過去の記憶2
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スレイの雷鳴の一閃を受け意識を失いかけたそのとき、ユキヤは地球にいた時の事を思い出していた。
あれはそう、血の繋がらない両親からどうしても高校には行ってくれと言われ、渋々ながらも了承しなんとか頑張って入学した高校、その入学式から数日がたった頃のことだった。
その頃のユキヤはどちらかと言うと暗く、他人との距離を取り誰も近寄らせようとはしないそんな人間だった。
そもそも学校には通っていたが、授業の真面目に受けているとは言い難く、教科書やノートは開いていても何も書かずにただボォーっとしていることがほとんどで、入学してたった数日だった先生からの評価は最低だと自負していた。
そんな感じなため、この頃のユキヤには友達と呼べる人物は誰もいなかった。
「なぁ本郷、お前っていつもなんで一人なんだよ?」
「……………………………………」
「おい、聞いてんのか?」
「……………………………………」
「無駄だよ、そいつ話しかけてもなんも話さねぇんだ。行こうぜ」
話しかけてきたクラスメイトがユキヤがなにも話さないと分かるとどこかへと行ってしまった。だいたいクラスの仲間と話すのが面倒なので無視しいた。
友達はいないが寂しいとは思ってはいない、それどころか友達もいたらいたで面倒な存在としか思っていなかった。だから時より話しかけられても今みたいに無視をして取り合おうとしなかった。
いつもは自分の席でスマホをいじっているか、家から持ってきた本を読んでいるのだが今日に限ってはスマホの充電は切れかかっており、本は家に置いて来てしまった。
だが今回はその代わりに携帯型のゲーム機を持ってきていた。
ゲームの電源を入れソフトを立ち上げる。
これは去年の誕生日に父親が買い与えてくれたゲームで、それまであまりゲームなどしたことの無かったユキヤが、初めてはまったゲームだった。
今日はなにをしようかクエストに行くのもいい、もしくはアップデートで新しく追加された武器を作るための素材を取りに行こうか、そう考えながらゲームを始めようとすると、背後からユキヤに声をかけてくる人物がいた。
「あ、それってもしかして、ゲームバトル・スター・オンラインだよね。ボクもやってるんだけど、良ければ今度ボクとフレンド登録してもらってもいいかな?」
「………………………………チッ」
ユキヤが忌々しそうに顔をあげると、そこには同じクラスメイトで何度か顔を見たことのあるはずだが、名前は聞いたことのないので知らない。
えらく癪にさわる奴だな、そう思いながら無視してゲームの続きをしようと思ったが、そいつはなにを思ったのかスッと手を差し出してきた。
「ボクは月城 ヒロ。よろしくね本郷 ユキヤくん」
差し出された手を一瞥したユキヤはゲームの電源を落として立ち上がると、そのままヒロを押し退けて教室の外へと出ていった。
このときユキヤは自分でもどうしてこんな態度を取ったのかは分からなかった。だが、この時、本郷 ユキヤは直感的にこれから先何があっても月城 ヒロとは仲良くできない、そう思ってしまった。
⚔⚔⚔
地面を強く踏みしめたユキヤは、雷撃を受けた瞬間に頭の中でフラッシュバックした地球での記憶を振り払うように頭を降る。
「クソっ、嫌なこと思い出せやがって」
地球でのこと、それもスレイとあの頃のヒロの事を思い出したユキヤは胸の中に怒りにも似た感情が渦巻きながらも、心を落ち着かせながら全身に闘気を纏いながら静かな口調で叫んだ。
「───混成斬激の型 幻影・天音!」
技名を発すると同時にユキヤの身体がブレると、スレイの周りに四方を取り囲むように様々な構えを取ったユキヤが出現する。
「──ッ!?どういう原理だよ!」
どうやって分身を作り出しているのかは分からないが、仮にあれが本当に幻影だったとして斬りつけられたらどうなるか分からない。
背後から斬り掛かってきたユキヤの攻撃をかわしすれ違いざまに斬ると、斬られたユキヤは煙を吹き飛ばしたかのように姿が歪み消えていった。
