表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/408

過去の記憶3

ブクマ登録ありがとうございました。

 月城 ヒロは本郷 ユキヤと仲良くしたいと考えていたが、当の本人には全くその意思がないのか話しかけても無視されるだけで終わっていた。

 初めてユキヤに話しかけてから二週間ほど、その間毎日と言って良いほどヒロはユキヤに話しかけては無視され、酷いときにはみんなにも聞こえるほどの舌打ちをもらっていた。

 そしてその日もヒロは全く相手にされずに、帰り道に何とかして仲良くなれる方法はないのだろうかそんなことを考えていた。


「ねぇヒロくん、何で本郷くんのことそんなに気にかけるの?」


 そう問い掛けてきたのは隣を歩く幼なじみ桜木 ミユだった。

 ミユからの問いかけに対してヒロは改めて考えてみた。その結果何でだろうと、自分でもここまでする理由が良くはわかっていなかったので返答に困ってしまった。


「ん~、そう言えば何でだろう……良くわからないな」

「なにぃ~、ヒロくんもわかってないの?」

「わかってないって言うか……どうしてなのかが分からないんだ?」

「……?ちょっと良く分からないんだけど、ヒロくんはいったい何が言いたいの?」


 ヒロが言っている言葉の意味が良く分からなくなったミユは、小首を傾げながらヒロに尋ねる。

 するとヒロは歩く足を止めて腕を組ながらうねり声をあげて考え込んでいたので、ミユも少し前で立ち止まってヒロの方をジッと見ていた。


「う~ん……なんだろう、なんか本郷くんを見てると誰かに似てる気がして仕方ないんだ……だから、なのかな?」

「ふ~ん。あっ!そっか、そう言うことなんだぁ~」


 ミユが相づちを打つようにポンッと手を叩くのを見て、何がそういうことなのかと真っ直ぐミユの方を見つめている。


「なにか分かったの?」

「うん。分かったよ~……そっかぁ~そう言うことなんだね~」

「なんなのその言い方、ってか分かったならボクにも教えてよ」

「えぇ~、そうだなぁ~……あ!それじゃあねぇ~コンビニでスイーツ奢ってくれたら教えてもいいよ」

「………こっ、この、人の足元見やがって」


 一人で悩んでいても仕方がないため、ヒロはミユに言われた通りコンビニでスイーツを奢ることになったが、ミユが調子に乗ってジュースまで値だって来たときはさすがに呆れたが、もういいや、っと諦めが出てしまったため一緒に奢ることにした。

 並んで歩きながらミユは買ったばかりの──買ったのはヒロだが──白いたい焼きの袋を開けながら話をする。


「ようは似てるんだよね。あ~、はむッ!」

「似てるって、それってさっきボクがいったよ?」


 そんな話を聞くためにたい焼きやジュースを奢ったのではないぞ!、そう思ったヒロが自分の買ったカップのカフェ・オレにストローを刺して飲もうとすると横からミユがストローに口をつけて飲み出した。


