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海上の一時

 あの日、呪いの事実から半月が経った。

 ジュリアにかけられた呪いを解くために、中央大陸へと向かったスレイたち一行とアルファスタ一家、そしてなぜかついてきたメルレイク一家に、妊婦であるジュリアとマリーに何かあってはいけないとついてきたクレイアルラを加えた十二人は、すでに半月近くを海の上に浮かんだ船の上で過ごしている。

 船は客に紛れてアルファスタ家からの監視がいるかもしれないのとに、今度は襲われるかもしれないと考えたフリードが船一隻を貸しきりにしたらしく、客はスレイたち以外は乗っていない。

 他に乗っているのは船員だけだ。


「ふぁ~。船、まったく動かないな~」


 武装もせずにラフな黒いシャツとズボンだけとなったスレイは、甲板に腰を下ろしながら読んでいた本を閉じる。

 大きく延びをしながらこれまた大き欠伸をして眠そうに目を擦りながら空を見上げる。

 空のにはカモメに似た鳥が飛んでおり、青い空にま真っ白な雲がゆっくりと流れなんとも穏やかな時間が過ぎていったのだった

 チャーターした船が急に動かなくなり、船の中が騒がしくなったと思ったらまた静寂が船の中を支配してから、すでに二時間が経過していた。

 その間船の止まった原因を船員と一緒に調べに言ったフリード曰く、動力部を動かすための魔石が古くなり、急に割れてしまったらしい。そのため今フリードが船長たちと航海の予定の調整をしている。


 本を読むのも飽きてきたスレイは、せっかく海の上にいるのだから久しぶりに釣りでもしようかな、っと考えたスレイは読んでいた本を空間収納にしまうと、前に知り合った船の船員にもらった釣り道具一式を取り出すと、手早く準備を済ませて海の中に針を投げ入れた。

 そのままジッと針に魚がかかるのを待っているが、その時間がなんとも言えない退屈だった。

 そのため今も何度めか分からない欠伸をしながら、いい加減なにか釣れないかと考えながら糸の先を見ていたが、まったく釣れることもなく時間だけが無駄に過ぎていった。


「暇そうだなスレイ」

「あっ、父さん、船の航路予定はどうなったの?」

「ダメだダメ、船の動力部を動かしている魔石が割れちまってるからな、帆は有るがこの凪だ当分は船が動かないんだとさ」


 船には帆が張ってあるが、風がやんでいる凪の今の状態ではまったく意味のない物だった。まさしく無用の長物と言ったところの物か。


「うまく進んでたら明日の朝には中央大陸に着いてたんだっけ?」

「あぁ、だから凪ぎが終わる時間によっては到着が夜になるかもってことだったな、っと」


 同じように船の縁に腰を下ろしたフリードが、スレイの横に置いてあった予備の釣竿を手に取り具合を確かめながら、スレイに一言、借りるぞ、っと声をかけ針にエサを付け海へと投げ入れた。それかスレイとフリードの間には沈黙が訪れた。

 釣りをするときはなぜか無言になってしまい、何か話そうと思ったスレイはフリードに訊ねる。


「そう言えば母さんたちどこ行ったか知らない?さっきまでここにいたと思ったんだけど、いつの間にかいなくなっててさ」

「ジュリアさんたちならさっき船内で合ったぞ。何でも潮風で髪が痛むんだと」

「はぁ~、女の人って大変なんだね」

「髪は女の命って言われてるくらいだしな。まぁオレらには関係ないことだな」


 スレイとフリードが笑いながら釣竿の先を見ているが、話が途切れるとまた暇な時間が流れていった。


「……しっかし釣れないね、餌にもまったく食いついてこないし」

「そうだな~、ってか、今さらなんだがお前の魔法で風吹かせられないのか?」

「やってもいいけど、船を動かす風の力が分からないから、もしかしたら帆が折れるかもしれないし、制御できても凪ぎが終わるまでボクの魔力が持つかどうかも分からないよ」

「そんじゃあ魔石はないのか?それか割れた魔石の代わりになりそうなもんとか」

「魔石だけならあるんだけど、魔道具を作るのに使ってる小粒の魔石しか持ってないし、動力源を代用するなら動力部を作り替えることになるよ」

「ちなみに、それだとどれくらいかかんだ?」

「調整やらなにやらを合わせてだいたい一週間くらいかな」

「けっこうかっかんだな」


 そんな軽口を叩き合いながら釣りを楽しんでいると、後ろから誰かがやってくる気配を感じた。


「親子で釣りですかね?」

「あぁ、船長さんこんにちは」

「はい。こんにちは、礼儀の正しいお子さんですね」

「相違ってもらえると助かります」


 少し初老で日に焼けた健康そうな顔つきに、口元には真っ白な髭と白い煙をあげているパイプタバコを咥え、黒いコートのような服に頭には帽子と、なんだか絵にかいたような船長だと思ったスレイが少し横にずれ、それを見たフリードもスレイと同じ方向に横にずれた。二人が船長が座れるだけのスペースを空けたのを見て、スレイとフリードの横に船長も腰を下ろした。


