隠れ家と反乱者
物陰に隠れていたスレイは手元にある通信用プレートに写し出されたマップを見ながら首をかしげた。
「どうかしましたか?」
「いや、みんなの場所を見てたんですけど、なんかおかしくって」
先程別れたユフィたちが、今どこにいるのかそれを探すためにこうしてプレートの追跡機能を使っているのだが、ユフィが着けているはずのバッチ、その信号がどういうわけかこの街の外にあるのだ。
プレートに映し出された地図を見て、
「スレイ、もしやこの通信機?プレート?でしたか、これもしや壊れているんじゃないですか?」
「うぅ~ん……壊れては、無いと思うんですけど……実際につい昨日整備しましたし」
「ですが先程確認したとおり出入り口は塞がれてました。争ったような跡もありましたが、未だに兵士と傭兵が固めていました。それでどうしてこの印が私たちのいる反対側の山にあるんですか?」
そう、スレイの手に握られているプレートには、ユフィたちの現在地を現す表情がされているのだが、どういうわけかプレートのマップには街の反対側、それもさらに進んだ山の中腹辺りに表示が写し出されている。
「たしかに、そうですよね」
あからさまに不自然なため、これでは故障を疑われてもおかしくはない。
なのであまり信じたくはないがこのプレートの故障を疑うしないスレイだったが、追尾機能が壊れているだけだと信じたい。
「一応、連絡してみます」
通信機能まで壊れてしまったら見つかる可能性もあるがレイヴンに空から探してもらうしかない。
この通信機が壊れていませんように、そうスレイが祈りながらプレートの通信機能を立ち上げユフィの持っている通信機に繋げた。しばらくの間が空いてから、相手側の通信機に繋がった。
『スレイくん!良かった。コールも繋がらないし、いつまでもいつまでも連絡がなかったから、みんな心配したんだからね!』
「ごめんユフィ、ボクも先生も無事だから安心してってみんなに伝えておいて」
スレイは追っ手に聞かれることにないように通話だけで、映像は出していないのでプレートを耳に当てて話をしている状態だ。耳に当てたプレートから聞こえてくるユフィの声を聞きながら、ユフィたちが無事なのを確認できて安心していると、クレイアルラがスレイのことを肘でつついた。
それがどういう意味なのかを察したスレイは、小さく頷いてからユフィに向けて話しかける。
「なぁユフィ、今どこにいるのかな?プレートの追跡機能だと、なんでか分からないけど、山の中腹辺りにいることになってるんだけど」
『それであってるよ。私たちがいることろ』
「えっ、そうなの?でもどうやって、さっき街の出口を診て来たけど傭兵たちががっちり守ってたし」
『あぁ~それなんだけど……私から話すよりも実際に見てもらった方がいいから、すぐ迎えに行くね』
「なんか、結構話をはしょられた気がするけど……わかった」
『じゃあ二十分くらいで行けると思うから、街に入ったらまた連絡するから待っててね。それじゃあ』
ユフィからの通信が切られたようで、プレートからはなにも聞こえなくなった。
今さらだけど、音声オンリーの場合は通信を切った時にわかりづらい。
これは改良が必要だな、そう思いながらプレートを懐にしまったスレイは、クレイアルラにユフィとの話しをかいつまみながら説明しユフィたちが街に戻ってくるまでの間、どうやって隠れているかの話し合いになった。
⚔⚔⚔
それからしばらくして懐に入れておいたプレートから鈴の音色が聞こえてきた。
プレートを見ると通信の相手はユフィだったので、どうやら街の中に入ったらしい。
そう思いながらスレイが横に立っているクレイアルラの方を見てから通信を繋げた。
「やぁユフィ、もう街に入ったの?」
『うん。それよりスレイくん、なんか声が聞こえずらいしノイズみたいなのも酷いんだけど、いったいどこのいるの?』
「ん?どこって空の上」
当たり前のように告げるスレイ、そう今二人がいるのは街の中ではない。
地上から約十メートルほどの場所で浮かんでいるのだ。
本当は屋根の上辺りで光を屈折させて姿を消せる迷彩魔法を使って隠れよかとも思ったが、あの魔法で姿を消したとき若干ではあるが背景がおかしいので、感のいい人にはばれてしまう可能性があった。
