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それぞれの修行 スレイ編

今回から修行編を始めていくのですが、始めに言っておきますが、今回の修行編はスレイ編とユフィ編を交互に書いていき、両方合わせて十話前後を予定しています。それでは本編をお楽しみください。

 

 スレイとユフィが初めてゴブリンを討伐してから一ヶ月、この日、スレイは師匠ルクレイツアと共に一年間の山籠りの修行に向かう日となった。


 ⚔☆⚔


 修業に出かける日、朝早くルクレイツアがやって来ると、スレイを呼び出した。


「用意は終わっているな、ボウズ」

「はい。師匠」

「なら行くぞ、ルラが準備して待ってる」


 ぶっきらぼうに答えるルクレイツアの後ろを追ってスレイも歩いていくこうとした。

 歩き出そうとするスレイとルクレイツアを呼び止める声があった。


「待てよ。オレらも行く」


 今日はスレイの旅立ちの日だからと、見送りのためにと普段はあまり家にいないフリードとジュリアが珍しく家にいた。

 二人の姿を一瞥したルクレイツアは、ただ一言好きにしろと答えて一緒に出発する。

 並んで歩いていく途中、フリードがルクレイツアと話しだした。


「ルクレイツア、オレの息子のこと頼んだからな」

「あぁ。死なねぇ程度にしごきまくってやる」


 何やら聞こえてくるフリードとルクレイツアの会話、その内容とても物騒な話題だった。

 盗み聞きをするつもりはなかったが、聞こえてしまったその内容にスレイは顔をひきつらせている。


 ──ボク、死なないよね?


 出発前にそんな話を聞かされたスレイは、修業が終わってちゃんと五体満足の状態で生きて帰ってこれるのか、ものすごく心配になってしまう。


「スレイちゃん。顔が真っ青だけど大丈夫?」

「うん。大丈夫」


 これから生きていけるか不安になって顔を真っ青になった。

 ジュリアを不安にさせないとどうにか気丈に振る舞っていると、今度はフリードが声をかけてきた。


「ところでスレイ、お前荷物はどうしたんだ?」


 フリードが指摘したように今のスレイが身に付けているものはいつもの服の上に、少し前に自分で縫った黒い旅用のマント、そして腰にはいつもの剣と短剣だけ、他に荷物と言う荷物は何も持っていなかった。


