それぞれの戦い ②
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遠くに転移させたアカネが戻ってくる前にレティシアを倒そうと考えたユフィは、レティシアの剣の間合いよりもさらに近くに接近するとそのまま連打で攻撃を仕掛ける。
「ヤァアアアアァァァァ――――ッ!!」
握り締めた拳を振るいレティシアに連打を繰り出すユフィ、その動きは魔法使いのそれとは違い一流の拳法家のそれと同じだった。
剣の間合いのさらに奥へと踏み込んだユフィの拳がレティシアの腹部を撃ち抜いたが、既のところで防がれてしまった。
「ッたく、危ないのぉ!」
撃ち抜かれた拳をギリギリのところで剣で受け止めたレティシアだったが、ユフィの攻撃はそこでは止まらなかった。
左右のジャブから踏み込んでのハイキック、さらに軸足で地面を蹴っての回転蹴りへと繋げての横蹴りを繰り出したユフィ、対するレティシアはそれを剣で受け止めた。
「魔法使いが拳闘でくるかッ!?」
「これでも、最強の拳闘家の娘だからねぇ~!」
ユフィのこの戦い方は母のマリーから学んだ戦い方だ。
魔法の師であるクレイアルラから、一流の魔法使いになるためには魔法だけに頼ってはならないと教えられてきた。
冒険者とはいかなる不測の事態も起こり、魔物や敵と一対一で戦う場面が必ず出てくる。そうなったとき、一番恐ろしいのは何も出来ずに殺されることだ。
それ故にユフィはクレイアルラから棒術を教わったのだが生憎とユフィに武技を扱う才能はなかった。変わりにマリーの血を受け継いだおかげか、拳法の才能はあった。
「ハァアアアアァァァッ!」
前へと踏み込んだユフィは、そっと拳を当てると同時に魔力を衝撃波のように飛ばしてレティシアを吹き飛ばす。
「くっ、やりおる」
衝撃波を受けて吹き飛ばされたレティシアは、近づいてはマズイとユフィから離れている。
「まさか……妾がここまで押されるとはおもわなんだわ!」
「これからだからね!!」
拳を引きながら駆け出しユフィが間合いに入ると、レティシアは剣杖を真上から振り下ろす。
ユフィは左手の甲で剣を受け止め引き絞った拳を突き出そうとしたが、受け止めた剣杖に魔力が集まるのを感じ取とるとユフィは拳を押し返して剣を弾き返した。
「ふっ、さすが良い感をしておるわッ!」
「それは、ありがとうねッ!」
拳を振り抜こうとした瞬間、ユフィの拳が空を切った。
「ッ!?空間転移ッ!?」
魔力の流れを読んで振り返ると、そこには剣の切っ先に描かれた魔法陣を向けるレティシアの姿があった。
「喰らえッ!───ライトニングスピア!」
放たれた雷槍がユフィのすぐ側をうがった。
空間転移の直後のせいで狙いがそれたのか、あるいはわざと外したのかは分からないがチャンスだと踏み込もうとしたユフィだったが、既のところで足を止める。
それはなぜか、レティシアの魔法が終わっていないからだ。
「うわっ!?うそでしょッ!?」
魔法陣から撃ち出された雷槍を既のところでかわしたユフィは、次に撃ち出された雷槍を横に飛んでかわすとレティシアの周りを走り出す。
「悪いのユフィ!妾は、魔法のコントロールがザルでの、数を撃たせてもらう!」
次々に撃たれる雷槍をユフィは走りながら回避し続ける。
「ッ、これじゃあ近づけないよ!」
走って、飛んで、避けて、飛来する雷槍をこどごとくかわし続けているユフィにレティシアは攻撃の手を緩めることはなかった。
「どうじゃユフィ!今のお主ではそれが精一杯なんじゃろ!」
今の動きだけでレティシアには確信があった。
ユフィは今、シェルによる攻撃の防御も出来ないのだと。レティシアがその考えに至った理由は幾つかあった。
まずはユフィが杖からガントレットに変えた瞬間、空中を飛び回っていたはずのガード・シェルがすべて地面に落ち、今も魔法を使う気配は見られない。
「主は魔法使いとしては典型的な部類じな、杖がなければ複雑な魔法は使えぬ!」
魔法使いの多くは魔法を扱う時にその補助を行う杖に依存している。
身体強化や空間転移のように自身を起点として使う魔法や、魔力そのものや属性の魔力を放出することは出来ても高位の魔法は使えない。
今のユフィの闘い方をみてもそうだ。
