逃走者
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屋敷を逃げ出したスレイたちは、この街から出るために逃げていた。
その途中で屋敷にてグレイに言われたことをユフィたちに説明していた。
その際、まだ幼いリーシャとパーシーには聞かせれる訳もないので、抱えていたユフィとミーニャが器用に耳をふさいで聞こえないようにしたが、もう一人の当事者であるミーニャ苦しそうに顔を歪めていた。
あそこに残っていたらどんなことになったか、考えるだけ恐ろしいと思い、なんとの言えない顔をして青ざめていた。
そんなミーニャのことを心配しながら話の話題を替えることにしたスレイは、もう一つ話しておかなければならないことがあったと思いだした。
「多分だけどやつの下には死霊術士がついてると思うから、みんな気を付けて」
「あっ、だから最後に部屋を破壊したんですね」
「いくら死霊術士でも、死体がバラバラならウォーキングデッドも作れませんからね」
ノクトが納得して、クレイアルラが付け加えるようにそう言っている姿を見て、スレイが険しい顔をしていた。
その理由は最後に見た光景のせいだった。
暴風を爆発させ下に落下する直前、スレイは破壊された部屋の中を確認したのが、どういう訳だがマリウスの死体が無傷に見えた。
「何かあった?」
「いや、何でもないよ」
不安そうなスレイの顔を見て心配そうに訪ねたユフィだったが、スレイはそれを否定した。
落ちている間の一瞬のことだったので、もしかしたら見間違えだったのかもしれない。
暴風の爆発を受けて部屋は破壊され、転がっていた死体も派手に吹き飛ばされていたため、一つだけ無事ということはかなり不自然なこと起こるはずがないのだ。
だが一度感じてしまった疑問がそ頭の中で引っ掛かり、どうも嫌な予感がしていた。
スレイが難しい顔をして考え事をしていると、正面から声が聞こえてきた。
「いたぞ!」
「こっちだッ!」
剣や槍を持った鎧姿の兵士たち集まってくる。
「クソッ、あいつらか」
フリードの反応からして彼らは屋敷や町の中にいた傭兵ではなく正式にアルファスタ家に雇われた衛兵のようだ。
なかにはフリードの昔なじみもいるかも知れないが、今となっては衛兵だろうが傭兵だろうが敵には代わりない。そう割り切りを付けたフリードは、後ろにいるクレイアルラに指示を出す。
「ルラ魔法を頼むぞ!」
「任せなさい!──サイクロン!」
まだ街中と言うことで殺傷能力の低いサイクロンを使用したクレイアルラ。
風の嵐によって衛兵たちは吹き飛び、地面を転がって気絶していく。
この魔法を選んだ理由としては無意味に殺して、敵の死霊術士にウォーキングデッドを増やさせないためにと、もう一つ理由があった。
「サンキューなルラ」
「傭兵と違い衛兵たちには罪がありませんからね」
彼らは職務を全うしているだけ、金で雇われ私欲にために動いている傭兵とは違うのだ。
前にいた障害を排除すると今度は、背後から迫ってくる敵がいた。
「スレイ殿!後ろかの敵が増えています!」
「───っ!」
リーフの声を聞き走りながら背後を振り返ったスレイは顔をしかめる。
ゾロゾロと後ろから追ってくる数十人からなる傭兵たち。その中で何人かはただならぬ気配を感じ取りながら、戦うのはどうにかしてさぇたいと考えるが、それとは別にスレイは叫ばず入られなかった。
「あれはまずい!」
「嘘ですよね!?」
「関係ない人もいるのに!」
スレイの声に反応するようノクトとジュリアも叫んだ。追ってくる傭兵の中には弓を持っている者もいるのだ。
走りながら、それも十人単位で放たれた矢はどこへ飛んでいくかわからない。それにまだ近くには一般人までいる。流れ矢の被害を考えたらあんな物使うはずないと考えたが、傭兵たちは違った。
弓に矢を携えるのを見たスレイは身体を足を止めて身を翻すと、片手を真っ直ぐに敵の方へと掲げる。
「そんな物使うなよ!───シールド!」