そのためこうして十メートルもの高さにまで飛びあがり、下から見ても怪しまれないように迷彩魔法をかけて隠しているのだ。
『なんか納得したけど……それじゃあこれから、私がいる付近に降りてきて』
「わかった。通信はこのまま繋げてた方がいいかな」
『うん。そうしてもらえると助かるかも』
「了解、じゃあすぐに降りるから」
今回は周りに聞かれることはないのでスピーカーモードで話をしていたので、クレイアルラにもユフィの声は聞こえていた。
まぁ、風がかなりあるので離れた場所にいるクレイアルラの声は届かなかっただろうが、スレイがクレイアルラの方を見ると、小さくうなずいたのでプレートに映し出された場所を確認しながら、ゆっくりと地上へと降りていく。
どうやら人気のないスラムの方に向かうようだ。
周りに人がいないのを確認してから迷彩魔法を解き、顔を隠すためにフード付きのマントを羽織ったスレイと、幻影の魔法で耳を人と同じ丸い耳に変えたクレイアルラは、ユフィの姿を探している。
「幻影の魔法ですか……どうしたんですかいきなり?」
「この耳は目立ちますから、変装の意味を込めてこうしていた方がいいと思いましてね」
「ユフィが見たら、なんか嘆きそうな気がするけど……まぁ大丈夫だよな」
それはそうと、ここに呼び出したユフィはいったいどこから来るのやら、念のために空にはレイヴンを飛ばして人が来ないかを監視しているが、全く人がいないどころか人の死体が転がされている状態だった。
フリードの話ではこの街では、スラムの浮浪者にも宿屋などへ仕事を斡旋させ、それなりにスラムも安全で安心だと聞いていたが、死体が転がっている時点でもうその話に信憑性が欠けてしまっている。
それはおいておくとして、人っ子一人いないどころか街の人間すら近づこうとしてこないこの場所で、いったいユフィはどこからやって来るのか、スレイが疑問を覚えていた。
「いったいどこから来るんだ?」
そうスレイが呟き、まさか空からじゃないよな?そう思いながら空を見上げていると、足元にあるマンホールが動く音が聞こえた。
物音を聞いてサッとマンホールの近くからスレイとクレイアルラが飛び退くと同時に、スレイは剣をクレイアルラは杖を抜き構えていた。
もしもそこから出てきたのが敵なら即座に切り捨てる、その意思の元二人は武器を構えていると、地下から出てきたのはよく見慣れた人物だった。
「あっ、スレイくんもう来てたんだ、良かった。人の気配があったから確認するために出てきて良かった」
そう重そうなマンホールを持ち上げながら顔を出したのはなんとユフィだった。
「なんでそんなところから……」
「後でちゃんと説明するから、幻影魔法で隠しておいてもらえないかな?」
「あっ、あぁ、わかったよ」
スレイが周りに幻影を作り出し、マンホールの近くの空間を幻影に置き換えついでに音を消しさるサイレンスも付け加えておく。これで近づかれない限りは見つかることはないだろう。
「ユフィもう大丈夫だ」
スレイがユフィに声をかけると、マンホールがずれて中からユフィが出てくると、まず始めにスレイに抱きついた。
「もう、あんな無茶なことしないでよ。私もノクトちゃんもリーフさんも心配したんだからね」
「ごめんよ。でもあれが無茶だったら、ボクはいったい何度無茶してるんだろうね。主に死霊山なんかでさ」
「へりくつ禁止!スレイくんがあんなごろつきに負けるわけないのはわかってるけど……それでも先生が残ってくれなきゃ、手練れを何人も相手に一人で戦うことになったんだからね!それも全員を殺さずに無力化するなんて、いくらスレイくんでも無茶だからね!」
「……心配かけてごめん」
自分の胸に顔を当てているユフィの頭に手を置いて頭を撫でている。この後もう二人からも同じことを言われるのかもしれないと思うと少し恥ずかしいな、ついでにいえばジュリアからは怒られてミーニャからは泣かれて話のわかっていないリーシャからは変に慰められるんだろうな、そう思っているとスレイの横から小さな咳払いが聞こえ、そちらを見るとクレイアルラが冷ややかな目を向けていた。
