それぞれの戦い
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満天の星と優しい月の光が煌めく夜空の下では、剣を握った二人の少年が斬り結んでいた。
「ハァアアアアァァァッ!」
「───シィッ!!」
白と黒、二人の少年が振るう漆黒の剣が夜空の闇を切り裂くように閃を描き、刃が重なり合うことで激しい火花を散らす。
白髪の少年スレイと黒髪の少年クロガネは、火花を散らし合う剣越しにお互いをにらみ合う。
「クロガネ!お前、なんであんな神に仕えるんだ!?」
「うるせぇ!テメェには関係ねぇだろッ!」
「グフッ!?」
叫びながらクロガネが放った蹴りがスレイの腹部を蹴り抜き、力が抜けたところを狙ってクロガネが剣を押し返す。
踏ん張る事が出来ずスレイが後ろに下がると、クロガネは上空へ飛び上がり上空からスレイに斬りかかる。
「ウォォオオオォッ!」
「グォオオォォッ!?」
真上から降りかかるクロガネの剣を既のところで受け止めたスレイは、火花を散らす剣を押し返しながら叫ぶ。
「君の仕える神はこの世界を消し去ろうとしているッ……このままじゃッ、全員………消えるんだぞッ!?」
「それが───どうしたッ!」
クロガネが握る剣に力を込めるとスレイが押し負ける。
よろけながら後ろに下がり剣を構え直すと、向かってくるクロガネを見据えながらスレイは叫んだ。
「お前は───それで良いのかッ?!」
「オレにだって事情があるんだ!何も知らねぇてめぇは黙ってろッ!!」
接近するクロガネに向かって魔道銃の銃口を突きつけると、連続でトリガーを引き撃ち出された弾丸が高速で飛来する。
「無駄だッ!」
叫ぶクロガネが剣に暴風の魔力を纏わせて一閃すると、吹き荒れる剣風が弾丸を包み込み弾道を逸らした。接近するクロガネにスレイは業火を纏った剣を一閃する。
振り抜かれた漆黒の炎閃がクロガネの身体を捉えようとしたが、引き戻されたクロガネの剣が受け止める。
「それが、お前の意思かッ!クロガネッ!!」
「あぁ、オレはオレの意思であの方に付き従っている!それだけだッ!」
「そう……かよッ!」
睨み合うスレイとクロガネは、同時に剣に込め魔力を高め合うと重なり合った刃の宿る業火と暴風が吹き荒れる。
吹き荒れる暴風の刃がスレイの身体を切り裂き、燃え盛る漆黒の業火がクロガネの身体を焦がす。
「だったら………ここでお前を倒すッ!!」
炎と風、性質の違う二つの魔法がぶつかり合う中、スレイはクロガネの剣を巻き上げそして上へといなす。
「取ったッ!」
「───ッ!?」
空いた胴へ魔道銃を突きつけたスレイは魔力を流し込み、ゼロ距離でトリガーを引き絞ろうとした瞬間、チクリと頭の片隅で何か忘れている古い記憶が刺激されたような感覚を感じた。
「クッ!?」
一瞬、スレイがトリガーを引くのをためらった。
その隙を見逃さずにクロガネの掌底が魔道銃を押しのけると、引き戻した剣を真上から振り下ろした。
殺られると後ろに後ろに下がるが、暴風を纏った剣閃がスレイの身体を切り裂き吹き出した血が宙を舞った。
「死合の場で躊躇しやがって」
「そんなこと───」
「覚悟がねぇなら、ここで死ねッ!!」
追撃するべくスレイを追うクロガネは、剣に込める闘気を高めながら迫りくる。
「そんなことは、ないッ!!」
後ろに下がりながらもスレイは掲げた魔道銃を連続で撃つが、切り返す刃でクロガネはすべての弾丸を斬り落とした。
弾丸を斬り落とされながらも前に進み出たスレイは、漆黒の炎を宿した黒い剣を垂直に構え足元に風の魔力を爆発させながら前へと直進する。
「ハァアアアアァァァッ!」
暴風の魔力で加速しながら放たれる最速の突きが、クロガネに狙い定めて突き立てられる。
「グッ!?」
不味いと身体を傾けながら横に飛んだクロガネだったが、回避が間に合わずにわずかにクロガネの二の腕を斬り裂いた。
切断と延焼を同時に受けたクロガネが顔をしかめるも、身を翻して無防備なスレイを背後から切りかかった。
「お返しだッ!」
背後から迫りくるクロガネの刃をスレイは空間転移でかわすと、再び二人の剣が空中で斬り結んだ。
「負けるかッ、お前は此処で倒すッ!」
「やってみろッ、テメェはここで斬るッ!」
