望まぬ形で
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もしかしたら、そう考えていたことは何度もあった。
この世界でユフィと、ミユと再会したときからもしかしたら、この世界にはボクたちと同じように地球や異世界からの転生者や、もしかしたらという可能性でしかないが転移者だっているかもしれない。
その可能性について何度もボクたちは話し合ったかはわからない。
だが、アストライアさまにボクとユフィが転生したのは、アストライアさまのお力によるものでこの世界にボクたち以外の転生者はいない…………そのはずだった。
⚔⚔⚔
地球でのお互いの名前を呼びあったスレイとクロガネ、今はユキヤと呼んだ方がいいのかもしれない、二人の再会はとても喜べるものではない。
ましてや、敵同士としての再会など誰も望んでいない。
すでに戦う意思を失っているスレイは魔道銃を真下に下ろしていた。
その代わりに漆黒の剣を抜いてその切っ先をスレイへと向けているユキヤ。
立場の変わった二人はなにも言わずにただ睨み合っているだけだったが、その静寂をスレイが打ち消した。
「頼むから剣を下ろしてそこをどいてくれユキヤ、お前とは戦いたくない」
「……なぁヒロ、お前地球にいた頃と比べてさ、けっこう明るくなったよな……桜木に言われないか?」
「ミユまで転生してること知ってるのか……どうやって知ったんだ」
「……アカネだ。あいつの魔眼は過去を見通す過去視の魔眼だ。それと使徒さまの力で確信した訳だ」
ナイトレシアでアカネを助けたとき確かにスレイはアカネの魔眼を見た。
その時に頭の中を無理やり覗かれているような感じ、あれがそうだったのかと今更ながらに理解できた。
そしてもう一つわかったことは、さっきのユキヤの話通りなのだとするとあの使徒の能力はアカネの魔眼と同じ過去を見通す力、もしくは記憶を読みとく力で間違いはないだろう。
「それでどうなんだよヒロ、桜木とは仲良くやってるのか?」
「今はミユの話は関係ないだろ。その剣を下ろしてそこをどけユキヤ!」
スレイが叫びかけると表情を変えずにユキヤは続けていく。
「いいじゃないか、久しぶりに話すんだ。少しくらい世間話に付き合えよ」
「黙れよユキヤ!」
ユキヤと話してるとイライラする。
なぜだかは分からないが、今のユキヤを見ていると無性に感情を出さずにはいられなくなる。
これがなんなのか、スレイ自身にもその気持ちの意味が分からない。
「やっぱり変わったよお前は…………言いたいことをスッと言える。羨ましいなお前はこっちではいい両親の元で育ったんだろ」
「そんなことは今はどうでもいいだろ!」
「どうでもよくなんてねぇんだよ!」
初めてユキヤからここまでの強い声を聞いた。
「地球でもこっちでも、俺には家族は居なかった」
「何ぃっ!?」
「なのにお前は俺の欲しいものをすべて持っていた。嫌いなんだよお前みたいに何でも持ってるはずのやつがそれを否定して、幸せを感じようとしないそんな奴を見てるとな虫唾が走るんだよ!」
なにを言っているんだこいつは?
