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使徒の分体 ②

ブクマ登録、作品評価ありがとうございます。これからもよろしくお願いします

 空を埋め尽くすほどの使徒、その分体の群れについてアストライアから市街地までの移動の間に説明があった。

 アストライア曰く、分体とは使徒が自分の力の一部を人に与えることにより、人を使徒に近しい存在へと変化させ自分の駒として使役することのできるものだと言う。

 それを聞いたアルフォンソとカルトスは、どうにかしてその人間をもとの姿に戻せないか?そうアストライアに訊ねたが、使徒の力を受け入れてしまった時点で人には戻ることができないと答えた。


「元々、反逆罪として彼らは処刑される……だけどせめて、人の姿で死なせてやりたかったよ」

「アルフォンソさん……彼らは、自らの意思であの姿を取ったんです。人ではなく化け物として……その姿で死ぬならそれが彼らにとっての罰となるはずです」

「わかってるさ、ただ簡単には割りきれないだけだ」


 想いは違ってもつい昨日まで同じ主君に仕え、共に戦ってきた仲間が主君を裏切りさらにはあんな姿になった。

 それだけでも動揺があるかもしれない、だがここで判断を間違えれば死ななくていいはずの命が散ることになる。

 その事も十分に理解しているアルフォンソは、すぐに頭の中を切り替える。


「私たちはギルドにいるであろう騎士団長と合流し、上にいる分体を引き受けよう、そのうちに君たちは使徒を倒してくれ」

「分かりました。二人とも行くよ」

「わかったよ!」

「はい!」


 スレイがユフィとノクトに声をかけ、アストライアの案内で使徒のいるであろう場所に向かおう、そう思ったのだが、すかさず待ったをかける声があった。


「あなたたち少しだけ待ちなさい」

「ルルさん、どうして止めるんですか?」

「うふふっ、ちょっとだけだから安心してねユフィちゃん」


 そう言ってルルはスレイたちから視線を外すと、自分のすぐ後ろにいたリーフに向き直った。


「リーフ。あなたはスレイくんたちと一緒に行きなさい」

「何を言っているのですかお母様。自分も騎士です。騎士として市民を守るのが自分の仕事です」

「いいえ違います。あなたの仕事は彼らに手を貸すこと、まだあの仕事は終わってないでしょ?」


 ルルが言っていることは、対抗戦までの間リーフはスレイたちのサポートをする命令を受けていたが、対抗戦が終わった今、その命令はすでに終わっているはずだ。

 そうリーフが指摘するとにこやかに微笑んだルルからこんな言葉が帰ってきた。


「あなたの言う通り確かに対抗戦は終わったわ。でもスレイくんたちのお仕事って、たしかまだ完了の手続き行えてないはずよね?」


 唐突に話を振られて驚いているとノクトがコクリと頷いた。


「えぇ、確かにそうでしたよね、お兄さん?」

「あぁ。騎士団から報酬の支払いを渋られてるから、まだ受注したままにはなっています」


 それがいったいなんなのか?スレイたちには分からないでいると、ルルは満面の笑みを浮かべながらリーフほ方へと向き直りリーフの両肩に手を置いた。


「いい?つまりは依頼はまだ続いているの、ならあなたのお仕事も終わってないわね?」

「そ、それは……そうかもしれませんが」


 いいように丸め込まれそうになったリーフだったが、なんとか言い返そう、そう思い何かを考えているが全く思いつかずにさらにルルが追い討ちをかける。


「それにスレイくんのパーティ、前衛一人に後衛二人ってバランス悪いわよね?」

「えっ、まぁ、はい」

「そこにリーフちゃんが前衛でもあり盾役として入れば、ずいぶんと前衛のスレイくんの負担も減るんじゃないかしら?」


 それは確かにそうだ。前回の力の使徒との戦いの際には、前衛としてスレイがメインで戦いにユフィがシェルによる攻撃とサポートを担当し、ノクトは魔法による回復や援護をメインとしていた。

