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再会

 伝説の聖竜 ヴァルミリアとその娘の幼竜により、黒い剣の中に根付いていた伝説の暗黒竜 ウェルナーシュの意識を抜き取られたその日、スレイたちはヴァルミリアから聞かされた話を思い返していた。

 勇者レオンと魔王リュークは、神と戦いそして敗北した。

物語の中では語られることのなかった真実なのか、はたまたヴァルミリアの語った虚実か、アストライアはヴァルミリアの語ったことについては何も言わず、そしてヴァルミリアの元に行ってしまった。

 真実は闇の中、知る者はすでに住みかへと飛び立ち真偽のほどは確かめようはなかった。


⚔⚔⚔


 そんな対談から数日、朝食の席にてスレイは難しい顔をしながら朝食を食べていた。

その理由はスレイの両側に腰を据えて朝食を食べている、白髪と銀髪の幼女二人のせいだった。


「おにいちゃんはわたしの、だからごはんおかわり」

「ちがうもん!リーシャのおにーちゃんだもん!」


 そう、スレイの右側には妹のリーシャが左側には聖竜 ヴァルミリアの娘でる幼竜がそれぞれ陣取っていた。

 幼竜が現れたのはヴァルミリアと共に住みかへと帰ってった次の日、スレイが約束通りリーフとデートしていた時に現れ、子連れデートとなってしまった。

 それから二日続けて幼竜に付きまとわれ、警戒してゲートで場所まで変えていたのにも関わらず着いてきて、それから約数日ほどこの宿にいつき毎日と言っていいほどリーシャとどっちが真の妹かを争っている。


「もう、なんでも良いから静かにしてくれぇ~」


 どうでもよくはないが、連日連夜付きまとわれているあげく、百歩譲って夜に一緒に寝る所までは許すとしても風呂やトイレにまで着いてこようとするのは止めて欲しい。


「お兄ちゃん、モテてるね」

「あぁそうだねーうれしいねー」


 キリキリとベーコンを切りながらミーニャが苦笑いでスレイにそう声をかけると、死んだような眼でパンを食べながらスレイが抑揚のない声でそう答えると、ジュリアがパンケーキを切り分けながら話しかける。


「ずいぶんと疲れきってるわね。よかったじゃない、かわいい女の子に囲まれて嬉しくないの」

「あのねぇ母さん、そんな小さい娘に手を出してたら事案にもほどがあるっての」

「事案って、そう言うわりにはお前その娘とキスしてたよな。そこんところユフィちゃんたちはどう思ってんだい?」

「おじさん、それはちゃんと治療だって説明されましたし、ちゃんとその後私たちもしましたから」

「ユフィ殿、詳しく言う必要ないじゃないですか」

「そうですよ、はずかしいですから言わないでください」


 恥ずかしげもなくそんなことを言うユフィに、少しだけ顔を赤くしながら反論しているリーフと、顔を盛大に赤くしているノクトだった。

なんとも初々しいその反応を見ながらフリードとジュリアが口許をニヤニヤさせながらスレイを見ていた。


「母さんはいいとして、父さんのその顔はウザい」

「親ってのはちょっとウザいくらいがちょうどいいんだぜ?」

「へぇーそうなんだぁー」


 なんだかムカッとしたのでスレイは空間収納から魔道銃を抜いて構える。

 ゴム弾を装填し試作のサイレンサーを取り付けておいた魔道銃でフリードの額を狙い発砲したが、さすがはSランク冒険者。闘気で強化されたフォークで器用に弾丸を受け止めていた。