話を聞いていたスレイの中でピシッとなにかが割れるような音が聞こえてくる。
「こっちではどうかはしらないけど、家族ならいただろ!おじさんだっておばさんだって、レナちゃんだってお前のことを本当の家族だって思ったってことは、お前自身が一番よく知ってるだろッ!」
「知ってる………あぁ知ってるさ。そんなこと、テメェに言われなくてもよくなぁ!」
反論するように強く否定したユキヤの目は激しい怒りの色が滲んでいた。
「だけどな、俺が本当に欲しいのは血の繋がった本当の家族なんだよ!」
「血の繋がった、本当の家族?」
「そうだよ………俺だけの家族、俺だけの愛、それをお前は全部、そう全部持ってる!」
鬼気迫るユキヤの言葉にたじろいだスレイ、そこをユキヤはまくしたてるように叫ぶ。
「なぁヒロ、お前は今幸せか?教えてくれよヒロ……自分だけの愛をくれる家族がいるって、いったいどんな気持ちなんだよ」
狂ったような笑みを浮かべるユキヤの目に大きな涙の粒が流れる。
その涙を見たとき、スレイはようやく理解した。
なぜ今のユキヤに対して怒りを覚えていたのか、それは今のユキヤが似ていたからだ。
昔のユキヤも今のユキヤも地球にいた頃の自分と、まるで鏡写し出されている自分の姿でも見ているように、だから………だから止めなくちゃいけない、友人としてなんとしても、でなければユキヤが危ない。
「決めたよユキヤ、今ボクは決めた」
「いったい何を決めたんだよヒロ」
「今のお前はただヒステリックを起こしてるだけだ」
「かもしれねぇな………だがなぁ、それがいったい何だよ?」
「こっちに来て何があったかは知らない………でもなぁ、それを差し引いても、お前は自分を受け入れてくれたレナちゃんたちをけなしたんだぞ!」
「それが何だよ、何が言いたい」
「てめぇのねじ曲がって腐りきったその性根、ボクがぶん殴って叩き直してやるって言ってんだよッ!」
黒い剣を真っ直ぐ正面に構えると魔道銃をホルスターに戻したスレイは、空間収納に納められていた短剣を抜き放ち魔力を流し刀身の長さを変化させた。
スレイが剣を向けてユキヤを威嚇していると、急にユキヤは笑いだした。
「いったいなにが可笑しいって言うんだよ」
「変わったと思ったが、そういやあお前と友達になった切っ掛けが喧嘩だったなって思ってさ」
「あぁ……確かにそうだったな」
ユキヤの言葉に肯定したスレイは、地球にいた頃に生まれて初めてやった喧嘩の事を思い出しながら強く奥歯を噛み締めた。
「でもなぁ、今回のは違うぞユキヤ」
「あぁ?いったいなにがだ?」
「これからやるのは喧嘩じゃない、ただボクの自己満足で、もっと言えばただの八つ当たりだ」
「そうだよな。俺のこの想いも感情も、全ては自己満足だよな」
スレイとユキヤはいつかと同じように身体に闘気を纏わせる。
「ユキヤ、ぶん殴ってでもお前のその性根を叩き直す!」
「ヒロ、俺はもう引き返すつもりはない、俺はあの方の元で壊すだけだ。この不条理な世界を」
二人が剣の切っ先を真っ直ぐとお互いに向けると、スレイは魔力刀の真横に構え黒い剣を肩に担ぐように構え、ユキヤは右手を大きく後ろに下げ漆黒の剣の切っ先を真っ直ぐスレイへと向ける。
「ウォオオオオオオオオ―――――――――ッ!!」
「オォオオオオオオオオ―――――――――ッ!!」
スレイとユキヤ同時に飛び立ち二人の剣の間合いに入った瞬間、ユキヤは引き絞っていた腕を付きだし、スレイは魔力刀の刃を真下から振り上げる。
スレイの魔力刀がユキヤの漆黒の剣を打ち上げるように振り上げるが、魔力刀になんの手応えが感じられなかった。
「チッ!?」
驚いたスレイが今弾いたはずの漆黒の剣を見ると、ユキヤの剣が陽炎のように揺らぎかき消えた。
「喰らえッ!」
この技は知っている、スレイが視線を自分の左斜め上に向けると、ユキヤの剣が振り下ろされる瞬間だった。
このままでは斬られる!そう思うと同時にスレイは肩に担いでいた黒い剣を振り抜いていた。
「喰らうかッ!」
スレイとユキヤの剣がお互いの肩に向かって振り下ろされる。