道全体を覆うようにシールドを発動させ、飛来する矢を防いだ。
「早く隠れろッ!」
スレイの声を聞き関係のない人たちが一斉に逃げていった。
シールドによって弾かれた矢が地面に落ちていくなか、弾かれたのにも関わらず傭兵たちが弓に次の矢を携えるのを見たスレイは、後ろから矢を射られるのも面倒だと思い鞘に収まっていた黒い剣を抜き放ち構える。
「スレイちゃん!なにやってるの!!」
「行って!ここに残ってみんなが逃げる時間を稼ぐから」
地面に黒い剣を突き刺したスレイは、この場に関係のない一般人がいないことを確認すると自分の後ろにある道を含め、今スレイたちの通ってきた道以外の横道すべてに、無数の魔方陣が浮かび上がり地面から土の壁がせりあがってきた。
「道を塞ぐ───アースウォール!」
今通りすぎたばかりの道に壁が出来始めたのを見たクレイアルラは、スレイが何をしようとしているのかを理解し、急ブレーキをかけるように立ち止まる。
「先生!?」
「おいルラ!どうする気だ!」
「そちらは任せましたよフリード!ユフィ!」
身を翻したクレイアルラが元の道へと走り出すと、段々と背の高くなる壁を強化した足で飛び越えスレイの横に並んだ。
隣に着地したクレイアルラに驚いた表情を向けたスレイは、なんともバツの悪そうな顔をした。
「せっ、先生?何してるんですか……せっかく一人でカッコつけたのに無駄になったじゃないですか~」
「何をバカなことを言っているんですか?」
呆れたように息を吐くクレイアルラ、その呆れた顔を見ながらスレイは話し出した。
「先生にはミーニャとリーシャを、近くで守っていて欲しかったんですが?」
「ミーニャとリーシャのことはユフィたちに任せてきましたので大丈夫です」
「いや、そういうことを言ってるのではなくてですね……」
「あの人数はあなたでも苦戦しそうです。それに……どうやらあの中には手練れも数人混ざっているようですから」
「気付かれてましたよね、やはり」
「当たり前です。それと、私だけじゃなくミーニャたち以外は全員、気付いていましたよ」
ミーニャはあまり戦ったことがないので仕方ないだろうと思っていると、クレイアルラが鋭い視線を傭兵たちに向けていた。
いや、より正確に言えば傭兵たちではなく、傭兵たちの中にいる特定の数人の顔を睨み付けていた。
鋭い視線の先にいた男たちをスレイも順におってみると、その全員がすべて不適な笑みを浮かべながらクレイアルラに睨み返していた。
「あの者たちの顔は以前、この大陸でと仕事をしたときに共に。あの者たちはこの大陸のSランク冒険者です」
「Sランク……父さんたち以外の」
「怖いですか、スレイ?」
心配そうに訊ねてくるクレイアルラだったが、スレイは大きく首を横に降ると、口許を大きくつり上げ不適な笑みを浮かべながらこう答えた。
「まかさ、全然!強い強敵との戦い、全てを出しきる戦い、すごくワクワクするじゃないですか!」
最近はあまり純粋な強敵との戦いをすることがなかった。
ナイトレシアでの対抗戦はあくまでも生徒たちのために戦いであったため、スレイはあまり戦えなかった。
使徒は強敵であることには代わりないが、世界の命運にため必ず倒さなければならない戦いであり、なにかを得られるような戦いではない。
そしてクロガネとの戦いは、今の感覚に近かったのかもしれない、出せる力のすべてを出しあって戦うライバルみたいな存在だった……でも、今は違う。
クロガネは倒さなければならない敵であり、何があっても勝たなければならない敵だからか、あの時のスレイはクロガネとの戦いでは、純粋な闘志ではなく敵意を向けて斬りあった。
だからなのか、純粋にこの戦いを楽しみたいそう思ってしまった。
不適な笑みを浮かべているスレイの横で、クレイアルラは大きなため息を一つついた。
「こんなときでなければ、ということは分かっていますよねスレイ?」
「分かってますって、とりあえず行きましょうか先生」
剣を構えたスレイが傭兵たちへと向かっていき、クレイアルラがそれを後ろからサポートする。
