過去の記憶
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ユキヤと剣を会わしている最中、なぜかボクの頭の中には地球にいた頃の、それも初めてユキヤと出会った時のことが頭によぎっていた。
理由はよく分からないが、どうしても剣を振りながらあのときの事が何度もよぎっていた。
ボクとユキヤが出会ったのはそう、春の暖かな空の下。桜の舞い散る高校の入学式の日だった。
暖かい日差しを受けた麗らかな陽気、窓際の席に腰を下ろしていたボクは眠気を圧し殺しながら新しいクラスの担任となる先生の話を聞いていた。
先生の話しは新入生であるボクたちに対する当たり障りのない祝福の言葉をのべ終わると、それが終わるとクラスメイトの自己紹介になった。
このときのボクは入試の合格発表からこっち、長い春休みのせいで生活リズムが崩れていた。昨夜も遅い時間までラノベを読み更けていたせいで物凄く眠かった。
あくびを噛み殺しながらクラスメイトの話を聞いていると、コロンッと何かが机の上に転がった。
何気なく広げて見ると小さな紙切れに、可愛らしい丸い文字でこんな言葉が書かれていた。
──ちゃんと先生の話を聞かなくちゃ!
そう書かれていた紙の字には見覚えがあり、先生に注意しながら斜め後ろを見るとムッとした顔をしている幼馴染みのミユがそこにいた。
どうやらボクが眠そうに船を漕いでいたのを見かねてこんな物を投げたようだ。
注意してくれたミユに頭を下げたボクは、仕方ないかと思いクラスメイトの挨拶に耳を傾けると、どうやら前の人の話は終わってしまったらしく、別の人が話していた。
次に進んでしまったので申し訳ないと思いながらも、クラスメイトの自己紹介を聞くことにした。
自己紹介も順番に進んでいき、ボクもミユも挨拶が終わった。
「それじゃあ次、本郷ユキヤ」
先生が次の生徒の名前を呼んだが返事も聞こえなければ誰も立とうとはしなかった。クラスメイトたちが騒ぎ出したのを見て先生が止めていたが、それを聞きながらもボクとミユも小声で話していた。
「入学式はちゃんとみんないたよね?」
「大方、入学式が終わってから帰っちゃったんじゃない」
「そんな子いるんだね~」
「なにか理由でも合ったんじゃないかな?」
入学式の時、少し遅くなってしまったためクラスの一番後ろの席に座らされていたボクとミユ。
その時にクラスの並ぶ列の一番後ろに座っていたが、その時にはすでに席は二人の座った席以外のすべてが埋まっていたのであのときはいたはずだと、二人で話し合っているとパンパンッと先生が声をかける。
「はい、静かに!いないなら次に進むぞ」
先生がそう言うと次の生徒の名前を呼び自己紹介が進んでいく中、ボクは眠そうにしながら外を見ていると中庭に誰かがいる気とに気がついた。
その少年はボクの着ていると同じ真新しい制服を身に纏っていたのを見て、他のクラスの子かな?っと始めはそう思ったがその生徒以外は誰も外にないのを見て、違うと思った。
もしかしてあの子が?そう思いながらその少年の事を見ていると、唐突に少年が顔をあげたためヒロがその少年と視線があった。
これが月城 ヒロと本郷 ユキヤの初めての出会いであった。
⚔⚔⚔
ユキヤの両手に握られている漆黒の刃を持つ剣と刀が振り抜かれる。
バックステップで剣をかわし、黒い剣で黒刀の一閃を受け止めたスレイは魔道銃の銃口をユキヤに向けて発砲した。しかし、ユキヤは飛んできた弾丸を首を動かすだけでかわした。
「避けんなよッ!」
「無茶言うな!」
言葉を返すと同時にユキヤの黒剣が振り上げられるとスレイは身を半身に引いて剣をかわし、もう一度魔道銃を撃とうとしたがそれよりも速くユキヤの黒刀が振り抜かれる。