振り抜かれた二人の刃が重なり合い、触れ合った場所から爆発が起こり剣が弾かれた。
「クッ!」
「やろぅッ!」
二人は剣が触れる瞬間に自身の身体に、剣を弾くだけの威力に出力を絞った小規模の爆発を起こし剣を弾き飛ばした。
大きくノックバックしたスレイとユキヤ、始めに動いたのはユキヤだった。
「シィッ!」
空中で身体を翻しスレイを追撃しよう剣を振り上げる。
「死ねッ!!」
スレイはまだ体勢を崩したまま、そのまま斬れば終わり。
そう思いユキヤが剣を振るうべく近づいたその時、スレイが上半身をひねりながら鎌のような蹴りが放たれる。
「ハァッッ!!」
スレイの蹴りがユキヤの手の甲を蹴り抜くと、握られていた剣が空中を舞った。
「ちっ───クソがッ!」
蹴りを受け剣が空中に舞った。
剣を失ったユキヤは掌に風の魔力を集め、スレイに向けて放った。
「ウォッ!?」
風の魔力によって吹き飛ばされたスレイ、それをやったユキヤは身を翻して落下する剣の下へと急いだ。
「させるかッ!」
スレイが背中を向けたユキヤに向けて魔力刀を投擲する。
「チッ───なッ!?」
振り返ったユキヤの視線の先にスレイの姿はなかった。
目を離した一瞬でどこに、そうユキヤが訝しんだその時頭上から隠しようのない敵意を感じ取った。
「ユキヤァアアアァァァァァッ!!」
剣を投擲すると同時に真上に転移したスレイは、拳を握りしめながら向かってくる。
「剣がねぇなら拳か?甘えこと考えてんじゃねぇッ!」
投擲された短剣を風の魔力で吹き飛ばし、空間収納を開いたユキヤは抜き取られた黒い刀を手に取ると鞘走りとともに刃を抜き放ちスレイの剣を受け止める。
「────ッ!?」
黒い刀でスレイの剣を受け止めたクロガネはスレイの剣を押し返すと同時に蹴り飛ばした。
「ッ!?」
蹴りを受けたスレイが後ろに下がると、ユキヤは風魔法で黒い剣を受け止めて引き寄せる。
右手に黒い刀、左手に黒い剣を握ったユキヤは二刀の剣を構えてスレイへと切りかかった。
「今度はこっちから行くぞッ!」
「クッ、そっ!?」
黒い刀、そして黒い剣を巧みに操り斬りつけるユキヤ。対するスレイは黒い剣一本でその攻撃を防ぎ続ける。
後ろに下がり距離を取りながら剣で受けながら、時に大きく身をかがめて剣をかわしているが、このままでは殺られると思いながらスレイは黒い剣に風の魔力を纏わせる。
「こいつならッ!」
「何ッ!?」
吹き荒れるのはただの風、魔法じゃないことがわかったユキヤは目を守るために腕を上げていると、腕の隙間からスレイの動きが見えた。
抜き放たれた魔道銃の銃口がユキヤに向けられる。
「────ッ!?」
無言でトリガーを引き絞ったスレイ、魔道銃のトリガーが引かれるたびにから腹に響く重音が鳴り響き、無数の弾丸が打ち出される。
「舐めんなッ!」
ユキヤは魔道銃から撃ち出された銃弾を黒い刀で斬り落としスレイへと近づいて来ると、スレイも銃弾を放ちながらユキヤの方へと近寄っていく。
スレイとユキヤが剣を同時に振るった。スレイの握る黒い剣がユキヤの剣と刀を受け止めている。
鍔迫り合いに持ち込んだ二人がにらみ合う近距離に近づいた。
「そういやぁ、お前のその剣と銃、まるであのゲームのアバターみたいだなぁッ!」
「その刀、お前もだろッ!」
スレイがユキヤの剣と刀がお互いを押し返すと、ユキヤが黒い剣で切り返す。しかし、それよりも速く魔道銃を真っ直ぐユキヤに向けてたスレイは、剣が振り抜かれるよりも速く弾丸を打ち出す。
銃弾を放つとユキヤは刀の刃で銃弾を切り裂いた。
「ただの鉛玉が効くわけねぇだろッ!」
打ち出される銃弾を切り裂き接近してくるユキヤ、負けじと後ろへと下がりながら銃弾を打ち出すとスレイだったが、打ち出される弾丸の合間を縫って近づくユキヤの剣がスレイを狙って振り下ろされる。
「シッ!」
剣で防ぐのも間に合わない距離で剣を振るわれたスレイは、身体を後ろへと倒しながら飛行魔法を一時的に解くと落下しながらユキヤの剣を交わし、もう一度魔法を再始動する。
