離れても
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光の柱が落ちたのを見て幼竜は速度を上げて急いだ。
『見えた、あそこ』
幼竜の声を聞いてユフィたちがそちらを見て目を見開いた。
全身に傷を負い片腕を失ったスレイが使徒によって捕まった。
「ユフィお姉さんッ!?あれッ!」
「わかってるッ!ねぇお願い!あの近くにまで飛んでッ!」
『わかった』
幼竜にお願いをしたユフィは片手に握っていた杖に魔力を流しながら空間収納を開く。
開かれた空間収納からの今出せる全てのアタックシェルとガンナーシェルを取り出すと、杖を介して魔力のラインを繋げた。
「みんな行ってッ!」
杖を振ると繋がった全てのシェルが一斉に飛び立ちスレイを掴んでいる使徒、それに念のためではあったが刀を持った黒髪の少年も取り囲んだ。
「スレイくんを離しなさいッ!」
バサバサッと翼を羽ばたかせて浮かび上がった幼竜の上で立ち上がったユフィは、杖を介して魔法を発動させる。
見るからに重傷とわかる傷を負っているスレイを速く治療しなければという焦りがユフィの判断を誤らせる。
「聞いてる!速くスレイくんを離しなさい!じゃなきゃ、魔法でふっ飛ばすよッ!」
「やってみろ人間の娘!この人間もろとも俺を殺してみろッ!」
豹頭の使徒がつかみ上げたスレイをユフィたちの方へと向けた。
「ダメですユフィ殿、下手に攻撃しては」
「分かってる、分かってるよッ!」
悔しそうにシェルの結界を解こうとしたユフィだったが、その時視界の端で黒髪の少年が走るのが見える。
シェルの結界で取り囲んでいたはずなのにどうやって?っと疑問をいだきながら黒髪の少年を見ると、その少年もまたユフィの方へと視線を向けていた。
「桜木!ヒロは俺が助けるッ!お前は魔法で倒せッ」
「えっ、何でその名前を知ってるの!?」
「後で説明するッ!」
なにがなんだかわからないユフィは黒髪の少年のことを信じることにした。
ユフィたちが来たことはまさに僥倖だと思ったユキヤは、即座に指示を飛ばすと抜き身の刀を鞘へと収め前へと踏み込み抜刀する。
抜き放たれた黒刀の刃はスレイを掴む豹頭の使徒の腕を狙って放たれた。しかし、豹頭の使徒はそれをいともたやすく防いでみせた。
「なんのつもりだクロガネ、使徒であるこの俺に歯向かうことは主を裏切るのと同意だぞ?」
ギチギチッと火花を散らす黒刀と使徒の腕、至近距離でにらみ合いながらユキヤは使徒に向かって告げた。
「すみません使徒さま、神の導きによって助けられました。こんな世界滅びちまえって思って戦ってきた。だけどそいつのお陰で気付いちまったんですよ。母さまが生きてたこの世界を、守りたいって」
ユキヤとスレイの視線が自然と重なり、二人が自然と笑みを浮かべた。
「そうか、残念だなあのお方はおまえのことを高くかってたんだが………裏切り者には死を与える他ないな」
「死ぬのはあんただよ、やれヒロッ!」
使徒の視線がスレイへと向けられると、右手の中に膨大な魔力を感じた。
「バラすなよユキヤ」
「貴様ッ!?」
使徒はスレイの首から手を離し腹部に向けて蹴りを放った。
すでに力を失ったスレイはまともに蹴りをくらい吹き飛ばされるが、既のところでユキヤが滑り込みなんとか受け止める。
「ナ、イス………キャッ……チ」
「うっせぇ。さっさと立てよ」
片腕を失ってバランスの悪いスレイをどうにか立ち上がらせたユキヤ、そんな二人の前の使徒が立ちふさがった。
「貴様らッ俺をコケにしやがってッ!」
使徒がスレイとユキヤを忌々しそうに睨み付けている。
「なら、コケにした……ついでに、それも……受け取ってくだ………さいよ」
「なんだとッ!」
ニッと口元を釣り上げたスレイ。それをみて何かを察した使徒はあたりを見回すと、すぐ側に何かがあることに気がついた。
それは先程スレイの手の中にあったはずの光球、それが至近距離で爆発した。
「ぐがぁああああ―――――ッ!?」
