結末はあっけなく
この話しでこの章は終わりになります。
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事件の結末を簡単に説明することにしよう。
フリードによって捕らえられたグレイとテレジアは、王都から呼び出された王国騎士団によって捕らえられその日の内に裁判が行われた。
結果から言ってグレイ・アルファスタは処刑が決定した。
理由は明確、現当主であるバン・アルファスタに成り代わり領地を自身の物にし、多くの私兵と禁呪による武装強化による謀反の疑い。極めつけけは多くの人民を虐殺した罪だ。
そしてもう一人の罪人であるテレジアの判決についてだが、裁判前の検査の際に有ることが判明した。
それはテレジアのお腹の中にグレイの子供がいたのだ。
裁判でテレジアの協力はグレイの脅迫によるものであったと判断された。
しかしのテレジアは禁術である死霊術を使用した罪も有り、本来ならば死刑となるところをお腹にいる子供のためにと刑は減刑されることとなった。
命をとられない代わりに二度と魔法が使えないようにギアスをかけられたのち、国外追放を言い渡された。
今回事件を起こしたアルファスタ家の処遇については、当初予期していた処遇よりも圧倒的に軽い刑で済んだ。
現当主であるバン・アルファスタは、当然のことながら当主の座から下ろされ新しい当主がつくことになった。
これに対してバンは抗議の声を上げたが今回の騒動の大本であるグレイ、そしてフリードが幼き頃に受けてきたバンによる虐待の証言を受け、本来ならば思い刑罰を受けるはずだったところをこれで済まされたことを知り、悔しながらも食い下がった。
そしてもう一つ下された罰は、アルファスタ家の爵位を降爵され、アルファスタ男爵家となった。
さてアルファスタ男爵家となったあの家の当主が誰になったのか、その答えは意外なことにフリードが継いだ。
絶縁し本来なら継ぐことのできないフリードだが、あんな事が起きた土地を引き受ける貴族もおらず遠縁の親戚に投げようとしたらしいのだが、最終的には国王陛下から直々に命じられたため泣く泣く引き継ぐことになったそうだ。
事件の結末は概ねこんなところ、争いも終わり約一名は絶望に叩きのめされながらも全員無事の大団円……になるはずだったのだが、なぜか事件を解決に導いたはずの立役者が暗い鉄格子の折の中に押し込められていた。
「それで、ボクはいったいいつまで牢屋の中で過ごさないといけないのか教えてくれませんかね?あと拘束具もいい加減外してくださいよ」
牢屋の中にいる白髪の少年スレイの目の前には、なんとも頑丈そうな鉄格子があった。
服装こそはいつもの黒いシャツとズボンだがその両腕には無数の手枷はめられ、手首には逃げ出さないように鎖が繋がれ、足には鉄球が繋がった鎖がかけられている。
まるっきり囚人の装いのスレイの目の前には頭を痛そうに顔をしかめる青年がいた。
「それはスレイくん、君があの街で大量破壊を行ったことについての調書に纏めないといけないから、私のいる部署にまで来てもらったら騎士団の人間と喧嘩して、ここに収容されてるって理解してるのかな?」
「細かい説明ありがとうございます、ハリーさん」
拘束されて椅子に座らされているスレイと向かい合うように、鉄格子の向こう側で椅子に腰かけて座っているのはリーフの義理の兄であるハリー・ブラッドベリーだった。
一応は城の牢屋に収監されているスレイの話相手件、監視役件、報告役になっているハリーはここ数日のスレイの行いに物凄く頭を痛めていた。
