呪いと監視
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アルファスタ家は貴族の家系だと教えられたのはつい最近のことだった。
元々家を継ぎたくなかった父フリードが絶縁に近い形で家を出ており、最後に連絡を取ったのもスレイが産まれた直後に一度だけフリードが直接会いに行った以降は、全く連絡を取っていなかった。
それなのについ昨日、フリードの弟であるグレイ・アルファスタから手紙が届いた。
不振に思いながらも封を開けた瞬間、手紙にかけられた呪術が発動し呪いが手紙を開けたフリードではなくジュリアにかかったらしい。
すぐにクレイアルラに解呪の儀式を執り行うよう頼んだが、呪いが強力なことと媒体である手紙にかけられた呪いが複数混ざりあっていたため解呪を諦めた。
手紙の内容に解呪の手がかりがあるかもしれない、そう言われ内容を確認しそこに書かれていることを要約すると、こういうことだ。
現当主である父もかなりの高齢なため、家の相続についての話がしたい、アルファスタ家の血の通っている者は全員出席する必要がある。
欠席は認めない、呪いはそのための誓約だ。そう書かれていた。
昨日あった出来事を聞いてから、本当にそんなことが書かれていたのか確認したくなったスレイは、受け取った手紙を読み終わり少し間を置いてから、ジュリアが入れてくれたお茶を一息で飲み干してからフリードの顔を見ながら一言。
「父さん、これって怒って良いとこだよね?」
「あぁ、我が弟ながらこれはさすがのオレも容認しがたい」
「じゃあこのグレイさんって人にあったら、顔面崩壊させるくらい殴ってもいいってこと?」
「それは止めなさい」
ピシャっとスレイの提案を跳ね除けたフリードは、呆れた表情でスレイを睨む。
「お前あいつの影響受けすぎだろ?」
「いいじゃん、人の母親に呪いかけるような親戚、殺しても文句言われないでしょ?」
大真面目な顔で言い切るスレイを見ながら、フリードが大きなため息と共に脱力し、少しだけ育て方を間違えたか?等と小声でいっている気もした。
「まぁ、殴るのは一発で勘弁してやれ、さすがに殺すのもなしだ。いいな?」
「了解。分かったよ」
そう答えて空になったカップにお茶を自分で注いでお茶を飲みだした。
話を聞いていたフリードだけでなくユフィたちも少しだけ心配そうにしながら、ホントかなぁ?っと、疑問になっていたがもしもの時は誰かが止めるだろうと、他力本願なおもいだった。
お茶を飲んでいたスレイは、思い出したように空間収納から少し前に買っておいたお茶菓子を取り出した。
「これ、ウルレアナで買ったレーズン入りのパンケーキだけど、みんな食べます?」
お茶だけでお菓子がなかったのでちょうどいいか、そんなことを思いながらだしたが味の方は申し分ないので問題はないだろう。
そう思ったのだがユフィたちが微妙な顔をしていたので、お菓子が不味かったのか!?っとあらぬ勘違いをしてしまったスレイだった。
「どうしたの?えっ?なに、ボク今何かした!?」
驚き顔のままユフィたちに訊ね返してみると、しらぁ~っとした顔のユフィが答える。
「いやぁ~、なんか今の状況でお茶菓子出すかなぁ~って」
「イヤだって、今から慌てたって仕方なでしょ?ならもう落ち着くしかないじゃん」
「ですがスレイ殿……お義母様がこんな状況で落ち着けるわけが」
「それに、お義母様のお腹にはお兄さんの弟妹がいるわけですし」
なんだかさりげなく二人が、ジュリアのことをお義母様呼ばわりしていると気付き、ツッコミをいれておくべきかとも思ったが、話が逸れそうなので今は辞めておこうと思ったとき、ポツリとミーニャ話し出した。
「お兄ちゃんはお母さんが心配じゃないの?」
そこにすかさずミーニャが訊ねる。実は今この家の中で一番不安なのはミーニャだ。
なまじ魔法に精通しているため呪術がどんなに危険なものかも知っている。もしかしたら母ジュリアが死んでしまうのではないか、その事ばかりを考えている。
今にも泣きそうなミーニャ、その顔を見たスレイはミーニャの側に行き優しく頭を撫でながら語りかける。
「心配するなミーニャ、いざとなればお兄ちゃんが何とかするし、大事にもならないし、させる気もないさ」
「ホントに?」
「あぁ、だからもうそんな顔はするな、リーシャに笑われるぞ?」
「そっ、それは困るよ」
「?」
ミーニャが服の袖で目元を拭いながらリーシャの方を見ると、話が難しすぎて理解していなかったのかスレイの出したパンケーキを美味しそうに頬張っていたが、ミーニャに見られて口元にパンケーキの食べかすをつけながら可愛らしく小首を傾げていた。
「あらあら、リーシャちゃんたら、お口を汚しちゃって」
「いいよジュリアさん、オレがやるから」
