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空を飛ぶ物

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 向かい合ったフリードとグレイ、その側に置かれているベッドの上には睡眠薬で眠らされていると分かるリーシャがいた。


「リーシャッ!」

「待ってスレイくん!」


 その姿を見たスレイが焦って駆け出そうとしたが、ユフィがソッと杖をあげて止めるとスレイが睨みつけた。


「落ち着いて、今は冷静になるときだよ」

「……クッ、そうだね。ごめん」


 冷静さを取り戻したスレイはグレイの側に控えているマリウスと視線が合った。

 にこやかに笑うその顔に拳を叩き込みたくなる中、フリードとグレイの兄弟が前に出る。


「てっきりテレジアの召喚獣にやられるとばかり思っていたが、これはいささかあなたたちの力を甘くみすぎていたかもしれないね」

「あんま人のことをなめんじゃねぇっての、お前のその性格昔っから変わらないよなグレイ?」

「それを言うならあなたこそ、その軽い性格はどうにかなら無いのかフリード」


 二人が軽口を言い合いながらにらみあっていると、するりと移動してきたテレジアが豪華な装飾が施された杖を構えてフリードのことを牽制し出した。


「グレイさま、ここは私がお相手いたします。どうか後ろにお下がりください」

「すまないねテレジア、ここは君に任せることにするよ」


 杖を構えたテレジアの後ろに下がったグレイ、その手には鈍い銀のナイフが握られていた。それを見た瞬間、スレイとフリードは全身の血が沸騰するかのような感覚が全身を支配した。

 床を蹴り、一瞬で自分たちとグレイとの距離を積めた二人、スレイはリーシャを助けるため、フリードはグレイが手に握るナイフを打ち払うため、それぞれの役割をこなすために駆け出した。


「リーシャッ!!」

「させるかッ!!」


 二人が一瞬で遠くまで移動した。

 すぐ側にいたのにも関わらずそれに気付けずに、少し遅れて動き出したユフィたちは、それぞれの武器を構えて飛び出した二人を援護しようとした。

 だが次に三人の目に入ったのは、壁を砕きながら現れたなにかによって、スレイとフリードが揃って吹き飛ばされる瞬間であった。

 吹き飛ばされた二人がユフィたちの立っているすぐ後ろの壁に叩きつけられる。


「ごはっ!?」

「ぐはっ!?」


 何かに吹き飛ばされ勢いよく壁に背中を強く叩き付けられた二人は口から血を吐き倒れる。


「えっ」

「そんな」

「うそ!?」


 クレイアルラがスレイたちの方に向けた視線を一瞬だけグレイたちの方に戻すと、すでにそこに姿はない。

 どこに行ったのかとクレイアルラがあたりを探ろうとしたが、すぐに声がかけられた。


「済まないがお暇させてもらうよ」

「待ちなさい───ッ!」


 穴の空いた壁の外より聞こえてくるグレイの声に後を追うべく駆け出しそうになりながらも、既のところで踏みとどまった。

 今はスレイとフリードの容体が心配だったため二人の方に振り返ろうとしたとき、だった。


「ユフィ殿!なにか来ます!そこを動かないで!!」


 振り返り壁に打ち付けられたスレイとフリードを治療しようとしたユフィだったが、リーフの声を聞いてその場に留まるとユフィの目の前をなにかが高速で飛来した。


「───ッ!?」


 もしもリーフ止めなければ今頃ユフィの頭にはあれが突き刺さっていただろう、そう思いながら心の中でリーフに感謝していると、今度はユフィもなにかが飛んでくる気配を感じ杖を構え、再び壁を突き破って飛んできたそれを今度は杖で払い落とした。

 カランッと音を経てて地面に転がったのは先端の尖った骨だった。


「何で骨が?」


 そう呟いたのはクレイアルラだっったが、ユフィたちもにたような疑問を覚えていた。

 いったいどこから、そもそもどうやって打ち出したのか疑問が芽生える中、再び壁を突き破って無数の骨の弾丸が押し寄せてきた。それを見て今度はユフィが杖を構える。


「もうッ!──シールド!」


 ユフィのシールドが骨の弾丸を弾き飛ばしていると、今度は真上からなにかが砕ける音が聞こえ顔をあげると天井に罅が入る。


「今度はなんですかッ!」


 リーフが叫びながら上を見ると天井がひび割れ瓦礫がいたるところに落下する。

 きっと外にいる巨大ななにかがここにいる全員を押し潰すべく、天井を割りにきているのだと察した。

 その際よく目を凝らしてみてみると、崩れた天井の隙間から無数の骨が折り重なった巨大尻尾のようなものが見えた瞬間、瓦礫とかした天井を突き破り尻尾が振り下ろされた。


「これは不味いですね──シールド・リフレクション!」


 瞬時に動いたクレイアルラがシールドとリフレクションを発動させ、折り重なった骨の柱を弾き返した。その際にさらに天井が崩れ無数の瓦礫がユフィたちの上に降り注ごうとしていた。


