協力体制
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事態が落ち着いた頃、スレイとリーフはハリーとで別室で話し合いが行われようとしていた。
案内された書斎に通された二人は、ハリーと対面する形で話し合いが始まった。
話し合いの内容としては、どういう経緯でこの家にやって来たか、何が目的かなどを簡潔に説明したのち、スレイはバンから預かっていた手紙をハリーに手渡した。
「それじゃあ、君はアルファスタ家の当主代理としてここに来た、そういうことだね?」
「はい。今しがたお渡しした手紙には、祖父であり本来の当主であるバン・アルファスタからの書状です。そしてこちらが我が家の当主の証であるメダルです」
「ふむ、では確認させていただくよ」
スレイは小さくうなずくと、ハリーはスレイから受け取った書状を開き中身の確認を行い。
読み終わると今度は目の前にあるメダルが本物であるかどうかの確認を行っていた。
ちなみにこのメダルには、アルファスタ家の家紋である盾の中にドラゴンが描かれた物が掘られているが、これはこの国のどこか山に伝説の勇者の仲間とされるで竜が住んでいるという理由から、ドラゴンはこの国の守り神として崇められているからである。
手紙を読み終えたハリーがメダルを手に取り確認している。
「メダルも書状も偽物、と言う訳ではなさそうだ」
何とかちゃんと話が出来そうだと、スレイが大きなため息をついている横で、リーフがハリーのことを少し睨み付けるように見ながら話をする。
「しかし、君のすべてを信用する事はできないね」
「お義兄さま、それはさすがに疑いすぎではないのですか?」
「済まないがリーフくん、私はスレイくんとは初めて会うからね用心が必要だったんだ」
荒唐無稽と言われても仕方がないが、ここまでして信じていただけないことにリーフは納得がいかなかった。
「それはそうですが、なぜそこまで?」
「仮に信じていたとしても当主のメダルはしっかりと確認したよ。もしもこのメダルが偽物だった場合は、かなりの処罰が課せられることもあるからね」
役人としてそれだけは譲れないと言うことだろうと思いながらも、スレイはついでにと答える。
「怖いことを言わないでください……それに、その用心の理由はそれだけじゃないですよね?」
「それはいったいどういう意味かな?」
「アルファスタ家の出生届にボクの名前がないことを知っているから、なんじゃないかと思いましてね。どうですかね、査察部のハリー・ブラッドベリーさん」
何かを疑うような眼差しを浮かべているハリーに答えるように、スレイが小さく微笑みながら答えと、ハリーの目がさらに険しくなりスレイを見る目に覇気が籠った。
「どうしてそう思うんだい?確かに国の役人であるとは言ったが、査察部は貴族の者にしか付けないと思うんだけどね」
「それは行きすがらリーフから聞きましたよ。ですが、あなたはその職に付いてますよね?」
いったい何を証拠にそんな事を言うのか、ハリーはスレイのことをにらみつけると等のスレイはリーフに尋ねる。
「ねぇリーフ、査察部に所属する資格って貴族だけじゃないんだよね」
「はっ、はい。たしかに国の査察部に入るには貴族に他に、身分問わず優秀な魔法使いが選ばれることがあります」
「ありがとうリーフ。ハリーさん、先程の発言に少しだけ訂正を加えます。あなたは査察部所属の魔法使い、そうですよね?」
査察部の人間の役目は貴族が自分の運営している領地の税の徴収額が適正であるかどうか、国へ納める税に不正がないか等を調べるのが主な仕事だ。
それともう一つ不正な領土運営を行っている当主に対して、強制的に話をさせるために暗示、あるいは魔法による自白を強要するべく魔法使いが派遣されることがあるらしい。
先程リーフから説明を聞かされていたのだが、それでなぜスレイがハリーが査察部所属の魔法使いと言う結論に至ったか、その理由は簡単だった。
「たしか、お義兄さまがリリ姉さまと出会ったのはマルグリッドの魔法学園でしたよね?」
「あぁ。そうだよ」
