王都へ
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スレイたちがこれからのことについての話し合いをしている最中、国からの依頼で潜入していた中央大陸所属のSランク冒険者、その一人であるシャノンがそこにいた。
「流石に驚いてるみたいだね坊や」
「えぇ。それなりに。それと坊やはやめてください」
軽口を叩きあったスレイは突然のシャノンの登場に不意をつかれて聞きそびれたが、なぜ今一人で行動しているのかっと思った。
シャノンの相方であるウルスラの姿が見えないことに疑問を覚え訪ねようとしたその時、ユフィの方からクイックイッと袖を引かれたスレイがそちらを見ると、一目でわかるほど眼をキラキラとさせていた。
「えぇっと、どうしたのユフィ?」
「どうしたもこうしたも、スレイくん!あのダークエルフさんはだれなの!?」
「あっ、やっぱりユフィの琴線に触れちゃいましたか」
エルフ好きのユフィからは新しいエルフのシャノンさんに目が釘付けのようだった。
もはやこれは一種の病気だな、と思いながらスレイがユフィだけでなくみんなにも答えることにした。
「この人はシャノンさんこの大陸のSランク冒険者だよ」
「よろしくな」
なんともフランクな話し方だなとノクトたちが思っていると、スレイがシャノンに向かって訊ねる。
「シャノンさん、ここに来て良かったんですか?潜入のためにあの街に来てたって言ってたのに」
「それなんだがね。ちとミスっちまってね~。あの屋敷の手先の一人に見つかっちまったんだよ」
「見つかったって、ウルスラさんがいないのも関係があるんですか?」
「あぁ、見つかっちまったときにやられてね、そっちの小屋で治療を受けて休んでるよ。まぁそんで隠れてたんだが、そこの頭と貞操のお堅いエルフに頼まれてこうして呼ばれたってわけさね」
なんとも不服そうな上にこめかみと口元をピクピクと痙攣させているクレイアルラと、クレイアルラを侮辱するような笑みを浮かべながらニヤニヤとしているシャノン。
「えっ、なんですかこの空気……」
「ルラ殿の額に青筋が見えますよ……」
「うん。後で詳しく説明するわ」
そんな二人のことを見ながら事情を知っているスレイを除いた全員──以外にもジュリアとマリーも──が驚きを隠せないでいると、咳払いを一つしたクレイアルラがもう一度話し出した。
「誠にいかんではありますが、国からの依頼を受けてここに来ているこの、頭と貞操がとても弛いダークエルフに頼もうかと」
「おいクレイアルラ、喧嘩売ってんのかい?」
「国の査察官にこの街の実態を知らせてもらうことになりました。こんな下劣なダークエルフに頼むのは誠にいかんなことではありますがね!」
「よし喧嘩売ってるね。きな相手してやるよ」
同じことを二回言った上に最後にシャノンのことを睨み付けたクレイアルラと、売り言葉に買い言葉で喧嘩を始めようとするシャノン。実は仲良しなのではないかと、スレイは思った。
ちなみにその横でジュリアとマリーがコソコソとこんな事を言っていた。
「あんなルラ、久しぶりにみたわね」
「そうねぇ~久しぶりだったわぁ~」
などと話しているのをスレイたちは聞き逃さなかった。
話を戻すとクレイアルラの話にあった国の査察を受けることについては全員が、納得していた。
そんな中、貴族出身であるリーフがクレイアルラに訊ねる。
「クレイアルラ殿、それはアルファスタ家を潰すのですか?」
「えぇ、少なくともバンさんはそのつもりのようですよ。処罰もグレイと共に受ける覚悟のようです」
「あのじいさんがよく許しましたね。名を残すことに固執していたのに」
「かなりゴネられましたが、この街の現状を考えればいつ消されてもおかしくありませんからね」
今あの街では当主代行と名乗っているグレイの政策により、今までの観光地としての機能を無くし武力を保持したと場所へと変わっている。
先程レジスタンスに加わりこの場所を提供している人物にこの街のことを聞いたところ、当主代行のグレイが雇った傭兵たちは街でかなり横暴な態度を取っているそうだ。
住民に手を出してはその問題をグレイの権力によって揉み消しているそうだ。
そのため住民からはいつクーデターを起こされてもおかしくないそうだが、スレイからすればこうして反抗勢力ができてる時点で同じようなものだ。
「傍から見たら国の反抗戦力の集まりのような場所だものねここは」
「クーデターを画策していると言われても、この状況では言い逃れが出来ませんね」
「あらァ~大変ね~」
「お母さんたら、少しでいいから緊張感持ってよ~」
最後のマリーの言葉で一気に脱力しているユフィはチラリとスレイの方を見ると、何やら深刻そうな顔で考え込んでいた。
「あの今更ですけど、このまま国の調査が入ったらボクたちまで連座で……なんてことはないですよね」
なんとなく発したスレイの言葉にジュリアとミーニャが身構える。
血縁上はスレイとミーニャ、リーシャにジュリアのお腹にいる赤ちゃんはアルファスタ家の血を引いている。
