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呪い

ここから新しい章に入ります。

 村で大変なことが起きた。

 クレイアルラからそんな話を聞かされたスレイとユフィは、すぐにリュージュ家に戻り旅の荷物を纏めだした。


「ごめんね、急な出発になっちゃって」

「いいえ。お二人の故郷の危機ならすぐにでもはせ参じなければ」


 急な出発にノクトと騎士団から戻ってきたばかりのリーフは驚いたが、事情を説明するとすぐに用意していた旅の荷物を持ってやって来た。


 どうやら二人ともいつでも旅に出れる準備をしていたらしく、そのお陰で早々に国を出ることが出来る。

 スレイとユフィ、そしてノクトとリーフはリュージュ家を出ることになった。


「お世話になりました」

「お父様、お母様、ロア、今までお世話になりました」


 三人を代表してスレイがお礼をいい、家を出るリーフはアルフォンソとルルたちリュージュ家のみんなに頭を下げていた。


「リーフ、気を付けるんだよ」

「スレイくんと仲良くね、喧嘩なんかしちゃダメよ」

「リーフお姉さま、お元気で」

「はい。みなもどうかお元気で」


 リーフが三人を順番に抱き締めると、今度はカルトスとトリシアがリーフの前に立ち手に持っていた剣を差し出した。


「リーフ、これを受け取りなさい」

「おじい様。この剣は?」


 カルトスから受け取った剣を眺めたリーフは、一目でこの剣がただの剣ではないことを見抜いた。

 鍔の装飾から鞘の作りに至るまでどれもが一級品、しかし貴族が戯れで持つような装飾品ではない戦うための剣だと言うことがひしひしと伝わってくる。


「ワシらから旅立つ孫娘への選別じゃ。前に使っていた剣は折れてしもうたじゃろ」

「あなたの姉たちにも渡したものよ」

「ありがとうございます」


 ギュッと剣を握りしめるリーフは、新しい自分の剣を見つめる瞳は新しいおもちゃを手に入れた子供のように輝いてみせた。

 早くこの剣を抜いてみたい、そう言わんばかりの目にアリシアはクスリと笑っていた。


「その剣はもうあなたの物よ、気になるになら抜いてみなさい」

「お祖母さま……では」


 アリシアに言われゆっくりと鞘から抜き放ったリーフは、あらわになった剣を見ながら小さく息を呑んだ。


「すごい、とても美しい剣ですね」


 顕になった剣の刀身は深緑、自然の中で力強く根付く命の要なその刀身に見惚れたリーフは、皆から少し離れると目を閉じ剣を両手で握ると頭上に持ち上げる。

 何をしようというのか、誰もがリーフの行動に注目している。


「シィッ!」


 目を見開くと同時に頭上から剣を振り下ろした。

 すると振り下ろされた剣の剣圧が辺り一帯の空気を切り裂き、遅れて剣風を巻き起こした。


「良い剣です」


 今まで握ってきたどの剣よりも力強く、初めて握ったにも関わらず今までずっと共に歩んできたようなそんな安心感を覚えた。


「銘は翡翠、あなたのために剣です」

「ありがとうございます!おじいさま!おばあさま!」


 剣を降ろし鞘に納めたリーフは二人を優しく抱き締めてから、スレイたちの横へと並び最後に家族の顔を見回してから大きく頭を下げた。


「みなどうかお元気で、行って参ります」


 そう挨拶したリーフは家族に背を向けて街の出口の方へと歩いていった。


 ⚔⚔⚔


 街の門の前、そこに生えていた木を背もたれにして二人を待っていたクレイアルラは、門の中から出てきたスレイとユフィの姿を見て背を預けていた木から離れた。


「ずいぶんと時間がかかりましたがなにか……おや?」


 声をかけながら二人の方へと歩み寄ったクレイアルラは、別れたあとに何かあったのでは無いかと問いかけようとしたその時、二人とともにやってきた見慣れぬ少女達に気がついた。