スレイはこの世界を守るため、クロガネは世界を破壊するため、お互いの譲れない思いを込めた刃が空中で幾度となく切り結ぶのであった。
⚔⚔⚔
空の上でスレイとクロガネが戦いを繰り広げているとき、ユフィ、ノクト、リーフの三人は貴族街の中に溢れ返っていた使徒の分体、その残りの殲滅にあたっていた。
「凍てつき落ちよッ───アブソリュート・レイン!」
ユフィが天に向けて杖を掲げると共に展開された魔法陣から氷結の雨が天高く打ち上げられる。
空高く昇った氷結の雨が弾けるように降り注ぐと、夜空の下を飛んでいた使徒の分体、その翼と背中を一瞬にして凍りつかせ落ちてくる。
分体を杖を構え魔力を溜めていたノクトと、地上にはびこっていた分体を切り裂いていたリーフが共に仕掛ける。
「やぁあああああっ!!」
「───フレイムアロー!」
リーフの剣が虚空を切り裂くと、闘気によって形作られた斬激波が放たれ分体の身体を切り裂き、ノクトの杖から打ち出された炎の矢が分体の胸に突き刺さり、内部から身体の燃えた分体が落ちてくる。
戦いが始まりどれくらい経ったのか、十分かあるいは何時間も経ったのか、終わりの見えない戦いにリーフが険しい表情を浮かべる。
「はぁ……はぁ……リーフ、お姉さん………今の、技……何ですか?」
そんなリーフの側に立っているノクトは、連戦による影響か、あるいは魔力の使いすぎか顔色が悪く、上がった息づかいでたどたどしく言葉を紡いでいた。
「闘気の刃を飛ばした技です、多分スレイ殿も同じこと出来ると思いますよ?」
「えぇ~。ずっと一緒にいるけど、スレイくんがそんな技を使ってるところ見たこと無いですよ」
するといつの間にかやってきたユフィがそんな言葉を返した。
「お兄さん……魔道銃があるから………使わないんじゃ………ないですか、ね……」
「それはありそうかも~……それより、大丈夫そう?」
「まだ……いけます……」
息を整えながらノクトは懐から取り出した二種類のポーションを一気にあおると、悪かった顔色に血色が良くなった。
「ノクト殿、無理は為さらぬように」
「はい……大丈夫です」
「いい返事だけど、まだあんなにいるんだからね」
ユフィたちの目の前には未だに数えきれないほどの分体が存在していた。
先程、アストライアがから使徒がこの街、いいやこの世界から姿を消したといっていた。
つまりこれ以上分体が増えることはないそう思ったが、それは大きな誤りだった。
確かに使徒がこの世界から消えたことでこれ以上は分体が増えることはない、だがすでに使徒はこの貴族街の全ての住人を分体へと変えており、その数は約五百以上は確実にいた。
「結構減らしたけど、まだ終わりそうにないね」
「ここが、踏ん張りどころ……ですね」
気丈に振る舞っているリーフだったが、その顔は疲労が色濃く表れている。
スレイが居ない今、前衛を支えりリーフが倒れるのはマズイと思ったユフィは魔法を撃ちながらノクトに指示を出した。
「ノクトちゃん。リーフさんに回復魔法をお願い」
「はいッ!───エクスヒーリング!」
ノクトがリーフに向けて回復魔法を唱えると、暖かな光に包まれたリーフの顔から疲労の色が抜け落ちた。
「助かりますノクト殿!」
「どういたしまして……でもユフィお姉さん、もうこれ以上はもちませんよ!?」
「わかってるよ。でも、街への被害を考えたら少しずつ減らしていくしかないよ!」
まだこの区画に分体にされずに行きている人、あるいは避難しきれていない人がいるかもしれない。だから全力の魔法施行を避けて少しずつ分体を倒しいるのだ。
魔力弾を放って使徒を倒していくユフィ、そんな彼女の側で光の粒が集まり一人の女性の姿を作り出した。
『ユフィ、少しよろしいですか』
「アストライアさま……どうしたんですか?」
『時間がかかりましたが、この周辺の確認がおわりました。残念ですが、この場に生存者は一人もいません』
アストライアから聞かされたその言葉でユフィたちは揃って目を伏せる。
間に合わなかったのだと、現実を突きつけられたリーフが悔しさから剣を握る手に力が籠もる。
ゆっくりと前に出たリーフは迫りくる分体に向かって剣を振り下ろす。その太刀筋は感じている怒りをぶつけるかかのように鬼気迫り、殺気立ったリーフの剣が次々と分体を切り捨てる。
「リーフお姉さん……」