ここで魔法学院についての説明を入れておくと、魔法大国であるマルグリッド王国には未来ある魔法使いの卵を育てる学園が存在し、それがマルグリッド王立魔法学院と言うわけだ。
何でもリリルカは闘気と一緒に魔力を持っているそうだ。
だがその魔力はリーフ曰くかなり魔力はかなり少ないらしく、初級魔法を発動するだけで魔力切れを起こすらしい。
仮にも魔法学院に通っていて卒業までしたので今はどうか分からないが、それほど魔法使いとしては優秀ではないそうだ。
ではなぜリリルカがそんな国に行ったのかと言うと、剣はどこでも振れるしせっかく魔力があるんだから覚えるのもいいかも、というなんとも適当な理由からだったらしいが、今はそれは置いておこう。
「だけどどうして言い切れるんだい?役人の中には私のように魔法使いも多く在籍しているはずだ」
「そうですね、いくつか理由があるんですけど。まずはその杖ですかね」
スレイはハリーの太腿の位置に下げられた杖の収まったホルダーを見た。
そこには二種類の杖が収まっており、握りの先に白と紫の宝珠が装着されたスタッフ型の杖だ。
「その杖、一つは普通の宝珠なのにもう一方は闇魔法用の宝珠を入れていますね」
「あぁ。その通りだ。役人何ってやってると自衛のためにも必要だからね」
「ではなぜ闇魔法の杖を?」
「どういうことかな?」
「闇魔法なんて自衛できる魔法が少ないのは常識じゃないですか。そんな属性用の杖を常に身につけるくらいだ、よほど闇魔法を使う機会の多い人でなければおかしいですよ」
スレイの指摘にハリーは観念したように杖を抜いてテーブルの上においた。
「杖はわかった。だけどそれだけでは理由にならない。他にもあるんじゃないかな?」
「そうですね。次はあなたが帰宅された際の行動ですかね」
「待ってくださいスレイ殿、お義兄さまにおかしな行動などありましたか?」
「いや普通だったよ。でも生後間もない娘を持った父親が、帰って早々に奥さんに抱きつくかな?」
「言われてみれば、たしかにそうですね」
一部の例外を除いてどんなに堅物な父親でも、生まれたばかりの子供はしっかりと面倒を見ているはず。
それもあんなに仲睦まじい?夫婦なのだからハリーが子供が嫌い、なんて理由はないはず。それに本当に疲れて奥さんへと癒やしを求めた結果もあり得たが、もう一つの事実がスレイをその結論へと導き出した答えなのだ。
「それにもう一つ、ハリーさん。赤ちゃんって匂いに敏感なこと知っていますか?」
「もちろん知っているけど、それが───」
「ならなんでそんなに匂いのキツイ香水をつけているんですか?」
その一言でハリーは一瞬顔がこわばったかと思ったら、すぐに平静を装って答える。
「この匂いはたまたま同僚の女性の香水が付けてしまったと言ったら?」
「下手な嘘ですよね。もしそうならリリルカさんが先ほどやったみたいに、暴力に訴えて問い詰めていたでしょうから」
「たしかに、リリカ姉さまならば問答無用で問い詰めますね」
「っというわけで、あなたがその香水を日常的に付けている。それはなぜか、体に染み付いた別の匂いを隠すためじゃないかと考えました。例えば血の匂いとか」
闇魔法の中には拷問用の魔法も存在する。
日常的に血を浴びるような役人などそうそういないことから、スレイがそう指摘するとハリーは降参を示すように両手を上げてみせた。
「あぁ。しかたない降参するよ。私は国の調査部門に所属する魔法使いだ」
この告白にリーフが我がことのように嬉しそうにしていた。
「しかしそれだけのヒントでよく分かったね。魔法使いを必要とする部署なんていくつかあると思うんだが、君は迷いなく言い当てることができたのはなぜだい?」
「理由は説明した通りですが、あとは感でしたね。魔法使いとしての」
スレイの言葉にハリーは納得したように頷いているが、実はもう一つだけ理由があった。
それはハリーの目だった。
同じ魔法使いとして、ハリーの目からは魔法の負の一面を体現しているような気がしたがその感は当たっていたようだ。
「それで早速ですが、ご協力いただけますか?」
「私個人としては協力をしたいと思っている。だが判断するのは上の役割だというのは理解してくれ」