「フリードさん、先程は機関を見ていただきありがとうございました」

「そんな、結局はなにも出来てませんでしたし、オレなんかよりも息子を行かせた方が良かったですよ」

「ほぉ、お子さんは魔道具の扱いに長けているんですかね?」

「うちの息子、これでも魔道具作りが趣味でしてね。自分で作った魔道具で戦ってるんですよ」

「そうですか、君も冒険者をしているんですね」


 フリードと話していた船長の視線がスレイへと向いた。一応は話を聞いていたスレイは、聞き返すなどもすることなく船長に向けて丁寧に挨拶をすることにした。


「Cランク冒険者のスレイです。もし何かあれば行ってください」

「ほう、それはなんとも頼もしいですな」


 船長さんが微笑みながらスレイのことを見ていると、フリードの顔が意外そうなものを見る物だったため、意外と自分よりも早いランクアップに驚いているのだろう、そう思いながらパイプを吹かしていると、フリードから帰ってきた言葉はまったく違った。


「お前……まだCランクだったのか?」


 船長さんががくりと脱力した。Cランク冒険者とは冒険者の中では一人前の冒険者として知られているのにも関わらず、父親であるはずにフリードがそんなことを言うとは思わなかった。そしてスレイがムッとしながらフリードのことを睨んだ。


「まだって、冒険者になって半年しかたってないんだけど?」

「オレ、そんときにはもうBランクだったぞ」

「うっそだ~、もしかして父さん不正でもやったの?」

「いやマジマジ、まぁオレはルリックスのじいさんのパーティーに居たとき、普通にFランクんときからドラゴンの討伐にいかされたりしてたからな、そのお陰なんだろうけどな」


 なかなかすごい経歴を持っているなと思った船長さん、これにはさすがの息子であるスレイも驚いているらしく目を見開いていた。さすがにSランク冒険者の息子だからといって、駆け出しの冒険者時代にそんな経験していたら驚くに決まってる、そう思っていた船長だったが、スレイから帰ってきた言葉はとても意外な答えだった。


「父さん………何て、何て羨ましい冒険してんの!ボクだってドラゴンと戦ってみたいんだけど!」


 またしても船長さんが脱力した。まさしくこの親にしてこの子ありといった感じの親子に、呆れを通り越してもはや感心することしかできなかったが、なんとも仲の良さそうに話し込んでいるスレイとフリードを見ながら、これ以上はお邪魔するわけにはいけないな、そう思いながら船長は立ち上がった。


「さて、私はもう行きましょうかね。それでは」

「はいまた」


 スレイとフリードが頭を下げ、船室へと戻っていく船長を見送っていると、船室への入り口の辺りでちょうど出てきたユフィとノクトが船長に頭を下げから、スレイたちの方へとやってきた。


「お兄さんもお義父様もこんなとこにいたんですね」

「やぁ、ユフィちゃんノクトちゃん、旦那のお迎えかい?」

「茶化さないで父さん?」


 このやり取りは昨日もやった、まだ旦那ではないとスレイが言ったのだが、どうもユフィたちを相手にしているときにこのやり取りを一度はやらなければいけないらしい、ちなみにスレイの嫁と言われて三人はまんざらでもないご様子なので、速いところ世界を救わなければいけないと思ってしまった。


「それで、どうしたの?」

「お昼だから呼びに来たんだよ~」

「今日は船のコックさんじゃなくてわたしたちが作ったんですよ!」

「ほう、そりゃあ美味しそうだ。よかったなスレイ、愛されてて」

「父さんは一言余計だよ……でも、私たちってことはミーニャも手伝ったんじゃないの?」

「さすがに鋭いねスレイくん」


 どうやら正解だったらしいが、いいかたからしてそんな感じがしたので正解してもあまり嬉しくはなかった。


「じゃあ昼食べに行こうかな、せっかくユフィたちが作ってくれたんだからさ」

「味はお義母様たち保証付きですからね!」

「今回は失敗しなかったから安心してね!」


 ノクトからの言葉はいいのだが、ユフィよ、それはかなり心配になるから勘弁してくれ、そう思ったスレイだったが、ここは何事もなく穏便に済ませるべく、その言葉は胸の奥深くへと仕舞われたのだった。