スレイは黒い剣を掲げて黒刀を受け止めようとしたが、距離が近いせいで剣がが振れない。ならばと転がってユキヤの剣をかわし、起き上がる反動をつけて後ろに飛んだ。
当たり前だがユキヤは追ってくる
「避けてばっかで、俺を殴るって言っていたのはただの冗談だったのかヒロ!!」
「そんな訳あるか!」
「それならッ、言葉だけじゃなく行動で示して見せやがれ!!」
「────────ッ!?」
速度を上げて接近してくるユキヤに向けてスレイは魔道銃の弾丸をすべて撃ち尽くすと、即座に空のマガジンを抜き空間収納からが予備のマガジンを抜き出し装填。しかし装填が終わるよりも速く接近したユキヤの黒刀がスレイに向かって振るわれる。
剣でのガードが間に合わないと判断したスレイは、魔道銃を振って装填の完了していないマガジンを空中へと放り投げる。
「そんなんで俺が怯むと思ったかッ!」
いくら至近距離で投げられたと言ってもユキヤの剣で斬れないハズもなく、そのまま両断しようとした瞬間スレイがニッと口元を歪めた。
なにかする気か、そう思ったユキヤだったが今更遅いと黒刀を振り抜こうとしたその時、スレイの握る魔道銃の銃口に魔法陣が展開される。
その魔法陣を見たユキヤの顔が強張った。スレイが発動しようとしたのは炎の魔法、そんな物が弾丸の入ったマガジンに当たりでもしたらどうなるか、それを知ったユキヤは思わず叫んだ。
「なんてことしようとしてんだッ!?」
そう叫んだユキヤは攻撃を中断して両手をクロスさせて後ろへと飛んだ。
いくら弾丸が斬れるからといって、いくら闘気を使って強化しているからと言って、至近距離で薬莢が破裂した場合ユキヤでもただでは済まない。
それはもちろん間近にいるスレイも同様のはず、道連れにでもする気かと思ったその時、ユキヤの身体に衝撃が走った。
それは薬莢が爆発した衝撃ではない、真横からの強い衝撃に顔を上げたユキヤが見たのは自分を蹴りぬくスレイの姿だった。
「悪いなユキヤ、あんなんでマガジン吹き飛ばないんだよッ!」
そう、スレイの使う弾丸は地球での銃器の弾丸と違い火薬が入っていない。
魔法陣による起動方式を取っているこの弾丸が、炎を浴びたくらいで爆発することはない。それを知らないユキヤに使えるたった一回限りのハッタリ。
「やってくれるなッ!」
蹴り飛ばされたユキヤが起き上がったその時、魔道銃にマガジンを装填し直したスレイが銃口に魔法陣を展開させ構え直した。
来るかと剣を構えるユキヤだったが、スレイがトリガーを引く瞬間おかしな動きをしたのをユキヤは見逃さない。なにか仕掛けてくるのかと警戒を強める。
「───エアロ・ブロー!」
撃ち出されたのは実弾ではなく魔力弾、ここに来てなぜとユキヤは思いながらも関係はない。撃ち出された魔力弾が魔法陣を通過し、風も礫へと姿を変えた。
「はっ、こんなもんで俺がやられるとでも思ってんのかッ!──テンペストッ!」
魔法陣の輝くとユキヤの剣に吸い込まれる。
剣の周りに小さな風の渦が纏わりつくと、撃ち出された風の礫をいともたやすく斬り裂いた。
今度はこの剣でスレイを切るべく駆け出そうとしたユキヤだったが、視線の先にスレイの姿はなかった。
「ッ!どこ行きやがった?」
あたりを見回してもスレイの姿はないが、今更スレイが逃げたとも考えづらいユキヤは気配を探ろうとすると、背後より何かが近づいてくる気配が合った。
「そこかッ!」
気配を感じ振り向き様に二振りの剣でそれを切り裂いたが、ユキヤの降った剣に伝わって来たのは人を斬った時の感触とは別の感触だった。
「何っ!?」
ユキヤの視線の先には、黒い鎖状の物が絡まりついているのに気がついた。