「フッ。オレを倒したいんだったらもっと速くしないとな」

「ちっ、なら後で改造してやる」


 おちょくるような動きで神経を逆撫でするフリードが、絶対に防げないようにしようと意気込ながらやはりウザかったのでもう一発御見舞することにした。

照準を合わせトリガーを引こうとしたその時、ヒョイとスレイの背後から伸びた手に魔道銃を奪われてしまった。


「えっ、あっ、先生」

「こらスレイ、食事中になにをやっているのですか」

「すみません」


クレイアルラに怒られては仕方がないとスレイは素直に謝った。


「それとフリード、あなたもいい大人が子供相手にはしたない」

「悪いルラ」

「反省したならそれでいいですが、スレイは罰として食事が終わるまでは魔道銃は没収します」


 二人が十二分に反省していることがわかったクレイアルラはそれ以上何も言わないかわりに、没収した魔道銃を自分の空間収納の中にしまった。

 先生に怒られてしまい少し気分が沈んだスレイは、両隣で言い争いを繰り広げているリーシャと幼竜を見ながら大きなため息を吐いていた。


 朝食を終えたスレイは久しぶりに一人ですごしていた。


「ふはぁ〜っ、久しぶりに一人だな」


 宿の裏手にある庭に生えている木の下に腰を下ろし、のんびりと空を見上げていたスレイは大きなあくびをしながら、数日前のヴァルミリアとの会話を思い出していた。


「暗黒竜ウィルナーシュか」


 勇者の伝説では魔王によって心を支配された邪悪な竜として知られるそれは、勇者レオンと聖竜ヴァルミリアとの戦いに破れ世界の狭間、幻獣の住まう世界の裏側へ封じられたとあった。


「この剣の素材がそんな大層な竜の物だったとは」


 側に立て掛けておいた黒い剣を握り鞘から半身だけその刃を抜き、ふとそんな言葉を口にした。

 剣をもらったときに聞いたあの話、なにかの冗談だと思っていた。

 竜の素材はこの世界にあるどんな魔物の素材よりも高価、それも伝説の暗黒竜の素材など正しく国宝級の素材だろう。

 いったいどうやって手に入れたのか剣を打ったという職人に聞けば確かだろうが、今更聞く気も起きないのが本音だったがそれでも疑問はあった。


「なんで、こいつはボクを選んだんだ?」


 魔物の素材で打たれた武器は数あれど、竜の素材を使った武器は少ない。

 その理由は元となった竜が使用者を選ぶからだ。

 もちろん竜だけでなく強大な力を持った魔物の素材から作られた武具は、まるで意思を持っているかのように担い手を選ぶ。この黒い剣がいい例だろう。

 スレイが使うとよく手に馴染むいい剣だが、リーフが持っても重さに足を取られて満足に振るえず、ユフィでギリギリ持ち上げることができ、ノクトに至っては持ち上げることもできない。