仮に震えるリーフの戦いを見守っていたノクトは、援護するために魔法を発動させようしたがそれをユフィが遮った。
「ユフィお姉さん、何するんですか?」
「ごめんね。ちょっとまってて」
ユフィの行動に疑問を覚えるノクトだったが、こんなところで変なことはしないと知っているため素直に従った。
一歩、ノクトの前に踏み出したユフィはカーンッと杖の石づきで地面を叩いた。すると、杖の宝珠から無数の魔力のラインが飛んでいくと、ユフィは小さな声で魔法を唱えた。
「───フレイム・アロー」
その言葉を唱えるとともに飛んでいった魔力のライン、その先に小さな無数の魔法陣が展開される。
魔法陣が展開された先にる使徒の分体たちは、現れた魔法陣から逃れようとしたがすでに遅かった。放たれた炎の矢は使徒の胸を、頭を貫き絶命させる。
次々と倒れ光の粒となって消えていく分体を見ながら佇んでいるリーフ、その後ろからユフィが歩み寄り問いかけた。
「ねぇ、リーフさん。ちょっといいかな?」
「………なんでしょうか?」
「もしも、ここを全部吹き飛ばすって言ったら怒る?」
振り返ったリーフは真っすぐユフィの目を見つめる。
ユフィの目は真剣そのもの、冗談や酔狂でこんな事を大出したのではないと分かったリーフは首を横に振った。
「怒りません。どのみち、守るべきものがいない街です。限度はありますがね」
「大丈夫、全部はやらないから」
不安だ、そう思ったリーフだったがここはユフィに任せてみようと思った。
「ユフィ殿にお任せしますが、先ほども言いました通りやりすぎぬように」
「わかってるよぉ~。だけど、ちょっとだけ手伝ってね」
「えぇ。なんなりと」
「よっし、それじゃあ二分だけ、私を守って」
二分だけ、この状況でそれがそれだけ酷なことかと笑ったリーフは、全身から闘気を迸らせると剣の刃を分体に向けて突き出した。
「ノクト殿。自分にありったけの魔法をお願いします!」
「ッ、わかりました!───アクセル・ブースト・デュアル!」
ブーストとアクセルの二重展開を受けたリーフは一瞬の跳躍で使徒の眼前にまで飛んだ。
「ハァアアアアッ!!」
空中で剣を一閃し首を落とされた分体が消える前にそれを足場として跳躍した。
切り倒し分体を足場にして次々と跳躍していくリーフだったが、そううまくいくわけもなく分体が散って足場がなくなる。
一度降りるかと考えたリーフだったが、次の瞬間見えない足場が現れた。
「これは……ノクト殿ですか?」
振り返るとそこには杖を構えるノクトと目があった。
「リーフお姉さん!行ってください!」
「助かります!」
タンッと踏み込むと同時にリーフは地上の二人から注意をそらすため空中を駆け抜ける。
地上でリーフの援護をしているノクトは、横目でユフィのことを流し見る。
空中に分体に対してリーフが仕掛けてすぐに、ユフィは杖を地面に突き目を閉じて瞑想を始めた。
なんでこんな時にと思ったノクトだったが、時が経つにつれユフィの魔力が膨れ上がるのを感じ必要なことなのだと理解したが、あまりにも長すぎる。
「ユフィお姉さん……まだですかッ!?」
壁役のリーフが居ない今、もしも襲われればノクト一人では対処できない。だから早く、ノクトが心のなかでつぶやいたその時だった。
「ノクトちゃん、お待たせ」
ふいに来消えてきたその声に振り返ると、ユフィが優しく微笑みかけた。
「リーフさん!準備が終わりました!こっちに戻ってきてッ!」
ユフィの声が響き渡ると、使徒を蹴り倒し地面に降り立ったリーフがこちらに戻って来る。
だが、駆けるリーフの背後には無数の分体が押し寄せてきている。
「ユフィお姉さん!あれ、どうするんですか!?」
「大丈夫。ノクトちゃん、リーフさんの前にゲートをお願い」
「はっ、はい!───ゲートッ!」
ユフィの指示通りゲートを開いたノクト、リーフは目の前に現れたゲートを見ると加速して潜ると二人の後ろに転移する。
「戻りました!」
「ユフィお姉さん!良いですよ!」
「うん!オーケー!」
二人の前に立ったユフィは杖を構えて魔法陣を展開させる。
「行くよ───ブルーフレア・インフェルノ」
魔法陣から撃ち出された青い炎は、ユフィたちの視界を青く塗り染め夜の闇に染まる街をを照らし上げ、激しい爆発がユフィたちを襲った。
