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復興を終えた街で

 国内の反乱並びに使徒とその分体の襲撃を退けてから半月ほどがたった。


 あの日、元老院に寄って連れさられた国王ヴィルヘルムだが、生き残った騎士たちの懸命の捜索の末、王城内で気を失っていた状態で発見され無事保護されていた。

 戦いが終わり国王ヴィルヘルムが始めに行ったのは、被害を受けた国民へ物資の支給や避難場所の設営、行方不明者の捜索、それに並行して生き残った騎士を集めての団の再編だった。

 元老院の反乱や城の襲撃によって首都は実質的に壊滅状態、この隙を突いて今は亡き元老院を支持する貴族の生き残りによる蜂起、他国からの武力侵攻を懸念してからのことであった。

 国の防衛圏の立て直しが終わると次に行なったのは街の復興、そして分体から市民を守っていた冒険者ギルドとの協力関係の提携の確定だった。


 復興作業はすでに始まっていたが問題はギルドとの提携だった。

 始めはギルドにいる冒険者に依頼と言う形で騎士団と供に国の建て直しの協力を打診したのだ。

 しかしギルド側としても、今更になって長い間冒険者を見下していた騎士団との協力は出来ないと、多くの冒険者がその申し出を断りそれを聞いた騎士団員からの反感など、協定の場は混沌と化そうとしていた。


 そこへ国王と騎士団長が自ら冒険者への真摯な謝罪をし、その姿勢を聞き入れた冒険者たちは協定を受け入れた。

 こうして少しずつではあるが、国王が思っていたより良い国へと姿を変えようとしていたのだった。


 街の復興が進んでいる中、スレイたちも少しでもこの国のためにと率先して働いていた。

 破壊された街の復興、それを指揮しているのは国王 ヴィルヘルムと騎士団長 ヘクトール、冒険者ギルドマスター ゾディアの三人に加えてスレイもそこにいた。


「街の復興は大方終わってはいるな」

「はい。部下の報告では旧貴族街以外の住居は修復は終わっています」

「住人も全員、今日中には元の家へ帰れると思います、ここまで早く終わったのもそこにいるスレイのゴーレムのお陰ですね」

「そうだな、感謝するぞスレイ」

「ボクのゴーレムを貸し与えただけです。もちろんその分の使用料ももらいましたので、感謝もなにも要りませんよ」

「そうか……いや、そうだな」

「えぇ、そういうことです。おっと、それではボクはこの辺で失礼させてもらいます」


 テントを出たスレイは走って炊き出しの行われているテントへと急いだが、すでにそこには午前中の作業を終えた人たちがあつまりかなりの列となっていた。


「皆さんの分はあります!順番を守って並んでください!」

「たくさん食べてくださいね」

「おかわりもありますので、欲しい方はこちらに並んでください!」


 広げられたテントの中では女性たちが大きな鍋を使い、大量の料理を作っていたのだ。

 その中にはユフィやノクト、そして左腕を怪我をしてるリーフたち女性陣も一緒にいる。そんな彼女たちと共に炊き出しを行っておる中には、冒険者ギルドの職員や同じ女性冒険者、力仕事の出来ない女性たちはこうして炊き出しをしている。

 そんな彼女たちの元に急いだ。


「ごめん、話し合いが長引いてた」

「遅いよスレイくん!調理用のアラクネ出して手伝ってよ」

「お兄さん早くしてください!手が足りません!」

「スレイ殿、お願いします」

「ハイハイ、ってかリーフは休んでた方がいいんじゃない?まだ腕は治ってないんでしょ?」


 空間収納からアラクネを取り出したスレイが片手で鍋をかき混ぜているリーフを見やる。

 リーフの左腕は添え木で固定されているが、戦いのときにむちゃしたせいで治るのに時間がかかっている。

 治癒魔法でいくらかはよくなっているものの、あと数日は固定したままだろう。


「痛みもありませんし、これも外していいとは思うんですがね」

「ダメですよ~、骨折や脱臼だって立派な怪我なんですから、本当はしばらく安静にして欲しいんですよ?」

「骨折も脱臼もなんどかしたことはありますので、平気です。スレイ殿もご心配ありがとうございます、ですが私は大丈夫なのでご心配なく」

「わかりました。じゃあボクは調理でも手伝いますか」


 それから昼の炊き出しを終えたスレイは午後からの民家の修復の手伝いを終え、ようやく住民のいる全ての民家の修復を終えたのだった。


 ⚔⚔⚔


 その日の帰り道、いつものようにスレイ、ユフィ、ノクト、リーフの四人で帰っていた。実を言うと宿屋が壊されらためリュージュ家の居候させてもらっていたので、こうして四人で帰っていた。