 船内の食堂に行くと、料理を作るのを手伝っていたジュリアとマリー、そして先に来ていたらしいゴードンや幼いリーシャとパーシーがすでに席についており、呼びに来なかったリーフとミーニャ、そしてなぜかクレイアルラの三人がエプロン姿で支給をしていた。

 ちなみにそれを目当てに集まってきた船の船員が食堂に詰め寄せていたが、スレイが殺気を当てると蜘蛛の子を散らすように散っていった。


「なんで先生もエプロン姿なんですか?」

「人手が足りませんでしたので手伝ってただけですよ、それにこれは私の趣味ではありません」


 クレイアルラが付けているのはフリルのついた白いエプロンだ。それを見たスレイは、確かにクレイアルラの趣味ではないな、そう思いながら一度クレイアルラの姿を見てみる。

 いつもは纏めることもない深い緑色の髪を後ろで一本で纏められた、いわゆるポニーテール姿に加えて簡素な白いシャツに黒いハーフパンツとロングブーツ、普段ならもっと生地の多い服を着ているはずのクレイアルラからしたら、いささか生地が少ない気がする、その事を指摘すると


「実は先程水を被ってしまい、変えもなく……ユフィたちから借りたものです」

「なんで船室で水を被ったのかが気になるんですけど?」

「すみません、自分がお鍋に入れた水をかけてしまいました」


 やっぱりかと思う一方で、そんなリーフのことがいとおしいと思うのは惚れた者の弱味なんだろうな、そう思いながらもう一度クレイアルラの方を見る。


「やはり、若い子向けの服は私には似合いませんね」

「先生、良くそういうこと言いますけど先生だって十分お若いんですから」

「ふぅ、スレイは昔から口がうまいですね」

「ホントのことなんですから自信を持ってくださいよ先生」


 スレイが笑顔でそう言うと、ふふふっと微笑んだクレイアルラが何を思ったのか、少し高い位置にあるスレイの頭を撫で始めた。


「まったく、少し前までは私を見上げていたはずの子を今は私が見上げ、手の届くところにあった頭も今では私が背伸びしなければ撫でれないとは、なんとも複雑な気持ちになってしまいますね」


 クレイアルラが寂しそうな表情をしていたのを見て、少し恥ずかしい気持ちもあったがそのまま撫でられていたスレイが、つい思ったことを口にしていた。


「まるでボクのお母さんみたいですね」

「スレイもユフィも私にとっては子供のような存在ですからね」


 なんだか気になる言葉が聞こえてきた、そう思ったユフィがつい訊ねてしまった。


「ルラ先生、それどういうことですか?」

「あら、そう言えば言ってませんでしたね。二人が産まれたときに取り上げたのは私です」


 今知らされる驚愕の真実!それを知った二人の顔は驚きで固まっていた。


「そう言えば話したこと無かったわね」

「そうねぇ~」


 スレイとユフィの産みの親で妊婦の二人が椅子に腰掛けながらそう答えていた。どうも、その時から冒険者業と平行して医師の仕事をしていたらしく、偶然立ち寄ったときにジュリアのお産が始まりスレイを取り上げ、さらにその数日後にマリーのお産が始まりユフィを取り上げたらしい。ちなみに、ミーニャのときもクレイアルラに頼みたかったらしいが、その予定日に指名依頼を受けていたらしくお産には立ち会えなかったらしい。

 そんな話を食事をしながら聞いていると、クレイアルラがふとある事をおもいだした。


「今思えば、フリードとジュリア、それにマリーも私にとっては息子と娘みたいでしたね」

「勘弁しなさいよルラ、自分の息子よりも若い母親がいたら立つ瀬が無いわ」

「ルラ~やめてよぉ~」


 本気で不服そうなジュリアとマリー、フリードは苦笑いだった。

 クレイアルラはエルフなので歳をとるのは遅い。そのためスレイとユフィがクレイアルラと出会ってから、すでに十年は経っていると言うのにまったく見た目が変わっていない。それどころか、耳が丸かったらスレイたちと兄妹と言われてもおかしくない。


「確かに、自分と同じ見た目の祖母がいたらちょっと」

「あら、いつの間にか母ではなく祖母になってしまいましたね」


 スレイが冗談でそう言うと、クレイアルラが少しムッとした顔で睨み付けていた。

 そんな感じて食事は進んでいくと、ようやく凪ぎも終わり船が動き出したという報告がきた。


 そして次の日の昼過ぎ、中央大陸にたどり着いて早々スレイたちは鎧を着た兵士たちによって捕らえられたのであった。

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