空中に浮かび上がったスレイは身体をひねり回し蹴りがユキヤを蹴り飛ばすと、再び身体を捻って体勢を整えながら魔道銃の銃口に魔方陣を展開した。
「死ぬなよッ───インフェルノスピア!」
トリガーを引き絞り打ち出された弾丸が魔法陣を通過すると、漆黒の業火で形作られた槍がユキヤの元に飛んでいく。
「今度は、魔法かよッ!」
漆黒に槍を斬り伏せようと太刀に闘気を纏わせ真っ向から迎え撃った。
黒刀が業火の槍を斬り裂いた直後、そのすぐ後ろから現れたスレイはユキヤは刀を真横から斬りつけ、伝わってきた衝撃からユキヤは刀を手放してしまった。
「クッ」
「今度こそ」
踏み込みと同時にもう一本の剣を狙って黒い剣を振るおうとしたスレイだったが、そんな見え見えの攻撃に引っかかるユキヤではない。
黒剣を引き戻しスレイの黒い剣をかわしたユキヤは、身を翻しながらスレイを斬りつける。
振り抜かれたユキヤの剣を魔道銃の重心で受け止めたスレイは、銃身で剣を押し返し引き戻しながらユキヤに向けて弾丸を放ったが、弾丸はユキヤの剣によって防がれたが、それで良かった。
再び接近したスレイは黒い剣でユキヤの剣を弾くと、魔道銃を握った腕を振り上げる。
「歯ぁ、食いしばれよッ!」
魔道銃の銃口でユキヤを殴ろうと接近したその時、ユキヤは掌をスレイに向けて魔法陣を展開させる。
魔法を発動しようとしたユキヤを見てスレイは思わず後ろに下がりながら魔法を発動させる。
「───シールド!」
スレイの前に魔力の盾が発動されると同時にユキヤの魔法が発動した。
「───テンペスターブラスト!」
放たれた暴風の魔法がスレイのシールドを破壊する。
両手を交差させ暴風の嵐を受けたスレイは、風に全身を斬り裂かれながら地面へと叩き落とされた。
「グハッ!?」
地面に落ちたスレイは剣を杖にして立ち上がると、少し遅れて地面に降り立ったユキヤはちょうどその場所に落ちていた黒刀を引き抜いた。
「まだやるか?」
「当たり、前……だろ!まだ、ボクはお前を殴って、ないからなッ!」
懐に忍ばしたポーションを飲み干すと傷が一瞬にして治った。
起き上がったスレイは血を拭いながら黒い剣を構え直す。するとユキヤの顔が怒りに染まった。
「うぜぇなお前」
「そんなのお互いまさだろ?」
飛行魔法を解いたスレイとユキヤは剣を真っ直ぐ構えると同時に地面を蹴った。
⚔⚔⚔
二人がぶつかり合うごとき木々は揺れ、衝撃は空の上を漂う雲が吹き飛ばされる。その中で戦いに参加していない使徒は傍観しているのも飽きたらしく、天界へと帰ろうとした。
「やれやれ、人同士の戦いは醜いものだ。こんなところにいるだけムダだな」
そう吐き捨てて帰ろうとした瞬間、地面から無数の黒い鎖が使徒を絡めとると、まるで自分の体重が何倍にもなり空に飛んでいた使徒が地面へと落ちていった。
「鬱陶しい鎖だなこりゃ……あぁ?なんだアレは───ブベラッ!?」
突如として強い衝撃に襲われた使徒は吹き飛ばされた。使徒を吹き飛ばしたのは漆黒の鎧に、同じく漆黒の剣と盾を構えた黒い騎士だ。
木々を凪ぎ払い、地面をえぐって吹き飛ばされが使徒が血の流れる顔に触れながら、自分を吹き飛ばした黒騎士を睨み付ける。
「俺、戦う力はそんな無いんだけどな、ってかいったいどっから出てきたんだ?」
使徒の力を使って過去を見ようとしたが、目の前の黒騎士から過去を読めないことが分かると、これが生き物でなく作られた物だとわかり、めんどくさそうに全身をさらに変化させていく。
細身に変化させ顔は豹のようなものに変化させ、長い尻尾が生えた。
「コンナ身体デ戦ウノハ、久シブリダナ」
姿を変えた使徒が黒騎士との戦いが始まっていた。
⚔⚔⚔
スレイとユキヤが戦いを始めようとしたとき、ユフィたちはいつまでも帰ってこないスレイたちのことを心配していた。
「まだリーシャちゃんたちと会えないのかしらね」
「空って言ってもかなり広いですからね。あの聖竜のご息女がどこまで飛んでいったか、それを聞けば良かったのですが」
「そのうち帰ってくるだろうけど、さすがに料理も冷めちまうな」
出来立てだった料理はスレイたちを待っている間に冷えかけてしまっている。
