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それぞれの修行 ユフィ編 ①

始めに謝罪を、今回は修行というよりもユフィの悩みを主観に置いています。そのため修行らしいことは一切ありません。タイトル詐欺のようですが修行に入る前の前降り、とでも考えてください。

それでは、どうかお楽しみください。

 スレイくんが修行の旅に出てから、もうすぐ一週間が経とうとしていた。

 その間、私はいつもと変わらない日常を送っていました。

 朝はいつもの時間に目が覚めて、いつもと同じように朝練をして、それが終わったら先生のところで魔法の練習や治療院のお手伝いをした。

 それが終わったら、お仕事でお家にいないおじさんとおばさんの代わりにミーニャちゃんと一緒に居てあげたりと、そんな変わらない日常を送っていました。


 ⚔☆⚔


 ふと、スレイが旅立ってからの一週間を振り返ってみたユフィは、いつまでも今まで通りでいいのだろうかと思い悩んでいた。

 スレイが危険な戦いを強いられているというのに、このままでいいのかと考え込んでいたユフィは隣から聞こえるミーニャの声にハッとした。


「ユフィお姉ちゃん!焦げてる!焦げてるよ!?」

「えっ?」


 隣から聞こえてきたミーニャの慌てた声を聞いて、我に帰ったユフィの手元に視線を向ける。

 ユフィは今料理中、日のかかったフライパンの中には、夕食のメインである鶏肉の香草焼きが盛大に炎を上げて燃えていた。


「きゃぁぁぁぁぁ――――ッ!?やっちゃったぁ!?」


 慌ててユフィがコンロの火を止めて水魔法で炎を消した。

 ジュッと熱せられたフライパンが水で冷やされ蒸発すると白い煙が上がった。

 やってしまったと思いながら、フライパンの中かから水を取り出したユフィは水びたしになってしまった鶏肉を取り出した。

 水浸しになった鶏肉は、焼きすぎてところどころ炭になっていた。これは食べられないと思いながらユフィはミーニャに誤った。


「ごめんね、ミーニャちゃん」


 こんなミスをして恥ずかしいと思っていたユフィだったが、謝罪を聞いていたミーニャも何やら申し訳無さそうにこちらを見ていた。


「ユフィお姉ちゃん、私もごめんなさい」

「えっ?どうして?」

「実は………これ」


 恥ずかしそうに差し出されたボウルの中には、みじん切りにされたキャベツやレタスに似た野菜や、千切りのニンジンなどが入っていた。

 今日の夕食のメニューは野菜のスープに鶏肉の香草焼き、それにパンとサラダを予定していた。しかし、メインの鶏肉は丸焦げ、サラダにするはずの野菜はみじん切りだ。

 野菜はスープに入れてもいいがスープはすでに出来上がっているので、この野菜はまた別の日にでも使うとして問題は鶏肉だ。

 水気を吹いて焦げたところを取れば食べれるだろうが、これは失敗だと顔をしかめる。


「「……………………」」


 二人は無言でダメにしてしまった食材を見たユフィは、スカートのポケットの中から財布を取り出した。中身を確認してから、ミーニャの方に向き直った。


「お姉ちゃんがお金出すから、お外に食べに行こうか」

「うん」


 焦がした鶏肉の処理はとりあえず明日にすることにした。


 ⚔☆⚔


 ユフィとミーニャは村の食堂、ではなく宿屋の方にやって来た。食堂は今の時間は酒場をやっているので、ここに来たのだがたまにガラの悪い客もいるのでここは慎重に行く。


「いらっしゃ~い」

「こんばんわぁ~」

「あらあら、ユフィちゃんとミーニャちゃんじゃないかい。どうしたんだい?あっ、それよりこっちにきなよ」


 店に入ったユフィを迎えたのは、少しふくよかな三十代半ばの女性でこの宿屋の女将だ。

 宿屋の中を見て大丈夫そうだと思いながら、中にはいってユフィとミーニャは案内されるままカウンターに座った。


「こんばんわ。実はお夕食焦がしちゃいまして」


 笑らいながら答えるユフィと、その後ろでそっと目をそらしているミーニャ。二人の姿を見て納得した女将は、近くに座っていた酔っぱらいの客を別の席に移動させた。


「女将さん。おじさんたち、良かったの?」

「構わないさ、昼間ッからずっと飲んだっくれてんだからね。それよりメニューをどうぞ」


 女将さんがメニューの書かれた品書きを渡されたユフィは、隣りに座ったミーニャにもメニューを見せる。


「えっと、私はシチューとパンをお願いします」

「はいよ。ミーニャちゃんは何にするんだい?」

「えっとぉ~……わたしは」


 メニューを見ながら決めあぐねているミーニャにユフィはそっと耳打ちした。


「ミーニャちゃん、お金のことは気にしないで好きなの頼んでいいからね」

「うん!それじゃあ、これにするね」


 そう言ってミーニャが選んだのは今晩の夕飯になるはずだった鶏肉の香草焼きを選んだ。

 それを見て何だかいたたまれない気持ちになったユフィは、なんの屈託もないミーニャの顔を見て申し訳の無さとともに心にダメージを負った。


「…………ミーニャちゃん、デザートもいいよ」

「いいの?」

「……うん。いいよ」


 申し訳なさからか目から光が消えてしまったユフィ、その横で嬉しそうにメニューの中からデザートを選んでいるミーニャだった。

