屋敷へと突入
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連れ去られたリーシャを助けるべくアルファスタ家の納める領地へと戻ってきたスレイたちは、アンデットを見分けるためにと道に居たすべての人間を麻痺毒で眠らせ、邪魔なアンデットを始末した。
人が静まり返った街を駆け抜けていた。
その途中、スレイたちは屋敷へと向かう道すがら麻痺毒に苦しむ兵士たちの姿を見つけると、ユフィとクレイアルラが駆け寄る。
別に治療するためではない。
ならばなんのために?それはこうするためだ。
「うぅっ──アガッ!?」
「───フゲッ!?」
倒れた兵士たちに駆け寄った二人は、なんの迷いや躊躇することなく兵士たちの顎を蹴り抜き余計な痛みを感じさせることなく気絶させていった。
これには理由があり、もしも殺してしまった場合どこに死霊術師がいるともわからないため、不用意にしたいを出さないための配慮でもあったりする。
ではなぜこの二人が蹴っているかというと、スレイとフリードの場合はリーシャを拐った相手の仲間ということで確実に首と身体がお別れ、もしくはスレイのソードシェルによって剣山のようになってしまうかのどちらかであろう。
次にリーフだが、実は船に乗っている間に剣以外の装備を一新されており──前まで使っていた鎧は退団した時に騎士団に返上している──、今は死霊山産の魔物素材で造られた薄い緑を基調にしたコートに、落ち着いたときに鍛治士に打ってもらうまでの繋ぎでスレイとユフィが錬金術で造った鎧を着ている。
素材はすべてダンジョン産の鉱石で造られている。
そんな物で蹴られた暁には確実に顎の骨が砕かれているだろう。
つまりは適材適所、微妙な手加減が出来るユフィとクレイアルラが蹴っているか杖で叩いているのだがユフィが不満の声が上がってきた。
「うぅ~ん、ちょっと疲れてきたかも」
「なら変わろうか?」
「スレイ殿、ウォーキングデッドが増えるのは困るので自重しましょう、自分もなにもできないのはとても心苦しいんですから」
リーフが走りながら大真面目な顔をしながらスレイを諭しにかかる。
まぁリーフのいう通り、これ以上無駄な死人を出してこれからこの街を奪還したときに兵士がいないと意味がない。
「おいスレイ。なんかいい方法ないのか?」
「そうホイホイそんなもの──あっ、そうだ。前にアラクネにスリープの魔法を付与したから眠らせればいいじゃん」
最近、アラクネに魔法を使えるようにしたり外付け用のカスタムパーツを造ったりと、割と頻繁の思いつきでチューンナップしているせいで今どんな機能がついているのか把握できていない。
ちなみにスレイがアラクネの話をした瞬間、ユフィとクレイアルラが虚ろな目でスレイを睨んだ。
「スレイ、今の話は本当なのですか?」
「ねぇスレイくん、アラクネってスリープの魔法が使えるの?」
「いつ付けたかは覚えてないけど、確実にスリープは使えるはずだよ」
「「…………………………………………………」」
スレイが満面の笑みを浮かべながら頷いていると、ユフィとクレイアルラがお互いの顔を見合いながら、だんだんとその顔から表情が抜けていき、だんだんと怒りのオーラが溢れ出てくるのを感じたスレイは、あれれ?っとひきつった顔をしている。
「あっ、あの……ユフィ?先生?」
「悪いスレイ、先行くわ」
「スレイ殿、どうかご武運を」
「ちょっ、二人共!?」
ちなみに二人の顔から表情が抜けていったのを見て、リーフとフリードささささっと逃げるように走り去って行いく。
小さくなっていく二人の背中を見てスレイが、速ッ!?っと思いながら驚いていると背後から強い殺気を受けて振り替えると、頭に角を生やしたように幻想出来てしまうほどの怒気を纏いながら、両手で杖の柄を握りながら大きく振りかぶったユフィとクレイアルラが同時に吠えた
「「それを先に言いなさいッ!!」」
「うわぁああああっ!?ごめんなさいっ!?」