「だいたい君、結構自由にこの城の中を歩き回っているよね!?しかも魔法を使えないように魔力封じの魔道具で拘束してたのにも関わらず取り外すわ!うちのお抱え魔道具技師にアドバイスするわ!しれ~ッと騎士団の訓練に紛れて騎士を鍛えるわ!さも私のいる査察部にやって来ては自然と話しかけてくるわ!極めつけはなんで我が国でも頭を痛めてる王子二人をあんなにも変えられるの!?」
だいぶんストレスが溜まっていたのか、ここ数日でスレイがやらかしたことをすべて言い切った。
それにしてもあんなに長い言葉を息継ぎなしてよく言えたものだとスレイが感心していると、やはり苦しかったのかゼェゼェッと荒い息をしていた。
ちなみにハリーの言っていることはすべて事実なのだが、捕まった経緯は相手側にあり全面的にスレイは無実だ。
ことの始まりは四日前、聴取のために来たのにおかしな言い掛かりをする騎士に絡まれて返り討ちにしたら、何やらゾロゾロと集まってきたので全員のしたところ捕まった。
それで拘束され魔力封じの魔道具をつけれたのだが、前に死霊山での修行に際にクレイアルラから付けられた腕輪と比べ、かなり非効率な魔道具だったので一度壊して手直しをしていたのを見つかり、駆けつけたハリーに騎士をのした件と併せて怒られた。
次の日には城のお抱え魔道具技師を名乗るおじいさんが訪ねてきて、作り直した魔力封じの魔道具の仕組みを根掘り葉掘り聞き出され、ここではなんだからと檻から出されて自身の研究室に招き入れらた。
しかし二人で魔道具の談義に花を咲かせていた頃、牢屋にやってきたハリーに居ないことがバレ脱獄だと騒がれたあと研究室から見つかりまたしても怒られた。
さらに次の日には捕まる切っ掛けになった騎士の隊長という人が部下をつれて謝りに来た。
なんでも貴族出身の騎士だったらしく、訓練で溜まったストレスの解消先を探してたところ、汚い格好をした平民がいるから全員で痛めつけようとして逆に返り討ちにあったそうだ。
隊長さんの話ではその騎士たちは反省のためにと頭を丸められ、今では厳しい山籠りをして鍛え直しているそうだ。
謝られたあと隊長さんに誘われて一緒に訓練に参加して、牢屋に帰る前に隊長さんとハリーのいる場所に話に行って怒られた。
ちなみに二人の王子はどうしてかと言うと、なんとなく隊長さんに師匠直伝の性格修正術を話したところ、その話がこの国の国王陛下へと飛んでゆき、王子二人の性格を治してほしいと泣きつかれたのだ。
詳しい説明は省くが国王陛下に頼まれ師匠直伝の性格修正術を使った結果、あら不思議。たった一日で誠実で真面目な青年へと豹変してしまったのだ。
その代わりにスレイが約一メートル圏内に近づいた瞬間、立ったまま気絶してしまうようになった。
つまり、大体はスレイの元を訪ねてきた人たちが許可を取らずに連れ出したのが原因だ。
そう訴えては見たが怒り狂ったハリーには効かずに全くの無駄に終わった。
その日の内に魔道具技師のおじいさん新作の重力魔法付与付の拘束具を付けられ、体重の十倍の体重になっているのだが普段からさらに十五倍の重力で鍛えているので何の問題もなかった。
そろそろこんな場所で過ごすのも飽きてきたスレイは、再度訪ねた。
「それで、ボクはいつまでここにいなくちゃいけないのか教えてもらっていいですか?」
「はぁ……もう出ていいよ」
「あれ、随分とあっさりしてますね」
「元を正せばこちらが原因だ。それにちゃんと聞きたいことも聞けたからね。外にリーフくんたちも来てるから行ってあげて」
「はい。それじゃあ外に出させていただきますね」
そういって立ち上がると同時に両手に付けられた拘束具が外れ、ついでに足に付けられた足の拘束具も取れた。
懐から鍵を取り出そうとしていたハリーは、すべてを諦めたような仏の顔で牢屋の扉を開けるのだった。
ちなみにこれはあとから聞いた話なのだが、この時のハリーはもう少し入れておいても良かったかっと本気で思ったそうだ。
⚔⚔⚔