「スレイもユフィも緊急事態なのでイチャつくのは後にしなさい」
「ごめんなさい」
ジュリアに怒られる前にクレイアルラから別の理由で怒られることになった。
⚔⚔⚔
その後、スレイとクレイアルラはユフィの案内で地下のパイプラインを通っていく。
その際にユフィにここが下水道ではなく温泉を引くためのパイプだということを説明され、そこでどうしてユフィたちの反応が山の方にあったか、その理由が判明した。
「それじゃあ、ユフィたちがあんな山奥にいたのはこのラインを通ったからなんだ」
「うん。それでみんなそこにある小屋で休んでるよ」
「みんなが無事なら何よりですが、しかし暑いですね」
そうパイプから漏れている熱がこの小さな道の中に熱が溜まり、真夏並みの暑さであった。
外が真冬なためそれなりではあるが厚着をしていたスレイたち、ただ歩いているだけでも汗が溢れてくる。
「もうすぐですから我慢してくださいね」
「えぇ、しかし、これが冬だから良かったですが、もし夏だったら魔法でも使わない限り熱で確実に死んでしまいますね」
「実際に夏に補修することになったら脱水で何人も死人が出てるらしいですよ」
マジで笑えない話を聞かされてスレイたちは苦笑いをしていることになった。
それからしばらくの間暑い道の中を歩いていき、ようやく蒸し風呂のような場所から出ることができたスレイたちは、ユフィの案内で隠れ家となっている小屋にたどり着いた。
そこは小屋というよりも小さな掘っ立て小屋と言った感じで、雨風はしのげそうだが仮に台風などで強い風が吹いてしまえば確実につぶれてしまいそうな場所だった。
そこを目指して歩いていく最中、ユフィがある忠告を入れた。
「あっ、入る前にスレイくんに言っておかなくちゃいけないことがあったんだけどいいかな?」
「ん?なにかあったのユフィ?」
「ここは一応レジスタンスみたいな感じなんだけど、それはわかってるよね」
「あぁ、まぁそんなところなんじゃないかなとは思ったけど、今そんな話しなくてもいいんじゃないか」
「いいから聞いてよ」
歩く足を止めてユフィはスレイに向けて話を続けていた。
「あのね、そのレジスタンスの首謀者っていうのがね」
ユフィがスレイに首謀者について話をしようとしたその時、小屋の中からフリードが出てくるのが見えた。
「スレイ、それにルラも、良かった無事だったんだな」
「父さん」
話しを途中で区切られてしまったユフィは、背後に立っていたフリードの方に振り向きながらムスッとした顔を向けている。
「おぉ、なんかオレ、ユフィちゃんに不機嫌そうな顔を向けられてしまったんだが、これはいったいどういうことなんだスレイ。説明してくれないか」
「父さんがユフィの話しを途中でぶったギったからね。怒られても仕方ないんじゃないかな?」
怒っているユフィの頭を撫でているスレイは、フリードのことを見ながら訊ねる。
「父さん、この街のレジスタンス、その首謀者って人はいったいどんな人なの?ユフィが会う前に話そうとしていたくらいだから、それがいったい誰なのか教えてくれるかな?」
「あぁ、それなんだが──」
「待たんかフリード!」
今度はフリードの声を遮るものが現れた。スレイとクレイアルラがそちらの方を見ると、そこには白髪混じりの金髪の老人が立っていた。
するとなにを思ったのか老人がスレイの近くに歩み寄ると、スレイの顔を挟み込みそして顔に穴が開くの出はないのかと思うほどみられる。そのためスレイはいささか困惑することになった。
「あっ、あの……おじいさん、一体なんですかこれ?」
「いやなに、主の顔がなにぶんそこに立っている男と似ておったためにな、ついつい見てしもうたわいな」
「えぇ~っと、ユフィさん、もしかしてさっき言おうとしてたのって」
スレイが未だにムスッとしているユフィに話しかけると、ユフィは顔をそのままの答えた。
「そうだよ。このおじいさん、スレイくんのおじいちゃん何だって」
そんなところだろうとは思ったが、まさか本当にそうだとは、スレイは老人の顔を見ながらこれからどうなるんだろうと小さなため息をついたのだった。