 注文を終えてしばらくして運ばれてきた料理をユフィとミーニャは、楽しそうに喋りながら食べている。


「あっ、ミーニャちゃんお口汚れちゃってるよ?」

「えっ?どこ?」

「じっとしてて、お姉さんが取ってあげるから」


 スカートのポケットの中からハンカチを取り出して口元を拭ってあげる。


「お姉ちゃんありがと」


 ミーニャの笑顔を見て胸を貫かれたように錯覚したユフィは、横で笑顔を浮かべているミーニャの頭を撫でている。


「やっぱり妹はいいなぁ~」

「お姉ちゃん、妹がほしいの?」

「うぅ~ん。パーシーちゃんも可愛いんだけど、やっぱり妹は別かも~」


 前の世界では兄弟は居なかったユフィだが、この世界にはパーシーという弟ができた。

 親のことであまりいいたくはないが、妹も産んでくれないかなかなとどわりと本気でそう考えているユフィであった。


「あら、ユフィとミーニャではありませんか」


 名前を呼ばれたユフィとミーニャが振り返ると、みなれた深い緑色の髪のエルフの女性クレイアルラが立っていた。


「先生、こんばんわ」

「こんばんわルラ先生、どうしたんですかこんな時間に?」

「仕事で遅くなったので、ここで食事をと思い来たんです」


 そう言いながら空いていた隣に腰を下ろすとすぐに女将さんがやって来た。


「あら先生じゃない、珍しいね。何にする?」

「そうですね。エールとミートパイをいただけますか?」

「はいよ。すぐに用意するね」


 女将さんが奥に消えていったかと思うと、すぐに出来立てのパイとキンキンに冷えたエールを運んできたので、三人で他愛のない話をして最後のデザートが運ばれてきた時にクレイアルラがユフィに今更ながらの質問をした。


「そう言えば、あなたたちはどうしてここにいるんですか?」

「えっと、お料理失敗しちゃいまして」

「珍しいですね、ユフィが料理を失敗するなど」

「ちょっと考え事してまして」


 その考え事と言うのがスレイの事だとは言えないユフィだった。


「悩みごとでしたら、相談にのりますよ?」


 そう言われたユフィは、クレイアルラにこの話をしていいものか悩んでしまった。なぜならこれは自分で考えなければならないことだからだ。だがユフィの中にはそれでも誰かに聞いてもらいたい、そんな思いもあった。

 悩みに悩んだ末、出た答えは後者であった。


「…………私このままでいいのかなって思うんです」


 小さな声でユフィは心の中に溜めていた事を話し出した。


 ⚔☆⚔


 私はルラ先生に向かって悩んでいたことをすべて話した。

 今この時も魔物のはびこる山の中で、危険な目に遭ってるかもしれないスレイくんがいるのに、私がこんなところに居てもいいのか、こんなに楽な生活をしていてもいいのか、もしかしたら修行から帰ってきたスレイくんが、別れる前と何も変わってない私のことを見て幻滅するかもしれない………そんな事がずっと私の中で渦巻いていた。


「魔法しか使えない私は……スレイくんには追い付けないんです」


 今まで胸のなかに溜めていた言葉をすべて吐き出した私、そんな私の頭をルラ先生は優しく撫でてくれた。


「心配しすぎですよユフィ」

「で、でも……それでも何も変わってない私はスレイくんの足手まといになるかもしれないんですよ?」


 置いていかれるかも知れない……そう考えるとすごく怖い。私じゃない誰かがスレイくんの隣を一緒に歩いてると思うと、旅だちの日に私を置いていってしまうかもしれないその事を思うと、怖い。

 そんな暗いことを考えていると、ルラ先生の方から小さなため息が聞こえてきた。


「なら、あなたは何がしたいか、今何するべきなのかを考えてみなさい」

「私が……何をするべきかですか?」

「先ほど、あなたは魔法しか使えないと言いましたが、逆に言えば魔法が使える。その事があなたの強みではないですか?」

「魔法が……私の強み?」

「そうです。魔法しか使えないなら、魔法を極めればいいじゃないですか」


 たしかもそうかもしれない、だけどほんとにそれだけでいいのか私には分からない。

 魔法を極めるだけで私はスレイくんに追い付けるのかな?


「ならユフィ、魔道具を作ってみませんか?」

「魔導具を……ですか?」

「はい。スレイは剣と魔法を使っています。ならばあなたは魔法と一緒に魔道具を使えばどうですか?」

「魔道具を……一緒に使う」


 確かに前々から魔道具造りには興味あったけど、なんで今なのかな?


「魔道具は何も生活の道具だけではありません、戦闘用の魔道具も存在しています。それを作ってみないか、と私は言っているんです」


 戦闘用の魔道具、その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中にある物がよぎった。

 もし、アレが作れれば。


「あなたのやる気があれば、ですがね」


 ルラ先生のその問いの答えは、すでに決まっていた。


「私、やります!」


 こうして私は、ようやく自分のやるべきことを見つけました。

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