 しかしなぜ伝説の竜は自分を選んだのか、それ疑問だった。

 答えと求めるようにジッとその黒い刀身を見ていると、急に黒い影が差し込んだのを見て剣から視線を外し顔をあげると、ノクトがこちらを見下ろしていた。


「いったい何してるんですかお兄さん?」

「ん?この剣を見てたんだ。座る?」

「はい。お言葉に甘えまして」


 そう言って半身を抜いていた黒い剣を鞘に納めると横に置くと、ノクトがスレイの横に腰を下ろした。


「お兄さん、今日はリーシャちゃんとあの娘は居ないんですね」

「あの娘にせがまれて徹夜で作ったドラゴン型のゴーレムを渡したら、リーシャと一緒にどっか行った」

「どっか行ったって……そう言えばリーシャちゃんが、ミーニャちゃんを呼びに来てました」

「じゃあ今日はミーニャを生贄にしよう、お願いだミーニャ、一日だけでもお兄ちゃんを救ってくれ」


 なんとも情けないことだが、兄にも休息は必要なのだと祈るようにそうしていると、ノクトから意外な言葉が飛んできた。


「お兄さん、あの娘がここに来てからずっと付きっきりでしたからね。少しは休まないと」

「そうしたいのは山々なんだけどさ、前の戦いで破れたコートの修繕や壊れた黒騎士の修理を今のうちにやっておかないと、そろそろ出発の準備もしたいしね」


 この中央大陸には元々そこまで長い滞在をする予定では無かった。

 理由は同じ場所にいつまでも居着けばそれだけ使徒がやってくる可能性があるからだ。

 いくら最強の冒険者が三人も滞在しているこの場所でも、復興を終えたばかりのこの場所で再び戦いを起こす訳にはいかない。


「いくらお義父さま方がいらっしゃるとはいえ、戦いに巻き込むわけにはいけませんものね」

「復興途中で、防衛的にも今が一番脆いからね」


 ちゃんと街としての機能を取り戻すのには時間がかかる。

 少しでも速くこの街を立ち去りたい気持ちがあるものも、出れぬ理由もあった。

 前の戦いで破れたコートの修繕に黒騎士の修理改修、魔道具や生体ゴーレムたちのメンテナンスもしなければならない。

 他にも前にデートした時に新調したリーフの鎧の受け取りもあり、どう計算しても後数日はこの街に留まらなければならない。

 指折りでやらなければならないことを数えていたスレイにノクトが問いかける。


「あのそれってわざわざお兄さんがやる必要はないですよね」

「えっ……あぁ、確かにアラクネを使えばコートの修理も黒騎士の調整も簡単に終わるんだけどさ」

「どうしてアラクネを使わないんですか?」

「うちの母さんがアラクネがキライなんだよ。それで、大量のアラクネが黒騎士の周りに集ってたらお腹の子供に胎教が悪いしね」


 それなら仕方がないとノクトが小さく頷く。

 ちなみにその顔はちょっとだけ青白かったので、少し想像しちゃったらしい。


「まぁ、ぶっちゃけると黒騎士の調整は今じゃなくてもいいんだけど、コートだけでも速く直さないと」


スレイのコートは防寒着ではなく防具だ、冒険に行くなら早く直さないとならない。


「お兄さんもリーフお姉さんと同じように鎧を着ればいいんじゃないですか?」

「着たことあるけど鎧って動きづらいの、重いし暑いし。フルフェイスの兜なんか視界が制限されるんだよ」


 話しながら空間収納を開いたスレイは、いつか黒騎士のデザインのモチーフに買った全身鎧の頭部を取り出し、クルクルっと指で回していた。


「着けてみる?」

「………辞めておきます」


 ノクトに断られたので空間収納に投げたスレイは、問題のコートを取り出して見せる。


「このコート、死霊山の魔物の革を加工した布だから普通のよりも頑丈なんだけどね」

「ボロボロですよね」

「使徒にクロガネ、連戦続きだったから」


 直せばまだ問題なく使い続けられるが、いっそのこと新しいのを作るのも良いかもしれない。


「ふむ。作るならデザインも変えたほうが」

「それはおいおい考えましょうよ。せっかくのんびりしてるんですから」

「うぅ~ん。そうだね」


 考えるのをやめてコートを投げたスレイは、ゆったりと空を眺めている。


「あっ、二人共こんなところにいたんだ」

「宿にいないから探したんですよ」


 二人が声の聞こえた方に視線を向けるとユフィとリーフが立っていた。


「何かあった?」

「いいやぁ~。どこいったのかなぁ~って。あっ、お隣お邪魔しまぁ~す」

「ずるいですよユフィ殿。私はどこに座れば良いんですか?」


 しれっとスレイの右側を独占したユフィ、残されたリーフが抗議の声を上げるとニヤリと口元を釣り上げる。


「にゅふふふっ、ご安心めされよリーフさん!このユフィさんに死角はないのです!」

「あっ、ユフィの変なスイッチ入った」

「さぁさぁそれじゃあノクトちゃん、ちょっと立ってこっち座って。それでリーフさんがこっちで私がこっち!これでどうだッ!」


 ババンッと、完成した構図としてまずは真ん中にスレイが座り、その膝の上にノクトが、左右はリーフとユフィが固める。


「これ、ボクも恥ずかしいな」

「いいのいいの。それよりスレイくん。固くしちゃダメだよ?」

「怒るよユフィ?」


 結局のんびりすることはできず、しばらくこの体制で話していたスレイたちだった。

 初めは他愛のない話をしていたのだがいつの間にかユフィとノクトでスレイを膝枕する話になり、そこにリーフも参加し旅の間に何度も遊んだリバシーで対戦が始まった。

 三人の中で順に戦い最後に勝ち残ったユフィとノクトの一騎討──リーフは先にユフィとノクトに二敗して早々にリタイア、最終的にはノクトが何とか勝ったためスレイがノクトの膝の上で寝ている。


「足しびれたら言ってよ。すぐに起き上がるから」

「大丈夫ですよ。それにしても、お兄さんの髪の毛って以外に柔らかいんですね」

「………あのさぁ、言われると恥ずかしいこと言わないでくれないかな?」

「はぁ~い」


 ご機嫌そうな返事をするノクトを見上げてからスレイは横に視線を向けてみると、ユフィとリーフがなんとも悔しそうな顔をしながらこちらを見ている。

 あの視線は次は私が、とでもいいたいのだろう、その事を視線から察したスレイと同じように二人の視線を感じていたノクトも笑顔で、受けてたちますよ!っと言いたげに二人に微笑みかけた。

 こんなところでガチバトルを初めてもらいたくはないスレイは、早々に離れることにした方がいいかもしれないと思ったが、もう少しこのままノクトのほどよい柔らかさの太ももの感触を堪能してからでもいいかもしれない、そう考えてしまったのだった。