 この三人の中で一番の負担が一番大きかったの、一人で使徒の攻撃を受けていたスレイだろう。


「確かに、パーティに壁役が欲しいとは思っていましたけど」

「ならきまりね。さぁ、リーフちゃん。いってらっしゃい」

「お母さま、強引過ぎますよ!」


 さぁさぁとリーフも連れて行くことを進めるルルだが、いったい何を考えて唐突にこんなことを言い出したのかスレイにはさっぱりわからなかった。

 事情を知っているかもしれないアルフォンソの方を見ると、ルルの話しを聞いて呆れたように頭をおさえているのが見えた。

 どうやらルルは相談も何もしていなかったようだ。


「これ、どうすればいいのんだ?」


 話が進まないとスレイは二人を見ると、大きく首を縦に振った。

 つまりリーフも連れていけ、そういう意味だと理解したスレイはルルに食いかかっていたリーフの肩に手を置いた。


「リーフ、ボクたちと一緒に来てくれ、ルルさんの言う通り前衛がボクだけじゃ使徒相手には不利だ」

「スレイ殿………お父さま、よろしいでしょうか?」


 リーフは父であり上官でもあるアルフォンソに指示を仰ぐことにした。

 アルフォンソはしばし考える素振りを見せた後、小さく頷いた。


「部隊長として命ずる。スレイ・アルファスタ旗下のパーティに同行し今回の元凶である使徒の討滅を命じる───行ってきなさい、リーフ」

「はッ!リーフ・リュージュ、命令を拝命いたしました!」


 騎士としての顔から父親の顔になったアルフォンソに対してバッと敬礼を返したリーフは、踵を返してスレイの方へと向き直ると、コクリと頷いた。


「急ごう。アストライアさま、使徒の居場所は分かりますか?」

『えぇ、あちらです』


 スワローから出ている霊体のアストライアが先導し、その後をスレイたちは後を追って走っていく。その反対側を向いたアルフォンソたちはギルドのある場所に向かっていった。


 ⚔⚔⚔


 使徒の本体が入る場所へ向かっていくスレイたちの前に、無数の分体が立ち塞がる。

 女神アストライアが姿を現したことで分体を引き付け、誘い出すことに成功したまでは良いがいかんせん数が多すぎる。


「確認なんだけど騎士団全体の内で、どれくらいが分体化したと思います?」


 襲い来る使徒を切り捨てながら隣を走るリーフに問いかける。


「七割方でしょうね、団長を初め私の部隊の隊長以外は上に従ってますから」

「それって、さっきの元老院とか言うおじいさんですか?」

「はい、多分、元老院も大方は分体化してると思います。ここを乗り切っても国の建て直しが大変そうです」


 騎士団の七割、それがいったいどれだけの数がいるかはわからないが、今は少しでも数を減らせれるようにとスレイは剣を振るい続ける。


「くっ、なかなか数が減らないですね」

「ノクトちゃん、落ち着いて集中!」


 うろたえるノクトに叱咤の声を掛けるユフィも、一向に減る気配の見せない分体を前に焦りを禁じ得なかった。


 既にユフィは今出せるだけのシェルをすべて出して迎撃をしている。それでも、集まってくる分体の迎撃は追い付かず、どんどん数が多くなってくる。

 せめて進む道だけでも、そう思いシェルを操ろうとしたユフィだったが、そこに待ったの声がかかった。


「ユフィ殿!正面には構わず、ノクト殿と共に左右から迫りくる分体をお願いします!」

「っ、わかりました!行くよノクトちゃん!」

「はいッ!」


 杖を構えたユフィとノクトが左右から迫りくる分体を牽制する中、正面から向かってきた分体の攻撃をリーフが盾が受け止める。

 ガンッと重い重低音が響く中、押し負けることなく受け止めたリーフの裂波の如き咆哮が響いた。


「ヤァアアアアァァァ――――ッ!!」


 咆哮と共に全身から闘気の輝きを放ったリーフは、攻撃を受け止めた盾を前に押し返して分隊を弾き飛ばした。


「リーフ、下がって!」


 バランスをリーフに下がるように指示を出すと、走り込んできたスレイが切り捨てるが前からはさらに分体がやってくる。

 それを見てスレイとリーフが迎え撃とうとしたが、後ろから何かを感じ取った二人がほぼ同時に真横に飛んだ。

 二人が飛び去り、大きく開けたその先には分体に向けて、杖を構えたユフィとノクトが立っている。


「行くよ、ノクトちゃん!」

「はいッ!」


 二人の手に持つ杖の宝珠には既に魔力が貯められ、魔方陣も展開している状態だった。


「───ライトニングバレット!」

「───エアリアルカッター!」


 杖を構えたユフィとノクトが同時に魔法を放つち、雷撃の弾丸撃ち抜かれ風の刃に切り裂かれた分体が地面に倒れた。