ふきんを持って立ち上がろうとしたジュリアを椅子に座らせ、フリードが代わりにリーシャの口を拭った。それを見てから今度は話を聞いていたゴードンとマリーがスレイに訊ねる。
「しかし、先生でも解くことのできない呪いをお前は解けるのか?」
「それもそうよね~?確かぁ~、いくつかの呪いが複雑に絡み合ってる~って言ってたわよね~?」
魔法は使えない二人からの質問に対して、同じような疑問を持っていたリーフやミーニャ、それにノクトが一斉に説明を求めるためにスレイの方に顔を向けると、来ると思っていたその質問の答えを言おうとする前にクレイアルラから先に話し出した。
「まさかとは思いますがスレイ、呪いの転写をするつもりではありませんよね?」
呪いの転写と言われても、いまいち理解できていない人たちが首をかしげているなか、その言葉に心当たりのあるユフィとジュリアの視線が、バッとスレイの方へと集まった。
二人からの視線を受けたスレイは、何かに降参するように両手をあげてた。
「先生の言う通りです。もしもの時はボクが母さんから呪いを受けとるつもりです」
「スレイあなた、私が息子を犠牲にするようなことをそ許すと思うの?」
「失敗したらどうするつもりなの!それこそ今より酷いことになるんだよ!?」
「まぁ、やってみないことには分からないね」
「スレイ、魔法の師として忠告します。あなたがやろうとしていることを許可出来ません!」
ジュリア、ユフィ、クレイアルラの三人がスレイのことを睨み付けながら叫んだ。
そんな彼らのことを見ていたフリードたちは、いまいち話についていけていなかった。
「なっ、なぁジュリアさん、ルラ、その呪いの転写ってのはいったいなんなんだ?」
「……呪いを受けた者から他者へと移し変えることです」
「そんなことが出来るのか!?」
「出来るわ、でもねフリードさん、失敗すれば呪いは強くなって移された人を蝕むの」
「それに、呪いの転写には、呪いの大元である呪術を理解していないと出来ません」
ジュリアとクレイアルラの説明を聞いたフリードが、そんな危険なことをしようとしていたと知りスレイを止めようとした。
「先生、多分なんですが呪術の対象はアルファスタ家の血筋が対象なんじゃないかと思います」
「それって、血の制約のこと?」
「たぶんだけどね」
また新しい単語が出てきたと思いノクトがユフィに訊ねる。
「ユフィお姉さん、その血の制約ってなんですか?」
「血の制約って言うのはね、呪いを自分の血筋の誰かに呪いをかけるときに用いる呪法だよ」
「ユフィ、それは簡単に出来ることなのか?」
「うん。自分の血を媒体に一滴垂らすだけで完成するの」
「ですが、なぜお義母様が呪いを?血筋のための呪いならお義父様がかかる筈ではないですか?」
そうリーフが訊ねると、ずっとなにかを考えているたクレイアルラがなにかを思い付いたらしく顔をあげてスレイの方へと視線を向けた。
「もしやカースとギアスの併合ですか」
「多分ですが、ボクもそうだと思います」
何やらスレイとクレイアルラが難しい話を始めたのを横目に、ゴードンはフリードにこっそりと耳打ちした。
「また知らん用語が出ていたぞ?なんだ、カースやらギアスってのは」
「えっ、知らねぇの?」
「なんだ、しってるのか?」
「だって、犯罪者吊し上げんのもジュリアさんがよく使ってたし」
「私も知ってるわよぉ~」
魔法を使えない現Sランク冒険者と元Sランク冒険者が揃ってその魔法を知っており、魔法やら冒険者とは全く無縁の木こりであるゴードンにカースとギアスについての説明をする。
そんな彼らの横で、スレイとクレイアルラの二人が呪術についての議論を始めていた。
「つまり、ギアスで血の制約を変質させカースによってそれを縛り付けた、言うわけですか……」
「はい。そして本来ならこの呪いは母さんにはかかるはずがなかった」
「なるほど、今のジュリアのお腹にいる子供ですか」
「たぶんそうです。そして母さんのお腹は父さんの血を引いている、だから呪いが母体である母さんにかかったんだと思います」
二人の話を聞きようやくこの呪いの本質が理解できたみんな、その中でフリードが青い顔でスレイとクレイアルラの顔を見ていた。
「おい二人ともそれってもしかして、この呪いは」
「えぇ、あなたの子供、つまりはミーニャかリーシャを狙った呪いです」
クレイアルラからそう答えられると、フリードは立ちあがり側に立て掛けてあった剣を掴みあげると、家の外へと向かおうとした。それをスレイが止める。
「父さん、どこに行く気?」
「ちょっと中央大陸まで行ってくる、スレイ、母さんと妹たちのこと頼んだぞ」
「頼まれれるわけないでしょ……父さんを一人で行かせたら母さんが死ぬ」
スレイが冷静にそう言うとフリードが息を飲む音が聞こえてきた。そして側にまで移動してきたクレイアルラがフリードに向かってその理由について説明を始めた。