「本当に幻影───ッ!?」
次来たユキヤが黒刀を頭上に持ち上げて振り下ろそうとした。スレイは黒い剣で防ごうとしたが、振り抜かれた剣は黒い剣をすり抜けスレイの眼前で実体化する。
仮にこれが本当に幻影だとしても斬られたところで問題ない、無いはずなにのスレイは咄嗟に身体を引いてその剣をかわしていた。
その時僅かだったがかわしたはずのユキヤの剣が、スレイの腕を斬りつける。
黒刀の刃が触れたところは確かに斬れ血が滲み痛みがあった。スレイはその幻影へ魔道銃を向けて発砲、打ち出された弾丸はユキヤの額を撃ち抜いたが、その姿はまたしてもかき消されていた。
「クソっ、ホントどうなってるんだよッ!」
次々に襲いくるユキヤの幻影たち、どれが本物か、あるいはどれが偽物かもわからないこの状況で取り囲まれるのは不味い。幸いにも一度消した幻影は現れず残り五、一気に倒すべくスレイは黒い剣に魔力を流し込む。
するとそれを阻止するためか幻影たちが一斉に向かってくる。
「好都合だ───風牙・円激!」
暴風の魔力を黒い剣の刀身に流し込み、剣の刀身を真横に構えるとそのまま自分のいる位置を中心に、身体を大きく捻ると円を描くように身体を回転させ剣を振り抜くと、その軌跡に沿うように風の刃が吹き荒れる。
抑え込まれていが暴風の刃は取り囲んでいたユキヤたちを半ばから切り裂くと、その余力で周りに生い茂っていた木まで切り裂いていた。
切り落とされた木々は少し立ってから音を立てて倒れ、見晴らしの良くなった森を見ながらスレイは顔をひきつらせる。
「うわっ、円激はちょっと危ないかもな」
暴風を込めた斬撃でなく普通の風魔法ならこうはならなかったのではないか、技の欠点と威力の調整の課題を加味しながら技の評価をしたスレイは、一先ずその事を考えるのを辞めてユキヤを探す。
スレイが斬ったのは全て幻影、ならばユキヤ本人はどこにいったのか?ッと考えていたその時、背後から何かが近づいてくる足音が聞こえ振り返る。
「いつのまに!」
振り返った先にいるユキヤは、すでに剣の間合いにまで接近している。
黒刀の地面すれすれの位置にまで下げながら間合いに入ったと同時に振り上げる。剣では受けられないと思ったスレイは後ろに飛んで攻撃を交わすが、ユキヤの追撃は終わらない。
次に黒剣による鋭い突きがスレイに向けて放たれるが、それは横へ飛んでかわした。
「危ないんだよッ!」
横へと回り込んだスレイは黒い剣を真っ直ぐ振り下ろし、突き出されたユキヤの腕を切り落とそうとした。
振り下ろされた剣が吸い込まれるようにユキヤの腕を切り落とした。っと、その時のスレイはそう思ったが剣がユキヤを切った感触がなかった。
「しまったッ!?」
腕を斬ったはずのユキヤの姿が消えたのを見て、先程の消える技"朧霞"だと察したスレイは気配を探ってユキヤを探し出そうとした時、背後から声が聞こえる。
「どこ見てる。俺はこっちだ」
「──────ッ!?」
振り返るとそこには黒剣を大きく引き絞った構えを取ったユキヤがいた。
突き技がくると理解したと同時にユキヤは黒剣を突きだす。スレイは突き出された黒剣の切っ先を見ながら、黒い剣を真横に構えてその腹で突きを受け止める。
「ッ!グッ!?」
受け止めたは良いが、悪い体勢で受け止めたせいで踏ん張りが効かずに吹き飛ばされたスレイ。そこを好機と取ったユキヤは更に接近し黒刀を斜め下から振り上げる。
対するスレイも肩に担ぐように構えた黒い剣でユキヤの剣を受けるが、スレイの剣はユキヤの刀に弾かれた。
マズイ、そう思ったときにはユキヤの黒剣が振るわれる。
「終わりだヒロ!」
ユキヤの声が聞こえてくる。
確かに弾かれたこの状態から剣で防ぐことも、ましてやシールドを貼るための魔力をねっている暇もない。しかしスレイもこんなところで負けるわけには行かないのだ。
「終われるわけないだろ!」
振るわれるユキヤの黒剣、対するスレイは死に体でありながらもここでは終われないと自分を奮い立たせ、左腕を持ち上げた。
左手に握る魔道銃の銃身が振り抜かれた剣を防いだのだ。
「どうだ、防いだぞッ!」
「それがいったい、なんだって言うんだよッ」