「私としたことがっ!」


 クレイアルラが悔しそうに顔を歪めながらもう一度魔法を唱えようとした。


「ルラ殿!自分がッ!」


 これでは間に合わないとクレイアルラを払いのけて崩壊する天井の真正面に立ったリーフは、新しい盾を真上に掲げるとグリップに付けられたボタンを押す。

 そると盾を基点に巨大なシールドが発現し瓦礫を受け止めていた。


「こっ、これはさすがに重すぎます……っ」

「リーフ、早く瓦礫を下ろしなさい、そうしなければあなたが潰されます」

「そっ、そうしたいのですが、重すぎて、このままの体勢を……維持しているだけで、限界」


 掲げられている左手にはシールドの上に乗っているすべてに瓦礫の重さがのし掛かっている。

 闘気で身体を強化しているリーフだったが、身体の節々から悲鳴が聞こえてきている。


「速くなんとかしませんと、魔石ももたないですね」


 このままでは限界が来てしまう、シールドの付与されているこの盾に取り付けられている魔石は小型で、貯蔵されている魔力はだいたい一時間で尽きてしまう。

 だがこれは出力を最小にとどめた時の時間でしかなく、最大出力でシールドを展開し続けている今の状態では持っても数分だ。

 リーフがちらりと盾に取り付けられている魔石を見ると、今まで光り輝いていた魔石の光りがだんだんと消えかかってきていた。


「まず……い」

「リーフ、私のシールドでいくらか軽減させます。もう少し頑張りなさい」

「はっ、ハイッ!」


 盾が限界が近いことを察したクレイアルラがシールドを展開した。

 これでリーフの腕にかかっていた重さがいくらか軽くなったが、それでもまだかなりの重さがのし掛かっている。

 ふとリーフがユフィの方を見ると、未だに外から出てくる骨を防いでいた。


 ──こうなったら、さいやく私が下敷きにでもなって


 ついついリーフがそんな言葉を胸の内で告げていると、バサバサッと布がはためくような音がリーフたちの耳に届いた。


「リーフ、ルラ先生、もう少しだけ持ちこたえてて」


 今度は頭上から声が聞こえ名前を呼ばれた二人が顔をあげると、そこには身の丈を越えるほどの巨大な大剣を両手に握ったスレイだった。


「ユフィちゃんも、もう少しだけ持ちこたえてくれよ」


 今度はユフィの前から声が聞こえて来ると、そこにはいつの間にか剣を握ったフリードが現れ飛んでくる無数の骨の弾丸を打ち払っていた。



 二人が目を覚ましたのはほんの少し前だった。

 崩れた天井の瓦礫をリーフとクレイアルラが必死に支え、無数の弾丸のような物をシールドで防いでいるユフィ、そんな彼女たちの姿を見た二人は瞬時に行動を起こした。

 フリードはユフィの手助けをするために、スレイはリーフとクレイアルラを救うために動いた。

 二人は同時に地面を蹴り、シールドの隙間から上に乗ったスレイは空間収納の中から身の丈を越えるほどの大剣を掴むと下にいる二人に声を掛けた。


「リーフ、ルラ先生、もう少しだけ持ちこたえてて」


 そう告げると巨大な大剣の柄を両手で握り、腰を大きく落としながら身体をひねると両手に握る大剣に魔力を流し込むと、大剣の刀身に魔力で造られた刀身が出来上がった。


 この大剣は前にデイテルシアの港の市場で偶然見つけた大剣で、なんでもドラゴンでも一撃で殺せることをコンセプトに打たれたらしいが、あまりにも巨大になりすぎて普通の人間どころか製作者自身も持ち上げられなくなってしまったらしい。

