ぶの慣れてきたね」
「あぁ、始めはこの翼の扱いには苦労したけど、馴れればフライで飛ぶよりも楽だよ」
「本当最初の頃はひどかったよね。わざとやってるんじゃないかって思うくらい」
横目で睨むユフィの眼が鋭く光り、それを受けたスレイは萎縮した。
初めの頃はこの翼で飛ぶには竜力が必要だと知らずに無理やり羽ばたかせて飛んでいた。
竜力を扱えるようになって初めて飛ぼうとしたとき、その事を忘れて勢いよく翼を羽ばたかせたところ、近くで見ていたユフィのスカートを風でめくれ上がりしっかりとその中を見て叩かれた。
また別のときにはうまく浮かび上がったはいいものの、竜力の量が足りずに空中でバランスを崩し近くで鍛錬をしていたリーフを押し倒して、混乱したリーフに投げ飛ばされた。
またまた別のときには、竜力の量も増えて安定してきた浮かんでいられるようになった頃、今度は前に移動しようとした瞬間、とてつもない勢いで前へと吹き飛び、たまたま目の前を横知ろうとしたノクトの胸に飛び込んで叩かれた。
そしてまた別の日には、上空に飛び上がったところで待ちの結界に衝突して落下したところをライアに助けてくれた。そのときライアの胸を触って本気で殴られた。
このように、いい目に合ってたような、ひどい目に遭っていたような体験をしたスレイだったが、制御できるようになるまで苦労があったことは間違いない。
あまり思い出さないようにしていた一連の出来事を思い出したスレイは、改めてここまで指導をしてくれたライアにお礼を言った。
「本当にここで出来るようになったのもライアのお陰だな。ありがとう」
「……ん、これも契約だから。それにお金ももらうし」
「分かってるよ。それじゃあこのままワーカーギルドにも寄ってくか」
ちょうどおあつらえ向きにワーカーギルドが見えてきたため、このまま手続きを済ませようと思ったスレイたちは人目に付きづらい路地裏へ降り立つと、そのままワーカーギルドでライアの報酬を払いに行った。
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ワーカーギルド内でスレイとライアは契約の完了に手続きを行った。
手続きは簡単で、スレイとライアの持っている契約書に完了の記載が書かれたあと、契約金をライアに支払い最後は契約の証である紋章取り除かれた。
「それでは、これで契約は完了です。当ギルドはお客様のまたの御用をお待ちしております」
受付のお姉さんの言葉を聞きながらスレイたちはワーカーギルドを出た。
「なんだかあっけなかったね」
「本当。もっと時間がかかるものだと思ってた」
この一ヶ月近く腕にあった紋章がほんの数秒で消えてしまった。
ついでに言えばライアの腕にあった紋章も消え、契約する前からあったはずのものまで消えてしまっていた。
「……ねぇ、ちょっと寄り道してもいい?」
「いいけど、どこに行くんだい?」
「……お店、挨拶に行きたい」
そういったライアは自由になったと言うのに二人に断りを入れてから今までお世話になった店へと訪れた。
「いらっしゃいって、なんだいライアじゃないか。どうしたんだい、また戻されたとか?」
「……ん、違う。これ」
店の女将さんに紋章の消えた腕を見せると、女将さんは座っていた椅子を倒してライアの側にまで近づくとその腕を掴んでよ何度も見つめていた。
そして本当に紋章がなくなっているのが分かると、女将さんはギュッとライアのことを抱き締めた。
「ライア、あんた良かったわね。いい人に巡りあえて」
「……ん。本当に良かった」
「これからも元気でやるんだよ」
コクリと頷いたライアも女将さんの背中に両手を回して抱き締める。
長い間一緒だったからか、まるで母と娘のやり取りを見ているようにホッコリと胸の奥が暖かくなるような気持ちになった。
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女将さんと涙ながらの別れをしたライアを連れて宿に戻ることにした。その際に来たときは飛んできたが、帰りは歩こうとユフィに提案され三人でゆっくり町の中を歩いていた。
「そう言えば、ライアちゃんってこの後ってどうするの?」
「……どうするって?」
「いや、もしかしたらワーカーギルドに戻るのか、家族のところか帰るのかなって思ったんだけど、違うの?」