「ちょっとミユ、それボクの」

「いいじゃん。私の一口あげるから」


 っと言って差し出してきたのはミユの大好きなレモンティーだったが、紅茶は好みではないので謹んで遠慮した。


「はぁ~、それでいったい誰と似てるの?」

「ん~?そりゃあ~ヒロくんと本郷くんがだよ」


 ミユの話を聞いていたヒロは意味が分からずに首をかしげしまっている。


「そんなに似てるかな?」


 似てると言われてもヒロ本人からしたら良くわからないでいると、ミユが慌てながら今の自分の発言に対して言い直した。


「ごめんごめん、ちょっと間違えちゃった。似てるのは今のヒロくんじゃなくて、昔のヒロくんだよ」

「昔のボク……あぁ、そう言うことか」


 ヒロはようやく理解した。っというよりも今のミユの言葉がストンッと胸の中に収まっていくのが感じた。

 つまるところ本郷 ユキヤと言う少年に過去の自分の姿を重ねてみていたことになる。


「そうだとしたらボクは彼に謝らなくちゃな」


 もしもミユが言う理由で声をかけていたとしたら、それはただ迷惑でしかなかったのかもしれないと、申し訳ないことをしたと思っていたヒロ。

 すると、そんなヒロの顔を見たミユが優しく肩を叩きながら話し始めた。


「もしかして本郷くんに迷惑かけてるかもって思ってるの?」

「いや……無意識とは言っても昔のボクと似ているって理由で声をかけてたなら、ちょっとね」

「いいじゃんそれでも」

「えっ?」


 その言葉に驚いたヒロがミユの方を見ると、たい焼きの最後の一欠片を食べ終えたミユがヒロに向かって続きを話し始めた。


「だって、本郷くんが昔のヒロくんと同じなら誰かが側に居てあげる必要があるでしょ?ヒロくんの場合は私だったけど、本郷くんの場合、たぶんもっと複雑そうだからね」

「………なんでそんなことが分かるの?」

「だって、昔のヒロくんも同じ顔してたもん」


 つまりはそう言うことらしいが、自分ではどうなのかはわからないミユがそう言うならそうなのだろう。


「だからねヒロくん、頑張ってね」


 ミユにそう言われたヒロは、明日も頑張ろう、このときはそう思っていた。


 ⚔⚔⚔


 強烈な痛みがユキヤの頬を伝って頭に響く。

 グラリと身体が傾くとそこにもう一度スレイが拳を入れると、ユキヤは両手を上げてガードしながらたまらず後ろに下がった。


「いい加減目を醒ませ、バカユキヤ!!」

「何が目を覚ませだよ!」


 口の端しから流れ伝う血を服の袖で拭い取ったユキヤは、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくるスレイを見ながら考える。