「協力するか否かは上の判断次第、ですか」
「今しがた君から聞いた話や確認した書状の内容、そのすべてをまずは議題にあげて結論を出す。知っての通りアルファスタ家への調査はすでに始まっている。君たちと一緒にいたあのダークエルフの女性がどういう人物かはきいているね?」
確かめるように聞いてくるハリーの言葉を聞いて、スレイもリーフも首を縦に降ってこたえる。シャノンがあの街でなにをしていたのかは聞いている。
そしてその依頼が中途半端な状態で終わったことも事実だ。
「彼女の仕事が失敗している以上、もしも上が他の人材をいれて再調査の可能性もある。そのことは理解していてくれ」
「解っています。それではボクはお暇させていただきます。リーフもいいよね?」
「はい。行きましょうスレイ殿」
思いの外あっさりと帰ろうとしている二人を見て、ハリーは少しビックリした顔をしていた。
「いいのかい?せっかくここまで来てほとんど収穫はないのに」
「だからですよ。ここで粘って時間をかけるより、向こうで妹たち守ってた方がいいですからね。祖父もボクのとった行為を認めてくださると思います」
「……そうか。なるべく早くこの事を上にあげてみる。どうか、早急なことはしないでほしい」
「解っています。それではお邪魔しました」
スレイとリーフがハリーに頭を下げて部屋をあとにした。
ブラッドベリー家を後にしたスレイとリーフは、ここにいないシャノンに報告するべくスレイがコールを繋げてみる。
『スレイの坊やかい、何かあったのかい?』
「こっちは話は終わりましたけど、シャノンさんはどうするのかと思いまして」
『あたしはまだかかるからね。こっちに残るつもりさ』
「わかりました。向こうにいるみんなとウルスラさんにはそう伝えておきます。また何かあったらコールか、通信機で連絡してください」
『それはいいんだが、そっちの話し合いの方はどうなったのか教えちゃくんないかね?』
シャノンに聞かれてスレイはかいつまみながら先程のハリーとの話をする。
「そんなわけで、余りいい返事は聞けませんでしたね」
『いいさ、話を付け方としてはまずまずだが仕方ないさ』
「仕方ないのはわかりますが、もしも相手が先手を打って来る可能性もあります」
『かと言って、間違ってもこっちからは打って出るなよ?』
「えぇ。でも、もしもの時はボクは容赦せずにあの家を潰します」
『勝手にしな』
シャノンからのコールを切ったスレイは、目の前に迫った門を見上げてからリーフの方を見る。
「帰ろうか」
「はい。次は全部終わって私とデートするときですからね」
「わかっていますよ。ゲート開くからね」
笑いながら開かれたゲートをくぐったスレイとリーフ、二人が次に目にしたのは隠れ家に使っていた掘っ立て小屋、ではなく、めらめらと燃え上がる真っ赤な炎、そして隠れ家に集まっていた人々に向けて刃を向ける鎧を着た兵士と、武器を手にした賊のような傭兵たちだった。
視界の中ではフリードを筆頭にユフィやノクト、クレイアルラや怪我を押して戦っているウルスラや、戦えるレジスタンスのメンバーも武器を手にして戦っているのが見えるが、圧倒的に数が足りない。
ここにいるほとんどんのメンバーは、あの街のなかで暮らしていけない小さな子供や老人がほとんどだ。
呆然と目の前で起きていることが理解できずに立ちすくんでいたスレイ。
「どうしてこんなことに……」
「スレイ殿!あそこに子供が倒れています」
リーフに言われそちらを見ると、血の海に身体を倒している小さな子供がいた。
スレイがすぐに駆け寄り子供を抱き上げるが、すでにその子供はこと切れている。子供の顔は恐怖の余り歪み、死ぬ瞬間も泣き叫んでいたに違いない。
やるせない気持ちを胸に抱きながら、開かれた目を閉じさせた。
ふつふつと心の中から沸き上が例えようのないほどの怒りが、スレイの全身を支配した。
剣と盾を手にし子供の安否を心配していたリーフの顔が苦痛に歪んだ次の瞬間、全身の毛が逆立つような感覚を感じスレイを見る。
「スレイ殿……」