「大丈夫だよ父さん、空間収納にちゃんと入れてあるから」

「そういやぁそうだな」


 しばらく会えなくなるからとクレイアルラの待つ場所まで向かう間、三人と色んな話をした。

 そうこうしていると、あっという間にクレイアルラの待つ場所までたどり着くと、そこにはクレイアルラだけでなくユフィの姿もあった。


「おはようございます。スレイ」

「先生、おはようございます。それとユフィもおはよう」

「おはよう。スレイくん」


 短い挨拶を交わした二人はなんともいえない気分になる。

 いつも、会おうと思えば会えたのに、これから一年もの間会えなくなる。

 寂しい、そう思う以上になにか違う思いが胸の中に渦巻いている。

 それが何なのかと考えていると後ろからポンッと頭を抑えられた。


「あっ、父さん。なに?」

「いいや。ただ、気を付けて行って来いよ。スレイ」

「うん」


 フリードがスレイの頭に置いた手を乱暴に撫でると、入れ替わるように今度はジュリアがスレイの前に来て、優しくスレイのことを抱き締める。


「気をつけてね。病気になんてかかっちゃだめよ。眠るときもちゃんと結界をはること」

「うん。大丈夫だよ母さん」


 離れたジュリアは、懐からなにかを取り出すとそれをスレイの首にかける。


「スレイちゃん、これを持っていきなさい」

「なにこれ?」


 渡されたのは六芒星のペンダントだった。


「魔除けのペンダントよ」

「魔除け?どうして?」

「これから向かうところを考えるとね、必要だからしっかり身につけること」

「わかった……あっ、これ魔道具なんだ」


 もらったペンダントを見ていると魔法文字が刻まれていることに気がついた。

 効果は精神防御を中心に、精神干渉を阻害する効果で纏めれていた。


「それは一度魔力を流せば半日は発動し続けるわ、必ず夜になる前に魔力を流すのよ」

「わっ、わかった」


 いつになく真剣に語るクレイアルラの迫力に気圧されながらも頷いたスレイは、ペンダントを首に巻いて服の下に隠した。

 しかし、こんな魔道具が必要になる場所なんていったいどこなのか、それを考えていると今度はミーニャがスレイに抱きついてきた。


「珍しいな、ミーニャがハグしてくるなんて」

「会えなくなるから、元気でねお兄ちゃん」

「うん。行ってくるね」


 スレイもミーニャのことを抱きしめ返すと、力強く抱きしめ返さしてから離れると空間収納を開いて小さなバケットを取り出した。


「お兄ちゃん、これわたしの作ったサンドイッチお昼に食べて」

「ありがとうミーニャ」


 バケットを受け取ったスレイはお礼を言いながらミーニャの頭を撫でようとすると、急に気恥ずかしくなったのか急いで母ジュリアの方にしがみついてしまった。

 普段やらないようなことをしたので仕方ないかと、とスレイが思っていると今度はユフィがスレイの前にやってくる。


「元気でねスレイくん」

「ユフィも元気で、後ミーニャのことお願いね」

「うん、任されました」


 一通り挨拶がすむとルクレイツアがスレイの頭を小突いた。


「もう出発するぞ」

「あ、はい」


 ルクレイツアに呼ばれたスレイは返事をして歩き出す。


「頼むぞクレイアルラ」

「構いません、ですがホントにあそこでいいんですか?」

「あぁ。あの場所なら人があまり寄り付かず、かつ食料も困らん。修行には最適の場所だからな」

「………ついでに危険にも困らないですか」


 クレイアルラの複雑そうな顔のなかにスレイへの哀れみの色を見て、本当にこれから向かう場所がどんな所で、ちゃんと無事にこの村に帰ってこれるのかが心配になってしまった。


「では二人共こちらに」


 ルクレイツアに並ぶように立つスレイ。クレイアルラは二人に杖を向ける。


「それでは行きます──ゲート」


 ゲートとは空間移動魔法であり、いわば魔法の力で再現した"どこ◯もドア"のような物だ。

 ちなみにこの魔法は術者本人が言ったことがない場所にはいけないため、スレイも使えるとは言っても村の周りしか行ったことがないので、あまり意味がなかった。

 クレイアルラによって開かれたゲートを前にして、ルクレイツアが先にくぐっていく。


「じゃあ行ってきます!」


 ゲートをくぐる前にスレイは、一度後ろを向いて手を降りながらゲートの中に入る。


 ⚔⚔⚔


 ゲートを抜けた先にあったのは洞穴の開いた切り立った崖だった、そして崖の先からは深い森が見えるそんな場所だった。だけど、そこはただの森ではなかった。

 足を踏み入れた瞬間に感じる凄まじいプレッシャー、それがこの森の漂う高濃度の魔力であることにはすぐに気がついた。


「師匠、ここはどこなんですか?」


 実は山に籠るとは聞いていたけど、実際にどこに行くかは聞いていなかった。

 ついたらわかると言われ続けてきて詳しい場所は教えて堪えなかったが、ここに来てその言葉の意味がよくわかった。この身の毛もよだつような恐怖、始めてきたはずなのに知っている。