身体強化は行っているものの、魔法による遠距離での反撃や防御を行おうとしない。
それ故に、この戦いは自分に有利だとレティシアは確信していた。
「妾の勝ちじゃ!ユフィッ!」
一発の雷槍がユフィの足元に着弾し足を止める。
この一瞬の隙こそがチャンスとばかりにレティシアはトドメの一撃を放った。放たれた雷槍は動きをとめるユフィを射抜くべく打ち出される。
「──ッ!」
目の前に迫りくる雷槍を前にしてユフィは動かない、否動けないのだ。
直前に放たれた雷槍によって体勢を崩し回避が間に合わない。レティシアは勝ったと確信を得る中、飛来する雷槍にユフィは片手を突き立てた。
「甘いよ───マジックリフレクション!」
片手を突き上げたユフィのガントレット、そこに埋め込まれた宝珠が輝き掌に魔法陣が展開された。
展開された魔法陣から作られたシールドがレティシアの放った雷の槍を跳ね返した。
「何ッ!?」
跳ね返された雷槍を魔力を纏った剣杖で斬り裂いたレティシアは、接近使用をするユフィに向けて魔法を放った。
「こさせぬぞ!───ファイア・アローッ!」
剣杖の切っ先から放たれた炎の矢がユフィに襲いかかる。
「押し通らせて貰うよ!───アクア・ウォール!」
再びガントレットの宝珠が光り輝くと共に現れた魔法陣より魔法が発動し、水の壁が現れて炎の矢をすべて飲み込むと、水が蒸発し水蒸気が吹き荒れる。
吹き荒れる水蒸気の中を進むユフィが拳を振り抜くと、レティシアの剣がそれを押し留める。
ギチギチと火花を上げる拳と剣、レティシアは至近距離でユフィの拳を見てあることに気づいた。
「主の手甲に着けられおるそれ、杖の宝珠か!?」
「正解!あと、ついでになんだけど……私、杖がなくてもそれなりに魔法が使えるよッ!」
剣杖を押し返し飛び上がりながらの回し蹴りを放ったユフィ、まともに蹴りを受けたレティシアは勢いのまま吹き飛ばされる。
ユフィは元々杖がなくても魔法が使えるが、シェルとのリンクは杖を触媒としているため手放せない。
それに魔法使いが扱う杖には、細かい威力の調節や魔法の増幅など得られる恩恵も大きい、もしものとき杖ではなく拳で戦うことになった場合を考えて作られたのがこのガントレットだ。
今ユフィのつけているガントレット、その甲に着けられている宝珠は杖を作るときに余ったリヴァイアサンのコアを素材にしている。
もしもの時のように用意していたガントレットに余ったコアから作った宝珠を取り付けて杖の変わりにしたのだ。
ただし初めて使う上に、細かい調整を行わずに実戦に投入したため宝珠へ魔力がうまく通らなかったのだ。
レティシアを相手取りながら調整を行い、先ほどようやく調整が終了したのだ。
ギリギリ間に合った、そう思いながらガントレットの宝珠を見ていると、剣を突き立てながらレティシアが立ち上がった。
「ずいぶんと、滑られたものじゃな……妾を油断させるため、ギリギリまで魔法を使わぬとは」
「そんなことないですよ。ちょっとこっちに問題があっただけで……」
「ならば次は全力で来い」
「言われなくても!」
手加減なんてして勝てる相手ではない、そのことを理解しているユフィが拳を構えようとしたその時、背後から誰かが駆けてくる音と共に、恨みにこもった怒号の声が響いた。
「ユフィ!あんた、よくも!!」
声のした方に振り返ったユフィは、全身から怒りのオーラを身にまといながら駆けてくるアカネの姿を見つける。
「えっ、うそ。まさか、もう戻ってきたの!?」
驚きの声をあげるユフィよそに、駆けながら両手の指の隙間に投げナイフを握ったアカネは、両腕を大きく引きながら全力で投擲した。
「ッ──シールド・トリプルッ!!」
咄嗟にシールドを三重に重ねて展開したユフィはしまったと思いながらレティシアの方へと振り返る。
すると、一瞬の隙を突いて距離を詰めたレティシアの剣が振り抜かれる。
「隙を見せおったなユフィ!」
「ッ!?」
投擲されたナイフを防ぐためにもこのシールドは解けない、ならばと片手でシールドを維持したまま片手でレティシアの剣を防ぐ。
ガンッと、剣とガントレットが重なり合い火花を散らしている。
片手で剣を防ぐユフィだったが手数が足りず押し切れれてしまう。
「うっ」