光の球体はスレイの残っていた全ての魔力を使って作り出したのは、超小型に圧縮された人工太陽。つまるところ即席で作り出した超強力な閃光弾を爆発させたのだ。
「はっ、どう……だ」
精一杯の気力で立っていたスレイだったが、やはりもう両足に力が入らず情けなく地面に足をつくのを見たユキヤは、即座にスレイを抱えて使徒のそばから離脱した。
そして一定の距離を使徒から離れると同時にユキヤはが大声で叫んだ。
「やれぇッ!桜木ッ!!」
ユキヤが真上にいるユフィに向けて叫ぶ。
「誰だかわからないけど、その名前で私を呼ばないでッ!」
その声を合図に今までずっと魔力を貯めて待機していたユフィは、未だに閃光弾の爆発を受けて苦しむ使徒を見据えながら魔法を発動させる。
「行くよッ!───ブルーフレアインフェルノ!テンペスター・ユピテルノ!フレイジング・ドラゴラム!アブソリュート・オーバー・レイン!」
ユフィの杖からは業火にも匹敵しうる蒼き炎が吹き荒れる。
そして当たりに展開されていたシェルからは、嵐と雷撃の複合魔法、炎によって形作られたドラゴンが放たれた、ガンナーシェルからは絶対零度を越える全てを氷土へと変えうる氷の雨が打ち出される。
「ハハッ、さすが……ユフィ」
「いや、やりすぎだろ」
打ち出されらそれぞれの異なる魔法をほぼ同時に発動させたユフィ、その姿にユキヤはただただ呆然と眺めていることしかできないが、これで確信出来た。
これならばあの使徒を倒せる。
そう確信していると自分たちを明るく照らしていた日の光が遮られる。なんだとユキヤが顔を上げ、目に飛び込んできたそれを見て驚愕しながらスレイの名を呼んだ。
「おいヒロ、あれッ!」
「いや、まさかね?」
そこには巨大な白い毛並みのドラゴンがいた。
なんでかわからないが、スレイはその姿を見てとてつもなく嫌な予感がした。
『おねえちゃん、わたしも一緒にやるね』
唐突に聞こえてきた幼い女の子の声に驚いていると、巨大な竜の口に魔方陣が展開されていくのを見たスレイが顔を引きつらせ、ユキヤが顔を真っ青にしながら口を開いた。
「おいおいおい、アレってまさかブレスじゃ……」
「やっ、やめ───」
『きえちゃえ!』
白い竜が幼い声とは裏腹に一片の容赦もなにもない言葉を使徒へと送りながらブレスを放った。
巨大な竜の口から放たれた膨大な熱を含んだブレスが、ユフィの発動した魔法と合わさり全てを凪ぎ払うように巨大な爆発が発生した。
「「───シールドッ!!」」
爆発から身を守るためにユキヤは自分とスレイを守るために、多重のシールドを発動させたが爆発の威力は凄まじく二人はあっけなくふっ飛ばされるのであった。
⚔⚔⚔
しばらくして爆発が収まった頃、爆発が起きた場所から少し離れたところで何かが動いた。
それは爆発によって盛大に吹き飛ばされたユキヤだった。
「おい、ヒロ……生きてッか?」
そう問いかけるとユキヤの直ぐ側で土が盛り上がり、中からスレイが出てきた。
「あぁ、なんとか………死にかけて土葬にされそうになったけど、本当になんとか」
「お互い、悪運が強いというか」
そう言って手を差し出したユキヤをスレイは見上げる。
「なんだよユキヤ、随分スッキリした顔になったな?」
「あぁ。テメェのせいで神に逆らって生きてみたくなった」
「いいじゃんそれで、ボクたちは生きてるんだからさ。抗って抗って、生きていこう」
「そうだな」
笑いあったスレイはユキヤの手を取り立ち上がった。
⚔⚔⚔
吹き飛ばされたところから歩いて戻るに当たり、血を失いすぎて弱り切っていたスレイの肩をユキヤが支えるという形となっていた。
少し時間をかけながら先程までいた場所に戻ってきた二人は、改めて先程の爆発の威力を思い知らされた。
大きくクレーターが出来上がった地表は、その爆発の凄まじさを物語っていた。
「さすがはドラゴンだな」
「知ってるかユキヤ。さっきのドラゴン、アレでまだ子供なんだよ?」