「どんどん来るぞ!急げッ!」


 分体の死体には目もくれずにスレイたちは先を急いだ。

 目的地まではまだ半分も進んでいない、にもかかわらずスレイたちの疲弊の速度は凄まじい勢いで加速していく。


「まったく、息つく暇もないですね!」

「本当、だよね」


 このままのペース配分で戦えばたどり着く前に殺られてしまう、そう思ったユフィが前を飛んでいるアストライアに訊ねる。


「アストライアさま、使徒のいる大体の場所はわかるんですよね?」

『大まかではありますが、わかるとだけは言っておきます』

「なぜ、そこまで曖昧なのですか?」

『分体も元になった使徒と同じ力の波長を持っています。なのでここまで分体が多いとより正確な場所を探しだすには近づく必要があるのです』

「そんな……このままじゃ、わたしたちが先に力尽きてしまいますよ……」


 ノクトが泣き言のようにそんな言葉を呟くが、声には出さなかったがスレイたちも同じ気持ちだった。


 叩いても叩いても出てくる分体を切り伏せながら進むのも、いくらなんでも限界は存在する。

 現に今もスレイは走りながらも戦いで失った体力と魔力を回復するべく、二種類のポーションを一気に飲み干していた。


「アストライアさま、大まかでいいです。使徒がいると思しき場所を教えてください」

『何をするつもりですか?』

「ゲートを開いて一気に使徒を叩きます」

『………わかりました。使徒がいる場所はあの城の近くです』

「了解です──ゲート!」


 城と聞いてスレイは走りながら正面にゲートを開き中に入ると、ユフィたちもそれに続いてゲートをくぐった。


 ゲートを抜けた先には城よりも少し手前、貴族の中でもとても裕福な層が暮らす別名貴族街と呼ばれるそこには、市街地を襲っているよりの多い分体が存在していた。


「なんなんですか……この数は……?」

「三百………いや、五百?……うんん、もっといるよ」


 リーフとユフィが呆然としながら呟いた。

 どうやらユフィはずっと周りの様子を伺うために使っていた探知魔法を使い、この区画にいる使徒の分体の数を数えようとしたらしく、その数の多さに唖然とさせられたようだ。


 この数をみてアストライアも使徒の居場所を突き止められない理由がよくわかった。


「アストライアさま、ここに無事な人間はいませんか?」

『………残念ながら、いないようです』


 目を伏せながらアストライアがそう答える。

 その言葉を聞いたスレイたちも同じように目を伏せかけたが、ここにスレイたちの存在に気付いた分体たちが一斉に襲いかかってくる。


「みんな、避けろッ!」


 スレイが叫ぶと同時にユフィたちが一斉に飛び退く中、スレイは一人その場にとどまっていた。


「お兄さん、何してるんですか!?」

「ボクのことは気にするなッ!ノクトは、シールドでみんなを守って」

「はっ、はい!──シールド・ヘキサッ!」


 スレイの指示を受けてシールドを張ったノクトは、何をする気なのかと疑問に思った。

 その場にとどまったスレイは懐から魔道銃を引き抜くと真上に掲げた。空へと向けられた銃口には、巨大な魔法陣を展開しされるとスレイは魔法を叫びながら引き金を引いた。


「喰らえッ───インフェルノレイン!」


 打ち出された魔力弾が魔法陣を通過すると、巨大な漆黒の炎弾となって上空へと打ち上げられる。

 上空に打ち上げられた炎弾が一定の高さに到達した瞬間、炎弾が弾け飛び漆黒の雨となって降り注いだ。


『『『ギャアアアアァァァァァァッ!?』』』


 上空から降り注ぐ漆黒の雨を受けたが分体は、悲鳴を上げながら次々に地面に落ちていく。

 シールドに守られているリーフとノクトは、次々に落ちていく使徒の分体を見ながらこれなら行けると確信した。


「すごい魔法ですね。あれなら──」

「いいえ、あれじゃダメ」

「えっ、ユフィお姉さん。どうしてですか?」

「二人ともよく見て、分体はまだ生きてよ」


 指摘したユフィの言葉を聞いて二人ともハッとするなか、ユフィは一人杖に魔力を溜め始めた。


「だから、後はこうするんだよねッ!───グランド・スピアッ!!」


 両手で握りしめたユフィは魔法の名前を叫びながら勢いよく杖で地面を突くと、カーンと石突きが音を鳴らした。

 するとユフィを中心に地面に魔法陣が描かれ、眩い魔力の光が地面を伝えていくと遅れて地面に落とされた分体の身体を突き抜けるように、地面から杭が現れて串刺しにした。

 身体を貫かれ絶命した使徒の身体が光となって消えていく。


「すごい、こんな広範囲なのに、正確に分体にだけ当てるなんて」

