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死霊術士

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 今日は何度も取り囲まれる日だ。

 そう思いながらスレイとフリードは立ちあがると自分達が座っていたソファを蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた椅子はガシャンと音を立てて砕けると、ゆっくりと近づこうとした傭兵を牽制する。二人は窓の方へとゆっくりと後退しながら、自分達の取り囲んでいる野党まがいの傭兵たちを睨み付けた。


「おいグレイ、これはなんのつもりだ?オレたちをどうするつもりなんだ?」

「さっき言ったでしょう。あなたたちには死んでもらう、そして私は手にいれるんだ、私だけの永遠に年を取らない愛しき女を、あぁ、そのためにはあなたたちは邪魔なんだよ。お願いだ、私のために死んでくれ」


 もはや完全に狂っているとしか言いようのないグレイの台詞に、スレイとフリードはもはや隠そうとはしない敵意を向ける。

グレイと戦うことを決めたのだが、今の二人の腰には剣は持っていない。

 正確に言えばスレイの武器はすべて空間収納に仕舞われている。

 フリードは空間収納と同じ効果を持つポーチに入れられてたが、この部屋に入る前に二人とも手荷物は全て執事が持っていってしまった。

 実際に武器を持っていないのはフリードだけだが、空間収納に剣をしまっているスレイも取り囲まれたこの状況で、剣を出している隙は与えてもられないだろう。

 グレイに対して警戒を解かないまま、フリードはスレイに向けて問いかけた。


「おいスレイ、あいつの言っている永遠に年を取らないって、いったいあいつは二人に何をする気なんだ?」

「考えられることはいくつか有るけど、たぶんこの状況なら一つしか無いんじゃない?」


 殺してその死体を永遠に氷のなかで眠らせる。

 考えただけでもゾッとするが、今目の前にいる相手なら実際にやりかねないので、余計にたちが悪い。

 それを聞いたフリードも同じような感想を思ったと同時に、娘を殺そうとしている自分の弟に対して明確な殺意を抱いてしまっていたのだが、スレイがフリードに話した事を聞いたグレイは目を丸くしながら驚いていた。


「氷の中で眠らせる?何をバカな事を言うんだい?そんなわけ無いじゃないか、あの二人は私の側で共に生きるのだよ、そのままの姿を保ったまま永遠に、この私が死ぬその時までね」


 グレイが自身の身を抱き締めながら狂ったようにそう言うと、フリードその言葉の意味を理解できずにいると、すぐ隣りにいるスレイから、フリードでも気圧されてしまうほどの殺気が流れ出す。