 そのためいつのまにか市場にまで流れていき、最終的には条件付きでかなりの捨て値で売られていた。

 その条件と言うのはこの大剣を振れる者であること、それを聞いたスレイとユフィの元地球組は、いったいどこの魔剣グラムだ!と思わずツッコミを入れかけてしまった。

 それで、そんな重たい大剣を見事持ち上げたスレイは、その大剣を元にして新しい魔力刀にしていた。


「はぁあああああああ―――――――――っ!!」


 大剣型魔力刀を構え刀身の腹の部分を構えスレイは腰を大きく捻り、シールドの上に乗っていた瓦礫を払い除けると、スレイが足場にしていたシールドが消失した。


「おっと」


 どうやらリーフの盾に取り付けられていた魔石の魔力が無くなってしまい、クレイアルラの方は力尽きたリーフの体力を回復させるためにシールドを解いたらしい。

 すでに巨大な瓦礫は撤去しているので問題はない。スレイの方も風の魔力で身体を浮かしながらユフィの方を見ると、どうやらまだあちらの攻撃は続いているらしくフリードが一人で防いでいた。


「ユフィ!父さん!そこどいてっ!!」


 魔力刀に流していた魔力を解くと今度は大剣に暴風の魔力を流し、二人が少しずつ後退していったのを確認し風の斬檄を放った。


「これでどうだッ!!」


 風の斬激は壁を切り裂き外へと向かっていくと急に骨の弾丸は止んだ。

 それを確認したスレイはユフィたちのいる場所に降り立つと大剣を空間収納に仕舞いながらユフィとリーフを見ながら訊ねる。


「二人とも無事か!?」

「疲れちゃったけどまだ行けるよ~」

「自分も、少し休めばどうにか」


 スレイが二人に声を掛けるとユフィがマジックポーションを飲みながら親指を立ててサムズアップで答え、クレイアルラからヒールを受けているリーフは首を縦に振って答えている。


「でも良かった、二人共ありがとう」


 二人が無事だったことにスレイが安心していると、フリードがスレイの名前を呼んだ。


「スレイ、こっち来てみろよ。面白いもんが見れるぜ」

「父さん、なに言ってんだよこんなときに、さっさとリーシャを助けるためにあとを追わないといけない……って、なんなんだよこいつは!?」


 スレイとフリードが並んで外の様子を確認していると、そこには無数の骨によって造られた巨大なドラゴンが三体が飛んでおり、その中の巨大なドラゴンの上にはグレイとテレジア、そしてマリウスとリーシャの四人が乗っている。


「そういやぁ、お前ドラゴンと戦ってみたいって言ってたな。良かったな戦えて」

「良くはないよ。骨じゃん、肉無いじゃん!ってか、おいコラッ!リーシャ返しやがれコラッ!」


 一応叫んでは見たが、向こうには聞こえていないらしく涼しい顔でこちらを見ているだけだった。

 少しだけムカッとさせられたスレイは、ユフィたちの方を確認してみるがどうやらまだ回復しきれていないらしく両手を会わして、ごめんッと言われた気がした。

 ユフィたちの援護は望めないのなら、自分たちでやるしかない。


「父さんって空飛べたっけ?」

「闘気を足場みたいにして使えばな、お前みたいに自由には飛び回れないのが欠点だな」

「なら足場は要らなそうだね」


 スレイは空間収納から出しかけていたソードシェルを仕舞い、飛行魔法のフライを唱え空中に浮かび上がるとそれに続くようにフリードが闘気を足の裏に張り、そのまま空中を歩き始める。


「案の定、追ってきましたわね」

「テレジア、迎撃を頼めるかい?」

「おまかせを───行きなさい!」


 グレイの指示の下テレジアが使役する二匹の骨のドラゴン──勝手に名付けると骨龍(スカルドラゴン)とでも呼称しておく、が、スレイとフリードの方へと向かって飛んできた。