「スレイ、そちらの彼女たちは誰ですか?」


 やっぱり聞かれたかと思ったスレイは、どう説明したら良いか迷っていた。


「えぇっと……なんと言いますか、ボクとユフィのパーティーメンバーでして……それでですね」

「ちょっと、スレイくん?なんでそんなに言いにくそうなの?」

「いや、だって……」


 何かを言い淀むスレイとその姿に苛立ちを覚えるユフィは、こそこそと小さな声で言い争いをしている。

 小さい頃から魔法の師として慕っていたクレイアルラはもはやもう一人の親と言っていい。そんな彼女に新しいお嫁さんですなんぞ、言えるほどスレイの肝は大きくない。

 そんなスレイの内心を察してか、あるいは二人の腕に嵌められた腕輪を見てかはわからないが、すべてを納得した様子のクレイアルラは小さな笑みを浮かべる。


「なるほど、理解しましたよスレイ」

「えっ?」

「あなたにしては、なかなかにやりますね」


 クレイアルラがリーフとノクトの腕に輝く腕輪を見てから、困惑するスレイの表情を見て愉快そうな笑みを浮かべて笑いかける。


「先生、怒らないんですか?」

「あなたが不誠実を働いたのなら怒りますが、みな納得しているのなら構いません」


 そんなクレイアルラの笑みを見たスレイは安心していいのか、それとも笑っていいのか複雑な心境になりながら、二人にクレイアルラを紹介することにした。


「二人とも紹介するね。こちらボクとユフィの魔法の先生で、Sランク冒険者のクレイアルラ・リスカルラ」

「よろしくお願いします」

「それで、こっちはお察しの通りなので詳しい話は向こうについてからしますが、ノクト・ユクレイアとリーフ・リュージュです」

「「よろしくお願いします」」


 とりあえず簡単な自己紹介を終えたスレイたちは、急がなければならないとクレイアルラに言われ、ユフィが開いたゲートによって二人の故郷の村へと帰っていった。


 ⚔⚔⚔


 久しぶりに帰ってきた故郷では昨日の夜にでも降ったのか、地面には珍しく雪が積もっており、辺りを見回せば一面が銀世界となっていた。

 地面に積もった雪はくるぶしの辺りまであり、かなり降ったことがわかった。


「うぅ、寒。珍しく積もってるな」

「ホントホント、ちょっと待って上着出すから」


 空間収納を開いたユフィは手袋やマフラー、厚着の毛布なんかを取り出してみんなに渡していく。


「わぁ~、わたし雪って初めて見ました!」


 そんな無邪気な声はスレイたちのすぐ横に立っていたノクトからだった。

 剣の柄や杖の柄を握っていたスレイたちはそっと横にいるノクトへと視線を向けると、寒そうに鼻を真っ赤に染め白い息を吐きながらも、目はキラキラとさせているのだった。

 ちなみに補足だが、ノクトは基本的に寒いのが苦手なので実はローブの下はかなり厚着をしている。手にはスレイが毛糸で編んだモコモコ手袋、首にはユフィが編んだマフラーと完全防寒のいでたちである。

 スレイとはそんなノクトの言葉を聞いてあることを思い出した。


「そういえば、南方大陸は年中暖かいから雪なんてまずは降らなかったっけ」

「はい!初めて見ましたけどとってもキレイですね!」

「雪って結構いろんな遊びもあるんだよ?また後で教えてあげるね」

「ほんとですか!教えてください!」

「あの、みなさん、こんなにのんびりしていていいんですか?」


 リーフはそういうが村で大変なことがあった、そういうわりには全くいつも通りなので全くもって拍子抜けしてしまったのだ。

 スレイがクレイアルラの方へと視線を向ける。


「先生、どこが大変な事になってるんですか?」

「私は村で、とは言いましたが、村が、と言ってません」

「それはそうでしたが、いったいどこで何があったって言うんですか」

「着いてきてください」


 静かに歩きだしたクレイアルラ、その後をついていくスレイたちだったがその間に何人もの村人に声をかけられる。

 そのほとんどがスレイとユフィの知り合いだった。

 少しだけ言葉を交わしてまた声をかけられてを繰り返していったが、ようやくたどり着いたのはスレイの家であった。それを知ったスレイは家族に何かあったのかと思い、ユフィたちを置いて家の中に入っていった。


「父さん!母さん!ミーニャ!リーシャ!」


 家の中に入ったスレイが家族のことを大きな声で呼び掛けると


「あらスレイちゃん以外と速かったわね?」

「おにーちゃんだぁ~!」

「お兄ちゃんお帰りなさい!」


 食卓で楽しそうにクッキーを食べながら、午後のティータイムを楽しんでいるジュリアたちの姿を見てスレイが踏み出した足を大きくつんのめり、マンガにでも出てきそうなキレイな顔面から地面へのダイブを披露するはめとなってしまった。