 だけど間違っていて欲しいと、頭の中で思っているこの場所の名前が間違っていて欲しいとスレイは切に願った。


「ここは南方大陸にあるルーレシア神聖国、その南方にある山の中だ」


 スレイが暮らしていたのは西方大陸、そこからゲートで南方大陸にまで飛ばされたのだと思う一方で、南方大陸の名前を聞いたスレイの身体がこわばった。


「お前が想像する通りだ、すでに気づいているとは思うがここは魔力が非常に溜まりやすく、ただのゴブリンでも強力な個体が産まれる」


 ゴクリと生唾を飲み込んだスレイは、まだ違うかもしれないとわずかな希望を抱きながら問いかけた。


「しっ、師匠……まさか、違いますよね?」

「お前の想像通りだ。ここは世界で一番厄介な山。死霊山だ」


 死霊山、南方大陸の中にある山の一つでこの場所は通常の場所ではありえないほどの魔力を内包しており、そこで産まれる魔物は通常の物よりも強く、多くの死者をだしている。

 死者の魂は山の魔力を獲てレイスになり、夜になると幽霊が跋扈する山へと姿を変える。だからなのかと、スレイは魔除けのお守りをくれたのかと納得した。


「帰りましょう師匠、死ぬ前に早く!」

「んな訳行くか。お前にはこれから一年をこの山で、死ぬ気で生き残ってもらう」


 怖い笑みを浮かべるルクレイツアに襟首を捕まれたスレイは、まるで親犬が子犬を運ぶかのように移動させられる。


「あ、あのぉ~……なんでボクは襟首掴まれてるんですか?」

「なんでってそりゃ、ここから投げ捨てるからだ」

「はぁ!?いや、ちょっ止めて──うわぁあああああァァァァッ!?」


 ポイッとフルスイングで投げ捨てられたスレイは、生まれてはじめて投げられて空を飛んだ。


「日没までに戻ってこい、できなきゃ夕飯抜きだ」


 落ちていくスレイにそんなことを言うルクレイツアだが、今のスレイにはそんなルクレイツアに一言。


「ボクのこと殺す気かァァァァァァァァァァ!!」


 聞き入られることのないスレイの慟哭の叫びが、世界で一番危なくて、世界で一番危険な山の下へと落ちていく。


 ⚔⚔⚔


 空から放り投げられて綺麗な放物線を描きながら落下していったスレイは、叫び声を上げながら地面に落ちていく。このままでは死ぬ、地面に落ちる瞬間とっさに風魔法を使って身体を浮かせ、落下の勢いを落とした。


「あでッ!?──いたたた。しっ、死ぬかと思った」


 バクン、バックンと高鳴る心臓を抑えながら顔を上げる。

 眼の前にそびえる死霊山、ゲートで出てきたのはこの山の中腹から、本当に投げ飛ばされて麓まで投げ落とされたんだと実感した。


「あの人、マジで何なんだよ。死ぬ、ついた次に瞬間には山から投げ飛ばされて落下して死ぬとかないだろ!ってか、あの人、この腕輪のこと忘れてねぇか!?」


 スレイが左腕に付けている腕輪はクレイアルラからもらった魔道具だ。

 この魔道具はゲートなどの転移魔法を含めていくつかの魔法を制限し、体内で循環する魔力を抑制させる機能を有している。つまり、この腕輪は魔法を使おうとすると魔力を抑え込み、乱そうとしてくるのだ。

 なので今のスレイは魔法を従前に使えない。


「まぁ、良いか………生きてたし」


 生きてたのだから良しにしよう、あの師匠に文句を言ったところでボコられて終わりだ。もうなにも言わない、気にしないようにしようと思った。

 山を見上げたスレイは腰の剣と短剣を抜き放った。


「よし、時間も無いし行くか」


 ここからは本当に死んでもおかしくない、気を引き締めていかなければならない。スレイは全身に闘気を身にまといながら死霊山へと向かっていく。


 ⚔⚔⚔


 死霊山を登り始めて約十分、足を踏み入れたその瞬間に魔物の大群に襲われた。


「何なんだよこの山ッ!魔物の数、多すぎるだろうがッ!?」


 木々の合間を縫って走り抜けるスレイに背後には、鋭い鉤爪に黒い毛皮をした犬型の魔物ヘルハウンドの群れ、それを指揮するのは物語などでよく見ていた三首の番犬ケルベロスだった。