せっかく作ってもらったのに申し訳ないなっと思っていると、急に空が暗くなったのでようやく帰ってきたのか、そう思いみんなで出迎えようと外に出る。
白い毛並みの巨大なドラゴンが背中からリーシャとミーニャを下ろしていた。
帰ってきたのは三人だけ、呼びに行ったはずのスレイの姿がそこにはなかった。
「リーシャちゃん、スレイちゃんは一緒じゃなかったの?」
「お兄ちゃん、血相を変えてどこかにいっちゃったよ」
「なんかあったのか?」
リーシャの話を聞いたユフィがもしかしたらと思いリーシャに訊ねる。
「リーシャちゃん、スレイくんがどっちに行ったかわかる?」
「あっちの方だけど」
リーシャの指差した方を見てユフィが探知魔法を発動させるが、かなり距離が離れているせいでなにも感じられないが、もしかしたらっと思いユフィが空間収納から杖とボードを取り出した。
「私、ちょっと様子を見に行ってくるね」
ボードに乗って浮かび上がったユフィを見てノクトとリーフがお互いの顔を見て頷きあった。
「ユフィお姉さん、私たちも行きます」
「自分も行きます。お二人だけで行かれて何かあるといけませんから」
「そんならオレも行こうか?」
「大丈夫ですよ~、旦那さまを迎えに行くのも奥さんの大事な勤めですからね」
ユフィがそう言うとリーフとノクトの背中を押しながら外に出ると、ユフィのスカートの裾を引っ張るのを感じてそちらを見ると、幼竜が引っ張っていた。
腰を折って幼竜の背の高さに合わせるようにしゃがんだ。
「どうかしたの?」
「おねえちゃん、わたしも行く」
「いいよ。お腹すいちゃってるでしょ?お姉ちゃんたちが行くから先にご飯食べてて」
「ううん、行く」
頑固なまでに一緒に行くと言い張る幼竜にユフィは困り、ノクトとリーフの方に視線を向けると仕方がないと言いたげに降参を示したと言うよりも、置いていったところでどうやっても付いてこられる可能性もあったので連れていかない訳には行かない。
「それじゃあ一緒に行こうか」
「うん。じゃあ元に戻るね」
一瞬だけ光ると元の巨大な竜の姿に戻った幼竜はノクトとリーフを背中に乗せると、最後にユフィにも背中に乗るように言ったが、ボードを取り出していたのでそのまま飛んでいくことにした。
「ボードで飛ぶのも久しぶりだな~」
ボードで空を飛んでいるユフィが風を切る感覚を感じながら気持ち良さそうにしていると、隣を並んで飛んでいる幼竜、その背中に乗っているリーフが声をかけてくる。
「よくそんな細い板の上に乗れますよね……私、地面に足をつけてないと不安なんですけど」
「リーフお姉さん、状態回復の魔法かけてあげましょうか?」
「いいえ、かけたところでまた気持ち悪くなるので我慢します」
顔を青くしているリーフをノクトが心配している横で、ユフィは幼竜に訊ねる。
「ねぇどうしてついてこようと思ったの?」
『……嫌な臭いがしたから』
「嫌な臭いってなんなの?」
ユフィが幼竜に訊ね返そうとしたその時、空から一筋の光が降り注いだのを見てユフィは慌てた。
「ノクトちゃん、シールド!」
「えっ……あっ、はい!シールド!」
ユフィとノクトがシールドを張ると同時に、空から降り注いでいた光が途切れると木々がなぎ倒されその衝撃がユフィたちのいる空にまで伝わり、シールドを張っているもにも関わらず衝撃によって飛ばされてしまった。しばらく続いた爆風が止むと、木々がなぎ倒され地面に大きなクレーターが出来上がっている。
爆風のせいで風が乱れ体勢を崩しそうになったユフィがボードを操り空中で体勢を立て直している横で、風が乱れているせいでうまく飛べないらしい幼竜が大きな翼を必死になってはためかせていた。
「ユフィ殿!スレイ殿が心配です、先に言ってください!」
「わかったよ!」
ボードの出力を上げて爆発の起こった場所を目指して飛んでいくと、爆発によってえぐられた地表の中心に何かがいることに気がついた。
「スレイくん!」
目を凝らしてそこを見ると全身に傷を負い、片腕を失ったスレイが豹の顔をした化け物に首を捕まれていた。