⚔⚔⚔
スレイとクレイアルラが離れた後、しばらくの間はユフィたちを追ってくる者はいなかった。そのためユフィたちはすでに街の出口へとたどり着いていた。
フリードが民家と民家の間から顔を出して様子をうかがっている。視線を向けている出入り口の先には、物々しい武装で固めた兵士や、山賊と見間違える傭兵たちで溢れかえっていた。
「よくもまぁこれほど集めたもんだ、あいついくら使ったんだ?」
これでは出ていったら確実に捕まらないにしても子供二人と、妊婦二人と木こり一人を守りながらは突破出来ないだろう。
偵察を終えたフリードが、その場を離れユフィたちの待っている広場へと戻った。
「向こうはダメだ。がっちり固められてる」
「そう。じゃあ二人が来るまでここに待機かしらね」
「そうなるな。しっかし、ここも前以上に物騒な場所になったな」
この場所はこの街のスラムのような場所で、二十年ほど前なら確実に恐喝や窃盗にあってた場所だったらしいが、どうやら領主代行であるグレイが傭兵たちがすべて排除したのか、地面には乾いた血の後やらが目立った。そのため今は人っ子一人いない廃墟のような場所だと、フリードは語っていた。
「おいフリード、ここ以外に抜け出せる場所はないのか?」
「ねぇよ、そんなもん。この街の出入り口は始めに転移させられたあの場所と、今オレたちのいるこの場所だけだ。あの屋敷から一番近かったのがここだったんだが、引き返しても無駄だろうしな」
「戦って勝てないってことはないと思うけど……私もマリーもこんな状態だから」
「私は戦いっても良いんだけどねぇ~」
「お母さん?そんなこと言ってると私が眠らせるからね?」
ユフィが少し離れた場所に腰を下ろしていたマリーに杖を向け、宝珠に催眠魔法の術式を展開させながら少しだけ声を低くさせて怒っていた。
ついでに心の中では、妊婦が何てこと言ってんの!っとツッコミを入れながらユフィが真顔でマリーを睨み付けた。
「あらあらぁ~、冗談よぉ~」
「ホントかなぁ~」
マリーはおっとりと笑ってはいたもののすぐにユフィから視線を外したのを見て、絶対に冗談ではないと確信を持った。
しらけた目でマリーを見るユフィだったが、そのマリーの背後の影から人のようなものが浮かび上がり、日の光を浴びて煌めくのはどうやらナイフのようだ。
あれは、影の中に入り込めるシャドーハイド!?あの影から出てくるナイフ、それがどういう魔法なにかを悟ったユフィが叫ぶ。
「お母さん避けて!」
「──ッ!?マリーッ!!」
ユフィとゴードンの叫び声を聞いてフリードとリーフがすぐに動いたが、二人の要る位置では間に合わない。
そう思ったユフィが先程マリーに向けて発動しようと思い杖に溜めたままの催眠魔法の魔力を、シールドを発動するために変換しようとした。
だがマリーと影との距離が近すぎて無理だと思ったユフィが牽制の意味を込めて、杖を投擲することも考えたがそのどちらもマリーに近すぎて出来ない。
間に合わないとユフィが悔しそうに思ったその時、なんとも緊張感のない声が聞こえた。
「えい♪」
バコン!っとなんともアニメかなんかに出てきそうな音を立てて、見事なアーチの弧を描きながら影から出てきた人は吹き飛び、近く積み上げられていた気で出来た箱を破壊した。
「あらあら、妊婦だからってぇ~甘く見ちゃ~痛い目見ることになるわよぉ~」
いつも通りおっとりとしたしゃべり方だったが、マリーの目は真剣そのもの。
いつもは優しい笑みを浮かべている目元はつり上げられ、その眼差しには殺気が込められていた。
始めてみるマリーの表情に、ユフィは微かに気圧されてしまってしまった。
「さすが、マリーだな」
なぜかゴードンが自慢げに胸を張っているのをよそに、ユフィたちはしまったと思っていた。今の音で確実にあの兵士や傭兵たちにはバレてしまったかもしれない、それともう一つ。
「あなたぁ~そこ、どいた方がいいと思うわよぉ~」