「ゥオォオオオオオオオ――――――ン!」


 ケルベロスが咆哮を上げた瞬間、取り巻きのヘルハウンドたちが一斉に口を開くと、口の中にチリチリと炎が溢れすこく遅れて魔法陣が展開される。

 必死に逃げ回るスレイも魔力の流れを感じて背後に視線を向けると、ヘルハウンドたちが一斉に火球を放ってきた。


「クソッ!」


 当たるのはマズイと闘気で施した身体強化で、真横に飛んで地面を転がり手をついて立ち上がりながら後ろを見る。今しがたいた場所は火球を受けて焼き払われ、地面は焼け焦げていた。

 あんな攻撃、腕輪をせずにまともに魔法が使えても防げるかわからない。

 ジッとしていてもただの的になる、足を止めるな。走りながらもスレイは考えていると、一匹のヘルハウンドが正面から現れ飛びかかってきた。


「────ッ!?」


 回り込まれたと思ったスレイは身体を倒し、スライディングの要領でヘルハウンドの攻撃をかわすと、すれ違いざまに短剣その身体を斬り裂いた。

 身体を斬り裂かれ溢れ出た血がスレイの髪を赤く染めると、地面に突いた手をバネのように跳ね上げ身体を起き上がらせたスレイは即座に走り出した。

 逃げ回り、正面から放たれる炎をかわし、現れるヘルハウンドを倒しながらスレイは、どうすればこの状況を変えられるのかと、頭の中で強く必死に考えながら走り続ける。


 足を止めるな、思考を閉ざすな、この森にあるすべてのものを使って考えろ。魔力の流れを読みながら、ヘルハウンドたちの火球をかわし続けるスレイは、横道に入り木々の密集する場所へと入った。

 今まで走っていた場所よりもさらに木々が密集する場所を走りながら、スレイは闘気で強化を施した剣で切りつける。

 一本、二本、三本と木々を斬りつけたスレイが側を通り過ぎると、斬られた木々が斜めに滑り落ちヘルハウンドたちを押しつぶした。


 地響きと共に木々が倒れ土煙が上がる。

 踵を返し立ち込める土煙を見ていると、黒い影が土煙を抜け出して現れる。


「全部は無理だよな!」


 跳躍するヘルハウンドを空中で斬り裂いて倒していくスレイ、しかし数はやはり向こうが上、二三匹倒したところでスレイは再び走り出した。


「あぁクソッ!しつこい!後、木が邪魔で剣が振りづらい!」


 本格的な実戦はこれで二度目、以前よりも格段に悪い地形での戦いに愚痴を言いながら少しでも数を減らせれるように立ち回ってくる。

 魔法が思うように使えないい以上、今はこうして少しずつ倒していくほかないが、こんなことをしていてもいつかは捕まる。

 なにか他に無いのかとスレイが考えていたその時、スレイは頭上で輝く太陽を見る。


「そうだ、あれなら───っと、しまった!?」


 この状況を打開する可能性を見つけたスレイだったが、眼の前に広がる距離にして半径二十メートルほどの平野を前にしてスレイは顔をしかめる。

 遮蔽物のないこの場所で多数を相手取る事はできない。もと来た道には戻れない、ならば平野を抜けて反対側へ抜けようと考え走ったが、そこからもヘルハウンドが現れた。

 ワラワラと四方から現れるヘルハウンドの群れ、さらにその後ろから現れたケルベロスの巨体。完全に取り囲まれたと思ったスレイは、もう逃げられないと剣を構えて戦う覚悟を決めた。