爆発と光が収まったのを確認したノクトとリーフは、辺り一面が更地になっていることに驚きを隠せなかった。
「うわぁ~、すごい事になりましたね」
「……少々、早計でしたでしょうか?」
「アハハハッ、ちょっとやりすぎちゃったかなぁー」
アハハハッと笑って誤魔化そうとしているユフィを二人のシラけた目が突き刺さる。
「うっ、うん……それよりアストライアさま、ここらへんの使徒の分体は全部倒したと思いますけどどうですか?」
先ほどユフィが魔法を放った時にアタック・シェルを使ってはいるが、それでも打ち洩らしが居ないとも言い切れない。
アストライアに声を掛けると、光の粒が集まり女性の姿を形作った。
『少し待ちなさい………近くに使徒らしき気配はありませんが、気配を消しているものがいる可能性も捨てきれません』
「念のため、辺りを調べておきましょう」
「そうですね。街中は広いから手分けして探そっか」
ユフィの提案から二手に分かれて打ち洩らしがないかを探すことにした。
ユフィとアストライア、ノクトとリーフで別れることになり、その際にノクトとリーフからこんな事を言われた。
「ユフィお姉さん、何かあったら呼んでくださいね!」
「どうかお気をつけて」
「わかってま~す」
二人と別れたユフィも少し小走りのなりながら霊体のアストライアと共に走り出した。
⚔⚔⚔
ユフィはアストライアを連れて貴族街を歩きながら分体の生き残りを探していたが、どこにもそれらしいものは見つからなかった。
「見つかりませんね」
『えぇ。そのようですね』
アストライアの索敵にも使徒の分体は引っかからないようで、もう少し見回ったら二人と合流してもよさそうだ。
そんな中、ユフィはふと空の上で戦っているスレイのことが気になった。
「スレイくん、まだ戦ってるんですよね?」
『はい。クロガネと言いましたか………彼と戦っているはずです』
「えっ、クロガネ!?」
どうしてスレイとクロガネがまた戦っているのか、一体何があったのか、そもそもどうしてそんなことを知っているのかと聞くと、どうやらスレイに分霊として自身の力を少しだけつけていたそうだ。
そこで聞いたのが、クロガネが神が地上での自分の手先として使われていたということだ。
『直接聞いたわけではありませんが、聞こえた話を総合するとそういうわけですね』
「クロガネが神の手先……もしかして、アカネたちも?」
『アカネというのが誰かはわかりませんが、共にいるのならそういうことでしょうね』
アカネとまた戦うと言われてユフィは言葉が出なかった。
なんとなくだったが、アカネとは仲良く出来るのではないか、戦わなくてもいい道もあるのではないかと考えていたが、今の話が真実なら決してそんな道はありえないのだと分かってしまった 。
「なんだか、やるせないね」
やるせない、そう思いながらもいざ対面したとき戦えるのかわからない。
だけど、きっとそう遠くないもしかすると今この時にでも戦うことになるのかもしれないと、ユフィは考えていた。その時だった。
暗闇の中からなにかが空を切る音が聞こえハッとしたユフィが顔をあげる。
「──ッ!?」
黒塗りのナイフは数本ユフィめがけて飛んで来たのだ。
『ユフィッ!?』
アストライアの叫びにも似た声がユフィの耳に届く。
この不意打ちは防げない、そう思ったユフィの目の前でナイフは弾かれた。
「えっ……あっ、そうだった。シールドシェル、出してたんだっけ?」
すっかり忘れていたが、あってよかったと胸をなでおろしていると霊体のアストライアが駆け寄ってくる。
『無事なのですかユフィ!?』
「は、はい……シールドシェルが守ってくれましたから何とか大丈夫です」
アストライアを安心させたユフィは、何かが近づいてくる足音と気配を感じ取り即座に戦闘態勢をとった。
「アストライアさま。敵が来ます。隠れて」
『わかりました。ご武運を』
霊体のアストライアが消えたのを確認したユフィは、杖を構えて待ち構えている。
どこからでも来いと辺りを警戒していると、背後から強い殺気を感じて振り返ろうとした。だが、今までの戦いで培われた感が激しく警鐘を鳴らす。
殺気に反応した身体を引き戻し正面に振り返ったユフィは、クルリと杖を逆さに持ち替え目の前に迫る刃を受け止める。