恐怖、今のリーフの感情を表すならそれだろう。そしてその感情はここにいる全ての人が感じた。
ゆっくりとスレイが立ち上がりながら、腰に下げられていた黒い剣と空間収納から一本の剣を取り出し大きく行きを吸い込み、そして叫んだ。
「てめぇら全員!一人残らずぶっ殺すッ!!」
スレイが叫ぶとすぐ近くにいた傭兵がスレイに斬りかかってきた。
「ガキが!」
「死ねぇえええええーーーーーーーーーーッ!!」
黒い剣を横に構え振り下ろされる刃を受け止めると、黒い剣の刃と振り下ろされた刃が触れた瞬間、刃が融解し斬りかかってきた傭兵を二つに別れた。
「言っておくが、今のボクは手加減が出来ないぞ?」
全身からほとばしる殺気を浴びて兵士と傭兵はたじろいだが、今さら命乞いをしたところで許す気のないスレイは、左手に握られた剣の切っ先を向けると、剣全体に魔力を流し込んだ。
「起動」
魔道具の起動語句を告げると同時に、水平に構えられた剣の刀身に光の線が走り刀身が分裂し、その一つ一つが小さな針のような刃となり空中を飛び回った。
──刀剣型魔道具 ソードシェル弐式
空中に漂うソードシェル弐式は全て、スレイの手に握られている柄から伸びる魔力の線で操作されている。
そして、スレイが柄を真上に掲げてから振り下ろすと、ソードシェルが敵に向かって飛んでいき身体のどこかに突き刺さった。
ソードシェルに刺された兵士や傭兵たちにダメージは余り入っていなかった。
「はっ!こんなもんで俺たちがやられると思ってんのか!」
傭兵に一人が腕に食い込んだソードシェルを引っこ抜こうとしたが、このソードシェルは抜けることはない。
その理由は、ソードシェルの刃が付与された錬金術の効果によって形を変える。
簡単には抜けることのないようになっているのだが、そんなこと知るよしもない傭兵たちが必死になってソードシェルを抜こうとする姿を見ながらスレイが柄に魔力を流しながら掲げると
「爆ぜろ───イクスプロージョン!!」
敵に突き刺さったソードシェルの刀身から灼熱の炎が溢れだすと、ソードシェルを中心に爆炎が上がった。
発動したのは上位の炎魔法であるイクスプロージョン、炎の爆発によって回りを巻き込みながら多くの敵を凪ぎ払ったが、それでもまだまだ相手は残っているのだが、先程のを見てかなかなか動こうとはしない。
「どうした、こないならこっちからいくぞ?」
その場から一瞬にして移動したスレイは、背後から傭兵の一人の胸を黒い剣の刃が穿つと、刀身に流されていた業火の炎が移り傭兵の死体を一瞬で消し炭にした。
「ぅ、うわぁあああああああっ!?」
「いっ、いやだ、死にたくない!?」
「俺は関係ない!俺は関係ない──」
逃げ出そうとしている者たちもいるようだが、もうそんなものは関係ない。転移魔法で距離を積めたスレイの剣が、自分は関係ないと言いながら逃げ出した男の首を落とした。
「言ったはずだぞ、全員───殺すと」
また一つ人だった物が崩れ落ちた。
もはや逃げることもできない、それを悟った傭兵たちがスレイを最優先で始末するために刃を向ける。
「死ねぇえええええええっ!!」
「もらったぁあああああああっ!!」
黒い剣で正面から斬りかかってきたが兵士の剣を受け止め切り殺していると、背後から傭兵の一人が長槍でスレイを穿とうとしたが、スレイは左手に握られたソードシェルの柄、そのなにもない先を向ける。
「悪いな、こんなのでも立派な武器ないんだよ」
柄に魔力を込めると漆黒に燃える灼熱の刀身が出来上がり背後から向かってくる敵を切り殺した。
──刀剣型魔道具 魔力刀弐式
柄から伸びる漆黒と灼熱の刀身、これが新しい魔力刀の刀身だ。
従来の魔力刀は素体にしていたナイフはただの鉄だった。
なので黒い剣の素材であるミスリルのように、漆黒の業火で刀身を形成しているとたった数分で刀身が融解し使用不可能になる。
だが、この魔力刀弐式は柄から直接魔力の刃を作り出すので刀身が融解するというリスクが無くなった。
炎によって赤く照らされる夜闇の中で、二振りの漆黒に輝く剣を握ったスレイ。その刃によって敵を斬る姿を見た者たちは、まるで修羅の様だと語られた。