暫くの間、静寂に包まれた街は振り下ろされる杖の音と吹き荒れる魔法の爆音、そして逃げ惑うスレイの悲鳴で彩られたのであった。
しばらくしてユフィとクレイアルラによる攻撃を受けたスレイは、少しだけボロボロになりながらもなんとか生きていた。
どうにか逃げ切ったものの屋敷の前にたどり着いたと同時に逃げ場をなくし、ユフィに捕まったスレイは正座からの追加で小言を言われることになった。
「ユフィさん、なんだか最近手加減なくなってきてないですかね?」
「もう少しお説教が必要かな~?」
「すみませんでした!」
ユフィの目が深淵を帯びたと同時に深々と土下座を披露したスレイ。
「素直でよろしい。それと私が怒りっぽくなったって思うなら、もう自分の行動を考えることだよ~」
「………はい、わかりました」
全く持って自業自得のため素直に受け止めたスレイは、段々とユフィの尻に敷かれてきてるのではないかと思い、もう少し自重という言葉を覚えようかと思ったのだった。
スレイの説教が終わったのを確認したフリードは、腰から剣を抜き放つと釣られるようにリーフも翡翠を抜き放った。
「そんじゃスレイの説教も終わったことだし、早速屋敷に踏み込むぞ。罠が仕掛けられている可能性もある、全員気を引き締めてけよ!」
フリードが叫ぶとスレイたちがうなずき返した。
「アンデッド以外も警戒する必要があります。ユフィ。探査魔法を」
「了解です!」
可能性は低いが不意討ちで襲われてもすぐに対処出来るようにとユフィとクレイアルラが探知魔法を展開する。
「先頭はオレ。真ん中をユフィちゃんとルラ、一番うしろはリーフちゃんにスレイでいいな」
「ボクは遊撃ってところでいいの?」
「おう。暴れてけ」
「了解。リーフ、先生とユフィのこと任せた」
「承知しましたが、スレイ殿ならば後ろに敵は回さぬでしょうに」
リーフの信頼に答えるようにしっかりとうなずいたスレイだった。
閉ざされた門を前にしたスレイは中にはいるために門を開けようとして伸ばされたが、指が触れようとした瞬間あることに気がつき伸ばした手を引き戻した。
「スレイ殿どうかしたのですか?」
「いやこの柵、なにか魔法がかかってるみたいなんだ」
「スレイ、かかっている魔法の詳細を言いなさい」
「ちょっと待ってください──アナライズ」
解析魔法であるアナライズを発動させたスレイの目には、門に付与されている魔法の術式を読み取ることができる。
「えぇっと……どうやら識別魔法と防御魔法。それにいくつかのリフレクション系の魔法がかかっています」
リフレクションの魔法は強硬手段を取られたときのためだろうが、もう少し別の攻撃系の魔法を組み込めばいいものを、等と考えているスレイだった。
「侵入者よけの古典的な付与魔法ですね。スレイ、あなたなら解除するならどれくらいかかりますか?」
「簡単にはいきませんが、五分……いや余裕を持ってその倍は欲しいです」
「そうですね。私もそれくらいはほしいところです。ユフィはどうですか?」
「私はもう少しかかるかもです」
今まで幾度となくジュリアの結界魔法を解除してきたスレイと違い、ユフィはその手のことをあまりやらなかっので、時間で差がついても仕方がないのだが、ここでそんなに時間をロスするわけにも行かない。
「時間が惜しいです。無理やり突破しましょう」
「おいルラ、魔法かかってるんだろ?危なくないのか?」
「この手の魔法は強引に破壊は可能です。確認ですがこの門を破壊しても構いませんね?」
「あぁ。そんくらい別にいいぞ」
「分かりました。それでは」
門を破壊するためにクレイアルラが、強力な魔法を放とうとしたその時スレイから待ったの声がかかった。
「先生ボクにやらせてもらっても構いませんか?」
「スレイ……良いでしょう。任せます」
「ありがとうございま」
クレイアルラと入れ替わったスレイは握っていた黒い剣に業火の炎をまとわせる。
「みんな危ないから下がって、ユフィ念のために少し強めのシールドを張っておいて」