防ぎきれずにすり抜けてきた刃がユフィの身体を捉えて血を飛ばす。致命傷になることもないような小さな傷がユフィの身体に刻まれていく。
このままじゃマズイとユフィが考えたその時、アカネの声がすぐそばで聞こえてくる。
「レティシアばっかりに気を取られすぎよ!」
「ッ、アカネ!?」
声のした方へと振り返ると、シールドの合間を抜けてアカネが接近する。
もう意味がないとシールドを解いたユフィが守りの体勢に入ろうとしたが、それよりも早く振り抜かれたアカネの短剣がユフィの頬と右肩を斬り裂いた。
「痛ッ……このッ───ウィンド・ブラスト!」
二人から離れるべく両掌に魔法陣を展開し、魔法を放ったユフィは爆風によって自分と二人を巻き込んで吹き飛ばした。
「くっ、なんてやつじゃ……自爆覚悟で吹き飛ばしおったわ!」
「あんた無事?」
「平気じゃ。しかし、ずいぶんと遅かったの。どこまで行っておった?」
「街の外れよ。おかげで疲れたわ」
二人の会話を聞きながら立ち上がったユフィは、ポタポタと指先を伝えて流れ落ちる血を見ながら肩を押さえる。
咄嗟に身を引いたことで深手にはならないものの、このまま戦うことはできないだろう。ギュッと傷口をさえながら、氷の魔法で傷口を止血したユフィは、拳を握り締めて構える。
「まだまだ、これからだよ」
強がりながら二人に向けて拳を構えるユフィに向かって、アカネとレティシアが襲いかかる。
ユフィも迎え撃つために前へと踏み込もうとしたその時、ユフィの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ユフィ殿から離れなさい!」
「ユフィお姉さんッ!」
聞こえてきた声にユフィたちが反応し声のした方へと振り返ったその時、闘気の刃がアカネとレティシアの近くを斬り裂いた。
「何ッ、援軍!?」
「チィッ、時間をかけすぎたかの」
後ろに下がったアカネとレティシア、そこにさらに追撃をするようにリーフが闘気を纏った剣を振るい、闘気の斬撃を飛ばしながら二人を牽制しながらユフィの前に立った。
「リーフさん、ノクトちゃんも……きてくれたんだ」
二人の姿を見て、よかったと呟いたユフィは全身の力が抜けて片膝をしまった。
膝をついたユフィに駆け寄ったノクトが支えながら治癒魔法を唱える。
「すみません、ずいぶん離れていたもので遅くなりました」
「お姉さん、これ飲んでください」
盾を正面に構えユフィを守るリーフと、治癒魔法をかけながらポーションを手渡しているノクト、二人のことを見ながらユフィは小さく息を吐いた。
「ありがとう、来てくれて助かったよ~」
ノクトの治癒魔法とポーションで傷を癒したユフィが立ち上がろうとすると、慌ててノクトが止める。
「お姉さん!待ってください、まだダメです」
「大丈夫、だよ………リーフさん、一緒にやりましょう」
拳を握りしめ隣に並び立ったユフィの姿をちらりと横目で見たリーフは、すぐに前の二人へと視線を戻した。
「ユフィ殿、まさかそれで戦うのですか?」
「うん。本職じゃないけど、ちょっとしたものだよ」
魔法使いが拳で戦うという事態に困惑するリーフだが、自分たちが来るまで一人で持ちこたえた腕前は信じてもいいと思えた。
「……わかりました。では、お願いします」
「了解です!ノクトちゃん、援護をお願いね!」
「はい!」
ノクトの頼もしい返事を聞いたユフィとリーフは、全身に纏う魔力と闘気を高めながら走り出す。
ユフィ達に先手を譲ったアカネとレティシアは、動き出した二人を見ながら静かに佇む。
「仕掛けてきたわね。レティシア、どっちの相手をする?」
「そうじゃな。妾はあの女騎士を相手しておこう。ユフィは任せる、因縁の相手なのじゃろ?」
仮面で表情は分からなかったが、きっと笑いかけてきてるのだろうと思ったアカネは小さく頷いた。
「そっちは頼んだわ、レティシア」
「任せておけアカネよ」
アカネとレティシアほぼ同時に駆け出すと、まず始めに仕掛けたのはレティシアだった。
走りながら剣を強化し、自身の身体にも身体強化を施して筋力をブーストさせたレティシアは、剣の切っ先を真下に構えながら間合いに入ると同時に剣を振り抜いた。
ガンッと剣と盾がぶつかり合うと、衝撃を受けたリーフが後ろに下がった。