もしも調査が進み国への反乱行為があったと証明されてしまえば一族すべて皆殺し、なんてこともあり得るのだがそこはきっぱりと否定された。
「その点については心配いりません」
「えっ、どうしてなんですか?」
「フリードが勘当された時点で自分の名を戸籍から抜いています」
クレイアルラの話を聞いてジュリアが目に見えて安堵したが、話はそこで終わらなかった。
「ただ、バンが除名を渋って保留していたとのことです。戸籍からは抜かれていますが、貴族院では未だに名が残されています」
「それってつまり」
「スレイたちは逃げることが出来ますが、フリードは未だに危険がついて回るということです」
子供たちは助けられるけどフリードは、その一言でジュリアに不安が募る。
「ですが、そこにいるシャノンの力を借りればどうにかあなたたちへの罪状は免除される可能性があります」
「そう、それは良かったわ」
良かった、その言葉を噛みしめながらジュリアは優しい笑みを浮かべながらお腹をさすった。
「話しているとこ済まないんだが、一つだけ問題があるんだよ」
「問題ですか、それはいったいなんなのですかシャノン?」
「そんなの一つしかいないさ。国へ報告するあたしらがあちらさんにみつかっちまったことさね」
「………そうでした、その心配が残っていましたね」
ここで一番の問題がでてきたことのクレイアルラが頭を悩ませている。
「あの、すみませんがなぜダメなのですか?」
「あたしらの存在がバレちまった時点であいつらの妨害があるに決まってる。そこのエルフ以上に頭のお堅いお役人が、依頼をしくったあたしの話を聞いてくれるかは、かなり微妙な所なのさ」
依頼の内容がこの街の実態調査ならば、その途中で見つかってしまったならその時点で依頼は失敗と見なされるので、シャノンの言っていることは正しい。
「……何とからならいんでしょうか」
「まぁ、国の方につてがあるのならば話しゃあ別なんだろうけどね。Sランク冒険者とはいえ失敗したらそんなもんさね」
ここに来て振り出しに戻るとは、スレイたちがどうしたものかと困っていると、恐る恐るといった具合にリーフが手を上げた。
「あっ、あの……少し、よろしいでしょうか」
おずおずと手を挙げながら声をかけるリーフに全員の視線が集まった。
「えっと……お役にたつかどうかは分からないのですが、私の親類がこちらにいるのでもしかしたら」
「そういえば、トリシアさんが中央大陸に行ってたんだっけ」
「はい。私の二番目の姉がこちらに嫁いでまして、つい半年ほど前に赤ちゃんを産みまして……その様子を見にこちらに来ていたんです」
リュージュ家に厄介になった時にそんな話を聞いたのを思い出していると、シャノンとクレイアルラが申し訳なさそうに話す。
「すまんが、いくら親族がいると言っても国の政治に関わる訳なんだろ」
「お心使いはありがたいですが、申し訳ありません」
「あ、いえ、私の姉は確かに関わっていないのですが、姉の旦那さまが国の役職に着いていると、前に聞いたことがありましたものでもしかしたらと」
それを聞いてクレイアルラとシャノンが顔を見合わせてから頷きあうと、クレイアルラが立ちあがりフリードたちにこの事を伝えてくると言い、小屋の中へと戻っていった。
そして、ここでなんともありがたい提案をしたリーフはみんなから称賛の言葉を受けていた。
しばらくしてフリードとバンを伴ってクレイアルラが戻ってきた。
「リーフ、確認ですがあなたの姉、その旦那と言うのは確かに国の役人なのですね?」
「真偽のほどはよくわかりませんが、おばあさまからそのような話を伺っておりました」
「わからないってことは、もしかしてリーフお姉さん会ったことはないんですか?」
「お恥ずかしながら、お姉さまの結婚式の時に少し挨拶をした程度でして」
なんだか信じていいのか信じちゃいけないのかよくわからなくなってきたが、リーフの姉の旦那なのだから余程のことはないだろうという確信はあった。
それどころかあのカルトスとトリシアが結婚を許した相手だ、立派な人なんだろうと三人で納得していた。
「しかし、その話を信じていいものかどうか」
「ですが今はそれにかけるしかありません」
フリードたちはいささか不安の残る話ではあったが、これ以上時間をかけては事態がさらに大事になってしまうかもしれないため、今使える手だてはすべて使うことにしていた。
「すまないリーフちゃん。我が家の事情に君の家族を巻き込むことになってしまって」
「いえそんなことはありませんよお義父様、私はスレイ殿に嫁ぐ身、スレイ殿のお家の問題は私の問題と同じことなにです。なので私にできることならなんでもします」
「リーフちゃん……ありがとう」
フリードがリーフに向かって感謝の言葉を告げていると、なんだか同じ婚約者の立場であるはずなのにリーフに先を行かれているような感じがしたノクトが、なんだか複雑そうな顔をしている。
「わたしだってお兄さんの婚約者なのに……」