「オッケー。───セイントアクアシールド!」
もしもスレイの業火の炎が跳ね返されたときのために、聖の魔力を宿した水の盾をドーム状に展開しその中にみんなを招き入れた。
みんながユフィの張ったシールドの中に入ったのを確認したスレイは、業火を纏った剣で円を描くように回してから軽く振るった。
「さて……ぶっつけ本番だけど行くぞ」
剣を持ち上げ垂直に構えたスレイは、剣を握る手を引き絞り反対の手を添えるように近づける。
足を少し広めに開いて腰を落としたスレイは呼吸を落ち着かせて門を見据える。
あの門を破壊するにはかけられているシールドを破壊し、リフレクションで跳ね返せないほどの強力な一撃を与える他ない。
完全な力技であるのは認めるが中途半端な魔法では簡単に跳ね返されてしまう。ならばと強力な魔法を使えば勢い余ってリーシャのいる屋敷にまで魔法が届きかねない。
それ故にこの技ならばそれをやぶつことができると、スレイは確信を持っていた。
構えられた黒い剣の刀身で燃え盛る業火の炎を外ではなく剣の内側で燃やすイメージで圧縮、それと同時に闘気も剣の内に流し込んだ。
すると漆黒の刀身が淡く光だし、刃から溢れ出た炎がわずかに漏れ出る。
力が溢れるのを感じ取ったスレイはスレイが地面を蹴る。
「うぉおおおおおお――――――――っ!!」
突きの間合いに入ったスレイは、身体をひねり黒い剣を引き伸ばすと突き出す。
突き出された剣の切っ先が門に触れた瞬間、門に漆黒の業火の爆発が吹き荒れた。
──業火の激突
黒い剣に流された漆黒の業火エネルギーを突き出される一瞬に剣の切っ先に移動させ、地面を蹴った勢いと共に身体の回転の力の剣の突き。
使徒との戦いのために編み出した剣技と魔法を融合させた技だが、まだまだ改良の余地があるようだ。
「うわっ、やりすぎたか」
吹き荒れた土煙が晴れ見えたのは、なんとも見晴らしのよくなったアルファスタ家の庭だった。
勢いがありすぎるため、門を突き破っただけでは収まらず庭までも破壊してしまったようだ。完全にやり過ぎてしまったなと思ったスレイだったが、近寄ってきたフリードがポンと肩を叩きながら
「よくやったなスレイ。開戦の狼煙にしちゃ悪くねぇ──行くぞ」
「あっ、うん。……わかった」
なにか言われるかなと思っていたスレイだったが、意外とあっさりと済まされたことの驚きながらも先を行くフリードの後を追って行った。先を行くスレイの背中を見ながらユフィたちがシラケた目を向けながら一言ずつ呟いた。
「スレイくんがもう何でも有りな存在になってきてる気がするよ~」
「いやはやもうスレイ殿といると常識が有ってないような気がしてきましたね」
「なんでしょうか、今のスレイだったら世界を相手にしても勝てるような気がしますね」
クレイアルラの呟きに対して、ユフィとリーフがうんうんとうなずきながら、これはスレイの人格が出来た人物で良かった。
これがもし極悪人のように力で世界をどうこうしようとする性格なら、神が世界を破壊する前にスレイの手によって支配されてしまっていたかもしれない。
改めてスレイの規格外の力について、考えさせられる三人であったがこれを一番分からせなければならない人が先に行ってしまったのでいつかちゃんと教えなければいけないな、そう心に決める三人であった。
屋敷の庭に足を踏み込んだスレイたちは、もしかしたらなにか仕掛けられているかもしれないので慎重に進んでいき、屋敷の扉の前にまで移動すると、クレイアルラが扉に魔法がかかっていないのを確認した
「扉や付近におかしな魔力はありません」
「オレが扉を蹴破って中に入る。入ったら一気にリーシャを探して助け出すぞ!」
フリードが足に闘気を集中させると、前蹴りで扉を蹴破るとフリードが最初に中に入りその後にユフィとクレイアルラ、続いてリーフが入り最後にスレイが入った。
「スレイ、リーシャの居場所は把握してるんだろ?」
「多分三階の一番端の部屋。念のために持たしておいたバッチが反応してるから外されてないはずだけど」