⚔⚔⚔


 結局、あれかすぐにスレイはその場を離れた。

 身体は十二分に休めたので今のうちにやっておかなければならないことを進めるためだ。

 全員分の装備の修繕を最低限終わらせるべく部屋にこもったスレイは、昼食を喚びに来たクレイアルラの声を聞きキリのいいところで食堂に向かった。

 食堂にやって来たスレイは、テーブルに着いているユフィたちの顔を見てからあることに気がついた。


「あれ、ミーニャたちはまだ帰ってきてないの?」


 席に着いているなかに遊びに行ったミーニャとリーシャ、そして幼竜の姿はなかった。それをフリードたちの方に訊ねる。


「そうみたいだな、スレイお前の魔道具でリーシャたちの居場所はわかんねぇのか?」

「前にリーシャに渡していたバッチは回収してるから無理。ってか、それならミーニャに"コール"すればいいじゃん、どこにいるかさえ分かればボクが迎えに行くし」

「そう、ならお願いするわね──コール」


 ジュリアがコールを唱えるとしばらくジュリアがミーニャと話して、時おりミーニャの話しに驚きの声をあげながら、短い話を終えコールを解いたジュリアがスレイの方に向き直った。


「どこにいるって?」

「それが、どうやらあの子達、空の上にいるみたいなのよ」


 空の上と聞いてユフィがクレイアルラの方に向き直った。


「空って、先生もうリーシャちゃんにフライを教えたんですか」

「いいえ。ミーニャには教えていますがリーシャは魔法自体まだです」

「じゃあどうやって空の上なんかに行ってるんだろ?」


 ユフィが腕を組ながら考え込んでいると、隣に座っていたノクトがユフィの裾を引っ張った。


「お姉さん、もしかして忘れちゃったんですか?」

「えっ、なにを?」

「あの女の子のことですよ。聖竜さまの子供なんですから元の姿に戻ってその背に乗ってるってことです」

「「「「あぁ~!なるほど」」」」


 ノクトのその言葉に全員が納得した。

 ずっと人の姿で行動を共にしてきたせいで、本体が巨大な竜で人間でないことをすっかりと忘れてしまっていた。


「ノクト殿、よく覚えていましたね。私もすっかり忘れていました」

「えっと、わたしも忘れそうになるんですけど、毎回すごい量のごはんを食べてるのを見てやっぱり人とは違うんだなって、ずっと思ってたので」

「うぅ~ん、まぁ確かに見慣れちゃったからもう驚かないけど、今もテーブルの上の料理の量すごいもんね」


 そう話しているユフィたちの目の前には大量の料理の皿が置かれており、確実に今いる人数の四倍はあるだろう。それをたった一人の幼女が平然と平らげるのだ。

 始めはあの小さな身体のどこにあれだけの食料が消えるのかと驚いたものだが、今では気にすることすらないのだ。


「たっ、確かにすごい量よねこれは」

「食事代だけでもいくらになるのか、考えるだけでも恐ろしいですね」


 恐ろしいものを見るような目をしているジュリアとクレイアルラだが、実際にあの幼竜が食べている料理の食材はすべて街の人々からの差し入れだ。

 なんでも守り神である聖竜 ヴァルミリアのご息女に美味しいものを食べさせてあげたい。

 それどころか領主代行であるフリードに向かって、盛大な祭りを開こう!なんてことをいいだした。街の復興で領地の資金が乏しい時期にそんな物できるか!っと一括……なんで言えるわけもなくやんわりと断りをいれた。