ハリーに案内されれユフィたちの待っている部屋に入る。
「あっ、スレイくん。お勤めご苦労様でした~」
「お勤め言うな。全面的に無罪放免なんだから」
そんな会話をしながらこうして数日ぶりに会えたユフィ、ノクト、リーフの三人の顔を見ながら微笑んでいる。
「それで、父さんたちはどう?」
「元気にしてるよ~、おじさんは当主のお仕事が忙しそうで大変そうだよ~」
「お義母様が隣で見守っているんですよ。逃げ出さないようにですけど」
「おいおい、だれか母さんを安静にさしてあげなよ」
「そうは言いますが、ルラ殿から安定期に入り少しは身体を動かすよう言われていましたので、大丈夫だとおもいますよ」
クレイアルラがそういったのなら大丈夫なのだろうと納得したスレイは、取り敢えず帰ろうかと思ったその時ガチャリと扉を開ける音がした。
部屋を出ていたハリーが数人の兵士を引き連れてやって来たのを見て、ユフィたちがまた何かやったの?とでも言いたげな視線をスレイに向けているが、そんなことないでしょ?と視線を返している。
「すまないがスレイくん、預かっていたコートと武器を持ってきたから確認してもらっても良いかな?」
「あっ、そういえば忘れてました」
自分のものなのに忘れるなとハリーに注意されたスレイは、騎士たちが持ってきた武器やコートを並べ終わるのを待っていると、何やらユフィたちから安堵の声が聞こえてきた。
「よかった~、スレイくんがまた何かしたんじゃないかって心配したよ~」
「よかったです。お兄さんがここに来る途中にまた喧嘩したかと心配してました」
「安心しました。スレイ殿がまた何かに巻き込まれたのかと思い」
三人がそれぞれの言葉で安心した旨を伝えると、スレイはこめかみをピクピクと痙攣させながらひきつった笑みを浮かべる。
「君たちさぁ、マジで一回ボクの評価を聞いてみたいんだけど良いでしょうかね?」
少しキレぎみにそう言うと、兵士たちがスレイから押収していた物を並べ終わると退出していく。
その際に、若干名が産まれたての子鹿が如くプルプルと膝を震わせていたのを見て、なんともいたたまれない気持ちになった。
「預かったものはこれで全てだが、確認してくれるかな?」
「はい」
改めて預けていた物を一瞥したスレイは、少し多いなと思った。
魔道銃が七挺と、ソードシェルが三十本、魔力刀・壱式が三本、魔力刀・弐式が一本と黒騎士が一体、そして黒い剣が一本だ。
コートに関してはスカルドラゴンとの戦いで破れて補修できない状態だったのでひどい状態だった。
この数を確認と言っても時間がかかるので、黒い剣と魔力刀、それに魔道銃のみ簡単に確認し、残り空間収納に押し込んだ。
「メインは問題なさそうです」
「後で何か不足した物があったら、私に伝えてくれれば良いから」
「わかりました」
「じゃあ最後にそれシャノンさんから君に渡すようにと預かっていた物だよ」
ハリーはスレイに一枚のカードを手渡す。
それを受け取ったスレイは、一体なんなのかと思い確認してみるとどうやら新しいギルドカードのようだ。
「これはギルドカード?それも未登録のなんで?」
自分のカードはしっかり持っているのになんで今さら真新しいカードを?そう思っているとハリーが説明してくれた。
「なんでもシャノンさん曰く、今回は迷惑をかけたから、うえに掛け合って全員のランクアップを試験免除でおこなってくれたそうだよ。ただ君はさっきまで牢屋の中だったからカードの更新ができなかったから、新しいカードを渡したそうだよ」
「新しいカードって、どうすれば?」
「何でも前のカードと重ねると自動で新しいカードに更新されるそうだよ」
「へぇ~便利だな」
説明を聞いても前のカードを取り出したスレイは、言われたとおりにカードを重ねたところ前のカードから文字が浮かび上がり、新しいカードに吸い込まれていった。