 短剣を握る手を頭上に掲げ、周りには聞こえないほど小さな声で何かをつぶやいたスレイは、ゆっくりと剣をおろして長剣の切っ先をケルベロスに向けた。


「───どっからでもかかってこい!」


『『『ウォオオオオォォォォン!!』』』


 スレイの挑発に答えるかのようにヘルハウンドが吠える。

 先手を取られまいとスレイが踵を返し、一番数の少ない背後へと駆け抜ける。ヘルハウンドは口を開けて火球を放とうとした瞬間、スレイは握っていた短剣を投擲した。

 投げられた短剣がヘルハウンドの頭部を穿った。続いてスレイは両足に闘気を巡らせると前へと強く踏み込んだ。

 走り抜けるスレイ目掛けてヘルハウンドの火球が次々に放たれる。

 地面を穿つ炎球が土煙を上げて目くらましになる。それを見越してスレイはさらに加速すると、ヘルハウンドの亡骸から短剣を回収する。


「ハァアアアーーーーッ!」


 短剣を回収し接近すると同時にヘルハウンドの首を斬り裂き、次に接近してきたヘルハウンドの鋭い爪が振り下ろされようとすると、身を反転させて逆手に握った短剣の刃を突き立て刃を回してからその身体を斬り裂いた。

 次に駆け出してきたヘルハウンドは跳躍し噛みつこうとしてくる。それをスレイは横に飛びながら左側の脚を二本斬り付けると、着地できずに倒れたところに短剣を投げて確実に倒す。