勝ちを確信した攻撃を受け止めたスレイの言葉を受け、ユキヤはキレ気味で返すと同時に腹部へと蹴りを与える。
小さなうめき声を上げたたらを踏んで下がったスレイに向けてユキヤは左右の剣での連撃を繰り出す。
右からに切り払い、上から下への切り落とし、左からの薙ぎ払いと絶え間なく繰り出されるその攻撃は正しく縦横無尽、反撃のすきを与えない攻撃となった。
黒い剣と魔道銃で防ぐだけで精一杯になるスレイにユキヤは叫んだ。
「さっさと倒れろ、ヒロッ!」
叫びながら更に攻撃の速度を上げるユキヤ、その目的はまずスレイの武器を破壊することだった。
先程からユキヤは幾度となく攻撃をスレイに放っている中でユキヤは、スレイの武器を破壊できないかと考えた。しかし、あの黒い剣は無理だと分かっていた。
高い耐久力を持つあの剣を折るには、こちらも武器を犠牲にする必要があると考えたユキヤは即座に狙いを魔道銃に絞っていた。
その時何度も斬撃を受けたあの魔道銃の銃身にはすでにいくつもの深い傷が入っている。
このまま攻撃を続ければあの銃は斬れる。故にユキヤは魔道銃へと剣を振るうのだ。
「ぐっ、このままじゃッ!?」
そんなユキヤの考えはスレイも気づいていた。
明らかに銃の破壊を狙ってきているユキヤの攻撃を受けながらスレイはどうするかを考える。
着々と傷を増やし、このまま行けば確実に銃身を切り落とされるのは目に見えている。どこかで反撃に出なければマズイと思ったその時、パキンッと何かが割れる音と共に金属の破片が中を舞う。
それは魔道銃の銃身の破片の一つ、側が削られているがわかったスレイは時間がないと感じた。
一か八か、無理矢理にでも逃れるべく足に魔力を込めながら、前へとふむこむと同時に魔法の名前を叫んだ。
「いい加減に離れろッ!───アース・ブレイクッ!」
スレイが地面を踏みしめると同時に地面の魔法陣が展開される。
これは土魔法の一つで魔法陣を起点として一定の地面を崩す魔法だ。脚を踏み抜いた場所を起点に地面が砕ける。
これでは追撃が出来ないとユキヤが後ろへと飛び、スレイも体制を立て直すため一度下がったが動き出すのはユキヤが早かった。
「逃さねぇぞ───突きの型 瞬光・五月雨」
駆け出したユキヤは黒刀を大きく引き絞り黒剣を握る手を添えている。
この技はよく知っているスレイは、両目に闘気と魔力を集中させ突きの放たれるその瞬間を見極め、カウンターを決める。ユキヤの刀の切っ先が突き出された瞬間を狙った。
無数の突きがスレイに向かって放たれる。突きが頬を切り裂き、血が流れる中ユキヤの真横に剣を突き出したときに出来た脇腹を狙った。
「お返しだユキヤ!」
「──────ッ!?」
スレイはユキヤの腹部に向かって横から回した鋭い膝蹴りを叩き込んだ。
「グハッ!?」
スレイの膝蹴りが完璧にユキヤの腹部に入り、たまらずユキヤが後ろに下がるとスレイは続け様に蹴りを放つと、ユキヤは交差させた剣でガードするが足に力が入っていない状態で受けた蹴りは防ぎきれなかった。
「グッ!?」
たたらを踏み後ろへと倒れそうになったユキヤ、そこにスレイ魔道銃の銃弾をユキヤに向けて浴びせる。
銃弾が発泡されたユキヤはそのまま後ろへ倒れバク転の要領で片手をついて後ろへと飛んだユキヤは、バックステップで更に後ろに飛び黒刀の切っ先を向けた。
「あっぶねぇなっ!」
接近戦で勝負はつかない、ならばとユキヤはあまり得意ではない魔法の中で唯一使える魔法を発動する。
「吹っ飛べッ!──テンペスター・ブラスト!!」
暴風の爆発をスレイに向かって放ったユキヤだったが、真っ直ぐ構えられたスレイの魔道銃の銃口に魔方陣を展開させたスレイは、一言誤りの言葉を口にしながらトリガーを引き絞る。
「借りるよユフィ───テンペスター・ユピテールノ!!」
ユキヤの暴風の爆発に対抗するべく、スレイはユフィのオリジナル魔法を借りて迎え撃った。二人の放った暴風の魔法により辺りの木々がなぎ倒され、辺りが吹き飛んだ。
「────うぐッ!」
「────クソッ!」
二つの風魔法が爆発し吹き飛ばされそうになった二人は剣を地面に突き立てて踏ん張ると、風が止んだと同時にスレイとユキヤは駆け出した。