 スレイもユキヤも両者共に無手、どうにかして武器を拾い優位に立ちたいと考えたユキヤは遠くに落ちる黒剣を見ていたが、それがまずかった。


「よそ見してんじゃねぇぞユキヤ!!」


 一瞬の油断が致命的なミスへと繋がった。

 いつの間にか目の前にまで接近しスレイが拳を振り上げている。


「チィッ!」


 今からでは回避も間に合わないと悟ったユキヤは、とっさに顔の前で腕をクロスさせて受け止める姿勢を取った。

 顔面を狙って打たれた拳は防いだが、打たれた拳は思いの外重く受けた腕が悲鳴を上げる。

 痛みに顔を歪めるユキヤだったが、このまま守り続ければ凌げれると考えたが、今度は腹部に重い打撃が与えられた。


「ゴハッ!」

「まだまだ行くぞッ!」


 腹部に拳を受けてたまらずユキヤはガードを崩し、腹部を抑えながら後ろに後退したがスレイはそれだけでは止まらない。

 胸ぐらをつかみユキヤの身体を起こしたスレイはもう一度、今度こそユキヤの顔面に向けて拳を振るった。

 顔面を殴ると同時にユキヤは吹き飛び地面に倒れる。


「グホッ、ッ!?ッテメェ、いい加減に」

「いい加減にするのは、お前だろッ!」


 近づきもう一度ユキヤを掴んで起き上がらせたスレイは何発も何発もスレイはユキヤに拳を振るった。

 何発もの拳がユキヤを撃ち捕らえて行くなか、ついにユキヤがその拳を受け止めていた。


「ッテメェ、何がしてぇんだ」

「あぁッ?お前を殴ってるだけだろうがッ!」


 受け止められている手と反対の手でユキヤの顔面に拳を叩き込み倒れそうになるユキヤを掴むと、更に拳を見舞いながらスレイはユキヤに向かって叫びかける。


「お前は、自分ばっかりが不幸だなんて思ってんじゃねぇ!」


 拳でユキヤを殴りながらスレイは叫びだす。

 再会してからずっと思っていたことを全て吐き出すように。


「何が自分だけの家族だ!何が自分だけを愛してくれる家族だ!ふざけるなッ、そんなものお前のただの幻想なんだよ!このボケ野郎!!」


 スレイの叫びを聞いたユキヤはギリッと奥歯を噛み締めると、次の拳を振るおうとしたスレイよりも速く拳を振り抜いた。

 一転してユキヤに殴り飛ばされたスレイは、地面に倒れたままユキヤのことを見つめた。


「言いたいことはそれだけか、ヒロッ!」


 拳を握りしめる立ち尽くすユキヤの表情は怒りに染まり、声も震えていた。

 そして、いましたがスレイが語ったことへ反論するように、ユキヤは自分の思いを叫びだした。


「何が幻想だッ!テメェには居ただろッ、なにもしなくても愛をくれる血の繋がった家族がッ!」

「あぁ確かにいたさ!でもなぁ、ボクが本当に……本当の意味で家族の愛を知ったのはあっちじゃない、こっちなんだよッ」


 スレイが泣きそうな顔をしながらユキヤの頬に拳を振るうと、立て続けにスレイが叫び散らす。


「なに訳の分からねぇことを言ってやがんだ!」

「あぁ、確かにそうだろうな……お前は知らないだけなんだ!地球にいた頃はボクはな、そんなの感じたことは無かったんだよッ!」


 叫び返しながらスレイは反撃した。

 殴りすぎて拳頭が切れて血も出ているがそんなの関係ない、どうしても殴らないと気がすまないスレイは指が切れようが折れようが関係なかった。


「地球にいた頃、お前の羨ましがる血の繋がった父親のせいで、ずっと世界は地獄だと思ってたんだよ!」


 スレイは今までユフィ以外は知らない地球でのことを想いのまま叫び散らした。

 ずっと胸の中に溜め込んでいた言葉をユキヤに向けて叫び散らす。


「小さい頃からずっと寂しかった……友達も出来ずにただ一人で過ごしてた……ミユだけだったんだ。ボクをあの世界に引き留めてくれてたのは」


 何度も思っていた。一人だったらもうここにはいなかったんだろうな、スレイは泣きそうになりながらユキヤに向かって叫び続ける。


「お前のためだ、お前のためだって言って、ボクのやることなすこ全部否定して、あげくの果てにはお前にはがっかりだ、お前なんて居なければいいって言われ続けてた。実の父親からずっとそう言われてたボクの気持ちがお前には分かるのかよ!!」


 スレイの言葉にユキヤの拳は止まった。そこに畳み掛けるようにスレイが拳を振るった。

 これはただの八つ当たりだ、かつてそのことに何も言い返すことも、そのことを変えようとしなかった自分自身に対する八つ当たりでしかなかった。


「ボクだけじゃない、母さんだってお前が遊びに着たときはいつも笑顔で迎えてたけどな、いつも父さんからキツく当たられて影では泣いてたんだ!外面だけしか見ようとせずにかってに羨ましがってんじゃねぇ!」


 スレイが力を込めて拳を振るうと、プチンっとユキヤの頭の中でなにかが切れた。


「知るかよそんなこと!」


 スレイの拳を打ち払いユキヤの拳がスレイの頬をとらえる。


「例えそれが真実でもなぁ、俺にはお前の全てが羨ましかったんだよ!」


 ユキヤの拳がヒロの頬を的確に殴り付けた。


「俺は産まれた時から家族はいなかった……親に捨てられ、施設で育った俺に取って血の繋がった家族がいる。それ以上に望むものなんてないんだよッ!」


 ユキヤは自分の生い立ちを語りだした。

 知っている、忘れていない初めてユキヤが語ってくれた自分のことだ。


「ずっとテメェが羨ましかった。血の繋がった家族がいて、優しい幼馴染みがいて、俺にないものを全部持ってるテメェもッ!周りの奴らもッ!ずっと羨ましかったんだ!」

「それだったら、ボクだってお前の家族に憧れてたさ!偽りじゃない、本当にお互いを愛し合っているお前の家族が!」


 方や父親のせいで友達が出来ずに寂しい思いをし、一度は他人を信じられないようとはせずに周りを付き離そうとしていたスレイ。と方や産まれたときから両親がいないせいで長い間一人で生き、養父母に引き取られてからも誰も信じずに一人を選ぼうとしたユキヤ。

 そんな二人はどこかで自分達が似ていると思っていた。だからお互いの言葉を否定し、そして共感できる。


「憧れていた物をようやく手に入れて、この世界に来て幸せだった………でもなぁ家族も………幸せも………俺は一夜にして全部………全部失ったんだよ!お前にこの気持ちが分かるかッ!」

