襲撃
長らく更新できずに申し訳ありませんでした。これからはいつも通りの更新になります。
夜が明けるころ、ユフィたちは傷付いた人々の治療をしていた。
襲撃の際、街から戻ってきたスレイによって襲撃者を壊滅させた後、もしも更なる襲撃があるかもしれないと警戒したフリードがスレイとリーフを連れて警備をしてくれているが、実際はフリード自身とスレイの頭を冷やさせるためだ。
「はい。おしまい。よく頑張ったね~」
「ありがとうお姉ちゃん!」
治癒を終えた女の子が元気にお礼を言ってテントをでていくと、一息ついたユフィは同じように治療をしていたノクトとミーニャに声をかけた。
「二人共、そっちは?」
「もう終わります」
「私でも」
「了解。それじゃ次に人呼ぶね~」
後どれくらいいるのか、そう思いながらもユフィはテントの外に出るとそこには毛布を手にしたクレイアルがいた。
「患者はもういませんよ。中にいる人たちで最後です」
「先生……話し合いは終わったんですか?」
「えぇ。今後のことは決まりました」
いよいよかと思ったユフィはこれからのことを聞こうとした時、テントの中から残りの患者が出てきたのを見てクレイアルが中に入るように告げた。
「皆ご苦労さまです。もうこちらはなんとかなりますから少し休みなさい」
「私はまだ大丈夫ですから、ミーニャちゃんとノクトちゃんが先に休んでて」
「だっ、大丈夫ですよお姉さん!わたしも起きてます!」
「私だってまだ起きていられますよ!」
魔道具作りや何やらで徹夜作業は慣れているユフィがやんわりと断ると、ノクトとミーニャがまだ大丈夫、と断っている。三人の言葉を聞いたクレイアルラが、ユフィ、ミーニャ、ノクトの順番にコツンッと杖の宝珠で頭を小突いた。
「休めるときにしっかり休むのも冒険者ならば大切なことですよ。それにミーニャは、今までにこれほどの患者の治療は初めてでしたね、すでに魔力が尽きかけてフラフラじゃないですか。二人は余裕は有るようですが何かあるといけないので、少し休んで魔力を回復させないさい」
クレイアルラが真剣な表情で三人を説教しているが、杖で小突かれた頭が地味に痛かったユフィたちは、目尻に涙を溜めながら頭を押さえてあまり耳に入っていないようだった。
それを見かねたクレイアルラがユフィたちの頭を、もう一回だけ杖で小突いてから説教に入った。
「あなたたち、私の話を聞いているんですか?」
「ちゃんと聞いていますから、頭を叩かないでくださいよ~」
「ルラ先生、痛いです」
「頭にこぶができちゃいました」
再び杖で小突かれたせいで涙目になりながら頭を押さえている三人、その姿に、少し強くやり過ぎてしまいましたかね?なんて思いながらクレイアルラが三人を見ていると、ユフィたちが頭に出来たこぶをヒールで治している。
「私はいいからノクトちゃんたちだけでも先に休んでてよ」
「ユフィお姉さん、わたしもまだ平気って言いましたよね?」
「聞いてたよ。だから交代で休憩ね。四時間経ったら起こしてあげるから」
これ以上の譲歩は無理だと思ったノクトは仕方ないかと思いうなずいた。
「分かりました」
「よし。それじゃノクトちゃんが先に休んでて。いいですよね先生?」
「仕方ありませんね。それで構いませんが、あとでユフィもしっかり休んでくださいよ」
「はいっ!きまりぃ~!それじゃあノクトちゃんとミーニャちゃんは、あっちも仮眠用のテントでしっかりと休んでてね~」
「なにするのお姉ちゃん!」
「一人で歩けますから、押さないでくださいよ」
ユフィがノクトとミーニャの背後に立って二人の背中に手をおくと、そのままテントの方へと押していく。そうしていると、その扱いに不満があったのか抗議の声をあげているがユフィは涼しい顔をして聞聞き流しながら押していき、二人をテントの中へ押し込んだユフィはクレイアルラの方へと向き直った。
「先生、結局の所はこれからどうするんですか」
「これと言って何も強いて言えばここの放棄が決まったことくらいです。それ以外になにか聞きたいことでも?」