「まさか、死霊術……いいやネクロマンスを使うつもりか?」


 ネクロマンス、別名死霊術とも呼ばれるこの魔法は簡単に言えば死体を操る術のことだ。

 操られた死体は術者の思い通りに動かすことができ、契約を破棄しない限りその肉体は消滅することなく永遠にその外見を保ち続ける。

 その死体はグール等と違い魔物ではなく、使い魔に分類されるが東方大陸にある魔法大国マルグリット魔法国では、死者の冒涜とされる死霊術は禁術指定を受けている。

 多くの国でも禁術と使用を禁じられている魔法なのだが、目の前の男はそれを使おうとしている。

 それを知ったスレイは全身から溢れんばかりの殺気を放っていたが、どういうわけか頭だけはとても冷静でいられた。

 殺気のお陰で取り囲んでいた傭兵たちの動きが止まっているのを確認したスレイは、袖のなかに隠し持っていたシェルを取り出し、魔力を流して起動させると後ろに投げる。


「父さん、合図したら後ろに飛んで」


 小さな声で、それもフリードにだけしか聞こえないような声でそう言うと、フリードはにも言わなかったがそれが了解という意味なのだと理解した。

 そのまま殺気を緩めずにいたスレイだったが、急に殺気を解くと好機とばかりに傭兵たちがスレイたちに向かって押し寄せてきた。


「今だ!飛んで!!」


 スレイが合図すると同時に踵を返すと、スレイとフリードが窓を割って下に落ちた。

 割れたガラスが空中に散乱する中、スレイは起動させていたゲートシェルに魔力を流し、対となっているゲートシェルの出口へと飛んだ。


 窓から落ちたスレイとフリードを見るためにグレイが駆け寄るが、そこにもう誰の姿もなかった。

 逃げられたと思ったグレイは、集まっていた傭兵たちに声を張り上げる。


「あの二人を探せ!まだ遠くには行っていないはずだ!見つけたら確実に殺せ!」

「屋敷に残っている女どもはどうしますか?」

「好きにしろただしあの白髪の少女たちは私のだ、殺すのも手を出すのもダメだ、殺すなら私自らの手でする」

「へい分かりやした」


 傭兵たちがそう答えるとすぐに仲間をつれて部屋を出ていった。そしてそんな彼らと入れ替わるように、ずっと部屋の隅で控えていた黒いローブの女がグレイの前へとやって来る。


「グレイさま、ここから逃げられぬように転移阻害の結界を起動させてはいかがでしょうか?」

「そうか、お前に任せよう」

「かしこまりました」

「ふっ、全く君は優秀だね。そんな君には後で褒美を与えなければいけないね」

「でしたら、私にまた一夜の寵愛を頂きたいと思います」

「構わないよ。それくらいですむならね」


 グレイはローブの女を抱き寄せ、そして小さく微笑んだのだった。


⚔⚔⚔


 案内された部屋で、何かあったときのためにと集まっていたユフィたちは、出されたお茶もお菓子もなにも手を付けずにいた。

 当たり前だが呪い付の手紙を贈ってきたり、ついて早々に刃を向けてきた相手ならば出された物にも、いったいなんが入れられているか分かったものじゃない。

 リーシャは食べたそうに出されたお菓子を見ていたが、毒でも入っていたら洒落にならない。

 その代わりにユフィが代わりのクッキーを与えることで落ち着いた。


「お兄ちゃんとお父さん、大丈夫なのかな?」

「心配ないわよ、お父さんもお兄ちゃんも危険なことをするはずはないから」

「おかーさん、だいじょーぶ?」

「えぇ、大丈夫よ。それよりもリーシャちゃん。お菓子まだ食べたい?」

「うん!」


 リーシャにクッキーを渡したジュリア。

 そんな様子を少し離れたところから見ていたユフィたちは、自然と部屋の中央に設置していたゲートシェルの前に集まっていた。


 なにかあったときのためにと、スレイがユフィに設置を依頼してあった物だ。

 もしもゲートが開いた時に何があっても対処出来るようにとユフィたちは各々の武器をもって──ユフィはガントレットを装備し──集まっていたのだが、気を引き閉めているのにも関わらずまったくゲートが開く気配がなかった。


「心配しすぎだったんでしょうか?」

「まぁ、あんなもの見せられたら警戒してもおかしくないですよ」


 ユフィとリーフが小声で話し合っていると、突然ゲートシェルが起動した。


「「────ッ!?」」


 ゲートが開くのを見てユフィが拳を、リーフが盾をクレイアルラとノクトが杖を掲げる。

 ゴクリと息を呑みゲートを睨んでいるとゲートから二つの影が飛び出してきた。


「うわぁあああああっ!?」

「うおっ!?」


 声を聞いてゲートから出てきたのがスレイとフリードだと気づいたユフィたち、がだ二人が空中に浮かんでいたのを見て慌ててその場から横に飛びのく。しかし、一人運悪く逃げ遅れた者がいた。


「きゃあっ!」


 スレイの下敷きとなったのはノクトだった。

 ノクトに覆い被さるように落ちたスレイは、どこかの漫画に出てきそうな状態となってしまった。押し倒したノクトの上に覆い被さるような体勢になったスレイの左手は、ノクトの膨らみかけの小さな胸の押し当てられていた。


「わっ、ごごめんノクト!?」

「い、いいいいいいいえ、そそそその、わたし初めてなのでやさしく」

「ノクトがショートしたっ!?」


 熟れたトマト並みに顔を真っ赤に染め上げたノクトが、訳のわからない事を言い出したと思うと顔から湯気を立ち上らせながら頭が爆発した。


「お前、こんな非常事態に何を……」

「なにもしてませんけど!?あぁもう!」


 頭がショートしたノクトは未だに頭から煙をあげていた。それを見たスレイはこれ以上時間をかけるわけにはいかないので、スレイがノクトを抱き上げ地面に転がっていた杖も一緒に拾い上げた。