「あらら」

「なにやってるの?」


 帰ってくるなりいきなり挨拶代わり顔面ダイブをかましたスレイを見て、一番幼い妹のリーシャが椅子から飛び降りトコトコとスレイの元にやってくる。


「おにーちゃん、だいじょーぶ?」

「あ、あぁ……大丈夫だよリーシャ……また背が伸びたんじゃないか?」

「うん!大きくなったの~!」


 リーシャの頭を撫でながら立ち上がると、同じように椅子から立ち上がったミーニャが心配そうにスレイのことを見上げていた。


「ミーニャ、久しぶり」

「お兄ちゃんお帰りなさい」

「ただいま」


 リーシャと同じようにミーニャの頭も撫でようとしたが、さすがに年頃なのか恥ずかしそうに後ろに下がってしまったのであきらめて置くことにした。


「スレイくん、大丈夫なの?」

「あぁ、そうみたい」


 ぞろぞろと部屋の中に入ってきたユフィたちを見て、ジュリアはさすがに少し驚いたようだがクレイアルラと同じように、二人の腕に輝く腕輪を見つけてニヤニヤしながらスレイを肘で小突いた。


「意外とやるわね、たった半年くらいでお嫁さんを二人も増やすなんて」

「それに似たことをルラ先生にも言われたよ。それと母さんも怒らないのね」

「スレイちゃんなら複数の女の子を娶ってもちゃんと養ってあげれるし、母親の私が言うのもなんだけど、あなたは最後まで責任を取れる子だって信じてますから」

「ありがとう母さん……それで、父さんはどこにいるの?」


 安心した顔から一転、目元をつり上げて真剣な表情になったスレイがジュリアに語りかける。


「近くの町までお買い物よ。少し要りようでね」

「じゃあ、父さんが帰ってきてからじっくり聞かせてもらおうかな、母さんが受けてる()()について」

「やっぱり、スレイちゃんにはお見通しみたいね」


 薄く頬笑むジュリアが自分を見つめている、魔力の宿ているスレイの目を見つめ返していた。

 今のスレイに目にはアナライズと呼ばれる魔法がかかっており、それは相手の魔力の流れやかかっている魔法を看破することの出来る魔法だ。スレイがこれをいつ発動したかというと、始めにジュリアと顔を会わせたときに、ジュリアの周りから不穏な魔力を感じたからだ。


「あと一時間くらいで帰ってくると思うから、お部屋に荷物を置いてきなさい、彼女たちの部屋も客間があるから案内をお願いしてもいいかしら?」


 ジュリアからそう言われたスレイは、わかったと返事をしたが、二人を案内する前に一つだけ聞いておきたいことがあった。


「ねぇ母さん、もう一つ聞きたいんだけど」

「なにかしら?」

「そのお腹の子、何ヵ月?」


 ひきつった口元をピクピクさせながらジュリアのお腹を指差す。

 だぼったくゆったりとしたワンピースタイプの服を着てるジュリアだが、スレイはその服がジュリアのお気に入りのマタニティーウェアであることを知っている。

 そしてさっきアナライズで見た魔力の流れの中で、腹部に不自然に魔力が流れていたことを……つまりそういうことなのだ。


「四ヶ月過ぎたところよ!」


 まだあまり目立たないお腹を撫でながらジュリアがそう答えると、スレイは頭を痛そうに押さえながら大きなため息を吐いた。


 ⚔⚔⚔


 魔法の中には儀式によって特定の相手に呪いを与える呪術というものが存在し、魔法使いの中で呪術を専門に扱っている者たちのことを総じて呪術師と呼ばれており、ジュリアにかかっている呪いも呪術によってかけられた物だ。

 そんな呪術だが、それにはいくつかの種類がある。

 例えば呪いをかけた相手の語尾を一定時間の間だけ、にゃん!や、わん!等に変えたり、なんでもないことなのに笑いが止まらなくなったりと、子供のいたずら程度の呪いならば、大きな儀式も必要せずなんのリスクもなく使用できる。

 例に上げたような呪術ならば、時間が過ぎるか簡単な解呪の魔法ですぐに解くことのでき、呪いをかけられた相手の生命に関わることもないが呪いの中にはかけられた相手の生命にか関わるような呪いも存在する。

 ただしこれを使うには大まかな儀式と、複数の呪術師と呪術の媒体となる物が必要がある。

 呪術の媒体となる物はなんでもいい、例えばどこにでもあるような石に媒体にすることができ、それを呪いをかけたい相手に触れさせるだけで呪術は発動し、呪術の威力によっては相手を一瞬で殺すこともできる。