「あのときのスレイくん、すっごく怒ってました。私も助けられなかった」
あのときの襲撃は突然だった。
初めは複数のウォーキングデッドによる襲撃だった。
レイスやアンデッドと違い、ウォーキングデッドは屍を動かして使役しているため、気配もなければ探知も出来ない。なので襲撃に気付いたときには既に手遅れだった。
ウォーキングデッドの群れと、後から押し寄せてくる人の波、対処が遅れたことと戦える人員がほとんどいなかったせいで、出さなくてのいい死者を何人も出してしまったことをユフィたちは悔やんでいた。
「悔しいのはあなただけではありません。私も、相手がネクロマンサーなら、襲撃の際にウォーキングデッドを使ってくることは分かったはずなのに」
グッと片手で握る杖に力を込めるクレイアルラ、その手には血が滲んでしまっている。ユフィがそっとクレイアルラの手に触れながらヒールをかけ、血の滲んでいる手を治療していると、突如背後から視線を感じて踵を返し背後に振り向いた。
「「────ッ!?」」
背後に振り向いたユフィとクレイアルラが驚きのあまり息を飲み、ハッと目を見開かれた。二人の視線の先には手足を縛られ口を塞がれたミーニャとノクトを担いだフルフェイスの甲を被った兵士だった。
「ミーニャちゃん!ノクトちゃん!」
「おやおや、気付かれてしまいましたか」
フルフェイスの甲のせいで低い声が更にくぐもって聞こえてきたが、ユフィとクレイアルラには関係がない。即座に杖を構えた二人は、魔法陣を展開して牽制を試みる。
「気配が感じなかった。何者、とは聞きません。どうやってここまでやって来たんですか」
「簡単ですよ。ウォーキングデッドは主の手であり目でもあります」
「なるほど、コネクトによる視覚共有によってここにゲートを開いた、と言うわけですか」
「その通りです。それでは私はこれで失礼させてもらいましょうか」
「待ちなさい──ッ!?ユフィ!?」
二人を抱えた兵士が踵を返してその場を立ち去ろうとすると、クレイアルラが兵士を止めるためにバインドの魔法を発動しようとした瞬間、隣に立っていたユフィが地面を蹴り走り出した。
「逃さないよッ!」
「なっ!?ユフィ!戻りなさい!」
「先生!スレイくんたちにこのことを知らせて、他の人たちをテントから出さないようにしてください!」
ユフィに言われてクレイアルラが周りを見ると、何人もの人がテントから顔をだしている。これはたしかに不味いを思ったクレイアルラはユフィを見ると逃げた兵士を追って姿はなかった。
ユフィが後を追ったことで残されたクレイアルラは、勝手な行動を取ったユフィに心の中で悪態をつきながらも、もしもまだあの兵士の仲間が潜んでいた場合のことを考えクレイアルラが叫んだ。
「みなさんテントの中に入りなさい!敵の残りがいます!」
「ぅうわぁああああああ――――ッ!?」
クレイアルラが叫ぶと人々が慌てながらテントの中に身を隠した。
それを確認したクレイアルラがユフィに言われた通り、スレイをここに呼ぶために通信機を取り出した。
逃げる兵士を追いながらユフィは考える。
いくら小柄なノクトとミーニャを抱えてるとはいえ魔力も闘気も使っている感じがない兵士が、身体強化を施しているはずのユフィを引き離していく。
「このままじゃ逃げられちゃうよね」
山中をジグザグ駆け抜ける兵士にこれ以上離されれば逃げられると感じたユフィは、一か八か杖を手放し空間収納から空中に呼び出したガントレットを素早く装着すると、身体強化を両足に集中的にかける。
「シッ!」
一気に踏み込んだユフィは空間転移で兵士の背後を取ると、後頭部に向かって殴りかかったのだが……。
「なっ!?」
「あら残念」
拳が触れる直前身体をかがめ拳を交わした兵士は真下からユフィの腹部を狙って蹴りを放った。
「ふぐッ!?」
蹴り上げら後ろに飛ばされたユフィは膝を付きながらも兵士を見逃すまいと顔を上げた瞬間、兵士の蹴りがユフィの顔を目掛けて撃ち込まれようとした。
「───ッ!?」
その蹴りに即座に反応したユフィは後ろに身を引きながら左手で蹴りを防ぐが、身体を起こしたところを狙ってもう一撃蹴りをもらった。