「クッ!?」
既のところで受け止めた刃を前にユフィは自分の剣を向けた相手の顔を睨みつけた。
「ほぉ、妾の剣を受け止めるとは、主なかなかやるのう」
「あなたは……たしかレティシアさん?」
突如襲ってきた仮面の剣士、その正体は以前ダンジョンで共に戦った少女レティシアだった。
「名を覚えていてくれてうれしいが、妾たちにも時間がないのでな───アカネ!」
「助かるわレティシア」
背後から聞こえてきたアカネの声にユフィが振り向くと、そこにはナイフを構えたアカネの姿があった。
「───ッ、アカネッ!?」
やはり居たのかと思ったユフィの頭の下では色々なことが巡っていた。
今彼女たちと戦いたくはない、だけどこのまま何もしなければやられてしまう。
時間にして一秒にも満たない思考の葛藤、決断しなければ殺られるとユフィは覚悟を決めた。
杖の柄に添えていた手を離して空に手を伸ばしたユフィは、空間収納を開いて一つのシェルを取り出した。
「───ゲート・シェル!」
ユフィは取り出したゲートシェルを起動させ飛び込んでくるアカネの前に投げると、アカネの目の前にゲートの入り口が出現する。
ゲートシェルをくぐる瞬間、アカネは急ブレーキをするように立ち止まったが、アカネの背後に魔法陣が展開される。
「何ッ!?ユフィッ、あんた───」
「ちょっとどっか行ってて!───ウイング・ブラストッ!」
「きゃああああぁぁぁっ!?」
背後から風魔法を受けて吹き飛ばされたアカネは、ゲートを抜けてどこかへと消えていってしまった。
アカネを転移させたユフィは、レティシアに向けて魔法陣を突きつける。
魔法陣が発動しようとした瞬間、レティシアはユフィを蹴り飛ばして距離を取った。
「レティシアさん、あなた魔法使い相手に距離をとってもいいの?」
「妾も魔法使いじゃ。この距離は妾の間合いじゃ」
そう言えばとユフィは構えられるレティシアの剣杖をみている。
「しかし奇妙な魔道具を使っておったが……アカネは無事なのか?」
「ちょっと遠くに移動させましたけど、ちゃんと無事ですよ」
「そうか」
仮面で顔は見えないが、どこか安心したような表情をしていると思った。
「あのレティシアさん。出来ればこのまま戦わなくてすみませんか?」
「すまんがそれは無理じゃな、妾も旦那様もアカネもあのお方には逆らえんのじゃ」
それもそうだよねと無理やりにでも納得したユフィは、レティシアと戦うことを決めた。
「アストライアさま、ノクトちゃんたちを呼んできてください」
『……わかりました、なんとか持ちこたえてください』
「はい!」
アストライアが離れたのを確認したユフィは、向かってくるレティシア見ながら杖に魔力を込めて魔法を発動させる。
「───スモーク!」
「チッ!」
近距離で吹き出した白い煙にレティシアは押され、後ろにたじろいでしまう。そこを見逃さずにユフィはわずかに下がったレティシアに向けて鋭い蹴りをはなった。
「うぐっ!?なんて重い蹴りじゃ!?」
腹部に蹴りを受けたレティシアが後ろに下がった。
それを見たユフィは杖を空間収納の中に仕舞った。
「あの蹴りには驚いたが、こんな目眩まし、妾には効かぬぞ!」
剣に力を込めたレティシアが煙を振り払うと、煙の晴れた側からユフィが飛び出した。
「魔法使いが接近してくるとは愚かな──ッ!?」
接近してくるユフィを迎え撃つべく剣を振り抜こうとしたレティシアだったが、目に飛び込んできたユフィの姿を見て目を見開いた。
向かってきたユフィの手には杖が握られておらず、代わりに両腕には藍色にも似た光沢をしたガントレットで殴りかかってきたからだ。
「ヤァアアアアァァァァ―――――ッ!!」
咄嗟のことに反応が遅れたレティシアは、振り抜かれようとしているユフィの拳に対して後ろに下がる。
「ッ、間に合えッ!?」
距離を開け剣の差し込むようにして刀身で受け止める。
「重いッ!?」
「まだまだッ!」
追撃するようにユフィの鋭い拳が放たれたがレティシアはそれを済んでのところでかわし、今度はレティシアからユフィと距離をとった。
「まさか、魔法使いが拳法を使うとはな」
「魔法使いが拳法を使っちゃいけないなんてルール、ありませんからね?」
そう答えたユフィは拳を構えレティシアとの距離を積めた。