「ユフィ!リーフ!すぐにこの屋敷を出るぞ!リーシャとパーシーくんを頼む」

「ゴードン!マリー抱えてこい逃げるぞ!」


 スレイとフリードが早口で指示を出すと、いまいち事態を把握しきれていないみんなが質問を投げ掛けてきたが、いちいち全員の質問にこたえているいうな時間がないので、全員に武器を出させて逃げる準備を進めていると、部屋の扉が勢いよく開けられ傭兵たちが押し寄せてきた。


「しまった、もう来やがった!」


 フリードが悪態を着きながら応戦しようしているのを見たスレイは周りに視線を向ける。

 まだ準備が終わっていないみんなは動けない、スレイ自身もノクトを抱えているため剣が出せないが、その代わりにノクトの杖を持っている。


「杖を借りるぞノクト!」


 スレイが手に持っている杖に魔力を流して具合を確かめてみる。なにぶん久しぶりに杖で魔法を使うので、かなり感覚がおぼろげなためうまく魔力が安定しない、ならばと安定するまで魔力をながし続けた。


「父さんそこどいてっ!」

「─────っ!」

「──ブリザード!」


 スレイが放った魔法は入ってきた傭兵たちを凍らせただけでなく部屋までも凍りつかせた。

 吹き荒れる氷の冷気がやむと、そこには先程まで生きていた人間の入った氷の氷像が出来上がっていた。


「はっ?」

「えぇっ?」


 みんなが驚きのあまり目を点にしていると、氷像に大きなヒビが走り中に閉じ込められていた傭兵ごと粉々に砕けてしまった。

 本来なら足止め程度の威力しかでないはずの魔法でこんなことになったのだ。

 驚くなという方が無理がある。


「「「……………………」」」


 これをやった本人はどんな気持ちでやったのかと、張本人であるスレイを見るとやった本人が一番驚いていた。

 曰くどうしようこれ、とでも言いたげなスレイがいた。

 全員が何も言えずに固まっていると外から大勢が集まってくる足音が聞こえてきた。


「仕方がありません──アイスウォール」


 足止めのかわりにとクレイアルラが砕けた扉の入り口を塞ぐように、アイスウォールで氷の壁を作り穴をふさいだ。

 これで一安心ということでここからは尋問タイムが始まった。


「スレイくん、一体どれだけの魔力を流したの?」

「えっと、初めは普通にでもなかなか安定しなかったらか、ちょっと多目に」

「具体的にどれくらい?」

「たぶん業火を作り出せるくらい」


 真面目に答えた瞬間、ユフィからは拳でなぐられ、抱き抱えているノクトからは平手を受け、ジュリアとクレイアルラそしてミーニャからは杖で叩かれた。


「スレイ、あなたはもう杖を使っての魔法は禁止します」

「はい、申し訳ありません」


 魔法の先生であるクレイアルラから、魔法を杖なしで使用しろとのお達しを受けたスレイ。

 こんなことをしてしまった手前、潔くこのお達しを受け入れることにした。


「ってか、そんなことしてる場合じゃないぞ!」

「父さん!この街って転移阻害の結界張ってないんだよね?」

「そのはずだ!」

「ならっ──ゲート!」


 スレイがここから逃げるためにゲートを発動させたが、いつもならすぐに開かれるはずにゲートは開かれることはなかった。


「クソッ!もう一度──ゲート!」


 遠距離への転移が不可能なら近場ではどうだと思いもう一度ゲートを開いたが、そちらも開かなかった。

 ゲートが使えないのを見たフリードは悔しそうにしながら呟いた。


「クソッ!結界が発動されのか」

「どうしますか」

「どうするもこうするも、逃げ場を探すしかないだろ!」


 フリードが窓の方に駆け寄って外を見ると庭の方にはまだ誰もいない。

 だがここは四階、闘気や魔法を使えるスレイたちならば問題ない高さだが、ジュリアもマリーもお腹には子供がいるためあまり無理はさせられない。

 それにゴードンは闘気も魔力も持っていないので確実に怪我をする。


「こっちもダメそうだ」

「父さん、ちょっと下見せてくれる?」

「おっ、おい、どうすんだスレイ」

「……うん、これくらいなら多分大丈夫だと思うよ」


 どうするか、と考えていたフリードを押し退けるようにスレイが窓に立つと、空間収納を開いて中からかなりの長さの鎖を取り出した。