「ここまで考えてスレイ殿はアレをやったのですか………?」


 レインの魔法は範囲が広い代わりに威力が弱い。

 それがいくら業火の炎だからといっても一撃が弱ければ致命傷は与えられないが、多数の相手を()()()()()()()()ならさして問題はない。

 スレイの思惑通り、使徒たちは地面に落ち後はユフィが仕留める寸法だった。それを即座に理解してくれたユフィにスレイは声を掛ける。


「さすがユフィ、ボクのことよくわかってるね」

「スレイくんの無茶は今に始まったわけじゃないからねぇ~」


 なんて言いながら笑って返しているユフィ、そんな彼女を見てからスレイは正面へと振り返る。

 未だに使徒の分体は増え続ける。

 散らばっていた分体が女神の気配をたどってこちらに集まってきているのだ。

 このままでは使徒の本体を見つける前に数で圧倒されてしまう。どうしたものかと考えたスレイは、一つの策を思いついた。


「アストライアさま、確認しますが分体が減れば使徒を探すことは可能ですか?」

『えぇ可能ですが………何をするつもりですか?』

「ボクの魔法で、出来るだけ分体の数を減らします」


 アストライアは考える。

 すでにスレイとユフィによって倒された分体を上回る数が集まろうとしている。迷っていてはスレイたちは分体に囲まれて死ぬ、それだけは決して許してはいけない。


『………わかりました。あなたの作戦でお任せします』

「了解しました」


 やろうとスレイが魔法陣を展開しようとしたその時、ノクトから待ったの声がかかった。


「待ってください!お兄さんの魔法ってアレですよね、あの………なんだか危ない魔法!」

「あの、もしかすると以前スレイ殿が大岩を消し去ったアレを使うのですか?」

「そうですよ!街が吹っ飛んじゃいますよ!!」

「ふっ、吹っ飛ぶのはちょっと……」


 国を守る騎士としては守るために街が吹っ飛ぶのはいただけないらしい。


「大丈夫、まだ練習中の技だけど街ごと消すことはないから」

「それなら……信じますよ?」

「あぁ。信じて」


 コクリと頷くユフィたちを見たスレイは上空に手を掲げると、みんなを側に呼び寄せる。


「みんな念のために広がらず、ボクの周りに集まって」


 始めに断りを入れておいた通りまだ練習中の技なので、失敗する可能性が高いのだが失敗しても直ぐ近くにいてくれればなんとか軌道をそらすことくらいはできる。

 三人がスレイの後ろに立ったのを見て、スレイは上空へと手を掲げる。


「行くぞ───イルミネイテッド・ヘリオース!」


 上空へと放たれたスレイのオリジナル魔法は、暗みを塗りつぶすように天へと登っていく。


「スレイくん、これって普通のヘリオース?だよね。まさか、失敗?」

「なわけ無いでしょ……ここからだよ」


 空高く突き上げた掌をスレイが握り込むと、空へと昇った光が巨大な球体へと集まり空中で爆発すると、小さな光の光線となり空から降り注いだ。


「散弾式のヘリオースだ」


 一つ一つが小さな熱線、威力としては小さいがその全てが必殺級の威力を持つこの魔法は、威力がかなり絞られ地面に届く前に魔力は霧散する。

 次々に撃ち抜かれ地面に落ちていく分体を前に、リーフたちは自然と顔が引きつっていた。


「降り注ぐ光に当たった分体が一瞬で……」

「スレイ殿も、やはり規格外すぎます」


 次々に使徒の分体が地面に落ちていく中、一人目を瞑り瞑想していたアストライアがハッと目を見開いた。


『スレイ、使徒を見つけました』

「どこです!?」

『あそこです!』


 アストライアが指差した方には、一目見るだけで今まで倒した分体よりも強大な力を感じる、背中に翼の生えた山羊頭の化け物がいた。

 一度、戦ったことからがわかる。

 化け物から発せられている力は本物の使徒だとスレイたちは感じ取った。


「みんな残りの分体の相手をまかしてもいいかな?」

「いいよ、行ってらっしゃいスレイくん」

「ここは任せてくださいお兄さん!」

「お二人は私が守ります」

「ありがとう、行ってくる」


 フライの魔法を唱え空中に浮かび上がったスレイは、右手に黒い剣を左手には魔道銃を握り使徒のいる場所へと向かっていった。


「───エアロ・バーストッ!」


 空を掛けながら足元に風の魔力で小さな風の玉を作り出し、足元で魔力を爆発によって加速された。


「ハァアアアァァ――――ッ!」


 風魔法によって駆け抜けながらスレイは黒い剣を大きく引き絞り、使徒の直ぐ側にまで駆け寄り剣の間合いに入った瞬間、引き絞った剣を突き立ってる。

 このまま一気に仕留めると意気込みながら、引き絞られた剣を突き立てようとしたその時、スレイと使徒の間に影が割って入った。