 骨龍が骨でできた爪を振り上げてスレイとフリードを襲うが、空中を動きながら二人は攻撃を交わした。


「さっきは不意打ちを喰らったが、そんだけ遅くちゃ当たらねぇぜ」

「クッ、ならばッ!」


 テレジアが魔力を贈ると骨龍の口が開き魔法陣が展開され膨大な魔力が集まる。


「この子の核は本物の龍よ!消え去りなさい!───ドラゴンブレスッ!」


 フリードが闘気を纏った剣でブレスを斬るべく剣を構えようとしたが、それよりも速く魔法を準備していたスレイが叫んだ。


「父さん下がって」

「ッ!おう!」

「──イルミネイテッド・ヘリオースッ!」


 放たれた光の光線と骨龍のブレスがぶつかり合い激しい衝撃波が辺りの木々を吹き飛ばした。


「嘘でしょ……ドラゴンのブレスを、相殺するなんて」


 驚愕の声を上げるテレジアの先には平然と佇むスレイとフリードがいた。

 平然しているもののスレイは今の一撃で魔力の大半を使い切ってしまった。


「長期戦になるのは不利だね、次で決めよう」

「構わねぇがどうやって倒す。あの骨、けっこう固そうだぞ?」

「あんなの死霊山の魔物よりは弱いでしょ?」


 ここでそれを持ち出すとはいい度胸しているなとフリードが思いながらスレイの肩を叩く。


「そうだな。さっさとあの雑魚片付けてあいつとの喧嘩も終わらせねぇとな」


 黒い剣を構えたスレイと純白の刀身をした剣を構えたフリード。


「なにをペラペラとッ!終わるのはあなた達の方よッ!」


 テレジアが二体の骨龍に魔力を流しスレイとフリードに向けて攻撃を仕掛ける。


「いいや。終わるのはあなた達の方ですよ」


 一瞬だけ二人の身体に闘気の光が灯ると次の瞬間二人はその場から消える。


「そんな、うそ……?」


 唖然とするテレジアの視線の先には自身が最高傑作として創り上げたはずの骨龍たちの最後の姿であった。

 一体は空中で四散すると同時に黒い炎によって灰になり、また一体はなんの前触れもなく空中で粉々に砕け散った。

 砕け散り地面へと落下していった骨龍たちの背後に経ったスレイとフリードは、小さく先程の技の名前を呟いた。


「───業火の(ブレイジング・)連激(ブレイザー)

「───瞬光 散り羽」


 スレイの攻撃は門を破壊した突きの斬激バージョンで、黒い剣で相手を斬ると同時に業火の炎で焼き付け、黒い炎は相手を灰にするまで消えることはない。

 フリードの技はかつてダンジョンでクロガネが見せた絶華と同様の技で、一瞬にして無数の斬激をスカルドラゴンに放ったのだ。だがクロガネと同じ技を使ったフリードが倒れないその理由はただ一つ、フリードが闘気によって完全に肉体の限界を越えた領域に至った、そのためだった。


「やっぱり雑魚か」


 スレイが地に落ちていく骨龍たちの欠片と灰を見ていると、遠くから悲鳴が聞こえてくる。


「嘘よ、嘘よこんなの!私の最高傑作のドラゴンがバラバラにッ!?バッ、バケモノめッ!!」

「主、落ち着きください!」


 錯乱するテレジアをマリウスが落ち着けているのを見ながらスレイは人のことをバケモノと呼ぶテレジアに失礼だな、そう思ったのだがもうそんなことどうでもいい。

 だってもうリーシャは取り返したのだから。


「ぅあがぁあああああああああ―――――――――っ!?」


 突然の叫び声にテレジアが振り向くと、そこには肘から先を失った右腕を押さえてうずくまるグレイがいる。


「グレイさまッ!?マリウスッ!」

「ハッ!」


 即座に動いたマリウスがフリードを斬ろうと動いたが、それよりも速くマリウスの首が宙を舞った。


「悪いがあなたはここで消えてくれ」


 その声が聞こえるとともにマリウスの体は業火の炎によって焼かれ、自らアンデッドとなってまで戦いを望んだマリウスはこうしてこの世から消えるのだった。


「あっ……そん、な……マリウスまでも」


 力なくへたり込むテレジアの首筋にスレイは黒い剣の切っ先を向けた。


「死霊術師のテレジアでしたか、あなた方の負けです。大人しくしていてください」

「ぁ……あぁ……」


 信じられない光景に目の焦点が合わなくなっているテレジア、その耳に背後からポタポタとなにか水滴が滴り落ちる音が聞こ振り替える。

 顔を上げたスレイの目には、眠るリーシャを抱きしめもう片手には血のついた剣を握ったフリードの姿があった。


「フリ、ード……良くもッ!」

「グレイ。悪いがリーシャは返してもらった」

「私を……斬る、のか……?」


 睨むようなグレイの視線を受けたフリードは、血に濡れた剣を鞘に納めるとスレイにリーシャを預けながら話を始める。


「オレはお前を斬る気はない。だけどなグレイ、お前がやったことは許されることじゃない」

「そんなこと、わかっている」

「この、バカ野郎がッ!」


 フリードはとても悲しそうな目でグレイを見ていたのだった。


 こうしてアルファスタ家の戦いは終りを迎えたのだった。

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