「おい。まさかそれをロープ代わりにするつもりか?」

「そんなところ」


 取り出した鎖を一度下に垂らすと、あまりの長さを確認してすぐにてもとに引き戻したスレイは鎖の束に魔力を通した。

 すると鎖はひとりでに動き出した。


「黒鎖、二人を絡めとれ」


 スレイが取り出したのは鎖型魔道具の黒鎖。それを使いジュリアとマリーの身体を絡めとると、鎖に付与されていたグラビティーを発動させる。

 二人の体重を無くし空中に浮かび上がらせてすぐに下ろした。


「これで母さんたちを下ろす。なにか質問は?」

「ちょっとぉ~これはぁ~怖いわぁ~」

「それは我慢してください。母さんは?」

「ないわ。任せるわ」


 二人の了承を経たスレイはフリードの方を見ると、フリードはにっと笑って答える。


「さすがオレの息子。そっちは任せたぞ!」

「任された」

「そんじゃ、オレが先に降りる。安全だと判断したら順に降りてきてくれ」


 後を頼みフリードが始めに庭へ飛び降りると周りの安全を確認する。

 窓の枠からこちらを覗き込んでいたリーフに合図を送る。


「お義父さまから合図です」

「リーフ、先に行って父さんと下の安全確保して」

「分かりました」


 フリードから降りてくるように指示をもらい、戦闘になったらという理由でリーフを先に行かせ、その後からクレイアルラ、ノクト、ミーニャと順に降りていった。

 これであとは妊婦二人と幼子二人、それに木こりが一人になった。


「先に母さんとおばさんを降ろすよ」

「お願いするわぁ~」

「任せたわよスレイちゃん」


 二身重の人を慎重におろしながらスレイはいまだに残っているユフィに声をかける。


「ユフィも先に行っていいんだよ?」

「いいよ、それにあの氷の扉いつ壊されてもおかしくないよね」


 実を言うと少し前から氷の扉の向こうから物音が聞こえている。

 どうやら外にいる奴らが壁を壊そうと何かを激しく打ち付けているようだ。あの氷の壁がいつ壊されてもおかしくはない。


「少しの間、持たせておくよ」

「助かるよユフィ」


 もしもユフィがいなかったら黒鎖を操作しながらやるつもりだったので助かった。

 ユフィがガントレットを着けたまま杖を握ると、氷の壁にシールドの魔法を付与して時間を稼ぐ。

 二人を下までおろしたスレイは残った三人を一気に運ぶことにした。


「おじさん、時間がないから三人を一気に運びます。リーシャとパーシーくんをしっかり抱いててください」

「あぁ」


 リーシャとパーシーを抱きかかえるゴードンを黒鎖で持ち上げてすばやく下へとおろしたスレイは、壁に魔力を流し続けるユフィに叫んだ。


「ユフィ、もういい先に行ってくれ」

「スレイくんはどうする気なの?」

「ちょっと借りを返しておくだけ」


 そう言ってスレイは一枚に紙を見せると、ユフィはすぐにスレイが何をしようとするのか察した。


「わかった。先に行くね」


 それだけ言い残してたユフィが窓から飛び降りた。


「さて、仕上げと行きますか」


 時間も無いのですぐに行動に移したスレイは氷の壁に手を触れると、手に炎を纏い氷を溶かし穴を開けるとその中に紙をいれてもう一度穴をふさいだ。


「これでよし。それじゃボクも」


 仕掛けも終わり窓際まで走り出した。

 スレイが立ち去ってすぐに氷の割れるような音と、男の悲鳴が聞こえたのを聞こえてくる。

 どうやら仕掛けがうまくいった、そう安心していたが、背後から殺気を感じ振り返る。


「────ッ」

「シッ!」


 とそこにはここまで案内してきたマリウスが斬りかかってきた。


「なっ、いつの間に!?」

「逃がしはしませんよ」


 殺気を放たれるまで気配が全く感じられなかったが一度気付けたなら関係ない。

 振り抜かれた剣を後ろに飛びながらかわしたスレイは、空間収納から黒い剣と作り直したばかりの魔道銃アルナイルを取り出し、マリウスに向かって銃弾を放った。

 放たれた弾丸は電磁加速もなにもされていない通常弾だったが、作り直した過程で弾速を速くするように改良を施していたので、初見であるマリウスは避けられない、そう思っていたが違った。