「ふむ。魔法使いかと思えばなかなかに良い反応速度をしている」
「お褒めの言葉ありがとう。でも、女の子の顔を蹴るなんて男の人失格なんじゃないかな?」
「私はすでに死人ですので、関係ございません──では」
綺麗に一礼を決めた兵士はその場を離れるべく踵を返そうとすると、それをさせないためにユフィが魔法を発動する。
「逃さないって言ったでしょ!──アイス・フローッ!」
地面に手をついたユフィは魔法の名前を叫ぶと同時に、両手の手甲に埋め込まれた宝珠が輝きを放った。置かれた手を起点にして地面が凍りつき兵士の両足を氷で閉じ決めた。
「これは動けません」
「動けなくさせてるんだから当たり前でしょう!それより二人を返して!」
「良いですよ。ほら」
意外なことに兵士はミーニャとノクトを開放してみせた。
だが、空中に放り投げるというとんでもないやり方でだ。
「クッ!?」
身体強化をかけ直し投げられた二人を受け止めようとしたユフィだったが、その時ブチブチっと何かがちぎれるような音と砕け散るような音が耳についた。
「残念。アンデッドに痛みはないんですよ」
その声とともに目の前に当たら割れた兵士の両足は、無理やり氷の拘束を破ったせいだろうズタズタに引き裂かれ骨が見えていた。
うっかりしていた。
人は自分の肉体の力を完全には引き出すことができない。
体を壊さないように脳が力をお抑えている。
そのいい例として痛覚がある、身体にこれ以上にむちゃをさせないための安全装置だが、それは人や生きている者に対してだ。つまり死者であるあもの兵士にそれはないのだ。
だからあの兵士は脚を犠牲に抜け出すことが出来た。そして人の出せる全力の力で攻撃することができるのだと理解したユフィは、両手を交差させて守りの姿勢を取った。
すると次の瞬間、凄まじい力でユフィは吹き飛ばされた。
「はい。これでおしまい。もう良いでしょう。いい加減諦めなさい」
「クッ───フハハハッ」
「何を笑っているんですか?」
「ごめんね。これであなたは終わりだよ」
顔は見えないが多分だが眉を潜めたであろう男が、ユフィにどういうことかと思い聞き返していると、ザシュっとなにかが突き刺さる音が聞こえ男が視線を下げると、男の両肩に細いナイフが突き刺さりピシピシと刺された部分を中心に凍っていることに気がついた。
「おや、これは?」
その言葉告げると同時に男の両肩が砕け手に抱えられていたノクトとミーニャが地面に落ちるが、ユフィが即座に放っていたゲートシェルを使い自分の方へと落とす。
「二人は返してもらったよ!」
上から降って来た二人をユフィが受け止めた瞬間兵士は取り返すべく向かおうとしたその時、パキッと何かを踏みしめる音が聞こえてきた。
「おい。どこへ行く気だ」
その言葉とともに兵士の首は中を舞い、残された胴体は漆黒の炎によって焼き付くだれたのだった。
それをやった白髪の少年スレイは、剣を放り投げてユフィの方へと駆け寄った。
「ユフィ!二人の容態は!?」
「待って、すぐに確認するから」
スレイに急かされながらもまずは二人の口と手足を縛っていた縄を切り容体を確認する。
どうやら薬でも嗅がされているらしく深く眠っているだけだった。
「二人とも睡眠薬でも嗅がされたみたいで眠ってるだけ、一応変な術式とかもかけられてない確認はしたけど二人とも無事だよ」
「はぁ……良かった」
二人の無事を知ったスレイは緊張の糸が斬れたように座り込むと、そんなスレイに向けてユフィは手を差し伸ばした。
「来てくれてありがとう。スレイくん」
「いや、もう少し早く来れていればユフィを戦わせずに済んだのに」
「気にしないの。私だってそれなりに強いんだから。もっと信頼して」
「そうだね。頼りにしてるよ」
立ち上がったスレイは眠っているノクトを背中に乗せると、ユフィもミーニャを抱えてゲートで隠れ家へと戻る。
ゲートを抜けるとすぐにクレイアルラが駆け寄ってきた。
「ユフィ!それにスレイも、二人は無事のようですね」