「まだまだ行くぞッ!」


 土煙の中を抜けて現れるヘルハウンドの群れ、あと少し、あと少しでいいから時間を稼がなければ、そう強く念じながらスレイは倒していくと、ついにケルベロスが動いた。


「ゥウォオオオオオオーーーーーーーン!!」


 耳につく咆哮にスレイが顔を上げると、ようやく動き出したかと思った。


「ようやく動いてくれた、遅いよ。まったく」


 スレイは片手を上げて体内の魔力を巡らせる。

 ヘルハウンドたちに動きが止まりこちらを警戒している。そのわずかな硬直の時間を使って魔法を使うために魔力を紡ぎ出す。

 腕輪の力でいつもよりも繊細な魔力操作が必要になる。まだ慣れずに時間はかかるが、焦ってはいけない少しでも速く少しでも強固な魔法を展開する。


「───アース・ウォールッ!」


 スレイは自分の周りを覆うように土の壁を形成すると、それを見たケルベロスが指示を出しヘルハウンドたちが火球を放った。

 放たれる火球は石の壁を打ち破ろうとするので、次にその周りを覆うシールドを展開した。

 応戦を続けていたスレイが急に守りき徹したことにケルベロスは疑問を覚えたが、攻撃を辞めることなぬ続ける。このまま打ち続け、焼き殺そうとした。

 その途中、ケルベロスたちの頭上から光の柱が落ちた。


 ⚔⚔⚔


 空から落ちた光の柱によって世界は白く塗りつぶされ、爆音が音をかき消し、遅れて衝撃が木々や遠くにいた魔物をも吹き飛ばした。

 光の柱が落ちた場所に唯一残った石の壁が崩れ、中からスレイが現れた。


「流石に、ちょっとやりすぎたかな?」


 自分が引き起こした天災、いや人災による被害を見ながらスレイは乾いた笑いを上げた。

 あの光の柱はスレイが作り出すた物だ。

 太陽に光をミラーという魔法で集め空間収納に貯蔵し、一気に開放してみせたのだ。結果はこの有り様、まさに人災と言っても過言でない被害を出した。


「さぁ、行こうかな」


 前へと歩き出そうとしたスレイは、背後で何が崩れる音がする。

 何だと思い振り返ったスレイが見たものに驚愕する。


「おいおい、流石にタフすぎるでしょ」


 現れたのは肩首を失ったケルベロスだった。

 他のヘルハウンドと同様に吹き飛んだものだと思ったが、まだ生きていたようだがその身体はすでに死に体、肉は焼け足も潰れて立っているのがやっとのようだ。

 しかし、それで終わるような相手ではない。


「ウォーーーーン!!」


 ケルベロスが吠えながらスレイの向かって走ってくる。

 剣に闘気を込め強化を施したスレイは、腰を落とし身体を傾け半身になって構えると剣を脇に構えて立ち止まった。

 走り込むケルベロスが接近し間合いに入った瞬間、その巨体をかがめて中央の頭を真横に回して真下からすくい上げるように突っ込み、残った左側の頭が口を広げ上から狙ってくる。

 前と上、逃げ道を塞がれたスレイは剣に流した闘気の輝きが膨れ上がったかと思うと、今度は剣の輝きが収まり刃に集まっていく。そして光が段々と切っ先を超え光の刃となって伸びていく。

 登記によって延長された刃は二倍、三倍と伸びたところでスレイは剣をケルベロスに向けて一閃。


 斜め上へと振り上げられた刃はケルベロスの巨体を両断、さらに振り上げた剣を頭上に構えたスレイが真上から振り下ろした。

 中央から斬り裂かれたケルベロスの身体が過ぎ去り、血の道を作る。


「はぁ、はぁ……」


 血に染まるに残されたスレイはケルベロスの亡骸に歩み寄ると、両断した死体の中からコアを取り出した。

 サッカーボールほどありそうな巨大なコアは二つに斬り裂かれていた。売っても安く買い叩かれそうだったが仕方がない他にも素材が欲しかったが、今はそんな余裕もないので後回しだ。

 魔物の素材は売れると聞いたが、血の匂いで他の魔物がやってくる。疲弊しきっている今たたえば死ぬのは確実、後ろ髪を引かれる思いはあったが、今回は諦めることにした。


 ⚔⚔⚔


 ケルベロスとの死闘後、数回魔物との戦闘を繰り広げたスレイはどうにか、日が沈む前に帰ることが出来た。


「ゼェ………ゼェ……生ぎ、でる……生ぎでるよぉ」


 息もたえたえ、喉も枯れて闘気と魔力もとうに枯れ果ててしまったスレイは、中腹の崖にたどり着くと同時に倒れてしまった。

 スレイが戻ってきて倒れるまでを見ていたルクレイツアは、のみかけの酒を片手に倒れたスレイの側に歩み寄る。


「時間はギリギリか、最初に見せたあの変な魔法の件も含めて色々言いたいことはあるが、無駄が多い、あんな奴ら瞬殺してみせろ」

「……………」


 言い返す気力はないが拳を握りしめて一発殴ってやりたい衝動に駆られたが、もはや食いかかる気力も出なかったのでスレイは何も言わなかった。


「帰ってきたなら飯食って寝ろ。明日はもっとキツいぞ」

「ご飯……なん、ですか……?」


 ポスっとスレイの眼の前に袋が落とされた。

 震える手で袋の紐を解いて中を見ると、中身はナッツや干し肉、それにチーズとどれも保存食ばかりだった。


「まさか、一年間これ?」

「嫌なら食うな」


 正直な話、疲れすぎていて食べたくはないが、食べなきゃ明日からの修行についていけない。だけど、こんな物を一年も食べたくはない。

 こんなことならミーニャの弁当を少し残しておけばよかった、そう思いながら立ち上がった。


「スープくらいなら、作ります。今ある食材見せて下さい」


 ルクレイツアはバッグの中から今ある食料を取り出すと、干し肉やナッツの他にも干し野菜などがいくつかあったので、それを使って簡単なスープを作った。


 こうしてスレイの修行の一日目は終わっていくのであった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゲート、空間収納みたいな便利な魔法は主人公達以外の人も使えるのでしょうか?どの程度広まっているんでしょう?物流とか色々なものが根本的に変わるような……。
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