「ウソだろ?アレで子供って、成竜ならいったいどれだけの威力なんだ……」
子供のドラゴンでこの威力、さすがは聖竜 ヴァルミリアの娘だな、とスレイが感心すると同時にこれならば使徒もひとたまりもないだろう。
ふとスレイは上空を見上げる。
そこにはあの幼竜の姿はなく、どこかに降りて子供の姿に戻ったのかもしれない。そう考えていると、離れたところからスレイを呼ぶ声がした。
「スレイくんッ!」
「ユフィ、良かった」
ユフィの姿を見て安心したスレイ、そしてユフィもスレイの姿を見つけると駆け寄ってきたかと思うと、肩を貸していたユキヤを突き飛ばしてスレイをかっさらい地面に腰を下ろさせた。
「スレイくん!その怪我も、その腕もいったいなにがあったの!?」
「いや、あの………ちゃんと説明するけど、あいつ大丈夫?」
一気にまくしたてるユフィをよそに、突き飛ばされて飛んでいったユキヤを心配になったが、ユフィはそんなことはどうでも良かった。
「そんなことより説明ッ!」
「ごめん、そこのバカに気をとられ過ぎて使徒にやられちゃって」
「わかった!よくわかんないけどわかったッ!治療するからジッとしててッ!」
ユフィは空間収納にしまってあったポーションを一式を取り出す。
傷は氷で止血されていたが、このままでは壊死してしまうのでスレイに傷口を覆っている氷を解いてもらった。
「はいこれ、先生特性のデュアルポーション!飲んでッ!」
「はっ、はい」
片手でポーションの瓶の蓋を開け一息で飲み干すと、斬り落とされた腕の肉が盛り上がり傷口が塞がる。
なくなった腕を触っているとユフィが別の瓶を差し出した。
「次はこれッ!増血剤ッ!」
「うっ………あぃ」
「そこの君もッ!これ飲んでッ!」
魔力持ちかどうかわからないので高品質ポーションを渡したユフィ。
「助かる桜木」
「ねぇ。なんでその名前知ってるの?っというか、あなた誰なのよ?」
「俺は───」
ユキヤが改めて名乗ろうとしたその時、遠くから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
「ユフィ殿、辺りを見回ってきました」
「お兄さんの容態はッ!大丈夫ですかッ!?」
やってきたリーフとノクトの声に遮られたユキヤは、勝手にしろとでも言いたげに受け取ったポーションを持って少し離れた。
「スレイくんは平気………っとは言い難いけどね」
「どうにか、生きてるよ」
残った右手を掲げながら二人に笑顔を向けるスレイ、しかし二人はスレイの左腕へと視線を向けた。
二の腕から先、失われた腕を見ながら悲しそうな表情を向ける。
「そんな顔をしないで、ボクはだいじょう───ッ!?みんな後ろッ!」
スレイが叫ぶと全員が背後に視線を向けると、そこには倒されたはずの豹頭の使徒が立っていた。
「殺すッ!殺してやるぞ、貴様らッ!!」
全身に傷を負い両目は閃光弾によって潰されたのか固く閉ざされている。右腕は千切れ、耳もなくなり尻尾も半ばから欠損しているにも関わらず使徒はまだ生きていた。
全身から怒りと殺意を迸ラセながらスレイたちに向かって走ってくる。
「ちっ、生きてやがったのか!」
「お二人共ッ、スレイ殿を連れて逃げてくださいッ!ここは私が引き受けます!」
鞘に納められていた刀の柄を握り居合いの構えを取ったユキヤと、腰の翡翠を抜き盾を構えたリーフが使徒を足止めしようと前に出た。しかし、そんな二人に向けてスレイが叫んだ。
「二人と身体を屈めて耳ふさいでッ!」
スレイが叫ぶと同時に空間収納から"六連式ミサイルポット カペラ"を取り出した。
「そんなもんまで作ったのかよッ!?」
ユキヤとリーフが巻き添えを喰わないように慌てて身を屈めると、カペラをつかみながら立ち上がったスレイは氷で義手を作り出してバランスを取った。
「吹き飛べッ!」
照準を使徒へ合わせてトリガーを引き絞った。
ミサイルは使徒を狙って打ち出されるが使徒をかすりもせずにかわし、打ち出されたミサイルは地面へと着弾し爆発した。