「大丈夫だよノクトちゃん、おじさんもその事はちゃんとわかってるし、スレイくんだってノクトちゃんのこと頼りにしてるんだからね」
「ユフィお姉さん」
ユフィとノクトが小さな声で話していると、フリードが二人の方に向きなおった。
「ユフィちゃんとノクトちゃんもすまない、こんなことに巻き込んでしまって」
「おじさん。私もノクトちゃんも分かってて着いてきてるんですから、言わないでくださいよ」
「そうですよ、それにミーニャちゃんとリーシャちゃんはわたしが守りますから、安心してくださいね」
「二人とも頼む」
なんだかフリードの様子が少しおかしい、そうスレイは感じてしまったがフリードがおかしいのはいつものことかと思いつつ、もしやと思いつつここで言うのやめておこう、そうスレイは考え先程頭の中に浮かんだ言葉を胸の中にしまったのだった。
「話が済んだならあたしがゲートを開くけど、一緒に来るのはその娘と他には誰かいるのかい?」
「スレイ、悪いが行ってもらえるか」
「いいけど、じいちゃんが行った方がいいんじゃないの?家の当主で街の実質管理者なんだから」
そういってスレイはバンの方を見ると、なんとも難しそうな顔をしながらスレイに話し出した。
「その事なんじゃが、いまわしがここを離れると仲間に逃げたと思われる。それを避けるためにもここを離れるわけにはいかんのじゃ。すまんがスレイ、わしのかわりに行ってもらえるかの」
「じゃあ父さんは……行けるわけないか」
「あぁ、オレが行っちまったらここに居る奴らやジュリアさんたちを守ってやれないからな。すまんがスレイ、代理として行ってくれ」
「了解だよ。せっかくだからリーフと二人でデートでもしてくるよ」
冗談のつもりでそんなことを言うと、リーフが顔を真っ赤にしながらスレイを見ていた。
「デート、スレイ殿との初デート……それも異国の夜の街を……」
「「じぃ~」」
顔を赤く染めながら恥じらうように顔を下げているリーフと、デートという単語を聞いてユフィとノクトが羨ましそうな、嫉妬を宿した視線を送っている。
ついでにフリードたちはそろって、若いっていいね、なんでて言葉をいただいたが、冗談なのでしっかりと否定はしておく。
「いや、冗談だからね?非常時だからさすがにボクも我慢するって」
「えっ?」
「んっ?」
一瞬リーフが驚いたような声を出しスレイがガクリっとうなだれてしまい、ドンよりと暗い雰囲気がかもち出される。
「えっ、ちょっと?リーフさぁ~ん?いったいどうした!?」
全く理解できないこの状況にスレイが驚いていると、背後からなにか刺すような鋭い視線を向けられていることに気がついた。
「スレイくん、それはないと思うよ?」
「お兄さん、それはサイテーだと思います」
「スレイちゃん謝りなさい」
「ひどいわねぇ~」
「ここは師として厳しく折檻をしなければいけないかもしれませんね」
確かに一度その気にさせて突き落とすようなやり方をしたのは、さすがにひどいかとも思ったが事態が事態なので真に受けるとは思わなかった。
「ごめんリーフ、終わったらちゃんと二人でデートしよう。ノクトとユフィも、後でちゃんと一人づつデートするからそれでいいかな?」
地球でそんな台詞をいったら周りからは確実に軽蔑の目で見られる可能性があるが、こっちの世界なら問題はないどころか合法なので安心だが、割と最低な台詞な気がする。
そんなスレイの身中はお構いなしにユフィたちは顔をつき合わしてなにかを話しているかと思うと、大きく頷いてからスレイに方に向きなおった。
「はい!ちゃんと言質取りましたからねスレイ殿。デート楽しみにしていますね」
「お兄さんとの二人っきりのデート、すっごく楽しみにしていますね!」
「約束、ちゃんと守ってねよぇ~スレイくん。もしも約束を破ったら……私たちと赤ちゃん作ろっか?」
「「意義無しです!」」
「大有りですっての!旅はどうする気だよッ!?」
恥ずかしげもなく語る三人に向かってスレイが顔を赤くして叫ぶと、フリードたちからニヤニヤとした顔を頂いてしまった。
親たちから向けられる好奇の目と殺気に恥ずかしいやら背筋が凍るやらいたたまれなくなったスレイは、さっさとこの場所から消えたくなった。
「シャノンさん!早速で悪いんですがぁ、王都にゲートを開いてもらってもいいですかねぇ!?」
もはや自棄っぱちになりながらスレイが叫ぶと、こちらもニヤニヤと笑っていた。
「あいよ。いやぁ~うちの童貞坊やにもあんたの爪の垢でも煎じて飲ましてやりたいね」
「あんたねぇ、冗談言ってる場合じゃねぇって分かってんですかねぇ?」
今日だけでもかなりフラストレーションが溜まりに溜まったスレイが思わず叫んでいた。
「まぁいつまでもこんなとこに居るのもなんだね、さっ行くよ」
シャノンがゲートを開きその中にスレイと、案内のためにリーフが入っていった。
ゲートを抜けた先、そこには夕焼けに染まる空をバックに、そびえ立つ円錐上の屋根の城が見え、それと一緒に街の周りを取り囲む壁、その周りには実際には始めてみることになるが、広大な麦畑が広がっていた。