「おぉ!すご」
前のカードは色が抜けだ他の板になってしまった。
今回のランクアップでスレイとユフィは同じBランクに、ノクトはDランクになった。
リーフはここに来た時にはまだギルドで冒険者登録をしていなかったが、どうやらスレイが捕まっている間に登録してちゃっかりEランクにまで上がっていたらしい。
⚔⚔⚔
城から街の方へと帰ってきたスレイは、屋敷に帰る前に営業を再開した温泉に浸かってから帰っていった。
その道中スレイはこれから向かう場所について聞かされ、驚きの声を上げた。
「えっ、みんながいるのあの屋敷じゃないんだ」
「そりゃそうだよ。前のお屋敷、今じゃきれいな廃墟じゃん」
「もっと言えば大量殺人の現場ですよね。お兄さんのお陰で」
「言わないでくれよノクトぉ~」
言い得て妙だがその通り、更には殺人現場にした張本人がここにいるのだ。
痛いところを付かれたスレイは見るからにダメージを受けながら後退すると、フォローを入れるようにリーフが語りだす。
「仮にそうならずとも壊すつもりだったようですよ。多くの死者を出した屋敷ですから」
「ハリーさんから話は聞いたよ。地下室のこと」
この四日間、牢屋にいたスレイは訪ねてくるハリーから色々な話を聞いていた。
その中で、あの屋敷の地下室には多くの遺体が安置されていたことを聞いた。グレイはどこから攫ったかあるいは買い集めたのか、その全てが奴隷だったという。
今はどうやって奴隷を入手したのか、騎士団と連携して売人の調査を行っていると聞いた。
ここから先は国の仕事、スレイたちには関係ないことだ。
⚔⚔⚔
宿屋についたスレイたちは、帰ってきたことを伝えるためにフリードとジュリアの泊まっている部屋に行く。
ちなみに部屋割りはフリードジュリアで一室、ノクトとミーニャとリーシャの三人で一室、ユフィとリーフで一室、スレイとクレイアルラはそれぞれ一人で一室を使っている。
最後の一人、バンは今この街にいない。
処刑されたグレイを母親のいる場所に連れていくと言っていた。
荷物を置いて部屋着に着替えたスレイが一人でフリードの部屋に行くと、部屋の中からの声が聞こえてきた。
「あのぉ~、ジュリアさん……オレも少しは休憩を」
「この書類が終わったらね」
「そっ、そんなぁ~」
二人のいつもの会話、なんだかようやく事件も終わったんだな、そう思いながらスレイが中に入った。
「父さん。母さんただいま」
「スレイ!やっと帰ったか!」
「フリードさん。書類がまだよ、後ここの計算間違ってるわ」
息子が帰って来たというのに仕事を優先させる母親、まぁ状況的に仕方ないと思い退出しようとしたがそれをフリードが止めた。
「ちょっと待てスレイ。お前に話がある………いいかな、ジュリアさん?」
「良いわよ。ただし終わったらお仕事だからね」
「分かってるよ」
ジュリアが部屋を出ると残されたスレイは備え付けられていたポットの中を見ると、懐かしき緑茶に似たお茶が入っていた。
「父さんも飲む?」
「いらね。オレその茶キライなんだわ」
「ふぅ~ん。あっ、旨い」
ズズズッとお茶を飲みながらフリードの方を見る。
「それで、話って?」
「グレイのこと、お前にだけは話しておこうと思ってな」
フリードの言葉でスレイはカップを置いて話を聞く姿勢を取る。
「処刑される前にあいつと話をしたんだが、あいつがなんでこんなことをしたのか話してくれてさ」
フリードは牢屋でのグレイとの最後の会話を思い出しながら話し始める。
『おいグレイ。お前、別の目的があったんじゃないか?』
『別の目的?さぁね』
『とぼけんなバカ。お前、ちんちくりんには興味ねぇだろ……なんであんな事を言った?』
グレイはフリードのことを睨むような視線を見つめると、観念したように話しだした。