「これは奇妙な物を使いますね」

「まっ、マリウスなにを───」


 マリウスは近くを走っていた傭兵の一人を掴み上げると、銃弾から自身を守る楯にした。

 噴き上げる血と飛び散る肉片を浴びながらマリウスは向かってきた。


「なんだこの人っ!」


 スレイが剣を抜き放つと同時に振り抜かれたマリウスの剣を受け止めると、素早い連撃がスレイを襲った。


「クッ、速いッ!?」


 マリウスとその周りを取り囲もうとする傭兵たちを警戒しながら剣と魔道銃で剣を受けるスレイ。

 このままではやられると察したスレイはどうにかしてマリウスを片付けなければと、鋭い連撃を繰り返すマリウスの攻撃を防ぎながら考える。


「守りばかりではいけませんよ」

「それはどうかなッ!」


 スレイが叫ぶと同時にマリウスの足元が光を放った。

 それはあの氷の壁の欠片、元は魔力で作られたそれが発光したことに驚いたマリウスは、なにか魔法が来るのかと身構えたが次の瞬間には光が消えてしまった。


「これは、まさか!」


 マリウスはすぐにこれがブラフであったことに気づいたが、時すでに遅し。

 まっすぐアルナイルの銃口を構えたスレイがマリウスに向かって言い放った。


「終わりだ!」

「しまった───」


 この一瞬の隙を作ったスレイが魔力を込めたアルナイルの銃弾をマリウスに撃ち込んだ。

 銃弾はマリウスの頭を撃ち抜き血と脳髄を吹き出した。

 完全に死んだと確信したスレイは残った傭兵たちも片付けようと思ったが、どうやらその必要はなさそうだった。


「マリウスがやられた!?」

「そんなバカな!?」


 マリウスの死に狼狽える傭兵たちの姿を見がスレイは、踵を返そうとしが時一度だけマリウスの死体を一瞥してから窓から地面に飛び降り、外に出た瞬間スレイは空中で身を翻しアルナイルに魔力を込める。


「吹き飛べ!───テンペスターブラスト!」


 風の魔法最上位の暴風の礫を小さな部屋の中で爆発させ、屋敷の一部を壊したスレイは落ちていき、地面にたどり着く前に身体をひねり地面に着地した。


「行くぞお前ら」


 全員が揃ったのを見たフリードがそう言うと、スレイとリーフで殿を勤め屋敷の側から離れることにした。


⚔⚔⚔


 吹き飛ばされた部屋の中には、先程の魔法のせいで吹き飛ばされた死体から、止めどなく流れ出る血が部屋の床一面を赤黒く染め上げていった。

そんな部屋の中に一人の女性が入ってきた。


「あらあら、なんともひどい有り様……まぁどうでもいいクズの集まりでしたし、死んだところで全くいたくもないんだけど、この屋敷は建て直しかしらね?」


 女は一つの死体に近づくと、ヒールの爪先で死体の頭を蹴った。


「起きなさいマリウス。寝たふりなんてしてんじゃないわよ」

「ひどい主ですね全く、頭に穴空いてるのにさらに蹴るなって」


 起き上がった死体の一つマリウスは、平然とした顔で吹き飛んだ頭から垂れ落ちる脳みそを拾っていると、女は汚らわしいものを見る目で見下していた。


「死体が生意気いってるんじゃないわよ。グレイさまのために速くあいつらを始末してきなさい」

「わかりました主よ。ですが、私の命令は逃亡中の当主であるバンの捜索ではないのですか?」

「それもへいこうして行いなさい」

「死体使いの荒い主だ」


 そう言うと、何事もないように出ていったマリウスを見てローブの女は小さな笑い声をあげたのだった。

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