 ちなみに溜まりに溜まった鬱憤が爆発した日は、スレイ相手に愚痴を肴に朝まで呑み明かされることとなった。


「それにしても、ヴァルミリア殿はご息女が何日も一人?で外泊をして平気なのでしょうか?」

「竜だから、そこら辺の時間の感覚が人間とは違うのかもしれないね」


 ちなみにエルフやドワーフなどの長命種もかなり時間の感覚がかなりずれている。

以前長命種であるクレイアルラから聞いた話だが、エルフの中には家族を残して平然と数年、あるいは数十年帰ってこないこともざらにあるらしい。

 そんな話はさておき、空間収納から銃のホルスターとコートを取出したスレイは早速ジュリアから聞いた場所に向かうことにした。


「それじゃあ、ちょっと呼びに行ってくるから」


 一声かけてから宿屋を出たスレイはフライを使い空へと飛び立った。


⚔⚔⚔


 空を飛びながらスレイは同時にコールを使いミーニャと連絡を取りながら、三人のいる場所に向かって飛び続けること数十分ほどzようやく巨大な竜の姿を見つけた。


「おぉーい!」


 まだ少し離れているが聞こえるかと大きな声で呼んでみると、竜の背中に乗っている二人が顔を出した。


「おにーちゃんだぁ~!」

「こっちだよ!」

「やっと見つけた、随分と遠くまできたんだな」


 二人の正面で止まったスレイは改めてじっくりと幼竜の本来の姿を見た。


「改めて見ると大きいな。この大きさで子供なんだから、ヴァルミリアさまはいったいどれだけ大きいんだ?」

『おかあさんは、すきな大きさになれるからわたしにもわからない』

「その姿でも話せるんだな」

『うん、はなせる』


 人の姿になれるのだからあたりまえかと思いながらも、竜が話せるとは知らなかったのでこれにはさすがに驚いたスレイだったが、それを聞いてある疑問が頭の中でよぎった。


「竜は全部、君みたいに話すことができるのかい?」

『それはない、少なくとも千ねん生きてないと話せないっておかあさん言ってた』

「それじゃあ君はなんで話せるんだ?」

『わたしは混ざってるからっておかあさんが言ってた』


 これは聞いちゃいけない話かもしれない、そう察したスレイはあえて話を反らすことにした。


「そうだ、早く帰らないとご飯なくなっちゃうよ」

「ごはんっ!はやくかえろーよ!」

「リーシャ、暴れちゃダメだからね」

『ん、はやくかえる』


 幼竜がご飯と聞いて目の色を返ると身を反転させて街の方へと向かう。それを見ながらスレイも後を追うべく飛び立とうとしたその時、全身の血が凍りつく感覚に襲われた。


「───ッ!?」


バッと殺気に反応したスレイが後ろをふり向くが、そこには誰もいないが気配は感じる。

 かなり遠い距離から発せられている気配だが今更間違えるはずがない。この冷酷まで冷たく、冷酷な気配は間違いなく使徒の物だ。


「お兄ちゃん?」

「悪いちょっと用事ができた。先に帰ってて」

「えぇー!?おにーちゃんどこかいっちゃうのぉ~!?」

「ごめんな。すぐ帰るから。ミーニャ、リーシャのこと頼んだよ」

「えっあっ……うん」


 スレイの表情から何かを察したらしいミーニャは、ぶぅ~っと膨れているリーシャを宥めている。二人の姿を見たスレイは今度は幼竜の方に近づき、彼女に聞こえる声の大きさでそっと話した。


「全力で飛んで街に戻ってくれ」

『どうして?』

「ごめん、それは言えない……二人を頼む」

『わかった』


 幼竜の側から飛び去り姿が見えなくなったのを確認したスレイは、空間収納から黒い剣を抜き放ち気配のした方へと振り向いた。


「行くか」


 スレイが向かったのはちょうど街から少し離れた森の上空、そこには今までに何度も戦ってきた仮面の少年クロガネと、その隣には真っ白な翼をはやした人間に似た化け物の姿がそこにあった。


「クロガネ……それに、使徒!」


 悪魔のようなその姿をした化け物がスレイを一瞥し、そして今度はクロガネを見ながら鼻をならした。


「クロガネ、お前の女の目は正しいみたいだぞ」

「そうでしたか、ありがとうございます使徒さま」

「いやなに、俺も久しぶりに面白いものが見れて楽しかったさ」

「なんの話をしている!」


 魔道銃の照準を使徒へと合わせたスレイは威嚇するように向けていると、その射線上にクロガネが入る。


「どけよクロガネ」

「………………………………」

「お前ごと射つぞ!」

「………………………………」


 殺気を放ちながらクロガネを威嚇するスレイ、だがクロガネは何も言おうとはしない。元々仮面を付けているせいで表情は読み取れないが、いつものクロガネから感じる闘思と言うものがまったく感じられない。

 どこかおかしい、そうスレイが感じていると


「バトル・スター・オンライン、ギルド 暁の旅団」

「───ッ!?お前、何でその名前を」


 その名前は、スレイが地球にいた頃にやっていたゲームの名前で、その中でスレイとユフィ、そしてもう一人の友人ユキヤとの三人で作ってたギルドの名前だ。

 それをなぜクロガネが知っているのか、答えは一つしかない、その考えに至ったスレイの顔を見てクロガネが自分の顔を覆っていた仮面を外した。

 始めてみるクロガネの素顔はやはり日本人に似た顔立ちで、その顔はとても悲しそうだった。


「お互いにこうして素顔で話し合うのは初めてだなスレイ………いいや、()()


 クロガネがスレイの地球の頃の名前を呼んだ。つまりはそういうことだ。


「そうだな、クロガネ……いいや、()()()


 もう一度会いたい、だけど二度と会うことのできない親友との再会、それはもっとも望まない形での再会であった。

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