『女性の好みをお前に言われたくない、そもそもなぜ分かる』
『そりゃお前の初恋が、宿屋にいた巨乳の姉ちゃんだって知ってるからな』
『なっ!?兄貴、それ内緒だって──ッ!?』
狼狽えるグレイの口調が崩れるとフリードが小さく笑った。
『やっと、昔のお前に戻ったな』
『あっ……兄貴、なんで僕が嘘をついたと思ったんだよ』
『分かるさ。オレはお前の兄貴だぞ』
フリードの本心に観念したようにグレイはゆっくりと話を始める。
『始まりは、親父が兄貴のことを調べだしたことだ………僕はダメだった、当主の器じゃないんだって』
『……グレイ』
『調査の結果、兄貴に娘がいることを知った親父はなんて言ったと思う?───あの娘たちを上位貴族に差し出せば今よりも上の地位へ行ける。そうすれば我が家は安泰だ、そう言ってたよ』
実父のどす黒い考えを知ったフリードはやるせない怒りに震えながら、ドスの効いた声で呟いた。
『クソだな、あの親父』
『あぁ。親父の計画を知った時点で僕がそれを乗っ取りかねてより計画していたことを併せて実行した』
『待てグレイ。親父の計画を乗っ取った?』
『兄貴に贈られた手紙、あれは親父の計画だよ。逃さないようにってね、それをテレジアに細工してもらい金で雇った裏ギルドに見張らせたんだ』
『あのクソ親父、殺すか?』
今からでも遅くない、グレイの代わりにバンを処刑するように願い出ることも出来るかもしれないと、フリードが言おうとしたがそれを察してかグレイは首を横に振った。
『兄貴がどんなに釈明しても、僕の処刑は変わらない。この計画のために僕がしたことを知っているだろ』
屋敷の使用人だけでなく、無関係なスラムの人間を大勢殺しているグレイは確実に死刑は免れない。それがわかっているからこそ、フリードも何も言えなくなった。
『なぁお前の計画だと、どうなるつもりだったんだ?』
『兄貴達には死んでもらうことにして、家に返すつもりだった。その後は親父のやろうとしたことを王宮にでも通報し、僕は罪を背負って処刑。あとはアルファスタ家が爵位を剥奪されればと思っていたんだが、兄貴には迷惑をかける』
『謝るなバカ……それはオレのセリフだ』
ガンッと掴んだ鉄格子に拳を打ち付けるフリードは、牢屋の奥にいるグレイの姿を見ながら叫ぶ。
『オレが、お前を残してでていったから、お前がこんな計画を立ててまで』
『気にするなよ兄貴。僕たちの人生を歪めた親父を蹴落として、僕はこれでも幸せだったんだぞ。こんな僕を愛してくれたテレジアもいた。最後に可愛い姪っ子の顔を見れた』
ただそれだけで良かったのだとグレイは語った。
これから死を迎えるグレイには愛したテレジアのお腹に自分の子供がいることも知れず、子供を抱くこともできない。
それがグレイの選んだ結果なのだとしても、フリードは一生自分を許すことはできないだろうと、確信を持っていた。
これは一生をかけて償わなければいけない自分の業なのだと、そう決めていた。
「──以上がオレとグレイが交わした会話だ」
話を聞き終えたスレイはぬるくなったお茶を飲み干した。
「結局、グレイさんもジイさんの被害者だったってわけか」
「オレは親父から逃げたとき、有無も言わさずに一緒に逃げればよかったのかって、今になって思うよ」
「今更変わらないよ。それよりもあのジイさんを殺したほうが世のためになるよ」
「安心しろ、あいつが処刑されたあとオレが半殺しにしといた。二十年分の恨みとグレイの思いも込めてな」
フゥッと息を吐いたフリードは、窓の外を見ながら小さく呟いた。
「スレイ。お前はオレとグレイのようにはなるなよ」
「ならないよ。それに、喧嘩別れするような家族じゃないだろボクたち」
「確かにそうだな」