それは以前共に戦った時スレイが使っていた鎖型のゴーレム"黒鎖"であることを知ったユキヤは、やられたいと思ったときにはもう遅い。
ユキヤの黒剣を絡め取った"黒鎖"は、絡め取った黒剣を登っていきユキヤの腕を絡め取ろうとする。しかしユキヤはそれをさせじと剣を離そうとしたその時背後から何かが近づく気配に気を取られる。
「こっちだユキヤ!」
背後から現れたスレイの気配に気を取られた一瞬をついて"黒鎖"がユキヤの腕を絡め取った。
「クソッ!」
これで獲った、そう思ったスレイがユキヤを背後から斬りつけたその時、振り抜かれた黒い剣から何も感じなかった。
「────なにっ!?」
たしかにスレイの剣はユキヤを捉えて斬り裂いた。なのに伝わってくる感触はまるで空を斬るような、空振ったようにしか感じなかった。
いったい何を斬ったんだ、そう感じていると、スレイに斬られたはずのユキヤの身体が消え、今までユキヤがいたはずの場所には半ばから切断された黒鎖の残骸が残されていた。
「───体移動の型 朧月」
「──────ッ!?」
自分よりも低い位置から聞こえてくるユキヤの声に視線を向けると、いつの間にか身を屈めて低い位置から黒い剣を振り上げようとしているユキヤと視線があった。
「喰らえ!」
「喰らうか!」
スレイは思わず苦悶の声を上げるとともに一歩早く身を後ろに引くが、すでに振り上げようとしている剣を完全にかわすことも出来るはずもない。
完全にかわせないのなら少しでも致命傷を避けるためにと、スレイは魔道銃の銃身を滑り込ませ受け止めた。
「───うぐっ!?」
振り抜かれた剣が魔道銃の銃身を傷つけながらスレイの身体を斬り裂いた。
傷口から鮮血が舞ったのを見たスレイは、お返しにとばかりに下から真上へと黒い剣を振り上げたがユキヤは剣で受け止められたが、それでいいとスレイは思いながら魔道銃に魔法陣を展開する。
スチャッと構えられた魔道銃の銃口がユキヤに向けられると、スレイは叫びながら魔道銃のトリガーを引き絞った。
「お返しだッ!───スパーク・ボルト!」
トリガー引き絞られ撃ち出された魔力弾が魔法陣を打ち抜き、白刃の雷が直ぐ側に迫っていたユキヤの身体を撃ち抜いた。
「ぐっ、ァアアアアッァァっァァァッ!?」
スパークの輝きを受けたユキヤは、体中から白い煙を上げて膝をついた。
それを見たスレイは後ろに飛んで距離を取るとポーションを取り出そうと空間収納を開くが、中にポーションは残っていなかった。
「ッ!?ポーションがもう」
連戦続きで補給もまともにできていない状況でこの戦いだ。仕方ないと思いながら治癒魔法を唱えようとしたが、ユキヤとの戦いが長引く可能性があるので、こんなところで無駄な魔力を使ってはいられない。
そう考えたスレイは流れ出ている血を氷の魔力で凍らせたこで、簡易な止血を施し顔をあげると、先程のスレイの魔法から回復したユキヤが剣を振るおうとしてくる。
「いてぇ、じゃねぇか!」
もう回復したのか、そう忌々しそうにスレイがユキヤを睨み付けながら地面に突き刺した黒い剣を引き抜くと、振り抜かれたユキヤの剣をスレイの剣が打ち負かした。
「クッ、まだ痺れてやがる」
無様に押し負けたユキヤは忌々しそうに自分の腕を見ながらそう呟くと、追撃はせずに黒刀の切っ先を構えてこちらを睨む。
対してスレイはユキヤの動きが鈍いのを見て、まだ魔法のダメージから回復していないのならここで一気に押し切ると、スレイはだらりとしたに下ろされた黒い剣に業火の魔力を流し込む。
「───業火の閃激!!」
スレイの剣が閃くと共に地面を蹴りだらりと下げられた剣を振り抜こうとする。
この技はマズイとユキヤは思いながら、黒刀に闘気を流しながら身体を撚ると切っ先をスレイの方に向ける。