駆け出したスレイは黒い剣を脇に抱えながら走り、ユキヤは黒剣を肩に担ぐと間合いに入ったと同時に二人が剣を振るった。
二振りの黒い剣が火花を散らし切り結び離れたと同時にスレイは魔道銃を構えた瞬間、ユキヤは黒刀を振るった。
シャンッと音を立てて振るわれた黒刀はスレイの魔道銃の銃身、その上面から真っ二つに斬り裂いた。
「もう撃たせねぇぞッ!」
「撃てなくたって使い道はあるッ!」
半ばから斬り裂かれた魔道銃でユキヤの黒剣の腹を打ち付け軌道を変えると、続け様にスレイは黒い剣をふるいユキヤは黒刀が迎え撃った。
ギチギチと火花を散らす二振りの剣ごしに睨み合いながらスレイとユキヤは声をかける。
「いい加減諦めろッ!」
「うるさいよ………そんな顔してるお前をそのままに、ほっとけるわけ無いだろッ!」
叫んだスレイはユキヤの刀を押し返したスレイは鋭い一閃でユキヤに斬りかかると、後ろへと飛んで攻撃をかわすとスレイは半ばから銃身を失った魔道銃を空間収納に投げると、銃に代わり柄だけの剣を取り出した。
その柄を見たユキヤはあれは何だと思ったその時、白い光の刃が現れた。
スレイは左手に握られたのは魔力だけで形作られた魔力刀・弐式。これで二刀流対二刀流、二人は剣を構えながらにらみ合った。
ユキヤはスレイの握る魔力刀をにらみつける。
「今更おもしろ武器で何になるってんだよッ!」
黒剣を突き立てようとしたユキヤに向けてスレイも魔力刀の刃を突き立てる。魔力で形作られた刃は、ユキヤの黒剣の刃を包み込んだ。
「これだって、ちゃんとした武器なんだよ!」
魔力の刀身の中に飲まれたユキヤの黒剣の刃がが突然凍りついた。
「なにッ!?」
魔力刀の刃は当たり前だが魔力でしかない、つまり即座に魔力を別の属性に変化させることが出来る。
これによって魔力を氷に変化させたスレイは飲み込んだユキヤの刃を凍てつかせた。
「クソッ!?」
黒剣の刃が凍りつきユキヤの指先まで登ってきたところでユキヤは咄嗟に黒剣を手放すと、スレイも魔力刀に流す魔力を止めて遠くへと投げ捨てた。
剣を失ったスレイとユキヤは同時に後ろへと飛んで距離を取る。
獲物がないスレイと刀を握ったユキヤ、お互いにこれで決めることにした。
「すぅ~、はぁ───ッ!」
大きく腰を落とし黒い剣を構え左手をその刀身に添えたスレイは、闘気を黒い剣に流したと同時に暴風の魔力を流し込む。
「はぁ~───フッ!」
刀を握り直したユキヤは黒刀を鞘に収め、鞘を左手に握り腰を大きく落とした。刀の柄に右手を添わせ居合の構えを取りスレイを睨み付ける。
「これで本当に終わりだヒロ」
「そうだね。これで終わりだ。そして、お前のそのふざけた面をぶん殴ってやる」
「やってみろよ。やれるもんだったらな」
「あぁ、やってやるさ」
二人が同時に言葉を区切ると、始めに動いたのはスレイだった。大きく地面を蹴り真っ直ぐ、ただ直線的に突っ込んでいくスレイは、自分の技の間合いに入ると同時に大きく引き合いぼっていた剣を突きだし技の名前を叫ぶ。
「行くぞユキヤァ!───暴風の激突!!」
業火の激突の暴風バージョンの技を使ったスレイ、それに対抗するべくユキヤはスレイが自身の居合いの間合いに入ると同時に技の名前を叫ぶ。
「来いよ、ヒロォ!───居合いの型 閃華!!」
暴風を纏った突きに対するは目にも止まらぬ最速の一閃。
二人の放った技がぶつかり合うと同時に、スレイの剣の刀身に渦巻いていた暴風の魔力が吹き荒れユキヤの剣を弾き返した。
「───────────ッ!?」
暴風の魔力を正面から受けたユキヤは、その荒ぶる暴風に抗えず刀を握っていた手を弾かれる。その際にユキヤは右手に握っていた刀を手放してしまった。
剣を手放し丸腰になったユキヤはスレイから距離を取るべく地面を後ろに向けて蹴ると、それを見たスレイは黒い剣を空間収納に投げ入れ、拳を握りながら大きく地面を蹴った。
「ユキヤァアアア――――――――ッ!!」
「ッ!────────グァッ!?」
スレイはユキヤの右頬に拳を叩きこんだ。
あと一話だけ続きます。