「わかるわけ無いだろッ!お前の絶望も悲しみも全部お前のものだ!分かるわけないッ!」

「だったら黙ってろよッ!」


 ユキヤが怒りを顕にしてスレイを殴ると、スレイも殴り返しながら叫ぶ。


「失った自分で作ればいいだろ!幸せだって、全部憧れてるだけじゃ手には入らないだよ!」

「失ったなら作ればいい?そんな言葉はなぁ、全部持ってる奴の言葉なんだよ!失ったこともない奴がッ、偉そうなこと言ってんじゃねぇ!」

「失ったことがない?ふざけるなッ!ボクだって失ったんだよ!あの世界で、全部ッ!」


 ユキヤを積み上げたスレイは、今まで隠してきた思いをすべてぶちまける。


「唯一の拠り所だった母さんをッ!初めての出来た信頼できるクラスメイトをッ!何があってもボクの側にいてくれたミユをッ!、

 初めて出来た親友のユキヤ、お前を全部無くしたんだよ!」

「だからなんだってんだよッ!お前みたいに代わりを作れってかッ!」


 ユキヤの拳がスレイの頬を殴ると、拳を握りしめたスレイが叫ぶ。


「代わりなんかじゃない!」


 スレイの拳がユキヤを殴ると、スレイはゆっくりと語りだした。


「みんなを無くして!あっちの世界の事を忘れようとしたことも合った………でも、今の家族を友達を誰一人として誰かの代わりだと思ったことはない!」

「だとしても、テメェ行ってんのはどういうことだろッ!全部忘れて生きろってかッ!」

「違う、そうじゃない!」


 スレイは自分の胸を掴みながら叫ぶ。


「生きてるんだよ、ボクたちは!生きてるからこそ、前を向いて生きなきゃいけない。居なくなったその人たちの分も幸せに生きていかなくちゃならないんだッ!」

「それが出来ないやつだっているんだよッ!誰も………テメェのように強くねぇんだよ」


 叫んだユキヤはスレイのことを蹴り飛ばす。

 地面を転がり腹を蹴られて咳き込んだスレイは、何度か咳込みながら立ち上がった。


「だから………お前は壊すのか、この世界を?」

「そうだッ!俺からすべてを奪ったこの世界をッ!あいつをッ!殺すッ!邪魔するならお前だって───」


 振り上げられたユキヤの拳は振るわれることなく止められた。

 ユキヤの目の前でスレイが涙を流していた。


「ボクは嫌だよ。この世界がなくなるのは、大切な人を失うのも真っ平ごめんだ」

「それは、お前の願いだろッ!俺は、この世界が憎いッ!」

「嘘を言うなよ、ユキヤッ!」

「なにッ!?」

「お前のその言葉が真実なら、なんでお前はそんなに苦しそうなんだよッ!!」


 スレイに言われたユキヤは狼狽える。

 ずっとこの世界への恨みを叫ぶ時ユキヤは苦しそうに顔を歪めていた。本心から滅亡を願っている男の顔とは到底思えない。


「お前だって、本当は嫌なんじゃないのかッ!この世界がなくなるのがッ!止めたいんじゃないのかッ!」

「違う、違う違う違うッ!俺はこの世界を消し去りたいんだッ!じゃなきゃ俺は今までなんのために戦ってきた!なんのために生きてきたんだッ!」


 頭を抱えて叫びだしたユキヤ、それと同時に駆け出したスレイはユキヤの両肩を掴むと思いの叫びを告げる。


「ユキヤ、お前が生きてきたのは生きてほしいて願った誰かが居たからだろッ!」

「────ッ!」


 その瞬間、ユキヤの頭の中の過ぎったのは幼い自分を優しい眼差しで見つめる母の顔だった。


「俺は……違う………俺はッ!」

「ボクは、もう誰も失いたくない。生きたいんだよ、この世界で出会った大切なみんなと!なぁ、ユキヤ?お前には、本当にいないのか?大切な人は、一緒に生きたいと思う人は誰もいなのかよ?」

「………いるよ……いるさッ!だけど………俺はあいつを………どうすれば良かった!何も出来なかった俺に、母が殺されるのを見ることしか出来なかった俺にッ!幸せに生きる価値なんてないんだよッ!」