「フリード、ジュリアにかかっている呪いの大元はあちらの手の中です。そこにあなたが単身で向かったならば、呪いを解かずにジュリアを殺すでしょうね」
「だが、それじゃあ」
「だから、そんなことをさせないためにボクを呼び戻したんでしょ?」
「そうだが……いいのかスレイ?」
「いいもなにも、自分の親にこんなことをされて黙ってるわけにはいかないよ……それに、気付いてる?」
スレイが問いかけながら窓の外に視線を向けると、フリードだけでなくジュリアたちも同時に頷いた。
「あぁ、昨日の夜からな」
「どうする気?一応捕まえるなら手伝うけど?」
「そんじゃあ頼めるか?オレ一人でも良かったんだが、気配が複数あったから中々手出しができなかったんだ」
最後の方は小声で語りかけるスレイにフリードは頷きながら答える。
二人は一拍だけ間を開けてからバンッと扉を開けると、フリードが手に持っていた剣を抜き、スレイも空間収納に納めていた魔力刀と魔道銃アルニラムを抜き、一斉に家の側に生えている気に向かって駆け出した。
「────────ッ!?」
家の側に生えている木の上から飛び出す複数の人影があった。
黒装束を見に纏った人たちは上に飛びあがり、近くの家の屋根に飛び移ろうとしていたのを見て、逃がすわけにはいかないと思ったフリードがスレイに向かって叫ぶ。
「スレイ任せたぞ!」
「了解!───フリージングランス!」
スレイの放った氷の槍が飛び上がった人の目の前を通り、風圧で体制を崩し地面に叩きつけられる寸前、何とか無事に着地したがそこにスレイとフリードが剣と銃で頭を打ち付け気絶させる。
地面に倒れたのは三人、立っているのは六人、二人で相手するにはいささか数が多い。
「お前、剣は?」
「家の中に置いてきたさ、ちなみに魔道銃も予備だから」
「倒せるか?」
「余裕余裕───アースバインド!」
スレイは魔道銃で地面を撃ち抜くと、撃ち抜かれた地面から土の鎖が延び黒装束の者たちを縛り上げ、自害されるのも困るので口枷もオマケしておく。
「おうおう、さすがオレの息子、やることが早い」
「誉めても今晩の夕食は変わんないからね?」
「ちなみに今夜のメニューは?」
「そうだな……特製ジビエのワイン煮込みかブルーボアのホワイトソース煮込み、どっちがいいかは後でみんなと相談して決めるつもりです」
「それはうまそうだ、にしてもご近所さんの手前、こいつらをさっさとどうにかしないとな」
騒ぎを聞き付けてやって来たご近所さんを見ながらスレイとフリードは考えていると、家の中から出てきたクレイアルラが提案する。
「二人とも無事ですか!?」
「ルラ、さすがにこんな奴らにやられるオレらじゃないってのは知ってるだろ?」
「それより、こいつらどうします?」
「ギアスですべてを吐かせましょう。あちらの情報は欲しいですから」
「だが、ここでやるのはちょっとな」
先程スレイの使った魔法のせいで村の人々が集まってきた。このままここで家の事情を話すわけにもいかないためどこか別の場所に移す必要があった。
「それでは、私の診療所にいきましょう」
スレイが黒鎖で黒装束たちを引きずっていき、診療所について早々クレイアルラは黒装束の者たちにギアスをかけ強制的に操ることのした。
「あなたたちにギアスをかけました。まずは確認です。あなたたちを送りこんだのはアルファスタ家当主のバンですか?」
「誰が話すか──いいえ、違います。俺たちはグレイ様の命であなた方を監視していました──ッ!?」
「無駄だよ。ギアスは強制的にすべてを話させるから。あ、ちなみに舌を噛み切ってもそいつらがすぐに治すから無駄な自傷行為はやめた方が身のためだよ?」
スレイが指を指すと、黒装束たちの肩には治療用のアラクネが張り付いていた。
それがどうしたとでも言わんばかりに一人の黒装束が舌を噛み切ったと同時に、アラクネの複数ある足の一本が光を放ち、一瞬でハンマーに変換されると思いっきり舌を噛み切った黒装束の顎骨をハンマーでかち割った。
「「!?」」
フリードとクレイアルラが驚き目を見開くと、黒装束の口を開くとアラクネの足の先から針が現れ、瞬時に切断された舌を縫い合わせると同時に治癒魔法を施すと、舌を繋ぎ会わしていた糸を抜糸した。
一瞬の出来事だったが、顎を砕かれ舌を縫い合わされた黒装束、麻酔は一切なしなため、痛みのあまり下半身を濡らし口からは泡を吹いて気を失った。
「こうなりたくなかったら舌を噛み切るなんてまね、やめてね?」
まるで悪魔、そう見えてしまった黒装束たちとついでに後ろに控えていたフリードとクレイアルラだった。
その後、震えながらことのすべてを話終えた黒装束たちは、仲間の不始末をしっかりと掃除したのち、クレイアルラの催眠魔法を使用しさっきあったことを忘れさせた。
次の日、スレイたちはナイトレシア王国からフリードがチャーターした船に乗り中央大陸への旅が始まった。