小さく笑みをこぼしたフリードは、最後にありがとうそうスレイに告げるのだった。
フリードとの話を終えたスレイはゆっくり休もうと部屋に向かおうとしたその時だった。
「─────ッ!?」
真上からとても強いプレッシャーを感じ取ったスレイは、即座に空間収納の中から黒い剣と魔道銃を取り部屋を出る。
すると、同じように気配を感じて出てきたユフィたちと鉢合わせた。
「スレイ殿、今の気配はもしかして」
「使徒とはとは違うけど、すごいプレッシャーだ」
これほどまでに強い気配は使徒意外には感じたことがないが、使徒の気配とは全く違った。
使徒が放つ気配はおぞましい者に対して、真上から感じる気配は優しく澄み切った暖かな気配をしていた。
それでもこれほどのプレッシャーを持つ相手を野放しにはできないので、外に出ようとしたその時別の部屋が開く音とともにフリードの声が聞こえてきた。
「行かなくてもいいぞ」
「父さん……何か知ってるの?」
「知ってるもなにもって、そういやあ話してなかったなとりあえず紹介すっから外出ろ。もちろん武器は抜くなよ」
どういうことだろうと思ったスレイたちだったが、取り敢えず平気と言われたので武器をしまい、スレイとリーフは腰に剣を下げたまま外に出ると、さっきまで外は日が指していたはずなのに今では暗い影が射している。
スレイたちがどういうことだと思い上を見上げると、そこには街一つを覆うほど巨大なドラゴンが飛んでいた。
「なっ!?でっか」
「おっ、大きいです!?」
驚きながらその巨体を見上げていたスレイは、なんだか不思議と懐かしいような悲しいような感覚に陥る。
なんだ?そう思っているといつかのように、ドクンっと心臓の鼓動が強くな鳴った。
「グッ……」
「ん?どうしたの?」
「いや、なんでもないよ……」
スレイが空を見上げていると、隣に立ったフリードがみんなに聞こえるような声で話し出す。
「へっ、やっぱ驚くよな」
「お義父さま、あの竜はいったい何ですか?」
「みんな、勇者レオンの伝説は知ってるよな」
「はい。子供の頃に何度も読みました」
「その話の中に白き聖竜 ヴァルミリアって出てくるだろ。それがあいつだよ」
「あれが、聖竜ヴァルミリア」
伝説は幼い子供でも知っている。
かつて勇者と共に戦った伝説のドラゴンなぜここにやって来たのか、その理由を答えるようにフリードが話を始めた。
「この国はその竜が住まう大陸だ。王の代替りや子が産まれたとき、他にも極稀にだが貴族の当主が変わったときにこうして姿を表す事があるんだ」
「えっ、それじゃあここに来た理由はもしかして」
「十中八九、オレが当主に就任したからだろうな……あぁ~一時的だってのにめんどくせぇ」
そうフリードが嘆いていると、上空からまばゆい光が降り注いだ。
「うわっ、なになに!?」
「眩しっ!?」
急な光に驚いたスレイたちが目を覆って目を守っている。
しばらくの間、スレイたちが目を閉じていると、ペチペチッと小さくて柔らかい何かがスレイの顔を触っている感覚があった。
──なっ、なんだいったい?
スレイが恐る恐るといった具合で目を開けると、そこには白に近い銀色の髪に真っ赤な目をした謎の幼女がペチペチその小さな手を使ってスレイに顔を触りまくっていた。
「えっ!?だれ!?」
驚いたスレイが大きな声をあげるとみんながスレイと謎の幼女を見た。
「おにいちゃん、とってもキレイなめだね」
「あっ、ありがとう?」
「でもそれはダメ、その力はダメなの」
「えっ?」
「だから、わたしがもらうね」
どういうこと?スレイが謎の幼女に訊ねようとするよりも先に、幼女の顔がスレイの顔に近づいていき、その小さな唇がスレイの口を塞ぐと、スレイの心臓がドクンッと大きな鼓動をならし右目が焼けるように疼いた。
それを最後にスレイは意識を失った。