「はい。どうにか」
「先生。リーフと父さんは?」
「すぐに戻ってくると思います……それよりも二人とも、今から言うことをよく聞いてください──リーシャが攫われました」
クレイアルラのその一言スレイは我を忘れてクレイアルラに食ってかかった。
「どういうことですか先生!」
「二人と同じです、ジュリアを薬で眠らせた隙に連れ去ったようです」
「じゃあ、リーシャちゃんたちは囮だったってこと?……そのことはおじさんたちには?」
「伝えてあります。ジュリアのことも、」
妹を攫われた事実を知ったスレイは冷静ではいられなかった。
昨夜と同じようにふつふつと怒りが沸き上がってきたスレイが、背負っていたノクトをクレイアルラに預けると勢いよく走り出そうとしたのを見たユフィがあわてて後を追いスレイの手を掴んだ。
「手を離してくれユフィ」
「スレイくん、一人でどこに行く気なの」
「決まってるだろ。あのクズ野郎をブッ殺してリーシャを助ける」
「知ってる。でもなんで一人で行こうとしてるの?」
スレイがユフィの方を見ると、さも当たり前のように次の言葉を口にした。
「私も行くよ。あの街にはまだ傭兵だってたくさんいると思うし、戦えるのは一人でも多い方がいいでしょ?」
「いいのか、ユフィ」
「当たり前でしょ?未来の義妹が危ないのに、お義姉ちゃんが助けに行かないわけには行かないもん!」
実はユフィがそう言ってくれて助かったとスレイは思っていた。
いくら人外の領域に片足どころか両足を踏み入れているスレイであっても、気配も察知できないウォーキングデッドを相手に一人で戦いきる自信はなかった。
スレイとユフィがリーシャを助け出すために街に向かおうとしたとき、二人の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「スレイ!ユフィちゃん!」
名前を呼ばれた二人が振り返ると、戻ってきたフリードとリーフがスレイにこう告げた。
「勝手に二人でいこうとするなスレイ。オレも行くに決まってるだろ」
「私も行きますよ」
そう言うとは思っていた。
だけどスレイからすれば二人にはここに残ってもらいたいと思っていた。
「二人はは残ってよ、母さんのこともあるし街の人たちだって守らなきゃ」
「あのなぁ、オレはリーシャの父親だ。娘攫われてじっとしてられる親はいねぇよ」
「自分も短いながらもリーシャちゃんは家族だと思っています。家族をさらわれたのなら助けるものです」
フリードがゆっくりとスレイに近づいてくるとポンっと肩に手を置いた。
「ジュリアさんも娘のためなら許してくれる。それに、ガキが親に命令すんな。十年速いんだよ」
パチンッとフリードがスレイの額を弾くと、続いてリーフがスレイの前に立った。
「自分の盾があなたを守ります。あなたは前だけ向いてリーシャちゃんを救ってください」
リーフが拳を持ち上げスレイの胸板をコツンと小突いた。
正直に言うとフリードは止めても無駄だと思っていたのが、まさかリーフまで着いてくるとは思わなかった。すると、何やらわかっていたような顔をしてユフィがスレイに話しかける。
「やっぱりこうなるよね」
「わかってたの?」
「なんとなくね……それより、出発するよ──ゲート」
街へと向けてユフィがゲートを開くとフリードを先頭にリーフが先にゆき、スレイも続こうとした時、意外な人物が現れた。
「てっきり先生は残ると思ってたんですけど、来られるんですね」
「こっちのことはウルスラと、遅れてくるそうですがシャノンに託しました」
「そうなんですか」
「先に行きますよ。それとこれは助言のようなものですが、怒っているのはあなただけではないと言うことを、もう一度頭に入れておきなさいスレイ」
みんな怒っている、そうクレイアルラに言われたスレイは小さく頷くと先を行った三人の後を追うようにゲートを潜ろうとした瞬間、ユフィからも一言
「みんなでリーシャちゃんを助けようね」
「あぁ、そして、あのくそ野郎はブッ殺すぞ」
決意を込めた二人が思いを告げながらゲートを潜った。