 ポロポロと涙を流すユキヤはずっと隠してきた想いを叫んだ。

 それがユキヤの本当の思いだとわかったスレイは、ゆっくりと語りだした。


「例え価値が無くたって、生きなきゃいけないんだよ………幸せにならなきゃ」


 涙に歪んだユキヤの顔を見たスレイは掴んでいた手を離そうとしたその時、なにか黒い線のようなものが目の前を横切り、少し遅れて生暖かい何かが頬に飛び散る。

 遅れてスレイの耳にボトリと音を立てて何かが落ちる。


「はっ?」


 スレイは落ちた物へと視線を向ける。

 地面に落ちているのは人の左腕だ。いったい誰の?っとスレイの頭にそんな言葉が浮かんだ。

 顔を上げユキヤの顔を見ると、強張った表情でこちらを見ている。スレイはゆっくりと視線を自分の身体を見ると、左側からポタポタと雫のようなものがこぼれ落ちる。

 震える右腕が左腕を掴もうとして空を切る。理解した、あれは自分の腕なのだと。


「ぅ……うぅ……ぁあああああ――――――――――ッ!?」


 頭がそれを理解すると同時に、切り落とされた左腕が焼けるような痛みを訴える。


「ヒロッ!おいヒロッ!!────ッ!?」


 血の溢れる腕を押さえながらうずくまるスレイに叫びかけたユキヤは、そこでふと気づいた。

 自分たちの他に誰かがそこにいることに。


「使徒……さま?なぜ、ここにッ!?」


 いつの間にか自分の隣に立っていた豹頭の使徒。その手の中には戦いの最中どこかに飛んでいったはずのユキヤの刀が握られている。

 その黒い刀身には真っ赤なつに染まり、ポタポタと下へと流れている。


「いけないなクロガネ、こいつは主さまに仇なす敵だ。必ず殺せ」

「えっ、あっ……」


 カチャリと音を鳴らしながら握らされたのはユキヤの漆黒の刀だ。

 うずくまるスレイを前にしたユキヤは、黒刀を握る手が震えている。


「もういい、俺がやる」


 鋭い鍵爪を構えた使徒はチクリと何かがおかしいとおかしいことに気がついた。


「ん?お前何をしている?」

「………ろっ………き………や………」

「なんだって?何をしていると──」

「避けろよッ!ユキヤッ!」


 スレイが叫んだと同時に豹頭の使徒は異変に気づいた。

 スレイの周りの空気が凍てついていることに、そしてユキヤもそのことに気付くと即座に後ろに飛ぶと今しがたユキヤのいた側に魔法陣が展開される。


「───アブソリュート・コフィン!」


 スレイが血に濡れた右手を使徒へと掲げると、豹頭の使徒は絶対零度の氷の檻の中へと閉じ込められた。

 斬られた左腕をと血を凍らせて止血したスレイはしとをにらみつけたしゅんかん、グラリと視界が揺れた。


「クソッ……」


 大量の血を流しているせいで目が霞んで来たスレイ、気を抜いてしまえばすぐにでも倒れそうになるが、ここで倒れている暇はなかった。


「ユキヤ、シールドで自分を守れ!」


 名前を呼ばれたユキヤはスレイの指示通りにシールドを展開すると同時に、使徒を閉じ込めていた氷の檻が砕かれる。


「こんな物で閉じ込められると思ったかッ!」

「思ってないさ」


 氷の檻を破った使徒がスレイの元へと接近する。使徒の爪がスレイを向かって振り抜こうとしたその時、スレイは手を真下へと振り下ろした。


「自爆覚悟だ、受け取れッ!───イルミネイテッド・ヘリオース!!」


 使徒へと向けて降り注いだ光の柱は、地面を吹き飛ばしシールドで覆われていたはずのスレイとユキヤも吹き飛ばした。


「やった……分けないよな」


 魔力も血も失いすぎたスレイはもはや立っているのもやっとだった。

 フラッと倒れそうになったスレイ、そんなスレイの首をガシッと使徒がつかんだ。


「簡単には殺さんぞ、痛めつけて殺してやる」


 血走った目で睨みつける使徒は魔法の直撃を受けてボロボロだったが、それでもその目は本気だ。

 もう終わりだ、そう思ったときバサバサッと翼を羽ばたかせる音と共に風が巻き起こると、スレイたちの周りと無数のシェルが取り囲んだ。


「スレイくんを離しなさいッ!」


 ユフィの声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