難なく攻撃をかわして接近する使徒を見てノクトが小さな声で呟いた。
「目が見えないはずなのにどうやって………?」
「耳だよ。猫や犬の耳は人よりも優れているの、だから目が見えなくてもかわせるんだとおもう」
だけどそれなら魔法を放ってもかわされる可能性がある。だがこれ以上近づけさせるわけも行かないので、リーフは盾を構え直したところでユキヤが駆け出す。
居合いの構えから使徒に向けて黒刀を抜き切るべく振り抜いた。
「───居合いの型 絶影斬り!」
刀の刃が豹頭の使徒の首を落とすために振るわれた瞬間、使徒は飛びあがりユキヤの背中を踏み台に跳躍した。
「やろう!」
「なにやってるんですか!」
それを見たリーフが盾を構えながら使徒を打ち払おうとしたが、使徒はリーフの盾までも踏み台にし横に跳んだ。
スレイは使徒の進行方向を見て顔を歪める。
「あいつッ、クソッ!」
逃がさない、そう思ったスレイが空間収納から魔道銃 アルニラムを取り出し魔力弾を発砲するが、使徒は魔力弾をかわして接近する。
使徒の向かう進行方向、そこには人間の姿になった幼竜がいる。
それに気づいたユキヤたちも使徒を止めるために動こうとしたその時、真上からなにかとてつもなく強大な気配が降り注ぐ。
「「「「───────ッ!?」」」」
その気配に気を取られたスレイたちは使徒を止められなかった。
ハッとし全員が振り返ると、使徒は幼竜の首に手を当てそして叫んだ。
「クロガネェエエエ――――――ッ!そいつらを殺せ!でないとこのガキを殺すぞ!」
半ばから千切れた腕で幼竜の首を絞め残った爪を押し当てている。だか、そんなものをスレイたちは気にしないなぜならあの使徒はもう、これで終わりだからだ。
『ほぉ、神の作りし傀儡ごときが私の娘を殺す?面白いですね、でしたら私に殺されても文句は言わないでくださいね』
「だれ────」
使徒が振り向いた瞬間、その首が宙に舞った。スレイたちの視線の先、そこには二メートル近くの小型の白銀に輝く鱗をもった小さな竜、その姿にスレイたちは小さく息を飲んだ。
「とってもキレイ」
ノクトが小さな声でそう呟く。
目の前にいる竜は美しい。まるで稀代の芸術家が作り上げた彫刻のように、ここにいる全員がその美しい姿に見とれていると、首を落とされた使徒の身体から光がほとばしりコアが天へと登ろうとしている。
「逃がすかよ!」
駆け出したユキヤが刀を振るうと、その刃によってコアは二つに切り裂かれて消えた。
なんともあっけない使徒の最後になんだか納得いかない部分もあったが、使徒を倒せたことには代わりはない。
そう思っていると幼竜が白銀の竜の側に近づいた。
「おかあさん、どうしてここにいるの?」
『空から光が落ちたので様子を見に来たら、アストライアさまが使徒の気配を感じたと言い出したので急いだらあなたが人質になろうとしていました』
「しんぱい、してくれたの?」
『母が娘を心配するのも、助けるのも、当たり前じゃないですか。あなたはあの人が残してくれた私の大切な娘なのですから』
「えへへ、おかあさんだいすき」
『私もあなたのことを愛していますよ』
ヴァルミリアと幼竜の家族の愛を目の当たりにして、ユフィたちがホッこりと暖かい気持ちになっている横で、ユキヤが苦い顔をしているのを見たスレイも苦しそうな顔をしている。
「ユキヤ」
「なにも言うなヒロ、これは俺の問題だからな」
二人だけでわかり会う、そんな疎外感をユフィたちが味わっているとユフィが二人の会話のなかでなにか引っ掛かりを覚え、そしてようやくわかった。
「ちょっと待ってスレイくん、いまユキヤって呼ばなかった?それにさっきあの使徒がクロガネって」
「そう。こいつがクロガネでユキヤ」
「えっ!?じゃあ、君は本当に本郷くんなのッ!?」
「そうだ本当だ」
驚きのあまりユフィの語彙が無くなっていると、話についていけなかったリーフとノクトが問いかける。
「あの、皆さん?話がよく見えないのですが?」