「───斬激の型 弧月一閃」


 その名の示す通り斜め下から弧を描くように切り出された斬激が、スレイに向かって放たれた。


「ッ!?──なにッ!?」


 突如として現れた人影が握る剣から放たれた技を見たスレイは、息を呑みながら突きを繰り出そうとした剣を引き戻し、身体を捻ることで既のところで刃を受け止める。


「グッ!?」


 振り抜かれた剣と受け止めた黒い剣が空中で火花を散らす中、スレイは自分を襲った相手の顔………いや、顔を隠すように着けられた()()を見てそれが誰かを理解した。


「あぁ、そうか………久しぶりだね。クロガネ」


 空中で火花を散らし会う二振りの()()()、そして今、スレイの向かい側にいるのは顔を全て覆った仮面を被った黒髪の少年 クロガネだった。


「お前、その剣はオレのパクりか?」


 再開した宿敵クロガネの問いかけにスレイは、顔を顰めながらクロガネの剣を押し返し後ろに下がりながら答える。


「違うよ。偶然だ、偶然」

「残念だな、もしパクってたんならその剣を叩き折ってやるつもりだったんだがな」

「冗談は辞めてよ。これが一番しっくりきてるんだから」


 距離を取り軽口を叩きあっているスレイとクロガネだったが、二人の視線の先では剣と剣のやり取りではなく、目には見えない殺気と殺気でのやり取りが行われていた。


「確認する、君は何であの化け物を庇うんだい?」

「……前に話したな、オレには雇い主がいるって」

「……あぁ」


 スレイがうなずきそれに対してクロガネが口を開こうとした瞬間、使徒がその言葉を遮った。


「クロガネ、私は一足先にあの方の所に戻ります、いくら私の器にふさわしい肉体と言えどまだ馴染んでいませんからね」

「わかりました。あの御方へよろしくお伝えください」

「いいでしょう……そこの人間」


 使徒は真っ直ぐスレイの顔を見下ろした。


「私の器となった人間が、今にもあなたを殺せと殺意を湧かしています。次は殺して差し上げますのでそのつもりでいてくださいね」

「そう易々と逃がすと思ってるのか!」


 魔道銃を構えたスレイが電磁加速された銃弾を打ち出すと、スレイと使徒の間に入ったクロガネの剣が、意図も容易く銃弾を打ち落とした。


「辞めておけ、無駄だ」

「勝手に無駄とか、そんなの決めつけるなよッ!」


 銃を構えながらクロガネへそう告げたスレイの身体が一瞬で消える。


「ッ!───使徒様ッ!!」


 やられたそう思ったクロガネが振り返ったその先には、スレイが使徒の背後を取っていた。


「取ったッ!」


 転移魔法を使い使徒の背後を取ったスレイは、闘気と魔力で強化した剣を使徒に向けて振り下ろした。


「───ッ!?」


 確実に取ったと思ったスレイの剣は、いつの間にか目の前に現れクロガネの剣によって止められた。


「テメェだけが使えると思うなよ」

「どけッ!クロガネッ!!」


 目の前で立ちふさがるクロガネを睨んだスレイは、自分から離れたところに空間収納を開くと空中に無数のソードシェルを出して即座に発砲た。

 ドンッと鳴り響く重低音とともに撃ち出された数発の弾丸は、あらかじめ展開されていたソードシェルの刃に当たり軌道を変える。

 当てられたソードシェルを破壊しながら弾道を変えた銃弾が真横から使徒を撃ち抜いた。


「ッ!?───クソッ!」


 撃ち抜いたと思った弾丸は使徒の身体をすり抜けるのを見たスレイの顔が悔しさで歪む。


『残念でしたね人間』

「逃げるなッ!」

「よそ見してんじゃねぇよッ!」


 光の粒となり消えようとする使徒に向けてもう一度弾丸を打ち出そうとしたスレイ、それをさせないようにクロガネがスレイを押しのけて剣を振るって止める。


『ふふふっ、それでは人間。また会いましょう』


 その言葉を残して使徒はスレイの前から姿を消した。


「チィッ!」


 悔しさのあまりつい舌打ちをしたスレイは、少し離れたところで佇むクロガネを睨みつけていた。


「なんで邪魔をした!?」

「オレの雇い主からの命令だ……使徒さまの驚異となる者の排除、オレはそれを遂行しているだけだ」

「……そうか」


 目を伏せたスレイは、ゆっくりと顔をあげる。そして黒い剣の切っ先を真っ直ぐクロガネに向けた。


「……クロガネ、君とはこんな形での戦いたくはしたくなかったよ」

「オレもだ……スレイ」


 二人の剣の切っ先が真っ直ぐお互いに向けて掲げられた。

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