 これを解くには高位の魔法使い複数人による大がかりな解呪の儀式、あるいは呪いを解くための条件を満たす。

 そしてこれは一番楽なのだがそれ以上にオススメできないやり方で、呪術の媒体となった物を破壊することでかけらた相手は助かるが、媒体を破壊した者へと呪いが移り、その際の呪いはより力を増してしまう。

 これを呪い返しという。



 ジュリアにかけられた呪いは媒体による呪術だ。

 効力はそれほど強力ではなく多少手が痺れるくらいだが、時間が経つごとに呪いは深まり痺れは全身に広がってしまうだろう。

 そうなれば心臓にまで麻痺が起きる可能性がある、なのでクレイアルラはスレイとユフィを急いで呼び戻した、と言うわけだった。


 買い出しからフリードが帰ってきた。

 それと同時に隣の家に帰っていたユフィがぐったりした様子で帰ってきた。

 どうしたのかと訊ねると虚ろな目で答えるユフィ。


「お母さんにも……赤ちゃんが……」


 そう答えると同時に入ってきたゴードンとマリー、そしてパーシーだったがスレイの目はマリーのぽっこりと大きくなったお腹に行っていた。

 どうやらマリーも子供が出来たらしく、こちらは五ヶ月だそうだ。


 ちなみにノクトとリーフについては、先程家に帰ったユフィが二人に説明してくれていたらしく、紹介すると同時にマリーからスレイへ祝福の言葉が送られた。

 ちなみに娘の旦那になる予定のスレイが他に妻を娶るのはいいのかと言うことなのだが、マリーからすれば本人同士がいいならいいと言うことだった。


『ちゃんとユフィちゃんを幸せにしてくれるならぁ~、お母さんは何も言わないわぁ~』


 とのことで、意外だったのがゴードンからも祝福が送られたことで、驚いたスレイが理由を聞くと


『ユフィが納得してるなら俺は何も言わん』


 だそうだ。

 ちなみにゴードンからは一発もらうことを覚悟していたスレイだったが、それが杞憂に終わったのは良かったと心の底から安心した。

 そんなこともあり、スレイたちは大きなテーブルを取り囲むように座り、フリードから事情を聞いていた。


「それで、この手紙が母さんのかけられた呪いの媒体って訳か」


 スレイは封の切られた手紙をフリードから受け取った。

 隣に座っていたユフィと共に先程ジュリアの呪いを見たのと同じようにアナライズで手紙を確認すると、手紙の便箋を納められている封筒の内部から魔力隠蔽の術式が施されていた。


「あらら、なんて手の込んだ手紙」


 問題の便箋だが解呪させないためか、今回ジュリアに使われた呪術をかけたあとに、時間指定で発動する呪いを複数かけ、その上呪う相手の指定がなかったのか呪いの残滓がそのまま残り、アナライズで見ると凄いことになっている。

 正確に説明すると、複数の糸が複雑に絡まり合い、さらにそれを無理にほどこうとしてより絡まったみたいなもので、これでは解呪のしようがない。


「なんともまぁ凄いことになってるな……」

「こんなの解呪も何も、手の打ちようすらないよ~」


 アナライズの魔法を解いたスレイとユフィが大きく脱力しながらクレイアルラとジュリアの方を見る。


「私も同じよ。何度か解呪の経験はあるけど、ここまで複数の呪術が絡み合ってるのは見たことがないわ」

「解呪の儀式をやろうにも、人手が足りませんし仮にできたとしても、お腹に子供のいる今のジュリアに長時間の儀式は主治医として容認することはできません」


 クレイアルラの言うとおりだった。まずここにいる高位の魔法使いはクレイアルラを筆頭に、同じレベルのである魔法使いとしてスレイとユフィ、当たり前だが解呪を受けるジュリアは論外だ。

 魔法使いとしての腕はノクトもそれなりの実力を持っているが、呪術関係の知識が皆無なため役に立たない。それを知っているノクトがうつむいていたが、スレイが優しくはげましていた。


「スレイ殿、その手紙の差出人はいったい誰なんですか?」

「そう言えば確認してなかったっけ」


 呪術の確認だけだったので手紙の差出人も、手紙も内容の確認もしていなかった。

 スレイが手に持っていた封筒の宛名を見る。


「えっと……ん?グレイ・アルファスタ……?」


 宛名を読み上げたスレイと、それを聞いていたユフィたちは揃って首をかしげると、スレイは正面に座っていたフリードの顔を見ながら訊ねる。


「もしかしてこの呪いに手紙の差出人って」

「あぁ、俺の弟、つまりはお前の叔父さんだ」



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