「それにそちらの方、スレイ殿のことヒロって呼びませんでしたか?ユフィ殿のこともサクラギと呼んでいますし、いったい」
しまった、スレイとユキヤがそう思っているとヴァルミリアの中から、霊体のアストライアが現れた。
『皆話は後でしましょう。スレイ、まずはあなたの治療をします』
そうだとみんなが納得する中ユキヤが話し出す。
「それなら、俺はもう行くぞ」
「あっおい待てよユキヤ、行くってどこに行く気なんだ?」
「あのお方に逆らったんだ。このままじゃアカネとレティシアになにかあるかもしれないし……それに、俺は少しやることがある」
「そうか……ならこれを」
スレイはユキヤにプレートを取り出して手渡した。
「通信機だ、遠すぎると繋がらないけど近くにいたらいつでも連絡してくれ」
「…………受けとるだけ受け取っておく」
「気を付けろよ」
「あぁ」
スレイとユキヤが短く言葉を交わすとヴァルミリアが話に入ってきた。
「ユキヤでしたね。私もあなたに渡すものがあります」
人型に戻っていたヴァルミリアが自分の右目に手を触れると、小さな光の球体が現れそれをユキヤに方へと移動させると、光がユキヤの右目へと吸い込まれていった。
「真偽の魔眼、あなたに差し上げます」
「魔眼の譲渡って、そんなことができるのか?」
「私の目は特殊だからです」
「いいのか、俺がこれを持ってあのお方のもとに帰るかもしれないぞ?」
「あなたの言葉に嘘偽りがありませんでした、それだけでもあなたを信じるに値する」
「…………ありがたくもらっておく」
「えぇ、それとあなたの側にいるあの子によろしくとお伝えください」
「…………わかった。確かに伝えよう」
魔眼を受け取ったユキヤがそれだけ言い残すゲートを使いどこかへと転移していってしまった。
アストライアが神気を使ってスレイの傷を癒やしだす。
元々ポーションによってそれなりに傷が癒えていたが、こうして治療を受けているとポーションでも治しきれていなかった傷が癒えるのがよくわかった。
『傷はふさぎましたが、すみません失った腕は今の私でもどうすることもできません』
アストライアが申し訳なさそうに告げているが、失った血もいくらかは戻り気だるさも無くなった。
「いえ、平気です。ちょっと不便ですけど」
それに切り落とされた左腕が残っていれば良かったのだが、使徒を倒すために使ったヘリオースのせいで、確実に消し飛ばしてしまった。
そこは自業自得なのでしょうがない、感謝こそすれば責めるつもりもない。そう思っていると、ヴァルミリアが左目に手を触れるとユキヤに渡した物と同じ光の球体を取り出した。
「スレイ、あなたにも差し上げます」
「魔眼……もしかして両目が魔眼だったの」
「そんなことってあるんですね」
通常、魔眼は一人一種類の魔眼開眼すること普通で、両目が魔眼と言うことは聞いたことがない。
「ある人からの贈り物です。その魔眼には私の竜としての力を込めています。なので肉体を変化させることになりますが、失われた腕も戻ると思います」
「つまりそれは、スレイ殿を竜にすると言うことですか?」
「いいえ、ですが竜人に近い体になるだけですが、私の力を与えるので通常よりも再生能力が高くなります」
『ヴァルミリア、それは』
「わかりました。ありがたく受けとります」
スレイがそういうと、ユフィたちが一斉にスレイの方に視線を向けた。
『スレイ、本気ですか?』
「えぇ、どのみち義手じゃいままでみたいに戦えないですし、父さんと母さんに怒られるのは………まぁ仕方がないかなって覚悟はしてますので」
「本当にいいの?」
「あぁ、ヴァルミリアさまお願いします」
「わかりました」
ヴァルミリアがスレイの左目に光の球体を押し当てた直後、スレイは塞がったはずの左腕の傷口から焼けるような痛みを感じた。
「うぐっ………ぁあああああ――――――――――――――――ッ!?」
痛みから叫び声をあげるスレイは、痛みから意識を手放してしまった。