マリーがゴードンのすぐ側に石を投げると、ゴードンの背後から出てきた敵の頭に命中し倒れた。
どうやらシャドーハイドで潜んでいるのはまだ要るらしく、すでに気配で居場所を見つけてはいても出てくるまでは攻撃のしようがない。影から出す方法が無い訳ではないが、普通ならばこちらも動きが封じられるのであまりおすすめは出来ないのだが、
「みんなこれをすぐにかけて!」
ユフィが空間収納から無骨のサングラスを取り出してみんなに渡す。なぜ人数分のサングラスがあったかについては、秘密と言うことで一つ。
みんながサングラスを受け取ったときにも敵が出てきたが、それはすべてフリードとリーフそしてノクトが倒してくれていた。
みんながサングラスを着けたのを確認したユフィは、空間収納が付与されたポーチの中から拳大ほどの小さなボールのような物を取り出した。
「お姉さん、何ですかそれは?」
「前にスレイくんが作ってあんまり使わなかった物、こんなときだけ貰っておいて良かったよ~」
ユフィが手に持った物をみたフリードちジュリアは、あれがなんなのかを思い出した。
「ユフィちゃん!それってまさか!?」
「それだけはやめなさいユフィちゃん!」
あのボールのような物の威力を知っている二人がユフィを止めようとするが、ときすでに遅し。安全ピンを抜かれた魔道具をユフィは地面に叩きつけた。
ピカーっと目映い輝きを放ったそれは、かつてスレイが太陽光収縮魔法の威力調節の実験の一環で作り出した、太陽光収縮式スタングレネードだった。
それを地面に叩きつけられた次の瞬間、足元から大量の光が溢れだし影を作ったが、強すぎる光では影をも照らし焼き付くす。急に消えた影から出てきた敵は次の瞬間、膨大な光によって目を焼かれる。
「「「「「ぎぃやぁあああああああああっ!?」」」」」
影の中から出てきた敵は全員両手で顔を押さえながら地面をのたうち回っていた。
「やっちまったか」
遠くから足音が聞こえてくる。こうなることはわかっていたので止めたのだが、やってしまった物は仕方ない、そうフリードとジュリアが武器を手にしようとしたとき、自分たちの足元から声が聞こえた。
「こっちじゃ!フリード!」
声は足元、全員がそちらを見るとそこはマンホール、どうやら下水道へ降りるための場所、そこから出てきた老人がフリードを呼んでいた。
名前を呼ばれたフリードは、その声の主の顔を見て驚いた。
「あんたは!」
「話は後じゃフリード!ほれほれ、さっさとせんと傭兵どもが来るぞ!」
「………ゴードン、先に入って子供たちを下ろしてやれ!」
「おっ、おう」
敵が来ているのでユフィはゲートシェルを使い……たかったが、使えないので代わりにオウルとスワローに頼んで先程のスタングレネードを向かってくる敵の眼前に落としてきてもらった。
遠くから聞こえてくる男たちの悲鳴を聞きながら、全員が行ったのを確認しユフィたちも下に降りていった。
「うわっ、下水道じゃなかったんだ」
最後に入ったユフィが小さなホールのような場所に、無数に張り巡らせたパイプとそこから立ち込める湯気を見ながらそう呟く。
「ここは温泉の原水を引いてるラインだ。山から直接流してきてここを通して各家庭に湯を送ってるんだ」
「正確に言えばパイプの補修用の入り口じゃが、……このままここにいるわけにはいかぬ、この先に隠れ家があるでの、来てくれぬか?」
フリードと老人がユフィの呟きに訂正を入れていたが、そんなことよりも一つ気になっていたのだが、この老人がいったい誰なのか、そしてなぜフリードの名前を知っていてみんなを助けたのかと言うことだった。
補修用の通路をあるきながらリーフがフリードに訊ねる。
「あのお義父様、そのお方はいったいどなたなのですか?」
「……うぅーん、ここまで来りゃ安心だし紹介してもいいか?」
フリードが先を歩く老人に訊ねると、老人は振り向きながら頷いた。
「構わんぞ」
「そんじゃあ、このじいさんはバン・アルファスタ、この街の当主だな」
簡単に説明されたが、どうやらフリードの父だった。