「……それは無理、ワーカーは一度お金返し終わるともうなれない。それに、言ってなかったかもだけど、私孤児だから帰るところなんてない」
淡々と話しているライアだったが、親がいないっと聞いてスレイとユフィは申し訳ない気持ちになった。
「あっ、ごめんね。無神経に聞いちゃって」
「……ん。気にしてないから平気。それに女将さんもいたから平気だし」
ライアが笑って見せると二人はライアの頭を撫で回した。
「それじゃあ、ライアちゃんはこれからどうするの?」
「……ん。スレイやユフィたちの仕事を手伝うことにする」
「うぅ~ん……そう言ってもらってもねぇ~?」
「そうだよな」
元々ワーカーというのはそれが目的だが、正直に言って冒険者何てやろうと思えば誰でもできる。
それこそ登録さえ出来れば後は一人でも成り上がれる者もいるはずだ。
そもそもライアを雇ったのもスレイの魔眼と竜人の力の制御が目的だったため、冒険者の仕事を手伝わせたこともなければ、手伝わせるつもりもなかったのだ。
「……嫌なら別にいいけど」
「あ、イヤとかそういう訳じゃないんだけど……ライアちゃん、私たちが何をしてるかって話したっけ?」
「……うんん」
「今更だけど、私たち冒険者なの。だからライアちゃんが私たちを手伝うなら、冒険者登録することになるよ」
「……それでいい。そもそも、私普通の仕事よくクビになって戻ったから」
「「あぁ~納得」」
この数日ライアと一緒にいて、ライアがかなり不器用な娘であることがわかった。
ちなみに何があったかと言えば、久しぶりに手の込んだ料理がしたくなったスレイが暇そうにしていたライアに手伝いを頼むと、料理を形容しがたい怨念に取りつかれたようなスライム状の何かに作り替えられた。
また別の日に、久しぶりに空間収納の整理をしようと思ったユフィが、これまた同じように暇そうにしていたライアに整理の手伝いを頼んだところ、逆に散らかってしまったことがあった。
「まぁ、そう言うことならいいか」
「そうだねぇ~、当分は私たちと同じパーティーで冒険者の仕事に慣れてもらって、その後のことはその時にでも決めよっか」
「………なんか、えらくざっくりとした決め方だけど、ボクはライアがそれで良いんならそれでいいよ」
「……ん。それじゃあこれからもよろしく」
本人がそれでいいと言うことなので、スレイたちはこのまま冒険者ギルドにも寄ることにした。
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久しぶりにギルドに来たスレイたちは、少しギルドの様子がおかしいと思ったがその理由がわからないので今は気に止めないことにした。
ライアに受付の場所を教えて登録するように言うと
「……ユフィ、一人じゃイヤだから一緒に来て」
「えっ……?うん。いいけど」
恥ずかしそうに下を見ていたライアにそう頼まれたユフィ。
なんだか意外な一面を見てしまった気がしたユフィは、いいかな?っと言う思いでスレイの方を見た。
「行ってきていいよ。ボクは依頼のボード見てくるから、終わったら教えて」
「りょうかぁ~い。行こっかライアちゃん」
「……ん。ユフィもスレイもありがとう」
いつもはあまり表情を変えないライアがにっこりと微笑んだのを見て、スレイとユフィがほぼ同時に顔を見合いながら笑った。
ユフィたちと別れたスレイが一人でギルドの依頼のボードを見ていた。
正直な話をすると、ウルレアナで騎士学園の指導依頼を受けて以降、冒険者の依頼をしてこなかった。
その事を思い出しながらスレイが思い出したかのように小さく呟いた。
「そう言えば結局、あの依頼もうやむやにされちゃったから、依頼事態受けたことにもなってないのか」
どういうことかと言うと、ウルレアナでの依頼は騎士団側が冒険者を見下していた手前、始めから報酬が用意されておらず逆に冒険者側から依頼未達成を理由に違約金を巻き上げようとしていたらしい。
そのため建前上は国の建て直しのため支払うこともできず、仕方ないので依頼自体がなかったことになったのだ。
「ただ働きで、出費だけかさんだんだよな」
本来ならあの金も追加で請求できるのだが、依頼自体がなかったことになってるので支払い自体がされていないのだ。
まぁスレイ自身はお金に困っているわけではないのでそこは問題はないのだが、ここで一つ有ることに気づいていしまったのだ。