「ほぅ、これを受けるか!」
「っ、重い!?」
次々と振るわれる重撃を盾で受けながら剣で切り結ぶリーフだったが、続く一撃で吹き飛ばされる。
「もらった!」
駆け抜けるレティシアを前にリーフが盾を構えようとしたその時だった。
「させません!───ロックウォール!」
リーフに接近するレティシア、その前に岩壁を出現させたノクトだった。
「助かりましたノクト殿!」
「クッ、このッ!」
岩壁を避けてレティシアに切りかかったリーフ、続けてレティシアも切り返そうとするもまたしても岩壁によって剣を防がれる。
「えぇい!面倒なッ!」
ノクトの魔法によって剣を防がれるレティシアは、地面に魔力を流しながらノクトの魔法を妨害しながらリーフの攻撃を捌いていく。
一方、ユフィとアカネの戦いは静かに行われていた。
拳を顔の高さにまで上げたユフィは、周りを警戒しながらアカネの姿を探している。
辺りをうかがいアカネの気配を探りながら警戒を強めているユフィ、もともとアカネは視角からの攻撃など暗殺を主体とした闘い方をしている。
一度姿を消したら探し出すのはほぼ不可能だ。
「あぁ、もうやっぱり戦いたくないな~」
先ほどとは違う理由でアカネとの戦いを嫌がるユフィは、それでも警戒を怠らない。
元々ユフィとアカネの戦いのスタイルは相性が災厄、戦いともなればまともな勝負ができるはずもない。ならばとユフィは自分の身体に魔法をかける。
「行くよ───アクセル・パワーブースト」
ユフィがガントレットの甲の部分に付けられた宝珠に魔力を流すと、そのまま身体強化系を自身に付与しようとしていた。
その瞬間、背後から現れたアカネがナイフを突きつける。
「させるかッ!」
気配を消しそっとナイフの刃を突き出そうとしたアカネだった。
これは決まると思いながら吸い込まれるようにその切っ先を突き立てようとしたアカネだったが、すでに魔法を発動させていたユフィにはすでにその音を捕らえていた。
「そこッ!」
強化したことによって気配の感知能力をフルで活かし、カウンターの裏拳を叩き込んだ。
「うぐっ!?」
ユフィの裏拳が当たる直前にアカネは左手でガードすると、持っていたナイフを投擲してユフィを牽制する。
ナイフを投げられその場から離れたユフィが拳を構えて接近すると、アカネは鞘に戻していた短剣を抜いて斬りかかる。
「はぁあああァァァッ!!」
「やぁあああァァァッ!」
ユフィの拳とアカネの短剣が切り結ぶごとに火花を散らしていく。
拳と短剣が重なり合うなか、アカネが勝負を決めにかかるように鋭い一閃を放ったその時、ユフィは伸ばされた腕を掴み流れるような一本背負いを決める。
「かハッ!?」
受け身を取るも背中から強く打ち付けられたアカネが息を吐くと、とどめを刺すようにユフィの拳が倒れるアカネに向かって撃ち抜かれようとした。
「フッ!」
息を吐きながら強化された拳を真下に叩きつけたユフィだが、アカネは既の両足で地面を蹴り逆立ちの要領で身体を起こすと、両足でユフィの身体を挟んだ。
「なっ、うそッ!」
「ハァッ!」
両腕で体を支えながらユフィのことを投げ飛ばしたアカネは手放した短剣を拾って斬りかかる。
「このッ、よくもッ!」
投げ飛ばされたユフィが地面を蹴り駆け抜けると、アカネが短剣を振り抜くよりも早くユフィのハイキックが振り抜かれる。蹴りが飛んでくる瞬間アカネは後ろに身を倒してかわしたが、わずかに蹴りが仮面をかすめる。
ビシッと蹴りがかすめた仮面のヒビが入った。
「なっ、マズイ」
「えっ……」
追撃をせず慌てて割れた仮面を抑えるアカネの姿にユフィは違和感を覚える。
顔を観られたくない、そういうわけでは無さそうだ。
今まで戦っていたことも忘れてユフィはアカネに問いかける。
「アカネ、いったいどうしたの?」
「うるさい……私の眼を見るな!!」
眼を見るな、どういう意味なのかユフィにはさっぱりわからなかった。
第アカネの眼にいったい何かあるのか、そんな疑問がユフィの頭に溢れたがそれよりも先に、真上から放たれる強烈な殺気にユフィはとっさにその場から離れる。
「アカネから離れろッ!」
上から降り注いだ殺気と怒号にユフィが離れると同時に今まで、ユフィが立っていた場所に何かが落ち土煙が上がった。