フリードの問いかけにスレイは左手に握ったプレートを見ながら答える。事前にミーニャとリーシャが狙われていると知った時に、もしもがあったときのために肌に離さず持っているようにと厳命しておいた。
発信器であるバッチは簡易ではあるが改造が施されており、バッチ経緯で装着者の心音を計測し異常があった場合や、バッチを外すときも手順を踏まえずにから外れたときには、受信先であるプレートに異常を知らせる信号が送られることになっている。
れが今のところは作動していないところを見ると、リーシャは生きていてこの信号を辿ればリーシャのいる場所にたどり着けるという算段だが、どうやらそうはうまくことが運ばないらしい。
「グレイの奴、使用人を全員アンデッドにッ!」
「父さん、変わって」
「自分も行きますッ!」
前に出たスレイとリーフは、フリードのかわりにアンデッドを斬った。
見ず知らずの兵士や傭兵ならば迷わず斬れたかもしれないが、幼い頃より知っている使用人を斬ることはできない。すべてのアンデッドを一撃で核を破壊した。
「すまんスレイ、リーフちゃん」
「それは後!次来るよ!」
アンデッドの軍団を倒した先で魔方陣が展開される。
「転移魔方陣、いいえ、あれってもしかして!」
「気をつけてください!召喚獣の魔方陣です!」
召喚獣とは、召喚の儀と呼ばれる儀式で魔物を呼び出し契約、使役することなのだが、その際に契約した召喚獣は一定時間で消え去るが、こうして魔方陣を使って呼び出すことができる。
ちなみにこれと似た物で使い魔と言うものがあるが、こちらは契約するのは魔物で、服従の儀と呼ばれる儀式魔法を行い魔物の中にあるコアに直接服従させるのだ。
それを聞いたフリードがが先行しようとしていたが、すぐに背後から魔力の流れを感じたクレイアルラがフリードを止める。
「戻りなさいフリード!背後かも召喚獣が来ます!」
足を止めようとしたフリードに向かってスレイが叫んだ。
「止まらないで父さん!後ろはボクが何とかするから」
「なら任せるぞスレイ!」
「任された、って言いたいけど、正直に言って何とかするのはボクじゃ無いんだけどさ」
フリードの声に答えるように踵を返したスレイは、空間収納を開くと自分の正面にとある物を落とした。
「さぁ目覚めろ黒騎士」
スレイは地面に落としたそれに向かって魔力を流し込んだ。
目の前に存在するそれは、全長二メートルの漆黒の鎧を身に纏い同じく漆黒に染まった剣と身の丈ほどの盾を持った騎士人形、簡単に言えば騎士をもしたゴーレムだ。
ゴーレムは主の指示に従うように動きだし現れた召喚獣たちを蹴散らしていった。動きを少し見てから先を行ったフリードたちの方を追っていくと、後ろにいたユフィとリーフが魔物を蹂躙しているゴーレムを見ながら
「スレイくん、あのゴーレム直してたんだ」
「そりゃあ、壊れたんなら直すに決まってるでしょ?」
「はははっ、ここにあの子達がいたらキッと死んだ目になっていたでしょうね」
乾いた笑い声をあげているリーフ、ちなみにあの子達と言うのはあの騎士学校の生徒たちのことだ。ではなぜ、今リーフの口から彼らのことが出てきたかというと、実はあの黒騎士、泊まり込みでおこなった死霊山での特訓の時に使用したのだが、あのときは初めての人型のゴーレムというわけで間接部分の設計にミスがあり、たった四時間使っただけでダメになってしまったが、どうやらその四時間で生徒たちにはかなりのトラウマを与えたらしく、修理しようとしたとたん全員から泣いてやめるように懇願されたほどだ。
そのときは直すのを辞めたが、あの船の上で修繕点も調べあげ何とか修理した。
前にいた召喚獣はフリードが倒したためか、床に倒れ身体を構成していた魔力となって消えていった。
階段を掛け上がりスレイが言った場所にたどり着いた。
フリードが扉を蹴破ると、部屋の中にはグレイとテレジア、そしてマリウスが立っていた。
「やぁフリード、眠れる姫君を迎えに来たようだね」