「ってか、今更だけど今のボクって半年近く仕事してなかったことになるのか」
ウルレアナでの三ヶ月が無駄になり、さらにそこから数ヶ月ほどアルファスタ家の事件とこの怪我のせいでなにもしていない。
それに引き換えノクトとリーフは、ちょくちょくギルドに来て依頼をうけており偶に手伝いでユフィの依頼を受けていた。
今の自分の姿を傍から見れば女性に養ってもらっているダメ男、そんな不名誉なワード頭を過った瞬間、スレイはこれは不味いとボードの依頼を凝視した。
そして、ちょうど良さそうな依頼書を見つけたスレイがそれを剥がす。
「よし、これ行くか」
「何に行くの?」
その声を聞いて振り替えるとユフィとライアがスレイの持っている依頼書を横から見ていた。
「わっ、いつの間に」
「ついさっき。それでどんな依頼なの?」
「ワイバーン退治、何でも近くの渓谷で出るんだってさ」
「ふぅ~ん、Bランクの依頼かぁ~、いいんじゃないちょうどいい運動になるんだし」
Bランクの依頼がちょうどいいというあたり、ユフィの感覚もかなりおかしなことになっていると感じたスレイ。
そんなスレイの心の内を代弁するかのように、驚きの表情を浮かべるライアがゆっくりと口を開いた。
「……Bランク、もしかしてスレイもユフィも強いの?」
「それなりにね。ってか、ここにいるってことはライアは登録終わったの?」
「……ん。この通りバッチリ」
ライアが真新しいギルドカードを見せてくれた。
どうやら明日から、ライアはユフィたちとランク上げにいそしむようだ
「それじゃあボクはこれから依頼に行ってくる」
「一人で大丈夫なの?せっかくだから私も行くけど」
「……私も行きたい」
「ユフィは良いけど、ライアは武器も何も持ってないだろ?」
「……大丈夫、竜人族かなり頑丈、それに私力ある。武器はいらない」
確かに竜人に近しい存在になったスレイもライアの言っていることはわかる。
だがそれでも武器も何も持っていない女の子を戦わせるのは容認できるはずがない。それに何より、登録したばかりの新人を連れていけるような依頼ではないのだ。
「それでもダメだ」
「……むぅ~、スレイのケチ」
「ケチじゃないし、内容的についさっきギルドカードを発行したし娘にギルドも同行を許さないって」
「……むっ、ならしかたない。でも次は一緒に行くから」
「はいはい」
スレイはライアに返事を返しながら下の受付へと降りていった。
どうやらカウンターは空いていたので、直ぐに依頼の受付ができそうだ。
「すみません。この依頼を受けたいんですけど」
「はい。確認します」
依頼書を受付嬢に見せたスレイ、すると受付嬢の表情が曇り始める。
「申し訳ありませんが、こちらの依頼はCランク以上の冒険者の方でないと受けられません」
「あのボク一応Bランク冒険者なんですけど」
先に依頼書を見せていたので遅れてからスレイはギルドカードを出した。
「申し訳ありません。それでは、かくにん……を……」
受付嬢がスレイのギルドカードを見て声を詰まらした。
なにかあったのか?そう思ったスレイと近くにいたユフィとライアも一緒になって固まってしまった受付嬢のことを見ていると、ガバッとカウンターを乗り越えてきた受付嬢がスレイに詰め寄る。
「あなた!本当にあのスレイ・アルファスタさん!?」
「えっ!?いやあの……はい。同姓同名で同じ人がいない限りはそうです」
「それじゃあ、ご両親がSランク冒険者ですか!?」
「えっ、えぇ。フリード・アルファスタとジュリア・アルファスタですけど」
「そっ、それじゃああなたの剣の師匠の名前は!?」
「ルクレイツア、家名はあったと思いますけ忘れました」
いったい何でこんな質問をされているのだろう?スレイがそんな疑問を頭の中で思い浮かべていると、受付嬢が何か衝撃を受けたように固まった。
だからいったいなんなんだ!?そうスレイがツッコミを入れようとしたそのとき、受付嬢がいきなりスレイの手を取った。
その行動にスレイはギョッとし、ユフィは殺気だち、ライアはボォ~っとしていた。
「幻楼のスレイさん!お願いします!私たちを助けてください!」
「はい!?」
助けて、そう言われたときスレイは心の中で、何でギルドに来るといつもこうなんだろう、そう心の中で呟いたのだった。