「きゃっ!?」
吹き荒れる土煙落ちてきた衝撃で飛ばされそうになったユフィだったが、その身体を優しく腕に中に受け止める人物がいた。
一瞬誰がとも思ったが、すぐに誰かわかった。
「スレイくん」
「大丈夫、ユフィ?」
そうユフィを背後から受け止めたのはスレイだった。
土煙が晴れたその中心にいたのは、アカネやレティシアと同じ顔をすっぽりと覆うように付けられた仮面の少年クロガネの姿だった。
⚔⚔⚔
時は少し遡り空中、クロガネと激闘を繰り広げていたスレイは慣れない空中での戦いに苦戦を強いられていた。
「シィッ!」
「クゥオッ!?」
振り抜かれる刃を魔道銃で受け止めたスレイが黒い剣で切り返しも、返す刃で防がれ切り返しとともにスレイの身体を斬り裂いた。
斬り裂かれ血が飛び散る中、スレイは至近距離で魔道銃を突きつけトリガーを引き絞る。
「ハァッ!」
「クッ、チィッ!?」
至近距離での一斉照射を剣で防ぐクロガネだったが、至近距離で放たれる弾丸をすべて防ぐのは不可能だ。
剣ですべてを切り落とすことは不可能、致命傷ギリギリのところでどうにか弾丸を防ぐも至る所を弾丸がかすめる。
弾丸をすべて撃ち尽くしたスレイが距離を詰め黒い剣を真上から振り抜き、対するクロガネもまた黒い剣を両手で握り真横で受け止める。
二振りに剣が至近距離で交差し火花を散らす中、至近距離でにらみ合った二人の目がかち合った。
「はぁ……はぁ……いい加減、斬られやがれ」
クロガネの口から漏れ出る荒い息遣い、確実に疲労を蓄積しているがそれはスレイも同じだった。
「いやな、こった……ッ!」
さけんだスレイがクロガネの剣を押し返すと、弾倉が空になった魔道銃をクロガネに突きつける。
「チィッ!?」
この距離はマズイと剣に留めていた風魔法を爆発させ、スレイを吹き飛ばす。
「ぐっ、このっ!」
吹き飛ばされながら魔道銃の銃口を向けたスレイは、トリガーを引き絞る……ふりをした。
「何ッ!?」
突然吹き飛ばされた状態のスレイがグリップから手を離し魔道銃を弄んだところで、呆気に取られたクロガネだったが、スレイが空間収納を開いたのを見て気を引き締める。
何が来ると警戒すると、スレイは魔道銃を投げてた。
「チッ、野郎!」
やられたと思ったクロガネがスレイへと向かっていくと、空中で身を翻しながら背面の腰に下げられた短剣を引き抜いた。
今更何を、そう思ったユキヤだったがそのまま加速して斬り殺すと速度を上げたその時、スレイが抜き放った短剣に魔力を通すと、半透明の刃が伸びていく。
「ッ!?」
スレイが魔力を込めるとそれに合わせて刃が伸び、クロガネを突き出そうと伸びる。しかし、伸ばされた魔力の刃はクロガネの剣によって折られて砕けてしまった。
「柔い剣だなッ!」
クロガネが加速して近づこうとしたその瞬間、砕け散ったはずの魔力の刃が現れて振り抜かれた。
迫りくる魔力の刃、それを見たクロガネは黒い剣で防いだ。
「残念、この剣は魔力があればいくらでも修復可能なんだよ!」
「なんだ、その剣!?」
初めて見る魔力刀に驚きながらも、真正面から切り結ぶスレイとクロガネの戦い続いていく。
闘気も魔力も全てを出し切ってこの男を斬る。そう覚悟を決める強い想いを込めながら戦う二人であったが、その戦いは突然終わりを迎えることになった。
激しき剣戟の最中、クロガネはふと足元の光景が目に入った。
したも未だに戦いが続いている。少しでも早くスレイを倒して合流しなければと考えたクロガネは、ユフィと戦っているアカネの異変に気づいた。
「──ッ、アレは!?」
顔を押さえうずくまるアカネの姿を見てクロガネは、斬り掛かってくるスレイの一撃をかわし風圧で吹き飛ばすと物凄い勢いで降下していく。
「何だあいつ!?」
一体何をするつもりだとクロガネの向かう場所を見ていると、その先にユフィがいることに気がつく。
危ないと転移を使いユフィの後ろに現れたスレイは、後ろからユフィを抱き締める形で支えた。
「スレイくん」
驚きの顔でスレイの顔を見上げるユフィだったが、今のスレイにそんなことを気にしている余裕はなかった。
煙が晴れると同時に、現れたクロガネの姿を見てスレイは右手に握っている黒い剣に力を込めた。