「やっと終わったね~」

「そうですね。ずいぶん長い滞在になってしまいましたし……いつ頃出るつもりなんですか?」

「そうだな……壊れた武器の修繕やポーション補充も必要だから」


 最後の戦いの後、スレイは投げ捨てた魔道銃を回収した。

 その時に分かったことだが、魔道銃アルナイルは度重なる戦いに耐えきれず魔道回路に焼き付けを起こしてしまったのだ。

 修復自体は簡単に終わるが復興作業が難航していたせいで中々修理に取り掛かれなかった。

 ポーションについても同じ理由で、街の怪我人のためにと無償で配り回ったせいで手持ちがなくなってしまった。武器も薬も旅を続けるなら必須だ。


「それを考えて、出発は三日後ってところかな?」


 スレイが呟くようにそう答えるとリーフが足を止めた。


「そうですか……もう行かれるんですね」

「リーフお姉さん……」


 スレイたちとのお別れ、それが近くなったことに寂しさを覚えていた。そしてそれに気付いたノクトが不安そうな顔をリーフに向けてからスレイとユフィに方へと視線を向けていた。


「スレイくん、あの事、二人にはまだ話してなかったでしょ?いい頃合いだし言っちゃえば?」

「えっ!?いや、……ちょ、えっと……わかった、だからそんな目で見ないでくれ」


 ユフィがムスッとしたような顔をしながらスレイを睨んでおり、その顔がかなりかわいい、そう思ったが口には出さずに観念してリーフとノクトの方に向き直った。


「えぇっと……二人に話があるんだけど、いいかな?」

「はい、構いませんが」

「なんですか?」


 スレイは大きな息を吐いてから話を始めた。


「えっと、まずボクは今ユフィと付き合っています」

「はい、それはよく存じています」

「それでなんですが、ボクはユフィを好きなのと同時にノクトやリーフのことも好きです」

「……お兄さん、それはどういうことですか?」

「前にユフィに二人がボクに好意を持ってるって言われて、改めてボクも二人について考えたんだ……それで、ボクも二人の事を好きだって気づきました」


 ノクトの問いかけにスレイは照れながらそう答えたが、その答えを聞いたノクトとリーフは行きなりのことで呆然としていると、背後からユフィがスレイの横にたって言葉に付け加える。


「もう、いいノクトちゃんリーフさん、スレイくんは私の事も二人の事をお嫁さんにしたいっていってるんですよ!」

「ユフィ、話が飛躍してるけど……まぁ間違ってないんだけどさ」


 スレイとユフィが二人を見るとポロポロと目から涙を流している二人がいた。


「うれしいです……わたしにお兄さんが大好きです!お兄さんのお嫁さんにしてください!」

「こんな私でよろしければ、その………末永くよろしくお願いします!」


 二人の目からこぼれ落ちる涙を見て、照れくさくなったスレイはユフィの事を一瞥する。


「ユフィのせいで話が飛躍してるよ……あぁクソ、ホントはもっと後で渡すつもりだったんだけど、もういいか」


 そう言いながらスレイは空間収納を開くと、その中から二組の腕輪を取り出し二人の前に差し出した。


「えっと、ボクとユフィの故郷では婚約者にお揃いの腕輪を送るのが習わしでして、二人とはこれからも一緒にいてもらいたい、もし許してくれるならこれを受け取ってください」


 さすがに許されてるとはいえ重婚は不味いかな、そう思いながら二人に向かって訪ねるスレイだった。


「そんなの私たちの答えは決まってるではありませんか!」

「わたしも皆さんとずっといたいです!」


 二人は目尻に涙を貯めながらスレイの手から腕輪を受け取ったのだった。


 ⚔⚔⚔


 その日の夜、リュージュ家のみなさんに婚約の挨拶をすることとなった。

 はじめは複数の妻を娶ろうとしているからカルトス辺りから一発もらうかもしれないと、覚悟を決めていたスレイだったがそんなこともなく祝福された。

 不思議に思いカルトス訊ねると、どうやら襲撃の際のスレイに行動とリーフの想いに答えたなら問題はないと言われた。

 つまりはスレイがいつまでも気付かない鈍感なのが悪いと言われた。


「それではスレイ殿、私は騎士団へ退役届けを出してきます」

「本当にいいの退役届けなんて出して?」

「いいんです。少し早い結婚退役です。それでは、行って参ります」


 意気揚々と出掛けていったリーフを見送ったスレイは、屋敷の中に戻り出かける支度を始めていた。


「若様、お出掛けですか?」

「あの、その呼名やめてって昨日言いましたよね?」

「若様はお嬢様の旦那さまになられるお方です」

「わかりました……もういいですよ」


 あきれながら肩を落としていると、ブレッドが先程と同じ問いかけをしてきた。


「ちょっと近くの広場まで、屋敷の中で錬金術は使えないので」

「それでしたらお庭をお使いください」

「あっ、いいんですか?」

「えぇ」

「じゃあ遠慮なく使わせてもらいますね」


 どこか適当な場所でアルナイルの修理をしようと思っていたが、庭を使っていいというなら楽でいい。


 ⚔⚔⚔


 庭の一角を借りたスレイは、木の陰に腰を下ろすとそこに布を引いて壊れたアルナイルと、修復に必要な部品や足りない部品があった時のために材料となる鉱石を並べ、最後に工具を手に取った。