「───突きの型 瞬光・五月雨!!」
ユキヤの黒い剣を真っ直ぐ構えスレイと同時に地面を蹴りあげる。二人が自分の間合いに入った瞬間、スレイは下にさげていた剣を放り抜き、ユキヤは振り抜かれる剣に合わせて突きを放った。
「うぉッ!?」
「うグッ!?」
ぶつかり合った二振りの剣が爆発した。
技同士の爆発によってよって大きく後ろに弾かれた二人は、すぐに体勢を立て直した。
大きく前に踏み込むとスレイは黒い剣をユキヤは黒い刀を真っ直ぐ構えると、同時に地面を蹴り身体を大きく引き絞りながら突き技を放った。
スレイの剣とユキヤの刀が火花を散らしながら突き出されそして、お互いの肩を穿った。
「─────ぅぐっ!?」
「─────ぐぁっ!?」
同時に肩を穿たれたスレイとユキヤは同時に相手から剣と刀を引き抜くと、素早く傷口に手を当てながら治癒魔法を発動させる。
「「───ヒール!」」
素早く傷を癒したスレイとユキヤは、再び前へと踏み込むと剣を振るったがさっきの傷のせいでスレイの剣筋が鈍っている。
それを見抜いたユキヤは、先程のヒールで身体の麻痺も治ったのを確認し左右に剣でスレイを追撃する。
「そんな剣筋で俺に勝てるのかよッ!」
「うるさいっての!」
スレイはユキヤの攻撃を受け流しながら受け止め、魔道銃の銃口をユキヤへ向けると迷わずに銃弾を撃った。
ドンドンドンッと、スレイが魔道銃のトリガーを引き絞った。
「そんな遅いの、食らうわけないって言っただろうが!」
撃ち出された銃弾をユキヤは的確にかわしていった。
銃弾はユキヤに当たることなく失速し、弾丸は地面に埋もれてしまった。誤射だと思ったユキヤは地面を蹴ってスレイの側にまですぐに接近してくる。
スレイが黒い剣をフレンに向けて振るうと、重なり合った二つの剣が重なり合い火花を散らし合う。
「もう諦めろよヒロ!」
「諦める?寝ぼけた事を言ってんじゃねぇよユキヤ!」
鍔迫り合いを繰り広げていたスレイが握りしめる剣に力を込めてユキヤの剣を弾き返した。
もう一度魔道銃の銃口をユキヤに向けるが、再びかわされて終わるかもしれないがそれでも構わずそスレイはユキヤに向けてもう一度発砲した。
ドンドンドンッ!再び引かれたトリガーと打ち出される弾丸の音を聞き、ユキヤが後ろに飛んで初めの一発をかわす。
距離が空いたことでユキヤは残りの銃弾は剣で斬り落としたが、最後の一発を切り落としたときユキヤは驚きの声をあげる。
「───なにっ!?」
最後に斬り伏せた弾丸、その後ろに前の弾丸とほぼ同じ軌跡をたどり撃ち出された銃弾が真っ直ぐユキヤを狙って飛んでいったのだが、さすがに不意を付かれただけでは殺れないことは分かっていた。
「グラビティーバレットでもダメだったが、これでいい───いいや、これがいいんだ!」
あえて遅い弾速の弾を使ったがやはりそれでもかわされてしまったが、不意を突かれたユキヤは体勢を崩したのを見てスレイ、黒い剣に雷撃の魔力を流し込むと黒い剣の刀身が蒼白いスパークを発しながら輝いた。
「もう一度痺れやがれッ───雷鳴の一閃ッ!」
スレイが剣を振り抜くと同時に、黒い剣の中に込められていた雷撃が斬激となってユキヤを襲う。
「───────────ッ!?」
蒼白いスパークがユキヤを襲った。
「やったか?」
かなりの雷撃を流し込んだと思ったスレイだったが、どうやらユキヤはそれで倒れてはくれそうになかった。
身体に流れる雷撃を受けてユキヤの意識が微かに途切れそうになったが、寸でのところで踏み留まったユキヤは倒れそうになった身体を何とか動かし、力強く地面を踏みしめ踏み込んだユキヤが憎しみを込めた視線でスレイを睨み付けた。
「まだだ、まだ倒れねぇぞヒロ!」