 工具を使い壊れたアルナイルをバラバラに分解してパーツを仕分けるように並べ始める。この段階で摩耗したパーツや、焼き付けを起こしてしまった魔力回路を取り除き、残ったパーツを並べていく。


「思ったよりも破損がひどいな、金属摩耗に魔力回路の破損、内蔵部分は全部取り替えたほうがいいな………予備パーツの残りもそんなにないし共通部品だけでも作っておいたほうがいいか」


 アルナイルとアルニラム、同方の魔道銃であるこの二つはほとんどのパーツを共通している。

 修理ついでに予備の部品を作っておこうと、追加の金属塊を取り出していると遠くの方から声がかけられた。


「お兄さん、何やってるんですかこんなところで」

「あれノクト。それにロアくん、どうしたの二人揃って?」


 かけられた声に顔を上げるとロアを連れ立ったノクトの姿を見つけ、パタパタと駆け寄ってきたロアが嬉しそうに語る。


「スノクトお義姉さんに遊んでもらっていたんです!」

「そっか、良かったねロアくん」


 スレイは嬉しそうにしているロアの頭を撫でながら笑いかけている。


「それでお兄さんは何を?」

「見ての通りアルナイルの修理、こいつがないと戦えないからね」


 そう言って二人へ完全にばらし終わったアルナイルの銃身を見せていた。

 ロアは興味深そうにスレイの手元を見ていたが、魔道銃もとい魔道具の取り扱いの危険性を理解していたノクトは、邪魔をしてはならないのでその場から離れることを決めた。


「ロアくん。お兄さんはとっても忙しそうなので、わたしたちは向こうに行きますね」

「えっ……うん。スレイお義兄さんまたね!」

「うん、また後で」


 残念そうにしながらのノクトと一緒に立ち去っていくロアに手を振った。

 二人が立ち去ってからスレイは一人で魔道銃の修理を続けていた。

 残存部品も疲労で弱った場所を錬金術で補強し、予備パーツを使って魔道銃を組み立てながら部品の咬み合わせを調整し、油をさして動作を確認していく。


「うぅ~ん………もう少し銃身に厚みが欲しいけど、これ以上重量は増やせないか」


 これ以上は金属の素材から吟味し直さなければならないと諦め、このまま組み上げようと思い作業を再開しようとしたそことき、再びスレイを呼ぶ声が聞こえてきた。


「あっ、スレイくん!こんなところにいた!」


 大きな声をあげながら走ってきたユフィ、組つけようとしていた部品を置いたスレイは座ったまま見上げる形でユフィに話しかけた。


「今度はユフィか、どうしたのそんなに慌てて?」

「どうしたじゃないよ!お部屋にいないから探し回ったんだよ!?」


 ムッと怒っているユフィを前にして、なんだから理不尽なような気がすると思いながらスレイは素直に謝った。


「ごめんよ。それで、なにがあったの?」

「あっ、そうそう。玄関にお客さんが来てたんだって、私とスレイくんに」

「なんで過去形?もしかしてその人帰っちゃったの?」

「うん。メイドさんが言うにはギルドの職員で私たちギルドに来るようにって、言伝を頼んだみたいなの」

「ギルドへ?……なんだろう」


 ギルドからの呼び出しとなると復興に関することだろうが、すでにその話はすでに終わっている。またなにか問題が起こった可能性もあるが、そうだとしてもスレイを呼び立てる理由が思い浮かばない。

 あれこれと可能性は思い浮かぶものの、そのすべてがありえないと否定していくスレイは、なにやら嫌な予感がしてきた。


「理由はわからないけど……なんか嫌な予感がしてきたな」

「あははっ、スレイくんが呼び出されると絶対に面倒事だもんね~」


 ユフィに笑われながらスレイは片付けと出かける準備を始めるのだった。


 ⚔⚔⚔


 ギルドの受け付けにやって来たスレイとユフィは、受付で話を済ますと通されたのはギルドマスターの部屋であった。


「失礼します。スレイ・アルファスタ、ユフィ・メルレイクの両名をお連れいたしました」

「入れ」


 部屋の扉を開けて中に入ると、昨日もあったギルドマスターのゾディアがいた。


「すまんな急に呼び出してしまって」

「いいえ、大丈夫です」

「あの、それで私たちが呼ばれた理由はなんですか?」

「それなんだが、お入りください」


 ゾディアが隣の部屋に繋がる扉に声をかけると、部屋の中から出てきたのは真っ白なローブに深い緑色の髪に美女が立っている。

 そんな美女だが、それ以上に目立つのが彼女の耳だった。

 大きく尖ったその耳はまさしくエルフのそれで、スレイとユフィはその人物をよく知っていた。


「お久しぶりですね、スレイ、ユフィ、元気そうで安心しました」

「ルラ先生?」

「どうしたんですか、こんなところで?」


 そう、ここにいたのはスレイとユフィの魔法の先生クレイアルラであった。

 クレイアルラは二人のことを真剣な表情で見ながら話しかけた。


「説明はあとにしますが、村で大変なことが起きました。すぐに帰ってきてください」



これにてこの章は終わります。

これからもよろしくお願いいたします。

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